敗戦後の日本は、今日のアフガニスタンやイラクの終戦後の一向に出先の見えない混乱と違い、国民一丸となって、着実な復興発展を遂げてきた。
しかし反面、経済性や効率性を追求するあまり、景観に対する視点を置き去りにしていた。不揃いな建築物、無秩序な広告看板や張り紙、公共空間に散乱する様々な種類の廃棄物などは、四季の変化に富んだ我が国の自然景観との調和を著しく欠いていたことも現実だ。
昨年12月に施行された景観法は、今まで自治体がそれぞれ独自に町や里山の景観保持を図ろうとしてきたものの、罰則も強制力もなかった自治体条例に、基本理念と規制などの法的根拠を与える初めての基本法となった。
これにより市区町村は、景観形成の重点地区としての「景観地区」を指定すれば、建築物の色やデザイン、高さなどの規制が可能になり、「景観地区」内で建築や開発行為をする場合に、市区町村長の認定がなければ着工できないこととなった。今後は、景観地区における高層マンションなどの建設に一定の歯止めがかることが予想される。
本県では、熱海市が当該法に基づく適用第一号として、同市東海岸町地区を、今年の4月1日から重要景観形成地区に指定し、市独自の景観形成基準に従って、温泉地熱海の景観保全と推進を目指す。
ところで昭和55年の都市計画法の改正で、既に「地区計画」制度が導入されている。この制度は、地元住民が協議によって地区計画を立案し、県の同意のもと、都市計画審議会が置かれている市町村の審議会がこれを都市計画決定するというもの。昨年、浜松市の山手町と蜆塚一丁目で、県内第一号の「地区計画」が策定され、ここにもマンション紛争があるが、景観法の施行を受けて、新たな対応も必要になるだろう。
今年の初め、熱海市で建設が進められている19階建て高層マンションに対して、周辺のホテルや旅館などの住民が、建築工事続行禁止を求める仮処分を東京高裁に申請して係争中である。
現実的には、熱海市の「景観地区」指定は、事業者が法令に基づく所定の申請手続きを終えた後の行為だということである。
新しく法が作られた場合、施行日より前に遡って適用されないという「法律不遡及の原則」が、訴訟の原告側に大きく立ちはだかっているように思うのだが。双方の話し合い、歩み寄りによる「和解」の道を模索するしかないのかもしれない。
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景観法とマンション