我が国が高度成長経済を続け税収が右肩上がりを続けていた頃、各自治体は文化政策を競い合い、日本中にコンサ−トホ−ルや芸術ホ−ルが林立した。
当静岡県も、当時の斉藤県知事が、清水市出身の舞台芸術家鈴木忠志氏を芸術総監督に迎えて施設と劇団運営の一切を委ね、静岡県から舞台芸術文化を世界に向けて発信すると、高らかに宣言した。
こうして日本平に、50億円を投入して整備した野外劇場と東静岡駅前グランシップの中に特別に整備した静岡芸術劇場の二つを、鈴木忠志氏率いる劇団SPACが基本的に専用使用することとなった。
平成5年から9年に至るまでの舞台芸術振興に要した経費は約111億円余、以後毎年約5億円(17年度は465百万円)の助成を行ってきた。
しかし、この10年間で舞台芸術に対する一般県民の関心が高まったかといえば、それを裏付けるだけの確たる数字はない。劇場に足を運んだ私の周りの何人かの感想を聞くと、殆どが「難解だ」といい、「スト−リ−を知らずに見る人は特にそうではないか」といった声が多い。
県税収入の落ち込みが続き、各種事業の展開や各種補助金削減などの行政運営を強いられてきた昨今、常任委員会や行財政対策特別委員会でSPACに対する見直し論議が活発になっている。
私は、先頃秋田県にある「たざわこ芸術村」を視察する機会を得た。今から54年前の1951年に劇団を創設、田沢湖駅前の材木倉庫を主舞台に全国公演を重ねて、1971年に「株式会社わらび座」として法人化している全国的に有名な劇団である。
現在は仙北市となった秋田県仙北郡田沢湖町の約3万坪を自ら所有し、
1974年には「常設専用劇場わらび劇場」を建設、1991年には温泉を堀り当てて宿泊施設「温泉ゆぽぽ」の経営にのりだしている。
以後敷地内に「森林工芸館」、地ビ−ルレストランを併設した「田沢湖ビ−ル工場」、「ホテルきららか」、「ゆぽぽ山荘」などを相次いで建設する一方で、5つのグル−プで年間800回から1000回の全国公演をこなすなど、独立独歩の複合的文化事業体を目指している。
また、「デジタルア−トファクトリ−」では、最新のデジタル技術を活用して京劇の俳優の舞いの動きなどを三次元のデジタル映像舞踊譜としての記録開発を始めている。秋田県の片田舎から、行政の手を借りずに様々な文化の発信を続けている”わらび座”の活動に私は感動すら覚えた。
イタリアでは、1967年の法律に基づいて財政援助をしてきたミラノスカラ座など13の主要劇場と、25の市立劇場に対して2000年以降は基本的に国家の援助を行わないとする法律に改正したと聞く。国も地方も財政悪化が続く我が国で、「行政メセナ」の前途は厳しいといわざるを得ない。
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静岡県舞台芸術センタ−