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<第 3 章>
本 文:えんやら
挿し絵:かつみこういち氏

この物語はフィクションです。登場人物・設定等は架空のもので、
実在のものとは一切関係有りません。

約  束

	「ほんとにありがとう。それじゃ、今日はもう遅いから・・・」

	彼女に帰ってもらおうと思っていた。

「お話があります。」

	「どうしたの?急に?」

「大切な事ですから、どうかよく聞いて下さい。」

	今の彼女の様子は入って来た時とは違う。何か思い詰めたような・・・
	でも、あの時のような悲壮感はないようだ。いったい・・・

illust by Kouichi Katsumi
	「話というのは?」

「これは現実ではありません。夢から覚めて下さい。」

	意外な告白だった。
	急に信じろといっても・・・・
	目の前の現実を受け入れろと言われたほうが
	何倍も納得し易いのだが・・・

「此処はあなたが造り出した世界なのです。
 現実は、私は既に死んでいますし、あなたは今
『脳死状態』にあります。」

	「しかし、いまさら目の前の現実を否定しろと
	いわれても・・・」

「ごめんなさい。本当はもっと早くお話しすべきでした。
でも私にとってもあなたとの時間はかけがえのない
ものでした。」
視線を戻すと彼女の身体を通して向こう側が見えている事に 気付いて愕然とした。 「あっ、からだが・・・」 「そう、私は、あなたの中の世界にある私の身体を借りて会いに来ていたのです。  私は取り返しのつかない罪を犯してしまいました。その償いとして  『此処』へ来てしまったあなたに元の世界に戻ってもらう使命を負っています。  ご覧の通り、もう(私にも、あなたにも)あまり時間は残されていません。  お願いです。私も生まれかわった際には2度と同じ過ちはしませんから。」 「貴方は私が戻れば救われるのでしょうか?」 彼女は静かにうなずいた。 「信じてください。」 「わかった・・・」 そう言うより他ないだろう。 「ありがとう・・・もっと早くあなたのような人に巡り逢いたかった・・・」 唇に柔らかい感触を感じた後、意識は遠のいた。 元の世界に戻るというのか・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「・・・・意識・・・戻りました・・・」 頭の上で男の声が響く。自分の部屋ではないようだ。ここは何処だ? 起き上がろうとしたが・・・・・身体の自由がきかない。 自分の身体ではないようでひどくだるいが・・・戻って来れたようだ。 しかし此処が現実の世界かどうか確認する術はない。 そんな事よりも重要なものが有るように今の自分には思えた。  聞いた話によるともう少し意識の戻るのが遅ければ 脳死者として臓器を摘出されているところだったそうだ。 院内では奇跡とか噂になったそうである。 結局全ては夢、過去はひとつしかなかったのか。
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