更新月日 | タ イ ト ル |
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24.04.10 | ハイタカの急降下ハンティングを撮る難しさ |
22.04.18 | ハイタカとカラス どちらがどちらに突っかかる? |
20.12.10 | 翼先突出が5枚に見える(換羽の遅い)ハイタカ |
19.09.18 | BIRDER 2019年10月号は「ハイタカ属列伝」 |
19.03.20 | ハイタカ 落ち葉が舞うようなハンティング |
18.11.24 | ハイタカ 「FAか? FJか?」と迷ったら… |
18.07.23 | トビ尾のハイタカ |
18.07.01 | 腮線(喉線・正中線)を持つハイタカ |
18.06.15 | ハイタカ幼鳥斑(ハイタカ幼鳥線) |
17.03.01 | ハイタカ 地上30cmをぶっちぎりで190m飛ぶ! |
17.02.11 | ハイタカに対するツグミの警戒心 |
17.02.01 | 排他的なハイタカ と 親和的なハヤブサ |
16.11.20 | ハイタカ 同時に10羽・8羽舞う |
16.01.17 | ハイタカの急降下ハンティング |
15.11.01 | フィールドガイド日本の猛禽類 vol.3 『ハイタカ』 発売 |
14.09.05 | 虹彩が赤い ハイタカ |
14.07.30 | 尾羽の丸い ハイタカ |
13.08.16 | ハイタカ属とは,どんなタカたちなのか? |
12.04.10 | ハイタカの春の渡り |
12.02.20 | 干拓地の ハイタカ |
10.12.12 | ハイタカ属の渡りはいつまで続く? |
10.11.13 | ハイタカ幼鳥の体下面 |
10.01.01 | 一枚の差 |
09.11.28 | 3羽のハイタカ 急降下ショー |
09.11.03 | ツミによく似た ハイタカ |
08.12.20 | 師走のハイタカ (3) |
08.12.13 | 師走のハイタカ (2) |
08.12.06 | 師走のハイタカ (1) |
08.11.23 | 初冬のハイタカ |
07.11.26 | ハイタカ 胸の縦斑 |
07.11.05 | ツミ幼鳥にそっくりなハイタカ |
06.01.15 | ハイタカ 頭脳的な かしこい狩り |
05.10.26 | 愛知県の 東行ハイタカ |
03.11.04 | 秋の東行(逆行)ハイタカ |
03.10.19 | 飛翔中のツミ、ハイタカの識別 |
96.10.29 | ハイタカの魅力 |
ハイタカは急降下ハンティングを頻繁に繰り返します。急降下ハンティングで一般の人でも知っているほど有名な鳥はハヤブサですが、ハイタカは急降下の回数がハヤブサ以上に多いので目にする機会が多いです。複数羽ですが一日に20回とか30回の狩りを見かけることもあります。こんなことからなのか、ハイタカのことを方言で「はやぶさ」と呼んでいる(いた)地域があります。ハヤブサのように頻繁にダイナミックな急降下するタカという見方をしているからだろうと思います。さすがに自然をよく観察しているものと感心します。
さて、このハイタカの急降下ハンティングの写真を撮ることはけっこう難しいです。その一つが距離です。撮影者とハイタカとの距離が遠すぎても近すぎてもうまく撮れないのです。
まず、遠い時です。これは撮影者とハイタカとの距離がある時です。下の画像のようにハイタカが大きく写りません。ハイタカと獲物が大きく離れている時はさらにタカが小さくなります。
ハイタカが遠い時は獲物となる小鳥とハイタカが一枚に同時に写りますが、言うまでもなくタカが小さくしか写りません。イヌワシやクマタカだったらそれなりの大きさに写るような距離でも、ハイタカはハトくらいの大きさしかないので距離があると小さくしか写りません。
別の問題もあります。遠くて、タカと背景(空や雲や海)とのコントラストがあまりない時にはカメラのAFが効かないことがあります。ミラーレスに替えてからは特にそういう状態になることが多くなりました。今までのカメラ以上に解像度が増してきたとはいえ、やはり遠すぎると撮影できない時があります。
次はハイタカがやや近い時です。
ハイタカが近すぎる時は、撮影者のすぐ近くをハヤブサのような速さで急降下してきます。これは度肝を抜かれるほどの驚愕のスピードです。ピストルの弾を撮るほどとは言いませんが、こういう鳥を撮るのはまるで高速度で落下している石を撮るくらい難しいです。ハイタカがゆっくり降下してゆっくりと獲物を捕るというようなことは、まずありません。落下速度が速いということは撮影者にとっては角速度が大きいということなので、カメラを上下に振り回すように激しく移動させなくてはいけなくなります。当然ピントが甘くなって、像はぶれますしファインダー内にタカと獲物を留め続けることも難しくなります。特に、ハイタカと逃げる小鳥の両方を同じ視野に入れることは困難です。そうすると必然的に200mmくらいまでズームアウトして、何とか両者が写るようにするのですが、そうすると当然タカが小さくなってしまい、せっかくの至近距離なのにタカを大きく撮ることができなくなります。
そんなわけで、一番よいのは遠すぎず近すぎず、撮影者から程よい距離で急降下するハイタカを撮る時ということになります。しかしそういう撮影者に都合の良いチャンスは一日中粘っていてもめったに訪れません。せっかくそういうチャンスが巡って来ても、逃げる小鳥も必死で逃げますから、すぐに木の陰に入ってしまいます。そうすると下の画像のように獲物を捕る瞬間が写りません。
恥ずかしいような失敗作ばかり掲載し、撮れなかった理由を(言い訳がましく)列挙しましたが、つまり、私は良い画像(決定的瞬間)が撮れていないということです。若い皆さん、ぜひチャレンジしてくださいませ。
(Uploaded on 10 April 2024)
ハイタカがハシブトガラスやハシボソガラスと突っかかり合いをしているところをしばしば見かけます。この時、どちらがどちらに突っかかっているのでしょうか。最近観察した二つの地点でのようすを書いてみます。
(1) 12月、海に面した岬のハイタカの狩場で(快晴で無風)
① 12月に入り、群れで渡る小鳥は数少なくなったもののまだ少数は渡っている小鳥をハンティングするため、ハイタカが上空で風上に体を向けて羽ばたいたり、まるでノスリがハンギングするかのように羽ばたかずに空中のほぼ一点に浮くようにとまっていました。
② そこにハシブトガラスが現れて、どんどん高度を上げてハイタカに近づいていき、両者が一点になったように見えました。
③ ハイタカがカラスを猛追し、くねくねくねくねと飛びながら、時々カラスが背面飛行になったり、次はハイタカが背面飛行になったりしながら降下してハイタカがカラスをジグザグに追いかけました。
④ 両者が地上近くまで来て、別れてそれで終わりでした。ハイタカは再び高度を上げて、ハンティングを再開しました。
(2) 2月末、名古屋市郊外の農耕地上空で(快晴で弱い風あり)
① ハイタカが上空を旋回しながら獲物を探索していました。半月ほど前に、この地点でハイタカが20羽ほどのスズメに高空から急降下で突っ込んでいきましたが(狩りは失敗)、その時と同じような状況の旋回飛翔でした。
② そこへ林の上から現れたハシブトガラス1羽が強く羽ばたいて150mほど離れたところを飛ぶハイタカに急接近。カラスはハイタカに接触するぐらい近づき、足を出すような飛行をしました。
③ 直後、カラスが急降下し、カラスとほとんど離れない距離でハイタカが後を追いました。カラスはさらに降下し、ハイタカは突然急上昇しカラスと離れました。
④ ハイタカは高度を上げて再び旋回を始めました。すると一旦は距離と高度が離れたカラスが再びハイタカに近づき、先ほどと同じように激しく突っかかりました。
⑤ 再びハイタカがカラスにつっかかり、③とまったく同じようにカラスが急降下し、そのすぐ後を密着するように追いながらハイタカも急降下し、途中からは両者が波を打つように(高度を上げたり下げたりしながら)移動し、ハイタカは短いひもで結ばれたかの如く、吸い付くようにカラスを追いかけました。
⑥ 両者が別れた後にまたカラスが近づいて、同じことをもう一回繰り返し、交互の突っかかり合いは7分ほど続きました。
この二つの観察例から見ると、カラスは空中で獲物探索中のハイタカがじゃまだったようです。2月の例ではカラス自身の繁殖の時期が近づいていたことも影響があるかもしれません。カラスはじゃまなハイタカを排除しようと出てきたと思われます。一方のハイタカも獲物探索のじゃまをされたくないのでカラスを排除したようです。つまり、カラスがハイタカを強くしつこく排除しようとするので、ハイタカもカラスがじゃまになり、逆ギレしたようにカラス以上にしつこく強くカラスを排除することになります。
どちらがどちらを排除しようとしているのかと言われたら、初めはカラスが行動に出たと言えるでしょうが、両者が交互にお互いを排除しながら交互に攻撃を繰り返しているということになりそうです。途中からは、「どちらか一方がしつこく突っかかる」のではなく、「交代しながら両者が相手に突っかかる」ということが言えそうです。
おもしろいことに、オオタカとハシブトガラスの場合、カラスは集団で1羽のオオタカに近づいてくることが多いですから、ハイタカの場合とはかなり状況が違います。
(Uploaded on 18 April 2022)
2020年11月28日、どこかにタカ類が多そうな新しい観察地点はないかとグーグルmapで探して見つけた地点に行ってみました。そこは農耕地の真ん中に小さいながらも河川があって、農地の周りは林縁になっていて、その林は深い森ではないですがそれなりにしっかりとした林といった環境です。2時間で出現があったのはオオタカM?A1とハイタカMA1、ノスリU2、不明ハイタカ属1でした(Mは♂、Aは成鳥、Uは年齢性別不明)。
変わったハイタカ属のタカが1羽出ました。双眼鏡で見ていたら飛んでいる時のシルエットとヒラヒラとした感じ、遠くの林の上まで飛去した後に急降下して林の向こうに消えた様子などから、自信をもってハイタカだと思いました。ところが、400mmレンズで撮影した画像をカメラの液晶画面でとりあえず2カット見たところ、翼先突出が5枚で、虹彩には若干ながら赤味(だいだい味)がありました。
タカがまだ飛んでいるのに液晶画面で画像をチェックすることはしません。完全にロストした後で画像を見ます。飛んでいる時に画像を見ていたのではどこへ(どちらの方角へ)飛去したかが分からないですし、まだ飛んでいるのにそれを見ないなんてことはもったいないことですから。この時も飛去した後で、カメラの液晶画面を見て確認しました。翼先突出が5枚で、虹彩に赤味があるということから、この個体はツミ♂だったのでしょうか。
(その時の私の心の内を告白します……)
「う~ん、100%ハイタカだと確信していたのにツミだったとは……」と一人うなって、識別にちょっと自信をなくしてしまいました。「えーっ? これをツミだと言われてしまうと、困るなぁー」というのが本音でした。高度がやや高いとはいうものの、こんなにじっくりとほぼ真下から双眼鏡で見ることができたにもかかわらず、ツミとハイタカを間違えるとは……。歳のせいか、疲れがあるのか、ボケちゃったのか、いったいどうしたのか……。
(元の記述に戻ります……)
ところが、自宅へ帰ってPC画面で見たら、やはりハイタカMAでした。画像を見てください。こういうハイタカもいるのです。
画像をじっくりと見れば、頭部や顔はハイタカMA、下雨覆と風切の鷹斑の幅の顕著な差もハイタカ、下尾筒の長さもツミよりはうんと長く、まさにハイタカです。P5がP4よりもかなり長いのも(オオタカにはない)ハイタカの特徴です。ツミの翼先に比べてハイタカの翼先は丸みがあります。翼先突出が5枚か6枚かということを除けば、あらゆる観点からどう見てもハイタカです。
ハイタカ以外には考えられないのですが、念のために wing-formula(翼式)を他のハイタカMA画像と照合してみました。すると、やはりP10がありませんでした。画像をよく見るとP10は伸長し始めたばかりでした(赤い短い矢印2本)。なお、小翼羽はこの羽よりももう少し内側にありますので、矢印の2枚は小翼羽ではありません。
さらにもう一点注目したのは、尾羽左R6の外に伸長中の羽(赤く長い矢印)が見えることです。R6の独特な鷹斑(他の尾羽R1~5よりも鷹斑が細くて本数が多い)ははっきりと見えますので、この伸長中の羽は一見するとR6よりも外側にあるように見えていますが、そうではなくて内側のR5でしょう。つまり、尾羽においても換羽の進行がかなり遅いハイタカということが言えます。今までこのように換羽の進行が遅いハイタカを冬(11月末)に見たことはありません。
中形の鷹隼類(オオタカ、ノスリ、ハヤブサなど)は、時々換羽の進行が遅い(換羽の開始時期が遅い、または換羽の進行スピードが遅い)個体がいて、11月になっても風切や尾羽の換羽が終了していない個体、年が明けても尾羽の換羽が終了していない個体などを見ることがあります。こういう個体は胸と腹の一部や脛に旧羽を残していることも多いです。しかし、ツミやハイタカくらいの大きさの小形タカ類で11月末までに換羽が終了していない個体は珍しいと思います。
(Uploaded on 10 December 2020)
バーダー2019年10月号の特集は、「ハイタカ属列伝」です。下の写真は表紙です。
BIRDER 2019年10月号 表紙
特集の記事のタイトルは以下のとおりです。タカ類、特にハイタカ属の好きな人にはたまらない記事ばかりです。
・超難問!? ハイタカ属シルエットクイズ 文・写真・画像加工=久野公啓
・オオタカの暮らし ─都心での知られざる生態─ 文・写真=水村春香
・十勝平野のハイタカの暮らしと繁殖 文・写真=平井克亥
・街なかの狩人 ~ツミ~ 文・写真=平野敏明
・オオタカやツミは本当に増えているのか? 文・写真=植田睦之
・東京近郊でハイタカ属の子育てを観る ~意外すぎる街なかの繁殖地~
文・写真=BIRDER 協力=志賀 眞
・壮大な渡りが魅力 アカハラダカの2大観察地をチェック!
- 対馬(長崎県) 文・写真=貞光隆志
- 石垣島(沖縄県) 文・写真=小林雅裕
特集外
・オオタカ幼鳥の亜種識別に迫る 文・写真=先崎啓究
(Uploaded on 18 September 2019)
2018年12月、愛知県のある干潟の脇にある小さなヨシ原の上空でハイタカがオオジュリンらしき2羽の小鳥に突っ込んで、捕獲しようとしました。ヨシ原は堤防の外側(海側)にあって小さな干潟に続いています。下の絵は、そのようすを描いたものです。
図のAのあたりで1回目の狩りを試みたのですが、失敗しました。この時、ハイタカの動きがあまりに速かったので、私にはハイタカがどんな姿勢で捕らえようとしたのか、足をどう伸ばしたのか、小鳥がどう逃げたのか、まったく分からなかったです。失敗した後すぐにハイタカは急上昇し、ぐっとスピードが遅くなり頂点Bで一瞬翼を広げた後すぐにすぼめて急降下しました。このスピードの変化はまさに運動エネルギーが位置エネルギーに入れ替わって、再び位置エネルギーが運動エネルギーに変わっていく様子そのものでした。ところがCのあたりでハイタカがまるで落ち葉が舞うようにひらひらと動きました。そして3~4回くねくねとしながらどうも捕獲に失敗したようで、そのままDのように少し羽ばたいた後滑空して堤防を越えていきました。獲物に突っ込んだ後、高度を下げて滑空して飛去したので、実際は狩りに成功したけれどもハイタカの羽の陰で私には捕らえられた獲物が見えなかったという可能性はあります。
獲物を捕獲しようとした瞬間、ハイタカはどんな動きをしたのでしょうか。画像がないので正確なことは言えませんが、今までの観察からヒントになるようなことはいくつか分かっています。下の画像はオオタカが獲物を捕りそこねた時のものです。私がこの捕獲の瞬間を見た時、「獲物を捕りそこなった。足が届かなかった」と思ったのですが、写真を見るとオオタカの足には獲物の体羽がたくさん付いていました。つまり、オオタカは獲物をしっかりとつかんだのですが、オオタカの爪が獲物の肉に食い込まなかったために逃げられたということです。つまり、人間の肉眼ではタカの足が獲物に届かず捕りそこねたように見える場合でも、実際は伸ばした足が獲物に届き、(ある程度は、あるいはいったんは)捕らえたのですが、獲物の肉に爪が食い込まず逃げられることがあるということです。この辺りの100%正確なことは人間の肉眼では分からないですが、画像として撮影すればある程度分かります。
映画フィルムでは、サイレント時代は1秒あたり16コマ、現在は24コマ撮影されているそうです。さらに最近は上映時に1コマあたり2回ずつ光を当てて48コマに見えるようにしているそうです。テレビは動きを滑らかに表示したり、残像感を抑えるためにいろんな処理がされてそれ以上のコマ数で放送しているようです。人間が映画を見てなめらかな動きに見えても、鷹隼類はその程度のコマ数ではなめらかな動きとしては見えないようで、鷹隼類が人間の見ている24コマの映画を見ると、あたかも昔の映画(チャップリンのぎこちなく見えるような動き)にしか見えないということです。鷹隼類や人間以外の多くの生物が俊敏だということは別の言葉で言えば、1秒間に認識できるコマ数が多いか少ないかにかかっていると言えます。
上に書いたハイタカのひらひらとした動きは、小鳥を捕らえようとハイタカが体の向きを変えて足を伸ばしたり羽ばたいて向きを変えたり、また足を伸ばしたりして何度も何度も捕獲を試みていた動きだったでしょう。私には落ち葉が舞うようにひらひらした動きに見えてしまいましたが、当のハイタカは小鳥を捕らえようと必死になって俊敏に動き回っていたのでしょう。
どんな虫も、鳥も、魚も、哺乳類も、私たちの身近な生き物はほとんど人間よりも俊敏に動けるようで、いつも感心しています。人間が昆虫を捕らえようとしてもたいていは交わされて捕らえられず、小鳥を手でつかもうとしてもほぼ100%スッと逃げられてしまいます。水中で魚を手で捕ろうとしてもそれはどんな種の魚でもほとんど不可能です。逃げようとしている犬や猫でも素手ではなかなか捕らえられないです。その理由は画像認識の速さによるところが大きいようです。こうして考えてみると、人間の画像認識の速さは生物の中でもかなり遅い(つまり能力が低そうな)印象を持ちます。
タカ類・ハヤブサ類を肉眼と双眼鏡だけでじっくりと見ていたいのですが、カメラの力を借りないと鷹隼類の瞬間的な動きを把握することができないので、今もしばしばカメラに頼って観察しています。私は野生生物のように俊敏に体が動けなくてもよいので、せめて鷹隼類のように身のまわりの動きを肉眼だけで正確に速く把握したいと思っているのですが、これはかなえられない望みです。
(Uploaded on 20 March 2019)
ハイタカ幼鳥の体下面の模様はさまざまなものがあって、個体によって模様がすべて異なると言ってもよいほどです。このことは今までもこのハイタカフォルダーの中の記事にたくさん書いてきましたので重複は避けますが、幼鳥は胸の模様が大きなブーメラン型や三日月型、三角の模様、多数の斑点などが見られることから、「ハイタカの幼鳥である」ということはかなりの精度で判断できます。
しかし、♀幼鳥の中には♀成鳥そっくりの細かな横斑のみがきれいに並んだ個体を時々見かけます。下の画像は胸や腹の模様が精細に撮れていて細長いブーメラン型の斑が見えますのですぐに幼鳥だと分かるのですが、これがやや遠くを飛んでいる画像であったり鮮明さに欠ける画像である場合は♀幼鳥なのか♀成鳥なのか迷うことがあります。
この画像以上に FA に似ている模様の FJ (横斑がもっと細かく密な個体)を見かけることがあります。FA なのか FJ なのか迷う時や判断しにくい時の判断基準(目の付けどころ)を書いてみます。
(1) 下面からの画像しかない場合
ア まずは、ハイタカ幼鳥斑があるかないかを確認します。「ハイタカ幼鳥斑」についてはこのフォルダーの2018年6月15日付の記事をごらんください。幼鳥斑がはっきりしていない幼鳥あるいは幼鳥斑のない幼鳥がいるそうですが、くっきりとした幼鳥斑が確認できれば、幼鳥の可能性がひじょうに高いです。上の画像ではS2,S3あたりに少しだけ幼鳥斑らしく見える部分がありますが、あまりはっきりとは見えないです。
イ 初列風切と次列風切の後縁の並びをじっくりと見ます。確実なことが言えない時もありますが、後縁がきれいにそろって並んでいれば幼鳥、少しそろっていない個体あるいは長さに微妙な長短がある個体は成鳥の可能性が高いです。上の個体は比較的きれいに揃っています。
(2) 上面の画像があれば精度が上がります
上の画像と同一個体の上面画像をごらんください。同一個体であることは撮影者の話と撮影時刻、連続撮影したコマの順序、左P8の先端近くの内弁欠損から判断しました。
着目すべきところはいくつかあります。
ア 後頭部・後頸の斑点に注目
画像がくっきりと撮影されていれば、後頭部・後頸を見ることが一番分かりやすいでしょう。成鳥の後頭部・後頸はほぼ一様に塗りつぶされたような色で均一になっていますが、幼鳥の後頭部・後頸は、細かな斑点がたくさんあります。一枚一枚の羽の縁に淡褐色の部分があるからです。後頭部・後頸や耳の後ろあたりは翼を上げた状態でもしばしば見ることができますので、体上面や翼の上面が写っていなくても確認することができます。後頭部・後頸は迷った時にまず第一番に注目すべき箇所です。
イ 体上面や翼の上面が鮮明に写っていれば注目すべきはそれぞれの羽の羽縁です。上面のほとんどすべての羽の羽縁には淡色部分が見られますので、かなり正確に幼鳥と判断できます。成鳥はこのような羽縁がないか、ほとんどないですので、一様にべったりと塗りつぶされたように見えます。体上面や翼の上面が鮮明に写っていない画像でも、大雨覆の羽縁の淡色部分は比較的しっかり写っていることが多いので、そこを見るとよいでしょう。
ウ 背面の色はある程度参考にはなりますが、決定的なことは言えないかもしれません。
(Uploaded on 24 November 2018)
ハイタカの尾羽の先の形状は一般的には「角尾」と表現されています。つまり長方形のような角張った形ということです。ただ、♂よりも♀の尾羽のほうが丸みを帯びることが多く、また、成鳥よりも幼鳥の尾羽のほうが丸みを帯びやすいようです。ということは、♂成鳥・♀成鳥・♂幼鳥・♀幼鳥の4つの中では、♂成鳥が一番角尾の傾向が強いことになります。
その♂成鳥の中には、角尾を通り越してトビのようなバチ形になっている個体が時に見られます。「トビの尾は三味線のバチのようなM字型をしていて、日本のタカ類の中では特徴的なので間違えることはない」と言われます。たしかに識別を間違える可能性はほぼゼロですが、ハイタカの中にも、時々尾羽がトビの尾に似たバチのような形をした個体が見られます。下の画像です。
2枚は同じ個体です。撮影した角度やその時吹いていた風の影響等でたまたまバチ形に写ったという可能性を否定するため、撮影角度の違うコマを2枚載せました。この個体はこの2枚の他にも数枚撮影しましたが、どの画像も尾羽の形はみなバチ形でした。
(Uploaded on 23 July 2018)
喉に一本の縦斑(縦の線)を持つタカはサシバ、ハチクマ、ツミ、クマタカをはじめ、数種類が知られています。幼鳥だけが持つ種や幼鳥も成鳥も持っている種などさまざまです。また、同じ種でも持つ個体と持たない個体がいるとか、あるいは型の違いによって持つ個体と持たない個体がいるとか、こちらもさまざまです。
下の画像は、左から順に、サシバ成鳥、ハチクマ成鳥、ツミ幼鳥、クマタカ成鳥です。中でもサシバやツミ幼鳥にはかなりくっきりと、一本の明瞭な線が見られます。
この線は、「腮線(さいせん)」、「喉線」、「(喉の)正中線」などと呼ばれています。正中線という言葉は今の図鑑にはあまり出てきませんが、昔はよく使われていました。
サシバは暗色型を除いて、幼鳥も成鳥もともにはっきりとした線が出ます。ハチクマは線がまったくないものからくっきりと見えるものまでさまざまですが、くちばしの近く(喉の一番上のあたり)にはない個体が多いです。こういう個体の模様は、よく「ω(オメガ)形模様」と言われます。ツミは♂成鳥で細かったりはっきりしない個体がいますが、幼鳥はそれほど太くはないものの明瞭に線が出ます。クマタカは上の画像のように2~3本に分かれたように見える場合がありますが、遠目に見ると(あるいは近くても)太くはっきりした一本の線が見える個体が多いです。
オオタカ幼鳥にも同じような線がありますが、下の左画像のように線が明瞭に出ているものがいる一方で、右画像のように細い3本ほどの線が並ぶように集まっている個体もいます。オオタカ幼鳥に腮線があるかないかと問われれば、「ほとんどの個体にはある」と答えたほうがよさそうです。
一方ツミやオオタカと同じハイタカ属でも、ハイタカの喉には通常細い縦の線が下くちばしの付け根から放射状にたくさん見られる個体が多く、目立つ腮線がある個体はほとんど見られません。しかし、稀に腮線を持つ個体が見られます。下の2枚の画像はともにハイタカの幼鳥ですが、細いながらもくっきりとした腮線が見られます。
腮線を持つハイタカ幼鳥(♂か?) 10月 by Wakasugi
撮影した画像の鮮明さで腮線の見え方がかなり変わってきますし、春がすみや靄で大気の状態が悪かったり、鳥が遠くて小さくしか写っていない時は腮線があっても写っていないことがあります。つねに何枚かの画像で確認するとか、よりクリアーな画像を撮るように心がけるなど、注意が必要です。
(Uploaded on 1 July 2018)
注 : 「ハイタカ幼鳥斑(ハイタカ幼鳥線)」は若杉が勝手に付けた名称で、公に認められた術語や学術用語ではないです。
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私が興味を持って鷹隼類を見始めたのは40数年前のことですが、そのころハイタカ属とハヤブサ類に特別強い関心がありました。はく製が見られるところや手にとって調べられるところへは何度も行きました。日本野鳥の会の先輩には、斃死体が見つかった時や傷病鳥として施設等に保護された時には連絡してもらえるようにもしていました。そうして、ある程度の数のハイタカやオオタカ、ハヤブサを手に取って見ることができました。ツミはそのころ(愛知県では)あまり多くはありませんでした。
ハイタカ属の中で、昔、いちばんたくさん手にとって見ることができた種はハイタカでした。特に冬場に保護されることが多かったのはハイタカで、その中でもやはり幼鳥の数が多かったです。そうして見たハイタカ幼鳥の中には、以下に述べるようなタカ斑(ハイタカ幼鳥斑・ハイタカ幼鳥線)を持つ個体がけっこういました。
この斑は、BIRDER 2009年8月号41ページに伊関文隆さんが「ハイタカ属を極めよう!」シリーズの中で「年齢線」という名前で紹介されています。この斑を持つ幼鳥と持たない幼鳥の比率を述べるなど、一生懸命やっていらっしゃる人がここにもいるんだなとうれしく思ったものです。
さて、いくつか画像を紹介します。まず、ハイタカ幼鳥の全体です。この個体は胸の斑がブーメラン状になっています。腹や脇の斑は幅がやや狭いながらも胸とほぼ同じような形で斑と斑の間隔が粗いです。翼縁は幼鳥らしくきれいに揃っています。
この画像の一部分、右翼だけを拡大します。黄色い線で囲まれた濃色のタカ斑が「ハイタカ幼鳥斑(幼鳥線)」です。
下は、上の画像と同じ日に撮影した別個体のハイタカ幼鳥です。この個体も「ハイタカ幼鳥斑」が明瞭に表れています。
なお、上に紹介した伊関さんの研究によると「幼鳥斑」を持たない幼鳥がわずかながらいて、また、「幼鳥斑」を持つ成鳥もごくわずかですがいるとのことですので、「幼鳥斑があるから幼鳥だ」とか、「幼鳥斑がないから成鳥だ」とは言えず、「幼鳥斑」の存在だけからは年齢判断ができないようです。
(Uploaded on 15 June 2018)
2017年1月のことです。今日はどこでタカを観察しようかと思案しながら車を走らせていた時、ある樹林帯の上で旋回するハイタカを見つけました。かなり遠くて完全な逆光でしたが、すぐに目の前で樹林帯の脇にある低木林に突っ込んで、ツグミやシロハラ、ムクドリが10数羽飛び出すというところを目撃しました (下の写真)。
そういうことならば、この林の近くで待っていればこの辺りで再び狩りをするのではないかと思って、林近くの道路脇を観察地点に選びました。そこは干拓地の中を一直線に長く伸びる片側1車線の舗装道路です。一日に通る車はほんの数えるほどで、人もめったに来ないところです。車を道路脇にとめて、トランクを開けてカメラを出し、車の後ろに椅子を出して車の後ろ方向を見るようにして待ちました。一時間ほどしたら、車の後ろの方から低いところを何かがこちらに向かって飛んできます。一瞬キジバトかな?と思うほどでしたが、あまりのスピードの速さと身のこなし方から「ハイタカだ!」と気づきました。
こういうふうに近づいてくる時は動いてはいけないということを今まで何度も身にしみるほど経験していますので、この時も双眼鏡は使わず、もちろんカメラも出さず、手も足も動かさず、じっと石のようになりました。できるだけ頭も動かさずに眼だけ動かすような感じです。もし双眼鏡で見てもすぐに視野から外れてしまいますし、カメラで撮ろうとしてもピンが来なくて写真にはなりません。こういう時は肉眼で見るだけにするのが一番です。
ハイタカは地上30cmという超低空を羽ばたきながら猛スピードで飛んで私にどんどん近づいてきて、私の立っている脇のわずか2.5m~3m !!の歩道部分を、まるでウサイン・ボルトが猛スピードで駆け抜けるように通過していきました。地上30cmというのは、もうこれ以上低いと羽ばたいた時に初列風切が地面に当たってしまうというほどの極限の低さです。この間、地上高30cmをずっとキープしていました。
下の写真をごらんください。2枚のうちの上の写真の矢印は下の写真の矢印に続きます。矢印はハイタカの飛行経路です。私は2枚の写真の中に印を付けた黄色の●印のところに立っていました。私が手を伸ばせば、あるいは捕虫網をそっと出せばハイタカに届くほどの近いところを通過しました。こんな近くを猛スピードで飛んでも、大雨覆の羽縁の淡色部分の存在は確認できました。幼鳥でした。
地上30cmの超低空を猛スピードで駆け抜けたハイタカの経路
(上の写真の矢印から下の写真の矢印へ続く)
自宅に帰ってからパソコンの地図サイト「マピオン」の「キョリ測」で測ってみたら、ハイタカの飛んだ距離は「193メートル」と出ました。私が気がついた時からの矢印ですが、気がつく前から飛んでいたはずですので、実際は193mよりももっと長かったでしょう。
ハイタカはずっと羽ばたきましたが、羽ばたきの途中に短い滑空が入り、「パタパタ スーッ 、パタパタ スーッ」を激しく頻繁に繰り返すような飛び方でした。飛んでいった先ではツグミやハクセキレイ、モズなどが逃げるように道をよけましたが、ハイタカが何を狙って、何を狩りしようとして飛んだのかはよく分かりませんでした。ずっと先まで飛んで道路脇の小さな木の枝にとまりました。私がすぐに動くと飛び立ってしまうので、一息おいてから少しずつ近づくように動き始めたら、向こうからジョギングの青年が現れました。当然ですが、ハイタカは驚いて飛び去りました。半日観察していても通行人はその人たった一人だけだったというめったに人の来ないところですが、「好事魔多し」のことわざどおり、こういう時に限って、まったく運悪く人が来るものです。
その後、午前中にもう一度ハイタカが現れました。林に突っ込んだハイタカと超低空飛行のハイタカと上空に現れたこのハイタカが同一個体かどうかは証明できませんが、下の写真は超低空飛行のハイタカと同じで、幼鳥(♂)です。
(Uploaded on 1 March 2017)
2017年1月初旬、タカ類の観察に出かけた地点にはツグミがたくさんいました。約100羽、約50羽、約150羽の3群300羽ほどを確認しましたが、他にも各所でさかんに鳴き声がしましたので、もっとたくさんいたようです。ツグミは下の写真のような葉の落ちた枝がお気に入りだったようで、たくさんとまっていました。
このあたりにはノスリが4個体いました。このうちの1羽は下の写真のように顔から胸、雨覆にかけてバフ色というかオレンジ色っぽい成鳥の個体でした。
さて、このツグミの群れの上を飛んだノスリが、すーーっと高度を下げたことが2度ありました。その度にツグミはパラッ、パラパラ、パラッと枝から飛び立って逃げました。以前の冬、落葉で樹間の隙間が広い時に木々の間をしっかり羽ばたいて小鳥を追うノスリを観察したことがあります。たまたまノスリが樹間を飛んでいたときにその姿に驚いて小鳥が逃げたという可能性がないわけではないですが、ノスリがまったく小鳥を襲わないわけではないようです。この日も本気でノスリがツグミを捕ろうとしたところは見られませんでした。ツグミがいる枝の近くにノスリがたまたま降下していったというだけかもしれません。しかし、ノスリが降下するとすべてのツグミは確かに逃げました。
ミサゴもツグミの上を何度か飛んで、時たま高度を下げました。ツグミはミサゴが近づいた時だけ、ゆっくりとパラッ、パラッと半分くらいの数が飛び立って逃げましたが、枝に残っているものもいました。ミサゴが元気なツグミを捕獲することはほとんど考えられないですが、同じように逃げるシーンを3回も見ましたので、ミサゴが近づくと全体の一部ですが、ツグミは確実に逃げるようです。
ところが午後1時3分頃のことでした。枝にとまっていたすべてのツグミがノスリが近づいた時よりもうんと力強く羽ばたいてスピードを出して、まさに慌てているようにクェックェッとかケッケッと聞こえるような激しい声で鳴いて飛び立ちました。「逃げ惑うように」と言った方が近いような飛び方でした。私の頭には「ハイタカかオオタカの出現だ!」とピーンときましたが、10秒ほどたっても何も現れませんでした。あれっ?おかしいなと思ってじっと見つめていると、さらに10秒ほど後にハイタカが下の写真のように現れました。ハイタカは私から見えないところを飛んでツグミを狙っていたようです。
このハイタカは幼鳥でした。ノスリの場合もミサゴの場合もハイタカの場合もツグミの群れはしばらくすると、すぐまた元の木の枝に戻ってきます。この日のこの地点での4時間半の観察中に、ノスリが上空から降下したことが2回、ミサゴがこの枝に近づいたことが3回、ハイタカが見えないところを近づいたことが3回ありましたが、ツグミのタカ類3種への対応の仕方、警戒の程度が種ごとに明確に異なっていて、たいへん興味深かったです。
この日はオオタカ成鳥も現れました。しかしオオタカは他の日も含めて多くの場合ハシブトガラスに激しく鳴かれながらの出現になりますので、この日も気がついた時にはツグミはすでに逃げてしまった後でした。ここのツグミがオオタカにどんな反応をするのかよく分かりませんでした。
(Uploaded on 11 February 2017)
2017年1月初旬、愛知県内の海岸部へハイタカを見に行きました。道路が空いていても車で1時間半ほどかかる岬ですが、朝早く家を出て暗いうちに現地に到着しました。基本的に私は夏でも冬でも鳥を見るのは夜明け前からということにしています。鳥類は食べた物の消化吸収のスピードが速いので朝はお腹が空いているようで、朝一番に狩りをし、食べてすぐに休憩に入ってしまうことがけっこう多いからです。朝早く家を出る代わりに、お昼頃までに現地を引き上げてしまうこともちょくちょくあります。
昨年12月初旬には、この岬でハイタカがメジロを捕獲する直前までの飛行をじっくりと見ることができました。捕獲の瞬間や捕獲直後の写真は撮れませんでした。
さて、この日は日の出時刻直後から胸の赤褐色味が濃いハイタカ♂成鳥が現れ、狩りを始めました。薄明るくなりかけた頃からメジロやカワラヒワの数が多く動きもさかんだったので、狩りの対象はこのどちらかの可能性が高いのかな、それともこの時期しばしば見られるウソかもしれないな……と思いながら観察を始めました。ハイタカは何度も急降下のハンティングを繰り返しましたが、その途中、♀と思われるハイタカ幼鳥が私の立っていた地点の近くにある大きな木の上をかすめるように低く、猛スピードで羽ばたいて成鳥に近づきました。私の体の左後ろから近づいてきたので、目の前に現れるまでこのハイタカには気がつきませんでしたが、私の脇10mほどの近いところを飛んでいきました。幼鳥は♂成鳥のハンティングエリアに侵入したようで、幼鳥は岬近くから600mほどの林の上まで激しく追尾され追い出されました。体が♂よりも1回りか2回りも大きい♀ですが小さい♂に追いかけられました。成鳥は幼鳥を排斥した後すぐに岬の先端へ戻り、その後も何度か急降下ハンティングをしました。
前回の記事(2017年1月14日付の記事No.334 「ハヤブサがメジロを捕る」 ) に書きましたが、ハヤブサ♂成鳥が狩りをしているエリアに後で入ってきたハヤブサ♀幼鳥は追い出されるようなこともなく、2羽がすぐ近くで狩りをしていました。協力し合って狩りをするような状況ではなかったのですが、お互いに排除しようとする気配はまったくありませんでした。このハヤブサは♂成鳥と♀幼鳥、今回のハイタカも♂成鳥と♀幼鳥ということで、2羽の雌雄成幼が偶然同じになりましたが、追い払うか追い払わないかという点ではまったく異なりました。親和的であるハヤブサ類とやや排他的な面を持つハイタカ属の性質の違いがよく分かります。
このようすを見ていて、こんな話を思い出しました。十五代将軍徳川慶喜公に鷹匠として仕えていた村越才助氏の子、仙太郎氏に師事して鷹狩りを学んだ人からお聞きした話です。「ハヤブサでキジ猟をする時、一羽のハヤブサでうまくいかないようならば二羽目のハヤブサを放て。ただし、オオタカで猟をする時にはけっして二羽のオオタカを同時に使ってはいけない。オオタカは目の前の獲物を放っておいてオオタカ同士で取っ組み合いを始めてしまうから……」 という内容でした。まさにこの話の通りのことを目の前で見たわけです。ハヤブサ目のハヤブサとタカ目のオオタカ・ハイタカという大きな違いがありますので、やはり生態も異なってあたり前でしょう。
さて、このハイタカは8時30分に種不明の小鳥(私には小さな点にしか見えませんでした)を追って降下した後、再び浮かび上がってくることなくそのまま20分が経過しました。私は「ハンティングに成功し、きっとどこかで小鳥を食べているのだろう…。メジロのような小さな獲物を食べた後はそのうが膨らんだままでもすぐに次のハンティングを始めることがあるけど、このハイタカは♂だからなぁ…。しかもメジロとは限らないからもっと大きな小鳥を捕ったのかも……」と勝手に推測して、この地での観察を終わりにし、9時頃、他の観察地点へ行くため岬を後にしました。2時間少々の短い観察時間でしたが、動きが機敏で颯爽とした小気味よい♂成鳥のハンティング飛行がしっかりと見られました。タカ以外では、ウソ7、アオバト1、ノウサギ1などが見られました。
(Uploaded on 1 February 2017)
愛知県でハイタカの渡りを観察していると、ハイタカが2羽同時に現れることがよくあります。同時に3羽現れることもあります。どういう関係の2羽・3羽なのか分かりませんが、突っかかったり近くを一緒に飛んでいたりします。私が同時に見たハイタカの最高羽数は今まで7羽でした。これは10数年前の愛知県伊良湖岬でのことでした。恋路ヶ浜の近くにある古山という山の北側、今は「道の駅 伊良湖クリスタルポルト」がある方の斜面で、文化の日にハイタカ属のタカの渡りを見ていた時に現れました。鷹柱というと大げさですが、次々と旋回上昇していきましたので、たった7羽でも時間にずれができ、横から見ていたので柱のように見えました。
さて、1群で10羽のハイタカを見たのは今年の10月16日です。北のほうの某所でタカの渡りを観察中に現れました。下の写真はその時のものです。使っていたのはCanon100-400mmズームで、広角側にしたり望遠側にしたりしましたが、広角側ではタカが小さすぎてタカがくっきり写らず、望遠側では3羽、多くても4羽しか視野に入らず、結局いい写真は撮れませんでした。こういう写真を撮るのは難しいです。下の写真にはハイタカが5羽入っています。
この日は午前6:00~9:20の3時間20分だけの観察でしたが、10羽の群れが現れる1時間ほど前にも同時に8羽の群れが出ました。他に同時に4羽の群れが3回、同時に3羽の群れも3回出ました。単独で出たものは23羽でした。
九州や山口県などのようにハイタカがたくさん渡る地点では同時に10羽のハイタカが現れても特に珍しくはないかもしれませんが、愛知県に住んでいる者にとっては、ハイタカが同時に4羽出ただけでもかなり珍しいほうです。
(Uploaded on 20 November 2016)
2015年12月、愛知県内で連続して急降下ハンティングを繰り返すハイタカを観察しました。胸や腹にかなり赤褐色みがあり、大陸から飛来したと思われる1羽の♂成鳥が午前7:00~8:45 の105分間に、下の図のように計9回急降下しました。一番右と一番左の矢印のように、すーっと降下して、ふわっと浮き上がり、再び急降下することが2回ありました。途中でやめたのか、タイミングを再度計り直していたのか、あるいはフェイントをかけたのでしょうか。
上の図はあくまで私が立っていた地点から見た飛行軌跡で、山の端に隠れるまでのものですが、さまざまな方向へ降下していきました。私から見て向こう側に降下したり、あるいは右下へ、左下へと、まさにありとあらゆる方向へ降下していきます。私から見て鉛直線 vertical line に沿ったような急降下も、たぶん違う角度から見ると斜めに降下しているのでしょう。ハイタカの急降下はまっすぐ真下に落ちていくというよりも斜めに降下するといった感じです。
9回のうちの1回は立っていた私の左後ろの林に突っ込みました。その林からは数羽のメジロが飛び出してきて、望遠レンズの前1メートルほどのところと5メートルほどのところを3羽がぱらぱらっと飛びましたが、ハイタカは狩りに失敗しました。
【参考写真】 = 現在、「マーリン通信」の表紙に使っている「ハンティング中のハイタカ幼鳥」の写真は、この時の♂成鳥とほぼ同じようなシチュエーションで撮影したものです。かなりの高速で、一気に私のいる地点に近づいてきました。
9回目にどうやら狩りに成功したようです。それは右から2つ目のような飛行でした。カワラヒワと思われる黄色みのある小鳥を、足を前方に伸ばしながらジグザグに何度か襲って、その後、降下していきました。それ以降は、少なくとも正午までは一度も姿を現しませんでしたので、その時に捕らえただろうと推測しています。ただ、9回目というのは私が午前7時に観察を始めてから見た回数であって、夜明けから7時までに何度も失敗していた可能性は十分にあります。
この日のさらに一ヶ月ほど前の11月のある日、たまたま私が立っていた地点に向かってハイタカの幼鳥が一直線に急降下してきたことがあります。まん丸の胴体の真ん中に丸い頭があって、左右にたたんだ翼がわずかに出ている姿勢が下の写真のように写っていました。別のコマにはもっとまん丸の姿が写っていましたが、ピンぼけでした。この写真もピントが甘く、今ひとつ満足できませんが、「真正面」という雰囲気だけは伝わるでしょうか。
流れ星がまさに観察者に向かって一直線に飛んでくると、流れ星は流れずに、同じところで一点の光がだんだんと明るくなって、一瞬で、すうっと消えていきます。私が中学3年生の夏休みに、ペルセウス座流星群を区切った時間ごとに何個出現するかを数えていた時、この現象に遭遇しました。ちょうど夜明け少し前で、地球の進行方向の一番真ん中付近に日本列島が位置する時間でした。もう50年も前の体験ですが、今も覚えているほど感動的でした。この日のハイタカの急降下もこれとひじょうによく似ていましたが、ハイタカの場合はコースを変えないかぎり、流れ星のように途中で消えることはないため、私の体のすぐ近くを通過した時は身が震えるほどの感動を味わうことができました。
今冬、愛知県ではハイタカを見かけることが例年よりも多いように感じます。今冬が「ハイタカの多い冬」かどうかはよく調査してみないと分かりませんが、少なくとも私は例年以上に多く見かけます。2005~2006年にかけてのハイタカが多かった冬ほどではないかもしれませんが、例年の冬にハイタカをあまり見かけないいくつかの地点でしばしば見かけますので、今冬はハイタカが多いような印象を持ちます。個体がそこで越冬できるかどうかは、ほとんどその食物の量に依存していると思われますが、どこへ行っても今年の冬も越冬している小鳥類がひじょうに少ないので、ハイタカの食物量が十分かどうか、心配なところです。
いずれにしても、これだけ頻繁に急降下を繰り返すタカはハイタカだけでしょう。オオタカやツミも急降下しますが、連続回数はあまり多くありません。ハヤブサやコチョウゲンボウもよく急降下をしますが、ごく短い時間に何度も執拗に急降下・急上昇攻撃を連続して波状に繰り返すことが多く、ハイタカのように大きな急降下ハンティングを長時間にわたり何回も行うことはあまりないと思われます。
遠くに現れたタカが、ハイタカ属ではあるけれどもオオタカかハイタカか識別できないという時でも、急降下のようすを見ていれば、(断定はできませんが) 種の識別の参考になるほどハイタカはよく急降下します。
(Uploaded on 17 January 2016)
第1巻の 『ミサゴ』、第2巻の 『サシバ』 に続いて、待望の第3巻 『ハイタカ』 が、(2015年)10月31日に発行されました。著者は、渡辺靖夫、伊関文隆、越山洋三、先崎啓究の4氏です。
ハイタカの体下面の模様は実にさまざまで、成鳥・幼鳥ともに個体変異が激しいのですが、見開き2ページにわたる22枚の写真で、胸から腹にかけての模様が分かりやすく紹介されています。
オオタカ・ハイタカ・ツミの識別や、ハイタカの雌雄成幼の違いについてもうまくまとめられています。
また、渡辺靖夫さんの定評のある正確な識別イラストの他に、クリアーな写真が計47枚掲載されています。
表紙を含めて全24ページで、定価は 700円+税 です。購入できるWebページは、渡辺さんの 【 湖北ワイルドライフアートスタジオ 】 です。鷹隼類ファンの方にはお薦めします。
(Uploaded on 1 November 2015)
35年ほど前の話です。知り合いのBさんから電話があって、 「目が赤いタカの死体があるけど、いりませんか?」 とのこと。目が赤いということはツミの雄成鳥かなと思って、いろいろ聞いてみると、「虹彩は透明に澄みきった赤色。胸や腹にも赤みがある。全長は30cmかそれよりも大きい」 とのことでした。さっそく、引き取りに行きました。BさんはAさんから連絡があって引き取ったそうです。Aさんは農業を営んでいるが、農作物にかけていた防鳥ネットにタカの足が絡まって、ぶら下がった状態で死んでいたとのことでした。AさんからBさんへ、そして私へと届きました。そのタカはハイタカの♂成鳥でした。胸や腹、翼下面が赤っぽく、何よりも虹彩の赤色が印象的でした。
さっそく近くのはく製屋さんに持参して、本はく製を作ってもらいました。このような場合、都道府県によって異なると思いますが、環境課あるいは自然保護課等へ連絡をし、実物を持参して、例えば「拾得証明書」等を発行してもらわなければ、はく製屋さんは作ってくれません。下の写真はこの時のはく製です。35年も経って、若干形がくずれてきていますが、ほぼ、作製当時と同じような状態を保っています。虹彩の色は大きなアタッシュケースのような箱に入っていたたくさんの義眼の中から、大きさや色が一番合致したものを2人で時間をかけて選びました。
当時の図鑑には、「ハイタカの虹彩は、オスもメスも黄色」という程度のことしか書いてありませんでした。なぜこのハイタカは虹彩が赤いのか、いくつか考えてみました。
(1) 防鳥ネットにぶら下がって死んだので、虹彩の色が赤くなってしまったのか?
〇 これは完全には否定できませんが、このような死に方をした他のタカや野鳥はたくさんいるのに、必ずしも赤くはなっていないですので、どうもこれが原因ではなさそうでした。
(2) 打撲や被攻撃等による何らかの事故で赤くなったのか?
〇 両眼ともにまったく同じ色だったので、これも否定されました。
(3) 眼の病気だったのか?
〇 眼の病気についての十分な資料や文献が手に入らなかったのでこの件についてはよく分からなかったですが、やはり両眼がまったく同じ状態ということで、否定的でした。
(4) 強烈なストレスがかかり続けていたのか?
〇 ストレスが原因ということはあると思います。でも、ここまで澄んだ赤色になってしまうのだろうか…という疑問も残りました。
ということは…、
・ 虹彩の色は、成長とともに、黄色からオレンジ色へとだんだん濃くなっていく個体が多いので、これはかなり年老いた鳥(老鳥) なのか?
・ どのタカにも個体差があるので、他のハイタカよりも早く虹彩が赤くなった個体だったのか?
35年前の図鑑にはこのようなことは何も書かれていませんでした。インターネットもないころでしたので、今と比べるとほんとうに情報の得にくい時代でした。ここで私の追究はストップしました。
そんな中、1995年に文一総合出版から森岡照明氏、叶内拓哉氏、川田隆氏、山形則男氏共著 『図鑑 日本のワシタカ類』 (632ページ、16,480円。第2版は18,000円)が出版されました。分厚い本ですが隅から隅まで目を通し始めました。そして、123ページに下の写真のような記述を見つけました。
この図鑑初版のチュウヒの本文中に記された引用文献の著者名で、(若杉) とすべきところ6ヶ所(320~321ページ)が (若林) に、巻末の引用文献一覧(626ページ)では Wakasugi が Wakabayashi になっていましたので、第2版の発行時には修正してほしいなということを伝える用事もあって、森岡さんにハイタカの赤い虹彩色について手紙を書きました。ただ、この図鑑に書かれているようなワインレッド(すなわち濃い赤紫色) ではありませんでした。また、ツミの♂成鳥のような暗紅色でもなかったです。どちらかというと、淡い赤色という感じです。でも、黄色やオレンジ色、だいだい色という感じはまったくしませんでした。透き通った淡い赤色という表現が一番適していると思います。ワインレッドという表現をするなら、濃い赤紫色ではなく、かなり淡い赤っぽいワインレッドということになります。文章では表現しにくいですが、とにかく上のはく製の写真に近い色です。
今は写真代が実質0円ですので、何もかも写真を撮る時代のようです。小型デジカメや iPhone で、自分が食べる料理すべてを毎日撮っている人もいます。当時はポジの Kodachrome64 をよく使っていて、フィルム代、現像代、焼き増し代の費用がけっこうかかったものです。私も野外では鳥の生態写真をよく撮っていたのですが、このハイタカのはく製を作る前の写真は撮らずじまいでした。
ツミの♂は生まれた翌年の1月末に、羽毛は全身が幼羽のままですが、虹彩だけは赤っぽくなっていきます。アメリカ産のオオタカ♂の虹彩も日本のオオタカに比べてかなり早い時期に赤くなっていきます。世界各地の他のハイタカ属のタカで、♂の虹彩が赤くなる種はけっこうたくさんいます。それらに比べると、日本のハイタカは年齢が増してもなかなか虹彩が赤くならない種だという印象を持ちます。
ハイタカはたくさんの個体の中に、こういう赤い虹彩のものもわずかながらは存在するということでしょうか。体の下面や翼の下面がかなり赤いハイタカを冬場時々見かけます。大陸から渡ってきた越冬個体なのでしょうか。ハイタカは幾種かの他のタカ類と同じように体色や模様の個体差が激しい種ですので、虹彩についても個体差はかなりあるだろうと思われます。
(Uploaded on 5 September 2014)
2014年4月、春の渡りの観察時に、ハイタカ属のタカが3羽続けて出ました。かなり遠い距離でしたが、そのうちの最初の1羽は尾羽がひじょうに丸かったので、私はついオオタカと判断してしまいました。しかし、ずっと双眼鏡で見ていると飛び方がオオタカにしてはどことなく軽快すぎて、この個体に続けて現れた2羽のハイタカと飛び方がひじょうによく似ていました。よくよく見ると、はばたきはまさにハイタカでした。そして、デジカメで撮った画像を確認するとやはりハイタカでした。
『バーター』誌 2009年8月号に掲載された伊関文隆さんの研究によると、尾羽の丸いハイタカは九州北部を通過するハイタカ全体の40%程度いるということです。尾羽が、(凹尾でなく、角尾でもなく) 丸いハイタカは全然珍しくないわけですが、しかし今回のようなまぎらわしいほど尾が丸い個体は今まであまり見たことがありませんでした。
上の写真を見ただけでは、それほど尾羽が丸いようには見えませんが、開いた時にはかなり丸く見えてしまいました。
いくら幼鳥の尾が丸みを帯びているといっても、なぜ、こんな間違いをしてしまったのでしょうか。「〇〇タカが出るといいな」とか、「今日は〇〇タカの渡りを見に来ているのだ」とか、そういう何らかの期待や先入観を持っていたからかもしれません。また、体のさまざまな特徴のうちの一つだけに目が行ってしまい、その特徴だけにとらわれてしまったのかもしれません。ふだん一羽で飛ぶ時にはあまり尾羽を大きく開くことのないハイタカが、尾を扇のように広く開いたので、尾羽の丸さだけに目が行ってしまい、「丸い!! だからオオタカだー」 と思ってしまったのかもしれません。反省です。
(Uploaded on 30 July 2014)
再び、月刊誌 BIRDER の宣伝になってしまうかもしれませんが、下の写真は、8月16日発売のバーダー9月号の表紙です。今回の特集は、「極める !! ハイタカ属」で、一冊の半分程度をハイタカ属の記事が占めています。
表紙の写真がすばらしいですね。「3月29日、尾上和久氏撮影」 となっています。右のR1の尾羽が一枚だけ伸長中です。抜けたのは事故によるものと思われます。その理由ですが、
〇 定期の換羽としては3月は早すぎます。この時期には、まだ抜け始めません。
〇 また、通常の換羽なら、左右の中央尾羽2枚(右のR1と左のR1)が同時に抜けるはずです。
〇 万一、左右で1~2日の差ができてしまったとしても、右のR1がここまで伸びてきているのに左のR1が抜けていないということは通常の換羽では考えられません。
ですから、これは事故換羽です。
とにかく感じのよい写真です。背面の青灰色が美しく出ていて、おまけにバックの処理がきれいです。表紙を見るだけで、中を見ることがワクワクしてきますね。ハイタカ属の識別はタカの渡り観察には必須項目です。ぜひ、皆さん、9月号を買って読みましょう。
特集の部分のタイトルのみ、以下に紹介します。
特集 「極める!! ハイタカ属」
・ キャッチ:飛んでいるオオタカ、ハイタカ、ツミの違い、わかりますか?
・ ひと目でわかる、ハイタカ属の大きさ比べ 構成=BIRDER
・ ハイタカ属の識別~初級・中級編~[脱!初心者、ハイタカ属の識別に挑戦] 文・写真=伊関文隆
・ ハイタカ属の識別~上級編~[ハイタカの個体変異を観察しよう] 文・写真=山形則男
・ ハイタカ属とは、どんなタカたちなのか? 文・写真=若杉 稔
・ 完全ガイド 白樺峠、伊良湖岬、龍飛崎[3大「聖地」でハイタカ属の渡りを満喫しよう!]
・ 白樺峠~「識別の基本」はここでマスターしよう!! 文・写真=久野公啓
・ 伊良湖岬~ハイタカ属と小鳥の渡りが同時に楽しめる 文・写真=戸塚 学
・ 龍飛崎~広い視界で、海を渡るタカをしっかりとキャッチできる! 文・写真=吉岡俊朗
・ オオタカが推進した野鳥と生息地の保護 文=金井 裕
・ エルニーニョ現象がアカハラダカを減少させる? 文=馬田勝義
・ 羽毛からハイタカ属の識別に挑戦! 文・写真=藤井 幹
・ 〈特集別体〉まだまだある! 特選ハイタカ属観察地ガイド 文・写真=川口 誠、古田慎一、本若博次
20~21ページの、「ハイタカ属とは,どんなタカたちなのか?」は、下のようなレイアウトです。
著作権は、文一総合出版にありますので、解像度を低くして、画像を拡大しても文字は読めないようにしてあります。
時間があったら、ぜひどうぞ。8月16日発売です。
(Uploaded on 16 August 2013)
2012年4月8日、春のタカの渡りを観察するため、愛知県知多半島へ行きました。この日は快晴の雲一つない天気で、風もほとんどありませんでした。伊勢湾に面したポイントで、ハシブトガラスやトビが多くみられました。いつものことながら、この時期のカラスの元気さには感心します。繁殖期ですので、なわばりを保持したり他へ攻撃したりと、鳴き叫びながらたいへん忙しそうです。何を食べるとこんなに元気が出るんだろうかと思うほどです(海岸部に棲んでいるからきっと栄養価の高いものを食べているのでしょう)。
さて、観察は午前7時25分から開始しました。この地点での春の渡りの観察は初めてですので、「ひょっとしたら一羽も飛ばないのかも…」 と心配しながら、一人で寂しく観察開始です。はじめの1時間ほどは何も出なかったのですが、8時20分に♂と思われる胸の赤っぽいハイタカが、高いところを西北西へ、時々羽ばたきを交えながら一気に渡っていきました。これを皮切りとして、8時35,45,51,58分と続きました。10時10分にはハイタカが5羽同時に現れて、一直線になって、秋のサシバのような雰囲気で伊勢湾を渡っていきました。西行きのハイタカ(いわゆる逆行ハイタカ)は、どこか違うところで上昇気流を見つけてここまで来たようで、初めから高い高度で渡って行きました。この先、九州から朝鮮半島を北上して、その先どこまで行くのでしょうか。
10時半過ぎからは、東行きのハイタカが出始めました。伊勢湾を横断してやっとの到着ですので、飛行中に高度が下がり、みな低く飛んできました。西方向へ高く渡っていくハイタカと東方向へ低く渡っていくハイタカは、区別も付きやすく、けっこう楽しめました。
11時20分までの4時間の合計で、西行きハイタカ13羽、東行きハイタカ5羽、ノスリ2羽(西へ1羽、北へ1羽)。この日はサシバは出ませんでした。
伊勢湾を北上する貨物船と南下する貨物船が行き交い、伊勢湾を西に向かうハイタカと東に向かうハイタカが行き交う姿をのんびりと見ていると、海の向こうの紀伊半島の連なる山々が目に焼き付いてきました。
(Uploaded on 10 April 2012)
2012年2月11日、先週のコチョウゲンボウはどうしているのかなと思って、再び愛知県Y川の河口にある干拓地へ出かけました。例の土山は収穫したが捨てられるニンジンの山になっており、コチョウゲンボウがとまるには不向きな状態でした。
♀タイプのチョウゲンボウが1羽現れて、軽やかな飛行を何度も繰り返していましたが、コチョウゲンボウはなかなか現れませんでした。車で探しまわることをやめて、コチョウゲンボウのとまりそうな木の近くに車を止めて待つことにしました。すると、運が良いことに、たった10分後の10時26分、コチョウゲンボウが東のほうから低く飛んできて、目の前の木の枝にとまりました。すると、こんどは数秒もたたないうちに、私の車の左側後ろから車との距離2メートルほどの所を通って、ハイタカがこの木の近くにある溝の橋板の上にとまりました。下の写真のように、2羽を比べながら同時に見ることができました。
コチョウゲンボウは♂の成鳥ではない型で、向こうを向いています。ハイタカは幼鳥で木の方を向いてゴソゴソしています。10時29分、コチョウゲンボウは頭を前後にクックッとした後、向こうの耕地に飛んでいきました。オオジュリンらしき小鳥が4羽飛び立ちましたが、狩りには失敗し、逃げられました。すると、その後すぐ、10時30分に、今までコチョウゲンボウがいた木にハイタカがスーッと飛んでとまりました。とまるやいなや、すぐにハシボソガラス3羽がやってきて、ハイタカを追い立てました。ハイタカは木からおりて、下のニンジン畑の畝(うね)と畝の間に隠れました。ところが、カラスはさらに追い立てようとしてちょっかいを出し、ハイタカは飛び立って堤防の南にあるアシ原の方へ行ってしまいました。
ハシボソガラスのコチョウゲンボウに対する態度と、ハイタカに対する態度はまったく違っていました。ハイタカは干拓地で見かけることは比較的少ないので、カラスの態度が違うのでしょうか。それとも、カラスはハイタカには特別な執着心や警戒心を持っているのでしょうか。
(余談)
この日はハイイロチュウヒの♂成鳥がでました。私は少し離れたやや高い道路上で観察していましたが、耕地におりた1羽を取り囲むように、あっという間に車が6台集まってきました。そしてハイイロチュウヒの間近に超望遠レンズが何本もニョキニョキと出てきました。干拓地ではよく見かける光景ですし、非難するつもりは全然ありませんが、でも、これではハイイロチュウヒはほんとうの生態を見せてはくれません。なんとなくしらけてしまって、早めに帰路につきました。帰りに海の近くの小さな魚屋さんでトラハゼの三枚開きを買って、家で天ぷらにしたら、ほんとうに美味しかったです。
(Uploaded on 20 February 2012)
私は小形のタカではツミやハイタカ、コチョウゲンボウなどに、中型のタカではオオタカやハヤブサなどの、飛行能力や狩りの能力に優れているタカ類・ハヤブサ類に興味があります。このうち、ツミ・ハイタカ・オオタカなどのハイタカ属の渡りは、サシバやハチクマの渡りが終わってからピークを迎えます。愛知県では、ツミは10月下旬、ハイタカは11月上旬~中旬くらいがピークと思われます。しかし、その後、いつまでハイタカの渡りは続くのでしょうか。
アメリカ合衆国ペンシルバニア州にある「ホークマウンテン」は、タカの渡り観察の先駆的なポイントで、なんと76年前の1934年(昭和9年)から、8月~12月の毎日、カウントが続けられてきました。1943~1945年だけは第2次世界大戦のため休止しています。その報告書、『Feathers in the Wind』(1973年) や『The Mountain and the Migration』(1986年・1991年)では、ハイタカ属の渡りは、次のようになっています。
〇 Sharp-shinned hawk ( Accipiter striatus 標準和名 アシボソハイタカ)
(日本のツミに相当するような地位にあるタカです) 8月上旬から少数が渡りはじめ、8月下旬から11月初旬まで渡るが、少数は12月初旬まで渡る。ピークは10月中旬。
〇 Cooper's hawk ( Accipiter cooperii 標準和名 ヒメオオタカ、旧名 クーパーハイタカ)
(日本のハイタカに相当するような地位にあるタカです) 8月中旬から少数が渡りはじめ、9月中旬から11月中旬まで渡るが、少数は12月初旬まで渡る。ピークは10月中旬。
〇 Northern goshawk ( Accipiter gentilis 標準和名 オオタカ)
(日本のオオタカと亜種の違いがあるだけです) 9月中旬から少数が渡りはじめ、10月初旬から12月初旬まで渡るが、少数は12月中旬まで渡る。ピークは11月中旬。
日本とアメリカでは、当然、渡りの様相がちがうはずですが、アメリカでもけっこう長い期間にわたって、年末遅くまで渡りが続いていることが分かります。
私はここ数年、11月から12月にかけて、愛知県のあるタカの渡りポイントに通っています。もちろん休日しか行けませんが、それでも、渡りの全体像の一部がおぼろげに分かってきます。結論を先に言うと、「年によって多少違いはありますが、愛知県では、11月いっぱいまで、ハイタカ・ツミ・ノスリ等が、数は少ないが渡っている」といえそうです。「東行ハイタカ」つまり逆に行く個体もいるので、観察地点での、「居付きのタカ」と「渡りのタカ」の区別がつかないときが多いのですが、
・ 同じ「居付き」といっても長く同じ個体が居付く場合がある、
・ 2~3日同じ個体がいて、その後違う個体に替わっていることも多い
・ まったく新しい個体がひょっこり現れて居付くものもいる ようです。
この新しい個体が、渡りの途中の個体なのか、居付く場所を変えている最中の個体なのかは、なかなか分かりません。しっかり写真を撮って個体識別をすれば、ある程度分かってくるのではないでしょうか。
幸いなことに、ハイタカは体下面の模様に多くのバリエーションがみられます。特に幼鳥は、以前からこのHPにも書いているように、胸のもようがハート型、Y字型、三日月型、ブーメラン型、(雨の)しずく型、成鳥と同じ横斑型(間隔は粗い)、ツミ幼鳥のような縦斑型…などのようにすべて違います。また、色も白から、赤いものや茶色いものなど実にさまざまです。
オス成鳥は赤い部分や茶色い部分の割合や濃さが皆ちがいますので、識別に役立ちます。
メス成鳥は胸や腹が白くてその横斑が細かく、同じような色やもようの個体が多いですので、風切羽の欠損を見るしかないようですが、それでも赤茶色の個体もいます。うまく写真が撮れれば、かなり、様子が分かってくるものと思われます。
(Uploaded on 12 December 2010)
ハイタカ幼鳥の体下面のもようについては、今まで何回も記述してきました。ハート型、Y字型、三日月型、ブーメラン型、(雨の)しずく型、成鳥と同じ横斑型(間隔は粗い)、ツミ幼鳥のような縦斑型…などです。しかしこれらはほとんどが胸の部分のもようでした。おなかの部分は、粗いながらも横斑でした。
下の写真の個体は、胸だけではなく、腹の部分まで、「ごちゃごちゃした」もようになっています。西から現れて東に行きましたので、いわゆる「東行ハイタカ」「逆行ハイタカ」で、大陸からきた幼鳥の可能性が高いようです。こういう個体がいると、ハイタカ観察の楽しみがますます増えます。
Canon EOS30D、 EF400mmF5.6、ISO400、EV+1と3分の2、AVモードで撮影。2010年11月6日午前8時03分、愛知県にて撮影。
(Uploaded on 13 November 2010)
世の中は寅年ですが、私は今年もタカ年です。年賀状には毎年タカの写真を印刷しています。今年の写真には、下のハイタカを使いました。「初冬のタカ渡り」の時期に渡っていったハイタカです。
ツミとの相違点の一番は翼の先の丸みでしょう。ツミは翼先がややとがったような印象を受けます。翼先突出数が一枚違うだけで、ハイタカはこれだけ翼先に丸みを帯びてきます。たった一枚の差が大きな違いになって表れてきます。
先回、ハイタカを方言で「はやぶさ」と呼ぶ地域があると書きました。ハイタカとハヤブサを混同したりまちがえたりしていたのでしょうか。ハヤブサは下の写真のように、翼先突出数がゼロです。というよりも、そもそも翼先突出数という概念がありません。
一枚でもツミとハイタカの違いがあります。ハイタカとハヤブサでは5枚と0枚で五枚の差ですから、いくら双眼鏡のない時代でも、ハイタカとハヤブサをまちがえたということはなかったでしょう。昔はテレビもケータイもゲーム機もなかったからでしょうか、昔の人たちは、身の回りの自然を実によく見ていたようです。その観察眼の鋭さにびっくりするようなことが、命名一つとってもよくあります。鳥だけでなく、植物も他の動物もじっくり生態を観察しないと付けられないようないい名前ばかりです。
今年も地域に根ざして、ありのままの自然をじっくり見ていきたいと思っています。昔の人に負けないようにはいきませんが…。
(Uploaded on 1 January 2010)
2009年11月28日、自宅から車で数分のところにある雑木林へ行きました。ここはため池があり、植林された樹木がまったくないので紅葉が実に美しいところです。目の前で次から次へと落ちていく葉を踏みしめながら歩くのは気持ちがいいものです。ただ、今年は松枯れに続いて、カシの木がところどころ枯れているのがたいへん気になります。
この日、ハイタカがほぼ同時に3羽現れました。♂成鳥と思われる赤っぽい1羽が旋回後急降下したすぐ後に、上空で幼鳥2羽が同時に旋回していました。成鳥がねらっていたのは種不明の小鳥でした。池の向こうの樹冠のあたりまで急降下したその先でフラフラッと飛ぶ小鳥を確認しましたが、つかんだのかどうかは分かりませんでした。その後に上空にいた2羽も、1羽は北へ、続いてもう1羽は南へと急降下していきました。この2羽は2羽とも狩りに失敗したようで、程なく2羽とも上空に現れました。
今までの私の経験では、ハイタカは実によく急降下するものです。双眼鏡を持っていなくて、オオタカかハイタカかツミか分からないような個体でも、急降下するところが見られれば、まずはハイタカと言ってもいいほどです。方言でハイタカのことを「はやぶさ」と言っている地方がありますが、よく観察しているなと思います。
短いウォッチングでしたが、3羽が、池の西へ、北へ、南へと急降下するところが見られた楽しい一時でした。
(Uploaded on 28 November 2009)
下の写真は、ハイタカです。
逆光で現れたため、見送り写真になってしまいましたが、数枚シャッターを切ることができました。ハイタカの幼鳥です。ハイタカの個体差については今まで何度も書いてきましたが、このハイタカもどこか、「普通の」ハイタカとは違うように感じます。
1 のどに、薄いながらもツミに見られるような正中線があり、胸の上部がたて斑になっている。
2 下初列大雨覆および次列大雨覆の斑がツミのように粗い。
という2点です。標準的なハイタカは数が少ないと言ってもいいくらい、ハイタカには個体差があるようです。これからも、ハイタカの斑の個体差にこだわって観察したいと思っています。
(Uploaded on 3 November 2009)
2008年12月20日、愛知県内でタカ類を観察しに行きました。
タカ類の観察記録は以下の通りです。
2008.12.20(土) 7:15~11:20 愛知県内 晴一部うす曇り 弱い北西の風
ハイタカ3~4 オオタカ幼鳥1 ノスリ4(2羽は秋の渡りのコースを通過)
ハヤブサ幼鳥1(獲物を持って飛ぶ) トビ3
今日も、ハイタカ目当てでした。同じ個体が何度も出たので退屈はしませんでしたが、もう渡る個体はいないようです。つまり越冬個体ばかりのようです。観察を始めたばかりの7時30分に、獲物を持った小さなハイタカ (たぶんオス幼鳥)が、目の前の木と木の間を低く、近く、スーッと飛んでいきました。獲物は、メジロくらいの大きさでした (食べかけの獲物なら違う小鳥かもしれません)。このハイタカは、林の中に突っ込んだ後、二度と現れませんでした。その5分後の7時35分には、目の前数メートルの近さ、高さ2メートルほどの低さを別のハイタカが飛びました。瞬間、メスの幼鳥!と思いましたが、あまりに近くで急だったので、確信は持てませんでした。
さて、この日、変わったハイタカが1羽出ました。右足の付け根か脇腹のあたりがふくらんだ個体です。下の写真のようなふうです。病気なのか、ケガなのか、どういうわけかよく分かりませんでした。
8月の終わりから12月末まで、4ヶ月にわたって継続的にすすめてきたタカの渡り観察。勤務の都合で、土曜日・日曜日の、しかも仕事の入らない日で、天気の良い日しか観察できませんでしたが、いろいろなことがあった楽しい4ヶ月でした。
(Uploaded on 20 December 2008)
「明日は、どこへ行くの?」
「タカの渡りを見に行くよ」
「12月中旬にもなって、まだタカが渡るの?」
「あまり多くないけど、多少は渡ったり移動したりするよ」
2008年12月13日、前日に同僚とこんな会話をしながら、「でも、もう遅いから、そんなにたくさんは飛ばないだろうな」 と、自分でも心細く思いつつ、「のんびり半日を過ごせばいいや」 という程度の思いで、「師走のタカ渡り」 第2回をスタートさせました。ツグミ30羽くらいの群れや、40羽前後のヒヨドリ数群の群れで、朝からにぎやかでした。ヒヨドリは、いったんは集合して、200羽くらいの一団になって岬の周りを回りました。渡っていったのかどうかは、残念ながら確認できませんでした。
タカ類の観察記録は以下の通りです。渡り個体かただの移動個体か、居つき個体か、区別できないものが多いです。
2008.12.13(土) 7:30~11:30 愛知県内 快晴 ひじょうに弱い北西の風
ハイタカ10数回出現(重複あるかも) ツミ2(海を渡る) オオタカ2(1羽は♂成鳥、1羽は海の方向へ移動) ノスリ5(3羽は海を渡る) ハヤブサ1(行ったり来たり) トビ4(海を渡らず)
このうちの中心はなんといっても、ハイタカです。午前8時から10時にかけては、同じ個体の出現を含めてハイタカがよく出ました。なかには、比較的低いところを飛ぶ個体もいましたので、じっくりと楽しめました。10数回出現ということなので何羽いたのかは正確には分かりませんが、そのうが膨らんだハイタカ、オス成鳥のハイタカ、横斑のひじょうに細かいハイタカ、同時に4羽出たハイタカ、下雨覆などがやけに白いハイタカ等々、可能な限り個体差を気にしながらのカウントですので、数羽出現したことになります。行動だけを見ていると、ほぼ定着した個体のように思います。
他に楽しめたのは、近くを通過したオオタカ。7時50分頃に、私が立っていた脇にある木の高さほど、私の目の前10メートルほどを、左から右へスーッと飛んでいきました。背中が灰色っぽくて、小さな、オオタカのオス成鳥でした。肉眼で、横斑の細かさがはっきり見えました。11時10分頃には、このオオタカに近いコースを、ハイタカのメス幼鳥が飛びました。これも低かったので、あまりの近さにびっくりしました。ともに、一瞬のことで、写真なんかとても撮れませんでした。
この日のハイタカ Accipiter nisus の写真を数枚載せます。
(Uploaded on 13 December 2008)
2008年12月6日、「師走のタカ渡り」 ということで、3人のハイタカ好きが愛知県内に集まって、タカの渡りを観察しました。今回も、先々週や先週と同じで、ピンポイントのハイタカねらいです。朝、氷点下までは冷えなかったのですが、風速10メートル弱の北西の風が強く吹き続け、一時は、10メートル以上の風も吹きました。立ち上がった時には、置いてあったリクライニングチェアーが計3回も風に吹き飛ばされました。こんな寒さに凍えながらイスに座ってタカを見るのも、考えてみれば、なんか変な感じです。日焼け止めが必要なくらいの、炎天下の9月初めと比べて、ほんとうに大きな違いです。
さて、今日はハイタカが8回出現しました。逆行きと思われる個体も出ましたが、強風のせいで、急に方向を変えたり、岬の周りをぐるっと回ったり急降下をしたりして、渡っていったのかどうか正確には分かりませんでした。すでにこの周辺に居付いて越冬を始めた個体がいますので、同じものを重複して数えているかもしれません。前回の記事で、急降下の写真を載せましたが、その時よりは、少しまともな写真が撮れましたので、下に載せます。
さて、この急降下時に、モータードライブで約10枚の写真を撮りましたが、一つ気がついたことがありました。10枚の写真を順番に見ていくと、進行方向に向かって、キリを揉むように、右回りに90度くらい回転していたのです。そのままの姿勢で突っ込んでいくと思っていましたが、よく考えてみれば、体の向きが途中で変わるのは、当たり前のことでしょう。向きを変えずに突っ込むことのほうが少ないのかもしれません。
別のハイタカの写真も撮りましたが、いつも書いているように、幼鳥で、胸の斑が変わったものが1羽出ました。この幼鳥の胸の模様は、いかり(船の錨)の形によく似ています。ほんとうに、ハイタカ幼鳥の胸の斑のバリエーションはおもしろいと思います。ますます、ハイタカにのめり込みそうです。
この日の観察記録(愛知県) 渡り個体か定着した個体か区別がつきにくいです。
2008.12.6(土) 7:10~11:40 快晴 北西の風がひじょうに強い
ハイタカ8回出現 ノスリ8回出現 ミサゴ3回出現 ハヤブサ1 チョウゲンボウ1 トビ5
(Uploaded on 6 December 2008)
さて、11月22日、この日はハイタカが13回出現しました。逆行き(東行き)は2羽でした。居付いたハイタカもいますので、同じものを重複して数えているかもしれません。ハイタカは渡りの途中でも、下の写真のように、よく急降下をします。写真以上に、実際は、ハヤブサの急降下と同じような逆三角形になって落ちていきます。でも、私の近くで急降下しないので、いつも小さくてぼけたような写真になってしまいます。
さて、この日、幼鳥で、胸がツミ幼鳥のような縦斑のハイタカが1羽出ました。胸だけしか見ないとツミとまちがえそうです。以前から書いていますが、ハイタカ幼鳥の胸の斑は実にさまざまで、一つの論文が書けそうなくらいです。
観察記録(愛知県)
2008.11.22(土) 7:30~11:30 晴れ時々曇り 風ややあり 朝の最低気温2度C
ハイタカ13回出現(居付きを重複して数えた可能性があります) ツミ3 ノスリ8 ミサゴ2 ハヤブサJ1 トビ4
部分白化のカラスが1羽通過しました。
2008.11.23(日) 7:35~11:00 うす曇り時々晴れ 風まったく無し
ハイタカ2回出現(内1はメス成鳥) ノスリ2 ミサゴ2 トビ5
風がまったくなく、日差しもなかったので、上昇気流ができず、タカが少なかったのでしょう。
(Uploaded on 23 November 2008)
前回紹介した「ツミ幼鳥にそっくりなハイタカ」とは別個体のハイタカの写真を撮りました。
この個体の胸の部分をトリミングして、少しだけ明るく補正したのが下の写真です。
ハイタカ♂成鳥ののどには、あまり目立ちませんが、細かい縦斑があります。♂成鳥以外のハイタカにはのどに細かい縦斑がはっきりとたくさんあります。
のどではなく、胸にツミ幼鳥のような何本かの太い縦斑が見られるハイタカもいます。今まで、胸に太い縦斑のあるハイタカは少ないのではないかと思っていましたが、こうして、たくさん写真を撮ってみると、縦斑の大きさは別として、胸に縦斑を持つハイタカ幼鳥は意外に多いようです。
(Uploaded on 26 November 2007)
前回の記事「クロサシバ」の中でもふれたように、ハイタカの幼鳥の胸の模様は実に様々で、ハート型、Y字型、三日月型、ブーメラン型、(雨の)しずく型、成鳥と同じ横斑型(間隔は粗い)、ツミ幼鳥のような縦斑型…などがあります。
先日、左目次の「タカ類全般」の中の「私から見た タカ類・ハヤブサ類の『いい写真』」でも紹介したハイタカと同じような、ツミそっくりなハイタカを、愛知県内で観察しました。
上の写真は2007年11月3日に愛知県内にて観察、撮影したものです。確かにハイタカなのですが、
① ツミにはあるが、普通のハイタカには見られない、のどの正中線が明確に1本ある。
② ハイタカには珍しく、胸部にツミ幼鳥のような縦斑が数本ある。
③ 腹部の横斑はハイタカの幼鳥らしく粗いが、脇腹を中心にその粗さがツミ幼鳥のように、かなり粗い。
羽ばたきやシルエットはまさにハイタカのそれでしたが、初列風切の翼先突出数が6枚確認できなかったら、ツミと間違えていたのかもしれません。ハイタカは実におもしろいです。
(Uploaded on 5 November 2007)
2006年1月15日、愛知県内の干拓地へ、コチョウゲンボウを見に行きました。いつものように日の出前に現地到着。朝のうち少し風がありましたが、穏やかな暖かい日になりました。この干拓地は、ハイイロチュウヒの♂成鳥がいつも見られるということもあって、今日も遠く県外からの車が数台ありました。
ノスリ、チュウヒ、ハイイロチュウヒ♂A、ハイタカ♀J、コチョウゲンボウ♀ or J、トビを見て、9時50分。一休みをするために、スズメ200羽くらいの群れの近くに車を止めました。運がよければ、コチョウゲンボウがスズメの群れに突っ込まないかな、または、塀の死角を利用してオオタカが隠密接近をしてフワッと上から突っ込まないかな、などと勝手な期待をしながら待つことにしました。すると、なんとラッキーなことに、その5分後(たった5分後です!)、9時55分に、アスファルト上の小さな水たまりで水浴びを始めたばかりの数羽のスズメに、タカが右から左へ、弾丸のように、低い角度で突っ込みました。肉眼で見ていましたので、コチョウゲンボウにしては大きいなと思いましたが、ハイタカという選択肢はこの時は頭になく、アレレ?という感じでした。スズメを足につかんで、下の写真のように、クイックターンで倉庫の中へ、開いた窓から入って戻っていきました。この間、ほんの5~6秒でした(実際はもっと短い時間か?)。
すぐに倉庫をのぞきにいくと逃げるだろうと思い、5分間待つことにしました。こういう時の5分間というのは、けっこう長いものです。10時ちょうど、忍び足で近づき、そっと倉庫の中をのぞくと、下の写真のように、スズメの羽毛を一生懸命むしって食べていました(コンパクトデジカメIXYで撮影)。やはりコチョウゲンボウではなく、それはハイタカの♀幼鳥でした。
今年は、愛知県ではハイタカがひじょうに多く、各地でしばしば見ることができます。このハイタカも、生まれてまだ数ヶ月しかたっていないのに、すごく賢いです。それは、
(1) スズメの警戒心が薄れている水浴びの時に
(2) 倉庫の破れた窓から不意打ちのように、群れに突っ込んで
(3) 人がのぞくこともないと思われる倉庫の中に戻り
(4) カラスにもじゃまされないように最後まで食べる
(5) この狩りを、ほんの5~6秒でやってのける (この一部始終を誰にも気づかれず、誰にも見られずに!)
さすがです。感心しました。「幼鳥なのに」と言うべきか、「幼鳥だからこんな大胆なことができる」と言ったほうがよいのか、どちらか分かりません。とにかく、いいところを見ることができました。
(Uploaded on 15 January 2006)
2003年10月25日、琵琶湖の北側(滋賀県北部)にある横山岳で、正午前後の短い時間に、東行のハイタカを続けて17羽も見てから、日本列島のどのあたりまで東行ハイタカが渡っていっているのか、ますます興味が深くなりました。私はこの3年ほどは、愛知県瀬戸市定光寺にある定光寺野外活動センターで渡りの観察をしていますが、ここでも10月中旬から時々、東行のハイタカを見かけます。
定光寺の東行ハイタカは、次のような特徴があります。
〇 定光寺を通過するサシバ・ハチクマなどのタカや西行ハイタカは主に東から西へ、南東から北西へと渡っていきますが、東行ハイタカはこれとは正反対に、西から東へ渡っていきます。
〇 定光寺の西側にある濃尾平野を通過してくる間に飛行高度が下がってしまいますので、定光寺付近では比較的低い高度で羽ばたきながら現れます。そして、私の近くを低い高度で通過し、東の方へ行ってから旋回上昇し、十分な高度をとって、一気に東へ渡っていきます。
この2点から、壷取りの(居ついた)ハイタカや、気象条件が悪くて渡りきれずに戻ってきた西行ハイタカとは明らかな違いがあります。
東行ハイタカは、多くのタカ類が飛ぶ方向と反対の方向へ飛ぶので、観察者にとって軽い興奮があり、楽しいものです。また、渡りに色を添えてくれる気がします。ただ、風の強さ等、さまざまな条件が良くないと西行き個体か東行き個体かが分からない日も多くあります。観察地点の周りの地形や近くにある樹木の大きさ等によっても西行きか東行きかが分かりづらい観察ポイントがあるでしょう。
先日の(05年)10月23日、瀬戸市定光寺で、東からやってきたツミと西からやってきたハイタカが同じ場所で上昇気流を捉え、連星のように(主星がハイタカで、伴星がツミ)旋回上昇し、十分に高度をとったところでツミは西へ、ハイタカは東へと、正反対にスーッと滑空しながら渡っていきました。本当は西行き個体か東行き個体かという渡りの向きは正確には判断できないはずですが、ダイナミックな渡りの立体感とスケールの大きさを感じることができました。
愛知県では、♀のハイタカと思われるのにかなり赤い、または赤茶色っぽい個体がいます。♂と思われる個体でも異常なほど下面のほぼ全体が赤く見える個体がいます。日本で繁殖するハイタカの写真を今までに見た限りでは、このような赤茶色の部分が多い♂成鳥はどうも繁殖していないようですので、これらは大陸から渡ってきた個体ではないかと思っています(推測)。
西日本ではかなりの数の東行ハイタカが見られますが、愛知県でもかなりの数のハイタカが「東行」しています。年によって違いがあるでしょうが、どの程度の数のハイタカが、どのあたりまで東方へ渡っていっているのか、たいへん興味があります。
(Uploaded on 26 October 2005)
タカ類の秋の渡りでは、一般的に、タカは日本列島を北から南へ、東から西へ移動します。カムチャツカ、サハリン方面から日本へ移動し、暖かい地域へ行くためには当然の方向になります。私が住んでいる愛知県でも、ほとんどのタカがおおよそ西方向へ移動していきます。
しかし、朝鮮半島から渡ってきたタカ類は、その方向がこれとは逆になります。つまり、九州から四国あるいは中国地方へ、そして近畿地方へという方向になります。南へ、西へという移動が多いなか、その反対方向への移動になりますので「逆行」と言っています。ほんとうは、どちらが「順」で、どちらが「逆」ということはありませんが、勝手にそう付けています。
さて、2003年10月25日、琵琶湖の北側(滋賀県北部)にある横山岳へ行き、渡りを観察しました。午前10時45分から午後1時00分までの2時間15分という短い時間でしたが、その間にハイタカが18羽出ました。うち1羽は南西へ渡っていきましたが、17羽は西南西から来て、東北東へ渡っていきました。すなわち、「逆行」です。この日は、快晴で風が弱く、ハイタカの他にクマタカが現れ、ツミ、ノスリ、トビが渡っていきました。
トビについては渡りを記録しない方がいらっしゃいますが、トビも渡っていきますので、ぜひ記録をとられることをおすすめします。
2003年11月2日、伊良湖岬でも、何羽かのハイタカが東へ渡っていきました。午前中の観察で、少しのブランク(トイレ休憩や雑用など)がありましたので、記録が抜けていて、正確なカウントではないですが、それでも西行きのハイタカが8羽、東行きのハイタカが6羽でした。岬まで飛んで行って、渡りきれず、引き返した個体もいるでしょうが、東行きのハイタカも、明らかに「渡っている」という飛び方でした。高度は「順」よりも「逆」のほうが低かったです。それに、東行きのハイタカの中に体下面がはっきりと赤茶色に見える個体がいましたが、その個体は、朝からそれまでの時間には西へ向かって行かなかった個体ですので、「引き返し個体」とは考えにくいものです。ノスリの逆行も見ました。これは引き返しの個体が多いのですが、中には、ある程度の高度をあまり羽ばたかずに、まさに移動しているという感じで飛んでいきます。
ハイタカとツミ、ノスリの逆方向への飛行は、今年、私が観察している愛知県瀬戸市でも見ています。ここでは飛来方向から旋回上昇、飛去方向まで詳しく地図に落として観察していますので、ノスリ、ツミの逆方向移動も確かです。
ただし、ハイタカやツミはハンティングをしながら渡る個体が多く、その時の狩りの都合で逆向きと思われる方向へ飛んでいくことがしばしばあります。そうすると、100%確実に「逆向きである」とは言いがたい場合が出てきます。数100mにわたり東向きに狩りをしながら飛んだが、もっと大きなスケールで見てみるとこの個体は実は西行きの個体だったという場合もあり得るでしょう。北海道から東北、関東などを南下し、日本列島を南へ西へ進む個体群と、朝鮮半島を南下し九州などを通って、日本列島を東へ進む個体群が確かにいます。しかし、今目の前で、自分が観察しているその1羽のハイタカが「西行き個体」か「東行き個体」かを正確に判断することは、実はなかなか難しいものです。
ノスリについても、渡りの時期の早いうちにすでに越冬地を決めてしまい、西へ東へと動いている個体がいます。そうすると、渡り個体なのか短い距離を獲物探索のために移動中の個体なのかはなかなか判断しづらいものです。ましてやノスリの西行き個体?東行き個体?は判断できません。
九州、四国、中国、近畿地方は当然ですが、愛知県でも確実に「東行」ハイタカはいます。さらにその先、どの程度まで東へ、あるいは北へ、ハイタカは「東行」しているのでしょうか。中部地方、関東地方、東北地方にお住みの方でデータをお持ちの方は、ぜひ公開してください。
(Uploaded on 4 November 2003)
タカ類は小鳥類に比べて一般に体が大きいからでしょうか、ひじょうに個体差が目立ちます。特に、体の大きさ、色、模様については個体によって、かなりの違いがあります。例えば、オオタカの背面の色は、同じ性、年齢であっても茶色いものから紺色、黒っぽい色のものまで実に様々です。
このため、タカ類の識別法は小鳥類の識別法とは別に考える必要があります。そして、タカ類の識別は主に、飛翔のシルエットで考えるべきです。色や模様も当然役には立ちますが、補助的に考えることになります。
下記のように、ツミとハイタカの識別ポイントを表にしてみました。
1 ツミとハイタカの飛行の特徴
特 徴 | ツ ミ | ハ イ タ カ |
飛翔の印象 | 小気味よい飛び方。闘争的で気が強そうな飛び方 | ヒラヒラとかパタパタとした印象を受けることが多い |
羽ばたき | 翼の上げ下ろしが激しく、深い | 翼の上げ下ろしがツミよりは浅い |
飛行の経路 | パタパタパタパタと羽ばたいてスッと滑空するという繰り返しが多い | パタパタと羽ばたいてスーーッと長く滑空するという繰り返しが多い |
急降下 | あまり多くは見かけない | かなりひんぱんに見かける |
2 「遠く」、「やや遠く」 を飛んでいる時の識別
特 徴 | ツ ミ | ハ イ タ カ |
大きさ | ♂はかなり小さい | ♀はかなり大きい |
尾の長さ | 尾は体長との比率がハイタカより短い | 尾は体長との比率がツミより長い。雌幼鳥はさらに長い |
尾の先 | 軽くふくらんでいる、または中央が軽くくぼんでいる | 雄成鳥は角形で尾先が一直線にカットされている。幼鳥ではある程度丸みがある |
翼の先 | ハイタカより尖って見える | ツミよりかなり丸みを帯びて見える |
3 「比較的近く」 を飛行、または観察条件のよい時の識別(一部、写真判定を含む)
特 徴 | ツ ミ | ハ イ タ カ |
のどの正中線 | 一本はっきり見える個体が多い | 正中線はないか、稀にあってもかなり細い |
体下面の色 | ♂成鳥にほのかに赤い個体がいるが、あまり目立たない | ♀成鳥の一部と♂成鳥、幼鳥にかなり赤い個体がいる |
幼鳥 | 胸に粗く目立つ縦斑がある | 一部の幼鳥にしか胸の縦斑はない |
眉斑 | あまり目立たない、または、ない | 幼鳥を中心として目立つことがある |
初列風切、次列風切の鷹斑 | 斑のコントラストは並 | 斑のコントラストがかなり強く、鷹斑が目立つ |
初列風切と初列下雨覆 | 双方の斑の幅が連続的である | 双方の斑の幅がはっきりと異なる |
翼先突出数 | 5枚 | 6枚 |
声 | ピョー、ピョー、ピョピョピョピョと音程、音量ともに尻下がりに鳴く | キィーキィーと鳴く |
以上、細かいことも含めて表にまとめてみました。木の枝等にとまっている時の識別はまた違います。
さて、近くで見ることができるのはたいていは一瞬のことですので、「ここを見よう」と決めておかないとなかなか多くの部分を見ることはできません。
例えば、尾の長さや飛び方から「ツミだ」と判断したら、近づいてきた時には、「胸の斑を見て、幼鳥か成鳥か識別しよう」と決める。また、同じように、尾の長さや翼の先の丸み、飛び方から「ハイタカだ」と直感したら、次は体下面の斑を見て、幼鳥か成鳥かを識別するとよいと思います。真横から見ることになったら、眉斑の太さを見よう!というのもいいでしょう。とにかく、条件がよくなければ、あまりたくさんのポイントを見ることはできないでしょう。
上の表には、色や模様のことを多く書きましたが、基本はやはり飛行中のシルエットです。
シルエットだけで判断すると、ツミとハイタカの識別よりも、ツミとオオタカの識別のほうが難しいと思います。今までも、距離感がつかめないような時に、一瞬、ツミなのかオオタカなのかよく分からないことがありました。特に、快晴の青空の日に、かなり高空をソアリングしているツミとオオタカは一瞬、錯覚してしまいます。
さて、観察時間が極端に短い場合、例えばほんの一瞬しか見えなかったという場合、ツミとハイタカとオオタカを正確に識別できるとは限りません。確実に断定できない時は、決して推測や当てずっぽう、あるいは「オオタカであって欲しい」などという期待感から種名を断定してしまうようなことはやめましょう。「クマタカに突っかかっていたので、これはきっとオオタカだろう」ということもやめましょう。サシバやハイタカでもクマタカに突っかかります。
私はハイタカだと思うけどハイタカと断言できない時には「ハイタカSP」と記録します。ここでいう 「ハイタカ」 は 「ハイタカ属」、 「SP」 は 「species(種)」 という意味で、「ハイタカSP」 は、つまり「ハイタカ属の種」ということになります。「ツミ属」 は存在しませんから、「ツミSP」 はありません。メモ帳には、「ハイタカ属」あるいは「ハイ属」「ハイSP」 と記録することもあります。
すべての種が識別されているデータよりも、「~SP」が記入されているデータのほうが信頼性がありそうです。また、一度流れた情報は勝手に一人歩きをしてしまうものですので、慎重に報告したほうがよいでしょう。
上の表、最初はツミ♂成鳥、ツミ♀成鳥、ツミ♂幼鳥、ツミ♀幼鳥、ハイタカ♂成鳥、ハイタカ♀成鳥、ハイタカ♂幼鳥、ハイタカ♀幼鳥の8つに分けて作り始めましたが、表がぐちゃぐちゃになってしまいましたので、簡略化しました。
(Uploaded on 19 October 2003)
尾が長くて、タカ類の中でも最もスタイルのよいタカであるハイタカは実に俊敏で、飛行性能が著しく優れています。オオタカ、ツミとはまた少し違った魅力を持っています。ハイタカの魅力について、ちょっと変わったことばかりですが、記述します。
▼ 虹彩が赤いハイタカ♂
細かいデータがすぐに出てこないのですが、15年ぐらい前、岐阜のある人から回り回って私の所へ電話があり、その内容はいくつか質問をした結果「全長30数cmで、虹彩や胸、腹が赤いタカの死体」とのこと。即刻いただきに行き、腐るといけないのですぐに本剥製にしました。虹彩はたくさんの色、大きさの義眼の中から一番よく似た色を選びました。オレンジでも黄色でも深紅色でもなく、ピンク色がかった赤色でした。今もこの剥製は仮剥製にして、自宅にあります。海外ではこのような色のハイタカの記録はあるそうですが、日本ではかなり珍しい記録になりました。『図鑑 日本のワシタカ類』のP123の右中央あたりをご参照ください。
▼ ♂成鳥そっくりの羽色の♀ハイタカ
写真をお見せすると、ハイタカにかなり詳しい人を除いて10人が10人とも「ハイタカの♂成鳥でしょう」と言われますが、実は♀であるという個体がいます。幼鳥の時から♂成鳥のように赤茶色っぽくて、成鳥になってからも♂成鳥そっくりです。前記図鑑のP121③、P132の個体によく似ています。個体差が大きいことで有名なハチクマやチュウヒだけでなく、タカ類・ハヤブサ類の個体差は我々の想像よりかなり激しいようです。黒田長禮氏は『日本の鷹類に関する科学的考察 第4篇 鷹類に見らるる個體的趨異』(宮内省編『放鷹』所蔵)で昭和6年にすでにツミ、ハイタカの個体差についても記述しています。
▼ ハイイロハイタカの記録
♀成鳥でも背中が薄く灰色に見えるというハイイロハイタカ。「種」と比較して「亜種」という概念が、いまひとつ明確にされていない部分があるのが現在の状況ですので、学者でもない私には何とも言えませんが、亜種ハイタカの「亜種ハイイロハイタカ」と認められようと、ハイタカの単なる「淡色形」であろうと、いわゆる個体差の範囲をかなり越えています。それくらい薄い灰色です。いずれにしても、実に気になる存在です。
▼ ハイタカは執拗に獲物を追う!
最近、ハイタカが小鳥を追うところをよく見ますが、かなり執拗に追い続けます。正月前に見たハイタカは、下図のように木の枝をぐるんぐるんと、ものすごい速度で回転するようにシジュウカラを追いかけました。枝に羽が当たる音がバシッバシッと聞こえてきました。
▼ ハイタカがハヤブサのように急降下した!
冬場は雑木林の上空で頻繁に急降下を繰り返し、小鳥の狩りをしているハイタカですが、原生林の深い山中で急降下するところを見ました。1996年5月3日、段戸山裏谷原生林の林道で小鳥類を観察中、北のほうから飛んできたハイタカが私の近くのモミの巨木の枝にとまりました。のんびりとしている様子をしばらく見ていたら、突然、伊良湖岬の先端でヒヨドリを狙うハヤブサのように急降下しました。翼をすぼめて紡錘形というか逆三角形になっての降下です。地面にぶつからずによく飛べるものだな…と思うほどのスピードでした。地上ぎりぎりの高さでホオジロくらいの大きさの小鳥を捕え、フワッと枝にとまりました。すぐ目の前の出来事でしたのでよけいにスピードを感じてしまったのでしょうが、でも、かなりの速度でした。そして枝の上で羽をむしって食べ始めました。
ハイタカを方言で「はやぶさ」と言っている地方がありますが、ひょっとしてこのように急降下をよくするからそう呼んでいるのか、と思いました。ハイタカは自分の飛行能力にかなりの自信があるようです。
(Uploaded on 30 October 1996)