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「クマタカ」 フォルダ の 目次
 更新月日  タ  イ  ト  ル
15.02.22  冠羽が長~い クマタカの幼鳥
14.03.17  クマタカ 雌雄識別のポイント (1)~(4)
14.04.07  クマタカ 雌雄識別のポイント (5)~(7)
12.08.21  日本の鷹隼類 環境省レッドリスト(5) クマタカ
06.02.04  クマタカのペアが 足をにぎり合って回転降下


冠羽が長~い クマタカの幼鳥


 冠羽が長いクマタカ幼鳥の画像が、2015年2月17日付けの ブログ「徒然鳥」 に掲載されています。筆者の了解を得ましたので、ここにご紹介します。



ブログ「徒然鳥」 2015. 2. 17 の画面

 

 撮影日は2015年2月16日です。撮影場所についてはここには書けませんが、本州のど真ん中付近です。

 ブログ「徒然鳥」のページを見るには、→【 徒然鳥 】 をクリックしてください。新しいウィンドウで表示したい時は、Shiftキーを押しながら左クリックしてください。

 このブログの中の写真をクリックすると大きな画像が見られ、さらに+印が出ますので左クリックすると、1,280×853ピクセルの画像を見ることができます。 

 

 森岡照明・叶内拓哉・川田隆・山形則男共著 『図鑑 日本のワシタカ類』 の記述には、「成鳥の後頭の羽毛は長くて冠羽状であり (ある雄では 29~32mm、ある雌では 40mm)、基部の白い部分が露出する。幼鳥の後頭の羽毛は長くて冠羽状であるが、成鳥ほど長くない (雌 29~31mm、別の雌 33mm)」 とあります。

 また、亜種については、基亜種で、カシミール地方、ヒマラヤ山麓、東南アジア北縁部、中国南部と東部、台湾、海南島に分布する Nisaetus nipalensis nipalensis と、インド最南部やスリランカに分布する亜種 kelaarti 、日本列島に分布する亜種 orientalis の3つに分類することが主流ですが、「日本に生息する orientalis 以外は、長くて明瞭な冠羽を持つ」 とも記述されています。確かに亜種としての違いはありますが、同じ種 Nisaetus nipalensis にしては、かなり大きな違いですね。

 私はこのような長い冠羽を持つクマタカの話を今まで3例ほど聞いたことがありますが、これだけくっきりと撮影された画像は珍しいです。

 

 参考までに、長い冠羽を持つ外国産のタカを2種紹介します。Grenys と Derek Lloyd 共著・高野伸二訳 「猛禽類」 (昭和48年、主婦と生活社発行) に掲載されている画をスキャンしました。


サハラ以南の森林等に分布するカンムリクマタカ

 


サハラ以南の草原等に分布するカンムリクロクマタカ (エボシクマタカ)

 

 なお、インターネット上には、冠羽がひじょうに長いクマタカの基亜種 Nisaetus nipalensis nipalensis の画像がたくさんアップされています。「Nisaetus nipalensis nipalensis」 あるいは、旧学名の「Spizaetus nipalensis nipalensis」 と入力して画像検索すれば、すぐに見られます。無断でここに掲載できないので、画像の表示は省略します。

(Uploaded on 22 February 2015)

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クマタカ 雌雄識別のポイント (1)~(4)


 まず、下の写真をごらんください。クマタカ成鳥の♀と♂です。

 クマタカは♂の方が♀よりも体が小さいので、♂の写真を、縦横の比率を保ったまま翼開長が同じになるまで拡大し、♀と♂が近づくように♂の位置を左に移動させてあります。ブログ「徒然鳥」の筆者の撮影による生態写真の合成写真です。なお、この2個体が雌雄(繁殖ペア)であることは、交尾している写真や、その他の生態写真で確認をしています。


クマタカ成鳥の♀と♂の比較。♂は縦横比を保ったまま拡大してあります(合成写真)。 

 

 さて、クマタカの雌雄識別の4つのポイントです。(1)~(3) は、成鳥同士でも幼鳥同士でも、どちらにもあてはまります。

(1) 胴体に比べて ♂は♀よりも頭部が大きい傾向にある
 これは、他のタカ類・ハヤブサ類にも一般的にあてはまることです。クマタカは他のタカに比べるとやや分かりにくいのですが、じっくり見ると、♂と♀の違いが分かります。胴体の大きさに比べて♂は頭部が相対的に大きく感じられます。これは、目視時でも写真判定時でも役に立ちます。

(2) 翼角よりも先の部分(翼先)が ♀の方が長い傾向にある
 胴体から翼角(小翼羽)までの長さ(A~B)と、翼角から翼先までの長さ(B~C)の比率を見ると、♂よりも♀の方が、翼先の部分の比率が大きくなっています。撮影した写真を見なくても、飛んでいるところを双眼鏡で目視するだけでも、この長さの違いは分かります。

(3) 翼後縁の膨らみは ♀の方が激しい傾向にある
 これも、他のタカ類・ハヤブサ類にもあてはまることです。一般的に、♀は♂よりも体が大きく体重が重いですので、上昇気流をとらえるためにはその分だけ翼面積を大きくする必要があります。そのため♀は、♂よりも翼長が長くなったり、♂よりも翼幅が広くなったりしています。クマタカについてもこれがあてはまり、♀は翼幅を広くするために次列風切・三列風切の後縁が大きく膨らんでいます。そのため、翼全体が幅広く見えます。

(4) (この項、抹消)
 以前の文章で、ここに、「尾羽の黒いバンドは ♂の方が太い傾向にある」 というタイトルで、「サシバ成鳥の尾羽の黒いバンドは♂の方が♀よりも太くなっていますが、これと同じことがクマタカ成鳥についても…」 と書きましたが、個体によっては、あるいは、ペアによっては、この傾向が逆転している、つまり、♀のほうが黒いバンド部分が太いことがありますので、この記事を抹消します。

 以上の4点ですが、上に記述したように、あくまでも 「傾向にある」 ということです。また、観察時あるいは写真撮影時の角度によっては判断が難しい時がありますので、一つだけの視点ではなく、複数のポイントから判断されるとよいかと思います。 

 識別の上達の秘訣は、実物を数多く長時間見ることですが、他のタカ類・ハヤブサ類と同じで、クマタカもなかなかそうはさせてくれません。代わりにいろんな写真を、例えば上の写真を30分くらいじっと見続けると、多くの場合、何かしらのインスピレーションが湧いてくるものです。クマタカの雌雄識別の(5)以降は次回に続きます。

(Uploaded on 17 March 2014.  5月21日第4項抹消)

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クマタカ 雌雄識別のポイント (5)~(7)


 前回の、「クマタカ 雌雄識別のポイント (1)~(4) 」 の続きです。ただし、(7) は十分に解明しきれていませんので、今後の注目ポイントとして参考までにお読みください。

 なお、クマタカは♂の方が♀よりも体が小さいので、♂の写真を、縦横の比率を保ったまま翼開長が同じになるまで拡大し、♀と♂が近づくように♂の位置を左に移動させてあります。ブログ「徒然鳥」の筆者の撮影による生態写真の合成写真です。なお、この2個体が雌雄(繁殖ペア)であることは、交尾している写真や、その他の生態写真で確認をしています。


クマタカ成鳥の♀と♂の比較。♂は縦横比を保ったまま拡大してあります(「徒然鳥」さんによる合成写真)。 

 

(5) ♂の翼先は♀よりも丸みが強い傾向にある
 初列風切の先端を結んだ線は、♂の場合、多くは丸みを帯びます(Rounded)。これに対して♀の場合、より角張った(Angulated)印象があります。

(6) ♀のP8~P5の先端を結んだ線は、直線的な傾向がある
 ♀のP8、P7、P6、P5のそれぞれの先端を結んだ3本の線分は上の写真のように、一本のまっすぐな線分のように見えることが多いです。♂よりも♀のほうがはるかにリニアー Linear な印象を受けます。

(7) 下雨覆と体下面に、ハイタカ成鳥の雌雄のような違いが見られることがある
 体下面と雨覆いの模様や色合いに雌雄で大きな違いが見られることがあります。ところが、これがまったく裏切られたことがありますので、今、確実なこととして断定的なことは言えないのですが、雌雄の新しい識別点を探っていくにあたり、これから注意して見ていくべきポイントだと思っています。特に、下中雨覆と下小雨覆が要注意ですので、みなさんの観察知見を教えていただけると幸いです。

(Uploaded on 7 April 2014)

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日本の鷹隼類 環境省レッドリスト(5) クマタカ


 亜種クマタカ Nisaetus nipalensis orientalis は2006年・2012年版の環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠB類 (EN…ⅠA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの) に指定されています。

 もう30数年前になりますが、岐阜県で初めてクマタカを見た時、その鷹斑の美しさと翼の後縁部の大きな膨らみに感動したことを今もよく覚えています。愛知県はクマタカの生息が比較的少ない県ですので、多くは県外での観察になります。


飛翔するクマタカ Nisaetus nipalensis orientalis 

 

 クマタカを観察していると、「ちょっと変わったタカだな」、「日本では異色のタカだな」 という感じがしてきました。まず最初に思ったことは、幼鳥が一人前になるまでにあまりにも長い時間を要するということです。生後、少なくとも1年は親の世話になり、食料をもらったりしています。もっと長い期間、親から食料をもらっている個体もあるそうです。この一番の理由は狩りの技術習得に時間がかかるからでしょうか。または、飛行技術の習得に時間がかかるからでしょうか。それとも、ただ単に、発育が遅いだけなのでしょうか。子育てに忙しいせいで、多くの成鳥の繁殖活動は1年おきのペースになっています。もちろん、毎年営巣する個体もいますが、その時はペアの片方がずっと子どもに食料をやっているようです。

 外国では、このような成熟に時間のかかるタカの例はジャングルに住む大型ワシ類で見られますが、日本の多くのタカ類では、巣立ち後、例えば3ヶ月程度もあれば、ほぼ親から独立するものが多いようです。ハチクマのようにもっとこの期間が短い種もいます。巣立ち後1ヶ月少々で、もう親子別々になって渡りをします。1年あるいは1年以上という期間はとても長い(長すぎる!) という印象です。

 日本には、カンムリワシのように、ふだんは比較的のんびりとした穏やかな生活をしているワシもいますので、クマタカに限った話ではないのですが、やはり何となく、「南方起源のタカ類」、「山から出てこないワシ」、「のんびりとしたワシ」 という感じがしますね。

 亜種クマタカが、なぜ環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠB類に指定されているかは、いろいろな理由があるようです。上に述べたような習性や性格的な点で「もろさ」 があるでしょうし、林業や開発による繁殖地への影響を受けやすいということもあるでしょう。

 亜種クマタカは、亜種オオタカよりもレッドリストのランクが2つ上になっています。私の住む愛知県ではオオタカのほうがクマタカよりも多く生息していますが、日本全国では逆転していて、クマタカのほうがオオタカよりも数は多いように推定されます。リストのランクを付けるにはいろんな意味での政治的な意味合いも含まれますので、今後、ランクが変わる可能性は大きいです。

    ◇

 江戸時代の将軍 ・ 公家は、クマタカを鷹狩りには使いませんでした。クマタカが捕るような獲物、例えばノウサギ、キジ、ヤマドリなどは、オオタカでも十分捕れますし、しかも、オオタカのほうが、狩りがずっとスマートで切れ味がうんとするどいからです。また、クマタカは体が大きいですので、鷹匠の与える餌に対する体重変化等の反応がにぶく、何をするにも時間がかかってしまいます。そして、決定的なのはこれだと思いますが、クマタカは黒頭巾をかぶったような顔つきで、オオタカに比べれば凜々しさや武家らしさが少なく、殿様や公家の前にはお出しできなかったそうです。

(Uploaded on 21 August 2012)

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クマタカのペアが 足をにぎり合って回転降下




両足をにぎり合ってらせんを描いて落下するハクトウワシのつがい

 

 上の図は、Grenys と Derek Lloyd共著・高野伸二訳「猛禽類」(昭和48年、主婦と生活社発行)のP162に掲載されているものです。ハクトウワシのペアが足をにぎり合って、くるくると回転しながら降下していくようすがよく描かれています。

 このような行動は今までにトビでしか見たことがなく、いずれ他のタカでも見たいものだと思っていました。幸運なことに、2006年1月28日に、岐阜県南部でクマタカ Nisaetus nipalensis のディスプレイ飛行を観察中、ペアが脚と脚を絡み合わせて、数十メートルをくるくると回転しながら降下するところを見ることができました。体の下面を上にして、ちょうどカエデの実が回転しながら落下するように、ヘリコプターのプロペラが回るように、そして、らせんを描くように垂直に落ちていきました。上の図のハクトウワシは個体どうしの体が離れていますが、今回見たクマタカは、尾羽どうしは完全に重なるほどくっついていました。また、翼と翼も少し重なりがあったか接するくらい近かったように見えました。



クマタカ Nisaetus nipalensis 1月28日のディスプレイのようす

 

 この日は風が冷たくて強い日でしたが、雲一つないさわやかな快晴でした。回転するタカ斑に陽が当たって、実にきれいに見えました。今も目に焼き付いています。降下の場所は大きな尾根のこちら側でしたが、小さな尾根の向こうの沢へ落ちたので、姿が見えなくなりました。そのまま地面か樹木に激突したのではないかと本気で心配してしまったほどの激しい降下でした。数分後、♂が♀を追いかけるように飛んでいるところを見て、ほっとしました。

 この日のクマタカは2羽とも実に活発に動きました。上のディスプレイの他に、

  ・ 2羽とも足を伸ばしながらの並び飛行
  ・ 並びながらの飛行中の突っかかり
  ・ Vの字の飛行
  ・ 尾羽を少し上げながらの飛行
  ・ ハヤブサのような紡錘形になっての急降下(オス)
  ・ ペアで並んでの止まり行動
  ・ 木の枝を嘴でくわえての飛行(3回)等

 ダイナミックなディスプレイ飛行や繁殖行動をかなり楽しむことができました。

 

 さて、なぜ回転しながら落ちていくのでしょうか? たとえば、宇宙空間ですべての天体は回転していますが、むしろ回転していないことのほうが特別です。というか、回転していない天体はないかもしれません。ちょっとした力が働けばすぐに回転し始め、摩擦がない世界ですので、いつまでも回転し続けることになります。これと同じで、クマタカも体が回転しないように翼を制御しないかぎり、回転してしまうのがごく普通だと思われます。2羽連結していますので、体勢を制御することは、きっと難しいでしょう。

(Uploaded on 4 February 2006)

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