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「サシバ」 フォルダ の 目次
 更新月日  タ  イ  ト  ル
22.09.21  サシバの部分暗色型(部分黒化個体)
21.08.14  サシバ暗色型 観察ガイド
17.03.10  春のタカ渡り サシバの移動速度
14.08.16  BIRDER 2014年9月号は サシバとハチクマ大特集!
14.04.20  タカ類が巣内ビナを食べる  (2) サシバ
13.09.22  フィールドガイド日本の猛禽類 vol.2 サシバ
12.09.15  サシバは マムシを食べても 大丈夫?
07.10.20  クロサシバ


サシバの部分暗色型(部分黒化個体)


 BIRDER 2021年9月号で「サシバ暗色型 観察ガイド」という原稿を執筆しましたが、手持ちの画像はシャープさに欠けるものばかりだったので、友人から高精細な画像を借用して紙面に載せました。その関係で、今年は手持ち画像として暗色型のクリアーな画像を何枚か撮ろうと思い、白樺峠へでかけました。県内の伊良湖岬や近隣でも撮れないことはないのですが、太平洋沿岸よりも山岳部あるいは日本海側の方が暗色型に出会える確率が高いので、白樺峠を選んだわけです( 追記 : … と言いながらも、9月21日には愛知県知多半島でサシバ暗色型を観察しました)。

 9月17日、ちょっと変わった初めて見る個体に出会いました。下の画像です。


部分的に褐黒色が見られるサシバ 長野県 9月 若杉撮影

 

 サシバ暗色型は体下面と両翼の下中・小雨覆が褐黒色で他の部分はほぼ一般型と同じような色・模様です。それに対して、この日出会った個体は体下面のほとんどは褐黒色ですが、下中・小雨覆は黒くなくて一般型そっくりです。つまりこの個体は暗色型の褐黒色部分のおよそ半分が褐黒色ですが他の部分はそうではないという、いわば一般型と暗色型のちょうど中間の色・模様をしています。中間だから「中間型」と呼んでもよいのですが、ハチクマの中間型というのはそういう意味とは違う意味(色の濃さが中くらいというような意味)で使われていますので、この個体の場合は「サシバ部分暗色型」あるいは「サシバ部分黒化個体」といったほうがよさそうです。

 体下面と顔のほとんどは褐黒色で、脇には一般型成鳥のような横斑があり、腋羽1~2枚が褐黒色でした。下中・小雨覆は一般型そっくりです。虹彩が黄色ですので、秋に黄色ということは成鳥と考えてよいでしょう(幼鳥の虹彩色の季節変化には要注意です)。

 この画像は今年(2022年)9月17日(土曜)午前10時42分に、たか見の広場で撮りました。私は 400mm F5.6 の短くて暗いレンズで撮っていました。真横からしか見えなかったものの、カメラのファインダーを覗いた時に体下面の黒い部分がはっきりと見えたので「これは暗色型だ」と確信してシャッターを切りましたが、黒いのは体の下面のみでした。

 この日は朝から湿度がかなり高くてピントがうまく来ないようなボケ画像ばかりで、上の画像程度のものしか撮れませんでしたが、たか見の広場には当時200名ぐらいのウォッチャーやカメラマンがおられたので、上の画像以上の精細な画像を撮られた方もおられることと思います。サシバが群れでたくさん飛んでいるとその中に暗色型個体がいるかどうかなかなか分からないことが多いですし、目線の高さや目線よりも低く飛ぶと下面が見にくいので暗色型だと分からないことが多いのですが、この個体はたった2羽で飛んだうちの1羽ですから、その気で暗色型を探しておられた方なら分かったかもしれません。広場の目の前の一番近い南北の谷を低いまま(上昇気流を捉えられず、高く上がれず)私たちの目線の高さぐらいを相前後して南へ飛んだ2羽のうちの2羽目です。多くの人がシャッターを切るほど近い距離ではなかったのですが、他にサシバもハチクマも何も飛んでいなかったので、この個体に注目された方もおられたかと思います。この個体を撮影された方は、ぜひメール添付で画像を送ってくださいませ。メールアドレスは、  です。 t の直前にアットマークを挿入してください(スパムメール対策のため画像表示にしてあります)。

 ほぼ体下面だけが黒い個体でしたが、だからこそ暗色型よりも珍しく貴重な個体になりました。

(Uploaded on 21 September 2022)

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サシバ暗色型 観察ガイド


 BIRDER 2021年9月号の特集「シーズン到来! ホークウォッチング」の34~35ページ、「サシバ暗色型 観察ガイド」 は、下のようなレイアウトです。

 


BIRDER 2021年9月号 PP.34-35 「サシバ暗色型 観察ガイド」

 

 この記事では、サシバ暗色型の概説と観察ガイドを書きました。記事の中に「推定雄」「推定成鳥」「推定表」など、推定という言葉をいくつか使いました。雌雄の正確な判断には暗色型個体を捕獲するとか一部分のサンプルを取るなどしてDNA解析をする必要があります。また成鳥幼鳥の判断も同じように、捕獲したり、あるいは高精細な画像から換羽の状況を子細に観察する必要があります。そうしないと雌雄成幼の判断を誤る可能性があるからです。

 いろいろなご意見があることを承知の上で執筆しました。捕獲やサンプル採取ができる皆さんにはぜひ研究していただきたいです。いつか「若杉さんの文章はここがこう間違っている」と教えてくだされば、うれしいです。

(Uploaded on 14 August 2021)

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春のタカ渡り サシバの移動速度


 渡り中のタカ類の移動速度は時速何kmくらいでしょうか。今までに報告されているものとして、移動するサシバと並行して飛んだセスナ機の速度との比較や、やや大ざっぱになりますが発信器を付けたタカ類の電波を人工衛星が捉えて推測するという方法などがとられています。他にも機材を使ったさまざまな方法があります。

 私はそういう大がかりな機材が使えないので、ひじょうに原始的な方法ですが、サシバの渡り中の移動速度を下の2通りの方法で調べてみました。

(例1)

 2016年3月31日、左翼のP7とP6が大きく欠損している1羽のサシバ成鳥が愛知県渥美半島の先端に近い「渥美の森」と半島の付け根付近の「蔵王山山頂」で観察されました。下の写真は蔵王山で撮影した画像です。


計算の対象になったサシバ Butastur indicus 成鳥 若杉撮影

 

 この個体は渥美の森を出てから、18.2km 離れた蔵王山に42分後に到着しました。


2地点の位置関係

 

 18.2km を 42分 (=42÷60時間) かかって飛んだことになりますから、ひじょうに単純な計算ですが、直線で移動したとすると

 18.2km ÷ 42/60時間 = 26km/h

 つまり平均時速26キロメートルで移動したことになります。

 欠損の激しいこの個体は、渥美の森で午前9時29分にAさんが撮影し、蔵王山山頂で午前10時11分に若杉が撮影しました。初列風切の欠損でも特にP7, P6の折れ方(折れた部分の形状、折れた長さ)、P8先端やその他の細かな欠損のようす、体下面の褐色の模様や斑の入り方、飛去方向、時刻、その他のようす等、何もかもぴったりで同一個体でした。

 サシバの実際の飛行コースはもちろん完全な直線ではなく、ジグザグです。さらに、山の斜面上などの上昇気流があるところでは帆翔を繰り返して旋回上昇しますので、旋回上昇中は移動距離がゼロです。逆に旋回上昇し終わった後の滑空はかなり速い速度で滑るように飛び出します。これらの、ジグザグなコース、旋回上昇中にかかる時間、滑空時の速いスピードなど、42分間に旋回上昇と滑空の繰り返しが何回あったか分かりませんが、すべてを含めて18.2km を移動した平均の速度が26km/h だったということです。瞬間の「飛行速度」ではなく、42分間の「移動速度」と言ったほうがよいでしょうか。

 この日の天候は快晴で時々一部に雲が出ました。北寄りの風が弱く、無風の時間が多く、暖かく感じる一日でした。

 

(例2)

 ある山の上空で旋回上昇したサシバとノスリ(計19個体)が滑空を始めてから、4.1km離れた所まで行くのに3分~4分の時間がかかりました。旋回上昇し終えた後の滑空だけの飛行ですので、スピードは速いです。計算したらどれも時速60~80kmでした。3分~4分は時間に直すと3/60時間~4/60時間で、4.1 ÷ 0.05 などのように割り算をする時の分母の数字がかなり小さいです。計算をした後の誤差は(例1)よりも大きいはずですが、19個体の計算結果はみな同じくらいの数字でしたので、ある程度正確な数字だと思います。

 山の頂上には私が、近くの地点には友人がいて、2人が同じ個体を見ていることを携帯電話で確認しながら調べました。気象条件は(例1)と同じです。

 

 (例1)は特徴的な欠損が見られるなどの識別しやすい個体が現れないと正確なことが言えないので、偶然このような特徴のある個体が飛ぶか、あるいは運に恵まれないといけないです。(例2)のやりかたは同一個体であることははっきりと言えるのですが、距離が近いぶんだけ分母が小さくなるので、計算結果の信頼性が小さくなります。したがって個体数を多くする必要が出てきます。どちらの方法もうまくいく時ばかりではないですが、この春も、もう少しこれをやってみようと思います。

(Uploaded on 10 March 2017)

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BIRDER 2014年9月号は サシバとハチクマ大特集!


 バーダー2014年9月号は、サシバとハチクマの大特集です。下の写真は表紙です。


BIRDER 2014年9月号「サシバとハチクマ」特集号 表紙

 

 特集の部分のタイトルのみ、以下に紹介します。

 特集 「サシバとハチクマ ~秋のタカ渡りの主役2種の魅力に迫る~」

・ 夏鳥としてのサシバとハチクマ 観察の魅力  文 ・写真=若杉 稔
・ バリエーションに気をつけろ! 飛んでるハチクマ識別虎の巻  文・写真=先崎啓究,伊関文隆
・ 種の識別を確実に! 飛んでるサシバ識別虎の巻  文 ・写真=伊関文隆,先崎啓究
・ 宇宙から追跡 ここまでわかったサシバとハチクマの渡り経路  文・図=山口典之
・ 今年はどうなる? 秋の渡り  文・写真=久野公啓
・ 日本で過ごすハチクマの暮らし4か月  文=佐伯元子,堀田昌伸 写真=佐伯元子
・ サシバの雛を襲うオオタカ  文・写真=野中 純
・ 越冬するサシバたち 八重山地方の「落ち鷹」とは?  文・写真=本若博次
・ 衝撃! ハチクマ軍団VSスズメバチ軍団 「NHKダーウィンが来た!」撮影取材記  文・写真=平野伸明
・ サシバの幼鳥は 何をしに 日本へ来るのか?  文・写真=若杉 稔
・ サシバをシンボルにしたまちづくり ~栃木県市貝町の取り組み  文・写真=遠藤孝一
・ 課外授業でタカの渡りを観察する小学校 ~松本市立奈川小学校~  文・写真=小笠原 督
・ 「サシバの里」を目指して ~宮古島市立伊良部中学校でのサシバ保全の取り組み~  文・写真=下地 豊
・ 宮古島のサシバ食文化  文=嵩原建二

 

 4~5ページの、「夏鳥としてのサシバとハチクマ 観察の魅力」 は、下のようなレイアウトです。 


BIRDER 2014年9月号 「夏鳥としてのサシバとハチクマ 観察の魅力」

 

 24~25ページの、「サシバの幼鳥は何をしに日本へ来るのか?」 は、下のようなレイアウトです。 


BIRDER 2014年9月号 「サシバの幼鳥は何をしに日本へ来るのか?」

 

 なお、著作権は文一総合出版にありますので、上の2枚の画像は解像度を低くして、画像を拡大しても文字は読めないようにしてあります。 

 時間があったら、ぜひ、ご購入ください。8月16日発売です。

 

 筆者が今までに「バーダー」誌に書いた文章は、今回を含め下記の通りです。今も購入できるバックナンバーがあります。

 BIRDER 1999年11月号の 66ページ 「Net で GO! GO! GO!」 マーリン通信の紹介
 BIRDER 2010年 2月号の 76~77ページ 「拝啓、薮内正幸様 ♯26」
 BIRDER 2012年 9月号特集の頭 8~9ページ 「ハヤブサとはどんな鳥か」
 BIRDER 2012年12月号特集の頭 6~7ページ 「冬のタカ観察の魅力とは?」
 BIRDER 2013年 9月号特集の中 20~21ページ 「ハイタカ属とはどんなタカたちか?」
 BIRDER 2014年 9月号特集の頭 4~5ページ 「夏鳥としてのサシバとハチクマ 観察の魅力」
 BIRDER 2014年 9月号特集の中24~25ページ 「サシバの幼鳥は何をしに日本へ来るのか?」

(Uploaded on 16 August 2014)

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タカ類が巣内ビナを食べる  (2) サシバ


 前回の、「タカ類が巣内ビナを食べる (1) オオワシ」 の続きです。

 今から数年前のことです。ある県で営巣したサシバを観察中、比較的近くの雑木林からヒヨドリの悲鳴のような叫びのような大きな鳴き声が聞こえてきました。何かあったな! と、誰もが思うような激しい声。直後に目に入ってきたのは、足に何かもぞもぞっとしたものをつかんだまま飛ぶサシバ成鳥と、その後をヒステリックな声で鳴きながら追いかけるヒヨドリの姿でした。すぐ双眼鏡で見ると、サシバは何かのかたまりを足に持っていました。そのかたまりの後ろに、巣材らしき細長いものが見えました。ヒヨドリの飛び方は尋常ではなく、右へ左へとふらつくように飛び、まっすぐな飛び方ではありません。「あっ、写真を撮らなくては…」 と思った時にはサシバとヒヨドリの距離が遠くなってしまい、ヒヨドリが画面に入りませんでした。


ヒヨドリの巣内ビナを巣材ごと捕ったサシバ

 

 ヒナを捕る瞬間の現場が見えたわけではないですし、サシバがつかんでいたものは双眼鏡ではかたまりにしか見えなかったですし、おまけに写真は巣材が写ったこんな程度のものです。しかし、サシバがヒヨドリの巣内ビナを襲って巣材とともに足にからめて飛び去り、それをヒヨドリの親が追いかけている… ということは、明らかでした。

 前回のオオワシと、今回のサシバの事例を記述しましたが、他にも、オオタカをはじめ、いろんな種のタカが野鳥の巣内ビナを襲って食べていることが報告されています。逆に、たとえばオオタカをはじめとするタカ類も、他のタカ類やカラス等に巣内ビナを捕られています。こういう行動の頻度はけっこう大きいです。 

(Uploaded on 20 April 2014)

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フィールドガイド日本の猛禽類 vol.2 サシバ


 第1巻の 『ミサゴ』 に続いての意欲作 『サシバ』 が、2013年9月13日に発行されました。著者は、 渡辺靖夫、先崎啓究、伊関文隆、越山洋三の4氏です。みなさんお若いのに知識がいっぱいで、ほんとうに熱心に活動・研究されています。 


フィールドガイド日本の猛禽類 vol.2 サシバ の表紙

 

 今回の 『サシバ』 で、特にお薦めできる点は、

・ イラストがしっかりとしていること。2点あって、一つは識別図です。写真を多用した識別図鑑はすでにいくつか出版されていますが、ここぞというポイントを詳しく分かりやすく比較して説明するには、やはりイラストが必要です。韓国の全鷹隼類を扱ったフィールドガイド 『 A Field Guide to the Raptors of Korea 』 の全部のイラストを担当された渡辺靖夫さんによる識別図は、かゆいところに手の届くような丁寧さが特徴です。
・ もう1点は越山洋三さんによる感性に訴えかける絵画です。表紙もそうですが、桜が満開の中で食料を与えながら求愛するサシバをはじめ、すばらしいです。
・ 解説も丁寧で、詳しく書かれています。
・ 「クロサシバ」 の成鳥の雌、雄、幼鳥など、その識別の説明とともにイラストも載っています。
・ 識別に関心のある方だけではなく、これらの識別ポイントは生態を研究する人にもかなり役に立ちます。
・ Typical な個体を示しながら、個体変異、個体差もかなり細かく描いています。
・ 「摩耗」によるとみられる季節的な羽毛の変化についてもイラストで示されています。
・ 各文献からの情報はもちろん、最新の研究の情報を取り込んで、著者の観察した知見も取り入れている。
・ アカマダラハナムグリ(コガネムシ類)についても、詳しく解説されている。
・ イラストの他に、写真が55枚掲載されている。

 表紙を含めて全24ページで、定価は 900円+税 です。購入できるWebページは、渡辺さんの 【 湖北ワイルドライフアートスタジオ 】です。

 渡辺靖夫さんには、早いうちに、日本で観察されたすべての鷹隼類が1冊に収まったイラスト図鑑 『 A Field Guide to the Raptors of Japan 』 あるいは 『日本のタカ類・ハヤブサ類イラスト図鑑』 、または 『日本の鷹隼類イラスト図鑑』 を描いてほしいなと強く思っています。

 もう一つの願いは、サシバやツミなどといった、日本がその繁殖地の中心になっている鷹隼類、東アジアでしか繁殖していない種などについて、ぜひ英語で出版して、海外の各国の鳥学会に送ってほしいなということです。 ハイタカやハヤブサ、ミサゴのような世界的と言ってもいいほど広く分布している種については、外国の研究者がかなりのことをすでに調べています。分厚い本1冊が丸ごとハイタカについて書かれているというような書籍は、たくさんの他の種にもあります。もちろん、「日本ではこういう生態だ。日本の亜種はこういうふうに暮らしている」 という研究は必要ですので、ハイタカやハヤブサ等についても日本人の研究は重要ですが、そういう種の大まかなところはだいたい分かっています。

(Uploaded on 22 September 2013)

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サシバは マムシを食べても 大丈夫?


 日本産のタカで、ヘビを食べる種はけっこうたくさんいます。イヌワシ、クマタカ、ハチクマ、サシバ、ノスリ、カンムリワシなどが頭に浮かんできます。この他の多くのタカもほかのエサとともにヘビを食べています。中にはカンムリワシのようにヘビが主食のタカもいますし、サシバのように両生類や爬虫類を多く食べる種もいますが、どちらかというと環境の劣化で捕食できる鳥類やウサギ等が少なくなってしまって、「森にヘビしかいない」とか、「ヘビでも食べるか」といった状況のタカが多いような気がします。鳥類・哺乳類を多く捕食するタカは、願わくばヘビよりも栄養のよい中形・小形の鳥類や哺乳類を、あるいはいろいろな種類の獲物を食べたいと思うはずです。

 さて、これらのタカに捕食されるヘビの中には、当然、毒を持つヘビが含まれます。本州等にはクサリヘビ科のマムシ、ナミヘビ科のヤマカガシ、沖縄にはクサリヘビ科のハブ類がいます。上にあげたタカたちも、毒ヘビを捕食したり、ヒナに食料として与えたりしています。下の写真はS.Tさんが撮影された、ヒナにニホンマムシ Gloydius blomhoffii (Boie, 1826) を運ぶサシバ Grey-faced Buzzard Butastur indicus の営巣場面です。マムシ独特の銭形模様がよく写っていますね。S.Tさんによると、同じ日にマムシを次々と4匹も持ってきたことがあったそうです。マムシの毒は口のなかの「毒牙」およびその周辺の「毒腺」にありますが、かといって、サシバが毒ヘビの頭だけを切り裂いて捨てて、残りの部分だけを食べているというわけではありません。頭も胴体も区別なく、あたりまえのように食べてしまいます。サシバやヒナにとってマムシの毒は大丈夫なのでしょうか?


ニホンマムシ Gloydius blomhoffii を捕らえてきたサシバ Butastur indicus (2枚ともS.Tさん撮影)

 

 マムシに咬まれると、毒牙から毒が注入されます。たとえて言うと、皮下注射のようなものです。筋肉に入った毒が毛細血管から吸収されて、血流にのって全身に行き渡ります。この毒は「出血毒」と呼ばれるタイプの毒で、タンパク質分解酵素の一種プロテアーゼの作用によって血液中のフィブリンを分解することで血液の凝固を阻害してしまい、血管系の細胞を破壊していきます。その結果、内出血を起こして相手を弱らせます。主にマムシやハブが属するクサリヘビ科の種が持つ毒の主成分として知られています。

 血管に毒が入るから、毒が毒として働くわけです。ですから、この毒をマムシが口から入れても、その毒本来の働きをすることはできません。胃で消化されるだけです。従って、サシバがマムシを頭から丸ごと食べても何ら悪影響や障害はないのです。ただ、口の中に傷があるとか、消化管に傷があるという場合はそこから毒が血液中に吸収されて、サシバの体に害が及んでしまうということはありえます。

 また、サシバがマムシに咬まれることは、一般的にはないと思われます。みなさんは、「コブラ対マングース」という出し物、やらせをごらんになったことがあると思いますが、人間よりもはるかに動きが俊敏なコブラでさえも、マングース(哺乳類)の俊敏さには勝てないようです。サシバはマムシよりもうんと俊敏ですので、マムシがサシバを咬もうとしてもその前にサシバの足指でマムシの首根っこを捕まえてしまうことでしょう。でも、もしサシバがマムシに例えば腿部など羽毛の重なりが薄いところを咬まれたら、残念ながら大きな痛手を負うことになります。そんなドジなサシバがいるかどうかは知りませんが、そのサシバはきっと草かげに隠れて、だれにも見られず人知れず死んでいくはずですので、人には気付かれないでしょう。

 結論ですが、サシバはマムシを丸ごと食べても大丈夫です。

 サシバは、2006年・2012年版の環境省レッドリストで、絶滅危惧II類(Vulnerable, VU - 絶滅の危険が増大している種) に指定(亜種がないので種指定)されており、最近、急速に個体数が減少しています。

 さて、サシバとマムシの関係は、同じような種類の毒を持つ奄美諸島のハブ類を捕食しているカンムリワシ Crested Serpent Eagle Spilornis cheela にもあてはまります。カンムリワシはハブを頭からしっぽまで食べていますが、へっちゃらです。

(注意)

 ここに書いたことは基本的には人間にも当てはまりますが、
 ① 毒の成分はたいへん種類が多く複雑で、単純ではありません。
 ② 毒には、人にアレルギー症状を起こす物質も含まれます。
 ③ その時の、その人の体調にもよります。
 ④ その人に口内の傷や歯茎の出血があるかどうかなどにもよります。
ですから、マムシの毒を食べても人が絶対に安全だというわけではありません。ご注意ください。

(Uploaded on 15 September 2012)

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クロサシバ


 タカの渡りの観察というものは毎日毎日楽しいことばっかりです。一羽一羽のタカの色や模様、斑のタイプや大きさ・濃さなど、いわゆる個体差というものも観察時の楽しみの一つです。

 先日、10月13日、愛知県で見たツミのオス成鳥は実に鮮やかな個体で、今も目に焼き付いているような、まさに感動的な個体でした。普段のツミのオス成鳥の白っぽさよりも、上胸のあたりがピンク色っぽい赤茶けた色に見えました。今年一番感動したツミでした。

 個体差といえば、ハイタカの幼鳥もかなりの個体差があります。胸の斑点は、ハート型、Y字型、三日月型、ブーメラン型、(雨の)しずく型、成鳥と同じ横斑型(間隔は粗い)、ツミ幼鳥のような縦斑型…など、実にさまざまです。スコープや双眼鏡でこの違いが見えると、たいへん感動します。

 年に1羽程度しか見ませんが、クロサシバ(サシバの暗色型)もドキッとさせられます。

 私は主にハイタカ属を中心に観察していますので、盛んに観察に出かけるようになる10月中旬以降にはサシバやハチクマの渡りはほぼ済んでしまった後なのですが、それでも今までにちょくちょくクロサシバを見ています。偶然かもしれませんが、いずれも単独で飛行していて、大きな群れの中の一羽だけが黒かったという例を私は見ていません。たくさんサシバを見ていらっしゃる方はそうばっかりではないかもしれませんが…。

 また、他の鳥の白化個体・黒化個体の黒化というものとは違いますが、ハチクマの淡色型(白型)・中間型(茶型)・暗色型(黒型)のうちの暗色型ともまた違ったような位置付けになります。風切、下大雨覆、尾羽は通常のサシバの色によく似ています。

 ある講演会で聞いたK氏の話では、クロサシバは山形県などに多く産するとのことでした。詳しい情報は聞けずじまいでした。東北地方に住んでいらっしゃる方からの情報がほしいです。

 森岡照明さんらの図鑑『日本のワシタカ類』では、クロサシバは、渡るサシバの約0.1%くらいであろうと推測記述されています。

(Uploaded on 20 October 2007)

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