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「幼鳥・若鳥・成鳥」 フォルダ の 目次
 更新月日  タ  イ  ト  ル
16.02.21  やっぱりおかしい タカ類の「第〇回冬羽」
13.11.01  【提案5】 小形の鷹隼類に、 「若鳥」 は使わないようにしよう!
13.10.22  【提案4】 タカ類・ハヤブサ類の年齢も 0歳、1歳、2歳、… にしよう!
96.10.30  幼鳥、若鳥、成鳥について


やっぱりおかしい タカ類の「第〇回冬羽」


 タカ類・ハヤブサ類の写真のキャプションなどによく使われる「第1回冬」。これは、もともと外国の書籍等で見られる「 first winter 」を訳したものです。1995年に文一総合出版から発行された森岡照明、叶内拓哉、川田隆、山形則男共著 『図鑑 日本のワシタカ類』から本格的に使われました。その前にも使われていたかもしれませんが、広く使われ出したのは、この頃と思われます。意味は、「最初の冬」、「生後初めて迎える冬」というものです。 winter には wintering(越冬)という意味も含まれているようですので、「生後初の越冬期」に近い意味合いです。

 「最初の冬」と訳すことも可能だったでしょうが、first winter に続いて second winter 、 third winter 、… と続きますので、たとえば second winter を「次の冬」とか「2つ目の冬」、「2番目の冬」、「第2の冬」などとすると、なんとなく変な感じになってきますので、シンプルに「第2回冬」としたのでしょう。この訳は最もなじみやすく、分かりやすいので正解だったと思います。

 

 でも、この「第1回冬」を「第1回冬羽」などとすると、おかしくなってきます。笑えてしまうような訳になってしまいます。

 「夏羽」とか「冬羽」という術語はたしかにありますし、頻繁に使われます。体羽の一部が換羽して冬羽になる小鳥類や、体羽の一部が摩耗して黒くなる小鳥類など、「夏羽(繁殖羽)」→「冬羽」、「冬羽」→「夏羽(繁殖羽)」の変化のしかたはさまざまです。一つ言えることは、これらの術語は「夏」とか「冬」という文字が入っていますが、あくまでも羽毛の色などのようすを表すものであって、けっして季節を表すものではないということです。

 真木広造著 『ワシタカ・ハヤブサ識別図鑑』や、叶内拓哉著『山渓ハンディ図鑑7 日本の野鳥』などでは「第1回冬羽」などが使われていますが、これは森岡図鑑等で使われている「第1回冬」という時期や季節を表す言葉と、「冬羽」という羽毛のようすを表す単語を混同してしまい、この二つをくっつけた誤用です。

 タカ類・ハヤブサ類には、小鳥類やシギ類のような「繁殖羽」、「夏羽」、「冬羽」という概念はそもそもありません。基本的に夏も冬も同じです。タカ類の場合、春から秋の換羽期は旧羽と新羽が入り交じっていたり、幼羽と成羽が混在していたりしますが、冬期は換羽を中断している種が多く、羽衣が安定しているので、冬の羽衣でいろいろ比較したり記述したりしているだけです。

 

 「第〇回冬」という術語の使い方は、たとえば下のような文章を読むとよく分かります。

 

【 「第〇回冬」の正しい使用例 … 森岡図鑑より】


森岡図鑑187ページの一部。「第〇回冬」などは、このように使います

 

 こんなわけですので、これから、少なくともタカ類には「第1回冬羽」などという使い方はやめましょう。

 ただ、タカ類以外の場合には「第1回冬羽」などを使うことが100%理解できないというわけではありません。たとえばシギ類のように、幼羽から初めての換羽で得られる羽衣はこの個体にとって最初の冬羽ですから、「最初の冬羽」、「第1回の冬羽」、「第1回冬羽」としてもひどくおかしいわけではありません。しかし、「第1回」を付けず、単に「冬羽」と表現しても十分に伝わります。さらに、この羽衣の獲得は、真夏の8月ころにもごく普通にあることですので、撮影した日付がたとえば8月20日でも、キャプションは「第1回冬羽」となってしまいます。8月なのに「冬…」とくるとどうもしっくりきませんが、シギチの場合には許されることでしょう。でも、タカ類の場合、このような「夏羽(繁殖羽)」→「冬羽」という変化はありませんので、「第1回冬羽」は使わず、季節を表す「第1回冬」だけを使うほうがよいでしょう。

 

 (参考)

 「第1回夏」を誤解している人がけっこう多いようです。第1回夏は卵から孵って1~2ヶ月後にやってくる夏のことではなく、生まれて(孵化して)約1年後にやってくる夏のことです。「第1回冬」の後にやってくる夏のことです。2回目の夏のような気がしますので、たいへん紛らわしくて多くの人が誤解しています。しかし、洋書で使われている first summer の訳語なのでしかたがありません。

(Uploaded on 21 February 2016)

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【提案5】 小形の鷹隼類に、「若鳥」は使わないようにしよう!


 次の事例 (1)、(2) をよく見かけます。改善案を提案します。

(1) 夏の換羽期、幼鳥から成鳥に変わりつつある換羽中の小形のタカ類・ハヤブサ類について、「若鳥」という表現が使われることがあります。でも、換羽真っ最中の3~4か月間だけ、「幼鳥」のことを 「若鳥」というのはおかしいです。

 せめて、約1年間くらい同じ羽衣を保つ場合にのみ使うべきと考えます。

 


コチョウゲンボウ  これは「幼鳥」なのですが…

 

 上の写真は、1月9日に撮影したコチョウゲンボウ Falco columbarius です。生まれてまだ半年あまりしかたっていない幼鳥ですが、中央尾羽が生え替わって、青灰色の成羽が見られます。上の例(1) でいきますと、こんな幼鳥も、「若鳥」 とされてしまいます。ですから、

  こういう場合、「若鳥」という表現はおかしい → 「換羽中の幼鳥」とすべきです。

 

(2) タカ類・ハヤブサ類が他の鷹隼類や哺乳類に襲われて、背中を爪でひっかかれたとか、森の樹木に当たって体の羽が抜けてしまったとか、他にもさまざまな理由が考えられますが、こうして抜けた羽の後には、季節や時期にかかわらず、幼鳥ならば、成羽が生えてきます。これを事故換羽といいますが、こういう体のごく一部のみの換羽をしている個体に対して、「若鳥」という表現が使われることがあります。事故換羽は、幼鳥・若鳥・成鳥の区別とはなんの関係もありませんから、

  こういう場合、「若鳥」という表現はおかしい → 「一部事故換羽をしている幼鳥」とすべきです。

 

 おおざっぱに言うと、オオタカ程度までの大きさのタカ類は、0歳の幼鳥が、0歳の終わり頃から1歳のはじめに全身を換羽して、成羽になります。全身の完全換羽が済んでも、まだ褐色味が濃いままだとか、鷹斑が粗く幅が広い、場合によっては横斑がややV字型(ブーメラン型)になっているということがありますので、こういう状態の一年間は、たとえば「オオタカ若鳥」としても差し支えないでしょう。ただ、縦斑から横斑へという変化は大きな変化であったことは確かです。このように、成鳥への換羽に2年以上を要するタカ類の場合だけ、「若鳥」という表現を使えばよいと思います。

 もう一つ、「若鳥」という術語を使ってもよいと思われる時期があります。それは、たとえばサシバのヒナが巣立ちしたころのことです。ヒナが巣立った後は当然、「幼鳥」と呼ばれることになります。この頃は巣の近くに、一年前に生まれたサシバ幼鳥もいますので、両者の区別が必要になることがあります。一年前に巣立った個体は、換羽は始まっているけれどもまだ十分にはすんでいないので、胸や腹はほとんど縦斑のままで「成鳥」でもありません。「去年生まれの幼鳥」という表現が一番正確なのですが、言葉が長くなりますので、こういう表現でもよいという了解が得られれば、期間は短いですが、「若鳥」と言ってもかまわないでしょう。

 

 以前、このフォルダにも書きましたが、「完全な成鳥」とか、「理想的な成鳥」 、「もうこれ以上変化しない成鳥」というものは実は考えられないです。その理由は、タカ類・ハヤブサ類にはみな個体差があり、それはかなり激しいということと、待てば待つほど歳をとってしまい、いつの間にか 「老鳥」 になって、例えばオオタカのように虹彩がオレンジ色や赤色に変わってしまうとか、同じくオオタカのように体下面や風切、尾羽の鷹斑がほとんど見えなくなってしまうとかというような、いわゆる老鳥特有の体になってしまうからです。

 なお、「成鳥」という述語には、「繁殖可能」という意味はまったく含まれていません。小形種では、幼鳥から繁殖する種が多いです。中形種のオオタカの♀は幼鳥でもたくさん繁殖に成功していますが、♂は生まれて2~3年以上経過してから繁殖し始めるようです。大型種は、さすがに繁殖にいたるまでに年月がかかるようです。

 

【提案1~3】は、「鷹隼類全般 2」フォルダーの中、
12.08.12付け 【提案1】「翼先分離数」 をやめて 「翼先突出数」 を使おう!
13.02.18付け 【提案2】「鷹隼類」(ようしゅんるい)という言葉を使おう!
13.10.11付け 【提案3】♀型、♀タイプ をやめて 「 非♂A 」に!

【提案4】は、「幼鳥・若鳥・成鳥」フォルダーの中、
13.10.22付け 【提案4】タカ類・ハヤブサ類の年齢は 0歳、1歳、2歳、… にしよう!

に、書きました。ぜひご覧ください。 

(Uploaded on 1 November 2013)

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【提案4】 タカ類・ハヤブサ類の年齢も 0歳、1歳、2歳、… にしよう!


 最近では、タカ類・ハヤブサ類の年齢は、 「第1回冬」とか、 「第2回夏」などという表し方と、 「1年目冬」とか、「2年目夏」などという表し方が多くなってきています。他に、1月1日から12月31日までの1年間( calendar-year )を区切りとした、「第1暦年」とか「第2暦年」という表し方も時々見られます。

 森岡さんらの図鑑 『日本のワシタカ類』では、「第2回冬若鳥」という表現が多く用いられています。one year-old winter, immature のことですので、英語ではたしかに 2nd winter, immature のほうが短くてかっこいいですよね。でも、これを日本語にすると、何かしっくりこない気がします。真木さんの 『ワシタカ・ハヤブサ識別図鑑』では、「第1回夏羽」 、「第2回冬羽」などという「羽」という字を付けた表現まで使われています。タカ類・ハヤブサ類にも、小鳥類と同じような 「夏羽」、「冬羽」があると誤解されそうです。この調子でいってしまうと、「第2回春羽」、「第3回秋羽」も、他の人から出てきそうです。

 これらの、年齢が分かる表現のしかたは、ただ単に、「幼鳥」、「若鳥」、「成鳥」というよりは正確なので、可能な限り使用することが望ましいと思います。「第〇暦年」は、羽衣が一番安定している冬にまたがってしまいます。例えば、第2暦年冬というと1年目の1,2月のことか、2年目の11,12月のことか分からなくなりますので、これは使い方に気を付ける必要があります。

 「第〇回」や「〇年目」は冬が分断されませんので、その点では好都合です。しかし、年齢で、 「第〇回」 といわれても慣れていない人にはほんとうに分かりにくいものです。「えっとー」と考えて、やっと生まれてから何年何ヶ月なのかが出てくる時もあります。それから、「第1回夏」とはいつのことでしょうか。第1回ですから、春に生まれてすぐに訪れる最初の夏のことかと思ってしまいますが、「第1回夏」とは生まれて約1年後の夏のことをいいます。事前に知らされていないと、誰もがまちがえてしまいます。慣れてしまうとどうということはないのですが、初心者の方には、やはり「第〇回~」は、分かりにくいでしょうね。

 ですから、これらの表し方よりも、人間の年齢の表し方の、「0歳、1歳、2歳、…、」に私たちは慣れているわけですので、「0歳冬」とか、「2歳夏」などという表し方のほうが、はるかに分かりやすいことと思います。これならば、「0歳秋」も、おかしくありません。秋の渡りは、「0歳秋、1歳秋、2歳秋、…」と、表現できます。春の渡りの、「0歳春、1歳春、…」を使ってもまったく違和感がありません。 

 もちろん、「幼鳥」、「若鳥」、「成鳥」を適切に使いながら、得られた個体情報の範囲内で「第2回冬」か「1歳冬」を入れて、両者をうまく併用した「第2回冬若鳥」とか「1歳冬若鳥」などがよいと思われます。

 


例 : 森岡さんらの図鑑 『日本のワシタカ類』 のキャプションから

 

 上は、森岡さんらの図鑑 『日本のワシタカ類』の P61 右上、オジロワシのキャプションですが、この表現よりも、

 「 (17) 4歳冬若鳥と思われる。頭頸部は淡色で、P1~5が3代目の羽毛と思われる。S5~6はすり切れているので旧羽。( … 略) 」のほうが、私には分かりやすいです。

 これからは、タカ類・ハヤブサ類の年齢表示は、人間と同じの 「0歳、1歳、2歳、…」 + 「春、夏、秋、冬」、つまり、 「2歳冬」 などにしましょう。

 

(難点)

 「第2回冬若鳥」や「1歳冬若鳥」は羽衣が安定している冬や、比較的羽衣が安定している秋・春にとっては、ひじょうに好都合な表現です。しかし、この表現方法に難点がないとは言えません。ちょうど換羽をしているころの夏は、たとえば、「0歳の終わりから1歳の始めにかけての夏に初めての完全換羽をする」などという表現をせざるを得なくなります。もちろん、上に書いたどんな表現方法を用いても大なり小なり難点はあるものです。その中で、どれが一番分かりやすくて、どれが一番正確に伝えられるかという視点が大事だと思います。

 

【提案1~3】は、「鷹隼類全般 2」フォルダーの中、

12.08.12付け 【提案1】「翼先分離数」 をやめて 「翼先突出数」 を使おう!
13.02.18付け 【提案2】「鷹隼類」(ようしゅんるい)という言葉を使おう!
13.10.11付け 【提案3】♀型、♀タイプ をやめて 「 非♂A 」に!

に、書きました。ぜひご覧ください。

(Uploaded on 22 October 2013)

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幼鳥、若鳥、成鳥について


 文一総合出版から森岡照明氏、叶内拓哉氏、川田隆氏、山形則男氏共著 『図鑑 日本のワシタカ類』 (632ページ、16,480円。第2版が出ました。18,000円)が発行されています。写真が多く、内容も優れていますので特にタカ類・ハヤブサ類が好きだという人だけでなく、多くの皆さんにお薦めします。さて、この中で、胸が横斑になっているオオタカなのに 「若鳥」 となっていたり、白と黒のハイイロチュウヒなのに 「若鳥」 となっていて不思議に思われた方はないでしょうか。何年もかかって成鳥になっていく大型のワシ類においては 「若鳥」 も納得がいきますが、オオタカなどの中形のタカ類・ハヤブサ類に 「若鳥」 を入れたことはかえって分かりにくくなったとも思われます。これから、「若鳥」という術語はどのように使ったらよいでしょうか。

 

   (オオタカ、ハヤブサ等)

    1年目縦斑             2年目~横斑
      ∥   ← 歴然とした 差→    ∥
     幼鳥                成鳥(若鳥)

   

   (ハイイロチュウヒ 雄)      1年目            2年目~灰色       ∥   ← 歴然とした 差→    ∥      幼鳥      成鳥(若鳥)

 

 上の表のようにオオタカなどの中形のタカ類・ハヤブサ類においては生後約1年間とそれ以降は大きな差が見られます。この変化の割合を概念図で表すと下のグラフのようになります。


 

 オオタカの場合、Aは縦斑で幼鳥羽です。Bはもう横斑になっていますが、まだ茶色味が濃く残ることと横斑が粗い、場合によっては少しブーメラン型になっているということから 「成鳥」 とは若干の差があります。Cから先はだんだんといわゆる 「完全成鳥」に近づいていきます。しかし、ここで、次のようなことを指摘したいと思います。

1 「完全成鳥」 というものを考えることができるだろうか。同じ種でも亜種によって大きな差異があり、また同じ亜種内でも個体差は経年変化以上に驚くほど大きいものです。

2 Aのみ縦斑、Bから先はすべて横斑。ここに大きな変化がある。ただ、BはCとの違いも明らかにある。

3 幼鳥の時に何かの原因(事故、不注意、他からの攻撃など)で失った羽毛から新しく生えてくる羽毛は、成羽である。

 

 このようなわけですので、私は次のように提案したいと思います。

◆ 生後約1年程度までの縦斑のオオタカなどには、「幼鳥」 を使う。

◆ 生後約1年程度を過ぎて胸や腹が横斑になったが、斑がかなり粗いとか全体に褐色味を帯びているオオタカなどには、「若鳥」 を使う。さらにその一年後以降は「成鳥」を使う。可能ならば「2歳成鳥」 や 「3歳成鳥」… を分かる範囲内で使う。

◆ オスのハイイロチュウヒの2年目は 「第2回冬雄若鳥」 などよりも「1歳雄成鳥」のほうがイメージしやすい。

◆ p112のツミ⑦ 「第1回夏雄若鳥」 は4月17日でちょうど換羽中であるので 「成羽へ換羽中の雄幼鳥」 とし、⑧ 「第1回夏雌若鳥」 は 「1歳成鳥(少し幼羽が残る)」 などとする。

 

 問題点も残ります。

1 何年もかかって成羽を獲得する大型のワシ類と初めての換羽で成羽を獲得する小形種で、用語の使い方に差が出てくる。

2 どの種も個体差が大きく、換羽についても進行に差がある。

3 野外で双眼鏡でちらっと見ただけではあまり詳しい個体情報が得られない場合が多いということ。写真判定に頼らざるを得ない場合が多く、分からない時は詳かな情報は書かないほうがよいでしょう。

4 個体差および自然状態での換羽についてのデータの蓄積がまだまだ少ない。

5 上の4つ目の◆のように、「若鳥」を使わないと言葉や説明が長くなってしまう。

(Uploaded on 30 October 1996)

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