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「チュウヒ類」 フォルダ の 目次
更新月日 タ  イ  ト  ル
23.01.15  チュウヒ & ハイイロチュウヒ 出会い方ガイド
21.01.16  チュウヒに追われたタシギが 私をシェルターとして利用
19.10.07  ハイイロチュウヒ やや早い渡りの記録例
17.05.22  愛知県で越冬したハイイロチュウヒ  朝鮮半島へ!
17.05.14  ハイイロチュウヒ 渡りのルートは?
16.11.01  チュウヒ V字飛翔は難度が高い
13.01.25  冬のチュウヒ類 ニンジン畑をヨシ原の代わりに
07.02.11  ハイイロチュウヒは忍者?
05.02.06  東海地方で見られるチュウヒの♂成鳥♀成鳥♂幼鳥♀幼鳥 簡易識別表
04.12.27  大陸型と呼ばれるチュウヒ♂成鳥 の分布域は?
03.02.10  1982年 鍋田でチュウヒが繁殖
01.11.30  伊良湖岬のハイイロチュウヒ


チュウヒ & ハイイロチュウヒ 出会い方ガイド


 BIRDER 2023年2月号(1月16日発売)の特集は「冬の大本命」で、コミミズク、コチョウゲンボウ、タゲリ、ベニマシコなどを紹介しています。それらの「出会い方」ガイド、「田園の探鳥地」ガイド、冬の渡良瀬遊水地レポート、農耕地での鳥見心得などが中心です。その29ページに「ヨシ原の覇者 チュウヒ & ハイイロチュウヒ」を書きました。探し方、見つけ方、出会い方を中心に短くまとめてみました。レイアウトは以下のようになっています(すみません、クリックしても画像は拡大されません)。


BIRDER 2023年2月号の29ページ
「チュウヒ & ハイイロチュウヒ 出会い方ガイド」

 

(Uploaded on 15 January 2023)

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チュウヒに追われたタシギが 私をシェルターとして利用


 12月初旬のことです。この日はまだ暗い夜明け前から、海に面した干拓地のヨシ原でチュウヒを観察していました。午前11時52分、前方を見ると、ヨシ原の上、高度があまり高くないところをチュウヒ♂成鳥がジシギ1羽を追いかけていました。このジシギの正確な識別はできていませんが、12月初旬に愛知県の海岸部で見られるジシギはタシギと思ってもよいでしょう。やや距離がありましたが、珍しいことなので連写撮影しました。

 タシギは、北を向いて立っていた私の目の前を最初のうちは左方向へ(西方向へ)逃げています。下の画像です。


チュウヒが激しく羽ばたいてタシギを追う(私からの距離は約250m) 愛知県 12月 若杉撮影

 

 その後タシギは急に方向転換してこちらに向かってきます。もちろんチュウヒも向きを変えて追いかけます(下の画像。上の画像よりはやや拡大してあります)。この時、広大なヨシ原にいたのはたった2人だけで、私の他のもう一人はかなり離れたところにいました。タシギから見れば、アスファルト道路上にいた私と自家用車の存在はよく分かっていたと思います。


タシギが向きを変えるとチュウヒも向きを変える(私からの距離は約300m) 愛知県 12月 若杉撮影

 

 方向転換した後のタシギはほとんど一直線といってよいほどまっすぐに私の立っている方へ飛んできて、どんどん近づいてきて、私から北30mほどのヨシの中へ音を立てて突っ込んでいきました。音から推測するとヨシの茎や葉に体をぶつけながら突っ込んでいったようです。そのころ私はタシギをカメラの視野の真ん中に入れて撮っていましたが、ヨシにピントが合ってしまい、タシギはボケて見えないほどの画像になっていました。チュウヒはずっとタシギを追いかけてきましたが私がカメラを構えて立っているので、タシギの突っ込んだ辺りのヨシ原には入っていかず(つまりハンティングをあきらめて)、そのまま、こちらをじっと見ながら上空を通過して行きました(下の画像)。


チュウヒはこちらを一瞥し飛去する(この時のチュウヒは私から約40m) 愛知県 12月 若杉撮影

 

 結果的にはチュウヒのハンティングのじゃまをしてしまいましたが、私をシェルターとして使ったタシギが賢かったのだと思います。

 なお、チュウヒの獲物は季節により、また地方やその環境によっても異なりますが、当地では繁殖期はカエル類と小鳥類を巣に運ぶことがほとんどです。ネズミ類を運ぶところも観察していますが、数例しか見ていません。水場が多いこともあって、雨降りの日やその翌日などはカエル類が多く運ばれる傾向があります。越冬期の獲物はやはり鳥類が多いです。ただ、ヨシの茂みの(観察者から)見えない所でネズミ類を捕ってそのまま地上で食べてしまうときは獲物の種類を確認できません。一方で、小鳥の群れに突っ込んだり鳥類を追いかけているところは空中なので見やすく、観察のしやすさ、しにくさから冬場の獲物確認数に違いが出てきている可能性があります(つまり観察数以上にネズミを食べている可能性は高いかもしれません)。

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 さて、ここまでお読みになって「タシギは若杉さんを本当にシェルターとして利用したの?」「タシギが下りた場所がたまたま若杉さんの近くだっただけではないの?」と思われた方もおられるでしょう。私も「タシギの下りた場所が偶然私の近くだった」ということを100%否定はできませんが、最初250m離れたところを逃げていたタシギが、その後300m位離れていった後で、ぐるっと大きく回ってどんどん私に近づいてきて、私のすぐ近くのヨシ原に突っ込むように下りたわけですから、偶然にしてはあまりに近くまで寄ってきた、そして結果的に見事に逃げることができた!という印象があります。

 昔から、クマタカに追われたヤマドリが猟師の足元近くへ飛び込んできた、クマタカはそれ以上近づけず遠ざかっていきヤマドリは難を逃れられた……という類のことをよく聞きます。私はこれと同じような経験を何回もしています。

 ハイタカについて同じような経験は「マーリン通信」の

2015.4.2 付けの記事 No.291 「ハンティングの瞬間を見るには(3) 早めに前兆に気づく」
2016.1.17付けの記事 No.310 「ハイタカの急降下ハンティング」

などに書きましたので、そちらをごらんください。ハイタカに追われたツグミやエナガが、私の足元のすぐ近く、ほとんど手が届きそうな近さまで来て警戒声を発しながらしばらく動かなかったということを書きました。

 ハイタカ以外の鷹隼類でも、似たような事例をよく見かけました。オオタカやハヤブサに追われたハトが私の脇2~3メートルの近いところを猛速度で通過していったことがありますが、そんなときのオオタカやハヤブサは当然のように飛行進路を変えています(この2例はもちろん別の日です)。コチョウゲンボウに追われたハクセキレイが立っている私のすぐ近くまで来たこともあります。この時のコチョウゲンボウは途中で狩りをやめて、クイックターンしていきました。

 もう一例です。約一年前の冬、自宅裏の畑で農作業をしている母の姿を見ていたら、母の脇わずか1メートルもないという近いところにモズ♂成鳥がやってきて、しばらくの間、土塊の上や枯れた農作物の上にとまってチリチリと鳴いていました。あまりにも母の体の近く(異常なほどの近さ)なので、何か変だと思った私が上空を見ると、チョウゲンボウ♂成鳥が母の頭上でホバリングしていました。モズの様子からすると、明らかにチョウゲンボウを警戒しての行動でした。このチョウゲンボウがこのモズではなく近くに潜んでいるネズミや昆虫を狙っていた可能性はありますが、チョウゲンボウがその気になればモズを捕らえることはできますので、やはりモズは母をシェルターにしていたと言ってもよいと思います。

(Uploaded on 16 January 2021)

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ハイイロチュウヒ やや早い渡りの記録例


 2019年10月6日、伊良湖岬へタカの渡りを見に行きました。愛知県では例年なら10月の下旬以降にしか見たことのないハイイロチュウヒが1羽見られました。全国の皆さんの観察記録を丹念に調べれば、このような早い時期のハイイロチュウヒの渡りの記録を探し出すことができるかもしれませんが、全国的にハイイロチュウヒの渡りの報告数はかなり少ないです。ハイイロチュウヒの早い時期の渡りの記録、例えば9月に渡ったという記録をお持ちの方はぜひご連絡ください。

 ハイイロチュウヒが飛んだ時刻は午前7時23分でした。東の方から低く現れて私が見ている目の前でやや高度を上げて西方の恋路ヶ浜方面に飛去しました。近かったので、100-400mmのレンズでも黄色い虹彩の色が確認できました。下の画像です。

 


2019年10月6日午前7時23分、恋路ヶ浜方面に向かうハイイロチュウヒ 若杉撮影

 


上と同一個体 同じ時刻 同所にて 若杉撮影

 

 私の愛知県での今までのハイイロチュウヒの観察記録はすべて10月下旬(10月21日過ぎ)か11月に入ってからのものばかりです。10月初旬に見たのはこれが初めての記録で、今までで一番早い記録になります。ただ、愛知県ではハイタカが渡り始めるのが10月20日頃からで、ハイタカ属の好きな私の渡り観察の日数はそのころから増えてきますので、サシバの数が減り始めるちょうど今頃はハイイロチュウヒが渡っていることを見逃しているだけなのかもしれません。愛知県以外では、北海道での記録として2016年10月16日に胆振地方で見たものが私としては一番早い記録になっています。

 なお、10月6日の個体は恋路ヶ浜でのカウントでは記録されていないようです。恋路ヶ浜駐車場の上空を若干それて通過したのか、高度が低すぎて見えなかったのか、あるいはこの日一日で飛んだ1,558羽のサシバに紛れてしまったのかもしれません。  

(Uploaded on 7 October 2019)

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愛知県で越冬したハイイロチュウヒ  朝鮮半島へ!


 先回の記事「ハイイロチュウヒ 渡りのルートは?」 (この記事の一つ下にあります) の続編です。

 愛知県渥美半島の付け根近くで若杉が2017年1~3月に観察したハイイロチュウヒと同じと思われる個体が、愛知県伊良湖岬に近い「渥美の森」 (以下、伊良湖岬近くと表記)に続いて、山口県下関市豊北町の角島(つのしま)でも確認されました。「越冬地」、「伊良湖岬近く」、「山口県角島」の位置関係と飛去した方向を下の図に示しました。


越冬地・伊良湖岬近く・山口県角島

 

 「越冬個体」と「伊良湖岬近くの個体」と「角島の個体」が同一だという証拠写真を以下に示します。

 【 越冬地と伊良湖近くの個体の個体識別 】

 下の2枚の画像をごらんください。左は越冬地で2017年2月24日に若杉が撮影した画像です。右は愛知県伊良湖岬の近く (渥美の森) で2017年3月29日にTake-Ma さんが撮影された画像です。


左:越冬地で2017.2.24 若杉撮影   右:伊良湖岬近くで2017.3.29 Take-Ma さん撮影

 右翼のP7とP8の欠損が目立ちます。抜けているのではなくて羽の半分よりも先のあたりで折れてその先がなくなっています。他に、風切や尾羽の鷹斑の太さや間隔、下雨覆や体下面の模様など2枚の画像を見比べていただければ同じ個体であることが分かります。

 

 【 越冬地と山口県角島の個体の個体識別 】

 下の2枚の画像のうち、左は越冬地で2017年2月24日に若杉が撮影した上記と同じ個体の上面の画像です。右は山口県角島で2017年4月5日にS.F さんが撮影された渡り個体の画像です。角島の通過個体は観察位置から遠く離れたところを飛んだので小さく写っていますが、右翼のP7とP8の欠損がはっきりと分かります。右翼の上面の淡色部分の位置やようすも同じです。S.F さんには、この画像の他に翼下面を撮った画像2枚、横からの画像1枚、左翼の上面が分かる画像1枚を提供していただきましたので、それぞれをPC上で拡大表示して越冬地の画像と詳しく比較しました。その結果、ほぼ100%に近いくらいの精度で同じであると判断しました。


左:越冬地で2017.2.24 若杉撮影   右:山口県角島で2017.4.5 S.F さん撮影

 

 一番上の図から、このハイイロチュウヒは角島を通過後、朝鮮半島へ渡って北上したのだろうと推定されます。繁殖分布から考えると北帰行ですので、ハチクマの秋の渡りのように福江島から東シナ海を西へ横断するということはひじょうに考えにくいです。

 

 さて、このハイイロチュウヒはどこから越冬地にやってきたのでしょうか。秋に伊良湖岬でタカ渡りを観察していると、少数ながらハイイロチュウヒが東から西へと飛んでいきます。今まで私が観察した個体はすべて東から西へ飛んでいきました。伊良湖岬でタカ渡りのカウントをしている方のデータでも毎秋ハイイロチュウヒは何羽か出ていますが、同じように東から西へ飛んでいます。もちろんサシバやハチクマの渡っていく時期ではなく、ハイタカが多く渡り始める10月末からの出現になります。  

 このことから、今まで、ハイイロチュウヒは下の図の青い矢印Aのように北海道や東北地方を通って愛知県に来ているものと思っていました(矢印は正確なものではありません)。これは若杉が勝手にそう思い込んでいたということです。ところが、春の渡りのコースが上記のようでしたので、秋は下の赤い矢印Bのように、朝鮮半島から南下してきた個体が、いわゆる「逆行ハイタカ」の秋の渡りルートと同じようなコースで移動した可能性があります。伊良湖岬でこの個体が見つからないのは、たまたま恋路ヶ浜上空(真上あるいはごく近く)を通過しないコースを飛んで渡ってきたということが考えられます。サシバやハチクマの春の渡りにおいても、半島最先端の伊良湖岬や恋路ヶ浜上空を通らずに渥美半島に上陸する個体はけっこうたくさんいます。

 愛知県で冬期に見られるハイタカは、朝鮮半島から南下して九州や山口県に入った後、東へ進み愛知県に到達した個体群と、北海道方面から東北地方を進んで、南下、西進してきた個体群とが混じっています。愛知県で越冬するハイイロチュウヒも同じように両方からやってきた個体が混じっている可能性があります。


ハイイロチュウヒはどこから愛知県へ来たか?

 

 渡りのルートにはその他の可能性もあります。

 あるオジロワシが、北海道からサハリンに渡り、オホーツク海を時計回りにぐるっと一周するようにして千島列島から北海道に入ったことがあります。また、秋に東シナ海を西へ横断するハチクマは、春には渤海と黄海を時計回りにぐるっと回るように朝鮮半島に入り、南下して日本に入ってきます。こんなことを考えると、上の地図の青い矢印Aのようなルートで越冬地にやってきた後、春には赤い矢印Bの反対向きの矢印のように移動しているのかもしれません。つまり、半年間で日本海をぐるっと時計回りに半周するルートで、下の図のようなイメージです。オジロワシやハチクマのことを考えると、100%否定されるようなルートでもなさそうです。


ハイイロチュウヒの渡り。こんな可能性も

 

 九州や山口県にお住まいの方は、朝鮮半島と日本を行き来する鳥類をたくさん見ていらっしゃるので特に感慨深いものはないかもしれませんが、愛知県に住む者にとって今回のハイイロチュウヒの移動方向は、かなり刺激的でした。

 いずれにしても、個体に送信器を付けて人工衛星で追跡すれば、移動コース・渡りルートは簡単に解明できます。早いうちに実現されることを期待しています。研究資金と個体捕獲許可があれば私もやってみたいのですが、失敗を繰り返し試行錯誤しながら技術を磨いて積み上げていく必要があり、誰でもできることではなさそうです。

 ここに書いたようなこういうアナログ的な方法はバンディングに似たところがあります。個体を捕獲してリングやフラッグを人が取り付ける代わりに、自然に生じてしまった欠損や事故換羽、個体の特徴を利用するものです。私は2016年3月に、左翼のP7とP6が大きく欠損している1羽のサシバ成鳥を対象にしてその個体の飛行速度を計測したことがあります。「マーリン通信」の2017.3.10付け記事 No.339 「春のタカ渡り サシバの移動速度」をご参照ください。デジタルカメラやレンズの性能が飛躍的に向上してきた現在、アマチュアのバーダーにとって、このような方法は取っつきやすくて、しかも興味深い結果が得られるものだと思っています。小さな鳥類には適用できない手法ですが、中~大形の鳥類の移動や渡りを調査されている皆さんにはお勧めします。

 とは言ってもこれは自分一人だけでできることではありません。今回、ハイイロチュウヒを観察され、画像を提供してくださった渥美の森のTake-Ma さん、角島のS.F さんに感謝申し上げます。

(Uploaded on 22 May 2017)

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ハイイロチュウヒ 渡りのルートは?


 みなさん、今年(2017年)の春のタカ渡りを観察中に、下の写真のような右翼の初列風切に特徴的な欠損が見られるハイイロチュウヒを観察されませんでしたか。


右P7,P8の欠損が目立つハイイロチュウヒ Circus cyaneus  by Wakasugi

 

 愛知県にある渥美半島の付け根付近でこの冬、私が何度も観察したハイイロチュウヒです。撮影は2017年2月24日です。

 右翼のP7とP8の欠損が目立ちます。抜けているのではなくて、半分よりも先のあたりで折れてその先がなくなっています。冬の前半にはこのような欠損しているハイイロチュウヒは見かけなかったので、冬の後半に欠損が生じてしまったのか、あるいは冬の後半にどこか別の場所からこの地にやってきたのでしょうか。見かけるたびに同じ個体だということが分かるので、いつの間にか愛着がわいてきて、この個体はいつまで当地に滞在するのかなと思いながら観察していました。

 虹彩は黄色です。ハイイロチュウヒ♂幼鳥は冬の終わりには虹彩が黄色くなっている個体がいるそうですので、この個体は♂幼鳥の可能性も否定できませんが、胴体に比べて相対的に頭部がかなり小さく見えることや観察時に体全体が大きく感じたことから、♀成鳥と思われます。

 3月29日、私が上の画像を撮影した地点から西の方へ18キロメートルほど離れた半島の先端近く(伊良湖岬の近く)で、春のタカ渡りを観察中のAさんがこの個体を撮影されました。2枚の写真を並べて子細な部分まで比較しましたが、P7とP8の折れ方はまったく同じで、すべての鷹斑やもよう、P7とP8以外の細かな欠損まで何もかもが全く同じで、完全に同一個体であることが確認できました。

 観察されたAさんによると、「このハイイロチュウヒはやや高いところを、東から西へ一直線に飛んでいった。ハイタカが西へ渡るのと同じような雰囲気で通過していった」 とのことでした。

 私の今までの観察では、秋の伊良湖岬では年に1羽ほどしかハイイロチュウヒは見ていません。少し古い記事ですが、「マーリン通信」の「チュウヒ類」フォルダーの一番下の記事(2001.11.30付けの「伊良湖岬のハイイロチュウヒ」をごらんください。

 30数年間伊良湖岬へ通っていますが、他のタカ渡り地点にも行きたい…とか、シギ・チドリもじっくり見たい…とか、そんな軟弱なことを言いながら、結局秋の伊良湖岬へはたいした日数は行けませんでした。そんな観察日数ですが、渡りの後期、ハイタカのよく渡る時期に行っていましたからちょくちょくハイイロチュウヒを見ています。伊良湖ビューホテルの駐車場から、あるいはその東側のサイクリングロードの路上でよく見ました。秋のハイイロチュウヒはサシバやハチクマと同じ方向に、すべて東から出現して西方向へ飛んでいきました。タカ渡りネットワークのWebページにもハイイロチュウヒの記録がありますが、いわゆる「逆行、逆向き、戻り」という記述が見られないので、サシバやハチクマと同じ向きだろうと考えています。春の渡りについては私の観察日数が少ないこともあって、伊良湖岬で春のハイイロチュウヒの渡りはまだ見たことがありません。

 

 さてこの画像のハイイロチュウヒは春のハイタカのように西へ西へと移動して朝鮮半島を北上して生まれ故郷へ帰っていったのでしょうか。たった18kmという距離の移動でそこまで考えてしまうことはかなり乱暴な考えで、飛躍しすぎた大胆すぎる推論かもしれません。秋に北海道から南下した個体が東海地方で越冬し、春に西日本を通過して九州から朝鮮半島に渡って北へ帰るという、日本海を半年でぐるっと一周するような渡り経路ですが、まったくトンチンカンな話ではないと思います。

 あるいは、今回の18kmという移動距離はたいして長い距離ではないので、狩りのために獲物を求めて伊良湖岬の近くまで一時的に西へ移動して来ただけであって、後で再び東方向、さらに北方向へと飛んで、東北地方や北海道を北上してロシアへ渡っていくのでしょうか。この個体がどのようなコースを通っていったのかよく分かりませんが、でもどの可能性に対しても「それはあり得ない!」と一笑に付すようなことや、「東向き、北向きに決まっているでしょう!」などと決めつけることだけはしたくないと思っています。

 目立つ初列風切が右翼だけ2枚も欠けているというかなり特徴的なハイイロチュウヒですので、全国のどこかでこの個体が観察・撮影されていてもおかしくはありません。もし観察・撮影されていれば、東海地方から北海道方面へ行ったのか、あるいは、東海地方から九州方面へ行ったのかが分かり、渡りの経路がかなりはっきりとしてきます。この個体の観察や撮影をされた方がいらっしゃいましたら、画像を添付してこの通信の表紙の一番下にあるメールアドレス宛てにご連絡をいただければ幸いです。

 ハイイロチュウヒの渡りについては情報が少なくてよく分かっていません。「九州でハイタカの春の渡りを観察中にハイイロチュウヒ1羽が西へ飛んだ」等の断片的な話は聞きますが、あまりに情報量が少ないです。複数のハイイロチュウヒに発信器を付けて人工衛星で電波をキャッチするなどして、近い将来、ハイイロチュウヒの渡りのルートが解明されることを期待しています。 

(Uploaded on 14 May 2017)

 (追記)
 この記事を書いて upload した翌日、山口県からうれしい便りが届きました。この一つ上にある記事「愛知県で越冬したハイイロチュウヒ 朝鮮半島へ!」をお読みください。

(追記:Uploaded on 22 May 2017)

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チュウヒ V字飛翔は難度が高い


 いつも「マーリン通信」をご訪問いただき、ありがとうございます。

 「マーリン通信」のWeb版を発信し始めてから、一昨日でちょうど20年になりました。20年ほど前の最初のうちは自宅のパソコンをインターネットにつないでいる方の数がひじょうに少なくて、閲覧数はあまり多くありませんでした。10年ちょっと前はインターネットにつなぐ人が増えはじめ、また、ネット上のサイトがそれほど多くなかったこともあって、けっこう閲覧数が多かったです。最近は野鳥関係のサイト数が多くなり、中でも画像掲載を目的とするブログが急激に増えてきました。

 そういう中、これからも「マーリン通信」は文章中心で、その説明用に画像を載せるというスタイルを続けていきます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

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 さて本題に入ります。

 チュウヒの成鳥は、ごく当たり前のようにヨシ原の上をV字で飛翔しています。誰もこの飛び方がたいして難しい飛び方だとは思わないでしょうが、実はこのV字飛翔の技術は難度が高く、幼鳥が習得するには時間がかかります。

 7月に巣立った幼鳥を継続して観察しました。ヨシ原のすぐ上や水面上でV字飛翔をしようとして何度もV字の体勢をとり始めますが、ほんのわずかな距離を飛んだだけですぐにバランスを崩し、体が傾いて、羽ばたき飛行に替えてしまいます。幼鳥がV字飛翔の技術を習得するのはなかなか難しそうです。巣立ちから1ヶ月以上経った8月の末になっても、ヨシ原の上でV字飛翔をし始めた後すぐにバランスを崩してしまうところを見ました。ガタガタと飛翔が崩れるというよりも、ダンダーン!と衝撃が走るように、急ブレーキがかかってしまうように飛翔が崩れて体勢が悪くなります。


ヨシ原上空でV字飛翔をしながら、下を向いて獲物を探索中のチュウヒ Circus spilonotus ♂成鳥

 

 アイススケートのイナバウアーは、上手な人がやっていると、すごく簡単そうに見えますが、実はひじょうに難しい技だそうです。「下手な人や素人がまねをすると腰などの筋肉を痛めたり、バランスを崩してガタガタとして倒れこんでしまうから絶対にやらないでください」 とテレビで解説者が言っていました。チュウヒのV字飛翔も同じようで、どのチュウヒもごく普通にV字で飛んでいますので、この飛び方は簡単そうに見えますが、実は難しいです。

 よくよく考えてみると、チュウヒに限らず人間が習得する技術も皆そうかもしれません。一輪車や自転車は、乗れない人は乗れないのですが、習得していったん乗れるようになると体が覚えていますので一生乗ることができます。これと同じで、チュウヒも一度V字飛翔を習得してしまえば、きっと、一生どうってことはないのでしょう。

 

今年6月、環境省から 『チュウヒ保護の進め方』 という調査マニュアルが出ました。ダウンロードは環境省のWebページで、

【 チュウヒ保護の進め方 (PDF1.2MB) 】です(このPDFファイルはフレーム内の表示ができませんので、シフトキーを押しながら左クリックしてください)。

 本文中に7か所だけですが、(若杉 1982) と引用されています。

(Uploaded on 1 November 2016)

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冬のチュウヒ類 ニンジン畑をヨシ原の代わりに


 2013年1月12日、愛知県Y川の河口へ行きました。干拓地の端っこに車を止めてじっと干拓地全体のようすを見ていました。すると、9時40分、上面や尾羽に灰色の部分が多いチュウヒ Circus spilonotus ♂成鳥が飛来し、ニンジン畑の畝(うね)と畝の間にすっと入りました。初めは頭だけが見えましたが、すぐに頭も見えなくなってしまいました。9時45分には別のチュウヒ♂成鳥が飛来しました。この個体は先ほどの個体ほど灰色味が強くなく、やや茶色っぽい個体です。尾羽の一部は灰色でした。先ほどの個体と同じように、この個体もニンジン畑に足からすっと入りました。頭だけをずっと出していましたので、1羽のハシボソガラスが、急降下攻撃を繰り返しました。チュウヒはそのつど頭を引っ込めました。頭を出すとすぐにまた攻撃されるということの繰り返しでしたので、そのうち、頭を出さなくなりました。カラスがよそへ行ってしまったあとで、再び頭を出しましたが、周りを見渡したあとですぐに隠れ、この個体もその後、姿を現しませんでした。


このニンジン畑にチュウヒ Circus spilonotus が少なくとも2羽いる

 

 ニンジン畑に潜むハイイロチュウヒについて、この左目次の「チュウヒ類」フォルダーの中の「07.02.11 ハイイロチュウヒは忍者?」でも書いたことがあるのですが、以前から、チュウヒ類とニンジン畑は何かと縁があると感じています。ある野鳥の会の人にこのことを話すと、「そうですか?」という感じの反応でしたが、私はいままでに何度もこんなようすを見ています。ニンジン畑は、他の野菜の畑と比べると背丈が高いので、チュウヒ類が隠れるには、うってつけの場所なのです。タマネギ、ダイコン、白菜やキャベツ、その他の野菜も栽培されていますが、どの野菜もニンジンほどの背丈にはなりません。どういう理由か知りませんが、農作業をする人もニンジン畑の畝は高く作っています。これらのことから、チュウヒ類は冬季、干拓地の真ん中にあるニンジン畑をヨシ原の代わりに使っているのではないかと私は考えています。

 ニンジン畑の観察中に、ハヤブサ幼鳥が中型鳥類を襲うところを見ましたので(前回のマーリン通信で報告)、このニンジン畑に注目し続けることはできなかったのですが、でも、チュウヒがこの畑から出たようすはありませんでした。私は11時ころにこのポイントを離れましたが、それまでチュウヒは外へ出ていません。2羽のチュウヒ♂成鳥は、ニンジン畑の中で何をしていたのでしょうか。じっとしていたのか、眠っていたのか、それとも畝と畝の間を歩いていたのか、それはよく分かりません。ひょっとしたらこのニンジン畑に、この2羽の他にも何羽かのチュウヒやハイイロチュウヒがいたのかもしれません。

(Uploaded on 25 January 2013)

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ハイイロチュウヒは忍者?


 2007年2月10日、愛知県のY川の河口にある干拓地へ行きました。午前中の4時間で、コチョウゲンボウやハヤブサなど、8種類のタカを見ることができました。ハイイロチュウヒは非♂A(幼鳥かメスの成鳥)が、計3羽出ました。

 すべて別個体ですが、その内の一羽が、変わった動きをしました。その個体は、はじめ、木の切り株の上にじっととまっていました。しかし、私が車で少し近付いたら、それを嫌って、飛び立ち、少し飛んで、近くのニンジン畑におりました。畝(うね)と畝の間に下りて、全く姿を見ることはできません。じっと見ていましたが、あまりに長時間、動きがないので、「そんなに近付くと、また飛び立たれてしまい、追いかけ回すようなことになって、申し訳ないな」と思いながらも、車で近付きました。すると、下の図のように、はじめ下りたところとかなり離れた畑の向こうの方から飛び立ったのです。


ハイイロチュウヒ Circus cyaneus の動き 

 

 図の点線の部分は、見ていたわけではないですが、でも、何らかの動きがないとそこまで行けません。じっと見ていたので、飛んでいったということはありません。すると、あくまでも想像ですが、点線の部分は歩いたとしか考えられません。ニンジンの葉はけっこう生長していて、畝と畝の間は、そんなに歩きやすいような所ではありません。ちょうど、キジが人気に気づいて逃げるときに、草と草の間を忍者のように歩いてかなり遠くまで移動していくところをよく見ますが、なんかそんな動きだったような気がしてなりません。ニンジン畑の畝と畝の間をハイイロチュウヒが歩く! 想像するだけでもおもしろかったです。顔も忍者のような顔ですし…。

(Uploaded on 11 February 2007)

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東海地方で繁殖するチュウヒの♂成鳥♀成鳥♂幼鳥♀幼鳥 簡易識別表


 図鑑の説明を読んでも、チュウヒ Circus spilonotus の雄・雌・成鳥・幼鳥の区別はひじょうに分かりにくいです。そこで、少しでも分かりやすいようにと、私見を交えて一覧表にしてみました。私の目標はいつも、上から3つまでの項目(視点)で識別することですが、簡単に識別できる時ばかりではありません。4つ目以下の視点も補助的に使っています。なお、表は東海地方で見られるチュウヒ、すなわち、今まで「国内型」といわれていたチュウヒの識別表です。よく大陸型と呼ばれているチュウヒや、北日本と大陸にまたがり繁殖するチュウヒにはあてはまりません。

 表は、まだ作成途中です。新しい知見が得られれば改訂していきます。ご意見をください。よろしくお願いいたします。

東海地方で繁殖するチュウヒ Circus spilonotus 簡易識別表 
(大陸型と呼ばれるチュウヒや、北日本と大陸にまたがり繁殖するチュウヒにはあてはまりません)  Ver.4 (2017.7.29 若杉稔)

視  点 ♂ 成鳥 ♀ 成鳥 ♂ 幼鳥 ♀ 幼鳥
相対的な頭の大きさ 体の大きさに比べて頭が大きい 体の大きさに比べて頭がやや小さい 体の大きさに比べて頭が大きい 体の大きさに比べて頭がやや小さい
体の重量感 ♀より軽い感じがする ♂よりも重量感がある ♀より軽い感じがする ♂よりも重量感がある
翼の幅広さ ♀成鳥より幅が狭い ♂成鳥より幅が広い ♂成鳥より幅がやや広い ♂成鳥より幅が広い
次列風切の後端 換羽しているので後端がでこぼこしている個体がいる 換羽しているので後端がでこぼこしている個体がいる 換羽していないので後端がきれいにそろっている 換羽していないので後端がきれいにそろっている
Vの字の角度 低空を飛行時、Vの角度が急 低空を飛行時、Vの角度が♂成鳥よりゆるい 低空を飛行時、Vの角度が♂成鳥よりゆるい 低空を飛行時、Vの角度が♂成鳥よりゆるい
虹彩の色 黄色 成鳥になっても初めは褐色。3歳前後で黄色に変わるが、4歳以上でもまだ茶色い個体がいる 褐色。0歳の冬(第1回冬)に黄色っぽくなる個体がいる 褐色
全体としての色合い 雌成鳥や幼鳥と比べるとやや鮮やかで灰色部のある個体が多い 多くは全身が茶色っぽい個体だが、白い部分の多い個体もいる 頭や胸、小雨覆がクリーム色、他は褐色で、斑のない(少ない)個体が多い 頭や胸、背、雨覆全体などのクリーム色の面積が♂幼鳥よりも広く、他は褐色で、斑のない(少ない)個体が多い
尾羽の色 全部または中央尾羽が灰色の個体がいる 尾羽に灰色は出ない 尾羽に灰色は出ない 尾羽に灰色は出ない
上尾筒の色 白い 上尾筒の白い個体はいない 上尾筒の白い個体はいない(1歳の換羽からか?) 上尾筒の白い個体はいない
鷹斑 初列風切の先端以外と次列風切全部に鷹斑がある 鷹斑のない個体が多いが、初列風切全部の端から端までとS1~3などに鷹斑のある個体がいる ごくわずかに鷹斑が見られるが淡い ごくわずかに鷹斑が見られるが淡い

(Uploaded on 6 February 2005、Version up 29 July 2017)

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大陸型と呼ばれるチュウヒ♂成鳥 の分布域は?


 2004年12月26日、愛知県のK川河口にある干拓地へコチョウゲンボウを見に行きました。いつものように夜明け前に現地につき、2地点で、ほぼ定点のような観察をしました。寒い朝でした。晴れたり曇ったりの天気で、最高気温が8℃までしか上がらなかったのですが、風がそれほど強くなかったので観察は比較的楽でした。でも、車の外で立ちっぱなしの状態は2時間半が限度でした。車の中から見ていればいいのですが、やはり見晴らしがよくないので、ついつい車の外へ出て堤防の上にあがってしまいます。夜明けから2時間半で見られたタカ類・ハヤブサ類は、ミサゴ、コチョウゲンボウ、ノスリ、ハイイロチュウヒ、チュウヒ、オオタカ、トビの7種でした。昼過ぎには、林縁部に突っ込むハイタカを見ましたが、いるはずのハヤブサやチョウゲンボウ等は見ませんでした。

 ミサゴは、連なった電柱のてっぺんに飛び飛びで5羽いました。うち1羽は何かを食べていました。堤防の上ではなく電柱の上に5羽が一直線に連なると壮観です。5羽はみな態度、表情が違いました。

 コチョウゲンボウは♂成鳥が1羽だけでした。ヨシ原から耕地へ現れて、オオジュリン等の小鳥を次から次へと襲い、ある瞬間に姿を消しました。きっと、獲物を捕って、耕地に下りたのでしょう(推測)。背面の青色が朝日に映え、角度によってはキラッと輝いて、実に美しく見えました。カワセミの背中にある縦のコバルトブルーのような印象でした。江戸時代、コチョウゲンボウの♂成鳥は「青刺羽(あおさしば)」と呼ばれていましたが、色・翼の先の形・飛行が、まさにその通りで、実にすばらしい命名だと改めて感心しました。

 ノスリは、暗いうちから電柱のてっぺんにじっとしていましたが、カラスに追われてヨシ原へ入っていきました。このノスリはコチョウゲンボウとは逆で、耕地の電柱で寝て、ヨシ原へえさを捕りに行ったようです。

 ハイイロチュウヒは、非♂Aが1羽のみ。獲物さがしでしょうか、低いところをジグザグに飛んでいました。

 チュウヒは2羽のみ。1羽は飛んで、近くのヨシ原の灌木にとまり、いつまでもじっとしていました。(1羽は後述)

 オオタカは、背面が一般的なメスのように茶色い♂成鳥が1羽出ました。樹林帯の南側の温かい陽当たりのよい木の枝にとまって、手袋を引いたり(片足を胸の下で丸め、反対の片足だけで立つこと)、羽づくろいをしたりして、のんびりとしていました。でも、たった7分間で飛んでいきました。

 トビは3羽しか見ませんでしたが、みな幼鳥~若鳥でした。

 さて、この日のチュウヒ2羽の内のもう1羽は、ふだんこの地域ではあまり見かけない色彩をした個体でした。大陸型♂成鳥と言われている個体です。午前9時15分頃でした。私は高い堤防の上にいました。この個体は、私の目の前を目線程度の高さで、南から北へ低く飛びました。下面は、翼の先を除いてほぼ全部(体も翼も)が白っぽい色でした。上面は翼の先が黒く、体の一部分がうすい茶色。頭部が茶色。その他(翼)はきれいな灰色でした。図鑑「日本のワシタカ類」の307ページの26番の写真によく似ていますが、背中はこの写真よりもかなり淡く見えました。陽が差していたので、白と灰色が実にきれいでした(写真はありません)。

 大陸型と呼ばれるチュウヒは九州地方や中国地方、北海道などで見られます。石川県の河北潟でも、少ないですが時々見られているようです。その他の地方ではどうでしょうか。たとえば、朝鮮半島から渡ってきた個体はどの程度の所まで、つまりどの程度東のほうまで移動しているのでしょうか。静岡県、関東地方、北陸地方に住んでいらっしゃる方、情報をお持ちでしたらぜひ教えてください。

(Uploaded on 27 December 2004)

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1982年 鍋田でチュウヒが繁殖


 これは、1982年の文章です。内容は野鳥園を訪れる一般の方向けに中学生でも分かるように書いて欲しいといわれて書いたものですから、専門の方には満足がいかないものと思います。多少は役に立つかもしれませんが…。

 当時、チュウヒ Circus spilonotus は本州の太平洋岸ではまだ繁殖していないとされていました。

 イラストは私のメモを見ながら、野鳥園の職員の方が書かれたものです。

 以下、愛知県弥富野鳥園事務所「野鳥園だより」第17号(1982年9月発行)から。

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      鍋田でチュウヒが繁殖

 野鳥園の周辺は野鳥の多い所として全国的に名が知られています。この鍋田干拓地内で今年はじめてチュウヒが繁殖しました。チュウヒはワシタカ科 (注:今はタカ科) の猛禽で主としてアシ原で生活し、ネズミ、小鳥等を食べています。大きさはカラスぐらいで、雄より雌のほうがやや大きくなっています。今まで、チュウヒの繁殖は北海道のほか本州の一部(青森県、秋田県の八郎潟、石川県の河北潟)のみで少数が知られているにすぎませんでした。又本州の太平洋岸では繁殖していないとされており、冬鳥として渡ってくるのみでした。

 今年(注:1982年)の3月23日、筆者は野鳥園の観察指導員として三階の展望室から観察中に、偶然にも繁殖のためのディスプレイ飛行を見ることができました。この飛行には2種類あって、図1は、メス(左)が輪をえがいて帆翔しているすぐ隣りで、オス(右)が波状飛行をしている所です。又、図2は、実にダイナミックなアクロバット飛行で、数十メートルの高さから垂直に降下し、地面近くであわやという時に急旋回急上昇をするというものでした。その他にこの日は、園内のアシを刈り取った平地で枯れたアシを口にくわえ、飛び上がった直後に足でつかみなおし、すぐ近くへすてるという巣づくりの準備のような行動も何度か見ることができました。

 

 

 その後、なかなか鍋田へ行く機会に恵まれず1月以上がたち、5月5日(子どもの日)にやっと巣 の位置を確定することができました。オスが現れ、アシ原の上空を何度も旋回したあと、アシ原の中のある一点に垂直に降りました。そしてすぐ飛び立ちましたが、その後メスが同じ点から舞い上がり、上空を旋回したあと近くの木の枝にとまりました。オス、メスが全く同じ所ヘ降りたり飛び立ったり……というわけで、巣がある事はまちがいありません。長ぐつをはいて、アシ原の中を分け入ってみても5月2日から4日にかけて降った大雨のおかげで進入することもできず残念でなりませんでした。

 5月8日に野鳥の会のK氏より、チュウヒのオスがメスに空中で獲物を渡しているという報告を聞 き、翌9日早朝、観察に行きました。午前4時半すぎにオスが飛び立ち、5時半ごろ、近くのカワ ヤナギの枝上で交尾をしました。並べて見るとオスはメスよりもずっと白っぽく、腰がくっきりと白く見えます。

 メスは、腰が茶色く、風切羽が左右対称で1枚ずつ抜けていました。8時半ごろ、オスもメスも同時に飛び立った短い時間中に、アシ原に分けて入り、一巣4卵を確認することができました。(写真1)

 

 

 巣の大きさは、全体が68×60cmで厚さ20cm、産座は23×20cmで深さ6cmで、地上から30cmの高さに作られてあるので、雨が降っても大丈夫になっています。卵の大きさ等は表1のようです。チュウヒは多産で7~8個産む例が多く報告されていますが、4つと少なかったようです。

 

 

 抱卵はいつもメスで、オスは巣から50mほどのカワヤナギの枝上で、終始見張りをしており、時 々メスのために獲物を捕りに行っていました。巣の上をコアジサシ、キョウジョシギ、モズ、オオヨシキリ、コチドリ、ゴイサギが、かなり低空飛行してもオスは少しも追い払おうとしないが、カルガモに対しては猛烈に攻撃をくり返していました。ケリがすぐ近くで2ペア営巣していたので、よくオスが攻撃をされていました。ダンプカーが通るために作られた幅数mの道路からほんの20mしか巣は離れていませんでした。

 5月16日には、ヒナが1羽ふ化していました(表紙写真)。スズメよりやや小さく、頭でっかちで、 目をあいたりつむったりの状態、純白のうぶ毛に包まれていました。ヒナとは言え、嘴はしっかりしており、タカの子供としか見えませんでした。オスはこの日もさかんに巣材を運んでおり巣の補修をしていたものと思われます。

 その後ヒナの成長と、他の卵のふ化を期待して、極力親鳥を刺激しないように遠くから観察していたにもかかわらず、5月22日には、ヒナが死亡し、親鳥も姿が見えなくなってしまいました。新しい営巣地を開拓して繁殖したチュウヒにとっては余りにも難しかったのか、それとも何か事故があったのか、それはわかりませんが、何とかして来年こそは若鳥が無事巣立って鍋田の空を飛んでくれることを願わずにはおられません。

 (本記録は、日本野鳥の会愛知県支部 若杉稔さんより提供されたものです。)

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以上、「野鳥園だより」から。文中のヒナの写真(表紙写真)は省略しました。
なお、この時の巣は、今も弥富野鳥園の2階に展示されています。
また、このレポートは、森岡さんら4名著の『図鑑 日本のワシタカ類』の 320~321ページに引用されています。第1版の7ヶ所の「若林」は「若杉」の誤植です。第2版では訂正されています。

(Uploaded on 10 February 2003)

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伊良湖岬のハイイロチュウヒ


 私は愛知県に住んでいますが、自宅から伊良湖岬まではけっこう距離があるのでなかなか足繁く行くことができません。秋は仕事の関係もあって、シーズン中に4~5日くらいしか行けません。

 2001年11月4日(日曜)、ハイタカを目当てに伊良湖岬へ出かけました。出発直前の未明までどしゃ降りでしたが、急に雨が止み、星空が現れてきました。気圧配置はタカの渡りに絶好の型でした。つまり、これから高気圧が日本列島に張り出してくること、西風あるいは北西の風が吹くこと、やや風が強いことなどです。

 恋路が浜の他、岬の先端、ビューホテル、サイクリングロード等、いろいろな所へ移動して見ていましたので、この日渡ったタカ類・ハヤブサ類の数ははっきりしませんが、ハイタカ属のタカを中心に約100羽観察できました。ハイタカ属はほとんどがツミで、ハイタカが1羽、オオタカが4羽でした。

 さて、この日伊良湖ビューホテル駐車場で、ハイイロチュウヒ(非♂A)を1羽見ました。東の方から飛来し、ホテルのすぐ北で、宮山を越えて西方向へ行きました。そのまま進んだとすると、岬の先端近くや恋路が浜駐車場上空を通らなかったかもしれません。

 そういえば、以前も同じ場所で、ハイイロチュウヒ(非♂A)を見たことがあります。これも11月でしたが、その時は、東から飛来し、ちょうどビューホテルの駐車場とホテルの建物の上空低いところを通過し、海の方へ出て行きました。この日の恋路が浜での観察グループのカウントには、ハイイロチュウヒは記録されていませんでした。恋路ヶ浜駐車場の上空を通らずに海の方を渡って行ったのでしょうか。

 この2例だけから結論付けることはできませんが、恋路が浜駐車場上空を通らずに伊良湖岬周辺を西へ渡って行くハイイロチュウヒがある程度いるかもしれません。

(Uploaded on 30 November 2001)

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