| 更新月日 | タ イ ト ル |
|---|---|
| 17.10.01 | オオワシの尾羽は14枚 |
| 16.01.16 | 水辺のワシタカ類 その観察の魅力 |
| 14.03.07 | タカ類が巣内ビナを食べる (1) オオワシ |
世界中のほとんどの鷹隼類の尾羽は12枚です。日本産のタカ類・ハヤブサ類の尾羽も、オオワシの14枚を除いてすべて12枚です。
昔、北海道の猟師たちはオオワシのことを、「14枚」と呼んでいたそうです。空を飛んでいるオオワシを見て、「あっ、14枚が飛んでいる。14枚が近づいてくる!」 などと言っていたそうです。オオワシを見ても、尾羽にしか興味がなかったのでしょうか。矢羽には大形の鳥類の羽が使われますが、その中でもワシ類・タカ類の尾羽は希少価値や美術価値が高いこと、性能がよいことなどから最上級品として珍重されていました。高価な矢羽になる尾羽ですから、2枚多く取れるというのは、現銀収入(現金収入)が多くなり、猟師にとっては貴重でありがたいものだったようです。
なぜオオワシの尾羽が14枚あるかは謎です。
タカ類以外の例では、亜種トラツグミの尾羽は14枚あります。ずいぶん前、1982年1月12日のことです。私の家の近くの小学校の窓ガラスにトラツグミが当たって死んだということで、私の自宅に届けられました。確かに上嘴と下嘴がずれ、口内には出血の痕がありました。体の隅々まで調べ、写真撮ったり計測したりしましたが、この時、尾羽が14枚あることに気がつきました。トラツグミの尾羽がそもそも14枚あるということを知らなかった当時の私は、「おかしい。小鳥の尾羽は12枚のはずだ。突然変異なのか、異常個体なのか。ホルモンバランスか何かが狂って14枚になっちゃったのか。変だ」などと勝手にいろいろ想像していました。ある日、ある図鑑を見ていたらそこには、「トラツグミの尾羽は14枚ある」とちゃんと書いてありました。
ところが、同じ種トラツグミでも鹿児島県奄美大島に留鳥として生息する亜種オオトラツグミの尾羽は12枚です。14枚の亜種トラツグミと12枚の亜種オオトラツグミがほんとうに同種なのか別種なのか、また、こういう例は他にもたくさんあるのかよく分かりません。オオジシギの尾羽の枚数が多いのはなんとなく理由が分かりますが、多くの鳥の尾羽が12枚であるのによく似た種や亜種に稀に14枚の尾羽を持つ種や亜種がいる理由はよく分からないです。
話をオオワシに戻します。ある日、鳥の羽根の図鑑を見ていて、あれっと思いました。そこにはこんなふうに書かれています。
オオワシ
初列風切羽 11枚 (←注)
尾羽 12枚 (←注)
(注 : 正しくは、オオワシの初列風切 10枚、尾羽 14枚です)
どうしてこんな間違いがあるのかと思いながら他の鷹隼類を見てみると、トビのところには次のように書かれています。
トビ
初列風切羽 11枚 (←注)
次列風切羽 10~13枚
尾羽 10~13枚 (←注)
(注 : 正しくは、トビの初列風切 10枚、尾羽 12枚です)
ハイタカ属以外のタカ類の初列風切の枚数は11枚かもしれないという見方が一部でありますが、この「P11」と称されるような羽は、風切なのか雨覆なのか分からず、しかも小さすぎて外からはまったく見えないので、通常、「タカ目の鳥の初列風切の枚数は10枚」とされています。このことを踏まえた上での「11枚」という記述であれば完全には否定できませんが、そのようなことは一切触れられていませんし、「P11」?という羽がまったく見えないだけではなく風切か雨覆かどちらかも分からないような状態ですから、「それでも11枚」と言われると困ってしまいます。
次列風切の枚数は、
① 次列風切が三列風切と区別がつきにくいこと
② 鷹隼類の三列風切は次列風切よりも短いこと
③ 三列風切の羽柄(羽のいちばん付け根部分)がどの骨に付着しているのか分かりにくいこと
などから、正確なことが言えないので、枚数はあまりしっかり調べられていないようです。
翼の長さが長い種や大形の種は一般的に次列風切の枚数も多いので、「次列風切の枚数+三列風切の枚数=何枚くらい」というような記述になってしまいます。
さらに、次列風切の枚数は同じ種であっても個体によって変異がありますので、はっきり何枚と断定的に言うことはさらに難しいようです。
タカ目以外の鳥のことが気になったので鷹隼類以外のページも見てみましたが、この図鑑に取り上げられているすべてのスズメ目の鳥の初列風切は一種の例外もなく9枚になっていました。小鳥類のP10はタカ目の鳥のP11に関する議論とはまったく違って、雨覆ではなく明確に風切と認められていますので、「初列風切の枚数は10枚」とする書籍が多いです。退化してかなり短いP10を持つ種がいたり、中にはP10が見えにくい種もいますが、でも、ないわけではないですので枚数は10枚としたほうがよいと思います。
この図鑑の初版は1995年ですが、今は決定版という名の改訂版が出ているようですので新しい版ではひょっとして直っているかもしれませんが、出版社からは初版の「正誤表」は出ていないようです。
(Uploaded on 1 October 2017)
バーダー2016年2月号は、「水辺のワシタカ類」の特集号です。下の写真は表紙です。
BIRDER 2016年2月号「水辺のワシタカ類」特集号 表紙
特集の部分のタイトルのみ、以下に紹介します。
[特集] 水辺のワシタカ大図鑑
・ 水辺のワシタカ類 その観察の魅力 文・写真=若杉 稔
・ 北海を統べる勇壮な翼 ~海ワシ モノグラフ~
文=先崎啓究 写真=先崎啓究・先崎愛子
・ オオワシ、オジロワシが美しく撮れる場所はココだ!
特選 道東海ワシ観察地ガイド 文・写真・動画=戸塚 学
・ あえて本州でオオワシとオジロワシを見るためのガイダンス
- 琵琶湖(滋賀県) 文・写真=池田昇平
- 諏訪湖(長野県) 文=林 正敏
- 三陸海岸(岩手県) 文・写真=関川 實
- 中禅寺湖(栃木県) 文・写真=野中 純
- 佐渡島(新潟県) 文=岡久雄二 写真=近藤健一郎
- 対馬(長崎県) 文・写真=杉原 敏
・ 高空より舞い降りるフィッシュハンター ~ミサゴ モノグラフ~
文=先崎啓究 写真=先崎啓究・原 星一・伊関文隆
・ AF機能をしっかり理解すれば、飛び込みシーンもモノにできる!!
ミサゴの「野性の瞬間」を撮る 文・写真=松木鴻諮
・ 響灘ビオトープに作られた“ミサゴポール”とは?
文=三上 剛 写真=響灘ビオトープ
・ 海岸防風林で繁殖するミサゴたちの事情 文・写真=原 星一
・ どこか牧歌的、でも爪を隠した能あるタカ ~トビ モノグラフ~
文・写真=先崎啓究 写真=先崎啓究・先崎愛子・伊関文隆
・ トビはなぜ“タカより下”に見られたのか? ~昔話の中に描かれた鳶の姿~
文=山下桐子
・ 2か月間バーダーを楽しませてくれた葛西のミサゴ 文・写真=鈴木弘行
・ 北海道の海ワシ類 ~オオワシ、オジロワシを取り巻く現状~
文・写真=手嶋洋子
・ (特集外連載) 鳥の形態学ノート ~ミサゴ 魚食適応~ 文・イラスト=川口 敏
18~19ページの、「水辺のワシタカ類 その観察の魅力」 は、下のようなレイアウトです。
なお、著作権は文一総合出版にありますので、上の画像は解像度を低くして、画像を拡大しても文字は読めないようにしてあります。
時間があったら、ぜひ、ご覧ください。1月16日発売です。
筆者が今までに「バーダー」誌に書いた文章は、下記の通りです。今も購入できるバックナンバーがあります。
BIRDER 1999年11月号の 66ページ 「Net で GO! GO! GO!」 マーリン通信の紹介
BIRDER 2010年 2月号の 76~77ページ 「拝啓、薮内正幸様 ♯26」
BIRDER 2012年 9月号特集の頭 8~9ページ 「ハヤブサとはどんな鳥か」
BIRDER 2012年12月号特集の頭 6~7ページ 「冬のタカ観察の魅力とは?」
BIRDER 2013年 9月号特集の中 20~21ページ 「ハイタカ属とはどんなタカたちか?」
BIRDER 2014年 9月号特集の頭 4~5ページ 「夏鳥としてのサシバとハチクマ 観察の魅力」
BIRDER 2014年 9月号特集の中24~25ページ 「サシバの幼鳥は何をしに日本へ来るのか?」
BIRDER 2016年 2月号特集の頭18~19ページ 「水辺のワシタカ類 その観察の魅力」
(Uploaded on 16 January 2016)
(11年前の記事を取り出して、新たな記事 (2) と合わせて2回シリーズで紹介します。上達法のシリーズもまだ続きます)
2003年3月2日、午後から少し暇ができましたので、4つある私のフィールドの内の一つにぶらっと出かけました。到着してしばらくした3時15分、くちばしが大きくて黄色いワシがこちらに向かって飛んできました。西日に当たってくちばしだけがやけに目立っていました。かなり距離がありましたが、どう見てもオオワシです。
2キロほど離れた愛知県森林公園の岩本池に向かったようです。この池の端にはカワウの大きなコロニーがあって、ちょうどその頃は繁殖期の真っ盛りでした。オオワシのいるあたりからカワウが四方八方に飛び去り、その数200羽ほどにもなりました。しかも、どのカワウも落ち着きがない飛び方で、たまたま私の頭上を通過したカワウは頭をさかんに右や左に振って、ひどく狼狽しているようでした。
この日の私の観察が今回の飛来では初だと思っていたのですが、その2日前に岩本池に来ているところを、森林公園の職員の方が観察されたようですので、2月28日初確認・飛来ということになっています。私の住んでいる尾張旭市ではそれまで記録がありませんでしたので、初記録です。
さてこのオオワシが3月13日、営巣中のカワウのヒナを食べたようすを紹介します。
数年前、この池にオジロワシが来たことがあります。その時のオジロワシは、カワウの巣の下に落ちている魚を拾って食べるところを何回も見かけましたので、細々と生きているという印象でした。ところが、今回のオオワシは、カワウの親を無理やり巣から追い出し、抱いていたヒナを巣の上で食べてしまいました。偶然このことを観察し、証拠写真を撮ることができました。下の写真はフィルム写真です。日没直前で完全な逆光でしたので、かなりベールをかぶったような画質で、おまけに暗くてピントも甘いのですが、なんとかその様子が見えると思います。左と右の巣は同じカワウの巣です。営巣木の枝とその向こうに見える横向きの枝をくらべてください。ヒナをオオワシに捕られる前に、たまたま、同じ巣をカメラに納めていました。夕方5時22分、オオワシは巣の中で激しく抵抗するカワウの親を追い払い、巣の中に入ってそのヒナを食べ始め、くちばしが真っ赤になりました。食べ終わるのに約30分かかりました。ヒナの数ははっきり分かりませんでしたが、少なくとも2羽を食べるところまで確認できました。
動物の行動を人間的な感情で観察することは適切ではないと思います。タカ類の行動を見て、「これは非紳士的だ」、「アンフェアーだ」などと、いろいろ言う人もありますが、猛禽類が他の猛禽類のヒナや他の鳥類のヒナを食べることは、とりたてて珍しいことではなく、しばしば見られることです。次回 (2) では、サシバの例を紹介します。
(Uploaded on 7 March 2014)