たたら製鉄(鉄づくり)に取り組んでみよう
−小たたら操業の方法とそのポイント−

天 野 武 弘


1・はじめに

 私が鉄づくりに挑戦するようになってすでに20年が経とうとしています。岐阜県関市の刀匠大野兼正氏の指導を受けたのが発端で、以来ほぼ毎年1〜2回、小たたら炉による鉄づくりを、私の勤務校である愛知県立豊川工業高校において生徒とともにおこなっています。
以下、私がおこなっている、たたら製鉄(鉄づくり)について紹介します。


2・私のたたら製鉄の目的


 私のたたら製鉄の目的は、一つは学校の授業として取り組むことであり、誰もが授業化できる操業法を確立することである。授業では驚きと感動のある内容が求められているが、鉄づくりはまさにその要素を備えている。砂鉄原料から製品である鉄をつくり出すという授業は、普段体験できない内容だけに驚きと感動を生徒に与えることが多い。ものづくりの楽しさ、成就感もまた十分に味わえる内容である。しかし、準備と操業で一定の時間が必要となることから、通常の授業時間帯では困難をともなう。また実施してみたいと思っても、操業法が一般化していないこともあり、たたら製鉄は難しいというイメージが先行し、実施にまで行き着かないことが多いと思われる。
だが私は、鉄づくりは量と質さえ問わなければ誰にでも実施は可能と考えている。文化祭などのイベントとして、また工業高校の実習や課題研究の授業として、誰もが取り組める操業法を一般化すること、いわゆる小たたら操業のマニュアルづくりが一つの目標である。
 二つめの目的は、技術史の授業に活かすことである。鉄の量と質を問わないと言ってもその考え方や操業準備などの背景が重要である。なかでも鉄が貴重品であった歴史的な事実と、その役割について一定の理解を求めておくことが、鉄づくりに取り組む姿勢に影響を与える。私はかねがね技術史を授業化することの必要性を感じ、座学の中で時間を割いて実施してきたが、身近な話題や、歴史的な体験をともなうときにはより効果が大きい。「何日も苦労した割にはできた鉄が少ない」という声は、体験してはじめて出てくる言葉である。私にとって鉄づくりは絶好の技術史教材となっている。
 三つめの目的は、古代製鉄の実態を操業を通して検証、解明することである。これまで数多くの古代製鉄炉の発掘がされ、その形態が明らかになりつつあるが、操業面からその形態が検証されたことは極めて少ない。古代製鉄の操業法がわかっていないということもあるが、発掘例に基づき古代製鉄炉を復元し、ケラやのろ(スラグ)の分析などもおこないつつ、実験的に検証することは重要である。そのことが古代製鉄の実態を解明することにつながると思うからである。これからの私の課題でもある。
 まだ課題は多く、やり残していることが多いが、ここでは、私が実施している鉄づくりの方法、鉄づくりのポイントを主に述べる。

2・課題研究における鉄づくり

私の勤務する豊川工業高校では、1988年度から課題研究という授業が試行されている。課題研究は教師主導型から生徒の主体性に重きをおき、課題解決型の授業として設置された新科目である。小グループに分かれておこなうという工業高校では実習に近い内容をもつ科目であるが、テーマ設定では生徒の希望で決めることができるなど、比較的自由度の大きな内容を持つ科目である。
 授業形態は、本校では午後の3時限の連続授業として、最近までは年間16回程度実施していた。1996年度からはさらに実施時数が増え、年間を通した授業となっている。クラスを5班に分け、班ごとに一人の先生がつき、1班6〜8人で構成している。
 この課題研究で、私はたたら製鉄を主とする内容で取り組んでいる。年によって差はあるものの生徒たちには珍しさもあってか、比較的好評のうちに実施することができている。
まずは、豊川工業高校の課題研究における鉄づくりの概要を述べる。


(1)原料砂鉄の準備
はじめに鉄の歴史を一通り学習したのち、スライドやビデオを中心にして、過去の課題研究における鉄づくりの様子を学習。
 砂鉄採取は、課題研究の授業時間に、豊橋市城下海岸(渥美半島太平洋岸)までワゴン車にメンバーを乗せて1時間ほどかけて出かける。渥美半島の砂鉄の堆積は少なく、大型の磁石で約20〜30kgを採取するのに夕方までかかることが多い。そして操業までに、精選、水洗をしておく。また砂鉄の粒度試験、顕微鏡観察、着磁試験などを適宜おこない、砂鉄の性状をつかまえておく。
なお、砂鉄は一貫して渥美半島のものを採取している。この理由は、愛知県三河地方の鉄づくりの可能性を実験的に探ることを一つの目標にしていることからである。それは、三河地方ではこれまで古代製鉄炉の発見がされていないということに起因している。そのため、原料砂鉄だけでなく、燃料木炭、炉材のすべてを地元のものを用いることを条件にして実施している。

(2)燃料木炭の準備
 燃料の木炭は、愛知県東加茂郡足助町産の松炭または雑炭を購入(180円/kg)し、1回の操業用に70〜80kgを用意しておく。ときには炭窯調査を兼ね、現地に出かける。地元の人の厚い説明に感激するときもあった。
 操業用の木炭は、3〜5cm角の大きさに炭切りしておく。炭切り作業は、砂鉄の精選作業などと分担しておこなうが、体中真っ黒になることもありいやがる作業の一つである。しかし馴れてくるにしたがい意外とおもしろがってやってくれる生徒が多い。

(3)炉づくりの方法
 築炉では、まず赤土練りからはじめる。赤土は建築業者より購入したもの(渥美郡田原町百々海岸産)を使用している。小石などを除いた赤土に藁すさを混ぜ練り始めるが、体力のいる作業に音を上げる生徒が多い。足練りをすすめると躊躇するものの面白がってやり始める生徒が現れる。歓声が湧くひとときである。
 炉の基本構造は大野方式を採用している。羽口本数や炉床の造りなどで生徒の発案も一部取り入れている。炉材は、炉の骨組に煉瓦(耐火煉瓦、断熱煉瓦、赤煉瓦を合わせて約100個ほどを使用、おもに赤煉瓦を使用)を使用する。
炉の基礎となる炉床にはキャスター付の鉄舟を使用する。これは、雨天時を考慮し、移動可能としたもので、課題研究導入時よりずっと用いている方法である。炉床は、保温のため乾いた砂と断熱煉瓦で基礎をつくり、粉炭を敷く。その上に炉の骨組みを煉瓦(8×10段)で構成し、炉の内側と外側を赤土で塗り固める。煉瓦の積み方は、炉壁の厚さを確保するため平積みとし、目地は赤土を使用する。
炉の高さは、炉底に手が入る高さとし、その上に補助炉である鉄製の箱形胴(たて250mm、よこ300mm、高さ500mm、鋼板を溶接で製作)をのせて確保する。また、羽口(インチパイプ、内径27mm)、熱電対測温用鉄パイプ(内径16mm)を煉瓦を積むさいに、煉瓦の間に挿入する。羽口の角度は25〜30度(煉瓦の長手方向の対角線の長さ)ほどにしている。
炉は、3時限の授業時間内につくることにしている。次週に回すと赤土が固まり手直しがしにくくなるからである。したがい赤土、煉瓦、羽口など事前に十分準備しておく必要があるが、ときとして赤土が足りなくなるときがある。大急ぎで練らせるが、こんな時には普段でもどろんこ遊び的な雰囲気に輪がかかってくる。だが、この作業により操業間近との意識が高まり始めることになる。

(4)操業の方法


 
操業は、炉をつくった翌週あるいは数十日の乾燥期間を置いてから実施している。操業予定日が雨天時や夏休みを挟んだときには乾燥期間が長くなる。操業当日の朝、キャスター付きの炉を実習工場内から屋外に出し、火入れをし炭火による強制乾燥にはいる。生徒には7時半までに出校を促す。自然乾燥が短いときは、前日の午前もしくは午後には強制乾燥を始めるようにする。
 操業は午後に開始し、夕方には終了する半日の作業である。そのおよその時間帯は、授業がはじまって30分後の午後1時頃より本操業にはいり、1時半頃から砂鉄の装入を開始する。砂鉄装入の1時間ないし1時間半後からのろ出しを適宜実施し、4時半頃に砂鉄の装入を止める。その後約1時間ほど木炭のみを装入し、5時半過ぎにB出しを始め、6時頃には作業終了とする。
本操業は、強制乾燥に引き続いておこなうが、このとき炉上に鉄製の箱型胴をのせ、小割りした炭を箱形胴の炉頂まで一杯に装入する。熱電対による炉内温度などの測定もこのときから始める。操業初期は、底羽口から送風し、炉底の温度を上げるようにする。底羽口は1回目ののろ出し後はのろ出し専用口とし、送風ホースを正規の羽口に付け替える。
 砂鉄装入の方法は、炉頂の木炭が約10pほど燃焼降下したときに、先に木炭を1kg補給し、その直後に砂鉄を木炭上に装入する。砂鉄と木炭は1回ごとすべて秤量する。砂鉄は0.5sより1.0sほどまで炉況に合わせて増量していく。砂鉄の総装入量は順調な時で20s前後である。操業用木炭の総装入量は40〜50kgほどである。
 操業は砂鉄と木炭を交互に投入していく単純な作業であるが、気の抜けない作業である。すなわち還元雰囲気を保つための送風量の調整(炉頂の炎の色で判断)、操業後半におけるのろによる羽口閉塞の除去およびのろの排出の判断など、ひとときも炉から目が離せない作業である。この単純に見える作業は約3〜4時間ほど続くき、ケラ出し作業にはいる。
 なお炉内への送風装置は、電動送風機を使用している。送風機は東京西村電機叶サ(100V、2.5A、最大風量6.0‰/min、最高風圧75mm水柱、口径135mm)で、吸い込み口および吐き出し口の開口度で風量を調節している。風量はピトー管によりデータを取っている。 




(5)ケラ出し作業

たたら操業では、生成したケラは炉底に溜るため一回の操業ごとに炉を壊して取り出す必要がある。ケラ出しは、ふつうは操業直後に炉を壊しておこなう。取り出したケラはすぐに水冷し、小ハンマーでのろをはつりケラ塊に分離する。もう一つの方法は、操業終了直後に炉を赤土で密閉し、炉内がさめてからケラ出しする方法である。私の場合、生成したケラの位置や炉内状況を調べるときには後者をとるようにしている。
どちらの方法をとるかは目的によって決めればよいが、操業直後のケラ出し作業は、やはり鉄づくりを一番実感する場面となる。煉瓦をはつるにつれ顔面を突き刺す強烈な熱気により、顔をのけぞらしての作業が交代ごうたいでおこなわれる。まさに鉄づくりを肌で感じるときである。鉄づくりの醍醐味でもある。



(6)操業後の調査

操業終了後は、炉壁の浸食状況の調査、ケラ塊、ケラ粒の観察調査、測定データの整理を主としておこない、ときどきケラ、のろ(スラグ)の化学分析、顕微鏡観察などをおこなっている。

(7)操業用の主要道具類

 砂鉄採取用磁石(大型のものを1〜2個、採取用には人数分)、砂鉄装入用の十能1個、炭切り用鉈2〜3丁、炭装入用竹箕1個、砂鉄・木炭秤量用はかり(可能であれば1kg用、10kg用の2種類用意)、土練り用ふね2個、土練り用備中1、2丁、スコップ1、2丁、すさ切り用押し切り1丁、送風用ビニールホース2〜3m(形状がつぶれないもの、内径は羽口用鉄パイプに合わせる)、のろ出し用鉄棒1、2本(直径12〜16mmほどの先端をかぎ状にしたもの)、羽口掃除用鉄棒1、2本(直径12mm程度のもの)、ケラ出し用鉄棒1、2本(直径16mm程度の先端を少し尖らしたもの)、鍛造用火はし1、2本(大型のもの)、ハンマー1、2本、水槽2個(大型の鉄バケツ)など

3・小たたら操業のポイント

以上の豊川工業高校課題研究における鉄づくりの方法について、誰もが取り組めるという観点で操業法のポイントをまとめてみる。

(1)炉の形状と築炉法のポイント


・炉の形状で重要な点は、還元帯(羽口から炉頂まで)の長さと炉床の造りである。
・還元帯は800mm以上はあった方がよい。炉の上部は補助炉である鉄製の箱形胴(長さ500mm程度)を用いて還元帯を確保する。炉高を1m程度に低くでき、築炉が容 易になる。
・炉床は、炉底の保温性が保たれるようできるだけ厚く(300mm程度)、しかも乾燥していることが必要。したがい炭切りで生じる粉炭を炉床に有効利用するとよい。
・炉床の基礎には煉瓦を用いるが、断熱煉瓦が入手できれば使用したい。キャスター付きの移動可能な炉床は便利である。
・炉底はケラが溜まりやすいよう、赤土で舟底形に成形する(粉炭のままでもよい)。
・のろ出し口と炉底との差を40〜50mmほどにし、のろ溜まりとする。
・羽口の位置は、炉底からの高さ200mmほどの位置にする。これはのろ、ケラが溜まるスペースを確保するためである。羽口の角度は、地面に対し25〜30度とする。 煉瓦の長手方向の対角線の角度を目安にする。
・羽口の本数は1本を基本とする。ただし、操業初期は炉底吹き用の底羽口を付けておく。底羽口は、操業後半ののろ出し口となる。
・羽口は炉のほぼ中央付近(3分の1程度)まで突き出しておく。
・羽口づくりでは、鉄パイプ(インチパイプ、内径27mm)を用いると便利である。事前に耐火性のある粘土で鉄パイプに巻き、乾燥させたものを使用してもよいが、築炉時に直接パイプを炉壁に挿入し、突き出た部分のみ粘土で巻くだけでもよい。後者の場合は、炉壁が半乾燥状態の時に、鉄パイプを50〜60mm程度引き抜いておくことが必要。鉄パイプ先端の溶融を避けるためである。
・炉の骨組みに煉瓦を使用する。煉瓦の積み形は、炉内の温度を保つため、煉瓦の幅を壁厚にした平積みにするとよい。煉瓦は耐火度の高いものは特に必要ない。建築用の赤煉瓦で十分である。また、ケラ出しを考慮し、炉正面の煉瓦をはつれるようにしておくと、数回継続して炉の使用が可能となる。
・赤土の性質も特にこだわらなくてよい。建築用の一定の粘り気を持った成形性のあるものであればよい。赤土は、藁すさを混ぜよく練っておく。左官用の舟に2〜3杯用意する。
・炉内壁は赤土で成形するが、木炭が燃焼降下するとき、炉の途中で木炭が引っかからない(棚吊りを起こさない)形状に、滑らかにしておく。
・炉外壁の赤土は、化粧程度でよい。乾燥後のひび割れはそれほど気にしなくてよい。

(2)操業のポイント

・操業では、操業初期に炉底温度を上げることと、炉頂からの炎の状態を見て炉況を判断することが重要である。
・炉底温度を上げるには、操業前の炭火による強制乾燥を十分におこなうことと、強制乾燥に引き続いた操業初期に底羽口から送風することである。すなわち、操業初期に操業温度を高め、ケラ生成の鍵となる流動性のあるのろを炉底に溜める ことである。このため、正規の羽口と底羽口の2本羽口で送風してもよい。
・操業の状況判断は、炉頂からの炎の状態を観察し、おもに送風量を調節することによりおこなう。炎の状態は、赤みの少ない半透明状の還元炎になるようにする。赤みの多いときは、風量が多い、のろが溜まってきたなどの判断となる。
・送風では、送風量が調節できる電動送風機を使用すると便利。
・原料砂鉄は、真砂砂鉄を用いたほうが操業しやすい。身近で採取できる浜砂鉄を使用する場合は、チタン鉱物などが含まれているものが多く、操業はやや難しく なる。
・砂鉄中のチタン鉱物を除くには、砂鉄を200度以上に加熱し、45mmほど離して磁選するとよい。
・鉄鉱石を原料としてもよい。この場合は、親指大ほどに小割りして使用するとよい。
・燃料の木炭は、雑木のものでよい。火力の出やすい松炭など軟質の木炭の入手が可能であれば利用したい。
・木炭の大きさは、3〜5cm角程度に炭切りする。炭切りで生じる粉炭は、炉床保温剤、乾燥用燃料、操業最終盤の酸化防止用燃料として利用する。なお、粉炭は燃焼を妨げるため操業用には使用しないようにする。乾燥用木炭は炭切りしなくてよい。
・砂鉄の装入の時期は、操業に入って約1時間程度経った頃からはじめる。炉頂の炭が約10cmほど落ちた頃に、先に炭を1kg入れ、その上に砂鉄を振りかけるように入れる。1回の砂鉄の装入量は、0.5kgからはじめ順次炉況を見て1.0kgまで増 量していく。なお、砂鉄は炎の勢いにより相当量が炉外に飛ばされる。歩留まりを考えたときには湿った状態あるいはペレット状にしておいてもよい。
・砂鉄は一定量の砂分(重量比で3割程度)を含んだ状態がよい。精選した砂鉄の場合は、石灰石を同時に装入するとよい。これは炉底に流動性ののろを生成させることになる。
・砂鉄が還元され一塊のケラとなるためには、流動性のあるのろの中に還元溶融された鉄が包み込まれ成長していくことが必要である。そのため操業の成否のポイントは、操業初期の段階に流動性のあるのろを生成することにある。したがい砂鉄装入後、約1時間過ぎにおこなわれるのろ出しのさいに、流れるようなのろが出ることが成否の一つの目安となる。
・のろだしの時期は、羽口先端にのろが付き、送風が妨げられるときである。これを判断するには、羽口を覗いて炉内の状態を見るようにする。経験を積めば炉頂からの赤い炎の状態によっても判断できる。のろ出しでの注意事項は、のろを出しすぎないこと、すばやく行い炉内温度を下げないことである。


・操業後半になると、壁のろなどが羽口先端に流れて頻繁に付着するようになる。そのため、付着したのろを鉄の棒でをつついて取る羽口掃除が忙しくなる。これを怠ると羽口が急速に詰まり、操業終了の合図となってしまう。
・砂鉄装入終了の時期は、のろ出し口が詰まり、羽口の詰まりが頻繁になってきて、送風が炉内に十分に行き渡らないと判断したときである。
・砂鉄の装入終了後は、約1時間程度木炭のみを装入する。装入した砂鉄が羽口付近まで下がり、還元溶融されるのが約1時間ほどと言われるためである。そのさい、木炭の消費量を減らす手段として、操業の最終段階に粉炭あるいは生草を装入する。通風量を抑え、炉内の酸化を抑えるためにおこなう。
・ケラ出しの方法は、ふつうは操業直後に炉を壊しおこなう。その際、ケラ出しを急がないことである。急ぎすぎる固まっているケラをバラバラにしかねない。ただし時間を置きすぎると、炉壁からケラ塊を分離しにくくなる。取り出したケラ塊は水槽などに投げ込み急冷する。水槽は大きめなものを用意する。
・ケラ出しを後日にする場合は、炉頂を赤土で密閉し、数日間経ってからおこなうようにする。

5・鉄づくりに挑戦しよう

 私の鉄づくりは、年に一、二度の操業実験である。経験に依拠するところの多い私の小たたら操業では、ここで述べてきたように何度も失敗を繰り返している。しかし、そのことが逆に生徒には、特別に意識しなかった鉄から、鉄が貴重であった時代を振り返るかのように、存在感のある鉄へとイメージを変えるきっかけとなっている。その意味で、鉄づくりはまたものづくりの楽しさを感じることができるテーマでもある。私が、たたら操業を技術史の授業の一環として取り組む意図もここにある。
このように、たたら製鉄は身近にある技術史の絶好の教材でもある。鉄づくりはこれまで述べたように特別に難しいというわけではない。最初の準備に多少の時間と費用がかかるが、一通り材料や道具類がそろえば、その後はおもに燃料代程度の費用ですみ、比較的容易に取り組むことができる。じっさい私の場合がそうである。鉄づくりは難しくない。挑戦する意欲さえがあれば誰もが可能であるのが鉄づくりと、そんなふうに私は考えている。


(主な参考文献)
(1)加藤誠・天野武弘『現代における小たたら−実操業と関連技術の全て−』コンパス社、1986年
(2)愛知県立豊川工業高等学校『課題研究報告集』機械科第1号〜第10号、1988年〜1997年
(3)天野武弘「鉄づくりの操業法」『産業考古学会第19回(1995年度)総会、研究発表講演論文集』、1995年


*この報告は、1996.12.4に開催された「第1回たたらサミット」(於:東京工業大学)で天野武弘が発表したものをもとにしています。


第2回たたらサミット(98.11.21)のご案内
おもしろいぞ、材料は!−きみだって鉄をつくれる−(98.11.22)のご案内
天野武弘の小たたら製鉄製鉄法(2000.7)
天野武弘のたたら製鉄マニュアル(2002.9)


Update:1998/7/20  0000

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