「これが免許証、国際免許です。それからパスポート。日本の国内免許証もここにあります。」
やれやれ、手間取りそうなことになるのかなあ。アメリカではこんなときにも弁護士とかたのむ必要があるのかしらん。
女性の兄貴らしいのがやってきた、完全に喧嘩腰である、ここでひと活躍すれば兄貴の株が上がる。という意気込みだったのが、ハンドルにつっぷしたままの妹と話しをしていたら、だんだん勢いがなくなってきて、しまいには妹を怒鳴り付けている。
女性から一通り事情聴取を住ませた警官がこちらにやってきた。
「氏名・・・、年令・・・、住所・・・、」
「アメリカの国内住所はありません・・・えー、旅行者ですから。車はレンタカーです。」
「そこのモーテルにはいろうとしたのです。 ・・・北から来て・・・、一度その先でUターンして・・・、モーテルに入ろうとして車をセンターレーンに入れて・・・、対抗車の確認をしていたらぶつかったのです。」
だんだん英語が通じなくなって行くような気がする。
「ドウスレバイインデスカ。」
「アシタケイサツニキテクダサイ。」
「ケイサツハドコデスカ。」
「コノミチヲイッテ、ナントカドオリヲミギニハイッテ、サンボンメノミチ・・イヤ、フタツメノシンゴウヲヒダリニオレタトコロノミギガワデス。チョットチズヲカイテアゲマショウ。」
「ナントカクン、ユウソウデモイイッテオシエテアゲレバ。」
「イエ、アシタノアサ、ウカガイマス、ケイサツハナンジカラヤッテイマスカ?」
「ハチジカラデス。」
「アナタクルマウゴキマスカ、レッカーヲヨンデアゲマショウカ。」
「ハイ、オネガイシマス。」
「ケイサツニクルトキニ、コノカミヲカナラズモッテキテクダサイネ。」
パトカーの無線で呼ぶとたちどころに巨大なレッカー車が現われ、中からレッカー車みたいなおやじが出てきた。
「荷物を下さなくっちゃな、え、クースベイ・インでいいのかい。」
巨大なレッカー車はずるずるとつぶれた車を引きずってモーテルに入って行く。パトカーも引き上げて行く。手元に黄色い紙だけが残った。河合君に車の方を頼んでフロントでチェックインをした。
「車はオレっちの店の裏に置いとくから、エイビスにノリンのテクサコって言っといてくれ。」
かばんからロングピースを二箱出して、おやじに上げるが余り嬉しそうな顔をしない。この際、このおやじだけが頼みの綱だ。
「河合君、5ドル札持ってない?」
と頼んで手渡した。
「どうすればいい?」
「切符もらったかい?」
「切符?さっきこの紙もらったよ」
「これなら大丈夫だ。これは切符じゃない。オレゴンじゃぶつけられたヤツより、ぶつけたヤツの方が悪いのさ。明日警察に行ってこの紙に書いてあることと同じことを言って来りゃ、それで終わりだ。」
やれ、やれ、少し安心した。エイビスの事故処理に電話をかける。
「事故を起こしたんだけど、日本語サービスに繋いでくれ。」
「ちょっとお待ちください。」
だいぶ待たされた挙げ句、
「只今日本語サービスには人が居りません、ユージーンにお繋ぎします。」
ちえっ。
「エイビスです。」
「事故。代車が欲しい。」
「只今人が居ないので、‥・今夜中に必要ですか。」
「朝でもいいけど、朝一番で頼む。」
「そちらは?」
「クースベイ。」
「ユージーンからまいりますので、9時半過ぎになりますが。」
「過ぎじゃだめっ、絶対に9時半だぞっ。」
くたびれた。河合君に聞いたらとっさのことで50ドル渡してしまったとのこと。ヲジサン遠のいかに舞い上がっていたかがよくわかる。
寝付かれない。目が覚めるとまだ暗い。雨は降るともなく降り続け、濡れたモーテルの駐車場をナトリウムランプのオレンジ色の光がむき出しに照らしている。道路端に出てみると、時折泥交じりの水を撥ね飛ばして走り過ぎるのはトレーラーばかりだ。ほとんどが丸太かチップを積んでいる。道の向こうは岸壁になっているらしい。このあたりはクースベイでも港湾業務地区で、観光客向きの場所ではないらしい。
元々クースベイは1856年に最初の製材所が出来て発達した製材の街、パルプの街だそうだ。昨夜橋を渡ってクースベイに入る前にも、山の向こうに、煌々と低い雨雲まで照らして操業するパルプエ揚が見えたのを思いだした。天然の良港で、現在もオレゴン最大の製材積み出し港だと称している。
AAAのガイドブックによればクースベイは人口15,000人、ただし日本のように町村合併をしないので、ひと塊になったとなりのノースベンド、チャールストンまで入れると40,000位だろう。
部屋に戻り、カップサラダとチーズソーセージサンドの定食を食べているとやっと7時を過ぎる。取調べはいつまで掛かるかわからないので、エイビスが来たときの用意に、メモを残し、7時45分、警察署に向かった
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