クースベイもそうした西部劇の時代の港町だろう。街の中心近くのガススタンドに「ノリンのテクサコ」と看板が出ている。おや、ここだなとのぞき込むと、昨夜のレッカーの横に昨日まで乗っていた車が積み重ねてあった。信号を右に折れて進むと、ショッピングセンター、田舎の放送局といった建物の向こうにシティーホールがあった。この辺りのはずだがと思い、ちょうど町の偉い入らしい紳士と話しながらやってきた、若い警察官に
「警察はどこですか。」
と聞いてみた。
「警察と言うと、どちらの?」
「州警察じゃないかと思うんだけど。追突事故の報告に、」
「じゃあ州警察じゃなくて、こちらですよ。ご案内します。」
と快活に、シティーホールの階段を上がって行く。中に入るとショーケースに日本の法被が飾ってある。
「クースベィは日本の銚子と姉妹都市なんですよ。銚子ってご存じですか。」
「いや、もちろん、クースベィと同じように大きな川の河口にある町で‥・。」
「実は僕もこの間交換訪問で行ってきたんですよ。」
とばかに調子が良い。
「ちょっとここで待っててくれますか。」
と受付から中に入るとしばらくして町の記念バッジをもって戻ってきた。
「これ、記念にどうぞ。」
「やあ、有難う。」
「じゃ、事故報告を聞きましょうか。」
深刻な顔をしたこちらを元気づけようと努めて明るく振る舞っているようだ。日本のように事故両成敗で、警察の「御厄介に」なるのでなく、被害者が街に悪い印象を持たないよう努めてくれているらしい。黄色い紙を渡し、昨夜と同じように
「Uターンをしてクースベィィンの前まで来て・・・。」
を一通り報告した。
「結構でした。黄色い紙はお返しします。ここにサインしてください。これは報告書の受取です。」
「これからどうすればいいんですか。」
「終わりです。手続きは全部終わりました。」
「じゃ、もう町から出かけてもいいんですか。」
「よいご旅行を。」
安心してどっと疲れが出た。さっき彼が入っていった部屋をガラス越しに見ると、なんとラィフルを磨いているヤツがいた。
クースベィインに戻ってみるが、まだエィビスは来ていない。食堂に出かけてコーヒーを飲む。大抵のモーテルではタダで、ここでもそうなのだが、「有難う御座います」と害いたザルが置いてあるので二人分1.50ドルをいれる。ツインルームで一泊税込み36.75ドルだから仕方がない。
ここも家族経営らしく、台所にマダムらしき人影がいて、「胡散臭いヤツ」の顔をしている。正体不明のアジア人のヲジサンが夜の9時に宿の前で「どかん」をやって御入来ではそれも仕方ない。
友好を暖める元気もなく、コーヒーをのんだらすぐ部屋に引き上げる。エィビスはまだ来ない。ユージーンに電話をしたら「出ました。」と三河屋蕎麦店の様なことを言うが、ここまで115マイルではそれも仕方ない。
待つことしばし、10時半になってやっと巨大なレッカーがごろごろと駐車場に入ってきた。荷台を傾けて上に乗せた代車を下ろす。シアトル・タコマ空港からここまで乗って来たシヴォレー・オムニなる今風の、日本車とまあ互角、という車とはうって変わり、ビュイック・センチュリーとかいう一昔前の、トヨタ車と喧嘩して全滅した部族の生き残りみたいなのにさせられてしまった。しかもカナダナンバーである。露骨に乗り捨て車の陸送だ。皆さん、事故には気を付けよう。
夕べ現場で説明し、さっき警察署で繰り返したのと同じことを今度は自分でレンタカー屋の事故報告書に書き込まなくてはならない。
「「事故の程度一軽、普通、重」というのがあるが「勤かすとタイヤががりがり言うのはどれだい。」
「それは、重、だな。」
とレッカーの運転手に聞きながら書類を作った。
「車はノリンのテクサコってとこにある。これが名刺。さっき見たらスタンドの裏にぽんこつの上に積んであった。」
「オッケー、ここと、ここにサインしな。これが新しい契約書。じゃあな。」
契約書はちゃんと見ていないけど、「保険」の欄に全部チェックがしてあるから大丈夫だろう。金額が100ドルばかり増えてい
るのはレッカー代か、事故処理代らしい。
あらかじめサンフランシスコの宿を取っておこうとAAAに行く。中年のおばさんは極めて愛想がよい。K君を空港で拾うのに楽なよう、サンフランシスコ空港の近くにする。どうせ安宿続きになるはずだから、一ケ所くらいということで、一番高いハイアットリージェンシーにする。
「普通の部屋と、高い部屋とあるみたいよ。」
と言うので
「高いほう。」
にしてしまおう。厄落としである。ここで面白いのはウイークデーの方が高く、金、土はツインが一泊124ドルで、日一木の半額だ。多分、飛行機に乗るエクゼクテイブが仕事で使う宿だと思われる。ついでにカリフォルニアの道路地図をもらう。
アストリアに続いて出発が昼近くになってしまったが、まあこれで済んだが幸い、と雨模様の1001号線に乗り込む。昨日まる一日見続けたと同じ太平洋が今日も右手に続いている。 101号線は時々海岸の絶壁にへばりつぐようにして岬を越えて行く。車を停めてみるとすごい風だ。ポート・オルフォードと言う街ではちゃんと見晴らし台にガラス張りの展望小屋が作ってあった。雨の所為か、通り過ぎるどの街も濡れてひっそりとして、遠い昔を思いだしているようだ。ゴーストタウンとまで行かなくても、浮き沈みは当たり前というアメリカの田舎街では、街はずれに昔の繁栄の痕ががらくたの山となって放り出されていたりする。夏の行楽シーズンの名残の匂うような街が多い。
ゴールドビーチと言う街でスーパーにはいる。なんか伊豆の黄金岬みたいな名前だが、この辺りもちょうど黄金岬あたりと同様、夏に賑わう所であろう。定食の原料を仕人れる。雑誌の棚をみると観光地のことだけあって、「オレゴン海岸の隠れた名所」なんて本も売っている。観光客になって2冊ほど買う。もう一冊は「百姓暦」である。
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