受付カウンターに行く。制服をぴしっと着こなし、胸に「スコット」という名札を付けた受付担当は、絵に書いた人種主義者の目つきでこちらを見ている。地元の「白人中流の上」家庭の出来の悪い小僧の典型だ。AAAのリザベーションカードを出すと、それをコンピュータに打ち込みながらえらい早口でぺらぺら喋る。「得体の知れない」アジア人が別料金で、一般客の入れない最上階に部屋を取ったのが我慢できないという表情だ。何をいってるのか全く聞き取れない。2度ほど聞き直して、「客が分からないって言ってんだから、もっとゆっくり、丁寧にしやべれよ、このとんちき。」と胸のうちでつぶやいてカードキーを受け取った。
折角高価なホテルに泊まるのだから、何処か店に入ってナイトキャップをしようとアトリウムに下りた。中央の「ギリシャ風ダイニングテラス」に入ろうとすると、
「申し訳ございません、閉店でございます。」
隣にはメキシコ風の飾り付けをした立ち食いカウンターがある。メニューは場末のそんな店と同じであろう。館内を一周してみると他にはすでに閉まっているイタリア料理屋、コピーとファックスを置いて、店番の女子大生がタイプをしてくれるとでも言うのであろう、「ビジネスセンター」等があるだけで、開いているのはショーケースにフットボール、ホッケーなど、古き良き「白人の」アメリカを象徴するような、いかにも体育会系の飾り付けをしたパブと、さっきのメキシコ立ち食いだけであった。
「これで中華料理があれば安い食い物勢ぞろいだぜ。」
と減らず口をたたきながら立ち食いカウンターに行き、きのこを肴にビールを呑むことにした。そばのテーブルにへばりついた数人の中年ご一行様はすでにかなり出来上がっている。カウンターでは生粋のメキシコ美人が注文を聞いている。カードキーで勘定ができるはずなのだが、やけに面倒くさい。お代わりをしようと思ったら、今度はメキシコ人の少年が来て、彼はカード
キーなんぞはなっから受け付けない。
ま、こういう雰囲気の店ではカードなど効かないのが本来だなと思う。ふと気がつくと、カウンターの中に人目を避けてさっきのスコット君が入り、メキシコ美人の手伝いをしている。見かけは立派な高級ホテルだが、建物だけでなく、人件費を極限まで合理化するため、フランス料理など止めてエスニック料理にし、それでもなお足りず、客足が途絶える時間になると、「白人中流の上」の誇りに満ちたスコット君を、こともあろうに「メキシコねいちやん」の下働きに使ってしまおうというのである。これではスコット君も、最上限に泊まろうというアジア人のヘンナヲジサンに八ツ当たりしたくなろうというものだ。
メキシコ立ち食いを切り上げて部屋に帰ったが、眠いようで眠くない、ルームサービスでも、とメニューを調べたら「バーボンのハーフボトル」と書いてある。
「持ってこい。」と言うと、
「しばらくお待ちください。」
とあり、5分ほどすると
「申し訳ございません。フルボトルしかないのですが。」
とのこと、こっちは二人でひと瓶開けるような人種ではない。
「ワインを持ってこい。」
と命ずると、10分程して、さっきメキシコ立ち食いの店番をしていたおねえさんがやってきた。
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