代わりに出てきたのは長髪をおさげにして道着のようなもの着、ぞうりを履いたオリエンタルヒッピーの生き残りみたいな男であった。どうも仏教徒も西海岸の方が過激派が多いようだ。禅の本、日系人の歴史、といった本を買って、横丁のスシ屋に腰を下ろした。亭主は伊豆、川奈の出だという。「最近は恥ずかしくて親元に置いて置けないような、ノータリンの遊学生が日本から押し寄せてきて困る。」とこぼす。ネタは白人経営の商社から仕人れるしかないとのこと。
日系の漁師が残っていれば、サンフランシスコのスシ屋ももっと肩身が広いだろうに。ビールから日本酒に切り替えて腹一杯詰め込む。3人で$44.15である。助教授に「144ドルだ。安いだろう。」と言うと、簡単
に信じ込んでしまう。
ハイアットリージェンシーに帰って助教授の部屋にキーをもらう。例のスコット君が店番をしている。部屋に集合してアトリウムに出撃することにする。助教授は例の体育会系の店に突っ込もうと言う。入ってみると、中は一昔前のいかにも西部の街の居酒屋という作りになっている。
オークの天井にオークのカウンター、店の隅にはスロットマシーンが置いてあり、大きな樽につまみのピーナツが山盛りになっている。床一面にピーナツの殼が散乱している。バックトウーザフユーチヤーIIIに出てくる1885年よりは少し新しい、1920年といったところだ。腰に拳銃を下げ、田舎庶りで「おい、酒だ。」と言わなくてはならないところだが、アジア人のヘンナヲジサンは特別室のカードキーを出して、もの静かに「ビール3つ」。
店の中はと見ると、スコット君の友達みたいなやつが「本日のNFL」を大型画面で見ていたり、すでに出来上がって、ハロウィーンの仮装をしたお嬢さんのしっぽに触ってふざけたりしている。店全体に若者特有の向こう見ずな雰囲気が漂っている。ビールをお代わりすると、向こう見ずな顔つきのバーテンが見事な手付きで後手にビールビンを放り、身体の回りを一周させてから泡も立てずに栓を抜いてくれる。
アルコールの回った頭ではとっさにチップを出すことが出来ない。しっぽを引っ張られたお嬢さんはきゃっきゃっと楽しそうに悲鳴を上げている。「明日は早目に出発。」ということにして店を出る。部屋に戻って、道端で買ったバーボンを注ぐが、全部は呑まないで消灯。
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