古い堂々としたレストランだが、再開発のオフィス街なので朝から営業している。近くの事務所に動めるヤング・エクゼクテイブという雰囲気の客が多い。この辺りは元はイタリア系の街なのか、メニューはイタリア語で書いてある。天井も6-7mはありそうで、ウエイターも背の高く、顔だちのしっかりしたゴッドファーザー一家のごとき青年がぴしっと立って注文を待っている。K君と二人で
「これは一体何だろうねえ、さぞかし本格的なイタリア風の朝食なのだろうねえ。」
とメニューをあれこれ見ていたら、ゴッドファーザー青年が待ちくたびれたらしく、
「単品よりセットメニューの方がいいですよ、これはベーコンエッグとハッシュドポテトで、、、」と説明してくれた。
何のことはない普通のアメリカの朝食だ。エスプレッソを飲んで外に出ると、再開発で造られたプラザになっていた。リーバイスの本社を中心にした現代風の建物がプラザを囲んでいるが、外壁の色は今のイタリアンレストランの入っている建物と同じレンガ色にしてある。後ろの崖の上には高級住宅が屋根の端だけを覗かせている。朝のこととて、ビジネススーツの男女が脇も見ずにすれちがう。
物見高くリーバイス本社の受付まで侵入し、社史のパンフレットを頂戴してきた。受付は長身の、流石にジーパンの似合う黒人のハンサムボーイであった。車を再びモスコーン・センター近くのパーキングメーターに置き、ダウンタウンをもう少し見て回ることにした。
ユニオン・スクウエアに行き、河合君の案内でフランク・ロイド・ライトのモリス商会を見る。高層ビルに挟まれているのが残念だが、外観はなかなか美しい。中は画廊になっている。グッゲンハイムと同じようなスロープ構成である。一番上まで行くと、天井のアクリル製円形パネルが手の届きそうなところにある。
繊細なデイテールがゆがんで、すきまから軽量鉄骨の下地が見えている。アクリルという、可塑性と透光性を合わせ持つ素材がもたらされた時には、時代の最先端を感じさせたデザインだったであろうが、同じ素材がありふれたものになってしまった現在では、場末のパチン屋でも使わないデザインであろう。と根性の曲がった僕は考えてしまう。
サンフランシスコにもう一泊し、南米に向かうというK君と別れ、ゴールデングートパークに向かった。60年代後半、フラワーチャイルドの巣であったヘイト・アシュベリーは、1906年の地震後に新興住宅地として拡大し、古びて行くと共に荒廃した街だというが、ありとあらゆる建築スタイルをごちゃまぜに詰め込んだまちなみが、いかにもサンフランシスコらしい。
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