海外産業博物館  NO.10


ストレットン水車小屋 Stretton Water Mill

学芸員は技術の語部

−遺産を生かし多面的教育−


石田正治  by ISHIDA Shoji


 バーミンガムから古都チェスターに向かう途中、同行の友人横山悦生氏(岐阜大学)がストレットン水車の案内板を見つけた。自動車での気ままな二人旅、この水車を訪ねてみることになった。 ストレットン水車小屋は、チェスターの南西約10マイルの所にあった。チェシャーでは最も古い14世紀の木製の水車で、18世紀には製粉機械工場となっている。
 水車小屋の隣の別棟に受付があり、チェシャー博物館から派遣の学芸員が見学の世話をしていた。こんな辺鄙な所に来るのはわれわれだけだろうと思っていると、次々に訪れる人がいて、総勢7人のグループとなった。
 ストレットン水車小屋は、日本の茅葺きの水車小屋とは違い、砂岩と煉瓦で造られたがっしりとしたものだ。水車は小屋の外にひとつ、内部にもひとつある。水車の直径約2メートル、羽根の数が多く、幅が広い。
 学芸員は、実際に二つの水車を回しながら小麦の製粉作業の様子を見せてくれた。小屋の内部は二層になっていて、一階は水車の回転を傘歯車により増速して上に伝える動力部である。学芸員がブレーキを外すと、巨大な木製の歯車が頭上で回り始めた。
 二階は、製粉の作業場所である。天井は低く、頭をぶつけそうだ。そこでは、臼の手入れ、篩を揺動させる巧みなメカニズム、臼の動きと製粉の様子など、製粉工程と技術の発達過程を学芸員がていねいに解説してくれた。いかにして技術と技を伝えるのか、その軽妙な語り口が魅力的である。教師は話術をも学ばなければならないと思った。 二階の扉を開くと、小屋の背面にでた。大きなため池があり、この水を落として水車を回すようになっていた。
 このストレットン水車小屋が開館しているのは、4月から10月の間、昨年はこの7カ月間に、1542人もの生徒が訪れている。ここでは、水の重量が水車によっていかに回転力生み出すのか、小麦がどのようにして粉になるのか、歯車は水車によってどのように回転するのか、などを学ぶ。また、引率の教師は、池の水を汲み、中に生息する生物を観察するなどの環境教育の場所として活用することがあるという。 地域の産業遺産を教材に活かした多面的な教育活動がここにもあった。(中部産業遺産研究会事務局長、豊橋工業高校教諭・石田正治)


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