海外産業博物館  NO.19


アビデール工場集落 Abbeydale Industrial Hamlet

鍛冶の設備と技を保存

−子供たちへの学習ノート−


石田正治  by ISHIDA Shoji


工場集落にある水車で動く巨大なハンマー

 イングランド4番目の産業都市シェフィールドは、坂が多く、丘が重なり合ってできたような地形の町である。谷あいを流れるドン川とその支流は水車の好適地である。シェフィールドは中世以来、この水力と周辺山地の鉄鋼石や木炭を利用して、刃物・鍛冶の町として栄えてきた。また、シェフィールドは、ベンシャミン・ハンツマンのルツボ鋳鋼法、ヘンリー・ベッセマーの転炉法を生んだ、技術史上、重要な場所でもある。明治五年には、岩倉使節団がこの地を訪れ、鋼鉄の町「舌非力府」の風景とベッセマーの製鋼法を克明に記録してわが国に伝えている。
シェフィールドの郊外、シーフ川に沿うアビデールに農機具を作っていた一八世紀の工場集落がそっくり残されている。工場集落は、1964年から修復作業が行われ、市立博物館のひとつとして70年に開館、活きた産業博物館となっている。 博物館は、中庭を取り巻くように、ルツボ鋳鋼場、鍛冶場、研磨場や大物鍛造場など立ち並び、それぞれの建物の中では職人が昔ながらの作業工程を実演して見せている。博物館の背面には、水車用の貯水池がある。4つの水車があり、その動力でハンマーが鋤を鍛え、回転する砥石は大鎌を研ぐ。鍛冶の設備と職人技を保存する貴重な博物館で、ものづくりの原点を学ぶには好適である。
この博物館が教育用に提供している学習ノートは大変興味深い。子供たちへの質問は、例えば次のようだ。「なぜ巨大な煙突が必要なのか?」「その煙突は何でできているか?」「建物は何でできているか、木・石・レンガ?」「水車はいくつあるのか?」「その水車はなんのために使うのか?」「送風エンジンは何をするのか?」「ハンマーは何のために使うのか?」といったような質問項目が並ぶ。これは、産業考古学調査の基本を学ぶようなものだ。自然界の学習と同様に、技術の世界も実物に触れて、よく観察することを教えている。
(中部産業遺産研究会事務局長、豊橋工業高校教諭・石田正治)


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