楽器的迷走生活
 これで貴方も道を踏み外せる? Vol.2

<マンドリン・ファミリー編>
 これは、すでにいろいろなところで書いた話だが、ま、いいか。

 11月に、16年ぶりだか17年ぶりだかで、DGQ(デビッド・グリスマン・クインテット)がやってきた。前回の来日のときには、会場の整理係やら楽器運びの人足やらをさせられた覚えがある。あれからこんなに時間が経ったなんて、嘘みたいだ。
 ライブの当日に、グリスマン本人によるマンドリンのワークショップも行なわれるというので、自分の腕も省みず、参加することにした。これが、思いのほかインパクトがあったようで、もう一度基本からやり直そうか、という殊勝な気分になっている。

 マンドリンというと、いまだに古賀政男先生に代表されるようなレトロなイメージをひきずっている人も多いと思うのだが、私が興味を持っているのは、裏側がこんもりと盛りあがっているイタリアン・タイプのマンドリンではなく、裏が平らなアメリカン・スタイルのマンドリン−−いわゆるフラットマンドリンというヤツだ。最近流行のアイリッシュ・ミュージックをはじめ、ブルーグラス、ロック、ジャズなどで使われているのは、ほとんどこちらのタイプであると考えていい。

 最初にマンドリンを意識しだしたのは、日本のフォークシーンで、高田渡、古井戸などの演奏を見た頃からだと思う。こいつは面白いというので、ルーツを追いかけているうちに、ブルーグラスにまでたどり着いた。ブルーグラスでマンドリンと言えば、ダントツの人気なのがギブソンだ
。  だから、はじめてギブソン製のマンドリンを手にしたときは、ずいぶん興奮した。いまにして思えば、ギブソンとは名ばかりの、安価なスチューデント用(初心者向け)マンドリンだったのだが、逆にそれが幸いしたというか、いまでも日本国内ではあまり見かけない珍しいモデルだったりする。

 ギブソンのマンドリンで、個人的にお薦めなのは、1910年代〜20年代頃の丸穴(オーバルホール)タイプだ。どれも適度に枯れて、いい表情をしている。実は、それほど人気がないので、比較的手に入れやすいというのも大きい。

 ところで、ギブソンでは、マンドリン以外にも、マンドラ、マンドセロ、マンドベース……といったマンドリン・ファミリーの楽器を製作していた。そうとわかれれば、こちらも試してみたくなるのは人情だ。なんとか探し出して弾いてみると、これがなかなか面白い。さらに、マーチン、エピフォン、ベガ、ライオン&ヒーリーなど、ギブソン以外にも、重要なマンドリン・メーカーはたくさんある。アメリカン・タイプのマンドリンも、これでなかなか奥が深いのだ。
●THE DAVID GRISMAN QUINTET
 (KALADESCOPE 1977)
DAVID GRISMAN
 デビッド・グリスマンというお人は、昔からアルバムのジャケットに、お気に入りのマンドリンの写真を載せるのが好きだった。このDGQの記念すべきファーストアルバムも、ご多聞に漏れず、メンバー全員の楽器の集合写真となっている。前列両端がマンドリン。どちらも1920年代に作られたビンテージもののF-5だ。
●BILL MONROE / MASTER OF BLUEGRASS
 (MCA 1981)
BILL MONROE
 おそらく、世界で一番注目されてきたマンドリンが、これ。1923年製のギブソンF-5ロイド・ロア。オーナーは、もちろん、ブルーグラスの父、ビル・モンローだ。この人がこの楽器を使っていなかったら、いまのようにF-5が評価されることもなかったかもしれない。ギブソンの対応に腹を立てたモンローが、ヘッドに付いていたギブソンのロゴを消してしまったのは、あまりにも有名な話である。このアルバムは、すでに仲直りしたあとのもので、ギブソンによる大修理が行なわれ、ロゴマークも復活している。もっとも、このままめでたしめでたしというわけにはいかず、この楽器はさらに数奇な運命をたどることになるのだが、その話はまた別の機会に。
●ANDY STATMAN / NASHVILLE MORNINGS NEW YORK NIGHTS (Rounder 1986) ANDY STATMAN
 もちろん、F-5以外のモデルを愛用しているミュージシャンだって存在する。アンディ・スタットマンの長年のパートナーは、同じギブソンでも安価なクラスのA-1だ。残念なことに、このようなスネークヘッドのモデル(1920年代)は数が少ないため、F-5ほどではないにせよ、いつの間にか手に入れにくい楽器になってしまったけれど。もともとブラック・フィニッシュだったものが、長年の酷使で塗装が剥げ、ご覧のとおりの姿に。
●TRAPEZOID / NOW & THEN
 (Flying Fish 1980)
TRAPEZOID
 マンドラという楽器は、驚くほどよい音をしているのに、これをメイン楽器として使用しているミュージシャンが少ないことを、常々不満に感じている。せいぜい、ピーター・ローワン、アンディ・アーバイン、そしてこのトラペゾイドの名前が挙がるくらいか。ロレインおねーさんが抱えているのは、ギブソンの名器、H-4。ちょっと見、マンドリンと変わらないような感じだが、一回りサイズが大きく、デザインも多少異なる。
●TIM O'BRIEN / ROCK IN MY SHOE
 (Sugar Hill 1995)
ROBERT JOHNSON
 ボーカリストとしても、マンドリン奏者としても有名な、ティム・オブライエンのアルバム裏ジャケットから。アーチトップギターと勘違いする人も多いかもしれないが、よく見ると、糸巻き(ペグ)がしっかり8個付いている。これもれっきとしたマンドリン・ファミリーの楽器、マンドセロだ。ギターを思わせるこのデザインは、かなり特殊なものだが、実はギブソンの幻の楽器、K-5のコピーだったりする。ヘッドのインレイから判断すると、ナゲット製か。
・・・TEXT by Robin Goodfellow AboutMe!

[楽器的迷走生活/これで貴方も道を踏み外せる?Vol.1]

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