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CHINTAMI ATMANAGARA『Biar sepi bernyanyi』

■CHINTAMI ATMANAGARA『Biar sepi bernyanyi』 PRO SOUND CD-9601

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ラスタヘアのジャケットを見れば、誰しもレゲエかと思ってしまうだろう。音を聴けば、ヴォーカルが出るまでは誰もこれがインドネシアの作品だとは思いもしないだろう。チンタミ・アトマナガラの91年の作品『Biar sepi bernyanyi』は、そういう意味でまさに意表を突く作品だった。

インドネシアでもタイでも実際のヒットチャートを賑わせる曲というのは、日本に多く入ってくるダンドゥットやモーラムなどといった地域独特の音楽ではなく、あからさまな欧米ポップスの影響下にある曲ばかりなのだという話を聞いたことがあるが、たとえばシャーデーなんぞと同じ土俵で相撲が取れそうなこのチンタミ・アトマナガラもそうした部類に入るのだろうか。

ドンドゥットから入り、クロンチョン、ポップ・スンダを経てポップ・インドネシアに落ち着いたぼくには、こうした音楽が置かれた位置がよくわからない。近年大流行だというスロー・ロックというのとも、これは明らかにちがっている。

とにかく驚かされるのは、サウンド・プロダクションの水準の高さである。ダンドゥットやポップ・インドネシアと呼ばれてきたものとははっきり一線を画している。それらのチープさを、ぼくは舐めているわけでも馬鹿にしているわけでもないが、同じインドネシアの地でこれが制作されたとは簡単には信じ難いのだった。音色の選択も、アレンジの施されようも。

耳元で囁かれているような甘い錯覚を覚える1曲め、その美しさに頭を垂れざるをえない2曲め、流れるような映像を想起させる7曲め、さらにドラマチックに煽る10曲め、これらを珠玉と言わずしてなんと言おう。

ぼくは確かにこれがインドネシアから出現したことに驚きはした。したが、しかし、このレベルに達した作品の出自はもはや問うべきではないとも思う。まして、ワールド・ミュージックなんぞという括りなど。なんらかで差別化が図られるとしたら、ただ英語で歌われていないということでしかない。怖いほどに洗練され、削ぎ落とされた、きわめて上質のこれは音楽だ。ぼかぁ、こいつが大好きだ。

入手は困難だろうから、きみも聴きたまい、とは言わない。
そのかわり、誰彼かまわず聴かせて回りたい欲望に、ぼくはかられる。
ひとりで聴くにはあまりにももったいなくて。
(98/08/28) text by まるこめAboutMe!
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