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Jowana Mallah『Ala Koullin Bahwak』

▲Jowana Mallah『Ala Koullin Bahwak』 SACEM BDCD 532
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官能ということばが最もふさわしいのはアラブ歌謡ではないかと、ぼくは思っていたりする。「髪結いの亭主」がお気に入りの映画のひとつだからとかそういうわけではけっしてなく。

しかし、実際、官能的なシーンの多い映画でしたな、あれは。そこではあの濃厚な音楽と、それに合わせて踊られるベリー・ダンスとが結構重要な要素でしたけど、ああいうのをエッチというんだとぼかぁ思うな。あからさまな表現をせずとも吉行淳之介の文章がなによりそうだったように。

ジョワナ・マッラーハはレバノンの歌手。その国のおかれた状況から、なにやら政治的なことが歌われているような気がしないでもないけれど、その音楽自体は踊らせてナンボの世界。

詞の意味を考えたら踊ったりなんかしている場合じゃないだろう、ってなことを言う人がおりますな。はいはい、あんたは確かによっく詞を吟味しているんでしょう。背景となった政治状況だの事件だのもしっかと把握してるんでしょう。でもね、ミュージシャンがその詞をのせるのにダンス・ビートを選択した時点で、踊らせてナンボじゃないんかなぁ。やぁ、みんな、このゴキゲンな曲で踊ってくれ。でも、踊り終えたら、帰り道にでもちょっと考えてほしいんだ。なんて感じじゃないんですかねぇ。そういうもんだと思うんですよ、音楽って。考えさせることだけが目的だったら、音楽なんてカタチとってませんって。

で、ぼくはこのジョワナ・マッラーハの、音訳なんだろうけど非常に発音しづらい『Ala Koullin Bahwak』は、まぎれもないダンス・ミュージックだと思うわけ。それも、とびきり官能的な。

アラブ歌謡の特徴のひとつは、複数のバイオリンが奏でる小刻みで尻上がりな旋律がそこかしこに挿入されることじゃないかと思う。それがこの作品では殊のほか刺激的。ぐいぐいと煽ってくる。そこにノリのいい男女の掛け合いなんぞ挟まれたら。うっ、なんともエキゾでやらし〜。

あと、クヮックヮックヮッと波打つ打楽器。これもアラブ特有といっていいんでしょうかね。カッカッカッとクヮックヮックヮッのちがい、わかりますぅ? わかりません? やっぱしぃ? 気色いいんですけどね、これがまた。

ま、こういうのはアラブ歌謡ならいたるところで聴くことができるはずなんですけど、数あるなかからなんでジョワナ・マッラーハかというと、ひとつには声、ひとつには聴きやすい旋律ぞろいというのが理由。ちょっとハスキーで甘さも備えた声には魅力あるし、ぼくの勝手なアラブ幻想を裏切らない旋律。ちょっとライっぽかったり、インドネシアっぽかったりもするけれど、それこそ壷のなかから蛇が踊り出してきそうな、ね。

濃厚でエッチでっせぇ。肉感そそりまっせぇ。それが官能っちゅうもんですわ。
(98/09/11) text by まるこめAboutMe!
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