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LOREENA MCKENNITT『ELEMENTAL』

▲LOREENA MCKENNITT『ELEMENTAL』 QUINLAN ROAD PRODUCTIONS QR CD101
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聴き疲れのする声だと思う。
気負いすぎているような気もする。
ロリーナ・マッケニット。91年の『THE VISIT』で国内盤が登場するに至ったカナダ生れの彼女の、 85年のファースト・アルバム。自ら設立したというレコード会社からリリースされたこの作品で、7曲のトラッドと2曲のオリジナルを披露する彼女はまた、ハープをはじめほとんどの楽器を手がけてもいる。気負いがない方がおかしい。

が、だからといってあっさり切って捨てることのできない魅力を、この人は、この作品はたたえている。シンガーという一点のみで彼女を語るのは、たぶんまちがいなのだ。作曲家、ともまだいえない。ハーピストの線もない。では、なにか。クリエイターというのが一番近いんじゃないかと思う。ミュージシャンである以上にクリエイター。

それが最も実感されるのが、ラストを飾るオリジナル曲「LULLABY」だ。 この構成力はどうだろう。これはただのはったりだろうか。雷鳴に続くハープ、そしてスキャットのみのロリーナの歌声。その間隙を縫うかのような低音男声による語り。説得力あふれるその抑揚。ながら聴きの手が、これで止まらなかったら嘘だ。うつむいた顔がふと上げられなければ鈍感だ。丸められた背がしゃんと伸びなければ不感症だ。この訴求衝動に傾けられない耳などロバの耳に他ならない。

あえて自ら歌うこと、語ることをしなかった選択に、ぼくは彼女のクリエイター魂を見る。貪欲なその魂は、やがて音のみならず、映像をも支配しようとするのではないかとさえ思う。この曲から喚起されるものはまさにそれなのだから。
(99/04/25) text by まるこめAboutMe!
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[聴かずに死ねるか] [N E X T]