テクノ歌謡タイトル
東芝編
[テクノ歌謡に関する戯れ言]

P−VINE(ブルースインターアクションズ)から、テクノ歌謡コレクションが発売されている。東芝EMI、ポリドール、ビクター、テイチク、ポニー・キャニオン、アルファ、徳間ジャパンのというレーベル別のリリースが1999年5月25日から始まった。第一弾として東芝とポリドール編が発売されている。これらのリリースで収録されている曲は、テクノといってもどこかのんびりしていて、それでいて人手による演奏部分の多さなど創生期ならではの力強さがある。
私がテクノ音楽として定義しているのは、生身の人間の演奏が主ではなくて、機械仕掛けであることだ。ドラムが機械であることも重要だ。もちろん演奏を制御する機械にデータを入力しなければならない。手弾き入力と数値入力では、データ再生時に受ける印象も違うが、機械に入力されれば再生するのは機械である。操作するのは人間でも主役は機械だろう。
テクノ歌謡東芝編
日本テクノの先駆けであるイエローマジックオーケストラ(あえてYMOとは呼びたくないので)では、シーケンサーによる演奏パートに加えて高橋幸宏がドラムを叩いていたことは記憶に新しい。旋律の大部分は坂本龍一が奏でていたし、テクノとはいえ、えらく手間がかかっているという印象だった。

自分にとってのテクノとは、人の数が少なければ、少ないほど、そして機械が演奏する部分が多ければ多いほど良かったのだ。これを現在にあてはめると、ほとんどの歌謡曲と呼ばれる音楽は私の分類ではテクノになってしまう。

ドラムがなくても彼らの演奏は成立していたけど、高橋氏のタイトなドラミングはバンドとしての音作りに必要不可欠だったであろうことは、いうまでもないだろう。けど、人手が多いと何かと費用が、カネが必要となる。削れるものなら、とことん削りたいのが人件費であるのは、どの業界にもあてはまることだと推測される。安く作って高く売ることは、企業にとっての大命題。極端な話、録音時の弁当代だって人数が多いと馬鹿にはならない。
一方、シンセサイザー、リズムマシン、シーケンサーなどの性能は、その登場以来年々向上し、現在では一人でも立派な演奏を再現することが可能になっている。そして、性能の向上がテクノ音楽をより強固な存在にしていると思う。

そう、何人もの演奏家を使わなくてもいいのだ。量産を旨とする音楽制作企業が、この仕組みを巧みに取り入れないはずがない。しかし、シンセもシーケンサーも電気がなければ、ただの箱だ。そんなところに、テクノの哀愁を感じている。電気エネルギーは無限ではないのだ。制作費をかけずに量産したい歌謡曲には、うってつけのシステムがテクノだったのかもしれない。

テクノ歌謡シリーズの選曲を担当された皆さんは、収録曲をリアルタイムで体験しておられないらしいが、よく選んでおられるという印象を持っている。けど、同時に体験した身には、これがテクノなのという印象も正直ある。これは、をやぢの戯言なので無視して欲しい。でも年令が違えば感じ方が違うのは当然である。

テクノ歌謡シリーズの収録曲は、過度に機械機械していない人手による演奏の温かみを感じさせてくれることと思う。それでいて機械演奏風に仕上げようというエネルギーも感じられる。
テクノ歌謡ポリドール編 テクノ歌謡ポリドール編 テクノ歌謡ポリドール編
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東芝編で印象に残るのは、ベンチャーズ『パイク』と酒井司優子の『コンピューターおばあちゃん』の2曲。パイクは東芝を代表するテクノバンドであるヒカシューの代表曲のひとつだ。東芝編にヒカシューが収録されていないのは残念な限り。ベンチャーズがスカに挑戦するということで話題になった加藤和彦プロデュースのアルバム『カメレオン』に収録されているのが『パイク』だったのだ。リリース当時は、テケテケのベンチャーズがニューウエーブに挑戦!といった大仰な見出しが付いていたことを記憶している。

私にとっては、東芝編で、どこがテクノやねんと感じるひとつである。『コンピューターおばあちゃん』は、ニフティサーブのMIDI関係のフォーラムのDLでも見かけることの多い、NHK出身の名曲のひとつだろう。坂本龍一が編曲に、ドラム演奏にと活躍する坂本ファンなら知らぬ人はいないのではないだろうか。この曲を知ったのはNHKのみんなのうただった。生音のようなリズムマシンができたんだと、初めて聞いたときは思っていたが、坂本氏の演奏とはとても考えもつかなかった。

シンセピコピコ系サウンドとしてはテクノ歌謡の見本中の見本といって過言ではないだろう。NHKには(この場合JOAKとするのが適当だろう)、電子音楽スタジオというものが設備されていて、現代音楽の数々が制作されていたという。そんな背景を考えると、NHKが日本のテクノ音楽を引っ張ってきた面は見逃せない。身近なところでは坂本龍一をDJに起用したり、コズミック・インベンション、ヒカシュー、P−MODEL、プラスティックスがNHKの番組に出演していたとて、何ら不思議なことではなかったのだ。NHKにとっては学術的な色が濃い電子音楽の延長に、ポピュラー音楽としてのテクノがあっただけのことなのだろう。
テクノ歌謡東芝編

テクノ歌謡ポリドール編 ポリドール編には、旧トーラス(現ニュートーラス)や旧ロンドンレコードの音源も収録されている。このCDを買ったのは、ヴァージンVSの『星空サイクリング』と、アナログEPも持ってるのに『ニュアンスしましょ(香坂みゆき)』をCDで聞きたかったから。旧トーラスは東芝が配給をしていたので、ポリドールといわれるとどうも違和感を感じてしまう。

星空サイクリングは、アニメ『うる星やつら』の関連曲だ。アニメはキティフィルムいう、小椋桂などのリリースでおなじみのレーベル・キティの関連会社で作っていた。このキティで勤務していたことのある先輩の話では、熱狂的な『うる星やつら』ファンが『ラムちゃんはどこ〜?お話させて〜』などと現実ともつかぬ事を真剣に電話してくることが多くて、対応がたいへんだったとのこと。ボーカルのA児はカッコ良かった。とても赤色エレジーを歌っている人と同じとは思えなかったもの。日本向けの短波ラジオの音楽専門局KYOIでは、矢沢永吉の『ロッキン・オン・マイハート』とともにヘビーローテーションだった。

香坂みゆきが歌った『ニュアンスしましょ』は、化粧品会社のCMソングで大貫妙子+EPO+清水信之の仕事。EPOと清水信之は、同時期に高見知佳(日本コロムビア)の『くちびるヌード』で化粧品会社のCMソングを手掛けている。

くちびるヌードはEPO自身のセルフカバー版もある。清水信之はヤマハのDX7、RX7、そしてQX1といった機材を使った演奏をこの頃の録音で使っていた。自身でギターも演奏できるので、伴奏としてはワンマンバンドの形式だった。イエローマジックオーケストラよりテクノじゃないの、と単純な私は喜んだものだ。
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次回リリースが手に入ればテクノ歌謡シリーズにまつわる戯言続編で、お目汚しをさせていただきたい。音色という部分が欠如していることも、ここでお詫び申し上げる。
text by のりつじお


[C ON T EN T S] [ビクター編]