自然と共に生きる力を育てる試み
         − 総合単元 水について考える −  
                     江南市立布袋中学校   土井 謙次 
1 基本的な考え方              
 共に生きる力とは、次の3点が必要であると考える。
共に生きたいと願う心情
問題を解決する力
行動力
(1) 共に生きたいと願う心情
  共に生きたいと願う心は、さらに次の3つが考えられる。
A 地域の人々と共に   家族や学校、地域など、それぞれ の一員としてのあり方を考える。 …人権・福祉・地域協力 
B 世界の人々と共に   日本人として、国際社会のあり方を考える …国際理解
C 自然と共に        地球人として、地球の明日を考える …環境問題              
 
(2) 問題を解決する力
  共に生きるための社会の実現ためには、現状を正しく認識し、問題を見つけ解決できなければならない。そのためには、日常的に、問題解決型の授業に取り組むこと大切である。解決する力として、特に情報収集・選択能力を高める授業を試みたい。
(3) 行動力
 行動するためには、まず行動すべき内容と方法を理解していることが前提となる。生活経験の少ない中学生にとって、多くの場面で体験活動の機会を与えることが、行動力をつける最良の方法と考える。
2 基本方針
(1) 学校の教育計画に基づき、学級・学年経営に組み込み、年間を通して計画的に実践する。
(2) 行事を核として、社会科を中心に学級活動や道徳、他教科との関連を重視した横断的・総合的な学習を行う。
(3) 伝聞により得た知識と体験により得た知恵の融合を図る。特に、学校外の人材を活用した体験と交流を重視する。
3 実践の計画
(1)年間計画の作成
  はじめに、学校行事、道徳、学級活動の年間計画を参考にしながら、社会科の年間指導計画を作成した。各クラスとも、実施日まで含めて全140時間を設定した。
  さらに、他教科とも相談しながら、総合的学習単元を次のように考えた。
@自然と共に    …  4〜6月
    野外学習を核に水について考える
A世界の人々と共に …  7〜9月
    夏休み中の活動を核に
B地域の人々と共に …  10〜11月
    職業体験・文化祭を核に

 本稿では@についての実践を報告する
 
(2) 水について考える学習計画
         略    
 
4 具体的な実践
(1) 問題解決能力の育成のために
  問題解決のためには、解決のための情報をいかに収集・選択するかが重要である。そのため、地理分野は、年間を通して生徒の課題づくり・調査・発表を生かした授業を行っている。5月には、調査と発表の方法を指導した。
  調査では、各種方法の長所・短所を紹介し、自分の目的にあった方法を使うように指導した。さらに、「日本の南西部」では、働く人やそこで実際に生活している人の生の声を取材するように条件を付けたため、生徒は手紙・電話をはじめ、インターネット・電子メールを駆使して資料を収集した。
  発表方法の指導では、2点を条件にした。

    何も見ない  何かを見せる

 これにより、次の点で効果があった。

・自分で理解して、わかりやすく説明することができる。
・身振り、表情などの表現力が高まる。
・視覚に訴える資料があり、わかりやすい。
  2学期には、さらなる表現力の向上をめざして3人のグループ単位で授業を行うことを課題としている。
 
(2) 道 徳 生活の中の水
 【授業のねらい】
 日常使っている洗剤やシャンプーには合成洗剤と石鹸があることや、それぞれの環境に及ぼす影響について知らせて、環境保全のためにはどんなことに注意すべきかを考えさせたい。また、自然の恵みでもある水をうまく利用して生活していこうとする気持ちを高めたい。 
 授業の中心は実験のようすを撮影した自作のVTRである。金魚が入った2つの水槽に、それぞれ石鹸・合成洗剤を入れたところ、白濁した石鹸水の中の金魚は異常が見られなかったが、合成洗剤を入れた澄んだ水の金魚は20分後に死んでしまった。
 この授業を受けて、家庭科では合成洗剤を使わないできれいにする方法を学習し、また国語では自然か開発かのディベートを行った。       
                      
 【授業後の生徒の感想】
 私たちの体や地球はどんどん汚れていっているのかな?私たち人間がこれからするべきことを考えて、汚したものをせめて直していくことを考えていこうと思う。
・ いけないとわかっていても、現実に私は合成洗剤を使っています。今は良くても、いつかその報いが自分たちに返ってくると思います。今からでも遅くないので、改善していきたいと思っています。         

(3) 社会科 琵琶湖とその保全
   →指導案
 【授業のねらい
・ 滋賀県民の琵琶湖浄化のための努力と方法を理解する。
・ 身近な家庭排水の問題に気づき、野外学習での学習・聞き取り調査にたいする意 欲を高める。
   生徒の意識の流れ
あっ、琵琶湖だ。大きいな。
 
   ↓ 作図  
1400万人の人が飲む大切な水だ
 
    ↓ 資料を比較   
昔よりきれいになっている。どんな努力をしたのだろう。
   
  ↓ 生徒の発表
滋賀県の人は多くの工夫と努力をしている。
  
  ↓ 水質検査結果比較
えっ!五条川や青木川の水のほうが琵琶湖より汚い!

 
   ↓家庭排水路図
校区の川を汚しているのは私た
ちなんだ。
  ↓どうする?


   
 
青木川・五条川をきれいにしたい。郡上の人たちは、水をきれいにするためにどのような努力をしているのか聞いてみたい。
→授業記録
                   
 【授業後の生徒の感想】
・はじめ琵琶湖の写真を見て「うわっ汚い」と思ったけど、あとで五条川や青木川の方がもっと汚いと知ってすごくがっかりした。それも自分たちが原因だと思うと情けなくなった。もう少し、流す水のことも考えたい。
・青木川や五条川を汚しているのは僕たちだということで大変!水使いの名人・郡上の先輩達に野外学習でいろいろ学ぼう!そのための野外学習だ!
                        
(4) 野外学習 
  本校では、毎年6月に、名水で有名な郡上八幡へ野外行っている。そこで、実行委員が、テーマを“水に感謝を”と決定し、水と郡上についての学習を始めた。
  さらに、水質調査のグループは、郡上の水と比較するために、校区の12カ所でCOD・亜硝酸について水質を調査した。
  野外学習当日には、まず自然保護団体の方に郡上と水との関わりを聞いた。VTRを交えた具体的な説明により、生徒は観察の視点をはっきりとすることができた。
  創作活動では不便さを体験し、文明の利器に頼っていた現代の生活に気づき、自然との距離の遠さを実感させることができた。
  選択活動では、カヌーや源流探険などを行い自然と親しんだほか、水質検査や廃油石鹸づくりも行った。
   野外学習の概要  
1日目
 自然保護団体の方の話
   郡上と水とのかかわり
 創作活動
   与えられた材料だけで、火おこし器・
   肝だめし用提灯を作る
 夕食
   合成洗剤なし、火は自分でおこす。
2日目
 選択活動 …カヌー、源流探検&野草採り、
   釣り、水質調査・廃油石鹸作り 等
 ファイヤー・肝だめし
3日目
  郡上八幡OL、聞き取り調査
 
                         
 【生徒の感想
・水のきれいさは、その町の人の思いやりだと思う。でも、きっと長い年月がかかった のだと思う。郡上の人の川や水への思いやりはすごい。
・郡上の人の多くは、水をきれいにするために特に何もやっていないと言われた。米の とぎ汁を流さないのは、何もやっていないうちにはいる当たり前のことなのです。
 最終日の郡上OLでは、町の人々に水を守る工夫の聞き取り調査を行った。町の人も意識していないほど水と共生している様子は、生徒に強い印象を与えた。
 7月に行った。働く人の話を聞く会では、有機肥料のみで野菜栽培に取り組んでいる人の話を聞き、郡上の話を交えながら、自然と共に生きる喜び・価値について熱っぽく語っていただ いた。
                     
5 実践を振り返って
 今回の実践を振り返って強く感じたことは次の2点である。
 (1) 方法を知り自分でやってみたことは力になる
   調査活動が続いている現在でも、積極的に手紙や電話、インターネットで問い合わせをする生徒が多い。情報収集の方法を学習し、一度体験した生徒は、自信をもって活動している。生きる力になっている。今後も活動の場を保証し、継続することが大切である。
  インターネットは、情報収集・発信を飛躍的に容易かつ高度にした。学校・家庭で、情報通信の環境が早期に整うことを望みたい。
 (2) 心を揺さぶる授業が生徒の心を動かす 
   心情を育てるのは難しい。理屈だけでは育たない。
   今回の実践では、生徒の心を動かしたポイントが二つあった。金魚の死であり、五条川・青木川の水質検査である。生徒の心を動かすためには、心を揺さぶる授業しか ないと感じた。
   また、どんなに授業を工夫しても、本物にはかなわない。学校外での体験や教師以外の人材活用は、生徒の生きる力を育てる上で、今後ますます重要な役目を果たすと考えられる。