1 魚住先生のお話
附属名古屋中学校で行われた冬季研修会での魚住先生のお話をまとめてみました。
今は、1929年以来の危機、いやそれ以上の危機だ。前回との違いは、情報が発達し、世界が相互に依存の関係にあること。このようなときこそ社会科の出番である。社会科は、平穏な時代には重視されないものだ。
社会科は、社会とかかわる中で生きる力を授ける教科である。鋭敏に時代の要請、課題に答える必要がある。
1912年にアメリカで社会科が公認されたのは、海外からの意味の急増に対して、いかにアメリカ国民とするかというニーズがあったから。
1929年の大恐慌では、それまでのよきアメリカ人ではだめ。1/4が失業する時代、小さくても、課題を処理して生き抜く力、いわゆる問題解決学習が、目の前の問題にいかに対応するかという課題に応えるために誕生した。
第二次大戦後には、ソ連が人工衛星を打ち上げたいわゆるスプートニクショックで、それまでの経験主義教育から科学的な知識の積み上げを重視し、教科の構造性を打ち出す系統学習の方向へと教育の方向を大きく変えた。社会科が社会科学ととらえられ、科学的なものの見方・考え方の育成を重視するようになった。
アメリカは、今でも社会科の全国組織がある。ホテルを借り切り全国大会を行うほどで、理論と実践の2冊の専門誌をつくっている。それに比べて日本は小さい。
今のようにたいへんな時代だから、社会科は期待を受ける可能性が大きくなる。生きる力というより生き抜く力をつけ、社会に主体的にかかわる子どもたちを育ててほしい。そして、多様化、すなわち社会の変化に対応できるサバイバルの力をつけていってほしい。
2 資料集部会の今年度の実践から期待すること
小学校では、バイタリティあふれる指導とダイナミックな展開で、従来から丹葉地区が得意としてきたスケール感の大きな実践であった。 中学校では、今回のテーマを正面から忠実にとらえた研究らしい実践で、きちっと論証すれば学会へ持って行けそうな高いレベルであった。
課題としては次の点を挙げたい。
〈 言葉のおさえ 〉
たとえば「習得」「活用」「探究」をどうとらえるか?
我々が定義に使えるのは「学校教育法」等の法令、もしくは法令を根拠にしている「学習指導要領」のみである。独自の用語を定義するにしても、法令等の解釈からはみ出るものであってはならない。
それでは、「習得」「探究」は?
【学校教育法 第30条】
生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、こ れらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない |
ここで学力が定義されて、ここから「学習指導要領」でさらに詳述された。
「小学校学習指導要領 総則」では、「習得」「活用」「探究」は次のように使われている。
習得;37回、活用;95回、探究;23回登場する。
「習得、活用」は30条のように使われ、「探究」は次のようにかかれている。
「各教科での習得や活用と総合的な学習の時間を中心とした探究は,…」
「中学校学習指導要領 総則」では習得;38回、活用;92回、探究;24回。同様の使われ方である。
「小学校社会科解説」習得;7回、活用;193回、探究;2回
探究は、以前の「中教審答申」の引用の中で使われているにすぎない。
「中学校社会科解説」習得;33回、活用;144回、 探究;30回
小学校と異なり、「探究」は学習のまとめとしての活動に使われている。
「社会科のまとめとして内容の(4)のイを設け,課題を探究させる際に,対立と合意,効率と公正などの見方や考え方を活用させるようにした。」
「習得」は、広辞苑では「習って会得すること、習って覚えること」とあり、文脈上この意味で使われていることは明らかである。
問題は「活用」である。「知識・技能を活用して思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくむ」
=活用とは「思考力・判断力・表現力を育むために、知識・技能を効果的に用いること」という意味になる。それでは、具体的にはどう用いるのか?例えば次のように書かれている。
習得した知識を活用して,社会的事象について考えたことを説明させたり,自分の意見をまとめさせたりすることにより,思考力,判断力,表現力等を養うこと。また,考えさせる場合には,資料を読み取らせて解釈させたり,議論などを行って考えを深めさせたりするなどの工夫をすること。(中学校社会科解説P.148) |
@「社会的事象について考えたことを説明させたり,自分の意見をまとめさせたりする」
A 考えさせる場合には、「資料を読み取らせて解釈させたり,議論などを行って考えを深めさせたりする」
ここだけでも、「活用」の姿が見えてくる。こうして、こうして丹念に「指導要領」「解説」を読み解く必要があろう。丹葉独自に言葉を定義するのは、その後の活動になる。
〈 実践から一般化へ 〉
川井先生は、大部屋P.3の中で、「グラフ資料の読み取り方」の視点を明示し、グラフから事実認識を深める具体的な方法を児童に教えている。おそらく、ここで身につけた方法で、他のグラフを読み取ることができるであろう。
同様に、例えば「2万5千分の一の地図の読み取り方」や「校区の地図の読み取らせ方」も一般化できればと考える。
このように、実践の中から、他の資料等で使える方法を明らかにして、一般化したい。
〈 事実認識・関係認識を育てるための資料の使い方と発問 〉
上に書いたのは、「事実認識」のための方法である。さらに、写真資料や年表などからも、読み取りの技術を指導したい。
それでは「関係認識」を育てるにはどうしたらよいのか。資料をどう使い、どのように発問したらよいのか、具体例を出しある程度一般化できるとよい。
3 拙稿紹介
『社会科教育2月号』「中学公民 手づくり教材資料開発のオモシロ例」
ここでは、カードを用いた活用法、模擬裁判、模擬選挙を紹介しました。
4 略語カード
上の「中学公民 手づくり教材資料開発のオモシロ例」で紹介した「略語カード」です。
5 役立ちWeb特集
(1)職業調べに役立つサイト
○ 未来の仕事を探せ!:いろいろな職業について丁寧に説明されています。
(2)平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果について
(3)セルロースを分解するだけでなく燃料まで一気に分解する菌
真菌「グリオクラディウム・ロゼウム(Gliocladium roseum)」
生物多様性は醸造発酵産業に尽きる
6 教育関連情報
(1)力を測るテスト開発 ―社会科思考力テスト研究会
日本教育新聞1月19日号「思考力・判断力・表現力の育成」
新聞記事と、財団から送っていただいた冊子『思考力・判断力を問う中学校社会科テスト問題の開発研究』を紹介しました。とても興味深く読むことができます。