岐阜市立長良東小学校 社会科授業参観報告U   第183回へ   社楽の会
                                               H15.1.30 土 井

 以下の記録は、土井が参観しながら記録したものです。そのため、言葉足らずのもの、誤解があるかもしれませんが、学校や授業者には全く責任はありません。ご了承ください。

 長良東小学校、今年度3度目の訪問だ。やや激しい雨の降る中、水野校長、勝村さん、岩井さんと共に4人で校長室を訪ねた。
 この日は校内現職教育の日で、長良東小前校長、元校長のお二人が指導に招かれていた。4時間目は3年生の川田先生、5時間目に6年生の河井先生の授業である。特に5時間目は、校内の先生全員が参加しての研究授業だ。

 ここでは、3年生の川田先生の授業を中心に報告したい。
 課題は次のものである。

どうして高木さんたちはいつでもはやく(5〜8分)火事の現場に行くことができるのだろう

 教室に一歩入ると、明るい雰囲気が伝わってくる。子どもたちの屈託のない笑顔でのあいさつは自然だ。教師が資料を貼ろうとすると、「先生、資料貼ろうか?」「貼ってくれる?」「貼る、貼る!」
 こうした何気ない会話からも、人間関係の良さ、児童の明るく積極的な姿勢が伝わってくる。

 「交流するよ」「はい!」全員の手が挙がる。
 一人が指名されると全員がその子の方を向く。その目がキラキラしており、反応が早い。発言する子が資料を手に取ると、みんながその周りに集まってくる。一人が言い終わると意見を言い合う。みんな言いたくて仕方がない。
 しかし、先生が口を開くとすぐに静かになる。そのあたりの「聞く姿勢」「聞く心」が育っている。

 その指導のための掲示が教室全面に掲げてある。

聴 く
1 姿勢をよくする
 「背ピン」「足ピタ」「キラリの目」
2 話をしている人の顔を見る
 「キラリの目でさっと聴く」
3 自分の立場がわかるような合図を送る
 「うなずきながら」
4 自分の考えと比べながら聴く
 「同じ」「つけたし」「ほかに」
5 すばらしいところを見つけて聴く
 「なるほど」「すごいな」

話 す
1 「ハイ」のへんじ
2 みんなの方を見て話す
3 大きな声ではっきりと
4 何回も手をあげる
5 理由づけや考えのわけをくわえた発言
  〜と思う、わけは〜ですがどうですか
6 友だちの考えやわけのちがいにふれる発言
  〜さんの考えとちがって、つけたし
  〜さんにしつもんですが
7 友だちにわかりやすい発言
  ショーアンドテルで話す。黒板や資料を使って
   生活経験、今までの学習と比べて話す、たとえで話す「もし、〜ならば」 
8 友だちの意見から学ぶ発言
   Aさんの意見からわかった、気づいた
   Bさんの意見から自分の考えが変わった
   Cさんにききたい 
9 感じたことをありのままに(つぶやき)
   「ねえ、みんな」「それに」「でもね」
   「わかったよ」「ぎもんがある」 

 奥が深い。
 火事の現場に早く行く工夫が「ナビ」からすすむ。
「先生、ビデオ見みれます?」これまでに見た資料が頭に入っている。議論に参加していない子も、目や耳はしっかり参加し、いっしょに考えている。
 ビデオの画面から、防火服を着る順番に目をつけ、実演しながら説明している。

 ある子の登場で方向が大きく変わる。
 後ろにこれまでの学習をまとめたものが掲示されている。その子は「スーパーではたらく人」の掲示を使って説明をはじめたのだ。「手が痛くても、お客さんのため・・・・」という願いがあるから、消防署の人も「はやく助けたい」という願いがあると思う、と言う。既習事項が定着している証拠だ。
 その答に対する反応も早い。「助けたいう思いで速くなる」「かってに手が動く感じ」次々に意見が出る。
 
 「私たくさんあるんだけど・・・」とノートを持って登場した女の子。「今までに出たのは、ナビと赤信号と・・・・・・」とこれまでの議論を整理している。その後で、まだ出ていない「交代で仮眠をとる」という意見を述べる。まだまだ言いたそうだった。
 川田先生も河井先生同様字が上手だ。

 先生の「訓練について調べた人?」の言葉で話題が訓練に及ぶ。「出動訓練」「救助訓練」を確認したあと、「これで体が鍛えられるから速くいける」「体を鍛えるとどんなことにも使える。」これが3年生の発言か?身ぶり、手振りで説明している。
 「早く行くだけではダメ、助けたり、火が消えなきゃダメ」
 ここで教師が「やった人?」と実際に消防署で体験した子に振る。体験を生かしている。
 「手がじんじんしてきた」「高木さんは疲れないのかな?」
 そこで教師が「高木さんに聞いてみよう。」と振る。この振り方もタイミングがよい。高木さんは「つかれます。楽な訓練は一つもないです。真夏でも冬でも雨でもやらなければいけません」 
 児童は真剣に聴いている。
 教師「どうして疲れてでも訓練するの?。」手が挙がるがそれを制して、「考えたい人もいるから周りの人と相談しよう。」この指示が絶妙だ。この時間で一言も発言できなかった子が出るだろうが、ここで全員が参加することができる。
 教室のサイドの座席にいた3人の子もさっと集まった。順に自分の意見を言っていく。
 最も消極的に見えた男の子も、「火事の時助けることができなければ消防士と言えない。」などと自分の考えをはっきり言うことができた。目と耳と頭は参加していたことがわかる。
 
 「テープ使っていい?」との声に「あっ、ぼくも使いたかった・・・」の声。どこにどの資料があるかを把握している。テープは119番通報の録音だ。
 「何度も火事の現場に行き、火事の時の人の気持ちがわかるから速く助けたいと思う」
 「助けたいという願いがあるから、訓練とか服の着方とか・・・・・」
ここで教師が、板書をもとに「みんなつながっているんだ。」「うん。」
 願いというキーワードで、これまでの意見をつないでいった。
 ここで「高木さんに話を聞こう。」高木さんは、実際の火事でおばあさんを助けて感謝された経験をもとに話をまとめた。3年生に対して、長すぎない、わかりやすい話だった。
 教師は目線を下げて、「どう思った?。」ここは意図的に指名する。
 「助けたいと思う意思でいろんなことを乗りこえて自分の気持ちを強くしていった。」「厳しいことを乗りこえて、人のために役立っている人だ。」この子たちの言葉が振り返りになっている。
 最後に、高木さんにお礼をして終わった。

 5時間目は河井先生の授業だ。日本国憲法の平和主義の授業である。

どうして寄田さんは原爆のことを思い出したくないのにホームページで公開するようになったのだろう

 原爆の悲惨さを確認したあと、ホームページ公開前にインド・パキスタンの核実験があったことをつなげて、同じ過ちをくり返さないという寄田さんの気持ちにつなげ、憲法について知ることが平和の近道という意見に編み上げていった。
 初めは憲法の授業と言うには違和感があったが、平和のありがたさに気付かせる優れた授業である。
 寄田さんのHPは http://ww2.enjoy.ne.jp/~yorita/index.html 

【土井の感想】
 真っ先に自分の力のなさを感じる。なぜなら、授業の問題点がほとんど見つからないからだ。授業が自分の力を超えている。もっともっと勉強しなければならないと思う。
 今回の参観で勉強になったことをまとめてみたい。
◆ 見る力を鍛えている
 子どもたちが資料を見る眼を鍛えてある。どこにどの資料があるか知っており、内容も頭に入っている。さらに、資料に対して自分の考えを持っている。どうやってこの力をつけたのだろうか?
◆ 聞く心が育っている
 人の意見を聞こうとする姿勢、心がある。大人でも人の意見を聞けない人が多い中、話を聞き取る力はもちろんのこと、聞こうとする心が育っていることはすばらしい。
 「話す」と「きく」の切り替えの速さもすごい。
◆ 話す力が育っている
 自分で考えたことを、自分の言葉で話している。原稿を見る子はいない。身ぶり、手振りでわかりやすく伝えようとする気持ちがある。聞く力が育っているため、話す側にも安心感があるのも事実だろう。
◆ 学び方が確立している
 6年生の最後のふりかえりは次のようである。
「今日わかったことは、・・・・について、はじめは・・・しかわからなかったけれど、全体交流で2つ(3つ)わかりました。ひとつは、・・・・・・。ふたつめは・・・・・」
 これにより、自分の成長をふりかえる習慣がつく。数を挙げることで、意見を分析的に聞くことができる。型が考え方を教え、思考力を鍛えているのである。
◆ 学級経営がしっかりしている
 先生に対する安心感、クラスの一員である満足感にあふれている。
◆ 既習の知識を生かしている
 3年生はスーパーの学習で働く人の願いを例にしていた。また、6年生では国語での学習を例に説明していた。既習事項を学習に生かしている。
◆ 情報収集力が鍛えてある
 6年生で寄田さんに直接メールを送り調べた子がいた。先生のさりげない紹介が、日常の情報収集のすごさを物語っている。
◆ 授業の組み立ての軸がしっかりしている   
 人の「願い」を軸に、授業を組み立てている。心情に焦点を当てすぎると社会認識が不足することが多いが、心情と社会認識のバランスは3年生、6年生共にとれていた。また「高木さん」「寄田さん」という具体的な人を対象にすることで、より距離感を縮め、その気になって考える動機付けに有効である。  
 また、授業での高木さんの登場、寄田さんへの直接の取材などが、教材の持つ力をいっそう高めているのは言うまでもない。