2日目                                

7月24日(日

  4時半起床。結構ハードだ。テレビをつけるとNHKで大相撲の再放送をやっていた。こうしていると日本にいるのと変わらない。

北京から鄭州へ

 ホテルを出る。至る所に日本料理店を見つけた。漢字である程度意味が分かるので楽しい。表意文字は偉大だ。韓国ではさっぱり分からなかった。
 
 空港はすごい数の人だった。顔も服装も日本人と変わらない。特に若い子はあか抜けしている。ここだけ見ていると、中国も本当に豊かになったな・・・・と思えてくる。
 子どもが空港で飛行機を指さしてはしゃいでいる。子どもはどこへ行っても同じだ。その純粋さをいつまでも失わないでほしい。
 

 空港のセキュリティチェックはとても厳しい。ほぼ全員が金属探知で引っかかる。筆者はブレザーのボタン、Tさんはガムの銀の包み紙が反応した。ペットボトルはいちいちふたを開けて臭いをかいでいる。ロンドン地下鉄のテロ、そして北京で開かれる六カ国協議のためであろう。
 座席は11-F 窓際だ。B-737。実際の離陸は9時ちょっと前だった。
 機内で通訳のHさんに聞いた話をまとめる。
 Hさんは、これまでに巡り会った誰よりもすばらしい通訳だ。人間性、教養、日本に対する知識、日本人の心についても詳しく、ある意味で日本人以上に日本を理解している。

 

  生まれも育ちも北京だが、6年間筑波大学に通っていた。もともと親日と言うわけではなかったが、今では筑波が第二のふるさとと思うと、自然と親日になる。人間なんてそんなもの。
 中国の歴史はマルクス主義の歴史。経済や政治史が中心で、農民蜂起などが盛んに出てくる。一方文化の扱いは軽い。たとえば宋の時代は政治的に評価されていない。しかし、日本では教科書にページを割いている。陶器などの文化が広まったから文化的には重要な時代だ。

 筆者が質問
 「元や金、清のように他民族に支配されている時代を、学校ではどう教えられるのか。」
 もともと中国は多民族・多文化国家。現在でも56の民族が住んでいる。だから、日本人ほど民族を意識しない。異民族間の結婚も多い。だから、チンギスハンも中国の英雄であり、異民族という意識はない。
 中国は革命のたびに歴史を破壊してきたせいか、過去にはこだわらない。
 
 毎日日本の新聞を読んでいるが産経新聞は好き。内容に賛成できないところもあるが、感情が書かれている。日本人の本音を見るようでおもしろい。朝日は正論すぎるかも。

 中国人は、経済的にも、考え方にも個人差が大きい。
 反日の人は、社会からはずれた人が多い。日雇い労働者とか一部の学生とか、社会に不満を持っている人たちが暴徒化した。一般の中国人はそれをわかっているから冷静だった。その証拠に、イトーヨーカ堂は大繁盛だった。
 共産党独裁は仕方がない。これだけ多くの民族をまとめるのは強い力でまとめるしかない。ただ、中国では自由な発言が許されるようになってきた。マスコミは別だが・・・。近年、党自身も柔軟になってきている。

 対中ODAは、多くの人は知らない。以前のODAは政府に近すぎて、効果に疑問をもたれてきた。もっと文化交流が必要だ。

 筆者が質問「人民服はいつから見られなくなったか」
 85年あたりから急にライフスタイルが変わってきた。90年代には人民服が見られなくなったが、いまでも地方では見ることができる。柳田国男が言ったように、古いものは都市から離れるほど多く残っている。
(Hさんは、国木田独歩や島崎藤村、柳田国男を読んでおりたいへん日本のことに詳しい。)

 上海語と広東語は全く違い、わからない。ただ、お互い標準語を習っているので言葉は通じるが、上海人同士の会話は聞き取れない。

中国人は台湾には簡単に行けない。

 以上がHさんから聞いた主な内容だ。

冷えていないビール
 機内でビールを注文。しまった!中国では「冷たいビール」といわないと常温のビールが出てくるんだった。
 そう言えば、路上でもペットボトルを売っているが、ほとんどが常温だ。Hさんによれば、中国人は冷たいものは胃に悪いと思っている。常温がスタンダード。中には、ビールを澗する人もいるそうだ。覚えておこう!

 考えてみれば、飲物を冷やすという行為は贅沢なものだ。
 飲食物を暖めるのは、殺菌という大きな役目がある。材料を煮て、柔らかくする効果もある。また、冷えた体を温めるという役目も果たす。
 それでは、「冷やす」意味は?
 考えてみれば何もない。単に、清涼感を味わうためだけで、確かに体にもよくない。さらに、温めるより冷やす方がはるかにエネルギー効率が悪い。
 みなさん、飲物は冷やさないで飲もう!
 でも、私は嫌です。
あわてない
 9:30の到着予定が、空港前のバス内でもうすでに10:50。中国では、「あわてない、あせらない、あてにしない、あきらめない」が行動の基本だそうである。
 確かに、かつての人民公社時代、仕事をがんばってもがんばらなくても、早くやってもゆっくりやっても給料に反映されない時代があった。経済の自由化で改善されつつあるが、まだ、当時の気風が残っているのかもしれない。

河南省に到着

 河南省の省都、鄭州に到着した。省職員のWさんがいろいろと解説してくれた。

鄭州空港

銀苑大飯店

トイレの掲示

温県の街並 温県の民家
車窓から見た黄河

 河南省は、中国のほぼ中央。洛陽をはじめとして、かつての都が集中している歴史のある所である。
 鄭州空港から温県へ向かう途中に見た黄河は、イメージ通り赤茶けて、雄大であった。古代文明を育み、また、多くの氾濫を繰り返してきたこの大河を、これまでに何人の人が見てきたのだろうか。

 昼食は、銀苑大飯店。中華料理のバイキングである。
 ここのトイレでおもしろい貼り紙を見つけた。小便器の前に次のように書いてあった。
 「前進一小歩 文明一大歩」
 思わず、にやっとさせてくれる。

 温県の街のメインストリートは土で、未舗装だった。趙堡鎮は人口4万人、中に中学校が4つある。バスの車窓から見る風景は、デジカメで撮りたいものがたくさんある。北京と違って、かつての中国らしさを感じる。街から離れると、貧しそうな家が建ち並ぶ。家に車はなく、自転車とせいぜいバイクが交通手段だ。煉瓦造りで、黄河が運んだ土を焼いて作ったようである。 

中国の行政組織
  これ以後に何度も出てくる省、県、鎮の意味を知りたい人は、次のサイトをご覧ください。

 中国の地方行政制度 http://www.clair.or.jp/j/forum/c_report/html/cr209/  詳しく知りたい方へ
 中国の行政制度 http://www.cji.jp/China_chili/China_gov.htm  概略を理解したい方へ

中国の教育制度
  次に紹介する中国の中学校を理解するために、次のサイトをご覧ください。

  中国の教育  http://www.pekinshuho.com/2002-26/wh26-1.htm
ガソリンスタンドは大きい 一面のトウモロコシ畑 看板とスローガン 蘭州郊外の街並み レンガからコンクリートへ

温県 趙堡鎮 中学校校舎再建計画
 いよいよ最初の視察案件だ。
 視察内容の詳細は、公式の報告書がいずれWeb上でも公開されるのでそちらに譲るが、予備知識として、事前に配付された資料から紹介したい。

1 温県趙堡鎮中学校校舎再建計画(草の根無償資金協力)

 (1)実施年度:平成10年度

 (2)供与限度額:9,707,860円 ← 草の根無償援助は1千万円が限度

 (3)実施機関:河南省温県人民政府

 (4)実施目的必要性: 1996年の黄河の大規模洪水により温県全体が大きな被害を被っていたが、特に趙堡鎮の被害は深刻であった。これにより趙堡鎮中学校も大きな被害を受け、1000名にのぼる学生が授業を受けることが出来なくなった。そこで洪水被害を受けた中学校を再建し、児童の就学復帰及び教育環境の改善をはかる。

 (5)事業概要:温県人民政府の再建計画のうち、教室棟再建費用の約半分を援助提供する。

 (6)効果:この案件により、趙堡鎮南半分の8つの村の約2000世帯が利益を受け、約900名の学生の就業問題を解決する事ができる。またかつては4カ所に分散していた中学校を趙堡鎮中学校に統一・集中することで教師の質が強化・充実される。

 2時に学校へ到着。日曜日にもかかわらず、門の両側に生徒が分かれて、拍手と笑顔で出迎えてくれた。後でわかったが、家に電話があるなど、声をかけやすい子が集められたようだ。ということは、家に電話がない子が多いということか?

 敷地に入ると、6年前に日本の資金援助で建てたらしい校舎が見あたらない。いや、あるにはあるのだが、どう見ても築20年。窓枠はさび付き、所々ガラスはなく、案内された部屋も6つある蛍光灯のうち、点灯したのは2つのみ。しかし、これがその無償資金援助で建てられた校舎だった。

 机もひどく、日本の常識から見ると学習環境としてはかなり劣悪だ。机には、日本のアニメのシールなどが貼られている。周囲には、毛沢東やマルクスなどの肖像が飾られ、業績が書かれている。
 こうした教室が各階8、計24ある。生徒数が増えれば一教室あたりの人数が増えるだけである。したがって、現在は1クラス60〜65名。多すぎるが、物理的に仕方がない。日本のように40人学級などといっていられない。

 教職員は65名。これは、修繕や植物の世話をする人も含まれている。教職員のほとんどは敷地内に家族ぐるみで寄宿しており、職員室兼住居なのである。運動場はバスケットゴールのみ、かなり草に覆われている。トイレは運動場横に一つあるだけらしい。そのトイレは大小兼用。扉・壁はない。

両側に並んで大歓迎

教室の様子

質疑応答

ふれあいタイム

運動場とバスケットゴール

机にはNARUTOの絵

見てよ!私の得意技

職員室兼職員住居

 会議室には、黒板に「中日人民世代友好」と書かれている。新品のテーブルクロスが敷かれ、桃が準備され、手洗いの桶と石鹸が置かれるなど、できる限りの歓待をしていただいた。歓迎の看板、記念の石碑など、日本への感謝の気持ちがよく表れていた。

 学校紹介の後、双方が自己紹介。子ども達の表情はやや固い。いきなり外国人が来たのだから無理もない。 
 子ども達は、7:40〜17:00の間、午前は4時間、午後3時間学習する。昼食は、多くは家に戻って食べるそうである。最も家が遠い子は6q。通えない距離ではない。教員の人事権は県にあり、鎮の中で異動するそうである。

 説明の後で、施設見学休憩をとった。ところどころで団員と子ども達の交流の輪ができた。笑い声が響き、とてもよい雰囲気だ。得意技の太極拳を披露する子、漫才でうけているコンビもいる。その光景を眺めている参加者の表情も満足そうである。

 質疑応答が再開した。先ほどとはうって変わって柔らかい表情だ。「100万円あったら何をしたい?」という質問には、「希望学校」「立派な学校」「道路」「身障者の学校」を造るといった模範的な意見や、「半分は自分がもらう」「海外旅行」といった子どもらしい意見も出た。

「行きたい国は?」と言う質問には、「援助してくれた日本へ行きたい」という意見を始め日本が最も多く、イギリスやフランスが続いた。

 「将来の夢は?」に対しては、科学者、企業家、教師、映画俳優、農業科学者、音楽家、調理師などがあり、中には解放軍の兵士と答えた子もいた。

 教師集団も前向きで、「日本は能力を伸ばそうとしているが、中国では知識偏重だ。日本から学びたい。」という、素直な意見を聞くことができた。

感じたことは・・・

 自分には少なからずショックだった。その要因はいくつかある。

 一つは、想像以上の貧しさである。
 ここに集まった20名の子は、電話があるなど連絡の取りやすい子だそうである。挨拶の様子を見ていると、優秀な子ども達であるに違いないが、インターネット経験はゼロで、ネット環境にないことがわかる。ドラえもんを全員が知っているところを見ると、テレビは普及しているのか?(漫画で知ったのかもしれないが・・・) 学校の備品は全くない。
 それにしても、省都からわずか90キロメートルでこの学習環境だと、もっと離れた地域はどうなるのか。
 
 二つ目はとても6年前に完成したと思えない校舎だ。洪水後の緊急の救済のため、建築資材は廃材を使ったのであろうが、素人目から見ても造りも甘い。中国の建築基準には適合しているらしいが、本来ならばもう少し費用をかけたかったであろう。また、使い方にも問題が見受けられる。
 草の根無償資金協力で出せる金額は1,000万円。相手も同額以上を出す必要がある。この校舎はほぼ満額、2千万円近いものであるが、いくら物価の安い中国といっても、不足していたのだろう。 

 三つ目は子ども達の輝く目である。特に後半の質疑応答では、どの子の目も輝いて見えた。将来の夢について自信をもって語り、学習意欲にあふれ、高い地域への貢献意欲を見せていた。
 日本ではどうであろう。はるかに豊かで、恵まれた学習環境の中で学ぶ日本の子ども達に、これだけの夢が語れるであろうか。輝く瞳を持っているのだろうか。

 教育に携わるものとして、考えさせられた。


ODAに対する評価

学校のトイレ(女子用)

 草の根無償資金協力は金額こそ少ないが、困っている人が一番してほしいことを援助することができる。相手の顔が見えるので、成果も見えやすい。この学校でも、歓待ぶりや人々の生の声により、日本のODAに対する感謝の気持ちを十分に感じ取ることができた。その意味では有意義であろう。

 ただ、いくつか問題も感じた。建築中のチェックはできていたのか、1千万円という限度額が設けられていることは適切か、利用の仕方は適切か、数年分の修繕費などの経費が見積もられているかなどである。

 また、何らかの形で、人が継続的に係わることができないだろうかと思う。学校間交流、行政職員交流でもよい。人が介在することでより有効にはたらくと思う。

Sofitel ホテルにて

 外務省のKさんにホテルでいろいろと話を聞く。外務省の官僚というと、まるで雲の上の人のような取っつきにくいイメージがあったのだが、Kさんはそのような堅さを全く感じさせない。しかし、理路整然とした話しぶりから、とても優秀な人であることは十分に感じ取れる。

富の分配

 ODAはそもそも富の分配である。

 日本国内で個人レベルで見てみると、累進課税制度により収入に応じて税額が変わる。さらに、低所得者に対する支援が行われ、富が分配される。 自治体レベルで見ても、地方交付税交付金制度により、収入の少ない自治体に対して税金が分配される。これらに対して税金が使われることに対しては、国民の理解を得ていると言えよう。

 これを地球レベルでみたのが、ODAなのである。たしかに、国家間においても富の分配はあってよい。いや、むしろあって当然だ。それが正しく使われるならば・・・
 中国には、そうしたシステムは、まだ、ない。