4日目                               

7月26日(火)

鄭州の朝
 昨晩は三重県から参加のHさんのおかげで大いに盛り上がった。外務省のKさんとのコンビは最高だった。(3日目最下段の写真参照)
 フロントで精算すると150元(2千円ちょっと)ほど。日本への電話代、クリーニング2着、ビール4本でこの値段は日本のホテルでは考えられない。
 今日はこれから蘭州へ向かう。

鄭州の町は北京よりも中国らしさが残っている。人々の生活を身近に感じることができる。 自転車タクシー、歩道上の屋台など、20年前に見た中国の面影がたくさん残っている。
 自転車が車の波の中を平気でぬって走っている。人も道の真ん中を平気な顔をして歩いている。事故が起こらないのが不思議だ。車も強いが、人も強い。たくましい。生のエネルギーを感じる。
 中国の新しい官公庁は大変立派。さらにデザインが個性的で、同じようなものがない。

 鄭州空港から9時40分に離陸。空路蘭州へ向かう。B-737は昨日と同じだが、航空会社は廈門航空。
 やや高度が下がり雲が切れると、驚きの光景が目にはいってきた。
 「山に木がはえていない!」
 見渡す限りの山並みに、木が一本もないではないか。全てが禿げ山であり、所々赤茶けている。谷間に少し緑が見えるところもあるが、ほとんどは茶色の世界で、命の気配がしない。死の世界といったら言い過ぎか?
まさに、沙漠の山だ。

 日本は、国土の3/4が森林である。この光景を見ると、森林のありがたさがよくわかる。何より森林は生きているから・・・・。 


 世界の沙漠の面積はどんどん広がっているという。このままいくと、人類はどうなる?沙漠を見つめながら、不安感は募るばかりである。
 ※ 中国の沙漠については、ここを見て欲しい。

蘭州中川空港拡張事業(有償資金協力)
11:25  蘭州空港到着。ここは、有償資金協力(円借款)で飛行場を造り直した。主なデータを見ていただきたい。

3 蘭州中川空港拡張事業(有償資金協力)

(1)実施年度  交換公文締結日(借款契約調印日):1996年12月24日(1996年12月26日)

(2)供与限度額:63.38億円

(3)実施機関:中国民航航空総局

(4)実施目的必要性 蘭州中川空港は.1970年に蘭州市内より西北に70Km離れた場所に開港したが、その後、本事業の開始時点までに地盤沈下や凍結、設計荷重を超えた大型機の運行により滑走路の損傷が著しくなり、中国と中央アジアを結ぶ航空路の安全性を確保するため、同空港は緊急な整備を要していた。

(5)事業概要  本事業は、蘭州中川空港の滑走路、ターミナルビル(2.5万m2)、航空保安施設を整備するものである。

(6)効果  本事業は、増大する旅客需要に対応し、中国中央部の航行の安全性を確保するものである。

 

蘭州中川空港

旧ターミナルビルと駐機場

旧滑走路の上に建つ新ターミナルビル

管制塔の中

監視センター

空港内部

日本支援を知らせるプレート

植林が始まった周辺の山

ここで聞いた話の概要(一部)は次の通り。

     旧空港の基礎が弱体化し危険になってきた。そこで、新空港の建設に踏み切った。
     コントロール施設の全てを円借款で造った。総工費14億人民元のうち、4.2億が円借款。着陸誘導システム、滑走路を含めた全てのコンクリート・鉄鋼も円借款
     
かつては1日20便だったのが、今では1日80便が発着し、経済活動が活性化してきた。
     
周囲は最近の植林で、2001年のプロジェクトで4億人民元をつかって実施した。
    借款の返済は空港自身で行っている。
     
円借款のメリットはとても大きく評価している。為替レートの変動幅が大きく予算を立てづらい。人民の切り上げには喜んでいる。
     
日本のODAでつくられたことはみんな知っている。

「無償より有償で借金を返すのが醍醐味」
 空港で聞いたこの言葉で、ODAに対する自分の考えが大きく変わった。誰の言葉を訳してくれたのかは定かではないが、空港関係者の誰かの言葉であることは間違いない。

 そういえば、中学校3年社会科の授業でこんなことがあった。経済単元の導入で、一人一台のパソコンを使ってコンビニ経営ゲームを行った。「やってみ店長」という学習ソフトで、立地条件、経費や借金の金利の設定など、けっこう本格的である。
 
これに関して結果を言えば、男女差が結果に明確に出た。
 男子は半数以上が利益を上げていたのに対して、女子は一人を残して全員が破産した。その原因をデータから調べてみると、次のことがわかった。

 ◆ 男子はまず借金をして、それを元手に設備投資をして大きく儲けてから借金を返済する例が多かった。
 ◆ 女子は、まず小さな利益を積み重ねてから、その利益を使って設備投資をしようと考えた。

 その結果が、男子は半数以上が生き残り、女子はほぼ全滅であった。
 実際のコンビニ経営がこれと同じとは限らないが、何かをしようとすれば元手がかかること、銀行から融資を受けた分、借金を返済するためにがんばろうという心理が働くのは確かである。

 円借款も同様なのだろう。
 借金を返さなければならないという気持ちが、自助努力のエネルギーになる。資金をもとに、利益を生み出すシステムづくりを考えるようになる。
 中国の人から「借金を返すのが醍醐味」という、前向きな表現を聞いた時は目が覚める思いであった。「借金」というと暗いイメージがあるが、そうではない。増やして返せばよいのである。

中国人は…
 空港でM(望)さんから聞いた話はとても参考になった。
 「中国人は〜 と一言では言えない。なぜなら、様々な人種が集まっているから。」

 ここは、日本人が見落としがちなポイントである。中国人=漢民族と思いがちであるが、実はそうではない。Mさんの奥さんは中国の人だが、北京と上海は別物。ほとんど単一民族の日本人が落ち入りやすい罠は、「○○人は…」とステレオタイプにとらえがちなこと。中国は、あまりにも大きい。

 ちっぽけな日本人のスケールで見てはいけない。


かんがいモデル計画視察(技術協力)

15:45 4件目の案件を視察した。さっそくデータを見てみよう。

4 大型灌漑区節水灌漑モデル計画視察(技術協力)

(1)実施年度:2001年6月1日〜2006年5月31日

(2)供与限度額被供与団体等 機材供与2.3億円
  投入実績 :専門家派遣 .長期専門家7人、短期専門家9人
         研修員受け入れ:28人

(3)実施機関:水利部(国際合作与科学技術司、農村水利司、中国灌漑配水発展 中心)

(4)実施目的  中国の人ロ増加および社会経済の急激な発展、特に90年代からの改革開放政策に基づく社会経済システムの急激な改革推進により工業用水が急速に増加してきた。地下水の急速な枯渇問題等環境の悪化を引き起こしており、中国社会経済の持続的発展の甚大な制約要因となっている。一方、中国国内では改革開放以来の地域・産業間の経済格差の拡大に伴い、貧困層及び地域に対する所得向上・開発促進が緊急の課題となっている。更に長期的には中国の人ロが2030年前後に16億人に達する見込みの中で、食料の安定供給、社会経済の持続可能な発展や生態環境保全のために水資源の確保が益々重大な問題としてクローズアップされてきている。

(5)事業概要  中国政府は1999年に全国20の大型灌既区モデル地区において、施設更新改良のための計画設計等の事業計画を策定し、合理的・計画的な節水灌既事業の促進を図るためのプロジェクト方式技術協力をわが国に要請してきた。景泰川電力堤灌概区は、プロジェクトに3ヶ所ある重点モデル灌概区のうちの1つであり、甘粛省の東南に位置する景泰県にある畑地灌既地区で、黄河を水源とし約2万haの農地を灌概。本事業では節水灌概技術を確立するため、ポンプ、ゲートの遠隔監視・遠隔手動操作施設等のハードの整備と配水計画策定の手法を見直しし、農家の節水意識を向上させるための普及活動等のソフト面での活動を合わせて実施。

(6)効果 ・重点モデル灌漸区において灌漸効率、水利用効率が向上する。
      ・モデル灌漸区において適切な節水かんがい改良計画が作成される。

まず公室にて説明を聞く。ここでは、その一部のみを紹介する。

○ 灌漑プロジェクトでは、景電管理局は日本のみなさんを歓迎する。日本からの多大な援助に対して感謝している。
○ 蘭州から180キロ、黄河から25キロ離れている。
○ 1974年に竣工した一期工程について説明するが、日本の協力は第一期で受けた。
○ 第二期を終え、命を救う、富をもたらす、変化をもたらすプロジェクトとして評価されている。桶で水を運ぶ作業から用水路へ。これにより農作物16.3億キロ、収穫物14億元。沙漠からオアシスに変化した。移民32万 178の学校 123の医療所 植林3600万株 灌漑区の14%を緑化することができた。
○ 湿度が高くなり降水量(185から201oへ)も増えた。風速が下がり暴雨の日が減った。
○ 日本の支援は、具体的に技術協力(専門家派遣)、無償機材提供
○ ここはモデルの役割を果たしている。多くの訪問者が増している。日本人のまじめな態度に影響を受けた。
○ 日本からの一方的な押しつけではなく、中国人のソフト面を 全国への普及、農民への普及まで一連の動きとしてとらえて活動を進めている。


その後、実際の施設を見学した。

車窓から見えた住居 説明を聞く 黄河の水を汲み上げる これが黄河の水の色
象徴的な1枚 パソコンの壁紙がJICA 日本の支援を示す看板 水路近くに住む子どもたち
導水路 放牧された山羊 近所の子どもたち 水路によって生まれた畑

 飛行機から見て驚いたのは、山に全く木がないことであった。さらに空港から1時間、緑のない景色を眺めてきた。それが、灌漑区では、植物が育ち、多くの人々が生活できるまでになっている。これだけでも、素晴らしいことだ。
 
 地球温暖化、砂漠(沙漠)化、人口増大による食糧問題と雇用確保。これら地球規模の問題を解決するためには、沙漠の緑化が大きな力になる。沙漠緑化は、単に中国だけでなく、人類全体のためになる。
 
 沙漠緑化の最大の障害は? 放牧の家畜だそうだ。山羊が芽を食べてしまい、緑化を妨げている。これを防ぐために、放牧民から職を取り上げる代わりに、灌漑地に住まわせ、新たな職を提供すると共に労働力を確保する。納得のシステムだ。

プロジェクト
 ここで感心したのは、支援の有機的なつながりだ。
 そもそもODAにはいろいろあり、それぞれにメリット、デメリットがある。
 これまで見てきたことから筆者が勝手に考えると次のようになる。(あくまでも個人的憶測)

メリット デメリット
無償資金協力 ○ 相手が最も困っていることに対して支援できる。
○ 感謝されやすい。 
○ 相手の自立支援にはなりにくい。その後も頼られることもあり得る。
○ 金額の限界がある。
技術協力 ○ 直接的に貢献するので、相手にとって「顔が見える」支援。感謝されやすい。  ○ 金額的に小さく、数値に表れにくい。従って、外的評価がされにくい。
有償資金協力 ○ 支援額が大きく、大きな効果が期待できる。
○ 大半が返済されるので日本国民の負担が少ない。
○ 返済しなければならないので、相手国の自立が期待できる。 
○ 相手が主体なので、日本の貢献度が見えにくい。いわゆる「顔が見えない」支援。

 こうしてみると、ベストの支援はないことが分かる。だから、それぞれの長所を組み合わせればよい。それがいわゆるプロジェクトだ。そうすると、次の点が見えてくる。
◆ 複数のチェック機構がはたらく。従って、より有効に使われるようになる。
◆ 顔が見える大きな支援が可能になる。
◆ 相手の自助努力の育成につながる。
 要望が多い中、いつでもプロジェクトが組めるわけはないが、毎年1,2でも実践していくことが、これからのODAの道であるような気がする。