天安門広場
今回の行程で、数少ない観光らしきルートが、天安門広場を歩いて横断するというささやかなものだ。今後、ODA民間モニターを希望しようと思っている人は、観光は期待してはいけないよ!
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
天安門 | 人民英雄記念碑 | 毛主席記念堂 | 全員で記念写真 | 人民大会堂 |
天安門と言えば、あの天安門事件を思い出す。通訳のHさんも、あの1989年6月4日には人民英雄記念碑に座っていたという。今も残る銃弾の跡を見たかったが、柵があり近づくことはできなかった。この事件では、中国政府は300余人の死者が出たと言っているが、本当のところはわからない。Hさんによれば、広場内部の死者は十数人から数十人で、残りのほとんどは、広場に入ろうとして止められた人達だそうである。その人達に向かって銃が乱射された。
ここでは死者の数は問題ではない。
わたしは天安門に来て、この事件が起きた時「これで社会主義は終わった・・・」と予感したことを思い出した。
思えば、昭和の戦後史は、東西冷戦の時代だった。なかでも、その後半はベトナムで米軍が負け、ソ連はアフガンに侵攻、スポーツでは東ドイツなどの東欧諸国が各種大会を席捲し、社会主義諸国の動きは見かけ上は派手であった。
しかし、経済的な格差は開くばかりで、1人あたりのGNPなどでは両者の勝負はついていた。そしてソ連にゴルバチョフ大統領が登場し、ペレストロイカが始まった。
このような状況で起きたのが天安門事件である。世界中のテレビで流された映像があまりにもショッキングだったため、「これは連鎖する!」それにより「社会主義国がなくなる。」と直感したのだった。実際に、何かにそう書いた。
結果は、半年後にベルリンの壁が崩壊し、翌年東西ドイツが統一、さらにその翌年には、ソ連そのものが解体してしまった。だからこそ、天安門事件は印象に残っている。
しかし、中国は残った。それ以後、経済的な改革は行ったが、ゴルバチョフが行ったような政治改革はいまだに行っていない。そして、問題を今も引きずっている。
8 北京市地下鉄案件視察(有償資金協力)
いよいよ最後の視察案件である。いつものように概要を見ていただきたい。
8 北京市地下鉄案件(有償資金協力) (1)実施年度 【1期】交換公文締結日(借款契約調印日):1988年7月26日(1988年8月3日)1989年5月16日(1989年5月23日)供与限度額:計40億円 【ll期】交換公文締結日(借款契約調印日):1991年9月27日(1991年10月4日)1992年10月6日(1992年10月15日)1993年8月24日(1993年8月25日)1995年1月13日(1995年1月13日) (2)供与限度額:計156.78億円 (3)実施機関:北京市地下鉄総公司 (4)実施目的必要性 本事業開始前の80年代後半、交通手段としてバスに大きく依存していた北京市において、乗用車、自転車の利用台数が大幅に増加したことから著しい交通渋滞が発生し、効率的な公共交通手段の確保による路面交通の混雑の緩和が急務であった。 (5)事業概要 本事業は、北京市のメインストリートである北京市長安街を走る地下鉄1号線の一部である約13qの地下鉄建設(llの駅等を含む)及び車両174両の調達を行うものである。 (6)効果 路面交通の地下鉄への振替による潜在的な交通渋滞緩和効果のほか、庶民の通勤、通学、買い物の足として、また中国のシンボルである天安門広場や故宮の足元を通る観光路線として利用されている。なお、本事業対象区間が全面開通した2000年以降、列車運行本数は432本/日、ピーク時運行間隔は3分となっている。 |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
自己紹介の後、地下鉄の説明を聞いた。主な内容は次の通り。
北京は中国最初の地下鉄を建設し、現在まで発展している。4本の中で2本をODAで建設した。総延長114キロ。1日150万人が利用する。(路線図の)オレンジ色が13号線で、日本からの192億円を使っている 今は、天安門西駅にいるが、もう1本は天安門前の線の1号線の一部分で、これは円借款の261億円を使った。 今後、2008年までに5本建設する。総延長118キロ が 300キロになる予定だ。ODAで作られたことは乗客は知らないかもしれないが、関係者は知っている。円借款は大きな役割を果たしたけれど、円借款はわずかの一部にすぎないので広報等には載せていない。開設の時は新聞等で宣伝した。政府のODA紹介でも地下鉄が紹介された。 利用客は、北京の中心部では増えている。駅も明るくしたり、エアコンをつけたり、物売りを撤去したりして乗客のためのサービスを増やしている。そのために乗客のイメージアップにつながった。北京の人口も増え、道路も混んできたため、地下鉄の利用を進めている。地下鉄の安全、高速のメリットで、乗客が増えている。これからも増えていくだろう。 北京地下鉄は安全第一。テロ対策は、これまでの外国の事故の前例を見て対策を立てている。安全性は高いと思う。 海外からの観光客向けの案内が少ない気がするが、オリンピックのためにこれから表示を改装する。改造法案は政府の認可が下りているので、来年から実施する。中国語と英語の表示にする。 財政的には、北京市の基礎施設として、政府が建設した。運賃も改訂も政府が決める。市民の利益のアップ率を考えて決めた値段なので、すぐに投資を回収することは難しいが、政府は資金調達を工夫している。工事は入札方式で、入札には、設備関係、車両、信号、防災は日本から調達してきた。自動改札も日本のもの。新線も国際入札にする。 |
北京の道路は慢性的な渋滞が続き、地下鉄の需要はますます高まっていくことだろう。日本のODAは、地下鉄建設のきっかけ作りになったことに意味がある。
ただ、例えば「安全対策」でも、具体的な取り組みは行われていないように受け止めた。東京のサリンや韓国の地下鉄火災、ロンドンのテロなど、標的にされやすい交通機関である。北京五輪に備えて、具体的な安全対策について、日本などと協議をする必要があろう。
地下鉄に対する日本のODAの認知度の低さは、ある程度やむを得ないだろう。路線距離から見て、円借款の割合が低いことが理由である。日本でも、東海道新幹線や東名高速道路が世界銀行から借りたお金でつくったことはほとんど知られていない。
財政部(日本の財務省)訪問
地下鉄視察に続いて、中国財政部を訪問した。財政部周辺は、中国の下町情緒が残る、筆者が好きな地域である。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
財務部周辺の下町風景 | ここが中国財務部(日本の財務省) |
あいさつ ようこそ、民間ODAは6回目の訪問、ODAの活動に参加していただき感謝、ごくろう様。 ODAの実施状況の考察は納税者として意義深い。対中ODAに対する感想、評価を帰国したらマスコミを通じてより多くの国民に知らせてほしい。対中ODAでもって、日中友好につながることを確信している。これからのODAに対する案件を支持し、PRをお願いしたい。 対中ODAには、円借款、無償、技術協力があり、財政部、商務部、科学技術部の担当者を呼んでいる。 何なりと質問していただきたい。 中華人民共和国財政部 金融司副司長 于 貞生さんより対中ODAの概況説明 ![]() ODAは3つの部分から構成されている。 円借款は、今まで日本政府からの調印金額3兆余円。案件の取り消し、使い残し、2800億をひくと、2兆8530億円、そのうちすでに返済したのが 1兆379億円である。 使用の範囲は広く、232の案件が実施されている。空港、地下鉄など幅広く使われている。 無償については、使用範囲が広く、今年の6月までに1376億円、136の案件がある。衛生、環境保全、貧困対策に使われている。 技術協力は、1970年代末から、派遣、招聘、など農業、林業、医療、環境保全などにわたっている。中国から500名を派遣、青年海外協力隊も中国に来ている。22件の技術協力、開発調査7件 金額にして 計 60億円、通算1446億円になっている。 対中ODAの実施について、日中関係の友好に大きな役割を果たしてきた。多くの業績を果たしてきたが、日中が協力して努力してきたおかげ。何より、ODAを支持してきた国民のおかげである。 対中ODAに対しては、中国政府も高い評価をして、感謝している。日本国民の友好の印であり、中国国民も忘れない。各案件の関係者も感謝していたと思う。こういった対中ODAの宣伝にも努力してきた。マスメディアにも流してきた。シンボルマークなども設定し、日中交流20周年の時には、人民大会堂で、政府関係者など日本から300名ほど参加し、記念誌も作った。新聞でも特集を組んだ。2冊の記念誌、広く配布して日本の友人にも配った。江沢民が題字を書いた。これもODAを重視している表れである。2部ずつ差し上げる。 対中ODAに対する私の考え 多くは円借款。執行率、返済の状況から考えると、最も利用している国の一つである。中国政府は約束を守って、返済は必ず行っている。10数年前から円が高くなり、1ドル250円程度だったのが100円近くになったが、それでも元本と利息の返還は守ってきた。日本の国民の安全、有効なお金の使い方として適当だろう。 今中国は円借款返済のピークの時期。実施額と返済額がほとんど同額になってきた。近くマイナスになる。昨年(今年は)は859億円借り、返済額を下回っている。 2001年から、日本国内でも対中ODAに対して反対意見が出てきている。そのために4年間金額を削減してきた。昨年末にはやめるような論調が出て、2008年には対中ODAをやめる方針が出された。 しかし、中国の発展が日本の発展のチャンスになることを期待している。日本企業にも有利な環境になっている。円借款の協力は双方に対して利益になる。中国経済の発展は、日本経済の発展に対してさらに利益をもたらす。 改革開放路線は、堅調な成果をあげてきた。しかし、中国は13億の人口を抱え、発展途上国であることには違いない。一人当たりのGDPも1000ドルを超えたばかり。まだまだ基準は達していない。日本は5兆ドル。一人当たり4万ドルを超えている。日本人が40元持っていれば、中国人は1元しか持っていない計算になる。 中国の発展は不均衡。資源の無駄遣いもあり、解決すべき課題も多い。中川空港からの途中の樹木は、中国政府が植えてきたものだ。自然環境の保全にも少しずつ成果が表れてきた。しかし、まだ、学校でも、ハードもソフトも足らない。貧困のために、農民の中には学校へ行くお金も持っていない人がいる。医療保険のシステムも不十分。全力を挙げて義務教育の補助など努力をしたが 、これから長い時間をかけて課題を解決していく必要がある。 中国の経済発展のためには努力するが、これからも国際間の協力を続けていきたい。残念ながら、日本は対中円借款をやめる方向である。私は、それ以後、政府が自国の努力のほか、世銀やアジ銀、他の国との借款は続けて行くつもり。 対中ODAをめぐって、どうするべきかは中日双方の協力していく課題である。民間の0DAの人たちが見る視点は、国会議員や政府と違うと思う。国民を代表して、積極的に意見を言ってほしい。そのために現場を見ることは重要。 客観的な状況やODAの効果について、マスコミなどを通じてより多くの国民に知らせてほしい。それが日中の友好につながることを確信している。 どれもが目標を達成しているとは言えないが、不足しているところは是非教えてほしい。もしNHKが放送しないのなら、私が放送するように働きかける。 感想意見があれば教えてほしい。 |
中国首脳部は、円借款が打ち切られてもよいような発言をしたが、担当部局はまだまだ円借款を望んでいた。この後質疑応答の時間があった。主なやりとりを紹介する。
![]() A 意見に対して感謝する。シンボルマークを設置することに対しては、他の国は要求してこない。できるだけ日本の意見を聞くようにしているが、全体のことを考えてするもので、一部しかODAを使われていない場合は、ほかの資金についても紹介する必要がある。 全部に対してシンボルマークを要求することは非現実的。 今年は60周年の節目なのでそういう祝典式典をやっていたし、小泉首相もロシアの式典に参加してきた。推測では、おそらく大きな行事の中の一部。チケットを売るための広報ではないか。甘粛省の案件では多くの広報が使われていた。地下鉄に比べてわずかのお金だが多くの広報をした。 Q 反日デモを見ると 中国の人はまだ認めてくれないのかと思う。ぜひ、中国国民に働きかけてほしい。 A 日本の政府がよいことをする場合中国国民は忘れない。これからも忘れない存在になっていく。しかし、日中間の障害はODAから生まれた訳ではない。一部日本の過激な発言に対してデモがおきた。ODAは、今後日中関係の改善に効果がある。よいことはたくさんすれば、より多くの国民に理解され評価されると思う。 Q 日本人の多くは対中ODAを削減すべきと言う意見を持っているし、自分も来るまではそう思っていた。しかし貧困の現実を見ると、感情でODAをやめることはもったいないと思うようになった。しかし、マスコミは取り上げていない。日本国民に対しての広報をどのように考えるか? A 対中ODAの広報について議論したことがある。当時の外務省の一人が日本に対する内政干渉と言った。 日本の報道によると、対中ODAの広報について、マスメディアはいつもマイナスの報道しかしない。 政府が役割を果たして、マイナス面の報道ばかりするのを改善してほしい。だからこそみなさんが積極的な報道をしてほしい。 産経新聞のK記者が事実を無視して記事を書いたが、なぜ政府が訂正を求めないかと思う。広報の改善を意見の見解に付け加えてほしい。客観的な報道のために協力できればしたい。 |
Kさん
本来ならばわたしの発言する場ではないが、広報について発言したい。
日本政府としても、ODAの国内広報は重要だと考えている。そのため、HPやタウンミーティング、講演会、パンフ、テレビ・ラジオ番組で広報している。また、中国の人にも理解してもらいたいと広報している。この民間モニター制度も広報の一環。
ただし、残念ながら成果を出しているとはいえない。9割は対中ODAに対して批判的な記事。我々として、明らかな事実誤認がある場合には訂正の抗議をしている。ただし、言論の自由が憲法で保証しているので、意見の訂正を求めることはできない。そのために番組、HP、モニター制度を通じて、直接的に広報しようと考えている。
そのために、協力して進めていきたい。
副司長
賛同する。両国の対中ODAのよいことを、より多くの国民に積極的に広報することが重要。
Q シンボルマークがないことが残念だという意見がでたが、自分は反対。人として良いことをされた場合は、宣伝しなくても心の中で良いことをされたと思うので、直接人から感謝の気持ちを感じた。 A 東洋文化の一つかもしれないが、いつも感謝を口に出さなくても必要なときに返すという文化がある。一滴の水の恩を湧き水でもって返すという諺がある。みなさんがODAが、かならず報いが得られると確信している。 Q 自分が民間人ならどうしたいか A 官僚は 国民から離れたら意味がないので…。ある人は余生を沙漠緑化に使った。それに対して、国民は感動した。良いことであれば、中国の国民は積極的に参加することができる。 感想 国全体がバランスの良い発展のためには、支援が必要だと感じた。ODAは中国で役に立っていると感じた。河南省の学校では作るまでの支援も必要だが、一定期間管理の支援も必要だと感じた。 Q 生徒には複雑なことを言うには簡単に言わないと伝わらない。日本が嫌いなら日本からお金を借りたいとは思わない。今後も援助を必要とするか? A 中国の反日感情はODAから生じるものではない。日本の一部の人が原因を作った。反日感情とODAは分けて考えるべきではないかと思う。 Q 日本政府がODAの予算の減額を決めたら残念だと言われたが、これは、国民の意見を聞いて決めたことだと思う。中国の経済成長、外貨準備高、軍事費を考えると、それらを貧困層にまわせる予算配分ができないか。 A 考え方は理想だが、アメリカの軍事費から比べるとたいへん少ない。もし、日本の政府が防衛費を減らしてみんなに配った方がよいといっても無理だろう。 国としては安全と言うことがある。しかし、いろんな矛盾を抱えている。国民の一部は日本に逃げ込んでいる。政府としては、多くの課題を抱えている中で予算を配分している。 民間の国民として本音をぶつけ合えればと思う。皆さんが中国へ来て、各階層の国民の現実を見ることが大事。一つの提案だが、削減したODAの金額を使って民間モニターをふやせばどうか。 |
頭のよい方だと思った。中国側としては精一杯の回答であろう。我々の質問に、誠意をもって答えていただけた。
中国政府高官が、自ら「中国は課題が多い」と言えるような状況になってきたことを、まずもって評価したい。北朝鮮は言えるだろうか。
こそっと財政部副司長の月給を聞いてみた。ここでは書かないが、信じられないぐらい安かった。毎日自転車で通勤しているそうである。中国は、共産党幹部や政府高官は、かなりの高給取りという報道を聞いたことがあるが、どうもそうではないらしい。
高級車を乗り回しているのは、すべて「外資系企業の人」だそうである。「彼らは給料がひと桁違う」と聞いた。
この後に中国財政部主催の食事会があった。ここで思わぬことが起こった。中国側の配慮で、この日誕生日を迎えたWママに誕生ケーキが贈られた。最高に盛り上がった食事会だった。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
見事な包丁さばき | Wママのバースデーケーキ | ケーキにカット! | 笑顔、笑顔、笑顔! |
その後にちょっとした買い物時間。DVD−ROMを探しに走る。
大使館にて報告会
あらためて自己紹介の後、「議論があるが、納税者としての視点で見てもらった。北京もあれば地方もあった。複合的な視点で見て、国内で意見を発信してほしい。」という言葉をいただいた。
ここで、各自が5分から15分(持ち時間は5分だが・・・)、案件の視察についての感想を述べた。いずれ公開されるのでここでは触れない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
日本大使館 | 最後の報告会 | 最後の食事会 | ママおめでとう! | 恩人のTさん、Hさん |
最後の食事会は、宴会好きな自分でも思い当たらないほどの盛り上がりだった。
なぜ、知り合って間もない参加者や国の関係機関の職員の方とこれほど仲良くなれたのか?
![]() |
![]() |
![]() |
JICAの人文字 | では、これは? | Oさん見事! |
その後も、わが家で二次会。この盛り上がりも普通ではなかった。 「JICA」や「JBIC」の人文字をつくったり、河内弁講座があったり…、完全に学生のノり。
今思うと、全国からたまたま集まった集団が、最後の夜の別れを精一杯惜しんでいたのだった。
それぐらい素晴らしいメンバーだった。