6月のある日、1羽のムクドリが拙宅の窓ガラスに激突して落ちた直後、そのムクドリをハシブトガラスがさらっていきました。
実はこの日の4日前、屋敷裏の畑の草をきれいに刈払いました。刈る時期が遅くなったので、カラスノエンドウなどの実が熟して黒くなってしまった後でした。どうもそれが目当てだったようで、次々とムクドリとドバトが来るようになりました。ムクドリは多い時で60~70羽ほど、ドバトは最大で130羽になりました。私は巣立った直後のムクドリの地味な色合いの幼鳥と鮮やかな橙色の裸出部の多い成鳥の識別をしながら両者の行動の違いを楽しんでいました。そのさなかの衝突死でした。衝突のようすを私は見てなかったのですが、午後3時半ごろ、妻が応接間の前でドーンという聞いたことがないような大きな音を聞きました。レースのカーテン越しに見ると、黒っぽい塊りが下へ落ちていって、カーテンを開けて下を見ると小鳥が地面に落ちていました。その直後5秒も経たない頃にカラスがさらっていったそうです。妻が呼ぶので私が2階から降りていくとカラスは近くのアパートの屋根の上にいるとのこと。カメラを持って玄関を出ると、そのカラスは屋根の上をぴょんぴょんと小移りしていました。私がカメラを構えると同時にすぐに飛び立ちましたが、かろうじて3枚撮れました。下の画像です。
カラスはハシブトガラスで、小鳥はムクドリでした。この時すぐ近くの電線にとまって鳴いていたムクドリ6羽がさらに大きな声で鳴いて大騒ぎをしながら、カラスの後についていきました。オオタカがムクドリ幼鳥を捕った時とほとんど同じような光景でした。
落ちたムクドリをハシブトガラスがさらっていったところは妻が目撃していますが、それ以前のことは不明のままで、「カラスがムクドリを追いかけていたのだろう」と思っていましたが、「ひょっとしてオオタカに追われていたのか……?」という疑念も頭の中に30%ほどはあって、ずっと払しょくされないままでした。
それから3日後の午前11時40分ごろ、(この時は暑いので窓は網戸にしていましたが)裏の畑で、ものすごい大きなドバトの群れの羽音とジャージャーと聞こえる鳴き声で鳥たちが一斉に飛び立ちました。この鳴き声の大きさと慌てたような飛び方の音(群れが普通に飛び立つ音とはまったく違った音)は尋常ではないと思って裏へ見に行くとオオタカ成鳥が旋回上昇中でした。すぐにハシブトガラス2羽がまとわりついて、でもオオタカはそのまま旋回上昇を続けました。そこでやっとカメラの用意ができて画像が撮れ、雄成鳥と確認できました。初列風切のP1とP2が換羽・伸長済みで、P3が伸長中ですので、これもこの時期の雄の特徴です(ただしこのことだけから雌雄の判定をすることはよくないです)。その後このオオタカは南へ飛んで、500~700mほど先の田んぼあたりに急降下していきました。
自宅で良いものが見えましたが、「見た事実」と「推測」をしっかりと分けて区別して考えないといけない!ということを痛感させられました。妻が見たのは「ムクドリが窓ガラスに当たった。下に落ちた。5秒もしないうちにハシブトガラスが来て、ムクドリをくわえて持って行った」ということです。私は勝手に「ハシブトガラスがムクドリを追いかけて」ということを想像して追加してしまいましたが、実際はムクドリを追いかけていたのはオオタカで、そのオオタカにまとわりついていたハシブトガラスがタイミングよくうまく拾っていったという可能性も大きいです。むしろそう考える方が自然かもしれません。しかし、これとて誰も見ていません。今までにハシブトガラスがしつこくドバトの群れに突っかかって飛行の下手な幼鳥らしきハトを捕獲しようとしている状況を見たことがありますが、今回はムクドリを追っていたものがカラスだったのかオオタカだったのか、どんな様子だったのか、事実は分かりません。事実と証拠に基づいて考えなければいけないのに、頭の中で「ハシブトガラスがムクドリを追いかけていて……」と、勝手にストーリーを作っていたことを反省しました。
(Uploaded on 12 September 2021)
5月、オオタカ雄成鳥が頻繁にとまる鉄塔に、1羽のオオタカ成鳥がとまっていました。私はほぼ真下近くから上を見るような角度で見あげていました。肉眼で見ると雄くらい小さく見えて、雄のように頭でっかちに見えて、雄のように体下面が白かったので「いつもここにとまるのは雄だからこれも雄だろう、雌は今の時期抱卵中だから……」と思って双眼鏡を使わずに見ていました。
しばらくすると、力強く「キャッ キャッ キャッ キャッ ……」と興奮声が鉄塔の上から聞こえてきました。この声は一般には「警戒声」と言われることが多いですが、私は「興奮声」と呼んでいます。他の侵入個体や人間が巣の近くに来た時は警戒というよりも追い出そう、威嚇しようという意思が明白に感じられます。またこの声はそれ以外にもいろんな時に出します。例えば主に冬の後半から春にかけて、繁殖に関する感情が高ぶった時に自然とこみ上げてくるように激しく鳴きます。人が近くにいなくても他に何も警戒する必要がない時でも盛んに鳴きます。雄が獲物を運んできたときに、雌が鳴くことがあります。毎回獲物搬入のたびに鳴く個体がいる一方で、ほとんど鳴かない雌もいます。ときには雄も搬入時に鳴く個体がいます。個体の個性というか、それぞれの性格のようです。いずれの時も感情的に高ぶった時に出す声なので「興奮声」と呼ぶことにしています。
鉄塔上からのこの声を聞いて、私は「えっ、雄もあんな雌のような激しい声を出すんだ」とびっくりしました。オオタカ雄は雌と比べればやや弱い声で、私には「キャッ キャッ キャッ ……」というよりもどちらかというと「キッ キッ キッ キッ ……」に近いような、少し音程が高く、細い声に聞こえます。でも繁殖期真っ盛りでしたので、「時期が時期だからね。それとも私を排除したいのだろうか?」と思いました。
「これは新しい知見が得られた。時期によっては雄もこういう声を出す」と思いましたが、しばらくしたらこの個体は飛びました。撮影した画像をその場でチェックすると、なんと、雌でした。
そもそも鉄塔上の個体を雄と判断してしまったことが間違いの大本でした。双眼鏡を使わなかったことも原因ですが、私には「今の時期は雄は狩りに出かけ、雌は巣上で抱卵していることが多い。しかもここはふだん雄がよくとまる鉄塔だ」という馬鹿な先入観がこの日はありました。もしも飛んだ時の画像が得られてなかったら、そのまま「雄も雌のような声を出すことがある」と記録に残していたかもしれません。ヒヤッとしました。
以上は私のドジな経験談ですが、やはり観察する時にはその都度、いつも確実な判断や個体識別をしないといけないです。見失った後の再キャッチ時は当然ですが、山の向こうへ行ってすぐに出てきたときも、行った個体と来た個体が同じかどうかを確認する必要があります。
こういう類いのミスの原因はすべて観察者にあります。タカ観察では主に目と耳からの感覚情報を脳が頭の中にある判断基準や脳内にある各自の図鑑と照合処理をして「これはツミ、あれはハイタカ」、そして「雄だ雌だ、幼鳥だ成鳥だ、先ほど飛んだ個体と同一個体だ別個体だ」などと判断します。その判断の過程でちょっとでも気を抜くと思考と妄想がミスを誘導してしまいます。こうして出てきた判断や結論は多くの場合、思考ゴミです。次のような思考に陥っている時には特に間違いが起こりやすいです。
1 隣りの営巣個体がひっそりとやって来ていたとしても「大きなトラブルは見えなかったから、今見たのはここの営巣個体に決まっている」というような勝手な思い込み
( → 静かな侵入個体というものもあります。静かに帰っていきます)
2 雌雄は夫婦仲が良いはずだからという決めつけ
( → タカの世界では不倫はごく普通のできごとです)
3 繁殖期はこういうふうに進んでいくという自分で作ったストーリーを思い描き信じてしまうこと
( → タカの繁殖期は波乱万丈で、思いもよらない出来事が頻繁に起こります)
4 あの山の右側を左に飛んで消えて、山の左から出てきたので同じ個体に決まっているという浅はかな考え
( → 一瞬で個体が入れ替わることはよくあります)
5 雌雄の役割分担を過剰なまでに思い描いてしまうこと
( → 状況によっては普段と異なることがありえます)
6 いつもこうだから今日もそうだろう
( → 日によって行動パターンは変化します)
7 「〇〇に決まっている」という単純な思考パターン
( → 何も決まっていません)
8 「この時期に〇〇がいるはずがない」「ここに〇〇が出現するはずがない」という頭の固い「はず思考」
( → はずがないのではなく「はずはある」。でも、逆の「~のはずだ」というのも単純思考です)
などです。観察に出るたびに、反省することが必ず一つはあります。
(Uploaded on 30 July 2021)
タカ類が営巣している林やその上空、あるいは繁殖ペアが占有しているエリア(テリトリー)に入ってくる個体を通常「侵入個体」と呼んでいます。意図的な、挑戦的な侵入であるかたまたま飛んできたらそういう場所だったというだけかどちらか分からないことが多いですが、どのタカ類を観察していても、このような侵入個体はよく見かけます。
侵入個体がテリトリーに入っただけで巣から遠くてもオスが激しいディスプレイ飛行をしてけん制することがありますし、さらに巣に近づくと飛んでいって排除のための攻撃をしたりします。侵入個体が営巣林内にまで入り込んでくると、さらに激しい排除行動をします。
以下、オオタカを中心に記述します。繁殖期に営巣林内に侵入個体が入って来ると、かなり激しく排除します。じゃまなカラスを排除する時と同じように、あるいはそれ以上に激しく排除します。3月にオオタカの営巣林内にハイタカ幼鳥が突っ込んでいったことがありました。このハイタカはここがオオタカの営巣林であることを知らないで(例えばハンティングのなりゆきで)入っていった(入ってしまった)だろうと思われますが、異種であっても種によってはかなり激しく林内から追い出すように排除することがあります(繁殖ステージによって排除の程度がかなり違います)。
オオタカ幼鳥が林内に入ってくることもあります。去年ここで巣立った幼鳥なのかもしれませんが(証明はできませんが)、3月27日に目撃した友人によると雌雄2羽で激しく排除していたということです。産卵直前とはいえまだ産下する前なので参加できたのかもしれません。
もちろん成鳥が林内に入ってくることもあり、同じように激しく排除されます。幼羽がまだ残っている満2歳になる直前の若い個体が入ることもありますが、もちろん同じ反応です。
4月19日(抱卵の真っ盛り)のことですが、侵入オオタカの♂成鳥が巣の上空の低いところまで来た時は、下の画像のように、繁殖♂成鳥1羽でかなりしつこく何度も何度も足を出しながら排除しました。
3月23日(第1卵産下の一週間から10日前)、侵入個体の♀成鳥が巣の上空に近づいた時は、まず初めに♂が排除行動に出て、テリトリーの外へ追いかけるように飛んでいきましたが、ほどなくして♀も営巣林から出てきて、2羽で侵入個体を追いかけるように飛んでいきました。先に♂が営巣林に戻ってきて木の枝にとまり、しばらくして♀も帰ってきて同じ木の枝にとまり、すぐ交尾をしました。
上田恵介氏の1994年の論文には、猛禽類だけでなくどの鳥もつがい相手以外との交尾(人間で言うと「不倫」)がかなり多く、当たり前のように繰り返されてることが書かれています。遺伝子の多様性を保つためには当然なされることと思います。野生動物には人間と同じような道徳観念はまったくないのでしょう。上の3月23日の件でも、いろいろ思うことがあります。♂よりも体の大きい♀個体の侵入だったので、体の大きな♀が排除の応援に行ったのかもしれませんが、♂が侵入♀を深追いしてどこかで侵入個体と交尾することを心配した♀が2羽を追いかけて行って♂を引き帰らせた可能性が考えられます。私の妄想かもしれませんが、この論文を読めば読むほど全く見当はずれの推測でもなさそうです。以前、産卵の一週間とか10日前に、♀が巣から離れて2時間ほどどこへ行ったか分からないまま帰ってこないことがありました。つがい相手以外の異性を求めて出かけていたのか?と疑ってしまいましたが、可能性は大きいものの証拠はありません。
雌雄それぞれ役割分担がありますので抱卵中やヒナがまだ小さい時は侵入個体があっても♀はそう簡単には排除に出かけられない時もあるでしょう。一方で♂がやや遠くまで狩りに出かけていて、営巣林に♀しかいない時は♀だけで排除しなければいけない時もあるでしょうし、排除よりも巣の中の卵かヒナを守ることの方が重要な時期もあります。いずれにしても一概に雌雄のどちらが必ずこういうことをするということは言えないです。
間もなく生後1年になろうとする幼鳥は、♀は繁殖能力がありますが、♂は繁殖能力がないので、ひょっとして侵入個体の雌雄で対応に差がある可能性がありますが、よく分かりません。またすでに触れましたが、繁殖のステージによって、対応に差が出てきます。
(Uploaded on 1 June 2021)
2021年5月4日、愛知県内で早朝からオオタカを観察し、ハンティングの撮影もしていました。撮影個体はここから約2.5km離れたところで営巣している雄成鳥で、営巣林から出ていったばかりでした(巣から半径1km以内のエリアなら慣れれば個体を楽に追えますが、巣から2.5kmも離れると追跡が若干苦しくなります)。初列風切にある欠損の特徴から個体識別していますので、いくら遠く離れていても同じ個体であることは正確に確認できます。ここでのハンティングはほぼ1時間の間に休みをいれながらハトを5回追いかけましたが、ハトに肉薄し足を出したものの、捕えやすいハトがいなかったからなのかすべて失敗しました。屋根の向こうに向けてハトを追いかけて上昇していく途中の上面が見える画像に、伸長中の左P1と思われる短い羽が写っていました。下の画像の赤い矢印の先です。
ところが営巣林の近くで撮った下面からの画像にはそれらしき伸長中の羽は一枚も写っていませんでした。風切の羽は体から翼先に向かうにしたがって一枚一枚が下へ下へと重なっていきますので、伸長中の短いP1はP2に隠れて下面からは見えなくなります。「マーリン通信」(2019年6月1日付け、記事番号393)で「伸長中の羽は透過光で見る」を書きましたが、この記事を思い出して「そうだ、逆光で無理をしてでも(太陽がファインダーに入らない程度で)撮ってみよう!」と思い、狩りに失敗して手ぶらで営巣林に帰ってきた雄個体を連写しました。運良く3枚の画像にその羽が写っていました。反射光で撮った下面の画像には伸長中の羽は一枚も写っていませんが、透過光で撮った下面の画像には写っていました。下の画像で濃く写っている短い羽が伸長中のP1です。左右対称で伸長するはずの右翼は(撮影角度の関係があるのか)はっきり写りませんでした。
日本の鳥類図鑑やモノグラフには換羽に関する記述がほとんどありませんが、外国では専門書だけでなく鳥類図鑑やモノグラフにも換羽に関することはあたり前のように書いてあります。46年前に私が日本野鳥の会に入会したころは、日本の図鑑や書籍に飽き足らなくて外国の書籍を購入していましたが、それらから換羽のことを学びました(多くの書籍に Mortality が書かれていたことも当時は衝撃でした)。ところがこれらの書籍でオオタカの雄の換羽開始時期はいずれも繁殖期の後(特にヒナの巣立ち以降)であると書いてあります。日本のオオタカ雄は早いものでは3月にはP1の換羽が始まっていますし、5月になるとP1とP2が伸長中あるいは換羽終了という個体が多いです(国内でも地域によって違いがある可能性があります)。これはなぜなのか、いくつか理由が考えられます。
〇 日本の亜種とヨーロッパの亜種の違いなのでしょうか。
〇 昔は今のような高精細なデジタル画像が簡単には撮影できなかったから分からなかっただけなのでしょうか。
〇 下面から反射光で撮った画像にはこれらは写らないので、ずっと見落とされてしまっていたのでしょうか。
〇 欧州の「♂の換羽は巣立ち後に始まる」という記述はもともと「♂の(本格的な)換羽は巣立ち後に始まる」という意味であって、ここに(本格的な)というニュアンスが隠れていたのでしょうか。
♂はヒナが巣にいるころが一年の中でいちばん多忙な時期で、次々に獲物を捕らえて巣に搬入する必要があります。そのため、狩りに一番大事な役目を果たす風切羽や尾羽を抜落させてハンティング能力を落とすわけにはいきません。一方で、♀は♂と違って抱卵中にどんどん換羽を進めていきます。♂が獲物を捕らえて運んできてくれるので狩りに出かける必要がないからと考えられます。巣に長時間ずっと座り続けて抱卵していますので、その間にある程度の換羽が進みます。愛知県では(個体によって進み具合がもちろん違いますが)5月上旬までには多くの♀成鳥はP1・P2の新しい羽がほぼ伸長済みで、P3が半分ほど伸長中、P4は抜け落ちているかどうか、尾羽はR1がほんのわずかですが伸長し始めるという個体が多く見られます。
(この時期のオオタカは抱卵期の最後のころで、巣に近づかない・凝視しないなど十分な配慮が必要です)
(Uploaded on 9 May 2021)
1月初旬のことです。この日は愛知県内の農耕地へオオタカを見に行きました。朝はいつもより遅い8:45に現地へ到着しました。ある地点の近くにドバト約300羽の群れがいました。どこかにオオタカの姿はないだろうかと探していたら、9:00ちょうど、1kmほど離れた遠くの鉄塔のてっぺんに♂成鳥が飛んできてとまりました。とまった早々からこちらを向いています。「ちょっと遠いなぁ」と思ってオオタカのようすを双眼鏡で見ていると、鉄塔にとまってからほんの1分後の9:01、こちらに向けて飛び立ちました。羽ばたきと滑空を交えながらほとんど一直線に私の車に向かってきます。車の脇にはドバトの群れがいますから、どう考えてもこのハトの群れを狙っているのでしょう。
オオタカはどんどん近づいてきますが、ハトはなかなか飛び立ちません。オオタカはけっこう盛んに力強く羽ばたきましたが、かなり時間がかかりました。距離が1kmということは、仮にオオタカが時速60kmで飛んだとしても、ちょうど1分かかる計算になります。双眼鏡でオオタカを追いながら「こんなに時間がかかるのか。長いなぁ、まだ羽ばたいている。早く来ないとハトが飛んじゃうぞ」と思いました。実質数十秒かかったころ(1分以上かかったかもしれませんが計測していたわけではないのではっきりしません)、ドバトが一斉に飛び立ちました。やや反応が遅かったのはドバトの降りている田んぼからはオオタカが建物の陰になって見にくかったことが挙げられます。オオタカは遮蔽物として建物を利用したのでしょう。オオタカの常とう手段ではありますが、賢い接近です。
オオタカがハトの直近まで来た時にハトが一斉に飛び立ったので、オオタカはそのままハトの群れに突っ込むことができず、群れの近くでほとんど垂直に近いくらいの急上昇をして、じきに垂直急降下をしました。もしも図中のAのあたりにハトがいれば急上昇せずにそのまま捕らえることもありますが、この日のハトは見事に瞬時に飛び立ちました。獲物の近くで急上昇・垂直急降下するという狩りは、まさにコチョウゲンボウの狩りそっくりです。あるいはハヤブサの狩りにも似ていて、降下する高度がハヤブサほど高くはないものの、急降下するところはハヤブサの狩りに少し似ています。このオオタカは急降下の直後、体を水平にするころ(どこかで体を水平にしないと地面に激突してしまいます)ハトを捕えました。
さて、ハトを捕らえたオオタカは、そのまま足に持って近くの雑木林の中へ入っていきました。すると、林に入った直後の2~3秒後に1羽のノスリがその林に、同じところ(樹々の隙間がやや広いところ)から入っていきました。オオタカの捕えた獲物をノスリがまた横取りするかもしれないという嫌な予感がして、その林の近くまで行ってみましたが、オオタカもノスリもともに林から出て来なかったです。しばらく見ていましたが、何の動きもなくて、林の向こう側へ抜けた可能性もありますが、詳細は不明のままでした。
一昨年、オオタカ幼鳥の捕えたドバトをノスリ2羽が横取りして食べてしまったことをこの通信のノスリフォルダーの記事に書きましたが、この日も最後までの確認はできなかったものの、やろうとしていたことはまったく同じ横取りでした。オオタカにとってノスリはやはり大きな脅威です。
家に帰ってからハトの羽数を正確に数えました。画面いっぱいにハトの群れが写るように撮影した画像をA4サイズの紙にプリントして計数機で数えるという原始的な方法です。ハトは1群335羽いました。見積り概数300羽で実際335羽ですから、そこそこ正確でした。オオタカがとまった鉄塔からハトの降りていた田んぼまでの距離も正確に測ってみました。グーグルマップの距離測定を使うと正確には1.03kmでした(この文章の最初に1kmと書いたのは、このように測定した後で分かったことです)。とまりから獲物までの距離がほぼ1kmというとかなり遠いように思えますが、昨年はオオタカが鉄塔から飛んで1.58km先のケリを捕らえるハンティング(成功)シーンを見ましたので、1.03kmは私にとっては特に驚くような距離ではありません。1km離れていても、飛び立ったオオタカはまるで放たれた弓矢のように一直線に(弓矢は重力の影響を受けて若干放物線を描きますが)獲物めがけて、速度を落とすことなくむしろ(重力を利用して)速度を速めて突っ込んでいきます。みごとです。
オオタカの狩りの方法としては林縁部での待ち伏せ猟などが有名ですが、ドバトの群れを狙うときには、ここに書いたように、はるか遠くの獲物を狙うことも多くあります。もちろん目の前のすぐ近くにいる獲物、とまりの鉄塔の真下の獲物を狙うこともあります。オオタカの狩りの方法のバリエーションはかなり豊富で、肉眼では見えないほどの高空まで旋回上昇して上って、そこからまさにハヤブサそっくりに地上近くまでダイナミックな急降下をすることがありますし、まるでミサゴのように水面近くでホバリングをすることもあります。今日書いたように、捕獲直前にコチョウゲンボウのように短い急上昇・急降下をすることもあります。オオタカの狩りの方法は、今までの私の観察では、まとめ方によっては10数種類に分けられましたが、もっと大まかにまとめると少なくなったり、細かなことまで分類していくと種類がけっこう多くなったりして、どうまとめたらよいか迷うほどに多種多様です。そのうちまとめて文章が書けるといいなと思っています。
(Uploaded on 24 February 2021)
オオタカをはじめとするタカ類の次列風切は、胴体に遠いほうから胴体に向かって順にS1、S2、S3、…… と番号が付いています。次列風切の換羽は(通常、三列風切も含めて考えて)大きく4つの換羽ユニットに分かれて、
S1 → S4 (外 → 内)、
S5 → S8 (外 → 内)、
S12? → S9 (内 → 外)、
S13? → 内側 (外 → 内)
のように換羽が進んでいきます。ここで、S12?、S13?はタカ類の次列風切の枚数が、種によって(特に大きさによって)異なるためおおよその位置です。
次列風切の多くは外側から内側に向けて順々に換羽が進んでいきますが、S12? → S9だけは内側から外側へ進んでいきます。
S1が抜け始めるのは初列風切の換羽がある程度進んだころですが、S1が抜ける前に三列風切も含めた内側の次列風切が換羽し始めていると思われます。換羽順を調べていると、内側次列風切が早い時期にすでに新羽に換わっているところをよく見るからです。しかし、これらの羽は胴体に近いこともあって、撮った画像からは何番の次列風切(三列風切)か正確に分かりづらいです。
さて、このような換羽順の研究は、昔は博物館などが標本を大量に仕入れて収集し、そこから読み解いていました。スウェーデンの Carl Edelstam 氏の研究(1984年)では、多くの依頼者から相当数の標本を集めていました。これらは基本的には飼育個体の換羽順を調べたのではなく、あくまで野生の個体を調べていました。ヨーロッパではタカ狩りで様々なタカ類・ハヤブサ類が飼育されていますので、飼育個体で換羽順を研究すればかなり正確にしかも毎日の変化を調べることができますが、この著者は飼育個体は食料が十分すぎるほど十分なので、換羽に2年かかるものが1年で済んでしまうなどの理由から研究対象にしなかったと書いています。ただ、食料が十分に多くて換羽が野生個体よりも速く(結果的に早く)進行したとしても、換羽の順番までは変わらないと思われます。日本では江戸時代に換羽順はよく調べられていて、〇月〇日にどの羽が抜けた、〇月〇日に隣りの羽が抜けた……ということを毎日記録していて、これは「星付け」と呼ばれていました。でも、野生個体で正確に調べることができればそれに越したことはないだろうと思います。
さて、今の私たちアマチュアにはたくさんの標本を調べたり、新たな標本を手に入れたりすることはできませんので、できることは高精細な画像を撮ってそこから換羽状況を分析することです。換羽した後の新羽は見るからに新しく新鮮で色合いも旧羽とは異なります。旧羽は紫外線や羽と羽あるいは羽と空気、羽と樹木などとの擦れで色が抜けたり、羽軸が折れたり羽枝が欠けたりして傷んでいることが多いです。高精細で撮った画像を調べればその羽が新羽か旧羽かはだいたい分かります。新羽でも生えてきたばかりの新羽は色がさらにきれいです。さらに、幼鳥から成鳥に換わる途中の換羽は旧羽である幼羽が褐色味を帯びているのに対し、新羽である成羽は灰色味が強いので、両者の色の違いが明白で新羽と旧羽の違いがかなり正確に分かります。したがって、換羽順の研究では生後1年少々を経過した幼鳥が成鳥に変わる時期(幼羽から成羽に換わる時期)が一番適しています。
初列風切や尾羽の換羽はこれまでに私の撮った画像でもある程度分析できましたが、次列風切の換羽順の分析は難しかったです。それは翼を十二分に全開し画像も色合いがよく分かるほど精細でないといけないからです。ところが私の友人にオオタカの研究者であり撮影も忍耐強いプロ級の人がいて、私の難しい要求にみごとに応えてくれました。お願いした内容は「オオタカの次列風切の換羽順が分かるように、幼鳥から成鳥へ換羽中の個体の次列風切を継続して高精細な画像で撮影すること」でした。さらにレベルの高いお願いとして、「できれば小翼羽4枚の換羽順が分かるような画像も欲しい」でしたが、それも同時にクリアーしてくれました。
下の画像をごらんください。

上の画像だけから判断すると「S3、S7欠落」は推定でしかないのですが、後日に撮られた同じ個体の画像ではS3が伸長中で、旧羽だったS4が抜け落ちていますので、その時点では欠落(あるいは短くて見えないほどの長さで伸長中)と確定できました。この個体は8月15日、8月23日、8月27日、8月29日、9月5日と継続撮影されています。
このような画像から読み解くという方法で調べた結果、尾羽、初列風切、次列風切(三列風切を含む)に関して、左右対称でなかったり、換羽の進みが早かったりかなり遅かったりすることはありましたが、外国で発見された換羽順の公式を明白にくつがえすようなデータは今のところありません。
(Uploaded on 12 November 2020)
2019年10月29日、自宅に近いオオタカの営巣地でオオタカを観察していました。運良く雄成鳥を見つけて、動きを追跡することができました。雌は営巣地を離れたようで、この日の前後も含めて姿を見ることがありませんでした。幼鳥が1羽出ましたが、春にここで巣立った個体かどうかは分かりませんでした。
この日は曇っていて陽が差さず、空の一部に晴れ間が出るもののほとんどはベたっとした曇り空でした。10時過ぎに急速に晴れ間が広がりだして、木の枝にとまる雄成鳥に光が当たり青空バックで感動的な美しい姿を見ることができるようになりました。その時のオオタカの背中の色は美しい青灰色で、コチョウゲンボウの雄成鳥か、ハイタカの雄成鳥の背中の色に近いくらい似ていました。オオタカを「蒼鷹」(あおたか、おおたか)と書く理由がストンと心に落ちました。
オオタカ成鳥の背面色はやや青っぽく、雌はそこにやや褐色味が加わります。とはいうものの、単独ではなかなか雌雄の区別がつかないことがあり、2羽が並んで初めて違いが分かることもあります。時には雌雄が並んでも背面色の違いが分からないほど似通った色合いのペアもいます。
鳥の目で見れば、この日の雄のように、人間から見ても蒼く(青く)見えるようなオオタカはきっとオオルリの背中のような青色に見えているのではないかと思えてきます。人間がオオタカを見て雌雄がはっきりしない時でも、オオタカ同士で相手を見れば遠くても近くても瞬時に相手の雌雄は正確に区別できるでしょう。
人間には紫外線色は見えませんが、鳥類はみな紫外線が見えます。見えない人間からは紫外線の色がどんな色なのか見当も付かないですし、想像もできません。そもそも人間の感覚器には捉えられない光・見えない光なのですから「紫外線の色」という概念そのものが脳の中(五蘊の三つ目の想蘊の中)にないです。インクのシアン・マゼンタ・黄色、光の赤・緑・青のほかにさらにもう一つ原色があることと同じですが、それを表現する言葉がなく、人には伝えられないです。交通安全の反射シールを想像しますが、そう単純ではなさそうです。この時点ですでにお手上げですが、想像をたくましくすると、光の7色の一番波長が短い紫のすぐ外側にある光ですから、それに近い光だろうか?と思えてきます。多くの雄成鳥の背面色の青灰色というのが味噌のような気がします。ハイイロチュウヒの背面色は雄が灰色で、雌は褐色です。これはコチョウゲンボウも青灰色と褐色で同じような傾向です。一般に猛禽類の背面色は、雄は蒼っぽく、雌は褐色に近いという傾向が多く見られます。このことから想像すると、鳥類がオオタカ成鳥の雌雄を見ると、雄は背中が灰色っぽく、白っぽく、雌は褐色がかった色に見えるのかもしれません。成鳥雄のこの背面色が際立てば際立つほどに雌はうっとりする、惹かれてしまうのかもしれない……と私は想像が膨らんでしまいます。(この段落は私の妄想かもしれません)
チョウゲンボウの尾羽の地色は雄成鳥、雌成鳥、雄幼鳥、雌幼鳥の4者で差があります。人間にもこの差は分かりますので、鳥類が見ればくっきりと違いが分かることでしょう。ハイタカの雄幼鳥と雌幼鳥の色による区別は人間にはやや分かりにくいですが、鳥類が見ればかなりはっきりとした違いがあるのでしょう。
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江戸時代の伊良湖の名産品は、碁石(いらご石)とオオタカ(いらご鷹)でした。伊良湖はその当時から鷹では有名だったのですが、それは渡り鳥のサシバやハチクマ、ノスリなどの鷹が見られるからではなく、10月ごろに渡るオオタカを無双網で捕らえていたからです。この辺りのことは以前この通信で書きましたので省略しますが、献上の鷹としては全国でも有名な方だったようです。夏場に全身を新羽に換羽し終えたばかりのオオタカですので、10月のオオタカはきっと神々しいようにきれいだったのでしょう。私が見たのも10月29日でしたから、新しく生えそろった羽が擦れていなくて、青みがあって、きっと一番美しい頃だったのかもしれません。
ただ、献上のオオタカはほとんどが雌の幼鳥で体羽の黄褐色味から「黄鷹」と書いて「おおたか」と読ませていました。成鳥はいくら美しくても捕らえられた後すぐに放たれて、特に雄成鳥は見向きもされず捨てられて(放鳥されて)しまいました。慣れた猟師(優秀な猟師)は、きっとオオタカが飛んで狩場に近づくころから雌雄の判別を即座にして、雄オオタカは初めから捕獲しようと思わなかっただろう……と、私は推測しています。
(Uploaded on 23 October 2020)
2020年7月29日、オオタカの幼鳥たちがどんな生活をしているか見に行きました。この巣では幼鳥が4羽巣立ちましたが、今日確認できたのは同時に飛んだ3羽でした。鳴き声から推定するともう1羽いるようにも聞こえましたが、複数羽で乱れ飛んだり、頻繁に林の中へ入ったり出たりで、正確に個体識別することができず、はっきりとは分かりませんでした。
今日の幼鳥は十分に自由に飛ぶことができました。近くを飛んだドバトの小群8羽を追いかけたり、ツミ幼鳥にしつこくモビングされた後で、逆にそのツミを激しく追いかけたりしていました。ハンティング能力がどの程度なのかよく分からなかったですが、飛ぶことや枝にとまることは支障なく十分にできます。
7月の最後だというのに、さかんに鳴いて獲物をねだっていて、今日は親から獲物をもらうところを見ました。その受け取り方がちょっと珍しかったので、詳細を書きます。
下の写真をご覧ください。この日の獲物渡しのようすです。
1 オオタカ成鳥(大きさからたぶん♂)が画面左上から獲物を持って飛んできて、上のほうの黄色い●印の枝にとまりました。
2 それとほぼ同時に近くの枝にとまっていた幼鳥(大きさからたぶん♀と推定)が画面左から飛んできました。
3 成鳥が枝の上から獲物を落としました。
4 獲物が落ちていく途中で幼鳥がその獲物をキャッチしました。
5 幼鳥はいったん林からこちら方向(私が立っていた方向)へ飛んで出てきて、すぐに私に気が付いてびっくりし、大きくターンして林に入っていきました。
ハヤブサやチュウヒが頻繁に行う空中獲物渡し(一般には「空中餌渡し」と言われる)によく似ていますが、そんな開けたところではなく、林内で、しかも一本の茂った大きな木の中で行われました。
この文を読まれた人の中には、「どうして枝の上で丁寧に渡さないのか」「成鳥♂からパートナーの♀への求愛の獲物プレゼント(一般には「求愛給餌」と言われる)のように愛情を込めた渡し方を、なぜしないのか」と思う方もおられるでしょう。
私はきっと親は幼鳥が怖いと思っていると考えています。特に今回は親が体の小さな♂で、幼鳥が体の大きな♀のようなので、そうだとするとなおさらです。成鳥同士の場合はじょうずに受け渡しができますが、幼鳥は足の爪や身のこなし、飛行が完璧には仕上がっていないので、やることなすことがけっこう粗削りです。特に、足の爪は千枚通しと鋭利なナイフが一つになったようなもので、かなり強力な武器です。飛ぶことが上手になったとはいえまだまだですし、爪の使い方もまだまだで、もしも獲物を受け渡すときに、成鳥が幼鳥に足や体の一部をぎゅっとつかまれたり、スパッと切られたりしたら、致命的な大けがになります。獲物を直接幼鳥に渡すなどということは恐ろしくてとてもできることではないです。
これは巣立ちのころの巣の上にいる幼鳥に獲物を運んできたときにも言えることです。多くの場合は♂親は獲物を♀親に渡して、♀親が巣に運びますが、♀親が巣の近くに不在の場合は♂親が直接巣上に獲物を運び入れます。ところが♀親より一回りも体が大きくなったヒナ(♀)は我先にと♂親をめがけて制御できずに足を突き出してきますから、そんなものに引っかかれたらたいへんです。♂親は獲物を放り投げるように巣上に置いてすぐに巣を離れます。ヒナが♀でなくて♂であっても行動は似たり寄ったりです。
オオタカだけではなく、ハヤブサの♂親も巣立ち直前のヒナや巣立った直後の幼鳥に同じような行動をとります。雌雄で体の大きさがかなり異なる猛禽類では、これは一般的な行動なのでしょう。
(他のタカ類・ハヤブサ類の空中獲物渡しとの違いやその理由についてはまた後日書きます)
(Uploaded on 13 August 2020)
オオタカの巣の近くに構えたブラインドに入って営巣の観察をしていた友人から、観察中に慌てた声で電話がありました。
内容は、「まだ小さなヒナがいるのに♀親が巣の真ん中に大きな穴を掘っている! ヒナが穴に落ちたらたいへんだ~! このまま放っておいて大丈夫でしょうか?」というものでした。
大丈夫です。これはディギング digging といって、毎日、一日に何回もやっていることなので、全然心配いりません。抱卵中は産座にはスギの皮などを、ヒナが孵化した後は青葉の付いた小枝を搬入して敷いていきます。個体によって青葉の小枝の量が少ないものや多いものがあります。こういう小枝はヒナに踏み固められて硬くなり、通気性が悪くなります。すると、巣上にカビやキノコが生えてきたり、ヒナが食べる時に落とした肉片のためにウジ虫がわいたりするので、それを防ぐために空気の通りをよくする必要があります。特に、ヒナが大きくなってくる育雛後期は日本各地で高温多湿な梅雨時に当たりますので、悪影響がさらに大きくなります。♀親が巣を適当に引っかき回しているように見えたり、巣に穴を掘っているように見えたりしますが、これは踏み固められた小枝を引っ張って緩めたり少し位置を変えたりすることで、通気性が良くなるように合理的にやっていることです。
私の経験では、ふ化しなかった卵がある時にはいつも以上に青葉をたくさん敷くようです。ふ化しなかった卵は有精卵でも無精卵でも中身が腐っていますから、ほんとうは巣の外へ捨てにいきたいだろうと思いますが、くちばしで卵をくわえることはできず、かといって足で卵を持って外へ捨てにいこうとしても、そういう時期の卵は殻がすでに弱くなっていますから、もしその場で割れてしまったら巣の上が汚物でたいへんなことになってしまいます。この腐った汚物は他の元気なヒナにとって衛生上の大きな脅威になってしまいます。そこで♀親はふ化しなかった卵を巣の下の方へていねいに割れないように埋めます。産座の下で割れても(卵内の圧力上昇によることかもしれません)、巣の下の方へ自然と落ちていきます。雨が降れば洗ったように流されていきます。こういう処理方法はあまりきれいではないように思えますが、巣の上で割れるよりははるかに衛生的です。そして、その卵にあたかもふたをするかのように大量の青葉を運び込んで、敷いていきます。たくさん敷いていくと腐敗臭や細菌の悪影響は少なくなるものの、踏めば通気性が悪くなってきますから、頻繁に小枝と小枝の間隔を広げて空気がよく通るようにする必要があります。そんなわけで、ヒナがいる時期には♀親が穴を掘るような行動が頻繁に見られます。
ふ化しなかった卵がないときでも、青葉をたくさん敷く性格の個体はたくさんの青葉を搬入して敷きますので、巣によっては「こんなに青葉が大量に!」とびっくりするような巣があります。一方で、「この巣はなぜ青葉の付いた小枝がこんなに少ないのか?」と思うような巣もあります。青葉が大量に敷き詰められた巣には必ずふ化しなかった卵があるというわけではないです。
(Uploaded on 23 July 2020)
オオタカは卵を3日弱ごとに4卵ほど産みます。第1卵を産下した後、第4卵を産み終えるまでに第1卵産下日を入れて(1+3×3-1=)9日間かかります。しかしヒナが孵化するのは同日ではないものの、ほとんど同じ頃です。産卵日に(3×3-1=)8日間の開きがあるにもかかわらず、孵化はほとんど2~3日くらいの期間に集中しています(もっと集中して同時に2羽が孵化したり、逆に1~2ヒナの孵化が遅くまでずれ込んでしまうこともあります)。なぜ遅くに産まれた卵も早くに産まれた卵もほぼ同じ頃に孵化するのでしょうか。この辺りは分からないことがいっぱいあります。
複雑な話ですので、話を簡略化するために以下のように仮定して考えてみます。
(仮定1) 卵を3日ごとに4卵産下する
実際の産卵間隔は3日間よりも数時間短くなっていますが3日で考えます。
クラッチ数はさまざまな条件で変化しますが4卵とします。
(仮定2) ヒナは1日ごとに連続して孵化する
孵化は1時間の間に2卵が孵化することがあったり、3日ほど間が空くことが
あったりしますが平均的に考えて1日ごとに孵化するとします。
(仮定3) 第1卵から第4卵まで、産卵した順番にヒナが孵化する
最初に産まれた卵が一番最初に孵化することが確定しているわけではないです。
タカ類以外の鳥で産卵順と孵化順の入れ替わりが確認されているものがあります。
正確を期すためには産まれたらすぐに卵に目印(色とか番号など)を付ける必要が
ありますが、野外ではこれは難しいです。
これで複雑なものが若干は思考しやすくなります。
第1卵を産下してすぐに抱卵を開始する個体がいます。こういう個体は24時間フルということではないことが多いものの、ずっと長時間産座に座り続けています。どの程度の時間継続していると卵の細胞分裂が開始するのかはっきりと分かりません。ここでさらにもう一つ疑問があります。それは、抱卵している(=産座に座っている)といっても、どの程度真剣に温めているか、座っている時に腹部の羽毛を広げて自分の皮膚を卵に密着させて体温(=熱)を卵に伝えているか、ということです。第1卵産下からまともに温めていると、第1卵の抱卵時間はかなり長くなります。第1卵からの抱卵は天候にもよるようで、雨の日やひじょうに寒い日、日差しが強すぎる日は卵の上に「座る」ことが多いようです。座るからといって抱卵しているのではなくて、ただ「卵を保護している」だけという場合もあるような気がします。第1卵の産卵直後の抱卵はこれに近い抱卵かもしれないです。
第1卵を産下してもほとんど抱かず、座ったとしてもすぐに立って実質的に放置している、あるいは巣の端に立って見守っている場合も多くあります。第2卵を産下してもほぼ同じようにほとんど座らない個体、ごく短時間しか抱卵しない個体がいます。
第3卵を産下すると、ほとんどすべての個体は抱卵を24時間に近いくらい熱心にします。
このように初期の抱卵はさまざまな状態にあるにもかかわらず、孵化はほぼ同時にあるいは2~3日間に集中して起こります。
下の図は、上の仮定をした上での抱卵開始日と孵化日の概念図です。
(図の説明)
横に長い線は1本で1卵の産卵日から孵化日までを表します。4卵産下しますので横線は4本あります。左の方の数字「3」と右の方の数字「1」は日数です。一番右の数字は抱卵開始の卵を基準にした時の抱卵日数です。基準を「0」として、短い分はマイナスで、長い分はプラスで表示してあります。第1卵から一日24時間完全に抱卵を開始すると抱卵日数の差は-2、-4、-6日というように大きくなってしまいます。
「第2卵から抱卵」など、以下同じように見ていってください。いつから抱卵を開始しても、抱卵日数に多少のずれは出てきます。
この表の中で、第3卵を産んだ直後に抱卵を開始すると、抱卵日数の差が長くても2日と、ごくわずかになることが分かります。微妙に1日ごとに抱卵開始日をずらして考えて計算しても、(例えば第3卵の産下の前日から抱卵とか第3卵の産下の翌日から抱卵とかを計算してみても)どの場合でも最大2日の差は出てきます。ほとんどすべてのオオタカが第3卵の産卵後に本格抱卵しているだろうということがこれで裏付けられたような気がします。そうすると、第3卵産下までの抱卵は「仮の抱卵」「見せかけの抱卵」の可能性が大きいです。
現時点で私が推測していること ----- +
1 第3卵を産下する前までは、長時間の抱卵であってもそれほど実効性のある抱卵はしていないのではないか。
2 第3卵を産んだ後は、体温(熱)が十分に伝わる完全な抱卵を進めているのではないか。
3 孵化の準備ができても、卵の殻の固さや中のヒナの力の入れぐあい、卵を割るタイミングその他のさまざまな条件で、すぐに孵化できたり、あるいは孵化までにかなりの時間を無駄に要してしまう場合があるかもしれない。
4 陸上に巣を作る鳥類やウミガメ類では、卵の中のヒナ同士が音声のコミュニケーションをとってほぼ同時に一斉に孵化するようすが研究されていますが、タカ類にもそういうことがあるかもしれない。
私が考えていること -------- ++
ア 最終卵を産んだ後はどんな温め方をしても全卵がほぼ同じように温められます。現にくちばしで全卵をころがすこと(転卵)はしょっちゅう行いますし、産座に座る向きは北向きから西向きへ、東向きへなどとこれもしょっちゅう変えています。
イ 卵数が少ない時よりも多い時の方がかたまり全体の体積が大きいので、1卵よりも4卵の方がより冷めにくいということはありますが、最終卵が産まれた後ではすべて条件は同じです。
ウ 孵化する頃の卵ごとに大きな差がありそうです。同じように産まれて同じように温めてもらったとしても、卵の中での胚の発達、細胞分裂、発育にはそれぞれ早いものや遅いものがあって、個体差が見られそうです。
エ いっそのこと全4卵を産み終えてから抱卵を開始すれば全卵を同じように温めることができ、ほぼ同じ頃に孵化させることができるはずですが、そういう例を見たことはありません。他の人から聞いたこともないですが、それはなぜでしょうか。
(ここから少し非科学的な書き方ですが……)
もしも私がオオタカだったら、目の前に卵があるのに温めずに見ているだけということはできないです。さらに卵の数が増えてくるほど「抱きたい」という衝動が強くなり、もう我慢ができなくなるように思います。その限界が第3卵産下後ということかもしれません。こういう100%主観的な書き方はよくないと思いますが、こんな書き方しか書きようがないくらい微妙な問題です。大昔からきっと試行錯誤が繰り返されて、できるだけ早くから抱卵したいけれどもいつから抱けば一番好都合なのかということが、長い長い年をかけて形成されていったのだろうと推測します。その結果、第3卵産下後すぐにフルに抱いても問題がなく、しかもそれが一番結果がよかったということだろうと思います。第4卵産下後に抱き始めれば何も問題はないのですが、もう一卵早くから抱き始めても何も問題がなかったから第3卵産下後に抱き始めることになったということがほんとうかもしれません。
これらから考えると、気になることはやはり
〇 第1卵から第4卵産下までの産卵期間9日間の抱卵のほんとうの内容
〇 4つの卵の個体差(成長差)
ということになります。
(Uploaded on 8 May 2020)
先回はハヤブサがハトの大群を断続的に襲い続けた後にオオタカが現れて、いとも簡単にハトを捕らえたところまで書きました。
先回の記事は、2020年3月30日付けの記事No.411 「ハヤブサは 鳥の大群を意図的に分断するのか」(←ここをクリック) です。今回はその続きです。
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ハヤブサはハトの群れを31分間にわたって断続的に襲い続けた後、姿を消したので、私は多くのハトが飛んでいった小さな山の向こうの農耕地へ移動しました。そこにはドバト10羽程度の群れが数群いました。しばらくしたら近くの鉄塔に朝からずっと1時間45分もの間とまっていたオオタカ幼鳥が飛び出しました(この鉄塔は最初の地点からも移動した後の地点からも見える位置にあります)。オオタカは私のいた方向へ向かってきましたが、途中で旋回上昇して高度をどんどん上げて、双眼鏡でないと確認できないくらい上がってしまいました。ハトの動きを見ようと双眼鏡から目を離したらもうオオタカを双眼鏡の視野に入れることができませんでした。見失っていた時間はそんなに長くはなかったのですが、私がオオタカを探していると、ハトを持ったオオタカが天井から下りてくるように降下してきました。高空に上がったオオタカがごく短い時間でいとも簡単にハトを捕らえたようです。ハトの群れがハヤブサによって長時間(31分間も!)追われ続けたので疲れていたからだろうと思いましたが、そう単純な話ではないかもしれません。
ハトを持って天から降るように降下してきたオオタカ幼鳥は私の目の前にある農耕地の中の樹木が少しだけ生えている小さな空き地の脇まで降下し、最後に少しだけ羽ばたいてクロマツの木々の間に入っていきました。すると数秒後、そのオオタカの入った小さな林の中へ、オオタカに続くようにノスリが1羽入っていきました。
「オオタカはどうなるんだろう」と思いながら車を林に近づけると、ほどなくして、ふらふらのハトがこちらに向かってぎこちない飛び方で出てきてすぐに左へ折れて羽ばたいて飛んでいきました。「ふらふら」というのは左右の羽の使い方が同じでなく、なんとなく安定しない飛び方というような意味です。すぐにオオタカが同じところから飛び出して20mほど離れて後を追いますが、その後を林から出てきたノスリ2羽が数十メートル離れて追いかけました。ノスリは1羽だと思っていたのですが、2羽出てきました。ハトはなんとか飛びながら逃げて、私の車からどんどん離れて、飛んだ高度が低かったこともあって、民家の陰になってまたしても見失ってしまいました。
「どこへ行ったかな?」と思い、どこへ探しに行こうかと考えながらその場で2分ほど待っていたら、220m離れたところにあるスギの木のてっぺんや電柱にハシブトガラスが5羽集まってきて下を向きながら激しく鳴き始めました。「あそこだ!」と思い、そちらへ見に行くと、小さな児童公園(ちびっ子広場)の芝生の上でハトをつかんでむしっているタカが見えました。初めからオオタカだと思いこんで近づきましたが、よく見るとノスリでした。
捕食場面が苦手な方がいらっしゃいますので、いつもよりも画像サイズを小さくしています。
ノスリは生きたままのハトをオオタカのようにむしり続けていましたが、しばらくすると別のノスリが突っ込んできて、ノスリ同士のちょっとしたけんかになり、いったん2羽はフェンスの上にとまりました。2羽とも虹彩が暗褐色の成鳥でした。
ノスリが争っている間にハトは這うようにして2メートルほど動きましたが、最初から食べていたノスリが再び押さえつけて食べ始めました。
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児童公園近くでハトを捕らえた瞬間は見ることができませんでしたが、捕らえたのはオオタカだろうと思っています。ノスリはそれなりのハンティング能力を持っているとはいうものの、やはりハトを捕るのは苦しいですし、ハトのすぐ後ろを追ったのはオオタカで、オオタカの後を少し離れて2羽のノスリが付いていったので、やはりオオタカが捕ったのでしょう。ノスリはオオタカが捕ったハトを横取りしたことになります。
私はオオタカの捕った獲物をノスリが横取りする瞬間と横取りしたとしか考えられない状況を今まで数例見ています。この冬、私の友人もオオタカがドバトを捕った後、すぐに雑木林へ入っていったものの、その2秒後にノスリが続いて林に入り、ほどなくして何も持たないオオタカだけが林から出てきたところを見ています。
それどころか最近は、オオタカが頻繁に狩りをする地点にノスリが待ち構えていて、オオタカが獲物を捕ったらすぐに奪い取ってやろうというような雰囲気でオオタカの動きを見ているノスリさえいます。横取りされることが続いたからか、以前は捕らえたハトをオオタカが見晴らしのよいところで食べるシーンを車の中から見ることができましたが、最近はハトを捕らえても草地や広場、畑の上で食べずに、すぐに雑木林や竹林に入っていってしまいます。経験を積んだオオタカ成鳥はノスリに横取りされるのを嫌っているからこういう行動をするのだろうと思っています。今回のような幼鳥ではそういう経験が少ないからか、林の中に入っていったものの、その後のノスリに対する対応が難しかったのかもしれません。
オオタカの営巣地や巣がノスリに乗っ取られるという事例が全国各地で報告されていますが、オオタカにとってノスリはやっかいなタカです。愛知県ではノスリの繁殖域がどんどん広がってきていて、生息数が多くなっています。ノスリは指が短い分だけ足の握る力(握力)が強く、体全体の大きさは雌雄や個体によってはオオタカよりも大きいです。オオタカの生息数は全国的に見るとそれぞれの地域によって偏りがありますが、こういうノスリの影響で、関東地方や東海地方などの一部地域で順調に数を増やしてきたオオタカが急に減少に転ずる可能性は大きいだろうと心配しています。
このあたりのことは、BIRDER誌 2017年12月号の特集記事「オオタカ希少種解除 なぜ祝えないのか?」( 35・36・37ページ )にも、今後の個体数減少の懸念事項として書いておきました。
(Uploaded on 18 April 2020)
飛んでいたオオタカが高度を下げて林に入っていきました。最初は羽ばたき、途中から滑空で林に(突っ込んだというよりは)入っていくという感じで手前の樹木がじゃまになって姿が消えました。この時、このオオタカは林を突き抜けていったのか、あるいはどこかの枝にとまっているのか、どちらだろうかと思う時があります。
オオタカが入っていった林の方に歩いて確認に行けばよいでしょうが、そうするとこちらが姿を見つける前にたいていはオオタカに先に気付かれてしまい、飛ばれてしまいます。あるいはカラスに頼ってオオタカの気配を感じることもできますが、すぐにカラスが来ない時がしばしばあります。カラスより敏感なヒヨドリやカワラヒワなどの小鳥類も常に騒ぐとは限りません。いつも使えるわけではありませんが、見分け方として次のような方法があります。下の画像を見てください。
この画像は営巣期に巣の近くから飛び立った♂成鳥が営巣林から出て小さな耕地の上空を飛び、となりにあるちょっとした小さな林に向かっていった時のものです。すぐに私の目の前にある竹林がじゃまになって姿が見えなくなってしまいましたが、その直前に撮ったものです。
頭と尾を結んだ線(上の画像の水平な細い赤線)に対して翼がどの程度傾いているか(画像の太い赤い線が作る角度)を見るとよく分かります。翼を写真のように斜めに固定したまま羽ばたかずに滑空しています。こういう翼の角度で滑空した後は枝にとまることが多いです。林を突っ切って抜けていく時はこのような翼の傾きになることは通常はありません。枝にとまった瞬間やとまった姿が見えなくてもこういう時はどこかにとまっていることが多いです。
どこかの監視木にとまっているだろう、少なくとも林内には留まっているだろうと推測することができれば、その後の観察方法も大きく違ってきます。
特に、オオタカの生態調査、追跡調査などをしている時はその個体の居場所を常に把握し続けることが必要です。うまくいけば3時間でも同じ個体を追跡し続けることができますが、そういう時、今その個体が、
1 監視木にとまっているのか、
2 林を抜けて向こうに行ってしまったのか、
3 あるいは林内のどこかに留まっているのか
の見極めは最重要事項ですが、分かる場合があります。林の中や周りの小鳥や小鳥の群れ・カラス類の動きや飛び方、鳴き声を考慮に入れることができれば、さらに正確な推測ができます。
(Uploaded on 8 March 2020)
2019年4月下旬、一晩中雨が降りつづいた翌朝、オオタカのようすを見に自宅近くの営巣地へ行きました。雨で表面が少し湿っていた道に、イノシシの足跡が点々と続いていました。ふだんはこれほど鮮明に足跡がつかないのですが、やはり雨が降った直後だったからか、くっきりと跡が見えます。足跡を伝ってイノシシの進んだ方向へ歩いて行くと、鳥の羽が一枚落ちていました。羽はオオタカの右翼の初列風切で、大きさと色から雌成鳥のものでした。スマホにオオタカ成鳥のP1~P10の識別表を入れてあったのでさっそく照合したらP4でした。ひじょうにきれいで、まさについ先ほど抜けたばかりだろうというくらい良い状態でした。
(そういうことなら……)
鳥類など俊敏な動きの生き物を獲物にするタカ類は右翼と左翼の対応する羽が同時に抜けることが多いのですが、オオタカはとりわけ俊敏な飛行をするタカなので、ほとんど左右同じ羽が同時に抜け落ちます。同時でないと左右のバランスがわずかですが狂って飛翔に若干の不都合が生じるからだろうと推察しています。そういうわけで、右のP4(下の画像の①)が落ちているのなら左のP4も近くに落ちているはずだと思って探したら、ほんの5メートルほど離れたところに落ちていました(下の画像の②)。2枚の羽を拾った道から上空を見るとオオタカがとまるのにちょうど良さそうな枝が太い幹から道の上にぬっと出ていました。「あそこに長時間とまって休憩していた時に抜けたのかな」、あるいは「休憩が済んで飛び立つ時にひらひらと落ちたのかな」などと思いながら眺めていました。風がなかったので2枚が比較的近くに落下していったのでしょう。
(そういうことなら…… 2)
初列風切と初列大雨覆(初列雨覆)は人間で言うと掌と指の骨から生えていますが、この2枚(初列風切と初列大雨覆)は同じところから生えてきます。一般的に言うとこの2枚は抜ける時もほぼ同時に抜けます。左右のP4が落ちているのなら「ひょっとして近くに初列大雨覆も落ちているかもしれない」と思って探したら、すぐに見つかりました。草むらの中でしたが、ほんのすぐのところでした。右のP4と同じところから生えてきている初列大雨覆で、画像の③の羽です。対応する初列風切と初列大雨覆の2枚の「反り」が逆(反対)のように思われますが、初列風切と初列大雨覆は(羽柄と羽軸の接点のあたりの)反りがもともと逆方向になっていますので、③の羽が①と一緒に生えている初列大雨覆です。
(そういうことなら…… 3)
では、もう一枚、左P4と一緒に生えている初列大雨覆が落ちているはずだと思って探してみました。ところが、いくら探しても見つかりませんでした。
「カラスか、小鳥か、他の鳥が持っていったのか?」
「風は弱かったけど小さい羽だからひらひらとどこかへ飛んでいってしまったのか?」
「そもそもここでは抜けなかったのか?」
などと思っているうちに、
「ここは巣に近すぎるからこんなことをしていては営巣のじゃまになるかもしれない。巣上に卵がある時期なので長居はよくない」という思いがだんだんと強くなってきました。巣からの距離はおよそ50メートルほどしかなかったので、その場を離れることにしました。もう少し探せば初列大雨覆があったかもしれませんが、なかったかもしれません。
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(左右同時に抜け落ちることについて)
上に「俊敏なタカ類は左右同時でないと……」と書きましたが、実際はそれぞれのタカ類ごとに事情があって、抜け落ちる仕組みはかなり複雑なように思われます。例えばトビはそれほど俊敏な飛行や狩りをするわけではなく、巧みな帆翔でゆったりと空中に浮かびながら食料を探しています。左右の微妙なバランスが崩れてしまうときっと飛びにくくなると思われます。実際、換羽中のトビを写した画像を丹念に調べてみると、左右の羽がほぼ同時に欠けている(あるいは同じように伸長している)個体ばかりです。「俊敏な狩りをするから左右が同時に……」とは必ずしも言いがたいようです。一方で、ノスリは空中の一点にピタッととまれるようなみごとな(羽ばたかない)ハンギングや(羽ばたく)ホバリングをすることができますが、左右の羽が同時に抜けていない(あるいは伸長していない)個体をしばしば見かけます。左右同時性について調べてみるとけっこう難しいです。
(Uploaded on 1 January 2020)
2019年5月下旬、送電鉄塔の「帽子」と呼ばれる部分の下端にオオタカ♂成鳥がとまっていました。頭を左右に動かして辺りを見回したり、首を少し前後に動かしたり、鉄塔の基礎付近を見つめたりしながら獲物を探していました。あまり近くで観察していては自然なようすが見られないだろうと思い、やや離れた道路上まで車を移動させて車内から観察を始めました。鉄塔と私の車の水平直線距離はおよそ220mでした。これくらいの距離があれば、どちらへ飛んでいっても狩りの全体像が把握できることが多いです。車を停めた狭い道路脇には桑畑があって、そこはクワの他にたぶん小鳥に運ばれた種子から発芽したであろうムクノキやエノキが何本か生長しており、ふだんから小鳥類がよく群れているところです。
オオタカはしきりに獲物を探していましたが、なかなか飛び立ちませんでした。40分くらい経過したころ飛び立って、図の矢印のように民家の屋根の上を越えて水田の上を低く飛んできました。概略は下の図のようです。
車の左ドアの窓を開けて運転席から見ていましたが、オオタカはまっすぐに私の車に向かって(あまりにまっすぐに!)飛んで来ましたので、一瞬「なぜ、こんなに真っ正面なの?」、「車にぶつかったら困る」「この車がじゃまなので、オオタカが怒っているのか!」という思いが短い時間内に次々と浮かびました。
オオタカは私よりも低いところを飛んで、車の近くでフワッと浮かび上がって車の上空3mほどを通過し、桑畑の上でムクドリをハンティングしようとしました。この時初めてムクドリ10数羽が激しくジージー、ジャージャーと鳴き、ヒヨドリも長く伸ばすように鳴きながら桑畑から飛び出していきました。つまり、それまでここにいたムクドリやヒヨドリはオオタカの接近に気づいていなかったということです。
私の車はオオタカに遮蔽物として利用されたようです。今までもマーリン通信に、オオタカがさまざまな遮蔽物を利用して獲物に悟られないように近づいていったようすを書いてきましたが、人が乗っている車を遮蔽物として利用したのは初めてです。しかもオオタカを観察中の私は双眼鏡でのぞいたり望遠レンズで撮影もしていたのですが、そういう人が乗っている車を遮蔽物にしました。
この♂個体はこの営巣地でもう何年も観察してきた個体で、狩りの瞬間や獲物を巣へ運ぶところを何度も見てきたオオタカです。つまり、しょっちゅう狩りや獲物運搬のじゃまを(私が)してしまったことがある個体ですので、多少は慣れっこになっている可能性があって、だから遮蔽物として利用したということかもしれません。
ムクドリの多い桑畑の脇に車を停めたのはまったくの偶然で、鉄塔と桑畑を直線で結べば私の車の上を通らざるをえなかっただけという単純な話かもしれませんが、しかし、
〇 水田の上を飛んだ時の高度の低さ
〇 接近中は車の陰になっていて小鳥からは見つけられにくいこと
〇 車の近くまで来てから急に浮かび上がったこと
〇 浮かび上がった直後に狩りを試みたこと
〇 ムクドリがそれまでオオタカにまったく気が付かなかったこと
〇 これと同じような経験を私の友人もしたことがある
などを客観的に見ると、やはり遮蔽物として使ったのだろうという結論になります。
(Uploaded on 2 November 2019)
2019年6月下旬のことです。あるオオタカの巣の近くで巣立ったヒナの声を聞いていました。少なくとも複数羽の巣立ちビナ(幼鳥)の声が聞こえます。♂が食料を搬入した時の騒ぎのような声には、どうも3羽いるようなにぎやかさがありました。2羽かな、3羽かなと思っていたころ、♀が営巣林から出てきて、思いも寄らない近くを通過していきました。地上高は1mほどでした。ずっと羽ばたきながら飛んで、近くの携帯アンテナの鉄塔に向かいます。♂の姿はしょっちゅう見かけますが、ここの♀は久しぶりに見ました。♀は抱卵や巣内のヒナを守る仕事で忙しいためか、♀を見る機会は♂よりもうんと少ないです。
「あの鉄塔にとまりそうだな」と思って見ていると、思いきり羽ばたいて体をほぼ垂直に立てて、急上昇していきました。よくもこんな急角度でほとんど真上に上昇できるものだと感心しながら、とまる瞬間を写真にしようと思ってとっさにカメラを構えました。多くの人は飛び立ちの瞬間を撮ろうと狙いますが、私はとまる瞬間のほうがはるかに興味深いものだと思います。
ファインダー越しに見ていたら一瞬ですが姿が消えたので、「あれっ、今どこにとまった?」、「どこを通った?」と不思議な感じがしました。秒10コマで撮っていましたから、カメラの液晶画面で順に0.1秒前の画像を見ていくと、小さな隙間を通っていったようです。下の画像は左から右へとごらんください。
狭いところを通過していったことがよく分かります。撮影する時の目的は、とまる時に小翼羽をどう使うか、尾羽をどの程度広げるかということを知ることだったのですが、思わぬ副産物が撮れていました。左から3枚目ですでに足を伸ばし始めて着地の準備をしていることや、尾羽はまったく広げていないことも分かりました。
今までもここのペアとは違う他所のオオタカが、鉄塔の変な屋根裏のような位置にとまったり、変わったとまり方をしたことがありました。この「変な」とか「変わった」というのは私の初期主観であって、肉眼や双眼鏡で見ていただけでは詳細がよく分からなかったからです。今回のような画像にするとどこをどうやって飛んでどうとまったかなどが分かりやすくなります。
私などはごく普通にとまればよいのにと思うのですが、オオタカにとってはこういうとまり方も「ごく普通」という範疇に入ってしまうでしょう。「普通」「フツー」という言葉はあまり好きでないのでふだん使わないのですが、少なくともよく見かけるとまり方ではないです。一般的なとまり方はこんな狭いところを通らずに、一番外側をくるりと巻くようにとまるとまり方です。
こうして考えてみると、「なぜ、こんな狭いところを?」というのは人間的な考えなのでしょう。いつも樹木が茂った林の中を自由自在に縦横無尽にぶつかることなく飛び回っているハイタカ属の鳥にとっては、この程度の隙間は少しも狭くはないでしょう。人間にはアクロバティックな飛び方のように見えますが、彼らにとっては、「こんなことを、なぜ若杉さんは問題にしているの?」と言いたげな、そんなフツーの飛び方なのでしょう。
私は「オオタカはすごい! オオタカは賢い!」という文章を多く書いていますが、人間が持っていない能力を彼らはごく当たり前に持っているというだけで、本人たちはそれを何らすごいことだとも賢いことだとも思っていないでしょう。自力で飛んで大海を渡ってしまう鳥たちを人は感嘆し羨みますが、鳥たちはどうってことはないような当たり前の顔で海を越えています(もちろん過酷な旅になることもありますが……)。
(Uploaded on 20 August 2019)
この半年間(2~7月)の私のタカ観察はオオタカのハンティング観察が中心になり、明けても暮れてもオオタカばかり見ていました。この6ヶ月間で、トビ以外の鷹隼類を1種も見なかった日はたった1日でしたから、比較的運よく各種の鷹隼類が見られたほうだと思います。
(最初から余談ですが……)
昔はトビは各地でよく見られ、一日じゅう山野を歩いてもトビ以外の鷹隼類が1種も見られない日はあってもトビが見られなかったという日はめったになかったので、つい「トビ以外」と書いてしまいましたが、最近は海岸部を除いてトビを見る機会がかなり減ってきました。特に繁殖期、市街地や郊外でトビを見かける回数と羽数がかなり減ってきました。冬場でも私は見る機会が減ってきました。英国ではアカトビが絶滅してしまったので、再導入して今ではある程度は見られるようですが、それでもまだまだ貴重な存在のようです。国土の広い米国では、ごく局所的にかなり珍しいトビの仲間が4種いますが、トビやアカトビのように広く普通に見られるトビ類は1種もいませんので、日本でごくあたりまえにトビが見られることは貴重です。日本でもこの先トビが激減して見られなくなる可能性がありますので、「トビ以外」などともったいないことを言っていてはいけないですね(観察記録にはトビの羽数を記録しています)。
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さて、私はハイタカ属とハヤブサ類が好きで、最近はオオタカに関する記事ばかり書いていますが、今日もオオタカの頭脳的な狩りについてです。
なお、「ショートカットハンティング」は私の造語です。適切な用語がないので、作りました。
【オオタカのショートカットハンティング 1 】
5月末のことです。河川に近い農耕地の小さな果樹園の上空で、小鳥が騒いでいました。オオタカの姿は見えませんでしたが、果樹の中のどこかにオオタカがとまっているような気配でした。私は近くの空き地に車を停めて、ようすを見ながらしばらく待つことにしました。数分したら、オオタカ♂成鳥が果樹の間から出てきて、1羽のムクドリを追いかけました。ムクドリは川の方へ逃げていきます。その時のムクドリとオオタカの動きの概略は下図のようです。
ムクドリは水田の上を飛んで、堤防の法面に向かいます。急な崖にはなっていなくて、ごく一般的にどこでも見られるような角度の法面です。まっすぐ進むと当然ながら斜め上に上がらざるを得ません。ムクドリは水色の矢印のように進みました。オオタカは初めは水田の上をまっすぐに追いかけるように飛びましたが、ムクドリが図のA点で向きを斜め上に変えたのに対し、オオタカは早々と図のB点で向きを変えました。そして、まさにショートカットをして、難なくムクドリを捕らえました。捕らえた後、果樹園に戻るように運び、そこで羽をむしり始めました。上半身を少し食べた後で巣にいるヒナたちに運びました。
ムクドリは遠回りするようにわざわざA点まで行かずに、初めから斜め上方へと飛んで少しでも早く堤防を越えて川岸の草むらに突っ込んでしまえば捕獲されずに済んだかもしれないと思いますが、追われている鳥類はとにかく一刻も早くオオタカからの距離を広げよう(引き離そう)と思いますし、時にはパニックになることもあるほどですから、そこまでの冷静さは無理かもしれません。あるいは法面にそって上方へ上がると速度が落ちますから、右か左どちらかへ交わして力いっぱい羽ばたけば逃げられたかもしれませんが、そうすると下記の【2】と同じことになってしまいそうです。いずれにしてもムクドリにとっては「運悪く、法面がそこにあった」「一直線には逃げ通せなかった」ということでしょう。
【オオタカのショートカットハンティング 2 】
オオタカがハトを追いかけています。下の図はそのようすを上から見たものです。こういうショートカットハンティングのシーンは今までに何度も見ました。
まっすぐに逃げるハトを追う時はオオタカもまっすぐに追いかけます。図のC点からD点です。しかし、ハトが緩やかにカーブし始めるとオオタカは突然ショートカットして、一直線に飛び、ハトとの距離を一挙に縮めます。そして、捕獲します。ハトが瞬時に背面飛行になって急降下したり身をかわしたりして巧みに逃げて、捕獲に失敗することもありますが、こういうショートカットで捕れることが多いです。
観察している私から見れば、ハトが右へカーブし始めてオオタカがショートカットしてきたら、それを見てから、こんどは逆にハトが左へカーブすれば、いとも簡単にオオタカを振り切れるのではないだろうかと思いますが、こういうことはすべてのハトにできるわけではないようです。巣立って間のないハトには特に難しいです。オオタカに追われたことのあるハトや野外生活の経験が長いハトにしかできないかもしれません。
オオタカが獲物を後ろから追う時、獲物の左右それぞれの翼の動きや尾羽の開き方・角度などがオオタカにはよく見えているのでしょう。ハトが右へカーブする時には当然尾羽を傾けたり、左右の翼が異なる動きをしますから、後ろで見ているオオタカにはこの後すぐにハトが右へカーブすることがカーブする前に分かるのでしょう。そこまで予測してショートカットしているようです。あるいは、カーブし始めた時の初期値(曲がりの程度、体の傾き、スピード)を瞬時に把握して先のコースを早くに予測してショートカットのルートを決めることをしているのかもしれません。いずれにしても、オオタカはよく見ています。賢いです。
(Uploaded on 1 August 2019)
2019年4月下旬、快晴無風の中、農耕地へ鷹隼類を見に行きました。幸運なことに、あまり長い時間待たないうちにハヤブサ♀成鳥が出現しました。初めは高度が高かったのですが、突然、紡錘形になって急降下し一気に高度を下げて、私の頭の上の比較的近いところでハトを蹴り落としました。
突然の急降下であり、近すぎてスピードのある急降下だったために角速度が大きすぎて写真は一枚も撮影できず、ただ見ているだけでしたが、ピントのボケた写真を量産するよりも見るだけの方がかえって見応えがありました。ハトを足で蹴った瞬間、「バスンッ」とか「ボワン」というような鈍い大きな音が聞こえてきて、羽毛が飛び散りました。ハヤブサが獲物を蹴った瞬間の音は今まで何度も聞いてきましたが、この日はこれまで聞いた中で一番大きな音でした(距離が近かっただけかもしれませんが…)。ハトはそのまま雑木林の中へ落ちるように突っ込んでいきました。獲物が林内に入ってしまうと、たとえばオオタカだったら近くの木にとまって獲物が出てくるのを待つとか、自ら林内に入っていくこともありますが、ハヤブサはそういうことができないです。あきらめたようで、すぐに旋回上昇し始めました。高度を上げた後、旋回したり移動してまた旋回したりしていましたが、しばらくして北の方へ飛去しました。
ハトが蹴落とされて10分くらいたったころ、雑木林からごそごそ、バサバサとけっこう大きな音がしてきました。何の音だろうと思って目をやるとキツネがハトを追いかけていました。雑木林から地上すれすれでハトが出てきて、その後ろ1メートルほどをキツネが今まさに飛びかからんばかりの勢いで追いかけました。両者が林縁から出た瞬間にキツネが私に気が付いたようで、すぐに下の画像のように右前足を踏ん張ってUターンして林の中へ逃げるように戻っていきました。ハトは私の目の前をバタバタと音をたてて飛んで通過し、耕地の上を低く飛び、竹やぶの方向へ逃げていきました。
ところが……ところがです。ハトが飛んでいった竹やぶの近くにある木の枝には、下の画像のようにオオタカ♂成鳥がとまってハヤブサとハトとキツネの行動を一部始終見ていたのです。
竹やぶの近くまで飛んでいった手負いのハトは薮の脇にある木にオオタカがとまっていることには気が付いていなかったようです。近づいたハトをめがけてオオタカが枝から飛び立ち突っ込んでいきました。初めからハトは飛んだ高度が低く、わずかですが起伏のある耕地の低いところを飛んで行きましたので私の立っていたところからは捕獲の瞬間は見えませんでしたが、オオタカの飛び立ったタイミングや羽ばたき方・飛び方、ハトのゆっくりとしたスピード、ハトが手負いということ、直後にハシブトガラス10数羽が騒がしく鳴いて集まり、木の枝にとまって落ち着かず下を向いて大きな声で鳴き続けましたので、ハトはおそらく捕まったでしょう。いくらか食べた後、残りを抱卵中の♀に持っていくかもしれないと思って巣へ向かう飛行コースを注目していましたが、その後オオタカは1時間30分以上経っても現れませんでした。竹やぶの向こう側を飛んでいった可能性もありますので、巣に獲物を運んだのか行かなかったのかは判断できないです。もし狩りに失敗したらその後比較的早いうちに再び出現することが多いですが、この日は出てきませんでしたので、やはり捕ったのでしょう。
このオオタカはハヤブサが出現する前までは雑木林上空を飛んでいましたが、ハヤブサが現れたので逃げるように木の枝にとまりました。やはりオオタカ♂は急降下してくるハヤブサ♀が怖いのでしょう。私にはハヤブサから避難して休憩しているように見えましたが、ただの休憩ではなく、虎視眈々と隙をうかがってチャンスがあれば捕ってやろうと待ちかまえていたのだと思われます。
ここの森の主オオタカがいなくなった後、30分ほどして代わりにオオタカ♀幼鳥が出現しました。繁殖期には♂成鳥がいるとめったに現れないのですが、いなくなったから現れたというような感じでした。
ハトはハヤブサに蹴落とされ、逃げ込んだ林の中でキツネに追われ、二度も恐怖を味わった後に最後にオオタカに捕獲されました。最初の不運はしばしばあることで、ハヤブサにつかみ捕られなかっただけでもよいと思いましたが、2つ目の不運は、かろうじて逃げ込んだ小さな雑木林にキツネがいたことです。まさに不運としか言いようがないです。そしてタッチの差くらいのきわどさでキツネから逃げることができたのはラッキーだったのですが、3つ目の不運が待っていました。どちらの方向へも飛んで逃げることが可能だったにもかかわらず、たまたま選択して飛んでいった先の木にオオタカがとまっていたというのは、運が悪いです。不運が3回も連続することがあるのですね。
この日はハヤブサが遠くへ飛去する途中にハイタカが1羽現れて、数回突っかかるようにモビングしていました。何ごともないように過ぎて2羽は分かれていきましたが、ハヤブサが足を出してハイタカを捕らえてしまう可能性もあるわけで、そういうことが起こらなかったことにはそれなりの理由がありますし、もし捕獲ということが起こったとしたらそれはそれで、それなりの理由があるわけです。
世の中の現象に「偶然」ということはなくて、どんな現象にもみな因果関係があるという立場で私はいつも物事を考えています。しかし、ハトになぜ3回も不運が連続したのかについてはその原因を見極めるのは難しいことです。
(Uploaded on 10 May 2019)
ドバトなどの中形の鳥が鷹隼類から逃げる時は、鷹隼類が足を出す瞬間あるいは足を出す直前に背面飛行になってタカを交わすことが多いです。ハトがオオタカに追われ、捕らえられそうな瞬間の直前も、たいていの場合は下の画像のように背面飛行の状態になって逃げます。ハトが背面飛行になった直後(例えば0.1秒くらい後)に、オオタカもたいていの場合は背面飛行になって降下し、追いかけます。オオタカは時には背面になったままの状態で足を伸ばしハトを捕らえようとします。
タカが狙っている獲物がハトよりも小さい鳥の場合はどうなのでしょうか。繁殖期のオオタカがムクドリの幼鳥を捕らえようとした時に毎秒10コマで連写したところ、ムクドリが背面になって降下する瞬間が写っていました。ハヤブサがヒヨドリを海上で捕らえようとする時、ヒヨドリは急降下して海面ぎりぎりまで落ちていくことが多いです。ハヤブサもこういう捕獲時は背面飛行になることが多いですが、ヒヨドリが陸からやや離れた海上で降下すると陸上にいる私には遠すぎて撮影がしにくいです。ハヤブサがヒヨドリにかなり近い時にはたぶん背面飛行をしているのではないかと思いますが、ヒヨドリの姿勢までくっきりと分かるような画像がなかなか撮影できないです。遠くのヒヨドリが小さく写っている画像では、ヒヨドリはさまざまな姿勢をしていて、その中には背面飛行らしく見える個体もいます。
2年前の冬にハイタカがメジロを捕獲する瞬間を何例か見ました。捕獲の直前にハイタカが背面飛行になったところは見たことがありますが、その時私の目はハイタカにいっていて、メジロが背面飛行をしたかどうかはよく分かりませんでした。ハイタカとメジロの両方に神経を集中してその両方の姿勢を瞬時に把握することはけっこう難しいです。肉眼では、たいていはどちらか一方の姿勢しか見られません。肉眼でハイタカの姿勢とメジロの姿勢を同時に両方判断できるようになるには、そうとう訓練しないといけないでしょう。特にメジロは体が小さいので、ちょっとでも遠い場合は画像として撮らない限りどういう飛行をしているのか分かりづらいです。
2019年1月27日のことです。ヒヨドリ3羽が雑木林の上空をゆっくりと飛んでいたところ、林内から(あるいは林の向こう側から?)急にオオタカが飛び出してきました。ヒヨドリは慌てて私の立っていた方向へ飛んで逃げ、捕獲はされませんでした。下の写真はオオタカの接近に気づいて逃げるヒヨドリが背面飛行をし始めた瞬間です。
ピントがボケて画面の左下隅に頭部と翼先が欠けた状態で写っていますので、たぶん皆さんがこのような画像を撮られても、すぐにゴミ箱行きになるかと思います。しかし、私にとっては「ヒヨドリがオオタカに追われた時は背面飛行になって交わすことがある」ということが分かる貴重な証拠写真です。
(Uploaded on 20 April 2019)
(注1)雌雄の識別に自信がない時やあまりはっきり分からない時は、「♂成鳥」や「♀成鳥」とせずに、ただ単に「成鳥」と記録するとよいでしょう。
(注2)正確を期すためには、繁殖ペアをじっくりと見比べて雌雄の違いについて「見る目」を養うことが一番よいでしょう。
オオタカの成鳥と幼鳥の識別は体下面が横斑か縦斑かで簡単に分かります。距離が遠くても成鳥は体下面がかなり白っぽく見えて、幼鳥は成鳥よりも体下面が濃色に見えますからほとんど迷うことはないです。
しかし、成鳥でも幼鳥でも野外ではその個体の雌雄がはっきりしないことが多く、しばしば判断に迷います。じっくりと観察できる時間が短かかったりタカとの距離が遠い時は識別がさらに難しいです。しかし、ある程度の確度でなら雌雄の見分けはできます。以下、オオタカの雌雄の識別について、便宜的に「1 とまっている時」と「2 飛んでいる時」「3 遠くを飛んでいる時」に分けて記述します。
1 とまっている時
(1)(比例上の)頭の大きさ
成鳥でも幼鳥でも♂の頭は♀よりも比例上、大きく見えます。つまり♂は頭でっかちに見え、♀は頭が小さく見えます。比例上(相対的に)そのように見えるのであって、実際は(絶対的には)頭部は雌雄ともほぼ同じくらいの大きさです。頭の大きさは雌雄とも同じくらいですが、体の大きさが雌雄でかなり違う(♀が大きく♂が小さい)のでそう見えるということです。上の写真をじっくりと納得がいくまで長時間見て、実感してください。
(余談ですが)1980年(昭和55年)頃、飛翔中のツミとハイタカの識別はけっこう難しいものでした。私は当時この識別に挑戦していて写真をたくさん撮りまくりましたが、今のような優れた機材がなく、ISOの低さ(Kodachrome64はISO64)、ラチチュード(露出寛容度)の狭さ、手動のフォーカス、手ぶれ防止機能はなく、現像が仕上がるまでに最短でも2日間かかることなど、けっこう苦労が多くありました。クリアーな画像があまり多く撮れないので、プロミナー(フィールドスコープ)でツミやハイタカを見続けていたら、頭の大きいものと小さいものがいることが分かってきました。日本野鳥の会名古屋支部(現愛知県支部)の支部報(1984年9月号5ページ)に「飛翔中のツミ・ハイタカについて」と題して、今思えば恥ずかしいような文章を1ページにわたり書きました。後日、最終的にはこの「頭の大きさ」だけではツミとハイタカの識別はできないことが判明しましたが、この「(比例上の)頭部の大きさ」の違いがタカ類・ハヤブサ類の雌雄の識別に一般論として使えることが分かってきました。
(2)(比例上の)重心の高さ
この観点は私の先輩から教わったものです。とまっている時、同じ性であれば成鳥も幼鳥も体のシルエットは同じです(♂成鳥=♂幼鳥、♀成鳥=♀幼鳥)。♂の重心は♀の重心よりも比例上、高いところ(上のほう)にあります。上の画像でも♂の重心はたしかに♀の重心よりも比例上高いです。写真をじっくりと納得がいくまで長時間見て、実感してください。ただ、下から見上げた写真や撮影角度の異なる2枚を見比べる時は分かりにくいことが多いので、できる限り真横からとか正面から見たり撮影したりすることがよく、距離が近ければなおよいでしょう。
(3)色のコントラスト(成鳥のみ有効)
♂成鳥は背面や過眼線などの色が♀成鳥よりも濃い傾向があり、濃色部分と体下面などの白い部分のコントラストが♀成鳥よりもはっきりしていることが多いです。ただし、これは多くの場合たしかに当てはまりますが、一般的な傾向であってそれほどはっきりしない場合があります。私も、並んだ繁殖ペアの雌雄間で背面の色の違いがまったく区別できない事例がありました。雌雄間で逆転現象は少ないだろうと思いますが、念のため要注意です。この観点は成鳥のみに有効で、幼鳥の雌雄間ではこのコントラストは区別がつきません。
(4)重量感(体の重さの感覚)
枝移りする時によく見ていると、♀は♂よりも体重が重く感じられます。成鳥だけでなく幼鳥でもまったく同じです。このことは慣れないうちはよく分からないと思いますが、ある程度見慣れてくれば体の重さの違い・筋肉の重量の違いが感じられるようになります。
2 飛んでいる時
(1)(比例上の)頭の大きさ
精細な画像が撮れた場合、あるいは条件よく観察できた場合はとまっている時と同じく(比例上の)頭の大きさの違いで雌雄が分かります。上の2枚の画像は雌雄が典型的な見え方をした時のものです。じっくりと見ていただくと、♂は頭でっかち、♀は頭が小さいことが分かると思います。成鳥だけでなく幼鳥でも同じですので、多くの図鑑などで「幼鳥」としか書かれていない画像でも、よく見れば♂幼鳥か♀幼鳥か分かる場合があります。ただし画像のみで識別する時は一枚だけで判断すると誤るおそれがありますので数カットあるとより正確に判断できます。
(2)重量感(体の重さの感覚)
これもとまっている時と同じ観点が使えます。特に大きく羽ばたく時やハンティングの瞬間などでは♂は身のこなしが♀よりも軽やかで、俊敏で、小回りもきいて雌雄の体重の違いに気が付くことと思います。また♂は♀よりも華奢な印象をうけます。この観点は成鳥だけでなく幼鳥でも同じですので、条件よく観察できれば幼鳥の雌雄も分かります。
(3)色のコントラスト(成鳥のみ有効)
精細な画像が撮れた場合、あるいは条件よく観察できた場合はとまっている時と同じように、♂成鳥の背面や頭部の濃い部分と体下面などの白い部分のコントラストが♀成鳥よりもはっきりしていることが分かります。以下、1(3)と同じです。
3 遠くを飛んでいる時
(1)全体の大きさの比較
オオタカが出現した時にはカラス類、特にハシブトガラスがたくさん現れてまつわりつくことがよくあります。オオタカ♂(成鳥・幼鳥とも)はおおよそハシボソガラスくらいの大きさ、オオタカ♀(成鳥・幼鳥とも)はおおよそハシブトガラスくらいの大きさですので、種名の分かったカラスと一緒に飛んでいれば雌雄が推定できます。ただ、♂と同じくらい小さな♀がいますので、あくまで推定に留めておいた方がよいです。
単独に出現した個体の大きさだけから雌雄を判断することは無理があります。何らかの比べるものが近くにないと難しいです。
以上述べてきたように、オオタカの雌雄はかなり識別が可能です。これらの観点の他にも、飛翔時の翼のシルエットの違い、とまり時の微妙なシルエットの違いや下面の色合いなどにも違いがあるようですが、その時々の飛び方やとまり方、食料を食べた直後かどうかにも左右されますし、年齢差や個体差の幅もかなり広いので、文章に表すのは難しいです。また、オオタカには♂と同じくらい小さな♀がいますし(逆に♀くらい大きな♂がいるかは不明ですが、いるかもしれません)、大きさの他にも雌雄で色合いや横斑の特徴などさまざまな点が逆転あるいは異なっている可能性がありますので、細心の注意が必要です。
はじめにも書きましたが、雌雄の識別に自信がない時やあまりはっきり分からない時は、雌雄の決着を付けずに、ただ単に「成鳥」「幼鳥」とだけ記録することが大事です。私はどの鷹隼類でもいつも雌か雄か成鳥か幼鳥かを識別しようと努力はしますが、いつでも確実に正確に識別できるとは限らないので、「これは♂だ」「この個体は♀だ」と安易に判断することはできるだけ避けるようにしています。慣れている人でも慎重さが求められます。冒頭にも書きましたが一番よいのは繁殖期のペアをじっくり観察して♂か♀かを見る目を養うことです。慣れてくると♂は♀よりも体が軽そうで、飛んでいる時は軽やかで小気味よい飛行をし、ハンティングの時も♀より切れがよく俊敏に獲物に突っかかっていることが多いと分かってきます。
上記のいくつかの観点のうち多くの観点がオオタカ以外のタカ類・ハヤブサ類の雌雄識別に使うことができます。♂成鳥だけが♀成鳥・♀幼鳥・♂幼鳥と大きく異なる種がいるなど、種ごとに違いがさまざまですのでそれぞれの種にどの観点が飛び抜けて有用なのかはみな異なります。頭の大きさが異なるという観点は腐肉食の鷹隼類やノスリ類等では使いにくいことが多い一方で、チュウヒ類やハイタカ属など多くの属ではひじょうに有用です。また時間があったらこれらの属ごと種ごとに原稿を書こうと思いますが、基本的には「種が異なっても(程度の差があるものの)♂♀の違いにはかなり共通性がある」と言ってよいです。
(写真について)
以前、正面から撮られたあまりはっきりしない一枚の写真を見て「これは♀だろう」と思っていたところ、同じ時に撮られた別のコマが何枚かあることが分かり、メール添付で送っていただいた画像を検討した結果、「♂だろう」と推定したことがありました。一枚だけの写真から判断せずに、何枚かのできるだけ多くの異なる角度から撮られた画像で判断するとよいでしょう。双眼鏡やスコープを使い肉眼で観察をしていると、次から次へと何十枚もの画像を見ていることと同じになりますので、画像を見るよりも正確に判断できることがあります。
(Uploaded on 1 January 2019)
【参考】 鉛直(えんちょく、vertical)とは、重りを糸で吊り下げたときの糸が示す方向、すなわち重力の方向のことです。鉛直線(vertical line、plumb line)とはその方向の直線のことです。
2018年4月5日のことです。愛知県内のオオタカの巣の近くへ今年の繁殖のようすを見に行きました。巣のある方向からは♀の声と思われるキャッキャッキャッキャッという興奮声が聞こえてきます。時折ペアの交尾声も聞こえてきました。巣の近くに雌雄がいて、順調に繁殖活動が進んでいるであろうことが確認できましたので、営巣林から少し離れてのんびりと観察することにしました。
♀は林内から出てきませんでしたが、♂は活発に動きました。飛行中は数羽のハシブトガラスに何度もモビングされていました。巣から直線で150mほど離れたところに携帯電話会社の鉄塔がありますが、そこのてっぺんにとまっていることが多かったです。監視が主目的のようで、侵入個体と思われるオオタカ♂成鳥が現れた時は激しく突っかかっていき、巣から遠く離れたところまで追い出してテリトリーから排除してまた元の位置に戻ってきました。一度だけですが、鉄塔の脇を通りかかった1羽のドバト(あるいはレース鳩)を捕獲しようと猛然と飛び立ちましたが、失敗したようで数分後には元の位置へ戻って来ました。
その後このオオタカはやけに鉄塔の下の方を気にするようになりました。捕れそうな獲物が下の方にいてまさに飛び立つ瞬間までの「待ち」の時間なのか、あるいは獲物探索中なのか、逆に、カラス等の何かじゃまな鳥が来ているのか、あるいは他の動物が来ているのか、つまり排除したいものが下にいるのか……と思いながら、私は全神経を集中して見ていました。
すると、突然下の図のようにほぼ鉛直線状に急降下しました。もちろん翼は完全にすぼめてまさに紡錘形でした。ハヤブサに比べればオオタカは尾羽が長いので、ハヤブサの急降下を見慣れている私には頻繁には見かけないような「尾の長い紡錘形」でした。鉄塔の下の方は低い木の多い雑木林で枯れ木が何本かあり、樹木がまばらで透けているところもあります。他には鉄塔に電気を送るためだけにあるような背の低い電柱と電線、車がめったに通らない細いアスファルト道くらいしかありませんでした。急降下したオオタカはそのままでは地面に当たるのではないかと心配するほど低くまで降下して、最後、突然ふわっと浮かぶように少しだけ雑木林の上まで舞い上がって、すぐにまた鉄塔の接地面あたりへ速いスピードでゆるやかな角度で滑空するような感じで緩降下して消えました。その後、30分ぐらいしてからこの♂の姿を見ましたが、そのうが膨らんでいる状態ではありませんでした。
急降下時の画像はありません。これはいつもの私のジレンマなのですが、写真を撮っていると全体の動きや雰囲気がなかなかつかめず、飛翔を十分に堪能できません。写真を撮らないと急降下時やハンティング時の瞬間の飛行(背面飛行をしたか、翼をどのように使っているかなど)や体勢などが分からず、欠損などのさまざまな個体情報も得られません。じっくり肉眼で見たいし、しかも画像も欲しいのですが、一人で両方はとても無理です。アクロバティックな飛行でも瞬時の体勢変化でもピントが合った状態で撮影できるような撮影技術の優秀な助手がいて、いつも二人で観察し、わたしは双眼鏡であるいは肉眼のみで「見るだけ」、もう一人は「撮影するだけ」が理想なのですが……。さらに欲を言えば、遠くから近づく鷹隼類をいち早く、私よりも早くに見つけられる優秀な助手がいつも一緒だとさらによいのですが……。
さて、オオタカはなぜ急降下したのでしょうか。オオタカが降下した時に地上付近から飛び上がるような鳥はいませんでしたし、何の鳴き声も聞こえませんでした。カラスが下の方にいたようでもありませんでしたし、もちろん人もいませんでした。
「ハンティング」か「排除行動」くらいしか思い浮かびません。ハンティングに関しては、この♂が以前この近くでツグミやキジバトなどの小形~中形の鳥類を追いかけていたことがありますので、電柱か枯れ木の近くに何か捕らえやすそうな鳥類がいたかもしれません。排除に関しては、モズが近くで激しい警戒声をあげていましたので、オオタカはこのモズがじゃまになったのかもしれません。カラスの排除なら通常はカラスの激しい鳴き声が聞こえたり逃げる飛行が見られたりすることが多いので、少なくともカラスの排除ではないだろうと思っています。ハンティングの可能性が高いと思いますが、私には今も「不明な急降下」のままです。
(Uploaded on 1 June 2018)
(1) 先回のハヤブサと同じ方向への背面飛行
先回と先々回の記事(No.363~364)に書いたハヤブサの背面飛行とまったく同じ背面飛行を、こんどはオオタカがおこないました。少しピントが甘いですが、下の画像をごらんください。上がオオタカ成鳥で下が降下しながら逃げるハトです。
背面飛行の目的はハヤブサの記事で説明したものとまったく同じです。この画像の前後の画像は省略します。タカ目とハヤブサ目という分類上まったく違う2種ですが、オオタカもハヤブサも同じ目的で同じ背面飛行をすることがよく分かりました。流体力学から考えると必然的にこういう飛行になるのでしょう。
(2) 先回のハヤブサとは逆の方向への背面飛行
2018年1月のことです。愛知県内の農耕地でオオタカを観察していたら、ハンティング中に背面飛行をしました。まずは下の画像をごらんください。順番は右から左です。前回のハヤブサの背面飛行の時と同じで、右側から1枚目と2枚目の間にたしか2枚ほどの画像があったのですが、ピントが甘かったので削除してしまいました。今思えば、体の角度や左右それぞれの翼の開きぐあい、頭の角度、視線、尾羽の開きぐあいが分かるので捨てずに保存しておけばよかったと思っています。こういうわけで、番号2と3が抜けていますので、1のオオタカは実際はもう少し下の位置になるはずです。
このオオタカは飛んでいるハトに向かって急降下していきましたが、急降下の途中でハトにうまく交わされてしまいました。オオタカはすぐにヘアピンのような軌跡で瞬時に急上昇に転じました。ところが急上昇をすぐに止めて水平飛行に移りました。この急上昇から水平飛行に転じるところで上の写真のような背面飛行をしました。
こういうハンティング時やDF時の急降下・急上昇を見る時は、観察者がどの方向から見ているかも重要になります。一枚の垂直な平面上で飛行を行ったと仮定した場合、その平面に対して観察者が真横から見ているのか、斜め横から見ているのか、ほとんど正面から見ているのかによって、急降下・急上昇の対地角度や急降下と急上昇の間の角度が違って見えます。撮影をせずに肉眼で見ていれば観察者が見ているこれらの角度を自動的に頭の中で補正できますが、撮影しながらカメラのファインダー越しにオオタカを追って見ていると、こういう補正はけっこう難しいです。今回もファインダーをのぞきながらの撮影でしたので、どの程度の角度で急降下・急上昇していたのかは正確には分かりませんでしたが、急降下は地面に対しておおよそ45度以上、急上昇はほぼ垂直に近いくらいだったように感じました(違っているかもしれません)。
今回の(2)のオオタカの背面飛行は、(1)のオオタカや前回書いたハヤブサの背面飛行とは理由が違います。急上昇を取りやめて水平飛行に素早く移るために、上昇するエネルギーを少しでも早く水平方向への運動エネルギーに変えようとするための背面飛行です。最初の降下する時に得た運動エネルギーを高さを得るために位置エネルギーに変えながら運動エネルギーを減らしている途中で、それを止めて再び水平方向への運動エネルギーに効率よく変えるために行ったということです。
今回の(2)のオオタカの背面飛行はどんどん真上に上がっていくことに瞬時にブレーキをかけて素早く水平飛行に移行するために行ったものです。ですから、上記(1)のオオタカや先回の記事のハヤブサがより素早く少しでも速く急降下するために行ったこととはまったく正反対の目的で背面飛行を行ったことになります。
つまり、前回のハヤブサと今回の(1)のオオタカは降下時にアクセルを踏むために背面飛行を行い、今回の(2)のオオタカは上昇時にすばやく上方向へブレーキをかけ、水平方向へと舵を切るために背面飛行を行ったということで、アクセルかブレーキかというまさに目的は正反対でした。
(Uploaded on 1 March 2018)
2017年9月21日、愛知県内で少し変わったオオタカを見ました。特徴は下記のようです。
大きさ … かなり小さくて、ハイタカかと思うほどの大きさ。
雌雄 … 頭が大きく、雄らしく見える。
鷹斑 … 次列風切のいちばん外側から2本目・3本目・4本目の鷹斑が「- - - -」ではなく、「UUUU」のような形に見える。
朝早い内から出現して、私が観察していた地点の近くにある携帯電話会社のアンテナ鉄塔に3回とまりました。その都度あたりをキョロキョロと見渡して獲物を探し、比較的短時間で斜めに降下するように飛び立ちました。獲物は一度も持って帰りませんでした。最後に鉄塔を飛び立ってから約1時間ほどして帰って来た時に下の画像を撮りました。
写真からは大きさが分かりませんが、小さかったです。一般にタカ類の体の大きさは観察した時の距離や飛行のようすによってかなりあやふやなことがあって、大きいものが小さく見えたり小さなものが大きく見えたりするものですが、今回は、近くを飛んでいるところを見た後、鉄塔にとまって飛んで、2回目とまって飛んで、3回目とまって飛んで、さらに約1時間後に近くを飛んだ…という、そのすべてのシーンで殊の外小さく見えましたので、これ以上説明できませんが、確かに小さかったです。今思うと鉄塔にとまった時に、仮に小さな画像でも甘く写っていても証拠写真を撮影しておいて、アンテナの大きさや太さと比較すればよかったですが、ずっとプロミナーで見ていただけで、とまりの撮影は失念しました。
かなり前のことですが、雄ほどの大きさの小さな体の雌のオオタカを見たことがあります。2羽が並んだところを見ると大きさの違いがまったくないのですが、紛れもなく雌雄でした。江戸時代の鷹狩りにおいては雄のように小さな雌のオオタカを「合子(あいご)」と言っていました。数は少ないでしょうが、用語があるほどですからそれなりに存在しているのでしょう。合子は雄のように飛行がシャープで狩りが得意でありながら雌のように脚が太くて力もあるということで、殿様からずいぶん愛用されたと聞いています。こういう雄ほどの小さな雌オオタカがいるわけですから、雄の中にもうんと小さな雄オオタカがいてもおかしくはないように思います。
(Uploaded on 14 December 2017)
バーダー2017年12月号の第2特集は、「冬のタカ類見尽くしガイド」です。下の写真は12月号の表紙です。
BIRDER 2017年12月号 表紙
第2特集のタイトルは以下の3つです。
[第2特集] 冬のタカ類見尽くしガイド
・ 鳥との出会い方にはコツがある! [冬のワシタカ類見つけ方ガイド] 文・写真 中野泰敬
・ オオタカ希少種解除 なぜ祝えないのか? 文・写真 若杉 稔
・ 広大な土地を埋め尽くす [チュウヒを脅かすメガソーラー問題] 文・写真 多田英行
35~37ページの「オオタカ希少種解除 なぜ祝えないのか?」 は、下のようなレイアウトです。
なお、著作権は(株)文一総合出版にありますので、上の画像は解像度を低くして、画像を拡大しても文字は読めないようにしてあります。
筆者が今までに BIRDER 誌に書いた文章は、下記の通りです。今も購入できるバックナンバーがあります。
1 BIRDER 1999年11月号の P.66 「Net で GO! GO! GO!」 マーリン通信の紹介
2 BIRDER 2010年 2月号の PP.76-77 「拝啓、薮内正幸様 ♯26」
3 BIRDER 2012年 9月号特集の導入 PP.8-9 「ハヤブサとはどんな鳥か」
4 BIRDER 2012年12月号特集の導入 PP.6-7 「冬のタカ観察の魅力とは?」
5 BIRDER 2013年 9月号特集の中 PP.20-21 「ハイタカ属とはどんなタカたちか?」
6 BIRDER 2014年 9月号特集の導入 PP.4-5 「夏鳥としてのサシバとハチクマ 観察の魅力」
7 BIRDER 2014年 9月号特集の中 PP.24-25 「サシバの幼鳥は何をしに日本へ来るのか?」
8 BIRDER 2016年 2月号特集の導入 PP.18-19 「水辺のワシタカ類 その観察の魅力」
9 BIRDER 2017年 1月号特集の中 PP.30-31 「ハヤブサ類との付き合いかた ~保全の過去・現在・未来~」
10 BIRDER 2017年12月号第2特集の中 PP.35-37 「オオタカ希少種解除 なぜ祝えないのか?」
(Uploaded on 16 November 2017)
ここ数年間繁殖に成功しているオオタカの巣(たぶん私が気がつくもっと前から繁殖していたでしょう)を、今年は6月中旬に初めて見に行きました。ひじょうに見にくい位置に巣があって、しかも巣の周りの木の枝がじゃまです。ほぼ平らな林ですから、巣を見下ろすような地点もありません。繁殖の確認のためにヒナが大きくなる頃に毎年出かけていますが、見にくいこともあって求愛期や抱卵期などは見に行かないようにしています。
ほぼ一年ぶりに行ってみてびっくりしたのですが、去年までと巣の周りの状況が一変していました。巣から数10mの所に車が十分にすれ違える舗装道路があって、その向こう側に大型の建物が建設中です。道路は所々片側交互通行になっていて、交通誘導員が立っています。車両は道路にもたくさん駐車していて、コンクリートミキサー車や大型の作業車がたくさん出入りし、建設作業員の数も多いです。ガンガンガンガン、ダンダーン、ゴーッなどの濁点がつくような音が頻繁に聞こえてきます。
「去年までの静けさと比べるとぜんぜん様子が違うな…。これでは繁殖は無理だろうな…」、そう思いながら、歩いて巣の方へ向かいました。
例年ならヒナが大きくなっているはずです。数カ所の位置から巣を見上げましたが、親もヒナも見えません。親の声もヒナの声も聞こえてきません。気配もありません。
「そりゃそうだよねー。去年までと違いすぎるよねー」。でも、ひょっとして繁殖しているかも…と思って双眼鏡でじっくり見たり、いろんな方向から写真を20枚ほど撮りました。すると、青葉の付いた枝が1本だけ確認できました。葉はひどくしおれていました。でも枝の折れ目はちゃんと見えますので、オオタカが運んだものだろうと思いました。その後、しばらくじっとしていましたが、姿も声も何もありませんでしたので、結論は「今年は繁殖していない。そりゃこの環境では無理だよ」。
ところが、7月上旬に用事があってこの巣のある方面に行ったので、ついでに巣の様子を見てみました。すると、外れた(抜けたのではなく外れた)ばかりの真っ白な初毛が4枚ほど巣の周囲にくっついて風に揺れていました。そして、巣からわずかしか離れていない木の枝に幼鳥が1羽とまっていて、バシッと枝を折りながら、バサバサバサと音を立てて飛んで近くの広葉樹の枝にとまりました。
6月の「繁殖していない」という判断は誤っていました。やや繁殖が遅めに進行したようですが、私の思い込み、偏った思考、かなりのバイアスがかかっていたせいです。
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判断を誤った理由を探ってみます。
(1) 「去年までの静けさと比べるとぜんぜん様子が違うな…。これでは今年の繁殖は無理だろうな…」
→ 建設工事で周囲が騒々しいからといって、絶対繁殖しないわけはないのに、「これでは繁殖するはずがない」と勝手に思い込んでしまった。
(2) 「やっていないのならずっとここにいるのは時間のムダ。他の巣を回ろう」
→ この日は一日でいくつかの巣を回る予定だったので、効率よく回ろうと思ってしまいました。時間を短く切ってしまって、やや焦って結論を出してしまったようです。ヒナの姿、親の興奮声が確認できるような場合は短い時間で結論を出してもよいのですが、「繁殖していない」という結論を出すには、ちょっと時間が短すぎました。
(3) 「他のオオタカの巣でもけっこう繁殖失敗の巣が見られるから……」
→ よその巣での繁殖失敗とここの巣での繁殖にはほとんど関連はないですが、よその巣につられてしまった。
(4) 「青葉の付いた枝が1本だけ確認できました。葉はひどくしおれていました。でも枝の折れ目はちゃんと見えますので、オオタカが運んだものだろうと思いました……」
→ 今回、私にはこれが一番痛かったです。こんなプラスの情報を得ていながら、なぜ判断を誤ってしまったのか。繁殖初期に青葉のついた小枝を運んだけれども、その後、巣を放棄したのかもしれない…というかなり強い思い込みで、バイアスがかかってしまったようです。
オオタカだけに限らずどんな鳥でも、営巣しているのか、途中で失敗したのか、営巣していないのか…という判断は、短時間ではなかなか難しいです。「営巣している」ことは、ヒナの姿を見れば瞬時に100%正確な結論が出ます(ヒナの正確な数には注意が必要です)。巣を下から見る時も、巣の縁に♀の尾羽の先が少しでも見えれば抱卵中・抱雛中と判断できます。しかし、「繁殖していない」と判断するには、それなりの時間や証拠、あるいはビデオ撮影など、努力が必要です。「悪魔の証明」というほどのことではなく、単にこの巣の上で繁殖活動が行われているかいないかというだけのことなのですが、短時間ではこれはなかなか簡単ではないです。
オオタカの平地の巣、里山の巣、都市近郊の巣は、巣を下からあるいは斜め下から見上げないといけないところが山地の巣よりも多いように思いますので、よほど慎重に判断する必要があります。まったく影響のないところにビデオカメラを短時間でも設置すればよかったのですが…。
今回は、個人の趣味でこの巣を見に来ただけでしたからよかったのですが、どこかから依頼された調査や何らかの利害関係があるような場合は、よほど慎重に判断しないといけないな……と改めて自戒しました。
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思い込みやバイアスについて。
〇 私は「血液型性格診断」や「星占い」は95%信じていないです。5%分はのりしろというか判断に幅を持たせています。
〇 以前ぎっくり腰になった時に、体を動かしたほうがよいか安静にしていたほうがよいか迷ったことがあり、ネットで調べてみました。NHK「ガッテン!」の番組案内に、体を動かさないと治りが悪いと書いてありました。体を動かしたほうがよいという方向へ思考が少し傾きました。他のページにも安静にしすぎるとよくないとの記述が目立ちました。そうすると、「ぎっくり腰の時には体を動かしたほうがよい」 と書いてあるページばかりが表示されて、そういうページばかりを読むようになってしまいました。でも数日後、結果的には、すぐに体を動かすことはよくないことでした。ギクッ!ときてから2日ぐらい休養した後はある程度体を徐々にゆっくりと動かしたほうがよいようですが、ギクッときてから1~2日はやはり安静にしていないとよくないと痛感しました。最初期は無理な指圧やマッサージもあまりよくなかったです(これは私の経験ですので、治療法は各自の体に聞いてみてください)。ネットで調べることで、ついつい誤った方向へ思考がずれていってしまった例です。
〇 ある日、私の母が庭で梅干しを漬けていました。今にも雨が降りそうな空模様だったので、「軒下で作業したら…」と言いました。念のため国土交通省の高解像度降水ナウキャストで5分ごとの雨雲推移も調べましたが、やはり降りそうです。「やっぱり片付けたほうがいいよ…」。「分かったよ」。でも、母はそのまま作業を続行。そこへ突然大粒の雨。私は何も言わずに片付けを手伝いましたが、母は、「あの時言うことを聞いておけばよかった…」と。すぐには降ってこないだろうと思ったのか、今日は雨は降らないと思ったのか、降っても小降りの内に片付ければいいやと思ったのか、広いところで作業がしたかったのか、早めに終わらせたかったのか……。
(Uploaded on 15 July 2017)
(分かりやすくするために、2017年6月17日に一部修正しました)
「マーリン通信」2016.2.21付けの記事No.312 「やっぱりおかしい タカ類の第〇回冬羽」を先に読んでいただけると話がスムーズです。
平成20年3月31日に環境省自然環境局野生生物課から 『オオタカ識別マニュアル』 が出ています。これは亜種オオタカと亜種チョウセンオオタカの識別に重点を置いた記述がしてあります。そして、平成27年12月31日にその改訂版『オオタカ識別マニュアル 改訂版 -オオタカの日本固有亜種とヨーロッパ産亜種との識別-』が出され、副題のような内容が追記される形で亜種オオタカと亜種チョウセンオオタカと亜種ヨーロッパオオタカの識別が記述されています。
『オオタカ識別マニュアル』は下のアドレスからダウンロードできます。配布先は環境省です。
『オオタカ識別マニュアル 改訂版』も下のアドレスからダウンロードできます。
改訂版ではハンガリー産の亜種ヨーロッパオオタカについて詳しく比較されています。近年輸入が増加していると言われるアイルランド産亜種と同じ亜種です。
さて、今回ここで述べることは、マニュアルの細かな内容や亜種の特徴についてではなく、文中で使われている「第1回冬羽」などの用語の使い方についてです。
A 現在 広く用いられている「第1回冬」の使い方
記事No.312「やっぱりおかしい タカ類の第〇回冬羽」に書いたように、「第1回冬」は英語の first winter の訳語で、その個体が生後初めて迎える冬という意味です。春に生まれたオオタカが幼羽のまま最初に迎える冬という意味で、これは羽衣ではなく「季節」を表す用語です。
B 最近の図鑑で誤用されている「第1回冬羽」は なぜおかしいか
「第1回冬羽」は、小鳥類やシギ・チドリ類のような夏羽・冬羽という差・違いがあることを考えながら、初めて迎える冬までに獲得する冬羽、最初の冬羽、第1回目の冬羽という意味ですが、オオタカなどのタカ類には「夏羽」とか「冬羽」というものがないですので、この使い方はおかしいです。「夏羽」と「冬羽」の違いがないのになぜ「冬羽」という言葉を使う必要があるのかよく分かりません。
「第2回冬」にはわずかながら幼羽が残るとか、茶色味が多く見られるということはありますので、そのことを伝えたいために「第2回冬羽」という言葉を使うのなら、(少しだけですが)理解ができます。
また、『この図鑑では「第2回冬羽」=「第2回冬に見られる羽」という意味で使っています』……というようなことわりがあれば、少し理解できます。
C この識別マニュアルで使われている「第1回冬羽」 とは
このマニュアル改訂版の7ページに「第1回冬羽」についての説明があります。上記の「第1回冬」を過ぎ、生後1年の頃の「第1回夏」に行う全身換羽がほぼ終了する頃に獲得する羽衣をこのマニュアルでは「第1回冬羽」と呼んでいます。季節で表すと、「第2回冬」の頃の羽毛を「第1回冬羽」と言っています。
上のBで書いたように第2回冬になって初めて、幼羽ではない、しかし完全な成羽でもないいわゆる「若鳥」という時期を迎えますので、そのために「第1回目の冬羽」という意味で使われていますが、すでにBのような意味で多くの有名な図鑑で使われていますので、かなりまぎらわしいです。
D まとめ
ごく大ざっぱな言い方ですが、小~中形のタカ類は夏の頃に、ほぼ全身の換羽をします。下雨覆や脇などのごく一部に旧羽が残ることはあります。大形のタカ類、つまりワシ類や大きいタカ類は一年では換羽が終了せず、冬の間の休止期間を挟んで、次の春・夏・秋頃にその続きの換羽をします。ですから、夏はこのような羽毛、冬はこのような羽毛と言うことはできません。
あえて夏と冬の違いを無理やりに探すと、たとえばサシバのように、秋から冬にかけて胸の羽毛が一部摩耗して、胸が少し黒っぽく見えることはありますが、これは夏羽とか冬羽とかいうほどのものではありません。タカ類には夏羽とか冬羽とかの概念はないのですので、「冬羽」という用語を使うことは無理があります。しかも、誤用ではありますが、いくつかの図鑑ですでに使われている「第1回冬羽」を、「第1回冬の羽」ではなく、「第1回の冬羽」=「初めての冬羽」=「第2回冬の羽毛」として使われていますから、数字が1つ違ってきてしまい、ますます混乱させるだけです。
まとめます。
(1) 「第1回冬」= 幼鳥が迎える初めての冬(季節を表す言葉)
(2) 「第1回冬羽」=「第1回冬の羽」=「第1回冬」という季節に見られる「羽」
(3) 「第1回冬羽」=「第1回の冬羽」=「第1回」(最初)の「冬羽」=(このマニュアルでは)「第2回冬」という季節に見られる「羽」
いろいろな図鑑やマニュアルで、上の3つが混乱して使われています。そして、(2)と(3)はともに「第1回冬羽」ですが、意味するところには1年間の違いがあります。
私の提案は、「満1歳」(必要なら「満1歳秋」)、「生後半年ほど」等のみを使用し、「第〇回」を使う場合は「第1回冬」などのような季節を表す時だけにしましょう。タカ類には「夏羽・冬羽」は使わないようにしましょう……というものです。
「第〇回冬」や「第〇回冬羽」などが学術用語かどうかは分かりませんが、これから鳥学を学ばれる若い人たちが用語の使い方で混乱しないように、そして正確に用語・術語を使う習慣ができるようにと願うばかりです。
(Uploaded on 15 June 2017。分かりやすくするために一部修正 17 June 2017)
2017年3月初旬の午後、鷹隼類の観察とは関係ない用事があって、愛知県内のある展望タワーにのぼりました。エレベーターで地上55mの高さにある展望台に着いてほんの3分ほどしたころ、全くの予想外でしたが眼下にカラスに追われながら飛ぶオオタカが現れました。50mも離れていると、まさに足下で飛んでいるようで、何か不思議な感じがしました。かなり強い北西風が吹きつける日で、伊吹山方面から流れてきたと思われる雪が時々激しく舞っていました。オオタカは翼をややたたみ気味に飛んでいたのでシルエットが分かりにくかったですが、一緒に飛んでいたハシボソガラスとほぼ同じくらいの大きさで、背面にやや青みがあり、下面は白っぽかったです。
駐車場の上を隣の民家の屋根よりわずかに高い高度で飛んで、すぐに駐車場脇の竹やぶに入りました。竹やぶといっても雑木林の一部に竹がたくさん生えてきたような所です。私は、「せっかく出現したけどすぐに林の中に入ってしまった。残念!」と思いながらも、林内のどこかの枯れ木にとまっていないか、強風で竹が揺れた時にちらっと見える枯れ木の先にとまるオオタカが見られないかなどと思ってじっと見つめていたら、すぐに入ったところとは反対側の90mほど北の林縁部から舗装道路上へすっと出てきました。樹木がかなり込みいって茂っているように見受けられる雑木林ですが、オオタカはどこを飛んだのでしょう。
出てきたオオタカはその後も強風の中を時々風にあおられながら飛びました。目線をそらさずずっと続けて追いかけていたら、多少くねくねとしながらも300mほど飛んで、こんどは神社の杉林の西端にすーっと吸い込まれるように入りました。「あー、また林に入っちゃった。うーん残念!」と思って見ていたら、すぐに80m以上向こうの境内の神殿前のスペースからすっと舞い上がりました。そして境内の上空を低く旋回しながら飛んで、神殿の向こう側に消えました。
オオタカが樹間をすいすいと飛んでいるところは山道を歩いていると時々見られますし、山の見晴らしのよい崖などで眼下に見つけたオオタカを双眼鏡で追いかけることもありますが、林内に入ったり出たりするところをこうして750メートルという長さにわたってほぼ真上から俯瞰するように見るということは今までなかったので、私にはかなり新鮮でした。「あの雑木林、竹やぶの中をきっとこのように飛んだはず。あの杉林の中をこう飛んだだろう」と頭に思い描くだけでうれしかったです。実際にどう飛んだのかは分かりませんが、林内に入ってから出てくるまでの「時間」と「距離」を考えると、だいたい飛び方が想像できます。
このオオタカの飛行のようすは、ビデオカメラなら何とか表現できるかもしれませんが、スチルカメラではどうしようもない状況でした。この時はカメラも双眼鏡を持たずに展望台に上がりましたが、肉眼だけで十分に楽しめました。
(Uploaded on 23 April 2017)
オオタカは狩りの方法をいくつか持っています。獲物との間の遮蔽物をうまく利用して獲物に近づいて不意打ちしたり、樹林等にじっと隠れていて近づいてきた鳥を急襲したり、樹頂や枝、鉄塔の高いところからハヤブサのように急降下したり、あるいは水に潜る水鳥相手には水面上でホバリングしながら小刻みに飛んで足を伸ばしたり… というように、その時の状況に応じてさまざまな方法を使い分けています。
2016年1月のことです。水路に並行して長く続く工場の樹林帯の上をハシブトガラス2羽が大きな警戒声を出しながらぐるぐると回ったり、短い急降下を繰り返したりしながら、変な飛び方をしていました。明らかにその樹林帯に猛禽類がいるような飛び方です。このような時にここで一番可能性が高い鷹隼類はオオタカです。双眼鏡でその近くの木の枝をチェックしましたが、見つかりませんでした。あまり私が歩いて動き回ると逃げていってしまうだろうと思って、しばらく待つことにしました。この時、水路にはホシハジロ10数羽とオオバンが数羽、少し離れたところにコガモが30数羽いました。
いつハンティングが始まっても対応できるように緊張感を持ってその瞬間を30分ほど待っていましたが、まったく動きがありませんでした。たまたま所用があったので、残念だけどそろそろ帰らなければ… と思い、近くに停めておいた車まで歩いて行きました。トランクに機材を片付けて車に乗り込みましたが、運転席に座った私にはまだ未練がありました。すぐには発車せず、車の中から樹林帯の方向をしばらく見ることにしました。
すると、2分くらい経った頃、樹林の一番上あたりからオオタカ♀成鳥が水路上の水鳥をめがけ一直線に、まるで弓から放たれた矢のように突っ込んでいきました。私から見ると降下する角度は45度くらいでした。カモやオオバンは一斉に飛び立ったり水に潜ったりしましたが、オオタカは水路上でホシハジロをいとも簡単に捕獲しました。一瞬の早業でした。
さて、オオタカがホシハジロを捕らえた少し後に、たまたま近くに犬を連れた老人が散歩に来て、オオタカにはまったく気がつかないまま、散歩道の上で犬のリードを外しました。犬は水路の方へ駆け下りていき、オオタカに近づきました。オオタカは獲物を持ったまま一回、二回と小刻みに犬と反対方向へ移動しましたが、獲物が重すぎたようで、あきらめて足を離してそのまま何も持たずに飛び立ちました。残されたホシハジロはすぐにすっくと起き上がり、歩いて水に入り、すいすいと泳いで、何事もなかったような表情で仲間のいる方へと移動していきました。オオタカに押さえられた時にはくちばしの付け根や肩の辺りから血が出ていましたが、致命的なケガではなかったようです。
おじいさんに対して、犬に対して、食物を失ったオオタカに対して、そして生き延びたホシハジロに対して、私はいろいろな意味でかなり複雑な心境でした。マーリン通信の3月1日付け記事NO.338の「ハイタカ 地上30cmをぶっちぎりで190m飛ぶ!」で書いたことと同じ話になってしまいますが、「好事魔多し」のことわざどおり、こういう時に限ってほんとうに運悪く人が来てしまい、邪魔されることがしばしばあります。
その時思ったことですが、私が樹林帯の脇に立っていたのでオオタカは狩りをしたくてうずうずしながら、しかし実行できず樹の上でじっと待っていたのでしょう。私が車に乗り込んでドアを閉めた後ほんの短い時間のできごとでしたので、オオタカは私が立ち去ったのを確認してから狩りをしたのだと思われます。
過去には、動いた私にカモ類が気をとられてカモ類がオオタカに対する警戒を緩めてしまった瞬間にオオタカが狩りをするということを経験しましたが、この日は私が歩いて移動し終わってからでしたので、これは当てはまらないようです。繰り返しになりますが、今回はどう考えても、私が立ち去ったのを確認してからオオタカが狩りを始めたとしか思えませんでした。
(Uploaded on 2 April 2017)
皆さんもきっと経験されたことのある話だと思います。
よくあること(その1)
2017年3月初旬、まだ暗い日の出前から愛知県内の雑木林へオオタカを見に行きました。近くに毎年営巣している林があって、最近はペアと思われる♂と♀の2羽がずっと確認できています。3月になったので、今までにも増して、あまり刺激しないように、観察圧をかけないようにということを考えながら、巣からかなり離れたところで樹木やススキの陰に隠れながら観察をしました。
観察中、高い鉄塔のほぼてっぺん付近にとまっていた♀成鳥が翼を半分以上たたんだ姿勢で、水平距離で約320メートルほど急降下して地上付近の鳥を捕ろうとしたり、近くの山のこちら側斜面でキジバトを追いかけたりしていましたので、あまり圧はかかっていなかったはずです。
比較的長い時間見ていたので、「そろそろ今日はこれで終わりにしようか…」と思い、椅子などの機材を持って150メートルほど離れた車に戻りました。トランクにレンズやダウンジャケットなどを入れ、ふと後ろを振り返って、それまでいた地点の方向を見ました。すると、私がずっと立っていた地点の真上10 メートルほどをオオタカの成鳥(若鳥?)が2羽で連れ添ってあまり間隔を空けずに相前後して飛びました。キャッキャッ…という激しい声が聞こえてきました。一瞬しか見られず、やや距離があったので、この2羽がここのペアなのか、侵入個体の排斥行動なのか、あるいは2年前に生まれた若鳥(下雨覆等の一部に幼羽が残っている個体)の追い出し行動なのかは分かりませんでした。
朝からずっとそこにいたのに近くはまったく飛ばず、地点を離れた直後にその真上近くに出現するということは、今までに何度も経験してきました。昔は、「あ~ぁ、もう10分間いればよかったなー」とか「あと10分間の我慢ができなかったのかなぁ」などと思ったこともありましたが、でも、もしもプラス10分間そこにいたとしても、私がその地点にいる限りはオオタカはその上空を飛ばなかったことでしょう。私が地点を去ったからオオタカがそこを飛んだと思います。
繁殖活動に影響を及ぼすような観察圧はかかっていなかったのですが、でも、私が近くで観察していたことで、やはりそれなりの圧はかかっていただろうと思われます。
よくあること(その2)
何人かでタカの渡りを見ていると、「今日は〇時までに家へ帰らないといけないので、お先に失礼します。ありがとうございました」と言って先に帰られる人がいます。そして、「私が帰ると何か珍しいものがきっと出ますよ」と付け加えられます。すると、けっこうその予言は当たって、その後珍しいタカが飛んだり、今までにないほど近くにタカが出現したりすることがあります。
渡りで長い距離を移動中のタカにとっては、何人かの観察者のうちの誰か一人が動いたからといってもあまり関係がないと思います。逆に、長い時間ずっと観察していれば、そのうち何か違った動きが出てくるのは当たり前でしょう。
でも、繁殖期のタカや、山の中で少人数で観察している時は、上の(その1)で書いたようなことがやはり起こります。二人で観察していて一人が帰ったあと、もう一人は草の陰あるいはブラインドに隠れたままでいると、かなり近くをスーッとタカが飛ぶことがあります。これも何度か経験しました。
(Uploaded on 25 March 2017)
下の写真はふ化後28日目ごろ(推定)のオオタカのヒナです。頭頂部や後頭部、首などに白い「綿羽のような羽毛」が見えています。その羽毛は今にも風に飛ばされてしまいそうですが、でも、落ちずに褐色の幼羽にくっついています。皮膚から抜けたように見えるこの羽毛はなぜすぐに飛んでいかないのでしょうか。風が強ければ飛んでいくのでしょうか。また、この白い羽毛と褐色の幼羽はどんな関係にあるのでしょう。
褐色の幼羽は「綿羽のような羽毛」と「綿羽のような羽毛」の間だけから生えてくるのではなく、一部の「綿羽のような羽毛」を押し出しながら伸びてきます。幼羽が伸びてこない「綿羽のような羽毛」(初綿羽とか幼綿羽)もあります。幼羽が伸びてくる「綿羽のような羽毛」は「初毛」と呼ばれていますが、初毛が幼羽の先端にしっかりとくっついたままの状態で、幼羽が伸長してきます。初毛と幼羽は下の模式図のようなつくりになっています。初毛と幼羽は、もともとくっついている一枚の羽毛です。図は、山階芳麿著『日本の鳥類と其生態』第一巻の28ページにあるゴイサギの図を参考に描きました。
「初毛」はヒナがふ化した時からほぼ全身に生えています。日本産のタカ類・ハヤブサ類のヒナの初毛は、淡褐色から白色のものが多く、この白さゆえに鷹隼類のヒナは「かわいらしく」感じられます(かわいいというのは私の主観です)。褐色の正羽(幼羽)が少しずつ伸びるにしたがって初毛は皮膚の外へ外へと追いやられて、幼羽がかなり伸びた後も、幼羽の先っぽにくっついたままになっています。時間とともに初毛はやがては取れて風に飛ばされ、巣材や近くの幹や枝にくっついたり遠くへと飛んでいったりしますが、それまでの間は幼羽にくっついたままです。ですから、褐色の幼羽が十分に伸びきったヒナや巣立ちビナの幼羽の先端に初毛を見ることがあります。たとえば、下の写真は巣立ち間もない日にM.Mさんが撮影されたオオタカですが、この時期になってもまだ3枚の尾羽の先端には初毛の一部がくっついたまま残っています。写真には尾羽にしか矢印を付けていませんが、肩や雨覆、風切の先端にも初毛が残っています。
(Uploaded on 1 August 2016)
今日のテーマは、タカ類の「ストレス羽繕い」です。きっと、「ストレス羽繕い」なんて言葉は聞いたことがないとおっしゃる方ばかりだろうと思います。
かなり昔の体験です。私の自宅から車で30分ほどの山でサシバを見ました。カーブの続く山道を歩いていて、あるカーブを曲がったところで、木の梢にサシバがとまっていました。急に視界に入ってきたので、私はびっくりしました。たぶん、サシバもびっくりしただろうと思います。ところがそのサシバは飛び立たずに、おもむろに羽繕いを始めました。当時コダクローム64というポジフィルムを使っていた私は、36枚撮りほぼ1本を使い果たしました。今ならデジタル画像500枚くらい連写したことに相当するかもしれません。当時の私の認識は、「逃げないタカ、警戒心の弱いタカもいるものだ」というだけのものでした。
同じようなことを、次はオオタカで経験しました。繁殖期でヒナや雌のための食料運びで疲れきっている時期のオオタカ♂成鳥でした。ほとんど前述のサシバと同じような状況で突然遭遇し、そしてこのオオタカもサシバと同じように羽繕いを始めました。この時も、「逃げないオオタカもいるんだな」と思っただけでした。
ところがある日、Aさんとこの件で話をしていたら、彼はこの行動を「強制羽繕い」と表現しました。タカが、逃げよう、飛び立とうと思っても、飛び立つ機会を逸してしまい、どうしても飛び立てないような状況になってしまうことが時にあります。突然の人の出現でびっくりしたり、カメラやレンズ、双眼鏡、スコープなどの光り物で大きな重圧がかかったりした時に、その圧を自らほぐすために、自分自身をリラックスさせるために羽繕いを始める…というような行動です。すごく納得がいきました。
たとえ話で、ちょっと意味合いが違うのですが、人間でも、訪問先をそろそろおいとましようか、話を終わろうかと思っても、タイミングがつかめないために、なんとなく帰れなくなってしまい、ついつい長居してしまうとか、長話をしてしまうということがあります。なんでもタイミングがずれるとうまくいかないものです。
私は、以後この行動を勝手に「ストレス羽繕い」と呼んでいます。学術用語ではありませんが、用語にしてもよいと思っています。タカは、「今飛び立つと自分がやられる」と思って、じっとしているのかもしれません。自分にかかるストレスをはねのけて自らをリラックスさせるために、筋肉の緊張をほぐして、体中の羽毛をゆったりとさせる……。なんとなく切ないような気の毒に思えてしまうような行動です。ストレスがかかった時に行う羽繕いですので、「ストレス羽繕い」という言葉にしました。私の経験からはオオタカに多いような気がしますが、オオタカ以外のタカでもじっくりと観察をすれば意外とよく見られる行動かもしれません。繁殖活動で忙しいタカ類にこんな苦労をかけないようにしなくては…と思います。
上記のような観察圧がかかってやむなく「ストレス羽繕い」をしているのか、それとも、ゆったりとリラックスして気分よく羽繕いしているのかを見極める必要があります。一口で同じように「羽繕い」と言っても、まったく正反対の気分でやっているわけですから、両者を見分けることが必要です。
(Uploaded on 19 May 2016)
(2015年)9月22日の読売新聞が次のように報じています。
「種の保存法で希少種に指定され、営巣地を保護するなどの配慮が義務付けられているオオタカについて、環境省は、来春にも指定を解除する方針を固めた。各地の保護の取り組みが奏功し、生息数が回復したと判断した。乱開発に歯止めをかける「自然保護のシンボル」とされてきたオオタカの指定解除には反発も予想され、同省は引き続き生息数調査などの保護策を講じる。…(以下、省略)」
名古屋市近郊は、次のような状況になっています。
(1) オオタカが営巣できるほどに樹木が生長した
私は名古屋市近郊の住宅地に住んでいます。小さなころから近くの雑木林で遊んでいました。保育園児のころまでの記憶はあまり正確ではないですが、中学生のころからの記憶は鮮明で、かなり正確に覚えています。中学生のころ、近くのそこかしこに禿げ山が見られました。赤土がむき出しになっているところが多く、そこにクロマツやカシの木がひょろひょろと立っていました。それから50年近く経って、あの禿げ山が今では高木や中低木がうっそうと茂るような林になっています。50年間で、見違えるように樹木が生長しました。その中にはオオタカが営巣できるような大きな樹木もあります。戦後の荒廃した山々が、やっとこういう林に変わって、オオタカが営巣できるような林になってきました。
(2) 人が山に入らなくなった
昔は、私の家でも薪や落ち葉を拾いにリヤカーを引いて近くの山に入っていました。お風呂はそれらを焚いて沸かしていました。今はどこの家でもガス給湯あるいは電気給湯ですので、誰一人として薪拾いはしません。もちろん下草を刈るとか、アカマツの根元にマツタケが出るなどということはまったくなくなりました。人が入らなければ、山は静かです。昔と比べると、オオタカの繁殖を妨害する要素が一つなくなりました。
(3) 落ち穂拾いをする人がいなくなった
ほとんどの農家が稲を自脱型の乗用コンバインで刈り取っています。一人だけで機械を購入できない時は共同で買ったり、農協に作業を依頼したり、他の人に収穫作業をやってもらったりしながら、どこも大きな機械で稲刈りをしています。稲刈りの後は、昔はよく落ち穂拾いを熱心にしたもので、落ち穂拾いと麦踏みだけは保育園に入る前の記憶が鮮明に残っています。しかし、今はほとんど誰もしません。その落ち穂を目当てに、私の家の近くの田んぼには、ドバトやムクドリがたくさん集まっています。正確な数は分かりませんが、昔よりも多いような印象を持っています。これらはオオタカにとってはよい食料です。食料が増えたかどうかはっきりとは分かりませんが、オオタカの食料は豊富にあります。
この3つだけが理由ではないでしょうが、私の自宅近くの平地では、営巣期にはまったく見られなかったオオタカが見られるようになり、ある意味で、「オオタカが増えた」とも言えます。でも実際は、「昔オオタカが見られなかったような平地でオオタカが繁殖するようになったところがある」という程度のことです。あくまでも関東地方や東海地方などの一部地域だけのことであって、必ずしも全国の山間部から平野部までいたる所で繁殖数が増えているということではありません。北陸地方や西日本では、オオタカはまだまだ少ない鳥です。環境省が「各地の保護の取り組みが奏功し、生息数が回復したと判断した…」と読売新聞は報じていますが、そのような理由でオオタカが(一部地域で)増え始めたわけではないようです。もし、ここで言う「保護の取り組み」が環境省の希少種指定のことであるならば、指定を解除すれば数がすぐに減ってしまうということになります。
一方で、山間部でオオタカが増えているかというと、必ずしもそうは言えないようです。長い間鳥を見ていますが、山間部の鳥は明らかに数が減っています。夏鳥のさえずりが激減したとか、冬場、大きな群れが稀にしか見られなくなったとか、山に入っても鳥に出会うことが極端に少なくなった、つまり鳥の数が減ったということです。オオタカの食料になるような鳥は山の中では明らかに減少しています。
さらに大きいのは、マツ枯れの増加です。愛知県の山にはほとんどアカマツが見られなくなりました。まったくないわけではないのですが、ほぼなくなってしまったと言ってもよいほどにまで減っています。山のいたる所で見られる枯れ木はほとんどがマツ枯れかナラ枯れによるものです。アカマツは枝の張り方がオオタカが巣を構えるには好都合になっていますから、アカマツがなくなることは、オオタカにはかなり大きな痛手です。アカマツの代わりに杉の木や広葉樹に巣を架けています。
こんな状況の中での、「オオタカ希少種解除」です。都市近郊のオオタカが一時的に一部の地域のみで増えたからといって、全国的な動きではありません。ましてや、山のオオタカの状況は悲惨なものです。一部地域で数が増えたからといって、今後も全国で増えていく保証はありませんし、今の数が維持できていくかどうかも疑問です。一時的なことですから、すぐにまた減少に転じてしまうことも十分あり得ます。
私は、いつもツリスガラのことを思い出します。オオタカとツリスガラは状況がまったく別で、比べられないのですが、かつてまったく見ることのできなかったツリスガラが西日本で頻繁に見られるようになり、徐々に生息域が東進し、1990年代は愛知県でも冬場のアシ原ではごく普通に見られるようになりました。でも、数年後には、いつの間にか姿が見られなくなり、今、愛知県ではいくら探してもまず見られなくなっています。
オオタカはごく一部の人たちにとってすごくじゃまな存在で、目の上のたんこぶかもしれません。しかし、オオタカは人類の共有財産でもあります。環境省のレッドリストには何ら法的拘束力はありませんが、種の保存法で希少種指定されているということは保護には大きな力になります。「環境省が保護策を講じる…」と新聞には書いてありますが、一番良い保護策は、今のまま「種の保存法の希少種」に指定しておくことと思います。
(このオオタカフォルダの下の方の文章「オオタカは やはり希少です」も、お読みください)
(Uploaded on 7 October 2015)
2013年9月、名古屋市の名城大学で開催された日本鳥学会の大会で、帯広畜産大学の平井克亥さんが興味深いポスター発表をされました。あるオオタカの3年使った巣が1年おいた後、ノスリに使われるようになったとか、あるいはハイタカが5年間使った巣が翌年オオタカに使われたというような研究です。ここに平井さんの研究成果をことわりもなく書くことはできませんので、詳しいことは当日の発表要項や資料を見ていただければと思います。かなりおもしろい発表でした。
さて、出版されている報告書やレポート・文献・資料等を見ていると、タカ類・ハヤブサ類が巣の位置を年によって変えているという報告が数多くあります。ある図鑑の巻末の解説には、「オオタカは森にいくつかの巣を持ち、年によって、そのうちのどれか1つを選び、そこで営巣する」 と書いてあります。オオタカが今までまったく営巣したことのない林に初めて新たな巣をかける時に、何本かの樹木に初めから複数個の巣をかけるのでしょうか? 初めから意図的に複数個の巣をわざわざ造るのでしょうか? このことについて私は、「ある営巣林内で営巣し始めてから何年か経過する内に、だんだんといくつかの巣を持つようになった」と考えています。
他種のタカとの力関係がありますので一概には言えませんが、本来、タカは森の中のいくつかの谷の中で一番良い谷を選んで、その谷の中の一番都合の良い樹木を選んで巣を架けるのではないかと思われます。どの谷のどんな木でもよいということはないはずです。ただ、私から見ると(人間から見ると)、なぜこんな場所に巣を造ったのかと思うことが今まで多々ありました。オオタカの例ですが、たとえば舗装道路から丸見えの巣だとか、舗装道路のアスファルト脇でアスファルトに接して生育したヒノキに架けた巣とか、人通りの多い神社の参道脇のスギに架けたのですぐに人に見つかってしまいそうな巣とか、けもの道の上に立っている半分折れたアカマツに架けた巣とか、いろいろ見てきました。でも、タカはおそらく自信を持ってその1本の木を選んでいるのではないかと想像しています。長い進化の過程でそういう能力を持ちあわせることになったはずだろうと思います(推測)。
翌年、違う木に新たな巣を造る、あるいは他の木にある別の巣に産卵するのは、何らかの理由があるはずです。
(1) 例えば、前年に人に巣をのぞかれた記憶があったからということが考えられます。人の刺激に敏感に反応するタカや、逆に反応が緩いタカがいます。また、ちょっとしたことで巣を放棄してしまうタカや、多少のことではめったに放棄しないタカがいます。その年はがまんしたけれども、翌年はまったくよそへ移ってしまったというタカもいます。タカの種類による違いもありますし、その個体の特性による場合もあるでしょう。断定はできませんが、ただ写真を撮るためだけが目的のカメラマンの悪影響はかなり大きく、ケースも多いだろうと考えられます。たまたま山菜採りに入った人とか、自然歩道を歩いていた人が道を間違えて巣の近くに来てしまったとか、そういう場合は巣の近くに留まる時間が短く、人とタカと目線が合うことがあまりないので、ほとんど影響はないと思われます。しかし、巣の写真やヒナの写真、食料を与えている写真を撮ろうとすると、どうしても長い時間はかかりますし、タカはカメラマンを激しく警戒しますし、熱心なカメラマンほどその視線がタカに注がれて、人とタカの目線が合うことも多くなってしまいます。タカにとっては最悪の状況ですが、でも、これが危険なことだということに気がつかないカメラマンがけっこう多いようです。あなたがある年に観察・撮影したタカの巣は、その翌年もまったく同じように使われましたか? 「100m離れたところだけど、ちゃんと営巣したよ」 とか、「隣の谷に移ったけれども、ちゃんと営巣はしたよ」 ということはどうなのでしょうか。もし同じ木に営巣しなかったら、その原因はなにでしょうか? 一つの目安として、「私が観察したタカが、翌年も同じ樹木で営巣したかどうか」 ということが、うまく観察できたかどうかの一種のリトマス紙のようなものとして使えます。
(2) カメラマンの影響の他に、他種のタカやカラスにヒナや卵をとられてしまったとか、ヘビに卵を飲まれた、哺乳動物に卵やヒナがやられてしまったなど、嫌な記憶があったから翌年はすぐ近くではあるけれども違う木に巣を造ったということがあるかもしれません。そうすると、同じ林内でも近くに複数個の巣を持つことになります。
(3) 一年近く放置されていた巣に、ある種の虫が大量に発生していたとか、キノコ類がたくさん繁殖していたとか、あるいは細菌が繁殖していたとか、そういう何かがあったかもしれません。
(4) 繁殖時期が早いフクロウに先に巣を使われてしまったということも考えられます。力が強い他のタカ、あるいは強引な性格のタカに巣をとられた、営巣時期が早く始まる別のタカやフクロウに早いうちに巣を使われてしまったということです。そのような時は別のところに造り直すしかありません。
(5) 上記の他にも、さまざまな要因が考えられます。
何も変わった事件がなく、無事にヒナを巣立ちさせることができたなら、そして、春先に営巣地に戻ってきて、巣に大きな変化がなければ、今までと同じ巣をずっと使うのではないかと思います。何かがあったために違う木に巣を造って、また何年か後には何かがあってまた違う木に巣を造り、でもまた何かがあったから以前営巣したことのある木に再び営巣したとか、そういういろいろなことがあって、結果的に今現在、ある森に一つがいのタカの巣が複数個存在していることになっているのではないかと考えられます。
補修や増築で年々、巣はだんだんと大きく重くなっていきます。風の抵抗も大きくなり、営巣木が倒れたり、巣が壊れたり、落ちたりしやすくなるということがあります。そうすると、当然新たに造り直すか、他のタカやカラスなどの巣を拝借したり、乗っ取ったりすることになります。
(Uploaded on 12 June 2014)
日本のタカ類・ハヤブサ類34種の中で、それぞれの種ごとに性質や性格は大きく異なります。また、同じ種であっても個体によってある程度の性格の差というものがあります。
オオタカは人里近くにも営巣するからでしょうか、他のタカ類・ハヤブサ類と比べて、「人に注視されることが大嫌い!」 なようです。この傾向がとりわけ強く出ている個体も見かけます。これは、スズメが民家等の人間の近くで繁殖・生活しているにもかかわらず、人間とそれなりの距離をおいて警戒しながら生活していることと、ある意味でよく似ています。もちろん、オオタカの警戒心はスズメとは桁が違いますが…。
もう2月下旬です。すでに、オオタカのディスプレイ飛行や雌雄の鳴き交わしが始まったりしています。まもなく繁殖期のまっただ中に入っていきますので、これからの観察に向けて、いくつかの注意点を挙げてみたいと思います。オオタカが無事に営巣できるために、私たちがやれることはなんでしょうか。
【 オオタカ観察の注意点 】
(1) 双眼鏡やスコープなどでオオタカを見続けない。できれば、車のセンターピラーに隠れるなどして、チラッ、チラッと見る。
(2) 昨年営巣した巣の近く、あるいは巣を作るだろうと思われる地点の近くに、長時間いないようにする。特に定点観察時には定点の移動をするなどの注意をする。
(3) 写真は、必要最小限の枚数を撮ることができたら、撮影を中止する。
(4) オオタカが旋回上昇を始めたら、観察者を警戒しているものと判断し、その場を離れる。「キャッキャッキャッキャッ…」という威嚇声を出さなくても、旋回上昇だけで判断する。
(5) 車内からの観察を中心とし、車の外に長時間立ち続けることがないようにする。
(6) あなたの視線をオオタカと絶対に合わせない。
(7) あなたは、オオタカに対して常に無関心さを装う。「種まき権兵衛さん」 のような気持ちで。
(8) 巣踏査は、育雛末期まで行わない。
よく言われることですが、オオタカの巣からほんの20~30メートルほどしか離れていないところで、鍬や備中を振って農作業をしている人がいても、オオタカはまったく気にしないことがあります。逆に、何100メートル離れていても、双眼鏡で自分の方を見続ける観察者や撮影者、調査員は気になるらしく、その人の顔や服装、車などをしっかり覚えてしまいます。
鷹隼類が好きで、タカ類・ハヤブサ類に愛情をそそいでいることを自負している人でも、観察・撮影・調査をすると、意外にも、本人の知らないうちにオオタカの営巣放棄につながってしまったという事例が見られます。私も自戒の念を持ちながら、気をつけて観察したいと思っています。
(Uploaded on 23 February 2014)
この 『猛禽類保護の進め方(改訂版) -特にイヌワシ、クマタカ、オオタカについて- 』 という冊子は環境省(環境省自然環境局野生生物課)が編集したものです。多くの猛禽類関係の調査会社はこのマニュアルにしたがって、イヌワシやクマタカ、オオタカの調査活動をしています。また関係の企業もこのマニュアルを参考にして事業を進めていきます。第1版は1996年12月に出されました。その改訂版が2012年12月に出ています。インターネットで「猛禽類保護の進め方」 と入力し、検索すれば、PDFファイルとしてカラーで簡単に読むことができます。約5.6MB、88ページです。もちろん保存や印刷もできます。
念のために、リンク先を書いておきます。【 猛禽類保護の進め方(改訂版) ここをクリック 】です。
副題にあるように、この冊子では、主にイヌワシ、クマタカ、オオタカ、(サシバ) について書かれています。この中でオオタカの調査の記述は、イヌワシやクマタカの調査の記述とはかなりニュアンスが異なっており、この冊子のまま進めていってよいのかどうか、たいへん心配な部分があります。特に、2月~4月の調査・現地踏査・巣踏査については大きな疑問点があります。冊子の、オオタカの65ページです。以下、このページの問題点について述べます。
林内踏査について
ここには求愛・造巣期から産卵期(2~4月) にかけて林内を踏査するのが最適だと書かれています。2月から4月のオオタカがものすごく敏感な時期に、こんな林内踏査・巣踏査をしてもよいのでしょうか。
踏査の時間について
踏査の時間は3時間以内とされています。「繁殖中断の可能性もあるので十分注意する必要がある」 と書かれてはいますが、巣があると思われる区域の中を最大3時間も踏査して、ほんとうに大丈夫なのでしょうか。仮に専門家が入ったとしても、これは 「3時間」 ではなく 「30分以内」 の間違いではないでしょうか。
さらに、「なお、親が警戒声を発しながら、上空を飛びまわる時は、ただちに調査を中断し、その場を離れるべきである。」と書かれています。巣の上にいたオオタカが 「キャッキャッキャッキャッ…」 あるいは 「ケッケッケッケッ…」 という威嚇声で巣の上をグルグルと激しく鳴きながら飛び始めるまでは、調査を続けてもよいというような書き方ですが、このように鳴かれてから、あるいはオオタカを怒らせてから林内を出たのでは、もうすでに影響が大きすぎて、致命的な圧力をかけてしまった後である場合があると思います。この文章の通りに踏査すれば、「オオタカ保護の進め方」 ではなく、「オオタカに営巣をあきらめさせる進め方」、あるいは、「オオタカを追い出すための進め方」 になってしまいます。
観察圧について
無意識のうちの観察圧について書かれています。そもそも観察者・調査員がどの程度の観察圧をオオタカにかけているのかを本人が承知している、あるいは必要な配慮ができるという人の数は、この冊子が期待するほど多くはないと思います。上に書かれているような調査をすれば、大きな調査圧・観察圧をオオタカにかけてしまいます。
オオタカは環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類 (VU)から準絶滅危惧 (NT)にランクダウンされたり、最近は、希少種から外されるという報道がされたりしています。オオタカにとっては、どんどん不利な方向へと動いています。この冊子の表現通りに調査・踏査や事業を行うと、オオタカはますますその生息が危ぶまれる状態へと追い込まれてしまいそうです。
オオタカは、一部の地域ではそれなりに生息数が増えていることは事実ですが、かといって、今の傾向がそのままこの調子で続くと考えるのは、禁物です。
(Uploaded on 15 September 2013)
下の新聞記事を読まれた方は多いかと思いますが、まだ読まれていない方はご覧ください。
(1) オオタカは増えたか? データの問題点
愛知県ではオオタカは確かに増えました。たとえば、1980年頃はオオタカはほんとうに少なくて、自宅の近くをいくら探してもその営巣を確認することはひじょうに難しかったのですが、最近は、都市部や海抜0メートル地帯を含め、大都市周辺にもかなり多くが営巣しています。しかし、この新聞記事に紹介されているデータにはいくつかの問題点があります。
① 1984年の日本野鳥の会のデータは会員によるアンケート調査からの推定値で、これは「実態とはかけ離れている」、「もっと多くいるはずだ」、つまり「過小評価されている」と、当時からずっと言われてきました。今よりも少ないことは少ないのですが、もう少し多いはずだということです。
② 2008年の、「関東地方とその周辺3県だけで5,818羽」というデータはある程度正確なのかもしれませんが、この数字を全国に当てはめてしまうと大きなまちがいを起こしてしまいます。オオタカが多いのは、たとえば、東北地方、関東地方、東海地方などであって、逆に中国地方、四国地方、九州地方では少ないです。また、日本海側には太平洋側ほどはいないようです。一番密度の濃い部分だけを取り上げて、全国の状況に言及しないことはよくないと思います。
(2) レッドリストでの格下げ
2006年の環境省レッドリスト改訂で、オオタカは絶滅危惧Ⅱ類(VU)から準絶滅危惧(NT)にランクダウンされました。これが伏線になって今回の「危少種」解除につながっていますが、何らかの「意図」が感じられます。
(3) 他のタカ類との関係
クマタカは、絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定されていますが、クマタカよりもオオタカの方が生息数は少ないとも言われています。正確に推計することは今の態勢ではなかなか難しいですが、当たっているかと思います。ということは、オオタカを「危少種」からはずすことはまずいことになります。サシバとの関係、ハイタカとの関係、その他のレッドリストのタカ類・ハヤブサ類との関係も考慮する必要があります。
(4) オオタカの価値
〇 「オオタカは、自然を守るシンボルになっている」とか、「自然保護運動がオオタカに頼りすぎている」などという件については、これは、オオタカにそれだけの価値があるわけですから、私は、今のままの姿勢を貫いていけばよいと思います。
〇 動物相ファウナや植物相フローラは常に変化していきます。オオタカの棲息は、都市周辺の樹木の戦後の生長に伴って、営巣可能な太さの樹木が増えたことなどで数に変化が見られます。たまたま今は一部地域で増加の傾向にありますが、これが全国的に、しかもこの先ずっと増加の傾向を保つのかというと、それはすぐには判断できないでしょう。
(5) 正確な調査の必要性
環境省主導による正確な科学的な全国調査が必要だと思います。アマチュアだけに頼らず、猛禽類の専門調査員を動員して、つまり必要なお金をかけて、日本でも科学的なデータを出す時期に来ていると思います。欧米の先進国の実践例が参考になります。
(Uploaded on 23 May 2013)
新緑が目に映える季節になりました。この時期は、どの植物も動物も輝いているように見えます。タカ類・ハヤブサ類も内からの繁殖のエネルギーや衝動が湧き出てくる時で、姿・形に加えて、その動きや身のこなしがいっそう美しく際だってきます。木の枝にとまってゆったりしている時や、まさに飛び立とうとしている時、上空を飛んでいる時、ディスプレイフライトをしている時など、どの一瞬も越冬期とはまた違った意味での美しさを感じます。繁殖期の生態は、おそらく何十万年もかけて自然淘汰されながら、どんどん洗練されていって、洗練され尽くした最後の結果を、今現在、われわれが見ているわけですから、だから美しいのでしょう。
先日、オオタカが木が密集した広葉樹林の樹間を縫うように飛び回っているところを観察しました。我々人間から見れば、アクロバティックな、超能力的なものを感じるような飛翔でした。長い尾羽を巧みに開閉したりひねったりしながら、そして両翼をすぼめたり開いたりしながら木と木の間を幹や枝にぶつからずに飛び回っていました。高い運動能力・敏捷さを見せつけているかのようでした。
話はオオタカから人にそれますが、このオオタカの動きは人間の世界において世俗を超えた人の立ち居振る舞いのような印象を与えてくれました。人間社会にはひじょうに優れた人が数多くいます。世間に満ちあふれている「迷信」から完全脱却した人、多くの人がよく使う「ジョーシキ(常識)」とか「フツー(普通)」とか「みんなが言っている…」というような言葉をいっさい使わない人、ヘーゲルが言うような「止揚・揚棄」が自然とできてしまう人、高い位置からのグローバルな思考ができている人、偏らない自分の考えをもっている人。こういう人たちは、世間の人と対立することなく、人と人との間(これを「人間(じんかん)」と呼びます)を、実にみごとに縫い回っています。スパイのようにしなやかに人間世界を走っています。けっして人とぶつかることはありません。オオタカが樹木にぶつからないように、この人たちも人にはぶつかりません。人にぶつかる人は、それはまだ十分に脳が成熟していない人です。世間の言うままでもなく、他人の言うままでもなく、しかし、何もかも分かったうえで世間を認め、人を認め、肯定できるような人です。対立も争いも諍(いさか)いもありません。
さらに話がそれてしまいますが、人間には3種類あるように思います。一つ目は、つき合えばつき合うほど、その人の人柄のよさが分かるようになってきて、その味わい深い人間性が伝わってくるような人。たくさんいらっしゃいます。二つ目は、いくらつき合っていても変わらない人で、よい意味で砂のような人。まじめな人が多く、長くつき合える人です。こういう人も、たくさんいらっしゃいます。三つ目は、つき合えばつき合うほど不信感が増してきてしまうような人。これは困ったものですが、そういう方も現に(少なからず)いらっしゃいます。自然界の生き物の体が時とともにますます洗練されてきて美しくなるように、人の「心」が洗練されていくということはないのでしょうか。3千年前、2千年前の人間のほうが、今よりもきれいな心を持っていたのかもしれません。これは証明することがなかなか難しいでしょうが…。
オオタカの持っている能力はものすごいものがあるということを書きたかったのですが、話がそれてしまいました。私はただオオタカのしなやかな美しさに呆然とするのみです。
(Uploaded on 1 May 2011)
2008年12月30日、K川の河口にある干拓地へ、越冬中のタカのようすを見に行きました。いつも、夜明け前に現地へ着くのですが、やや遅れて、日の出時刻の5分後くらいに到着しました。曇っていたせいか、かなり暗く、まだ、半分は夜といった感じでしたが、ちょうど目の前にスズメ200数十羽の群れがいたので、しばらくの間、このスズメに付き合おうかなと思って車をとめました。コチョウゲンボウか何かがこのスズメの群れに突っ込むのではないかと淡い期待を持ったからです。
車を道路脇にとめて、ふと目線を左下にやると、近くで、何かかたまりが動くのが見えました。双眼鏡でのぞくと、オオタカの♀幼鳥でした。しかも、大きな獲物を足でしっかりと押さえています。抜いた羽毛が一面に広がっています。干拓地へ到着して、ほんの3分以内の幸運。一日中ねばっても何も見つからない日があるのに、こんなに早く、こんなに近い距離で見つかることもあるものですね。
背中に白い部分がたくさんありますが、これは模様ではなくて、鷹匠用語で、「なつき毛」と言って、ゆったりとリラックスして体をふくらませている時に見せるものです。羽毛の色素を節約するためなのでしょうか、羽毛は全面が茶色にはなっていないですので、緊張を解いて体中の羽毛が自然に膨らむと、羽毛の白い部分が見えてきます。
もう十分に食べた後なので、ほぼ満足しているようです。狩りに成功してからこれだけ時間が経てば、大きな音をたてないかぎり、かなり近付いても、逃げることは少なくなります。
1時間ほど、食べるところや休養しているところに付き合っていましたが、8時17分、東方へ飛び去りました。現場へ行ってみると、カモは翼鏡が青色をしており、その先端が白い帯になっていましたので、マガモの雌と判断しました。半分以上食べられていました。オオタカが飛び去った後には、すぐにハシブトガラスが集合して、次々と引っぱり合いをしながらお掃除をしてくれました。
朝は、早く行くべきだと改めて思いました。この日も、日の出時刻近くには現地へ着いていたものの、もう少し早く、白々と夜が明ける前に行っていれば、狩りの瞬間が見られたかもしれません。冬は夜が長く、おまけに、冬は夏よりも食料の量がたくさん必要なので、一晩食べずにいたタカ類は、朝一番で採食することが多いからです。
(Uploaded on 30 December 2008)
2008年6月、愛知県でのオオタカの営巣です。営巣中なので今回は写真のみです。
一週間後の写真を追加。途中の2枚です(23 June 2008)。
さらに一週間後の写真を追加。最後の3枚です(28 June 2008)
上の写真から1週間後。
上の写真から、さらに1週間後。
(Uploaded on 15 June 2008. 23 June 2008 写真2枚追加。28 June 2008 写真3枚追加。)
2007年10月21日、伊良湖岬でタカの渡りの観察をしました。最近、別の観察ポイントへ足しげく通うようになったので、伊良湖岬へ行く回数がめっきり減って、年に1~2回になってしまいました。しかし、雰囲気や環境が良く、いくら渡るタカの数が少なくなったとはいえ、やはり伊良湖岬は今でも好きな観察ポイントです。
さて、この日は、ハイタカの渡りには少しだけ時期が早いので、ツミ、オオタカの渡りを目的に出かけました。オオタカが数羽渡りましたが、午前8時半頃、まぶしいくらいに白く輝くオオタカが一羽出ました。
頭の真上くらいになってからカメラのシャッターを切ったので、少々後ろ姿(見送り写真)になってしまいましたが、写真を撮ってみて、唖然としました。肉眼では、過眼線が淡色に見えて、各羽の斑は淡く少なく、かなり淡色だったのですが、写真で見るとぜんぜんそんなことがありませんでした。
今まで見たことがないほど白かったので、野生のシロオオタカ? かご抜けのシロオオタカ? かと一瞬思ったほどです。しかし、その可能性はなくて、恋路ヶ浜の砂浜や海面あるいは広い駐車場のアスファルトが強い直射日光を反射して、その跳ね返りでオオタカの下面がより実際以上に白っぽく見えてしまった瞬間があったからなのでしょう。
写真と人の目とどちらが信頼できるのか、というような二者択一の話ではないです。人の目はひじょうに錯覚や誤認をしやすいですし、先入観にとらわれやすいものです。一方、写真も「真実を写している」場合ばかりでもありません。人の目と写真の双方が補い合っていけばよいでしょう。
(Uploaded on 2 December 2007)
以下は、「中日新聞」の地方版の記事です。
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名古屋市守山区上志段味の水野隆さん(69)が、自宅の庭でハトを捕食しているオオタカの姿をカメラにとらえた。
11月10日朝、水野さんが食事をしていると、庭で大きな羽音がしたため、縁側に出てみるとオオタカがハトを押さえ込んでいた。水野さんは近くにあったカメラを取り、ガラス戸越しに夢中でシャッターを押したという。ガラス戸を開けると、オオタカはハトをそのままにして飛び去った。
知人の野鳥の会会員で、尾張旭市在住の若杉稔さんに撮影した写真を見せたところ、「オオタカの成鳥」と判明。若杉さんは 「野生のオオタカが住宅の庭で食料をとることは珍しい。それを撮影できたことはなお素晴らしい」 と絶賛している。
オオタカは全国の里山に生息するが、環境の悪化で数が減り、環境省のレッドリストで絶滅危惧2類に位置づけられている。
水野さん方の周辺は近くに森林公園などもあって自然が多く、オオタカが飛ぶ姿を見ることもあるという。水野さんは 「これまでも庭に鳥の羽根が散乱していたこともあるが、猫のしわざと思っていた」 と話していた。
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以上、「中日新聞」の地方版の記事です。
(Uploaded on 16 December 2006)
2004年6月13日、朝は用事がありましたが、昼前に少し時間ができたので、尾張旭市内の雑木林へ双眼鏡だけ持って、ブラッと出かけました。2ヶ所でキビタキがさえずったり、水面をカワセミが飛び回ったり、コジュケイの親子連れが松林の下をごそごそしていたり…と、まあまあ楽しく観察していました。
日差しが強いので、樹木の陰に入って、しばらくここで、定点観察をしようかなと思ったほんの2~3分後の11時35分頃のことです。目の前ほんの数メートル(歩数で10歩くらい)の目線の高さの所をヒヨドリが慌てたような飛び方で、右から左へ気流にもまれるように飛んできました。あっと思った瞬間、そのすぐ後に茶色いタカが続いてきました。オオタカの幼鳥でした。全体に小ぶりで、体全体に比べて頭がやや大きく見えたので、おそらくオスだと思います。
オオタカは林道の上1メートルぐらいを低く飛び、ヒヨドリを追いかけましたが、ヒヨドリは直角にスコン!と右に折れ、林の中に入っていきました。オオタカはそのまま林道をまっすぐに飛んでいきました。狩りは失敗でした。
このような観察は、今までも何度かこの「マーリン通信」に書いてきました。追われる小鳥たちはきまって異常な飛び方です。
さて、いつも思うのは、このようなほんの数メートルぐらいのひじょうに近距離の時、観察者である私が、ヒヨドリやオオタカに気づかれていたのかということです。追う方も追われる方も必死で、一生懸命なはずです。周りのものには、かまっておられない状態ですので、私の存在に気が付いていなかったとしてもおかしくありません。それとも、さまざまな感覚が敏感で、神経質なオオタカは十分こちらのことを知っていて、気づきながらも無視して、獲物を追っているのでしょうか。
オオタカがゆっくりと羽ばたいて、こちらの方向へ飛んできて、突然私の存在に気が付き、びっくりして急に方向転換をし、あわてて向きを変え、飛び去ったという経験は何度かしたことがあります。営巣期の抱卵中や見張り中は、かなり敏感に人に意識を向けているようで、こちらの動きは向こうにはすべてお見通しのようです。しかし、繁殖期以外の時期や、繁殖活動をしていないオオタカにはそれほどのものを感じません。やはりこのオオタカは私の存在に気が付いていなかったのでしょうか。
今日のオオタカですが、その後、10分ぐらいしてから、この林道を200メートルくらい歩いていくと、枯れたアカマツの木の枝から突然前方へ飛び立ちました。ずっとこの枝にとまっていたようで、今度は完全にこちらの動きが見破られていたように感じました。早くから、私の接近に気づいていたのでしょう。私は、オオタカが飛び立つまで、この木にオオタカがとまっているとは気が付きませんでした。
(Uploaded on 13 June 2004)
1992年5月初旬のことです。訪問した知人宅のタカ部屋の近くにある応接間で話をしていましたら、どこからともなくトラツグミを思わせるような「ヒーウー、ヒーウー」と苦しそうな声が聞こえてきました。どうもタカ部屋の方から聞こえてきたようです。「ふだん、あんな声はしないのにね」と話しながらオオタカを見に行くと、タカ部屋の床に割れた卵が一つありました。ほんの少し前に餌台の上で産み、下に落ちて割れてしまったようでした。ヒーウーは卵を産むときの声だったのです。
びっくりしたことに、その卵の色がごくわずかにうす緑色がかった、青空のようにきれいな青色、スカイブルー(JISの色彩規格では「明るい青」としている色に近い色。C:40 M:0 Y:5 K:0、R:142 G:209 B:224【#A0D8EF】9B 7.5/5.5に近い色)だったのです。外側のみでなく、卵の内側もまったく同じで少し緑色がかった青色でした。しかし、見る見るうちに表面が乾燥していき、すぐに外側は薄い青色・水色に、殻の内側は薄膜(うす皮)が白色になってしまいました。薄膜を取ったさらに内側の殻の色は水色でした。この水色も実に鮮やかな、爽やかな美しい水色でした。
さらに時間が経つにつれて、ゆっくりと白色に近づいていきました。自宅に持ち帰り様子を見ていると、2~3日後にはほとんど純白になっていました。これと同じ経験をその後2度経験し、いずれの場合も同じ色の変化でした。
オオタカの卵の色について、例えば小林図鑑では「淡青灰色」、柳沢・小海途著『巣と卵図鑑』では「淡青白色」など、「淡い」青、白っぽいという記述が多いようですが、記述する人によってその色は様々です。このような違いはオオタカだけではなく他のいろんな鳥の卵の色についても、今まで同じように感じてきました。これは観察者・記述者の主観的な色の違いや色の表現の仕方の違いではなく、実際、観察したその時はそのような色だっただろうと思われます。このような違いが見られる原因はどうやら、卵が産み落とされてから何時間後に卵を観察したか、何日後に卵を観察したかによって、色の表現・記述が変わってきてしまっているからということだと思われます。
以上の話は、日本野鳥の会愛知県支部、室内例会において平成14年3月9日に話したものです。この日は他に、鳥の卵について、気室、からざ、卵歯、カルシウムの吸収と殻の厚さ等について話しました。
(Uploaded on 28 April 2002)
1994年3月6日午前7時50分頃のことです。鍋田の弥富野鳥園東の水門近くにコガモが10羽ほど集まっていたので、近くで見ていたら野鳥園の池の上空にオオタカ成鳥が現れました。ところがオオタカは急に高度を下げ、すぐに見えなくなってしまいましたので、またコガモを見ていたら、突然水門の鉄の横棒と鉄の縦棒の間から現れてコガモを襲いました。降下してから水門の間を抜ける直前までのオオタカの飛行ルートは樹林帯の陰になって見えませんでしたが、その短い時間を考えると、下の図の点線のようなコースしか考えられません。樹林帯を遮蔽物のように利用してコガモに近づいたようです。

これと同じように、遮蔽物を利用して獲物に近づくハンティング法は、立田村葛木の木曽川のえん堤でも観察したことがあります。えん堤そのものを遮蔽物として利用してオオタカ成鳥がオナガガモに近づいていました。野鳥園のコガモと同じく、えん堤脇でのんびりと休憩していたオナガガモは、突然音もなく至近距離に現れたオオタカにかなりびっくりし、羽音や水をたたく音を残して散らばっていきました。
また、秋に田で刈り取った稲をぶら下げてある稲架を遮蔽物のように使って、獲物の前に突然ヌッと現れたオオタカ成鳥を観察したこともあります。
この3例とも、オオタカが意図的に遮蔽物を利用して狩りをしているとしか思えませんでした。
(Uploaded on 30 October 1996)
1993年12月5日午後3時頃、自宅母屋の応接間で餅を食べていたら、離れのテレビアンテナのすぐ脇を成鳥のオオタカが何かをつかんで飛びました。高さもアンテナほどの低さです。慌てて飛んだ方向へ走り10分ほど捜し回りましたが見当たらず、とりあえず家に帰ると、隣の家のおばあさんが「裏の畑に鳥の羽がちらばっとるよ!」とのこと。
そこにはドバトの羽と、まだ固まっていない血痕がありました。羽毛をむしり少し食べただけで場所を移動したようです。今この原稿を打っているパソコンのある部屋からたった70mの所でした。最近オオタカを自宅近くでよく見るようになりましたが、これはドバトが増えたことと関係が大きいような気がします。
この年の2月7日午後5時5分頃。私の書斎からふと北をのぞくとコサギが南へゆっくりと飛んでいました。何気なく見ていたら、急に180 度向きを変え、ゲェッと鳴き、首を真っ直ぐに伸ばして思いっきり羽ばたいて飛んで行きました。反対方向を見ると屋根のため見えなかった方向からオオタカが力強く羽ばたき追いかけました。しかし初めの距離が長過ぎたようで捕えられず南へ引き返しました。
(Uploaded on 30 October 1996)
1995年1月8日午前11時35分。尾張旭市内の雑木林近くの田の畦道でぼんやりと空を見ていた時のことです(いつでも鳥を見に行く時はぼんやりとしてしまう)。私の向かって左後方から一羽のドバトが飛んできました。ところがそのハトが急にフラフラとしたのです。一瞬ハトが目まいを起こしたような印象を受けました。その瞬間、右方向からオオタカの成鳥が現れ、私の目の前で両足を大きく伸ばしてドバトを捕り、林の中へスーッと入っていきました。
するとどうでしょう、その直後ほんの3秒程後に別のオオタカ幼鳥が、さらにその直後5秒後にノスリが両足を伸ばしてその林の中へ急降下していきました。あっけにとられているといつの間にか西の空にトビが3羽出て旋回しています。私もびっくりしながら、同じタカ仲間のような気になって、林の中にヤブコギしながら入っていきました。ピォゥーと鳴き声が近くでしましたが、近寄り過ぎたようで、飛び立たれてしまいました。
この辺りはオオタカが3羽(成2幼1)いますので、2月に入ってからでも明らかにオオタカに食べられたであろうとしか思われないコサギやゴイサギの食痕を見ました。どちらも両足はしっかりと残っていました。
(Uploaded on 30 October 1996)
オオタカのメスは、生後1年に満たないうちから繁殖活動を開始する例をよく見ます。思いついたものを挙げると、
〇『日本野鳥の会大阪支部報』の1983年以前の号?に写真が載っていた。
〇『アニマ』1988年2月号で紹介された東北地方のオオタカ。
〇常山秀夫著『バードウォッチング』P115。1985年に営巣した。
〇宮崎学著『鷲鷹ひとり旅』で宮崎さんが初めて見たオオタカの巣。
〇1993年、愛知県にて営巣した(若杉確認)。
〇1993年、岐阜県にて営巣した(若杉確認)。
いずれもメスの幼鳥が営巣した例で、きっとこの他にもこのような例はたくさんあると思われます。しかし、オス幼鳥が営巣したという例はまだ聞いたことも見たこともありません。オス幼鳥は全く営巣しないのか、ごく少ないのか、情報がありましたらぜひお教え下さい。
(Uploaded on 30 October 1996)
「今年の夏も暑いねえ」
「ああ暑いねえ、源さん。誰だよ、今年は冷夏だなんて言ってたのは」
「ほんとだ」
「ところでよ、源さん。今年変なこと頼まれちまってよ。何でも、こんだけ出すから、##タカの巣を落としてくんねえかって言うんだ」
「誰に」
「そりゃまあ、昔から知ってる奴なもんで言えんけどね、結構な額だったよ」
「そんでおめえ、落としたんか」
「まさか。俺がそんなもん引き受けるわけねえだろ。でもなんで俺が巣なんか落とさなきゃなんねえだろうな」
「そりゃおめえは60年も山ん中で暮らしてきて、そんじょそこらの誰よりも山ん中のことは詳しいからじゃねえか」
「違うよ、なぜこれから作ろうとしている巣を落とさなきゃいけねえかってことだよ」
「いくら包んであったか知らねえが、それだけ出しても何百倍と元が取れるってことじゃねえのか」
「…」
「いやな話だね。ビールでも飲みながらソバ食いに行かねえか」
「ああ」
(Uploaded on 30 October 1996)