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「ハヤブサ」 フォルダ の 目次
更新月日 タ  イ  ト  ル
25.11.13  チゴハヤブサが地面で腹ばいに(砂浴び、水浴びも)
24.03.20  「 黒頭巾のハヤブサ = オオハヤブサ 」では ないです
23.08.20  BIRDER 2023年9月号は ハヤブサ類特集
22.01.05  ハヤブサの狩りの成功率は意外に高い
21.12.20  岬のハヤブサの獲物(ヒヨドリの渡り後)
21.08.23  薮内正幸さんは シロハヤブサを見ていた!
21.04.04  雄と思われるハヤブサが 午前中だけで小鳥を4羽食べる
21.01.01  ハヤブサのハンティングを予測する
20.03.30  ハヤブサは 鳥の大群を意図的に分断するのか
20.02.18  ハヤブサが 送電鉄塔を遮蔽物に利用
20.01.29  ハヤブサが チョウゲンボウを襲う
19.02.14  訃報 Tom J. Cade博士
19.01.20  下からオオタカ 上からハヤブサ… 挟み撃ちされたハト
18.02.09  ハヤブサは なぜ背面飛行したか?
18.02.01  ハヤブサ 約0.7秒間の背面飛行
17.04.14  薮内正幸美術館 「シロハヤブサと稀少な野鳥」展
17.01.14  ハヤブサ が メジロを捕る
16.12.17  ハヤブサ類との付き合いかた ~保全の過去・現在・未来~
15.10.28  熊谷勝さんの新しい写真集 『ハヤブサ』
15.08.02  SINRA 9月号にハヤブサの写真
14.11.24  2015 Peregrine Fund Calendar
14.11.10  熊谷勝さんの 新しい写真集 『野の鳥の四季』
13.12.04  2014  The Peregrine Fund 14-month calendar
13.02.25  新刊 「Peregrine Falcon」 by Patrick Stirling-Aird
13.01.17  冬の干拓地 ハヤブサの波状急降下
12.11.09  ハヤブサ基金の14ヶ月カレンダー 届く
12.10.22  ハヤブサ と ヒヨドリの 「宿命」
12.06.01  日本の鷹隼類 環境省レッドリスト(2) シマハヤブサ
12.05.01  タカ科とハヤブサ科の違い(7) 造巣、人の「錯覚」
12.04.01  タカ科とハヤブサ科の違い(6) 換羽パターン
12.03.20  タカ科とハヤブサ科の違い(5) 虹彩の色
12.03.03  タカ科とハヤブサ科の違い(4) 鼻孔突起
12.02.02  タカ科とハヤブサ科の違い(3) 上くちばしの形
12.01.18  タカ科とハヤブサ科の違い(2) 狩りの方法
11.12.11  タカ科とハヤブサ科の違い(1) 小首のつき方
12.01.31  2012年 ハヤブサ基金のカレンダー
11.05.25  与名正三氏著「森のハヤブサ」
11.01.24  ハヤブサ基金のカレンダー 今年も届く
10.01.09  ハヤブサ基金 カレンダー届く
08.05.04  営巣場所には いつも感心!
02.11.10  伊良湖岬のオオワシをハヤブサが攻撃
02.02.05  ハヤブサと都市


チゴハヤブサが地面で腹ばいに(砂浴び、水浴びも)


 2025年10月19日にNHKで放映された「ダーウィンが来た!」のテーマは、「初密着! 超高速ハンター チゴハヤブサ」でした。この番組はその日の主人公の生物に対して感情移入しすぎてしまうところがあるので、生物研究をしている私の知人たちにはあまり評判は良くなくて、教育関係者の中には悪影響を指摘する人がいますが、感情的な音楽やナレーションを無視して映像だけを見ていれば参考になるところがあります。チゴハヤブサは愛知県で繁殖の生態が見られないので、私には参考になりました。

 ハヤブサをチゴハヤブサが攻撃している映像があって、そこで、チゴハヤブサはハヤブサよりも高速飛行できるという解説をしていました。これは、繁殖期に自分の巣の近くに来る他の猛禽類(この場合はチゴハヤブサの巣の近くに侵入したハヤブサ)をチゴハヤブサが排除しているところであって、こういう時は自分よりも体の大きな鷹隼類であっても果敢に攻撃排除するのが一般的です。チゴハヤブサの飛ぶスピードがそれなりに速くて、小回りが利くということ自体は間違いありませんが、ハヤブサの飛ぶ世界の最高飛行速度記録とチゴハヤブサの飛ぶ速度を比較できる映像ではなかったです。

 私にとって大収穫の映像がありました。チゴハヤブサがスズメを捕獲する時のもので、スズメをほぼ追い詰めるほどに接近した後、背面飛行になってそのまま頭から急降下して、すぐにU字形を描く飛翔でほぼ真上に頭から急上昇してスズメを捕獲した瞬間までがみごとに撮影されていました。たぶん肉眼や双眼鏡で観察していただけでは何が起こったか明確には理解できなかっただろうと思いますが、こうして映像にされたものをスローで再生すると姿勢や飛跡、翼や小翼羽、尾羽の使い方などが実によく分かります。

 さて、チゴハヤブサの雌親が抱卵期間中に地面に降りて、土の上やアスファルトの上で5分間以上腹ばいになっている様子が紹介されていました。番組のナレーションではこれは新発見だとして、専門家のコメントでは「初めて見ました。地面に降りたら身動きがとれなくなるので降りたくはないはず。ひじょうに驚きです。殺虫・殺菌の効果があるのではないか」と言っておられました。

 北海道に住んでいる友人にこの腹ばい行動のことを聞いてみたら、彼は「地面に降りて長時間腹ばいになったり、砂浴びをするのはよく見られます。2年前まで私が10年間観察していた、公園に営巣したチゴハヤブサの雌は、抱卵期に巣の近くにある野球のグラウンドに毎日のように降りて来て、土の上でずっと腹ばいになっていたり、砂浴びをしていました」とのことでした。砂浴びは下の2枚のように、水浴びによく似た動作で十分な時間をかけてやっていたそうです。


砂浴びをするチゴハヤブサ雌成鳥  北海道 6月 ヒロシさん撮影

 


砂浴びをするチゴハヤブサ雌成鳥  北海道 6月 ヒロシさん撮影

 

 下の画像はチゴハヤブサ幼鳥の水浴びのようすです。砂浴びは体や翼の動かし方、振るわせ方が水浴びによく似ています。


水浴びをするチゴハヤブサ幼鳥  北海道 8月 ヒロシさん撮影

 

 これらの観察記録の載っているヒロシさんのブログは、

【 “チゴハヤブサ” 今シーズン初の入浴(砂浴び)シーン … 気持ちい~い !! | 日記帳 勝手にヒロシ 】  です。

 やはり地元の観察者で、フィールドに毎日のように出て、地道な観察を連日続けている人にはかないません。

 地元の鳥について詳しい地元の人は我々(他県に住む者)が知らないようなことを当たり前のように知っておられますので、愛知県の私が北海道へ行くとか、海からは遠い地域に住む私が海岸部に行くとか、私の地元ではないところへ出かける時は行った先の人に敬意を表すとともに、いろいろ質問をして教えていただいています。今秋のノーベル賞受賞者お二人のインタビューにもあったように、長期間、地道に観察・研究を続ける人はやはり強いです。

 さて、チゴハヤブサはなぜこういう行動をするのでしょうか。チゴハヤブサをはじめとしたハヤブサの仲間はみずから巣を作ることはせず、カラスなどの他の鳥が使った巣を利用するか、あるいは崖などのくぼみを巣にしてしまってそこに産卵するか、または排気口や換気口の中などで営巣します。どの場合でも巣材を運び入れることがなく、産卵する前に産座に杉皮を敷いたりすることもなく、ヒナが孵ってから青葉の付いた枝を搬入することもありません。一般にタカの仲間はハヤブサの仲間とは違って、新たな巣材の運び入れや、産座に杉皮を敷くこと、青葉の付いた枝の搬入などをすべて行います。タカ類とハヤブサ類にはかなり違いがあります。

 チゴハヤブサも他のハヤブサ類と同じで、巣には何も搬入しないから、カラスが春先に営巣し、使い終わったばかりの巣をそのまま使うと、そこにはさまざまな細菌類や虫類、その他の生物がいっぱいいて、人間からはどう見てもあまりきれいとは言えない状況です。抱卵期はそんな衛生的ではないところにずっと長期間座り続けて、ヒナが孵った後も巣の上でいろいろな世話をしていますから、身体にはダニや眼に見えない病原菌がいっぱい付くだろうと思われます。こういう状況を嫌って温度の高い土の上や焼けるようなアスファルトの上で長時間腹ばいになったり、砂浴びを念入りに行ったりして、殺虫・殺菌目当ての虫干しをしているのではないかと推測しています。水浴びでは取れないような虫も腹ばいや砂浴びでなら取れることがありそうです。

 暑い地面の上で長時間「腹ばい」になる行動は地面からの 熱を 利用して虫を取る行動で、「砂浴び」は 砂粒を 羽や体下面に擦りつけることで物理的に虫を取る行動で、「水浴び」は人間が浅いプールでバシャバシャするのと同じように 水を 体下面や翼などにあてて虫や汚れを取る行動なので、「腹ばい」と「砂浴び」は異なります。友人の観察ではこのチゴハヤブサは腹ばいと砂浴びの両方を連続してやっていたとのことです。

(Uploaded on 13 November 2025)

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「 黒頭巾のハヤブサ = オオハヤブサ 」では ないです


 昨年、亜種オオハヤブサ Falco peregrinus pealei と思われる成鳥個体を観察しました。その関連で何人かの人と話していると私が思いもよらなかった誤解をしている人が多くいらっしゃいました。その誤解とは、黒頭巾のハヤブサはみんなオオハヤブサだというものでした。実は、ほとんどのオオハヤブサは黒頭巾ではありません。


亜種オオハヤブサと思われるハヤブサ 11月 若杉撮影

 

 オオハヤブサ幼鳥の特徴は体じゅうがほとんど真っ黒という印象があってこれは誰にも分かりやすいですから、幼鳥については省略します。

 オオハヤブサ成鳥の特徴は大まかに言うと、

 1 ハヤブサ髭が太くてやや短い。一部に黒頭巾状になる個体もいる。
 2 体下面の斑については、♀は顔から胸にかけて太い縦斑が入り、腹部や下雨覆、下尾筒の横斑が太い。腹部がさび色の個体もいるが多くの個体の地は白っぽい。♂は胸に縦斑があるが、体下面全体の縦斑・横斑はあまり太くない。
 3 頬(ハヤブサ髭の後ろの部分)に、♀は黒い縦斑が密にある。この縦斑は♂にはない。

 となります。♀は胸も腹もひじょうに目立つ太い斑(粗い斑)があることが特徴で、頬に小さな斑が見られ、ハヤブサ髭が短いということです。一方、雄は特徴に乏しく、雄個体の場合は亜種オオハヤブサか亜種ハヤブサか断定が難しいです。


Aves de Peru の Webページより

 

 オオハヤブサには黒頭巾が見られる個体もいますし、黒頭巾ではない個体もいます。つまり黒頭巾とそうではない個体の両方いますが、その逆に黒頭巾だったらそれはみんなオオハヤブサだということは言えないです。日本で、黒頭巾だけれどまったく胸も腹も斑が太くなく、日本の個体と変わらない個体も見られます。北海道某所では黒頭巾ハヤブサが繁殖したことがあります。また、小林正之さん・五百沢日丸さん著の写真集『ハヤブサ 隼 』(文一総合出版 1998年)には、黒頭巾の雄が三重県で繁殖している様子が納められています。

 多くの人がどうしてそんな間違いをしているのかと思って図鑑等をいろいろ見たところ、ある識別用の野鳥図鑑のハヤブサの画像の矢印の先のキャプションに「亜種オオハヤブサの頭はすっぽりと黒頭巾」と断定的に書いてありました。どうやらこの図鑑の説明が誤解の原因のように思いました。正確には「亜種オオハヤブサの頭はすっぽりと黒頭巾になる個体もいる」というような記述が正しいです(私が見た図鑑は改訂第2版です)。

 上記画像と別に、愛知県に何年も続けて越冬に来ていた黒頭巾ハヤブサがいます(いました)。多くの人からたくさん高精細な画像を見せていただきましたが、この個体は胸、腹など体下面の斑はすべて日本のハヤブサとしか見えず、オオハヤブサを思わせるようなところはありませんでした。ただこれが雄であったならこの個体が日本の亜種ハヤブサかオオハヤブサかと断定することは写真だけからは難しいので、何とも言えませんが、見る限りオオハヤブサらしきところはありませんでした。たくさんの人がその個体がオオハヤブサだという情報を聞いて、その個体を撮影するために日参・努力されていました。黒頭巾と言うだけでそれはそれなりに通常見られる日本のハヤブサと比べれば珍しいので特に問題はないかもしれませんが、オオハヤブサだと100%信じ込んで見に行った人にはちょっと……という気もします。

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 私宛にいただく質問で上位を占めているのが「この画像のハヤブサはオオハヤブサですか?」「このハヤブサはウスハヤブサですか?」「このハヤブサはシベリアハヤブサですか?(今ではハヤブサのシノニムとされていますが)」です。ほとんどの場合、「はい、そうです」と言ってしまいたいような、まさにそれらしい個体が多いのですが、やはり画像だけから亜種を同定してしまうことは危険です。結局、質問のお返事に必ず「……と思われます」や「……だろうと思われます」と付け加えざるを得ないです。 

(Uploaded on 20 March 2024)

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BIRDER 2023年9月号は ハヤブサ類特集


 BIRDER 2023年9月号(8月16日発売)の特集は「シン・ハヤブサ類」です。


BIRDER 2023年9月号の表紙

 

 シン・~のシンは、ご存じのように、震・神・真。9月号の特集は次のようです。

 [特集]シン・ハヤブサ類

 日本のハヤブサ類7種(ハヤブサ、チョウゲンボウ、チゴハヤブサ、コチョウゲンボウ、アカアシチョウゲンボウ、ヒメチョウゲンボウ、シロハヤブサ)の暮らしや狩りの能力、各種の見どころを徹底解剖!

・ハヤブサの協同作戦  漫画=一日一種

・ハヤブサ類 見どころガイド

  - 超スピードの名ハンター ハヤブサ    文=黒沢 隆 写真=佐藤 圭

  - 身近な猛禽類 チョウゲンボウ    文・写真=平野敏明

  - ハヤブサ界きっての軽業師 チゴハヤブサ    文・写真=♪鳥くん

  - 小さなハンター コチョウゲンボウ    文・写真=平野敏明

  - 見られたら超幸運かも!? 「レアなハヤブサ」たち   文・写真・動画=♪鳥くん

・渡りで見逃すな! ハヤブサ観察のすすめ  文・写真=久野公啓

・カッコイイだけでは物足りない ハヤブサ撮影虎の巻  文・写真=福丸政一

・夏のハヤブサ探訪記  文・写真=BIRDER

 以下は特集以外の鷹隼類に関する記事です。

・[BIRDER Graphics]大空の王者オオワシ 真の勇姿  文・写真=福田俊司

・夜渡り観察の楽しみ #05 ハヤブサの夜間ハンティング(青森県龍飛崎)   文・写真=原 星一

・鳥の形態学ノート #162  猛禽類 “足”というより“手”だ  文・イラスト=川口 敏

(Uploaded on 20 August 2023)

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ハヤブサの狩りの成功率は意外に高い


 ハヤブサは干潟にいるシギの群れや池や海面上にいるカモの群れ、あるいはドバトやレースバトの群れによく突っ込みます。稀に一回目の急降下でみごとに獲物を捕獲することがありますが、多くの場合、一回目はほとんど捕れません。ここで、「捕れない」ということを「失敗」というのは、実はあまり適切ではありません。ハヤブサにとっては一回目は初めから捕れないことは承知で、いわば織り込み済みの行動です。つまり、一回目の突っ込みはたいていは様子見のための行動であり、「試しに群れを飛ばしてみた」という意味合いが大きい行動だからです。地上の獲物や水面上に浮かぶ獲物を、もし高空から急降下でそのまま捕ろうとするとハヤブサが地面や水面に激突する可能性があるので、危ないです。それを避けるために、降下の途中から向きを水平方向にしますが、そうすると当然、速度が落ちます。速度が落ちるとよけい獲物が捕りにくくなります。

 1回か2~3回の急降下あるいは波状に見える突っかかりを何回かすると、たくさんの獲物の中から飛ぶことがへたな幼鳥や飛翔力の弱い個体、その他の理由で群れの中から捕れそうな個体はどれかと見極めることができます。

 見極めたら、ハヤブサはその個体を追いかけます。するとその個体は飛翔力が弱いものが多いので、たいていは群れの全体についていけなくなり、また自分がハヤブサに狙われていることが分かるとハヤブサから逃げる方向へ飛ぶので、そのうちに群れから離れてしまいます。

 ハヤブサはその1羽をとことん追いかけます。執念深く追いかけます。観察者から見ると、かなり遠くまで追いかけていきます。多くのウォッチャーはここまでの観察でハヤブサとハヤブサに追われた鳥から目を離すことが多いですが、実はこの先が大事です。完全に見えなくなるまで、ゴマ粒よりも小さくなっても見えなくなるまで双眼鏡で追いかけ続ける必要があります。この時点で私には14倍の防振双眼鏡が必要です。スコープに切り替える余裕はありませんから双眼鏡のままで観察を続けます。

 そうして観察していると、けっこう遠くで、見事に獲物を捕ることが多いです。もちろん捕れない時もあります。ハトなどが林に飛び込むとオオタカは樹頂にとまったり、時には突っ込んでいったりしてしぶとく獲物を追い、探しますが、ハヤブサはそういう時はたいていはすぐに諦めます。待っていると失敗して元いた鉄塔に戻ってくることがあります。戻って来なくても遠くの別の鉄塔にとまったことが確認できればその鉄塔の近くまで車で走って、続きの狩りを見ることができます。あるいは新たにそこで別の狩りを開始するところを見ることができます。

 見えないほど遠くまで追いかけることもハヤブサには狩りの初めから織り込み済みです。でも、狩りの成否結果が観察者には毎回は得られないので失敗とみられてしまうことが多いです。観察者から見えないほど遠くで成功した可能性もあります。


獲物を捕らえた直後のハヤブサ成鳥 愛知県 5月 若杉撮影

 

 そういうことも含めて、ハヤブサの狩りの成功率はどんな程度なんでしょうか。先に書いたように様子見で突っかかって地上や水面上の鳥たちを飛ばしたことも失敗のうちに数えてしまうと、失敗の回数は増え、失敗の確率は大きくなってしまいます。2回目、3回目の様子見の突っかかりも失敗のうちに入れてしまうとおかしいです。遠くまで行ってしまって観察者が見失ってしまった時も「狩りは失敗」と判断してしまうことは実情に合っていません。この場合は「狩りの成否は不明」としなければなりません。

 こういうふうに成功と失敗を的確に分けて考えてみると、狩りの成功確率は世間で言われているよりももっと高いだろうと私は思っています。

 このハヤブサの狩りの観察法はコチョウゲンボウの狩りの観察にも応用できます。応用というか、コチョウゲンボウもハヤブサによく似た狩りをすることがあります。チョウゲンボウ類の場合はちょっと違います。コチョウゲンボウを「コハヤブサ」と呼びたい私の心境はここからきています。

------ + 次のステップへ

 さてここで最初の1回目か2~3回目の急降下あるいは波状に見える突っかかりを自分でせずに他のタカに任せることも可能です。ハヤブサで一番よく見かけるのはそれをオオタカにさせることです。「させる」という表現がよいのか「利用する」という表現がよいのか迷いますが、どちらも結果的には同じようなことになります。オオタカがハトを攻めて、1羽だけに的を絞った後、ハトの高度がどんどん上がっていったころに、ハトよりも高空からスーッと急降下してきて、ハトをさらっていくという方法です。ハヤブサ類でよく見かける両足で獲物を突き落とすことはせずに、タカ類が行うようにつかみ取ることが多いように思います。ハトはオオタカから逃れることだけで頭がいっぱいで、ハヤブサに対しては油断しているのか、高空までは気が付かないのか、2羽に同時対応することができないのでしょうか、あっさりと捕まってしまうことが多いです。このことに関しては今までにこの通信で何回か書いてきました。

-------- ++ さらに次のステップへ

 では、初めから仲間と示し合わせて2羽で攻撃すれば簡単ではないか。ハヤブサが実際に2羽で狩りをしていることがあります。イヌワシでもこのような狩りの報告があります。ただ、計画的で、相談しあって2羽で狩りをしているかどうかはやや微妙なところもあって、はっきりとしません。たまたま2羽でやったらうまくいって、それを観察できたという場合もあるでしょう。でもこれが頻繁に続けば、「計画性」はともかくとして、2羽で協力して狩りをすることがよくあると言ってもよいでしょう。

(追加分)

 オオタカとハヤブサの組み合わせの他に愛知県でしばしば見かけるのがハイイロチュウヒとコチョウゲンボウで、耕地にいるムクドリやカワラヒワの群れにハイイロチュウヒが突っ込んで群れが激しく舞い上がって混乱している時にコチョウゲンボウがそこへ突っ込むということです。何度もこういうシーンを目撃しましたが、コチョウゲンボウが見事に獲物を捕ったという瞬間は残念ながら私は見ていません。さすがのコチョウゲンボウでも水平方向での狩りは難しいのでしょうか……。

(Uploaded on 5 January 2022)

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岬のハヤブサの獲物(ヒヨドリの渡り後)


 愛知県内の、ある岬でのこと。ここにハヤブサが頻繁に来る時期はヒヨドリの大きな群れが海を渡っていくころで、主に10月中旬から下旬にかけてです。ハヤブサはこの地点にヒヨドリ目当てで、過去に多い時は半日で幼鳥2羽と成鳥2羽が現れることもありました。同時に3羽が飛ぶこともありました。

 ヒヨドリの群れを狙うハヤブサの狩りについては、全国の海岸部から(時に陸上でも)たくさんの報告や観察事例があり、その様子はネット上や書籍に載っています。ネットで検索すればたくさんの画像を見たり記事を読んだりできますので、ハヤブサのヒヨドリ狩りのようすはここでは省略し、ヒヨドリの渡りが終わった後、またはヒヨドリの群れがかなり少なくなったころのことを記述します。

 簡単に言うと、ヒヨドリが少なくなるとハヤブサが来る頻度は少なくなります。そして、ヒヨドリの代わりに他の小鳥を狙います。こういう時にハヤブサがメジロを捕獲したところをよく見ますが、ハヤブサにとってさすがにメジロは小さすぎて、捕獲した後、鉄塔に戻ってくるまでの間に、たいていは空中で食べてしまいます。メジロではない他の小さな小鳥を持っている時(種名不明の時が多いです)も、小さなものは空中で食べてしまい、いったん鉄塔に戻って、すぐ次の獲物を求めて飛び立ちます。

 小鳥の重さ …… これを覚えておくと、ハヤブサ類やハイタカ属のハンティングの観察時にかなり役に立ちます。

   メジロ1羽 約11g、スズメ1羽はその倍の 約22g、ヒバリ1羽は3倍の 約33g。

   スズメに対して、ヒヨドリやムクドリは約4倍の 86gくらい(スズメ4羽分)。

   ヒヨドリやムクドリに対して、キジバトは約3倍の 248gくらい(ヒヨドリ3羽分)。

 たとえばハイタカ雄成鳥がヒヨドリくらいの大きさの獲物を捕ったとします。すると、この個体は今日はもう出てこないだろう(午前中は休憩して、もう午前中の出現はないだろう)ということが推測できます。ハイタカがメジロを捕ったとしても、メジロの体重は約11gですから、全部食べてしまっても、雄でも雌でもすぐに次の獲物を捕りに出てくるだろうと推測でき、次のハンティング観察の準備をすることができます。ハイタカにとってメジロはやや小さい獲物ですが、ハイタカよりも体の大きいハヤブサにとっては、なおさらメジロは小さく感じられます。にもかかわらずハヤブサがしばしばメジロを捕食する理由はメジロの個体数が多いことと、捕食者に対する脇の甘さ(メジロ自身の警戒心の低さ)があげられるだろうと思っています。

 ハヤブサが考えることはおそらく人間が考えることと同じで、できることならあまり小さな獲物ではなく、大きいものを食べたいだろうと思います。でも、あまり大きすぎると狩りが大変であったり、捕えても反撃されて危険な目に合うこともあって(これを避けるためにハヤブサは空中で獲物をすぐにはつかまず、蹴落とすことが多いです)、獲物はそこそこの大きさに落ち着きます。ハヤブサが一番好む獲物はハトくらいの大きさで、捕獲するにはアオバトが最高でしょうが、どこの海岸にでもアオバトがたくさんいるというわけではありません。ここではハヤブサのアオバト狩りは一度も見かけたことがありません。そうすると、獲物は小鳥類の中でもやや大きめのもので、そこそこ渡っていくものとなります。ツグミの仲間も大きさとしては適度ですが、秋から冬の初めにかけてこの岬を通過する群れはひじょうに少ないです。そういうことから、この時期、この岬ではイカルが一番狙われることになります。

 ハヤブサの捕えた、足に持っている獲物が何かは分かるときと分からない時があります。ヒヨドリの場合は下尾筒の太い特徴的な縞模様が分かれば確定的で、体全体の濃い灰色味や長い尾も識別の参考になります。イカルの場合は、下の画像のように、太くて大きな三角形に見える嘴の形と初列風切の白斑、下尾筒の白、全体の色合いなどでしょう。ヒヨドリやイカルの場合、撮った画像にはこれらが写っていることが多いです。


海上で捕えたイカルを持って鉄塔に帰ってきたハヤブサ成鳥 愛知県 10月 若杉撮影

 

 海の方へ渡っていったイカルの群れが大慌てで陸地へ戻ってくることがよくあります。海岸ぎりぎりの樹木や竹林に緊急避難的にバタバタととまったり、さらに奥地へと激しく羽ばたいて飛んでいきます。ゆったりと飛んでいくのではなく、海から引き返して、激しく羽ばたいて飛んで帰ります。こういう飛行を見ると、私の観察地点からハヤブサが見えない時でも、海岸部にハヤブサか何か他の鷹隼類がいるだろうということが推測できます。ハヤブサでなくて、ハイタカやツミがいたこともあります。オオタカが干潟のシギを襲ったところは見たことがありますが、海の上を群れで渡っていく小鳥を狙って海の上や海岸部まで出ていくオオタカはここではあまり多くなく、私は1回しか見たことがありません。

 下の画像はいったんは海上まで飛んでいったイカルの群れが慌てて引き返し、竹林のてっぺんにとまった時のものです。漫画みたいな吹き出しで文を入れましたが、イカルたちには命がかかっていて、真剣でした。


海から慌てて戻ってきて、枯竹にとまったイカルの会話(勝手な推測です) 愛知県 11月 若杉撮影

(Uploaded on 20 December 2021)

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薮内正幸さんは シロハヤブサを見ていた!


 鳥見人の世界には様々な伝説やうわさがあります。その伝説の一つに「薮内さんはシロハヤブサに出会えなかった」というものがあって、例えば下のように、月刊誌の特集のタイトルや表紙に大々的に取り上げられたりもしています。


BIRDER 2001年6月号(薮内正幸さん追悼特集号)の表紙

 

 東京住まいの薮内さんは一時期、毎年のように正月を北海道で迎えていました。主目的は根室でシロハヤブサに会うためでしたが、日ごろの神経を使う制作活動を休み、心許せる鳥仲間と飲んだり話したり鳥を見たり……シロハヤブサのいた雰囲気を身近に感じたり……で、何が何でもシロハヤブサをというほどではなかったのかもしれません。

 私は愛知県在住で薮内さんは東京にお住まいでしたので、お会いしたのはわずか(1985,1989,1993年に愛知県名古屋市近くで、1989年武蔵野市吉祥寺のアトリエで、1996年杉並区のご自宅で。この他に愛知県伊良湖岬で数回)ですが、手紙のやり取りはよくしていました。

 下の画像は今からちょうど40年前の1981年8月、薮内さんからいただいたはがきの表面です。文面は裏面が先で、その続きがこちらの面になっています(住所と文面の一部にモザイク)。


ちょうど40年前の1981年8月、薮内さんからのはがき。
文面は裏面が先で、その続きがこの面(一部モザイク)

 


1981年8月、薮内さんからのはがき(一部拡大)

 

 読んでいただければ分かるように、この前年、昭和55年(1980年)の年末に「シロハヤブサを見た」と書かれています。ただ、遠すぎたのか、あまりの短時間だったのか、吹雪だったのか、薮内さんにとっては「見たような気がしない」、だから「見たけど見ていない。見てないわけではないけど出会ったという気がしない」ということなんでしょう。皆さんにもそういう経験はおありでしょう。

 私も薮内さんの気持ちがよく分かります。たとえば去年の愛知県でのアカハラダカ。愛知県のとあるタカ渡りポイントで過去にアカハラダカの観察記録がないところです(私が愛知県でアカハラダカを見たのは伊良湖岬と岡崎市扇子山とここの3か所だけです)。9月14日 9:10、肉眼ではごく小さな黒い点にしか見えないような、鳥か風船か飛行機か何か分からない鳥らしきものに双眼鏡を向けたら、それはアカハラダカ成鳥でした。一緒に観察していた人たちに「あそこ、あそこ」と言っても「どこ? どこ?」というほど遠くて高いところを飛んでいました。確かに見ましたし、翼先の黒い部分も含めて写真に写っていましたので記録には残しましたが、まったく見たような気がしませんでした。

 アカハラダカでさえそうですから、思い入れの極度に強いタカやハヤブサの種に関しては、ちょっとばかりちらっと見ただけでは、それを見たことにはしたくないという気持ちがあって当然でしょう。見るのなら近くでじっくりと、虹彩の色、まぶたの瞬き、頭を左右に動かすところや羽繕いを見るとか、眼と眼があってドキドキしてしまったとか、飛んでいる時なら近くを飛んで重量感やスピード感が実感としてよく分かったというようなそういう会い方がしたいです。そうでなければ、「出現はあったけれども、見た気がしない。見ていない。出会っていない……」となるのでしょう。

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 上の手紙は薮内さんが41歳、私が29歳の時のものです。今の時代なら届くまでの時間が短く、画像が送れることなどからほとんどはメールですが、当時はやはり郵便が主流でした。そのころの私はほぼ毎日というほど誰かに手紙を書いていました。あまりにも多かったので、いつ書いたか、内容は何かなど時々忘れることもあって、同じことを同じ人に2度書いては失礼なので、大学ノート1冊を「郵便受払簿」にしていました。1行に1郵便で、日付、相手名、送か受か、はがきか封書か、(短く)内容などを書いていました。

 薮内さんとは電話もしていたのですが、神経を集中する細かな仕事が多い方だったので、そんな仕事中に電話をしては集中力を途切れさせてしまうだけですし、朝型人間の私と夜型人間の薮内さんはなかなか時間も合いませんので、電話は徐々に減っていって、手紙のやり取りが多くなりました。いただいたはがきや封書、小包などすべて今も保管してありますが、当時の私は他の多くの方とも頻繁に郵便のやり取りをしていて郵便物が増える一方だったので、いつからか封筒の中身だけ保存しておいて、封筒そのものや小包の宛て先ラベルなどはかなり処分してしまいました。今思うと惜しいことをしました。上の画像のように、宛て先そのもの(モザイクで雰囲気がかなり損なわれましたが)も素晴らしく芸術的でしたから……。

 (この文章で頭書の伝説を否定しているものではありません。見たことはあるけれども出会っていなかったという薮内さんらしい伝説は今もしっかりと残っています)

(Uploaded on 23 August 2021)

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雄と思われるハヤブサが 午前中だけで小鳥を4羽食べる


 10月中旬、海岸部へ2人でハヤブサを見に行きました。日の出時刻とほぼ同じ6:05から正午近い11:30まで観察しました。この地点では5日前に幼鳥が3個体と成鳥が1個体現れて、次々とメジロやヒヨドリを捕えて帰ってきましたので、この日も観察の目的はハヤブサのハンティングです(そうではなくても私の観察はいつもほとんどがハンティング目的です)。この日は幼鳥が2羽出ました。この雌雄だろうと思われる2羽は体の大きさと体色の濃さがかなり違っていて、小さい個体はひじょうに白っぽく、大きい個体は当初オオハヤブサではないかと思ったほどに体下面・翼下面が黒い色をしていました。以下、小さい個体を「白い方」、大きい個体を「黒い方」と書きます。2羽が同時に飛んだことは何度もありましたがやや遠かったり離れていましたので近くを並んで飛んだ画像を載せますが、近すぎたので角速度が大きくてピントが来ませんでした。大きさの比較だけならこの程度の画像で十分と思います。


この日出現した2羽のハヤブサ幼鳥。左が小さい「白い方」、右が大きい「黒い方」 10月 若杉撮影

 

 「白い方」「黒い方」と区別して呼ぶよりもほんとうは「小さい方」「大きい方」とした方が良いかもしれませんが、一緒に観察している友人同士が互いに伝える時には色の違いのほうが便利です。また、海の上の遠くから単独で帰ってくる個体を見ても、その都度距離が違うので大きさだけから個体識別すること(♂か♀かの判断をすること)は瞬時には難しいことがあります。この日は、双眼鏡でちらっと見てもすぐに分かるように……ということで体色の違いで呼び合っていました。この2羽の幼鳥の他にもし別個体の幼鳥が現れても間違わずに識別できるようにと思い、写真を十分に撮って、その都度個体識別をしていました。黒い方は初列風切や次列風切、尾に特に欠損はなく、白い方は左翼のP10がほぼ半分くらいのところで折れてポロッと欠け落ちていました。このP10欠損は個体が帰ってくるたびごとに確認しました。

 この日、黒い方は午前中に1回ヒヨドリを持って海のほうから帰ってきました。1回だけでした。私たちの近くにいない時間が少しありましたので、その時どこか他所の鉄塔や私たちから見えない木の枝で食べた可能性は否定できません。

 一方、小さい方の雄と思われる白い方は、午前中だけで4回小鳥を捕って帰ってきて、4回とも同じ携帯鉄塔の上で食べました。この日は朝から海上をヒヨドリの群れがたくさん渡っていきました。ハヤブサがヒヨドリの群れを追って狩りに出かけたことは確認できましたが、捕獲をする瞬間は海岸線から離れていて、時に樹木の陰になったり、遠かったりして、くっきりとは見えませんでした。獲物を持って鉄塔に帰ってくる方角は海のほうからでしたので、海上で捕獲しただろうと思います。4回の獲物のうち3回はヒヨドリでした。2人で写真を十分な枚数撮り、3回は下尾筒の羽縁のV字型模様がはっきりと写っていて、ヒヨドリと確認できました。下のような画像です。


小さな「白い方」がヒヨドリを捕えて陸上へ帰ってきた 10月 若杉撮影

 

 あと1回は羽や足から獲物が小鳥だということは分かりますが、種名は正確には分かりませんでした。大きさはおおよそヒヨドリ大で、特に目立った色などは写っていませんでしたが、一コマだけ嘴が黄色くて太く見える画像がありましたので、この日たくさん渡っていったイカルではないかと推測しています。この日の3日後にはハヤブサ成鳥が海上でイカルを捕えて同じ鉄塔に帰って食べているので、可能性は大きいと思います。

 「白い方」が獲物を捕らえて帰ってきた時刻(Mさん記録)は、

 1回目 ヒヨドリ  8時58分
 2回目 ヒヨドリ  9時29分 1回目の31分後
 3回目 ヒヨドリ 10時40分 2回目の71分後
 4回目 イカル? 11時05分 3回目の25分後 でした。

 春に生まれたばかりのハヤブサが半年後のこの時期にはもう十分にハンティングに精通していることがよく分かりました。「♂と思われる小さい方がヒヨドリほどの大きさの鳥を食べるのは午前中でせいぜい2回くらいだろう。小さい個体だからひょっとして1回かもしれない」と勝手に思い込んでいましたが、午前中だけで4回捕ってきて、その都度鉄塔の上でむしって食べました。「半日で食べるのはせいぜい2回くらいだろう」という私の見解は、ハヤブサに対して誤ったラベルを貼っただけのまったくの邪見でした。人とハヤブサはまったく別の生命ですから、「えっ、4回も?」などと、人間が勝手にびっくりしていてはいけないですね。そういえば初冬にハイタカ♂成鳥が目の前で急転降下してメジロを捕獲しました。私は「よい瞬間が見られた。でも、今日はこれでハンティングの観察はおしまいだな」と思い込んで、「他所へ別のハイタカのハンティングを見に行こうか」と決めて行き先を思案し始めていましたが、このハイタカはメジロを食べ終わった後、すぐに次の獲物を求めて私の目の前で活発なハンティングを再開しました。思い込みは正確な判断を妨げますので、推測以上に良くないことです。

 以前、この通信の 2012年10月22日付け(記事番号213)「ハヤブサ と ヒヨドリの宿命」というタイトルで、時間をおかずに相次いで2羽のヒヨドリを捕えてきたことを書きました。参照ください。鷹隼類は人間と違って、動き回ることが多い日はじっとしている日と比べて、単純に比例しないほどたくさんの食料を必要としますので、このハヤブサはこの時期(あるいはこの日)相当動き回っていたのでしょうか。オオタカと同じくハヤブサも、体が♀よりかなり小さい♂は、♀よりも俊敏に飛ぶことができて、獲物を捕る能力にも優れているのでしょう。 

 (2羽の大きさが著しく異なっていたので、小さい方が雄で大きい方が雌だろうと推測しますが、判断を避けて記述しました)

(Uploaded on 4 April 2021)

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ハヤブサのハンティングを予測する


 2020年1月下旬、友人2人を誘って一台の車で農耕地の鷹隼類を観察していました。この日はまだ暗い夜明け前から観察し、オオタカ成鳥2個体と尾羽R5だけが幼羽のほとんど成鳥に近い若鳥1個体、計3個体の狩りのようすを各所で見たり、枝どまりや獲物探索のようすを観察しました。狩りの対象はキジバトとドバトが中心でしたが、成功したと思われる場面はあったものの成功する瞬間は一度も見えませんでした。ハイタカ♂成鳥が雑木林の脇の崖の近くで目が覚めるような急降下をして、一羽のメジロを狙ってあわや!という距離まで迫りましたが、残念ながら地上付近の樹木にさえぎられてその後が見えなくなり、捕れたのか捕れなかったのか不明でした。この個体はそのあと一度も出現がなかったので、捕れた可能性はありますが、正確なことは分かりません。この日は他にミサゴ、ノスリ、トビ、チョウゲンボウ、コチョウゲンボウなどを見ました。

 さて、ハヤブサです。♂と思われる成鳥の活動が朝から活発で、田の上の低いところで種不明の中形の鳥を執拗に追いかけて捕りそこなったり、そのすぐ近くでヒバリらしき小鳥を追いかけるもまた失敗していました。その後しばらく見失っていましたが、ほどなくして送電鉄塔にとまりました。その鉄塔は周りの水田がある一帯よりはほんのわずかですが小高い丘の上にあり、ハヤブサは高さが鉄塔の中くらいのところにある踊り場の手すりにとまりました。南向きにとまり、視線も南を向いています。私は2人に「間もなく狩りをするので、先回りして、突っ込むであろう辺りで待ち構えましょう」と言いました。そして、耕地の真ん中のアスファルト上、鉄塔からは610メートル離れた道の隅に車を止めました。遠いのでハヤブサは小さくしか見えませんが、ここなら光線は順光で、他の車の通行の邪魔にもならず、狩りの全容が完全に把握でき、もし予想通りこちらに向かって飛んでくれば近くでハンティング写真も撮れます。両足を前に突き出してあわやキジバトを掴むであろうという瞬間を撮影できるかも……と3人で妄想しながら。

 待っているうちにすぐ20分が経過しましたが、全く動きがありません。昔、この通信のコチョウゲンボウのフォルダーに書いたことがありますが、「この電線上のコチョウゲンボウはすぐに狩りをしますよ、あそこで待ちましょう」と友人に予測したものの、待っても待ってもなかなか狩りをしなかったので、そのことを思い出して、ちょっと後悔しました(でも、そのコチョウゲンボウは直後に目の前で狩りをしました)。このハヤブサもそのうが膨れていなくて、つい先ほど狩りに2回失敗したばかりでもあり、体と視線は真南の同じ方向に固定されていて、まさに獲物を探索しているように見えます。突っ込まないはずがないのですが、私たちの乗っている車のほうに必ず飛んでくるとは限らないので心配になって、「目の前に飛んできて狩りをしますよ、なんてことを言わなければよかった」とまたまた後悔。私は「狩りはするだろうけどひょっとしてここには飛んで来ないかもしれません」と言いましたが、優しい2人なので、「いいよ、いいよ。こうして待っている間も普段は見ない普通種の鳥の生態がじっくりと見えるからいいよ」と。

 そうこうするうち車を停めてから35分ほど経過して、我々の集中力が低下してしまった時、目の前でスズメ10数羽の群れとムクドリ数羽、ドバト数羽が一斉に飛び立ちました。慌てたようなびっくりした飛び方ではなかったのですが、3種が同時に飛び立ったので、私はハッとして鉄塔を見ると、ハヤブサがいません。3人で周りを見ると民家の建物と樹木をバックにハヤブサが地上すれすれといってもいいほどの低い高度で、しかしかなりの猛スピードで滑空と羽ばたきを交えて私たちの車に接近してきました。飛び立った鳥などを狙ってのハンティングでした(たぶんハヤブサが飛び立って近づいてきたので鳥たちは飛んだのでしょう)。3人の目の前、車の前方35メートルの地上かなり低いところを通過して、どうもムクドリを狙うような飛び方をして、突然かなり激しく急上昇をしましたが、ムクドリには逃げられました。ハヤブサは小さな旋回をしながらぐいぐいと上昇して、近くの別の送電鉄塔にとまりましたが、すぐにハシブトガラスに追われて少し離れた別の鉄塔にとまりました。目の前の近いところでみごとな高速滑空とハンティングシーンが見られたことは嬉しかったのですが、それよりも私は安堵というか、ほっとして胸をなでおろしました(ハヤブサがこちらに飛んできてよかった……と)。


別の日のハヤブサ 成鳥 愛知県 1月 若杉撮影

 

 結果的には良かったのですが、反省点はあります。

1 2人以上でいる時は、誰か一人は必ずハヤブサの動きに常時注目していなくてはいけない。人の集中力は長続きしないから、交代しながらでもよいので誰かがハヤブサに集中していること。
2 飛び立ったら目を離さずとことん追跡する心の準備をしておく。
3 この日は空バックで接近して狩りをすると思い込んでしまっていたが、地形を考えるとそうではなかった。小高い丘の上の鉄塔だったので、鉄塔から飛び立ってすぐに高度を下げても、斜面を滑るように降下することが可能で、羽ばたきを交えた高速滑空をすることができた。
4 飛行コースの予測はいろいろな可能性を考えるべき。どちらに飛んでもある程度は狩りの全体像が分かる程度に。
5 予言するときは「来るかもしれない」程度の言葉にしておく。「あちらに飛びます。あそこで待ちましょう」などと言わないほうが精神衛生上は良い(たぶん、私は再び言うだろうと思いますが……)。 

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 2021年、本年もよろしくお願いいたします。去年は1月~6月の半年間で観察できたハンティングの回数は 157回でしたというところまで書いて、その後はハンティングの観察回数を記録することはやめました。私個人が狩りの瞬間を何回見たかということは特に意味がないからです。でも、私は鷹隼類の飛翔に興味がありますので、たぶん今年もオオタカ、ハイタカ、ハヤブサ、コチョウゲンボウを中心として狩りの瞬間を見続けることと思います。

(Uploaded on 1 January 2021)

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ハヤブサは 鳥の大群を意図的に分断するのか


 愛知県尾張部では300~400羽ほどのドバトの大きな群れをよく見かけます。高圧送電線にとまっていたり、大きめな工場や穀物倉庫の屋根の上、刈田や草地などにいます。2020年1月は、ハヤブサがドバトの群れに突っ込むところを頻繁に目撃しました。「頻繁に」というのは行けばほぼ毎回見られたという意味ですが、1ヶ月もすると、ハトは居場所を変えてしまいました。ハヤブサが来なくなればそのうちハトはいつもの居場所に戻ってくると思います。

 ハヤブサがハトの群れに突っ込んでもハトはすぐには群れを離れようとはしませんので、ハヤブサは下の画像(この時点でドバトは約135羽)のように大きなハトの群れに何度も突っ込んで捕らえようとします。最初の一回目の攻撃でみごとにハトを捕らえることもありますが、多くの場合失敗します。


ドバトの群れに突っ込むハヤブサ成鳥。画面内に写っているハトは約135羽 愛知県 1月 若杉撮影

 

 何度もハトの群れに突っ込むうちに、下の画像のように、1羽のハトが群れから離れることがあります。群れから離れた1羽を照準にして、ハヤブサは強い羽ばたきで急速に速度を上げて追いかけ、ハトに迫ります。そして追いついてハヤブサが足を出す瞬間にハトは一瞬に身を翻してハヤブサを交わしてしまうことが多いです。もちろんこういう状況で捕まえることもあります。


群れから離れた1羽のハトに照準を絞り、高速で追跡するハヤブサ成鳥 愛知県 1月 若杉撮影

 

 早々に捕獲できればそれでおしまいですが、捕まえられない時にはハヤブサは何度も群れに突っ込んでいきますから、ハトの群れは次第に小さくなることが多いです。この地点のハトは10~20羽ほどの群れに分かれることが多いです。ハヤブサによって大群が分断されたような感じ、蹴散らかされたような感じです。

 ハヤブサに初めからハトの大群を分断させて小さな群れにしようという意図があるのかないのか気になるところですが、ハヤブサは最初の突っ込みの時から本気でハトを捕ろうと狙ってハトの近くで両足を伸ばしています。捕れないと何度も何度も突っ込みますからそのうちに逃げ惑う群れが自然と分断されて小群になっていくのだろうと私は考えています。ハヤブサにとっては小さな群れの方が捕りやすいでしょうが、もし捕れるなら少しでも早いうちに(群れが大きくても)捕ろうという意識(意欲)が感じられます。別の言い方をすれば「初めから捕る気もなくただ群れを小さくしようとすることだけを考えて何度も群れに突っ込むわけではない」ということです。小群になるというのはあくまでも結果だと思います。

(2020年3月29日のNHK総合テレビ「ダーウィンが来た!」で、カナダのファンディー湾に集まるヒレアシトウネンを襲うハヤブサが紹介されていました。そこでハヤブサがヒレアシトウネンの大きな群れを意図的に分断するような説明がされていましたが、それも、どうやら何度も失敗しているうちに群れが結果的に小さくなっていったということのように思われます。ハヤブサが現れて、一番最初(の頃)の攻撃で群れの端っこの1羽を捕る寸前までいっていたように、ハヤブサはどんな大きな群れでも、初めから捕る気満々なのが普通です)

 ハヤブサが獲物を捕らえることができた時も失敗だった時も、ハヤブサが去ってからハトは徐々に元いた場所へ戻ってきます。ここのハトは、30分~1時間くらいは戻ってこない時が多いですが、そのうち小群ごとに固まって戻ってきます。1羽だけで戻ることは少ないです。

 ところが、ハトがこのような小群でいる時はけっこう危険な時間帯です。オオタカが現れるのです。1月15日にはハトの群れがさんざんハヤブサに攻撃されて小群になった後にオオタカ♀幼鳥が現れて、あっという間に1羽のハトを捕らえました。ハヤブサに31分間にわたりさんざん追いかけ回されて疲れ切ったところにオオタカが現れたので、あっけなく捕まってしまったのだろうかと思うほどの素早いハンティングでした。ハトを捕らえたオオタカは農耕地の中にあるわずかな空き地(背の低いクロマツが何本も生えているところ)に降りましたが、その後で、どんでん返しが3度もありました。

 (話が込みいって複雑になりますので、ここで切って次回に続きます) 

 続きは  オオタカとノスリの(心配な)種間関係(←ここをクリック)  です。2020年4月18日更新。

(Uploaded on 30 March 2020)

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ハヤブサが 送電鉄塔を遮蔽物に利用


 2020年1月、愛知県内でのことです。私は友人と2人で背の高い鉄塔のてっぺんにとまる1羽のハヤブサ♂成鳥をずっと見続けていました。

 鉄塔上にとまるハヤブサは多くの場合、下の図の破線矢印 (1) (2) のように、

(1) 旋回上昇してさらに高度を上げて、獲物を襲う
(2) 紡錘形になり、急降下してスピードを上げて獲物を襲う

ところを見かけます。鉄塔は高層ビルと同じで高い位置にとまれますので、どちらかというと (2) が多いように感じています。ところがこのハヤブサは (1) でも (2) でもなく、 ちょっとおもしろい飛行による狩りをしました。


ハヤブサが鉄塔を遮蔽物に利用した狩りを行う 愛知県 1月 若杉観察

 

 ハヤブサが図の右端にいるドバトの群れを襲ったのですが、その飛行が旋回上昇 (1) でも急降下 (2) でもなく、図のような水平飛行だったのです。ハヤブサはずっと1時間以上同じところにとまったままでしたので、ハトはハヤブサがいることを知っていたと思うのですが、ハトから見るとハヤブサが水平に飛んできたので、ハヤブサが鉄塔の陰になって見えなかったと思われます。ハヤブサからすれば、鉄塔の陰に隠れながらハトに気付かれずに接近することができます。これはオオタカがさまざまなものを遮蔽物として利用し獲物に近づく方法と同じです。

 その証拠に、ふだんだったらハヤブサが狩りをしようとその気で近づいてくれば、すべてのハトが一斉にパニックになったように慌てふためいて逃げるのですが、この時はハヤブサが力強く羽ばたいて、ハトにどんどん近づいていっても一番鉄塔に近いところにとまっていた数羽がパラパラと下に降りるだけでした。さらに近づいても、また数羽が降りる程度でした。送電線に最後まで残った大多数のハトはきれいに一直線上に(電線が少したわんでいるので一曲線上に)並んでとまっていたため、ハヤブサのいた位置から見るとハトは一点(一かたまり)に見えて、逆にハトの方からはハヤブサが鉄塔の陰になって、さらに他のハトの陰にもなってしまい、ハヤブサが近づいてくるところが見えないような位置関係でした。ハヤブサに一番近かった一部のハトがハヤブサの接近に気付いて下へ降りていっても、他のハトにはなぜ彼らが降りていったか理解できなかったのでしょう。

 ハヤブサがどんどん近づいていってもハトがちっとも逃げないので、ようすを見ていた私たちは、「これは捕まるだろうな」「捕れなくてもかなりの線までいくだろうな」と確信しましたが、最後にじゃまが入りました。ハトに一番近い鉄塔のすぐ近くの架空地線にとまっていた1羽のハシブトガラスがハヤブサの進路を遮るような状態で上方向へ飛び立ったのです。カラスが狩りのじゃまをしようとしたのか、ハヤブサの接近でカラスが単にびっくりしただけなのか、カラスは自分が狩りの対象になっていると思ったのか、いろいろ考えられますが、カラスが飛び立った理由は不明です。ハヤブサは進路を妨げられた分だけ上昇し、小さな急旋回をしてから急降下に入りましたが、その分の時間がロスになり、その間にハトは一斉に1羽残らず下方に逃げていきました。ハヤブサはハトを追って送電線の少し下まで飛んでいきましたが、ほどなくあきらめました。

 この時の動きをまとめると、

ハヤブサ♂成鳥 … この鉄塔のてっぺんにとまってからは一度も飛び立たず、同じ位置にいた。頭を左右や下方に動かしていた(警戒か獲物探索か)が、飢えた感じはそれほどなかった。そのうは膨らんでいなかった。
ドバトの群れ … 送電線にとまったり、田に降りたり、近くを飛び回ったり、またとまったり……とさかんに動いていた。
ハシブトガラス1羽 … ハヤブサが狩りを始めるほんの少し前に1羽だけで架空地線にとまった。
私 … ハヤブサがこの鉄塔にとまる前から、ずっと全体の動きを1時間以上見続けていた。

 という状態でした。

 上図の (1) 旋回上昇や(2) 急降下のほうが速度を得ることがたやすいのでハンティングの成功率も高そうなのに、なぜここでこういう狩りを開始したかよく分かりません。ひょっとしたら、

1 ハヤブサにはハシブトガラスが見えなかったか? (見晴らしがよいので、その可能性はなさそう)
2 カラスがじゃまをしない、カラスがいても支障はないと判断したか? 
3 今回の狩りの方法を選んだのは、オオタカのハンティングの真似をしたからか?
4 今回のような狩りで今まで成功したことがあるからなのか?

 このハヤブサは換羽の状態から考えると、少なくとも2回は完全換羽をすませているようで、年齢は少なくとも(間もなく)3歳以上になるはずです。その間、野外で獲物を捕り続けることができていたわけですから狩りの能力は十分だったと思われます。

 ハンティングを開始してから終了するまでに何が起こるかは、人間にもハヤブサにも予測不能です。想定もしないじゃまが入ることはよくありますし、相手がどう反応するかはその時々で違います。いくら因果関係といってもそこに介在する条件が刻一刻と変化してきますので、ごく近い先のことでもとても読み切ることはできません。自動車の運転に例えて言うと、郊外の片道一車線の道路を走行中、あと5分ほどで目的地に到着できると予想していたのに、急に農耕用トラクターが前に現れてかなりの低速で進んでいくので追い抜くこともできなくなったとか、ナビにも載っていないようなところで工事のため片側交互通行になって長時間待たされるとか、そのようなことはしょっちゅう普通にあることですが、狩りの瞬間もそんなことがよく起こります。オオタカが狩りをしているとノスリが急に目の前に現れて狩りのじゃまをされた時とか、いつも人がいないところなのに狩りの瞬間に限って散歩の人が向こうから現れたとか、そんな感じに似ています。

 さらに、ハヤブサが何を考えているのか、なぜそういう行動をとるのか、私がいくら考えても分からないことばかりです。ハヤブサの思考、行動、感情などが人間にも分かるはずだ!というのはちょっと、思い上がり、おごりかもしれないですが、人間と鷹隼類の思考や感情の共通点と相違点を知りたい私は、これからも「じっくりと見る」という観察を続けます。  

(Uploaded on 18 February 2020)

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ハヤブサが チョウゲンボウを襲う


 前回の記事(2020.1.18付け 記事番号407「鷹隼類のハンティング回数 数え方」)で、去年一年間のハンティングの観察回数は380回と書きましたが、年末に一年分の狩りの回数をまとめて数えるのはめんどうだったので、今年は観察の都度、記録を付けています。1月1日から25日まででハンティングを見たのは44回(内訳は、オオタカ23回、ハヤブサ11回、ハイタカ4回、その他の鷹隼類6回)でした。獲物はキジバト、ドバト、チョウゲンボウ、メジロやスズメ、ムクドリ、不明小鳥類などがありましたが、多かったのはドバトです。(その他の鷹隼類6回)はハヤブサやオオタカを観察していた時に偶然目の前で見られたものですので、目的を持ってノスリやチョウゲンボウなどの狩りを観察すれば回数はもっと多くなると思います。

 25日間の観察で44回狩りが見られるならば今年1年間で、44×366÷25=642回のハンティングが見られる計算ですが、繁殖期はもっと頻繁に獲物を狙う可能性がありますし、梅雨時は観察に出かける回数が減りますし、いろいろ考えると予測不能です。1月で一番興味深かったのは、ハヤブサがチョウゲンボウを襲ったことです。

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  ハヤブサが チョウゲンボウを襲う

 2020年1月初旬、愛知県内の農耕地へタカを見に行き、最近よく使っている定点に入りました。周りを見回すと1.2キロメートル先の送電鉄塔のてっぺんにハヤブサがとまっていました。雌雄成幼を確認するためには距離が遠すぎたので、車で近くまで行ったら、♂と思われる成鳥でした。せっかくなので、ここでしばらく様子を観察することにしました。

 午前8時8分頃、鉄塔のすぐ近く、鉄塔の高さの半分ほどの高さをチョウゲンボウがゆっくりと南から北へ飛びました。鉄塔にいたハヤブサの真下を通り過ぎて少し行った頃、ハヤブサが飛び立ちチョウゲンボウに向かいました。初めは強い羽ばたきを交えた急降下で、急降下中なのに紡錘形にはならず羽ばたき続け、その後はほぼ水平方向に力強く羽ばたいて飛び、一気にチョウゲンボウに迫りました。チョウゲンボウの飛んだ軌跡の線(飛跡)とハヤブサの飛んだ軌跡の線がまるで2本の糸のように「結んだ」と思った瞬間、すぐにほどけてしまいました。

 注:「結ぶ」は江戸時代の鷹匠用語で、タカの飛跡と獲物の飛跡をそれぞれ1本の糸に見立てて、タカが獲物を捕った瞬間に糸の結び目ができるように見えることから、獲物を捕獲した時のことを表しています。獲物を持ったタカが糸の結び目に当たります。獲物を落としたり失敗したりすれば、糸は2本になり、結び目がほどけた(あるいは結ばれなかった)ことになります。


ハヤブサがチョウゲンボウを襲った 愛知県 1月 若杉

 

 一緒に観察していた友人が撮影した画像で確認すると2羽は画像上では重なり合っていましたが、どうも「結んで」なかったようです。前後のコマを確認しても羽が飛び散っている画像はありませんでした。チョウゲンボウはこの画像で分かる範囲で言うと頭部や尾羽に青灰色味はなく、尾の地色よりも上尾筒が淡色でした(青灰色味があった)ので、♀成鳥だろうと思われます。

 ハヤブサの急降下および水平飛行時の息つく暇もないほどの羽ばたきによるスピード感と、チョウゲンボウのひらひらしたややゆっくりとした飛び方がひじょうに対照的でした。チョウゲンボウはこの日近くをよく飛んでいたハトと比べると、ほんとうにパタパタとゆっくり飛ぶように見えてしまいました。

 この飛び方では捕獲されて当たり前なのですが、実はハヤブサが飛び立つ時、なで肩鉄塔のてっぺんの帽子と架空地線をつなぐ金具にハヤブサの足の爪が引っかかったようで、ごく短時間のことでしたがハヤブサが宙づりになってぶら下がるような状態になりました。爪は無事にすぐ外れたようですが、こういうアクシデントがなければ、ロスタイムがないことと同じなのでチョウゲンボウは捕られていたのかもしれません。そう考えると、このハヤブサはちょっとドジ?な行動をしてしまったように思います。

 タカ・ハヤブサ類が他のタカ・ハヤブサ類を捕食することはちょくちょくあって、ハヤブサが自分よりも小さいハイタカやツミなどを捕らえた事例がいくつか報告されています。私の観察ポイントにハイタカが小鳥をひんぱんに狙う地点がありますが、そこでもハヤブサが出現すると、ハイタカの活動が一気に低下します。ハヤブサが2羽出現したり、近くの鉄塔にとまっていたりすると、ハイタカはほとんど狩りをやめてしまいます。やはりハイタカはハヤブサに捕まることが怖いのです。そうは言っても、目の前でハヤブサがツミやハイタカを捕らえる狩りの一部始終を見たり、ツミやハイタカをぶら下げて飛んでいるところを見かけたりすることはあまり多くありません。ハヤブサではなくオオタカとツミの例ですが、マーリン通信の2019.11.23付けの記事No.404「ツミが逃げた!」に書いたように、やはり捕まる前に避けている、あるいは逃げているのでしょう。

(Uploaded on 29 January 2020)

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訃報 Tom J. Cade博士


 The Peregrine Fund(米国に本部がある「ハヤブサ基金」)の共同創設者の一人でコーネル大学教授等を務めたトム J. ケイド博士が2019年2月6日、91歳で亡くなられました。その日のうちにメーリングリストで世界中の会員に訃報が届きました。新聞等で報道されると思っていましたが、(たぶん)出ていないようなので、このMLメールを転載する形でここに載せます。画像はメールに添付されていたものです。

 私は博士にお会いしたことはないですが、ハヤブサ基金の創設者として、あるいは名著『THE FALCONS OF THE WORLD』(1982年発行)の著者として、ひじょうに大きな刺激を受けました。この著書は発行の翌年にすぐ入手し、よく読んだ思い出があります。

-------- Forwarded Message --------
Subject : In Memoriam: Tom J. Cade Ph.D.,
 Founding Chairman of The Peregrine Fund
Date : Wed, 06 Feb 2019 17:37:20 -0500
From : The Peregrine Fund
Reply-To : tpf@peregrinefund.org
To : Minoru Wakasugi
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 In Memoriam : Tom J. Cade Ph.D.

1928 – 2019

Founding Chairman

On a spring day in 1980, Dr. Tom Cade climbed into a Peregrine Falcon nest box on top of a release tower in Brigantine National Wildlife Refuge in New Jersey. Just a couple of years earlier, Tom’s team of biologists and falconers had bred, raised, and released the falcon pair that now raised their own family on this tower. These two birds were part of a nationwide recovery program for the species.

Peregrine Falcon populations had declined drastically in the 1950s and ‘60s due to the widespread use of DDT – a pesticide that interfered with calcium metabolism and caused birds to lay very thin-shelled eggs that would crack during incubation. By 1970, Peregrine Falcons were extinct in the eastern United States and fewer than 40 pairs were estimated to remain in the west. Dr. Cade, an ornithologist and lifelong falconer, was acutely aware of this decline and worked with others across the nation to ban the use of DDT and develop a recovery plan for our nation’s fastest animal.

Tom marked one of the proudest moments of his career atop that tower in the spring of 1980. That’s when he discovered three young nestlings—some of the first Peregrine chicks produced in the wild in eastern North America since the 1950s. Looking back on the day, Tom recalled, “I then understood that recovery of the Peregrine would be an accomplished fact in a few more years.”

He was right. In August of 1999, Tom stood on stage with then-Secretary of the Interior Bruce Babbitt to officially declare that the Peregrine Falcon was recovered in North America and had been removed from the Endangered Species List. To this day, it’s considered among the greatest conservation success stories of all time – Tom would refer to it as an effort of “teamwork and tenacity.”

In saving the Peregrine, Tom co-founded a non-profit conservation organization to effectively manage the financial support being offered by the public. Called The Peregrine Fund, this organization grew to become much more than he originally envisioned, and over the past five decades has worked with more than 100 species in 65 countries worldwide. Many species such as the Mauritius Kestrel, Northern Aplomado Falcon, several species of Asian Vultures, California Condor, and more are thriving today because of work The Peregrine Fund and its many partners have undertaken.

Dr. Tom Cade passed away today at age 91 years.

“The world of wildlife conservation has lost a pioneer and champion today,” said The Peregrine Fund’s President and CEO, Dr. Rick Watson. “Tom fought for Peregrines and practical conservation solutions, and mentored generations of passionate individuals. His reach extended around the globe to inspire raptor research and conservation on virtually every continent and on behalf of hundreds of species.”

“While we are devastated by his passing, we are uplifted knowing his legacy lives on in this organization, and among his many students, friends, followers, and supporters. We’re grateful Tom continued to travel, write, practice falconry, and visit with the staff up until his last days. His advice, conviction, and gentle presence will be sorely missed.”

“Our thoughts are with Tom’s wife and devoted partner, Renetta, and their children and grandchildren in this time of loss.”

Since his first ornithological survey of St. Lawrence Island in the Bering Sea in 1950, Tom’s passion for natural history and his professional career spanned nearly seventy years. It involved teaching at Syracuse University and Cornell Lab of Ornithology in New York, post-doctoral research on desert birds and raptors in southern Africa, starting the Peregrine breeding program at Cornell University, co-founding and leading The Peregrine Fund, and researching the critically endangered Mauritius Kestrel.

The Board and staff of The Peregrine Fund mourn the loss of their co-founder and mentor, one of the world’s most visionary conservationists and widely respected scientists, Professor Tom Cade.

  ------- 以上 転載 --------------------------------

 博士のご冥福をお祈りいたします。

(Uploaded on 14 February 2019)

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下からオオタカ 上からハヤブサ… 挟み撃ちされたハト


 2018年11月、愛知県内の農耕地へ鳥を見に行きました。「鳥」といっても私の場合は40年以上前から「鳥見」=「タカ見」で、タカ類・ハヤブサ類以外の鳥はタカの出現待ちの間に出る鳥を見るだけのことが多いです。とは言っても、さまざまな環境へ出かけていってタカ類の出現を待つ時間がけっこう長いので、それなりに多種の鳥が見られます。一時はシギ・チドリ類に強い興味があって足繁く干潟に通ったこともありましたが、シギの群れにハヤブサが突っ込むとか、後背地の樹林からオオタカが飛び出てきて中形シギを追いかけるとか、そういう経験を何度もしているうちにいつの間にかシギ類を見ていても鷹隼類の出現を待ちわびるようになっていました(もちろん今もシギ類は好きです)。

 さて、この日の地点は農耕地や雑木林、果樹園等がモザイク状になっているところです。主目的はタカ類のハンティングを見ることで、ハヤブサ類が出ればなお嬉しいと思っていました。

 9時少し過ぎた頃、地上5mほどの高さでハトを追うオオタカ♂成鳥を見つけました。ハトはオオタカに追いつかれないように力いっぱい羽ばたいて飛び、少しずつ上へ上がろうとしていました。ハトはタカよりも高い位置にいれば捕らえられる可能性が小さいことをよく知っています。ハトは羽ばたいて少しずつより高くへと上がっていきました。オオタカも力強く羽ばたいて距離を縮めようとしますが、それほど急には縮まりませんでした。鳥の種によっては草むらの中や水中に突っ込んで逃げ切るものがいますが、ハトは飛んでいる高度が低いときには雑木林の中へ逃げるか、あるいは上空へ上がりながら遠くまで逃げきるかのどちらかの場合が多いように思います。

 こういう時、もし距離が縮んでオオタカが足を突き出すころ、あるいは出す直前にハトはたいていの場合背面飛行になって急降下することでオオタカの攻撃をかわします。オオタカも直後に背面飛行になって降下し、ハトを捕らえようとします。ハトの飛翔力や年齢等にもよりますし、オオタカの狩りの能力にもよりますので一概には言えませんが、今までの私の経験では、ハトが降下するとオオタカのペースに持っていかれて捕らえられることが多いようです。

 この日、ハトはまだ距離があったので一度も降下せずにどんどん上へと上がっていきました。けっこう高くまで上がっていった時、南東方向から、ハトよりも高いところを思いっきり力強く羽ばたきながらハヤブサが近づいてきました。そしてすぐにハトの上からストーンと急降下しました。その時は捕れず、ハヤブサはすぐにまた急上昇して再度の急降下をしました。しかし、また捕れませんでした。急降下と急上昇を5回ほど繰り返した頃、私はオオタカに目をやりましたが、近くの電柱のてっぺんにとまって頭を上にやったり横にやったりしていました。ハヤブサは大きさだけから判断すると♀のようで、体下面の縦斑から幼鳥でした。このハヤブサはオオタカに追い上げられるハトを遠くのほうの(たとえば)送電鉄塔のてっぺんなどからじっくりと見ていて、飛び立つタイミングを見計らっていたのではないかと(私は)推測しています。


3週間後に同じ地点に現れたハヤブサ幼鳥(腹部の白さからたぶん同一個体か) 愛知県 12月 若杉

 

 その後、ハトとハヤブサは北方向へ飛んでいって、かなり遠くの方でもハヤブサは何度も急降下と急上昇を繰り返しました。最初から合計するとたぶん10数回急降下・急上昇をしたことになります。そうこうしているうちに、いったん双眼鏡から目を離したら二度と視野に入らないほどの距離になりました。飛翔能力の高そうなハトだったので、この日はたぶんそのまま捕らえることができなかったのではないかと推測しています。この後、再びオオタカのほうに目をやったら、先ほどまでの電柱上にはもういませんでした。

 ハトが捕らえられなかったとすると、それはハトの飛行能力が高く攻撃をかわすタイミングがよかったからなのか、ハヤブサが幼鳥だったので狩りの技術がまだ十分ではなかったからなのか、それとも両方なのかは分かりません。以前見たハヤブサ成鳥は飛んでいるハトの群れに近づいていって、あたかも「食卓の皿の上のたくあんを箸でつまむ」かの如くに、いとも簡単に苦もなく捕獲し足に持って飛び去ったことがあります。この時もハヤブサが狩りの能力に優れていたからなのか、あるいはハトがまだ若かったり、あるいは飛行能力のない個体だったからなのか、そのあたりはよく分からないです。

 ハトは後方からオオタカに激しく追われ、やむなく上昇して逃げていったら、こんどは上空から急降下するハヤブサに挟み撃ちのように襲われる。逃げて何度も交わしても繰り返し上空から襲われる……。ハトにしてみればかなりの恐怖だったでしょう(ハトが人間と同じような恐怖心を持つかどうかは不明です)。オオタカはこの近くで繁殖している個体で、獲物をよく巣に運んでいたので狩りの能力は高いように見受けられましたが、「今日はいいところで邪魔が入った」と思ったことでしょう(実は、意外とさっぱりしていたかもしれませんが…)。ハヤブサが獲物を捕ることができたかどうかは分かりませんが、ハヤブサはハトとオオタカに対して何を思ったでしょうか。

(Uploaded on 20 January 2019)

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(追 記)

 上の記事をアップロードした翌日の1月21日に、上に書いた地点から数十kmも離れたところで、オオタカとハヤブサが同時に獲物を追いかけるという、記事と同じようなシーンを見ました。アップした日の翌日ということなので、(少しですが)びっくりしました。

 午前9時30分頃、小雨が降って寒い中、刈田が広がる地点で何か鷹隼類が出ないかなと思いながら鳥を見ていました。すると突然ハト60羽ほどの群れが地面(田)から飛び立ちました。飛んでいくハトの後方からオオタカ成鳥が滑空飛行で追いかけていきました。この高さでかなりスピードのある滑空ということはそれまではどこかの高いところにいたか、遠くから飛んできて高度を下げたかであろうと思いました。ハトの群れもけっこう速いスピードで逃げていきましたので、オオタカは向きを変えたり羽ばたいたりしながらしつこく追いかけましたが捕れなくて、その後近くの樹林帯へ入っていくように見えました(樹林帯の近くの樹木の陰で見失ってしまいました)。

 オオタカを見失ったすぐ後でハトの群れを見ると群れががちりじりばらばらになって飛んでいたので、「あれっ? どうしたのか」と思いながらハトの後方を見るとハヤブサ成鳥が先ほどのオオタカよりもごくわずかですが高い高度でハトを追いかけていました。強く羽ばたいて狙いを定めた数羽のハトを先のオオタカのように追いかけました。オオタカのようにということはスケールの大きな急降下アタックや急上昇などはなかったということです(もちろんオオタカも時には急降下ハンティングや急上昇追跡をしますが……)。結局このハヤブサもハトを捕らえることができず、オオタカが入っていったであろう樹林帯の南のほうにある耕地へと降下していき、私からは樹木の陰になってしまい、すぐに見えなくなりました。

 大きさだけから推定するとオオタカ成鳥はたぶん♂、ハヤブサ成鳥はたぶん♀ではないかと思いますが、画像がないのではっきりしません。こういうスケールの大きな光景はなかなか画像にはしにくいですね。

(追記 Uploaded on 22 January 2019)

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ハヤブサは なぜ背面飛行したか?


 先回の記事「ハヤブサの背面飛行」(2018.2.1付け記事No.363)について、何人かの方から「なぜ背面飛行したのか」等のメールをいただきました。今日はこのことを考えてみます。

 ハヤブサが背面飛行をした時の状況をもう一度整理してまとめてみます。

1 ヒヨドリが海上の高いところを水平方向に速いスピードで羽ばたき飛行していた。その後にハヤブサが猛追していた。
2 ハヤブサがかなり近づいた時にヒヨドリが突然急降下した。
3 ハヤブサもヒヨドリを追ってすぐに急降下の体勢に入った。

という状況でした。ハヤブサは急降下する直前に背面飛行をしました。ハヤブサの飛行は

   水平羽ばたき飛行 → 背面飛行 → 急降下飛行(紡錘形) と変化しました。

 

 さて、この観察地点ではない別の場所で見たヒヨドリの急降下の画像を下に載せます。


ヒヨドリの急降下。先回の記事の時もこれと同じように「落ちる」という感じ

 

 ヒヨドリはこの画像には220羽ほどが写っていますが、画像の下の方にもいて計300羽くらいの群れでした。岬の先端近くから海へ出ようとしていた時に、急に降下し始めました。私は近くにハヤブサが来たものだと思い込んで探しましたが見つけられませんでした。近くにいたのはハイタカでした。ハイタカがヒヨドリを捕食することは全然おかしくないですが、ここのハイタカはメジロやカワラヒワなどをよく狙っていて、ごく普通にヒヨドリが飛んでいてもヒヨドリを捕ろうとしたところは一度も見たことがないので、「あれっ、ハヤブサではなくてハイタカ…?」と少し不思議でした。ただ、この日は時刻は違いますがハヤブサのMA・FA・F?Jの3羽が出現していますので、どこか遠くかあるいは私の目に入らないところをハヤブサが飛んだ可能性はあります。

 いずれにしてもヒヨドリが急降下する時には、写真のように真っ逆さまにかなりの速さで降下していきます。最初は水平方向を向いて飛んでいたものが写真のようにあちらこちらを向いて降下しています。体を少しずつ回転させながら、つまり「(軽い)きりもみ状態」で降下しています。

 ハヤブサがこの猛スピードで落下していくヒヨドリを捕らえるには、ヒヨドリの一枚上をいくスピードで急降下しないと追いつけないことになります。

 水平方向に飛んでいたハヤブサがただ単純に進行方向を下向きに変えて降下していたのでは、先に降下を始め必死で逃げるヒヨドリには追いつけません。ここで、背面飛行が役に立ってきます。理由をひとことで言うと、通常は上向きに働く「揚力」を反対の下向きに働かせて、さらに「羽ばたき」の力と「重力」の力で、普段の3倍!とまではいきませんが、かなりの急降下スピードを得ることができるということです。

 ハヤブサには 上昇気流さえも じゃま?

 サシバやハチクマ、ノスリなどのタカ類が上昇気流を使って渡りをすると、かなりの省エネになります。羽ばたくことにエネルギーを使わなくてすみ、翼をただ広げているだけで上昇することができ、通常でも上昇した高さのおよそ10倍ほどの水平距離を楽々と滑空することができます。しかし、ハイタカ属やハヤブサ類のような俊敏な狩りをする鷹隼類には、こういう気流さえもないほうがよい時やじゃまな時があるはずです。でも、実際はたいした影響はなくうまくクリアーしているようですし、渡りや移動時にはうまく利用しています。

 揚力さえも じゃま?

 さらに、揚力さえもじゃまな時があります。思いきり急降下したい時に、勝手に上向きに揚力が働いてしまって体に意に反した浮かび上がる力が働いてしまっては、ハヤブサの思い通りの飛行ができにくくなります。急降下したい時に上向きに働く「揚力」は明らかにじゃまで、ない方がよいです。

 揚力がじゃまですから、通常は上向きに働く揚力を下向きにしてしまって、降下速度をさらにアップさせようとするのが、背面飛行の目的と思われます。まとめると、

1 普段は上向きに働く揚力を下向き( ↓ )に変えて使う
2 羽ばたくことでさらに「下向き( ↓ )の揚力」を大きくする
3 重力はもちろん下向き( ↓ )に働く

 この1~3が同時にすべて下向き( ↓ )に働きますので、一気に速い速度の急降下に移ることができます。

 

( 注 )

 上に書いたことはあくまでも私の推論です。ヒヨドリの群れが急降下した直後にハヤブサも急降下し始めましたが、その急降下直前に背面飛行を行いましたので、状況から考えると大きく間違ってはいないように思います。「揚力」の説明にはたいてい旅客機や鳥類の翼の断面図が出てきますが、翼が平らなボール紙やケント紙でできた紙飛行機でも飛行は可能ですので、断面の形だけではなく「迎角」が大切になりますし、空気の「渦」のでき方なども大切なようです。これらのことも考えて推論しないといけないのですが…。

 鳥類の場合は飛行機と違って、風切羽と風切羽の間から自由に空気を逃がすことや、逆に雨覆の中に空気をため込むようなことができますので、我々の知らないような高度なメカニズムが働いている可能性が十分にあります。飛行機や自動車に関する風洞実験や高度な数値シミュレーションが鳥類の翼についても行われていますが、滑空時だけでなく、羽ばたき飛行中やホバリング時、ハンギング時、ソアリング時、急降下・急上昇時などのシミュレーションも必要ですし、先ほど書いた羽と羽の間から空気を逃がしたり蓄えたりしている時、紡錘形になって落下している時、翼を自由にたたんだり伸ばしたりしている時のシミュレーションも必要です。こういうことを考えると、やはり鳥類の飛行は飛行機の飛行よりもはるかに自由自在です。鳥類の飛行についての実験やシミュレーション、理論はこの先まだまだ進化するはずで、楽しみです。研究の余地が多く、研究テーマもたくさんあるように思います。

(Uploaded on 9 February 2018)

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ハヤブサ 約0.7秒間の背面飛行


 2017年10月下旬、日の出時刻の20分ほど前から太平洋岸のある海岸でハイタカの渡りを観察していました。一日中快晴でしたが、風がやや強く吹く日でした。夜が明けてしばらくしたらケアシノスリ幼鳥が近くに現れましたが、海を渡らずに東方向へゆっくり飛んでいきました(下の画像)。この日はハイタカ属(ハイタカやツミ、オオタカ)の渡りが多く、午前中けっこう楽しく観察していました。


ケアシノスリ Buteo lagopus 幼鳥 2017年10月 by Wakasugi

 

 さて、正午過ぎの12時47分のことです。ヒヨドリ20数羽の小さな群れが上空を激しく羽ばたき、スピードを出して海を渡り始めました。この地点から6~7km離れた海岸からはたくさんのヒヨドリが海上へ出ていきますが、この観察地点からは普段あまり多くのヒヨドリは渡っていかない上に、この時は比較的高い高度を飛んでいましたので、「このヒヨドリは珍しいな…」と思って見ていました。

 すると、ヒヨドリの後方にハヤブサ成鳥が確認できました。力強く激しく羽ばたいてかなりのスピードでヒヨドリを追っていて、見る見るうちに距離を縮めました。群れに突っ込むかという瞬間にヒヨドリはストンと急に高度を下げて、20数個の石が落下するように海面に向かって急降下しました。ハヤブサはみごとに交わされてしまいましたが、この直後に背面飛行をしました。秒10コマの高速連写で撮影した画像のうち連続した7枚に背面飛行の状態が写っていました。正確に0.1秒ごとにシャッターが切れていたかどうかは分かりませんが、単純に考えると約0.7秒間ほどの背面飛行だったようです。この7枚の直前の画像はほぼ通常の飛行姿勢で、直後の画像は紡錘形になった急降下の姿勢でした。7枚のうち3枚はピントが来てなかったので削除してしまいましたが、今思うといくらボケていても羽ばたきのようすや飛行の角度が分かるので残しておいた方がよかったです。

 小さな画像でピントも十分にはあっていませんが、背面飛行の状態の画像を時間順に左から右へ4枚並べてみました。短時間の背面飛行中でも、しっかりと羽ばたいている様子が分かります。


ハヤブサ Falco peregrinus 成鳥の背面飛行 2017年10月 by Wakasugi

 

 バックに景色が写っていれば一枚の合成写真をつくって、どのような順番で翼や体を動かしていたかが説明できると思いますが、背景が空でしたので飛んでいる位置が確定できず、正確な合成写真ができないのであきらめました。

 ハヤブサは短時間の背面飛行の後すぐに急降下してヒヨドリを追いかけましたが、私が立っていたところからは林の陰になって見えなくなり、狩りが成功したかどうかは分かりませんでした。海の上のハヤブサはスピード感、躍動感が感じられて、実にみごとな飛行でした。

 ここで、一つ分かったことがあります。 

 「マーリン通信」の2012年1月1日付けの記事「Snaproll しても タカ類・ハヤブサ類の頭は ぶらつかない」という記事で、どんなに激しくSnaproll つまり「急横転」しても、頭だけは水平を確保していることをタカ類や肉食哺乳類等で説明しました。5年前の記事で記事番号179です。ご覧ください。今回のハヤブサの背面飛行時には、頭部の水平を確保しようとしたかもしれませんが、さすがに背面飛行だと天地が完全に逆になってしまいますので頭の位置はどうなってしまうのでしょうか。上の画像を見る限りでは、ある程度の水平を確保しようとしているようですが、完全に水平にすることはどうも無理なようで、こちら向きでほぼ真横を向いているように見えます。しかもこの4枚ともほとんど頭の向きは変わっていません。

(Uploaded on 1 February 2018)

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薮内正幸美術館 「シロハヤブサと稀少な野鳥」展


 

 山梨県北杜市にある薮内正幸美術館で、「シロハヤブサと稀少な野鳥」展が、開催されています。ぜひ足をお運びください。

 会期 : 2017年3月18日(土) ~ 7月11日(火)
 開館時間 : 10:00 ~ 17:00 (入館は16:00まで)
 休館日 : 水曜日 (祝日の場合は開館)
        ※ 8月は無休
 入館料 : 大人(高校生以上) 500円
        小人(小・中学生) 200円
        就学前児童  無料
        ショップのみの利用  無料

 



薮内正幸美術館のHPから

 

 薮内さんとシロハヤブサについては、もう今では伝説と言ってもよいような逸話が残っています。それは、BIRDER 2001年6月号で特集が組まれるほどの有名な話でしたが、ここに書いていくとかなり長くなりますので、今日は省略します。


BIRDER 2001年6月号 表紙

 

  (Uploaded on 14 April 2017)

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ハヤブサ が メジロを捕る


 2016年12月25日、愛知県の海岸部へ鷹隼類の観察に出かけました。ハイタカの狩りのようすを見ることが目的でしたが、残念ながらハイタカは出現しませんでした。その代わり、ハヤブサがよく飛び回り、今までに経験したことがないほどのスピードで狩りをする場面を何度も見ることができました。たまたま私の立っていたところがハヤブサの急降下するコースに近かったからと思われます。

 私がこの岬に到着したのは夜明け前で、ハヤブサはまだ飛んでいませんでしたが、空が明るくなってしばらくしたら出現しました。どーんと曇って下面の模様などの細部が見にくい状態でしたが、長時間にわたって狩りの様子を見ることができました。そのスピードの速さに何度も驚嘆し続けました。この岬で今までしばしば観察しているハイタカ♂成鳥の急降下よりもスピードがはるかに速く、最速の急降下時にはカメラのファインダーやスコープからはみ出てしまうほどでした。

 しかし、14倍の防振双眼鏡でメジロを捕獲する瞬間をじっくりと観察することができました。この日一緒に観察した私の友人は、ハヤブサが翼を広げて45度の角度で降下するすぐ目の前(ほんとうにすぐ前!)にメジロが両翼と尾を全開にして口を開け、たぶん大きな声で叫んでいるであろうところを見事に撮影していました。私は双眼鏡で見ていましたので、捕獲の瞬間のシーンは撮影できませんでした。下の写真はメジロを捕獲し終えて、近くにある携帯電話会社の鉄塔に運ぶ途中です。画像がいまいちですので小さく掲載しますが、原画像ではメジロの白いアイリングやうぐいす色の体色がよく分かります。


メジロを捕らえて鉄塔に運ぶハヤブサ Canon100-400mm×1.4 f8 by Wakasugi

 

 鉄塔の上であっという間の短時間でメジロを食べ尽くして、ほとんど休憩する間もなく、海の方をじっと見ながら頭を上下に動かして獲物を探索し始めました。そして、程なく海上へと飛んで行きました。

 2012年10月7日の観察では、同所でハヤブサ♀幼鳥が今回と同じ鉄塔でヒヨドリを食べ終えたわずか7分後に鉄塔を飛び立ち、さらにその16分後に再び同じ鉄塔にヒヨドリを持って帰ってきたことがありました。ヒヨドリに比べると今回のメジロはうんと小さいですので、♂のハヤブサでもメジロ1羽ではきっと物足りなかったでしょう。見ているうちにすぐに海岸線近くで急降下の狩りを始めました。♂が狩りをしているうちに、そこへ♀のハヤブサ幼鳥が現れて、2羽は別々ですが狩りをし始めました。その後何度も急降下を繰り広げましたが、どちらのハヤブサも狩りに成功したかどうか分かりませんでした。

 この日は早いうちに私は他の地点へ行ってしまいましたが、少なくとも夜明け前から10時半までにハイタカは現れませんでした。ハヤブサの♂成鳥と♀幼鳥が、別々ですがこれほどのスピードで急降下の狩りを繰り返していてはハイタカには危険すぎます。いつ自分がハヤブサの食料になってしまうか分かりません。ハイタカにとってハヤブサはやはり恐ろしい天敵、捕食者です。

 ある人の観察では、ハヤブサが巣に運び入れた捕食鳥リストにハイタカとツミが記録されています。

(Uploaded on 14 January 2017)

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ハヤブサ類との付き合いかた ~保全の過去・現在・未来~


 バーダー2017年1月号は、ハヤブサ類の特集号です。下の写真は表紙です。


BIRDER 2017年1月号「ハヤブサ類」特集号 表紙

 

 特集の部分のタイトルのみ、以下に紹介します。

 [特集] ハヤブサ類大百科

・ タカとハヤブサ どこが違う? ハヤブサはワルぶったインコなのか?
   文・写真=山崎剛史

・ 魅力は精悍さと目力にあり [ハヤブサ類モノグラフ]
   - ハヤブサ Falco peregrinus 文=先崎啓究
   - シロハヤブサ Falco rusticolus 文=先崎啓究
   - チゴハヤブサ Falco subbuteo 文=原 星一
   - アカアシチョウゲンボウ Falco amurensis 文=高木慎介
   - コチョウゲンボウ Falco columbarius 文=先崎啓究
   - チョウゲンボウ Falco tinnunculus 文=先崎啓究

・ 今年の目標は日本のハヤブサを極める! [ハヤブサ類観察ガイド]
   文・写真=松木鴻諮

・ シロハヤブサの故郷を訪ねて  文・写真=澤 祐介

・ ハヤブサの捕獲成功率はどれくらい?  文・写真=山田一太

・ 暗闇のハンター ハヤブサ ~ハヤブサの夜間ハンティング~  文・写真=吉岡俊朗

・ ハヤブサ類との付き合いかた ~保全の過去・現在・未来~  文・写真=若杉 稔

・ シロハヤブサを愛した皇帝・フリードリッヒ二世
   中世の鷹狩りオタクが残した集大成 『鷹狩りの書』  文=吉越英之

 (以下は特集の別体です)

・ 時に「迷惑」な存在!? [ハヤブサに会いたくない人たち]
  - case1  GPS送信機を付けたハトがハヤブサの餌食に……  文・写真=時田賢一
  - case2  ハヤブサ類に狙われるコアジサシ親子  文・写真=奴賀俊光
  - case3  シギチのそばで、ハヤブサとの根比べ?!  文・写真=守屋年史

・ シロハヤブサを愛した皇帝・フリードリッヒ二世
   禁書とされた西欧で最初の「鳥類学書」  文=吉越英之

 

 30~31ページの「ハヤブサ類との付き合いかた ~保全の過去・現在・未来~」 は、下のようなレイアウトです。


BIRDER 2017年1月号P.30-31 「ハヤブサ類との付き合いかた」

 

 なお、著作権は(株) 文一総合出版にありますので、上の画像は解像度を低くして、画像を拡大しても文字は読めないようにしてあります。 

 

 筆者が今までに BIRDER 誌に書いた文章は、下記の通りです。今も購入できるバックナンバーがあります。

  1 BIRDER 1999年11月号の 66ページ 「Net で GO! GO! GO!」 マーリン通信の紹介
  2 BIRDER 2010年 2月号の 76~77ページ 「拝啓、薮内正幸様 ♯26」
  3 BIRDER 2012年 9月号特集の頭 8~9ページ 「ハヤブサとはどんな鳥か」
  4 BIRDER 2012年12月号特集の頭 6~7ページ 「冬のタカ観察の魅力とは?」
  5 BIRDER 2013年 9月号特集の中 20~21ページ 「ハイタカ属とはどんなタカたちか?」
  6 BIRDER 2014年 9月号特集の頭 4~5ページ 「夏鳥としてのサシバとハチクマ 観察の魅力」
  7 BIRDER 2014年 9月号特集の中24~25ページ 「サシバの幼鳥は何をしに日本へ来るのか?」
  8 BIRDER 2016年 2月号特集の頭18~19ページ 「水辺のワシタカ類 その観察の魅力」
  9 BIRDER 2017年 1月号特集の中30~31ページ 「ハヤブサ類との付き合いかた~保全の過去・現在・未来~」

(Uploaded on 17 December 2016)

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熊谷勝さんの新しい写真集 『ハヤブサ』


 熊谷勝さんの新しい写真集 『ハヤブサ』 が、2015年10月15日、青菁(せいせい)社から発売されました(奥付に記載の発行日は11月2日)。


写真集 『ハヤブサ』 の表紙など (出版社のHPから)

 

 青菁社のホームページに書かれている紹介文は、

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 カメラマン熊谷勝氏が自信を持って贈る世界最速の猛禽「ハヤブサ」の写真集。時速300キロ以上で飛翔する姿は迫力満点。

●著/熊谷勝
●サイズ/148×203
●総頁/96頁 ソフトカバー
●定価/1,500円+税
●ISBN/978-4-88350-185-4

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 サイズは用紙規格でいうと、A5横サイズです。

 

 私の感想は、

・ 写真がひじょうにシャープです。かなりのスピードで飛んでいるにもかかわらず、ぴたっとピントが合っています。レンズは、ニコンのED600mmF5.6です。私も、昔はこのレンズを使っていたのですが、AFが使えないのでやめてしまいました。でも、かなりよいレンズです。ハヤブサのスピードに合わせて手動でピントを合わせるのは、よほどの高い技術がないとできることではありません。

・ 去年、熊谷さんが出版された、『野の鳥の四季』(青菁社)の紹介文でも書きましたが、熊谷さんの写真はバックがひじょうに美しく、爽やかです。私たちがタカの写真を撮る時は、とにかくファインダーの中にタカを入れて、できる限りピントや露出を正確にということばかりに気持ちがいってしまいますが、熊谷さんの写真は、「バックはこのように写したい。バックにはこういう色が出る。このようにバックはぼける…」と、シャッターを切る前にすでに背景まで計算されつくしています。

・ ネット上で見る多くの人の写真には、撮影者を警戒しているものがけっこうありますが、この写真集にはそんな写真はまったくありません。オオタカと違ってハヤブサ類は虹彩が黒っぽいものが多く、全体に優しい猛禽にみえますが、そんな優しさを持ったハヤブサがよく表現されています。猛禽類に猛々しさだけを求める人がいますが、この写真集で意識を変えていただければ…と思います。

・ 熊谷さんの誠実で優しいお人柄が写真集のいたる所に表れています。

 

 この写真集の中から一枚紹介します(出版社のHPからコピーした画像ですので、写真集にはないロゴが入っています)。


写真集 『ハヤブサ』 12ページの一枚

 

 青菁社のホームページは、【 青菁社 】(← ここをクリック) です。「アマゾン amazon.co.jp」やその他のWebサイトの書籍販売でも、もちろん扱っています。鷹隼類ファン、ハヤブサファンの皆さまには、お薦めします。

  (Uploaded on 28 October 2015)

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SINRA 9月号にハヤブサの写真


 新潮社から隔月で発行されているSINRA(シンラ)という雑誌の9月号(7月24日発売)の巻頭グラビアに、熊谷勝さんのハヤブサの写真が10ページ載っています。舞台は室蘭で、アオバトを捕食するようすなどが写っています。


「SINRA」9月号の表紙

 

 以前、熊谷さんにお会いした時に、「三脚はそれなりの使用意義はあるけど、ことハヤブサの写真を撮るには、手持ちが一番だよ」と言っていらっしゃいました。私も確かにそう思います。今、氏が使っていらっしゃるのは、少し前のニッコール600mmF5.6、マニュアルフォーカスで、手ぶれ防止機能のないレンズです。オートフォーカスで手ぶれ防止機能付きが一般的となった現在、このレンズでこれだけの写真を撮ってしまうのは、さすがです。熊谷さんの写真は、いつもバックの処理が実にうまくいっています。なかなかこんなふうにはできませんが、かといってパソコンで処理したというわけではなく、計算し尽くされての撮影です。

 昔、私も同じ600mmのニコンレンズを使っていたのですが、これは確かにコンパクトで軽く、性能はよかったです。でも、だんだんと楽なほうへと流されてしまいました。最近の私は、キヤノンの600mmF4L ISⅡを、ほとんど手持ちで使っています。三脚を準備して、三脚にレンズを載せて待っているのですが、いざタカ類・ハヤブサ類が出現した時には三脚から外して、手持ちで追いかけます。三脚使用よりも、やはりこのほうがうまくいきます。ただし、腰痛には要注意です。

  

 熊谷さんから予告を聞きました。

 8月15日発売の「岳人」9月号から一年間、毎月、熊谷さんの写真が2ページずつ紹介されます。
 9月1日発売の「家庭画報」9月号に6ページ分、室蘭の渡り鳥が紹介されます。
 10月、青菁社(せいせいしゃ)から熊谷さんの写真集「ハヤブサ」が出版されます。 

(Uploaded on 2 August 2015)

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2015 Peregrine Fund Calendar


 ハヤブサ基金 (Peregrine Fund,USA) の猛禽類カレンダーを毎年紹介しています。2015年もすばらしい写真ばかりです。

 


ハヤブサ基金の2015年猛禽類カレンダーの表紙 ハヤブサのペア

 


2015 Peregrine Fund Calendar index

 

 左から右へ順に、
(上段)
  2014年11月 ケアシノスリ、  2014年12月 アメリカキンメフクロウ、  1月 アカオノスリ、  2月 アメリカチョウゲンボウ、  3月 ワキグロハヤブサ(オナガハヤブサ)
(中段)
  4月 シロハヤブサ、  5月 コシジロハゲワシ、  6月 ハイチノスリ(ヒスパニオラノスリ)、  7月 コウモリハヤブサ、  8月 サンショクウミワシ(サンショクワシ)
(下段)
  9月 カリフォルニアコンドル、  10月 タイタハヤブサ、  11月 ヤシハゲワシ(ヤシワシ)、  12月 オナガフクロウ

 サイズは、一枚の写真が32cm×24cmで、カレンダー全体は32cm×48cmです。2枚がフクロウ類で、他の12枚はタカ類・ハヤブサ類です。ウェブでの定価は郵送料込みで、一部$14.95 です。会員が購入する時は、一部$9.95です。会員には11月はじめに無料で配布されました。

 詳しくは、【 ここ 】 をご覧ください。できれば Member になってください。

(Uploaded on 24 November 2014)

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熊谷勝さんの 新しい写真集 『野の鳥の四季』


 平凡社から1991年に発行された大判の写真集『ハヤブサ』で、一躍、超一流写真家になった熊谷勝さんの新しい写真集『野の鳥の四季』が、京都に本社がある青菁(せいせい)社から出版されました。下の写真はその表紙です。2羽のメジロの向こうとこちらに淡く見えるピンク色はマユミの実です。


写真集 『野の鳥の四季』 の表紙

 

 青菁社のホームページに書かれている紹介文は、

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 鳥がいる風景の美しさ、「野鳥美」を求めて北海道室蘭で写真を撮り続ける熊谷勝氏。その数々の写真は、美しさ、そして力強さなどが表現され、まるで絵に描いた世界にも見えます。また猛スピードで飛ぶ鳥の姿を捉えた飛翔写真も迫力満点です。かっこよく、そして美しく生き続ける鳥たちを四季に纏めた写真集です。

〇 著/熊谷勝 (くまがい まさる)
〇 サイズ/148×203mm
〇 総頁/96頁 ソフトカバー
〇 定価/1,500円+税
〇 ISBN/978-4-88350-182-3

---------------

 私の感想は、
・ 背景が柔らかく、温かく写っている。画面全体の中で鳥は小さめにしてあるが、逆に、鳥が浮き出て、小鳥らしさやかわいらしさ、躍動感が伝わってくる。
・ 著者には、絵心がある。
・ 淡い光が重視されているので、ずっと見続けても疲れない。というか、逆に疲れがとれる。
・ 野鳥の2文字の「野」という部分を大切にしている。

 小鳥類だけではなく、ハヤブサ5枚、ハイタカ2枚、オオタカ2枚、ハチクマ2枚、ノスリ3枚、ケアシノスリ2枚、オオワシ2枚、オジロワシ3枚など、鷹隼類の写真が21枚入っています。

 今、世間でよく見られる写真は、ピンがきすぎ、というかシャープすぎて、見ていて疲れてしまうものが多いように思います。もちろんこの写真集の鳥にはピンがきていますが、背景とのからみで全体が温かくなっていて、癒やしの効果もあります。これからの野鳥写真のスタンダードになっていくものと思います。この写真集の中から一枚紹介します。出版社のHPからコピーした画像ですので、ロゴが入っています。


『野の鳥の四季』 から シマエナガ

 

 青菁社のホームページは、【 青菁社 】  です。「アマゾン amazon.co.jp」やその他のWebサイトの書籍販売でも、もちろん扱っています。

 

 私の自宅の書棚にある熊谷さんの本を紹介します。まず、先に述べたハヤブサの大判写真集です。いわゆるモノグラフが少ない日本では、当時、まさに画期的な作品でした。こういうタカ類・ハヤブサ類1種につき1冊の写真集とか研究書籍が欲しいなとずっと思っていました。初版は1991年4月で、当時、本体価格 4,950円でした。今も入手できるはずです。


1991年、平凡社から出版された大判写真集『ハヤブサ』

 

 次も、室蘭のハヤブサの写真集です。地球岬という名前をご存じの方は多いと思います。コンパクトな写真集ですが、うまくまとめられています。初版は1999年9月で、当時本体価格 1,300円でした。今も入手できます。


1999年、講談社から発行されたハヤブサの写真集 『地球岬に翔ぶ』

 

 もう一つは、子ども向けの写真集ですが、大人が読んでもかなり参考になります。1987年5月、偕成社発行で、当時の本体価格 980円でした。今、入手できるかどうか不明ですが、ネットで探せば何とかなるでしょう。


1987年、偕成社から発行されたハヤブサの子ども向け写真集

 

 他にも、文一総合出版から、『北国に舞う』という本が出ているのですが、私は持っていません。1998年5月発行で、当時の本体価格 1,500円でした。今、入手できるかどうか不明です。


1998年、文一総合出版から発行された『北国に舞う』

(Uploaded on 10 November 2014)

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2014  The Peregrine Fund 14-month calendar


 (アメリカの)ハヤブサ基金 The Peregrine Fund の2014年猛禽類カレンダーは、下のような表紙と構成になっています。今年も14ヶ月カレンダーで、写真はすばらしいものばかりです。

 


ハヤブサ基金の2014年猛禽類カレンダーの表紙 ハイイロチュウヒ ♂Ad

 


2014年猛禽類カレンダーの写真 index

左から右へ順に、
(上段)
  2013年11月 オーストラリアカタグロトビ、 2013年12月 メンフクロウ、 1月 ハイイロチュウヒ と ケアシノスリ、 2月 シロエリハゲワシ、 3月 ハヤブサ
(中段)
  4月 アメリカチョウゲンボウ、 5月 アシボソハイタカ、 6月 カリフォルニアコンドル、 7月 ウタオオタカ、 8月 ハイチノスリ
(下段)
  9月 マダラハゲワシ、 10月 モモアカノスリ(ハリスホーク)、 11月 オオタカ、 12月 カラフトフクロウ

 

 サイズは、一枚の写真が32cm×24cmで、カレンダー全体は32cm×48cmです。12月の2枚がフクロウ類で、他の12枚はタカ類・ハヤブサ類です。ウェブでの定価は郵送料込みで、一部$14.95 です。会員が購入する時は、一部$9.95です。会員には無料配布済み。

 詳しくは、【 ここ 】 をご覧ください。

(Uploaded on 4 December 2013)

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新刊 「Peregrine Falcon」 by Patrick Stirling-Aird


 「Peregrine Falcon」というタイトルの本は世界中でたくさん出ていますし、何冊か読んできましたが、この本が最新刊だということと、「バーダー」誌の書評がたいへん良かったことから、amazon で購入しました。カラー写真が多く、パラパラとめくるだけでもけっこう楽しい本です。これから円安が進むとはいうものの、ネットで注文でき、郵送料無料で翌々日には自宅に届き、支払いもクレジットで無料で済んで、1,966円はかなり魅力的です。

 昔のことを言ってはなんですが、私がタカ類・ハヤブサ類の研究を始めた1976年ころは、書籍の注文書がイギリスやアメリカに届くのに1週間、荷物が船便で日本に届くのに50~60日間、代金を支払うためにとなりの市の銀行へ行ってめんどうな為替を作る手数料が2,000~3,000円、為替を海外へ送るのにまた郵送料と1週間がかかるという状態でした。今は、これらの時間がほとんど一瞬またはごく短期間で済んでしまいますし、また、注文や送金の代金が無料でできますので、ほんとうにありがたいことです。

 著者は Patrick Stirling-Aird さん。出版社は New Holland Publishers Ltd です。英語で、128ページ。ISBN-10: 1847737692、ISBN-13: 978-1847737694。発売日は 2012年5月1日、ハードカバーで、サイズは 19.8 × 25.2 cmです。私はじゅうぶん楽しみました。


Patrick Stirling-Aird著 『Peregrine Falcon』

 

(Uploaded on 25 February 2013)

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冬の干拓地 ハヤブサの波状急降下


 2013年1月12日、越冬中のタカ類・ハヤブサ類のようすを見に、愛知県Y川の河口にある干拓地へ出かけました。いつも、車の動き方には2種類あって、一つは、そろりそろりとゆっくり走り、土手にとまっているチュウヒ類や、土塊の上にとまっているコチョウゲンボウを見つけるという方法です。二つ目は、「定点」というほどではないのですが、なるべく干拓地の広い範囲が見渡せる干拓地のすみっこに車を止めて、じっと動かずに全体のようすを見るという方法です。どちらかというと私は後者のほうが多いでしょうか。

 さて、車の中でじっとしていた10時08分、やや遠いですが、ハヤブサ Falco peregrinus が急降下するところが目に入ってきました。下の写真のような軌跡を描いて中型の鳥類を攻撃しました。


干拓地のハヤブサ Falco peregrinus 波状急降下のようす

 

 写真の左上でハヤブサに気がつきました。これよりも前に攻撃をしていたかとか、どこから飛び立ったのか、それは分かりません。ハヤブサは翼をW型に、あるいは体を紡錘形にして急降下していきました。1回目は捕獲失敗で、すぐにはばたきながら急上昇をしました。上昇のスピードは目を見はるほど速く、まさに運動エネルギーを一瞬に位置エネルギーに変えているという感じです。はばたきながらの上昇ですが、はばたく必要がないほどの速さで瞬間的に上昇していきました。上がった高さは写真の鉄塔のてっぺんとほぼ同じくらいです。かなりの高さです。そして2回目の攻撃も失敗し、3回目の攻撃も図のようにおこないましたが、ちょうどこの頃、ハシボソガラスとハシブトガラスが混ざって100羽ほどと、ドバト約20羽、トビ2羽が地面から飛び立ち、カラスは騒ぎながら、ぐるぐると舞い始めました。ハヤブサは狩りのじゃまをされたようなかんじになり、追われた鳥は写真の右にある林のほうへ(あるいは林のむこうへ)逃げていきました。ハヤブサはくるりと舞い戻って、図のように鉄塔の下の方にとまりました。遠いのでスコープで見ると、胸や腹が縦斑の幼鳥でした。

 昨年の2月に、コチョウゲンボウがこのハヤブサと同じような狩りをするところを見ました。左目次の、「コチョウゲンボウ」フォルダーの中の「12.02.07 コチョウゲンボウは小鳥にとって 脅威!」をごらんください。今回のハヤブサの狩りとその時のコチョウゲンボウの狩りを比較すると、次のような違いがありました。

 〇 ハヤブサは上昇高度が高い。コチョウゲンボウの上昇高度は堤防の高さの約2倍程度でしたが、ハヤブサはその都度、高い鉄塔のてっぺんあたりまで上昇していました。
 〇 コチョウゲンボウのほうが動きが俊敏で、一回の攻撃にかける時間が短かったです。ハヤブサは高い位置まで上がるぶん、時間がかかるようで、一回の攻撃にかける時間は長かったです。
 〇 急降下するスピードはハヤブサのほうが速い気がしました。高い位置まで上がるので、それだけスピードがつくようでした。
 〇 コチョウゲンボウの狩りはまさにジグザグ攻撃でした。ハヤブサもジグザグ攻撃ではあるのですが、攻撃の瞬間は水平に少し進んで攻撃をしていました。スピードがある分だけ、地面との激突が起こりやすいからなのでしょうか。ジグザグ攻撃というよりもどちらかというと波状攻撃という表現のほうが近い感じでした。
 〇 ハヤブサが岬の先端で海上を渡るヒヨドリを狙う時とはかなり違った攻撃でした。獲物と地面までの距離がひじょうに短いことが原因と推測しています。

 コチョウゲンボウにしてもハヤブサにしても、どちらもそのスピードにはいつも感嘆させられます。まさに、驚異的なスピードと他にはあまり見られない俊敏さです。

(Uploaded on 17 January 2013)

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ハヤブサ基金の14ヶ月カレンダー 届く


 (アメリカの)ハヤブサ基金の猛禽類カレンダーがいつもより早く届きました。年会費を今までの2倍にしたので早く来たのかなと勝手に思っていたら、そうではなく、11月から始まる14ヶ月カレンダーでした。なぜ14ヶ月なのかよく分かりませんが、写真はシャープで切れのよいすばらしいものばかりです。


ハヤブサ基金の14ヶ月カレンダー 2013年の写真 index

 

左から右へ順に、
(上段)
  2012年12月 アメリカチョウゲンボウ、2012年11月 アカエリクマタカ(幼鳥)、1月 サンショクワシ、2月 ノスリ、3月 ハヤブサ
(中段)
  4月 シロハヤブサ(ジャーファルコン)のヒナ、5月 カリフォルニアコンドル、6月 ウオノスリ、7月 イヌワシ、8月 ハイチノスリ(幼鳥)
(下段)
  9月 シロエリハゲワシ、10月 シロハヤブサとソウゲンハヤブサ(プレーリーファルコン)、11月 シロフクロウ、12月 メガネフクロウ

 11月のアカエリクマタカ(幼鳥)の写真は、今年度のハヤブサ基金の Online Calendar Photo Competition で、1位になったものです。キヤノンのEOS7Dで撮影されました。ロンドンオリンピックの写真撮影でもそうでしたが、生態写真の分野でも、日本製のカメラや超望遠レンズ、特にキヤノン製品は多く使われています。うれしいですね。

 サイズは、一枚の写真が32cm×24cmで、カレンダー全体は32cm×55cmです。14枚すべて猛禽類です。会員には無料配布されました。ウェブでの定価は郵送料込みで、一部$14.95 です。会員が購入する時は、一部$9.95です。

 詳しくは、【 ここ 】をご覧ください。そして、もし、興味がおありでしたら、Member になってください。

(Uploaded on 9 November 2012)

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ハヤブサ と ヒヨドリの 「宿命」


 2012年10月7日、愛知県内の海が望める山に建つ鉄塔で、ヒヨドリを食べ終えたばかりのハヤブサが、ほんの10分か20分後に、またヒヨドリを捕らえてきて同じ鉄塔で食べるという場面を見ました。つまり、続けざまに2羽のヒヨドリを食べたということです。ところが翌週の10月14日にも、これとほとんど同じことを、あたかもビデオテープを再生しているかのように目撃しました。さすがにこの日は時刻や動きを細かく記録しようと思い、メモをとりました。ハヤブサはメスの幼鳥です。胴体と頭部の相対的な大きさの比率と、近くに来たハシブトガラスの体の大きさとの比較からメスと判断しました。

 ハヤブサ♀幼鳥が2羽のヒヨドリを食べるようす(時刻は午前)

10月14日の1回目
 7:20 ハヤブサが何かを足につかんで、鉄塔にとまる。全体の体色や尾の長さ、下尾筒の独特な模様などからヒヨドリと確認。
 7:21 鉄塔にとまって1分後、羽をむしり始める。
 7:29 むしり終わったヒヨドリの肉をひきちぎり食べ始める。
 7:40 食べ終わる。鉄塔の梁でくちばしをぬぐう。体震い(たぶるい)をする。足の第2趾(内趾)でくちばしのつけ根付近を掃除する。片足で立つ。
 7:47 鉄塔から飛び去る。

10月14日の2回目
 8:03 再び、同じハヤブサがヒヨドリをつかんで、鉄塔にとまる。すぐにむしらず、じっとしている。
 8:05 羽をむしり始める。ハシブトガラスが近くに来たので気にしながらも時間をかけて必死にむしる。
 8:13 むしり終わって、肉を食べ始める。
 8:17 ハシブトガラスにちょっかいをかけられたので、獲物を足に持ったままいったん飛び立つが、すぐに鉄塔に戻る。しばらく辺りを見回した後、再び食べ始める。
 8:36 食べ終わる。くちばしを梁でぬぐう。足の爪でくちばしのつけ根付近を掃除する。ハシブトガラスを警戒して、キョロキョロと落ち着かないようす。
 8:50 鉄塔から飛び去る。この後、少なくとも11時30分までは鉄塔に帰ってこなかった。

 7:20~8:50までの1時間30分で、2羽のヒヨドリをたいらげたことになります。実質は、7:21~8:36までの1時間15分でした。また、1回目、食べ終わって7時47分に鉄塔を飛び立ってから再びヒヨドリを捕まえて鉄塔に戻ってくるまでの時間はたったの16分間でした。一日目(10月7日)もこれが10数分の時間でしたから、このハヤブサは、まだ産まれて半年という幼鳥にもかかわらず、よほど狩りが得意なようです。

 4回の獲物はいずれもヒヨドリでした。秋の渡りの時期、ヒヨドリはハヤブサの格好の獲物になっています。伊良湖岬の先端近くの松の木から飛び立って旋回上昇し、急転直下、獲物を蹴落として捕らえるハヤブサを何度も見てきましたが、その小鳥は、私の見る限りいつもヒヨドリでした。NHKのテレビ番組で見た津軽海峡の秋のハヤブサも、やはりヒヨドリを捕らえていました。伊良湖岬で秋に確認できたハヤブサの獲物はヒヨドリだけですが、他の時期には、さまざまな違う鳥類を捕らえています。その中には、けっこう珍しい鳥も含まれています。


記事とは別個体のハヤブサ Falco peregrinus (成鳥)が小鳥を持つ

 

 秋の渡りの時期、ヒヨドリがハヤブサの獲物になる理由は、

〇 たくさんのヒヨドリが大挙して次から次へと渡っていく。その数がひじょうに多い。数100羽から2,000羽の群れもよく見られる。ある岬では、累計がワンシーズンで数十万羽を超えているかもしれない。
〇 ヒヨドリ以外の小鳥も多種類が渡る。特に、カワラヒワ・マヒワ・メジロ・ツバメなどが多く、他の小鳥も年によってはかなり多いことがあるが、鳴き声は比較的小さい。ところがヒヨドリは大声で激しく鳴くことが多く、なぜかよく目立つ。
〇 ヒヨドリはハヤブサが獲物にするのにちょうど適した大きさの鳥である。
〇 ヒヨドリの飛行能力が低いわけではないが、瞬時に攻撃をかわしたりよけたりすることがやや苦手か? 時にだんご状に密集して飛行することもあるので、かわそうにもかわせきれないことがあり得る。

 ハヤブサに限らず、鳥類は飛行に適した体のつくり・しくみになっています。例えば、食べたものは速やかに消化され、老廃物はひじょうに早く排泄されます。哺乳類と比べたらけた違いに代謝が早いです。夕方に獲物を食べたとしても、十数時間後の翌朝には空腹になっていることでしょう。メスのハヤブサならヒヨドリを2羽続けて食べたとしても、不思議ではないです。

 タカ類・ハヤブサ類がどの程度の量の食料を食べるのかは、ほとんどその日一日の運動量で決まってきます。木の枝でじっとしている一日と、高速で羽ばたき続けることの多い日とでは、食べる量はびっくりするほど大きく異なります。この差は人間のそれ以上に顕著に表れてきます。また、一般的には、冬に食べる量は夏よりも若干多いようです。

 さて、地元の方に話を聞くと、この鉄塔でハヤブサが獲物を食べているところをしばしば目撃されるようです。たまたま私が見た2日だけのことではなく、このハヤブサは、連日このような「ヒヨドリ2羽」という朝食をとっているのかもしれません。

(Uploaded on 22 October 2012)

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日本の鷹隼類 環境省レッドリスト(2) シマハヤブサ


 (注)2012年版環境省レッドリスト(2012.8.28公表)で、シマハヤブサ Falco peregrinus furuitii は「DD:情報不足種」に指定されました。

 その理由として、環境省は、「1920年代から1930年代に硫黄列島の北硫黄島でのみ標本が得られていた種であるが、その後50年以上記録が無く、近年行われた2度の調査でもハヤブサ類は確認できていないことから、硫黄列島のシマハヤブサ個体群は絶滅したと判断した。しかしながら、伊豆諸島で確認されているハヤブサ類について亜種識別がされておらず、シマハヤブサが伊豆諸島に生息している可能性が残されていることから、情報不足(DD)とした。」と記述しています。(2012.8.28追記)

   ◇ ◇ ◇

 


特殊鳥類切手「シマハヤブサ」 Falco peregrinus furuitii

 

 上の写真は、特殊鳥類切手シリーズとして発行された10種類の鳥類の一つ「シマハヤブサ」です。このシリーズの最後の第5集として1984年6月22日に発行されています。また、12月10日には、モノトーンですが、シリーズの中のシマフクロウとカンムリワシ、シマハヤブサの3種類を組み合わせた小型シートも発行されています。私はカラーのシマハヤブサの切手をたくさん買って、当時は、ほとんどすべての郵便物にこの切手を貼っていました。使いすぎて、今では、わずかしか手元に残っていません。

 切手の原画の元になった写真は、Mさんのものですが、本州で撮影した亜種ハヤブサです。亜種シマハヤブサではないのですが、これはしかたないことと思います。というのも、今、このハヤブサの亜種、シマハヤブサを見た人がいったい何人いるでしょうか。ひょっとして絶滅したのではないか?とも思われるからです。

 2006年版の環境省レッドリストで、絶滅危惧ⅠA類(CR) に指定されているシマハヤブサ Falco peregrinus furuitii は、現状がどうなっているのか情報がまったく入ってきません。そもそも、この亜種自体が亜種として独立して成立しているのかという疑問さえあります。次回のレッドリスト見直し作業で、シマハヤブサがどう扱われるのか興味のあるところです。「絶滅」にランクされる可能性があります。

 ネット上のデータとしては、山階鳥類研究所の「標本データベース」で検索できます。また、RDB (Red Data Book) の情報として、環境省の絶滅危惧種情報検索ファイル【 こちら 】 が参考になります。2006年の改訂の前までは、絶滅危惧ⅠB類(EN) に指定されており、この年に CR にランクアップされましたので、このファイルでは、まだ昔のままのENになっています。

 この情報ファイルには、
【摘要】で
 「火山列島付近に生息し、分布域がきわめて限られた日本固有の亜種。1920~1930年代に北硫黄島で31羽ほどが採集されたが、第二次大戦以後は、1982年の南硫黄島の調査時にも生息は確認できず、繁殖・生息現況などほとんどが不明である。分類学的にはオオハヤブサ(F. p. pealei )に近縁という見方もある。」 と記述されています。オオハヤブサは種ハヤブサの亜種です。以下、同様に、

【形態】では
 「本亜種は種ハヤブサ(Falco peregrinus )の中では大きい方であるが、亜種ハヤブサ(F. p. japonensis )よりはやや小さい。全長オス約38cm、メス約46cm、翼長オス30~31cm、メス35~36cmで、体色は褐色みが強く、腹部から胸部の斑紋が太く大きい点で、オオハヤブサに似て見える。」と、

【分布の概要】では
 「生息が確認されているのは火山列島の北硫黄島だけで、小笠原諸島で生息の可能性があるものの確認はされておらず、分布域はきわめて限られている。本亜種は、本土の亜種ハヤブサよりも、北太平洋地域に分布するオオハヤブサに近縁とする見方もある。」と、

【生物学的特性】では
 「詳細は不明だが、基本的には亜種ハヤブサと同様と考えられる。海洋島にすむ種ハヤブサの各亜種は、海鳥のコロニーや渡り鳥などに食物を依存している可能性が高い。」と、

【分布域とその動向】では
 「標本資料(山階鳥類研究所所蔵)によると、本亜種の主な採集地は北硫黄島(周囲8.8km、標高792m)であるが、1932年2月に八丈島で採集された個体もある。しかし、本亜種が伊豆諸島で繁殖しているかどうかは不明である。また、1990年代に鳥島でハヤブサの目撃例があるが、本亜種かどうかは不明である。」と、

【個体数とその動向】では
 「北硫黄島では1925~35年に標本の採集が行われ、13年間で23羽、および年代不明の標本を含めると31羽が採集されている(山階鳥類研究所所蔵)。初期の1925年に成鳥メス1羽、1928年に成鳥オス1羽が得られたほかは、すべて幼鳥であった。1929年には、5~11月の間に6羽が採集されたが、第二次世界大戦以降、居住民がいなくなり、渡航することが困難になったこともあり、その後の状況は不明である。」と、

【生息地の現況とその動向】では
 「現在、小笠原諸島および伊豆諸島に生息しているかどうかは、調査が行われておらず、不明である。」と、

【存続を脅かしている原因とその時代的変化】では、
 「北硫黄島では、第二次世界大戦時に環境の激変があったと思われるが、それ以降は、生息が確認されていないことから、北硫黄島の個体群はすでに絶滅した可能性もある。1982年の繁殖期(6月10~22日)に南硫黄島を訪れた塚本(1982)らは、本亜種の生息を確認していない。」と、

【特記事項】では
 「WhiteとBoyceは、本亜種は亜種ハヤブサよりも亜種オオハヤブサに近縁だと考えており、北太平洋地域の亜種ハヤブサの個体群間の進化を知る上でも大変貴重な亜種である。」と記述されています。

【参考文献】として、次の4つがあげられています。
1. Minton, J., 1994. Measurements of 21 Falco peregrinus furuitii specimens. Strix, 13: 247-249.
2. 森岡照明・叶内拓哉・川田隆・山形則男、1995.図鑑日本のワシタカ類.文一総合出版、東京.631pp.
3. 塚本洋三、1982.南硫黄島の鳥類.南硫黄島原生自然環境保全地域調査報告書、pp. 249-285.環境庁自然保護局、東京.
4. White, C. M., and Boyce, D. A. Jr., 1988. An Overview of Peregrine Falcon Subspecies. In: Cade, Enderson, Thelander, and White (eds.), Peregrine Falcon Populations,pp. 789-810. The Peregrine Fund, Inc. Boise, Idaho.

 Minton, J.氏の文献1.は 【 こちら 】で見ることができます。

(Uploaded on 1 June 2012)

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タカ科とハヤブサ科の違い(7) 造巣、人の「錯覚」


 ほとんどのタカ科の鳥は、樹木や岩の上、岩棚などに木の枝などを積み上げて巣を作ります。一部の小鳥類でみられる芸術的ともいえるような巣ではありませんが、それでも太い枝や細い枝を巧みに使って風雨で落ちないような頑丈な巣を作りあげます。トビなどでは、巣材の一部に軍手やぼろ布などが含まれることもありますが、ほとんどの種ではほぼすべてが天然の素材です。巣の中心の産座には、枝よりも柔らかい草や木の葉、ササの葉などが敷かれます。

 これに対して、ハヤブサ科の鳥は、カラカラ類を除いてほとんどの鳥が巣材を集めることはしません。自然界では、断崖の岩棚や横穴、大木の樹洞、地面の上、他の鳥類(タカ類やカラスなど)の古巣あるいは横取りした巣などに産卵します。人工物での繁殖場所としては、大きな橋のパイプの穴の中、渡り廊下の屋根の裏、建物の換気口、ビルのくぼんだ部分やベランダ、鉄塔や煙突、人が作った人工の巣などが知られています。

 fauna や flora は常に移り変わり、変化します。タカの分布域も同じで、短い期間でもよく変わります。最近、都市部にさかんに進出しているタカ類やハヤブサ類がいますが、しかし、タカの仲間がビルのベランダに営巣したという事例はまだありません。人工建物での繁殖は今のところ、ハヤブサ類に限られているようです。

 

 【タカ科とハヤブサ科の その他の違い】

・ 初列風切の羽形がタカ類は複雑で、欠刻がみられます。逆にハヤブサ類の羽は単純で、内弁にも外弁にもほとんど欠刻というものが見られません。

・ タカ類には翼先突出数という概念がありますが、ハヤブサ類にはありません。ハヤブサ類の翼の先は突出せず、翼全体がとがって見えます。

・ 体中の羽毛を膨らませる時、タカ類は胸からお腹にかけて縦に大きく二つに(左右に)割れますが、ハヤブサ類は縦に3つに分かれます。

・ タカ類はフンをピシュッと遠くに飛ばしますが、ハヤブサ類は近くにプスッと落とす程度です(ヒナは違いますが)。

・ ハヤブサ類にはハヤブサ髭があります。タカ類にはほとんどありません。

・ ハヤブサ類は瞳も虹彩も茶色ですので、(主観的な表現ですが)かわいらしく見えます。これに対してタカ類は虹彩が黄色い種が多いので凜々しく、あるいは威圧的に見えるものが多いように感じます。

 タカ科とハヤブサ科は元々祖先が違ったのですが、「昼行性」であるということと、「猛禽」であるということが同じであったために、形質が「収斂(しゅうれん)・相近(そうきん)」し、そっくりになりました。そっくりになったために人は今まで「錯覚」していましたが、よく見てみると、実は違いもたくさんあるということが分かってきたわけです。

 7回にわたってタカ科とハヤブサ科の違いを述べてきました。やはりこの2つの科は大きく異なります。というよりも、科が異なる以上の違いが見られます。将来(近いうちに)、明確に異なる目に分類されることになるでしょう。(このシリーズ 終わり)

(Uploaded on 1 May 2012)

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タカ科とハヤブサ科の違い(6) 換羽パターン


 野外観察で鳥類の換羽のようす(換羽パターン)を詳しく調べることは、ひじょうに難しいです。動物園でも、たくさんの鳥類が一緒にいたり、一人で多種の生きものを担当していらっしゃるのできめ細かい換羽の順序を調べることは相当やっかいなことと思われます。そんな中で、換羽パターンの調査は国内においても海外においても、過去も現在も鷹匠に負うところが大きいです。

 江戸時代の鷹匠やその手明き(てあき=補助者、助手)は、換羽時期になると毎朝鷹部屋の中に落ちている羽を拾います。それも、竹竿の先にモチを少しだけ付けて、「臆病口」と呼ばれる小さな窓からそっと鷹部屋の中に竹竿を差し込んで、タカを脅さないようにして取り出します。そして、半紙に記録をしっかりととって残します。これを当時「星付け」と言っていました。

 タカ類・ハヤブサ類の換羽を詳細に記述するとひじょうに膨大な量になりますので、ここでは初列風切と尾羽のみについて述べます。初列風切は翼先端から胴体側に向かって順に、P10、P9、P8、P7、P6、P5、P4、P3、P2、P1と呼ばれています。P1のとなりはS1です。Pは Primaries の略、SはSecondaries の略です。尾羽は、最外側の羽をR6とし、中央に向かって順に、R5、R4、R3、R2、R1(中央尾羽)と呼んでいます。Rは Rear からきているのでしょうか。

 さて、ここでは、タカ科の代表としてオオタカを、ハヤブサ科の代表としてハヤブサをとりあげます。実際はそれぞれの科の中でも種によって若干の違いがありますが、大まかな基本線は同じです。

 まず、初列風切についてです。

 オオタカは、P1→2→3→4→5→6→7→8→9→10 と、実に規則正しく順番に換羽していきます。
 これに対してハヤブサは、P4→3→2→1 というユニットと、P5→6→7→8→9→10 というユニットに二つに分かれてそれぞれ反対方向へ換羽していきます。初列風切の中央付近で大きな分かれ目ができて、逆向きに換羽していくというわけです。オオタカとハヤブサではまったく違う換羽式になります。

 次に、尾羽についてです。

 オオタカは、R1→6→3→4→5→2 という順に換羽します。一見、むちゃくちゃなように見えます。これをどう解釈するかですが、私は、R6とR2が単独に換羽して、その他はR1→3→4→5 と順に換羽するという第一案と、R6のみが単独に換羽し、R1→2 のユニットとR3→4→5 のユニットに分かれるとする第二案の二つを考えています。どちらがよいでしょうか。以前にも「マーリン通信」に、R6とR1は特別な羽であることを記述したことがありますが、他の羽と比べて、やや違った意味合いを持つ羽です。ただ、R2についてはそんなに特別な羽という概念が見いだせませんので、このあたりはやはり不可解です。


中央尾羽のみが換羽したコチョウゲンボウ(1月9日、若杉撮影)

 

 これに対してハヤブサは、R1→2→3→6→4→5 というふうに換羽します。ハヤブサの尾羽については、明らかに、最外側尾羽R6だけを特別視すれば中央から規則的に換羽すると考えればよいことが分かります。オオタカもハヤブサも中央尾羽(R1)から換羽がスタートします。オオタカとハヤブサともに比較的よく似た換羽式になっています。

 いずれにしても、タカ科とハヤブサ科とでは換羽パターンにかなりの違いがあります。換羽パターンが異なるということは、科の分類にとってひじょうに大きな意味を持つことです。

(Uploaded on 1 April 2012)

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タカ科とハヤブサ科の違い(5) 虹彩の色


 海外のハヤブサ類には、派手な色の虹彩を持つ種がいますが、日本産の多くのハヤブサ類の虹彩は、暗黒色、暗褐色です。瞳も同じように黒色ですので、目全体が黒く大きく見えます。このため、虹彩が黄色くてとぎすまされたような鋭さのある一部のタカに比べて、ハヤブサ類はかわいらしく見えることがあります。ヒナの時は別として、成鳥・幼鳥、オス・メスで虹彩の色にあまり大きな変化は見られません。

 これに対して、たとえばタカ科のオオタカ(オス)の虹彩は、一生の間に、水色 → 白色 → 薄い黄色 → 黄色 → 濃い黄色 → オレンジ色 → 赤色 と変わっていきます。ある程度は、これで年令が想像できます。もちろん個体差がありますし、亜種によってもかなりの違いがありますので、一概には正確な年令の判定まではできません。たとえば、北アメリカ産のオオタカは日本産のオオタカよりも、かなり早くから赤くなります。

 ハヤブサ類とタカ類は、顔を見た時の印象だけでも大きく異なるような気がします。


ヒトの虹彩(Wikipediaより)
中央の黒は瞳、その周りが虹彩。

 

 ノスリ(タカ科)は幼鳥の時に虹彩は黄色ですが、成鳥になるころには褐色になります。これとまったく反対に、チュウヒ(タカ科)は幼鳥の時には虹彩は褐色ですが、オスは成鳥になると黄色になり、メスも多くが黄色になっていきます。ただし、成鳥になるとかならずすべてのチュウヒがこのように変わるというわけではないですので、成鳥か幼鳥かの判定には注意が必要です。

 成鳥になると、「黄色になってにらみをきかす」という戦略と、「褐色になって穏やかな顔で獲物に逃げられないようにする」という戦略があるようにも思えます。また、虹彩の色は種によってかなり異なりますし、同じ種でも雌雄によって大きな違いがあります。ハチクマ(タカ科)のように、幼鳥の時は褐色だった虹彩が、オスは成鳥になっても褐色のままなのに対して、メスは成鳥になると黄色になっていくというパターンもあります。虹彩の色の変化は皆それぞれで、なかなかおもしろいですね。

(余談)
 人の虹彩の写真(上)を見ていると、つくづくと、人と鳥は同じような目の構造だと思います。目だけではなく、心臓や肝臓、消化器官などさまざまな臓器が、多少のちがいはありますが、多くの生物に共通しています。人だけが特別な存在ではなく、同じ仲間がこの地球上にたくさんいるということは、ほんとうにうれしいことですね。

(Uploaded on 20 March 2012)

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タカ科とハヤブサ科の違い(4) 鼻孔突起


 ほとんどのタカ類の鼻孔は蝋膜(ろうまく)の中央付近にあります。

 これは、ハヤブサ科の鳥についても同じことがいえますが、下の図のように、ハヤブサ類には鼻孔の中央に鼻孔突起と呼ばれる不思議な「突起物」があります。


ハヤブサの鼻孔突起

 

 なぜ、こんな突起物があるのでしょうか。ハヤブサ類の研究で世界的に有名な、Tom J. Cade 博士著の、『 The Falcons of the world 』 には、次のように書かれています。

 The nostrils (nares),which in falcons are a small circular to oval apertures in the cere,each possess a prominent,central bony tubercle,which is an extension of the septum that produces a whirled,conch-like passage in the anterior nasal cavity.
 It has been said to function as a baffle to slow down the stream of air through the nasal passages as an aid to proper respiration when a falcon is flying at great speed in a stoop (see Grossman and Hamlet 1964,Peterson 1948).
 There is no experimental evidence for such a function,and it seems unlikely in view of the fact that eagles and other raptors,which have large nares lacking such tubercles,also stoop vertically at high speeds,while the slow, largely cursorial savannah hawk of South America has independently evolved a very similar structure in its nares.
 Perhaps the tubercle functions in some as yet undetermined way in olfaction,or an even more intriguing possibility is that it could function to indicate air speed by sensing changes in pressure or temperature produced by differing external air-stream velocities,in much the same way that Mangold (1946) suggested for the valve-like pockets in the nasal chambers of fulmars,shearwaters and albatrosses.
 Such a sensory system would doubtless be highly adaptive for a predator that depends so much on speed for success in capturing prey.

 参考 : nostril 鼻孔、cere 蝋膜、central bony tubercle 鼻孔突起

 今まで、鼻孔突起は、ハヤブサが猛スピードで急降下飛行をしても、うまく気流の流れを調節して呼吸がしやすいように、隔壁のような役割を持つといわれてきました。でも、これは実験的には何も証明されていないようです。実際、猛スピードで急降下するワシ類はハヤブサ類よりももっと大きな鼻孔を持っていますが、これらのワシ類には鼻孔突起はありません。鼻孔突起の役目は、おそらく、なにか嗅覚に関係しているような働きをしているか、あるいはハヤブサ自身のスピードセンサー(速度計)として使われているのではないかと考えられています。

 早く、実験で確かめられるといいですね。いずれにしても、このような鼻孔突起があるかないかで、やはり、ハヤブサ類とタカ類は大きく異なるような気がします。

(Uploaded on 3 March 2012)

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タカ科とハヤブサ科の違い(3) 上くちばしの形


 タカ科とハヤブサ科の上くちばし(上嘴=うわはし)はともに大きく湾曲して鈎状になっています。しかし、くちばし側面の中央付近の形状は大きく異なっています。ハヤブサ科の上嘴の中央付近には、下図のようにしっかりとした「嘴縁(しえん)突起」と呼ばれる突起が見られ、下嘴には逆に「嘴縁欠刻」というくぼんだ部分があります。これに対して、タカ科の上嘴にはわずかな波や突起のように湾曲した部分は存在しますが、ハヤブサ類ほどは目立ちません。


Grenys,Derek Lloyd共著『猛禽類』より  ハヤブサ類のくちばし

 

 前回はタカ科とハヤブサ科の獲物の捕り方に大きな違いがあるということを述べました。今回は、獲物を捕った後について述べます。

 獲物を捕った後、オオタカはまだ生きている獲物を足で押さえつけ、爪を食い込ませて、手当たりしだいにどんどん羽をむしり始めます。肉が見えてきたら食べられるところからくちばしで引き裂いて食べ始めます。脇腹あたりから食べることが多く、内臓は比較的早いうちに食べます。そのうちに獲物は息をしなくなります。

 これに対して、ハヤブサは獲物を捕らえた後すぐに、くちばしを使って獲物の首の骨をベキッと折り、息の根を止めます。殺してから、羽をむしり、肉を食べ始めます。首の骨を折る時、上嘴の「嘴縁突起」と下嘴の「嘴縁欠刻」が大きく役に立ちます。獲物の頸骨にしっかりとはまって、滑らずに力が入るようになっているわけです。

 タカのくちばしは、人の爪と同じように、実によく伸びます。リハビリ中のハヤブサやオオタカは「作り餌(つくりえ)」(肉や骨を引き裂いたりしなくてもよいように小さく切ったり、骨をつぶしたりした餌)を与えます。そのせいで、くちばしが摩耗したり消耗したりすることがありません。3ヶ月もすれば、驚くほど伸びて、上嘴と下嘴が噛み合わないほどになります。とがっていた上嘴の先は丸くなって伸びてしまいます。ということは、野生のタカは、獲物の肉や骨を引き裂くときに消耗する分と日々伸びてくる分とがぴったりと一致しているということです。そして、常に突起や欠刻も含めて理想的なくちばしの形状が保たれているわけです。いったい、くちばしに関係する遺伝子はどんな作用、はたらきをしてこれらの欠刻や突起を作っているのでしょうか。不思議なことです。

(Uploaded on 2 February 2012)

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タカ科とハヤブサ科の違い(2) 狩りの方法


 日本の鳥類関係者の間では、タカ科の代表はオオタカ、ハヤブサ科の代表はハヤブサとされることが多いようです。江戸時代の鷹狩りにおいても、オオタカ、ハイタカ、ハヤブサの3種が主に使われました。

 これは外国の鷹狩りでも同じような傾向にあって、タカ科ではオオタカやイヌワシがよく使われます。ハヤブサ科では、Peregrine falcon(ハヤブサ)をはじめ、Gyrfalcon(シロハヤブサ)、Saker falcon(セイカーハヤブサ)、Lanner falcon(ラナーファルコン)、Merlin(コチョウゲンボウ)その他、多くのハヤブサ類が使われていますが、なんといってもハヤブサがいろいろな意味で使いやすく、性能が良いようです。

 さて、タカ科とハヤブサ科には、獲物の捕り方に大きな違いがあります。オオタカ(タカ科)は主に「待ち伏せ型」が多く、林の中や林縁部等で獲物がくるのを待ち伏せ、素早いスピードで両足で獲物につかみかかります。この時のスピードはかなりなもので、弓矢の名手がシャープに矢を放つような正確さと速度と瞬発力を持っています。どちらかというと短距離フライヤーです。獲物を捕ったらすぐに地面に下りて足の指で強くつかみ、足の力で押さえつけます。

 これに対して、ハヤブサ(ハヤブサ科)は上空をソアリングしていて、獲物に急降下し、両足で獲物を蹴ってアタックします。急降下するときは紡錘形になって、まるで大きな弾丸が飛んで落ちるような感じがします。高さで得られた位置エネルギーを羽ばたきで増幅しながら一気に運動エネルギーに変えて、一瞬のうちにスピードを上げます。オオタカよりはやや長距離フライヤーです。蹴られた獲物が地面や海面に落ちる前に空中でつかむことが多いようです。

 ただ、環境や状況によって狩りの方法はさまざまに異なり、たくさんのバリエーションがあります。たとえば、オオタカがハヤブサのように急降下をしたり、ミサゴのように水の中に突っ込んだり、あるいはハヤブサがオオタカのように真横から攻撃をしかけたりすることもあります。タカ科のハイタカもまるでハヤブサであるかのごとくひんぱんに紡錘形になって急降下を繰り返します。これまでに、いろいろなタカの頭脳的な狩りの方法をマーリン通信でもいくつか紹介してきました。

 さらに、一口にハヤブサ科といっても全世界に60種以上おり、ハヤブサ属の他にいくつもの属が存在します。チョウゲンボウの仲間のようにネズミが主な獲物になるものや、カラカラ属のように果物をよく食べたり、腐肉を食したりするものもいます。ハヤブサほどダイナミックに急降下して鳥を捕るものは逆に少ないのです。

 タカ科も同じで、世界中で200種を超えるタカたちが、多彩な獲物や変化に富む環境に応じて、実にさまざまな狩りの方法を獲得しています。一概にオオタカで代表させるわけにはいかないようです。たとえば、魚を捕食するミサゴやウオクイワシ類、ウミワシ類。腐肉をよく食べるハゲワシ類。ヘビを食べるヘビワシ類。…こちらも狩りの方法は実にバラエティーに富んでいます。

 理路整然としない話になってしまいましたが、しかし、ハヤブサ科とタカ科の鳥では初列風切の形をはじめ多くの点で体の形態が違いますので、結果的に狩りの方法に違いが出てきてしまいます。 

(Uploaded on 18 January 2012)

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タカ科とハヤブサ科の違い(1) 小首のつき方


 タカの仲間(タカ科)とハヤブサの仲間(ハヤブサ科)は、フクロウなどの夜行性猛禽類に対して、ともに昼行性猛禽類(昼間に行動する猛禽類)と言われ、よく似た仲間と思われています。たしかにタカ科とハヤブサ科は、生きた鳥類や哺乳類などを捕食することや、するどい嘴や足の爪などの体の形態等、多くの点でよく似ています。現行の『日本鳥類目録改訂第6版』(2000年、日本鳥学会)による分類では、タカ目タカ科とタカ目ハヤブサ科ですので、ふだんはその違いよりも共通点のほうが注目されています。「タカの渡り」の「タカ」は、あくまでもタカ目の鳥という意味であって、タカ科の鳥という意味ではありません。観察記録でも、みな、一緒くたにされていることが多く、鷹隼類としてひとからげにされています。また、ふだんはタカ科の鳥もハヤブサ科の鳥も、どちらも「タカ」と呼んでいるようです。

 さて、タカ類やハヤブサ類の種と種の間の遺伝的な距離を定量的に評価し、系統樹を作り上げる方法の一つとして DNA-DNA分子交雑法というものがあります。鳥類の分類においては、1990年代のシブリー・アールキスト鳥類分類に用いられています。この時、タカ類はタカ小目とハヤブサ小目というふうに分類されています。さらに、最近では、新しい分子解析法が使われるようになって、新たな分類系統がいろいろ提案されていますが、まだ、確定していません。この先、議論が続くでしょう。いずれにしても、将来、タカ科とハヤブサ科が近づくことはないように思います。

 前置きはここまでにして、タカ科とハヤブサ科にはよく似ている点もありますが、異なる点もたくさんあります。これから2科の違いや異なる点を述べていきます。今回は、その(1)です。

 太い木の枝や鉄塔等にとまっているタカが、時々頭を前後にあるいは左右に動かしているところをごらんになったことはありますか。昔からこのことをタカが「小首(こくび)をつく」と言いますが、さて、何をしているのでしょうか。これは周りのものや獲物を凝視して、そこまでの距離を正確に測ろうとしているときにする行動です。小首をついた後すぐに力強く飛び立ち、獲物を追いかけたり襲ったりするところをしばしば見かけます。この行動をよく見ていると、タカ科の鳥(オオタカなど)は頭を左右にスッスッと動かしていることに気がつかれるはずです。これに対してハヤブサ科の鳥(ハヤブサなど)は頭を前後にクックッと動かしていることが多いです。

 下の写真は、平凡社の「季刊アニマ」1975年秋号の150ページに掲載されているオウギワシ Harpy Eagle Harpia harpyja です(撮影者の名前は書いてありません)。このワシは主に南アメリカから中央アメリカの森林地帯に棲んでいて、オオワシくらいのひじょうに大きな体をしており、大型の哺乳類などを捕食しています。この写真ほどひどく左右に振ることは少ないのですが、タカ科の鳥はみなこのように左右に小首をつきます。


小首をつくオウギワシ 「季刊アニマ」1975年秋号より

 

 なぜ二つの科の違いによって行動が縦と横に異なるのかひじょうに不思議です。科が違うから行動が異なるのはあたりまえなのかもしれませんが、なんとかこの理由を解明したいです。

(Uploaded on 11 December 2011)

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2012年 ハヤブサ基金のカレンダー


 ハヤブサ基金の今年の猛禽類カレンダーです。今年もすばらしい写真ばかりです。

 


2012年 ハヤブサ基金のカレンダー index

 

 左から右へ順に、
(上段)
  1月 シロハヤブサ(ジャーファルコン)、2月 アメリカチョウゲンボウ、3月 ハクトウワシ、4月 オウギワシ(ハーピーイーグル)
(中段)
  5月 タニシトビ、6月 アフリカワシミミズク、7月 ミミジロワシ、8月 インドハゲワシ
(下段)
  9月 カリフォルニアコンドル、10月 アレチノスリ、11月 ハヤブサ、12月 フィリピンワシ

 詳しくは、【 ここ 】をご覧ください。Member になってください。

(Uploaded on 31 January 2012)

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与名正三氏著「森のハヤブサ」


 与名正三氏/写真・解説の写真集「森のハヤブサ -ナニワの空に舞う- Falcon in the Forest 」 が東方出版から2011年2月に出版されました。ISBNコードは、978-4-86249-172-5 (4-86249-172-3)です。70ページ、17×19cmで、税込価格は1,575円です。


写真集「森のハヤブサ」

 

 海岸部で繁殖するハヤブサの写真集とはちょっとちがった雰囲気のある写真集です。もちろん、海の上を飛ぶハヤブサを背面から撮った写真などもひじょうに魅力的ですが、この写真集のような、森の樹木にとまるハヤブサも、別のすがすがしさを感じさせてくれます。小さな写真集ですが、購入の価値はあります。

 ページをめくってみると、どこかで見た覚えのあるような写真がありました。Webページでちょくちょく写真を見ていた、【 BIRD GALLERY by harrier 】 さんの写真でした。

(Uploaded on 25 May 2011)

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ハヤブサ基金のカレンダー 今年も届く


 ハヤブサ基金の猛禽類カレンダーが今年も正月に郵便で届きました。無料です。去年以上にシャープで切れのよいすばらしい写真ばかりです。感動的です。ウェブでの定価は、$12.95 で、郵送料が、$6.28 かかっています。年会費はいくつかのランクがあるのですが、最低ランクの $25 しか出していないので、会費のほとんどがこのカレンダー代と、別に送られてくる Newsletter と Annual Report 代になってしまいます。実質負担額がマイナスになってしまい、申し訳ないので、これからは会費ランクを一つ上げないといけないかなと思っています。


ハヤブサ基金のカレンダー  今年の写真 index

 

 左から右へ順に、
(上段)
  シロハヤブサ(ジャーファルコン)、クーパーハイタカ、ハヤブサとムクドリの群れ、オウギワシ(ハーピーイーグル)
(中段)
  ムネアカハヤブサ(幼鳥)、ヨコジマチョウゲンボウ、ワキグロハヤブサ(ヒナ)、インドハゲワシ
(下段)
  カリフォルニアコンドル、ソウゲンハヤブサ(プレーリーファルコン)、ゴマバラワシ(マーシャルイーグル)、アメリカチョウゲンボウ

 詳しくは、【 ここ 】をご覧ください。そして、もし、興味がおありでしたら、Member になってください。

(Uploaded on 24 January 2011)

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ハヤブサ基金 カレンダー届く


 アメリカに本部のある「ハヤブサ基金」から、設立40周年を記念してカレンダーが届きました。ちょうど新年の準備をしていた12月30日でした。


「ハヤブサ基金」設立40周年記念カレンダー  

 

 サイズは、32cm×48cmで、写真は12枚すべて猛禽類です。会員に無料配布されました。毎月姿を変えながら、一年間、部屋を飾ってくれます。

(Uploaded on 9 January 2010)

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営巣場所には いつも感心!


 2008年5月3日、日頃お世話になっている I 氏の案内で、ハヤブサの営巣地を見に行きました。いろいろな野鳥の中には、なぜこんなに分かりやすい所、すぐ人に見つかってしまうような所に巣を作るんだろうというものもいます。しかし、今日見せていただいた巣は感心することばかりでした。

 ハヤブサの巣の位置は下の写真の一番下の木の根元付近にあります(写真は営巣地が分からないようにわざと小さくし、多少ぼかしてありますので、そのつもりでご覧ください)。


ハヤブサの巣

 

 この巣では、次のようなことに感心しました。

 ① 人が入ってくることがほとんどない場所で、下からは巣の内部がまったく見えない。
 ② 抱卵期等の、まだ寒い日がある時期には、木(落葉樹)に葉が付いていないので、よく日が当たる。
 ③ ヒナが出る頃には木に葉が茂るので、適度な日陰があり、適度に日光が当たる。
 ④ 今は葉がしっかり茂っているので、上空を飛ぶ他の鳥類はヒナを見つけにくい。
 ⑤ 巣の上に何本かのとまりやすい枝があり、他の鳥が近寄ってきてもすぐに対応できる位置で見張ることができる。

 こんな訳で、いろいろと感心しながら観察をしていました。巣にまったく日光が当たらないと、ヒナはカルシウムの吸収が悪くなってしまい発育が困難になる場合がありますが、この巣には適度な日光が当たるようになっています。

 この日はヒナがまだ小さいだろうということで、営巣環境のようすを知ることに重点を置き、早めに切り上げました。短時間でしたが♂が3度現れて、うち1回は獲物を搬入しました。

(Uploaded on 4 May 2008)

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伊良湖岬のオオワシをハヤブサが攻撃


 2002年11月4日、20年以上いっしょにタカ見に行っているK氏と伊良湖岬へ行きました。ここ10年くらいは、いつも文化の日の前後に伊良湖岬へ行っています。ハギマシコ数群の渡りやイスカの赤と黄色の群れの渡り、川のように続くマヒワの渡りなど、この時期はけっこう楽しい思い出がたくさんあります。

 この日は雨がやんだ翌日で、冬型の気圧配置が強まり、立っていられないほどの強風が吹きました。寒いので車の中に入れば風で車が揺れ、外に出れば飛んでくる風に舞う砂が顔を刺します。髪の毛、鼻の中、耳の中、目の中、皆砂だらけです。午前中の早い内は南風が吹いており、タカ類は非常に少なく、時折ツミやノスリ、オオタカなどが渡る程度でした。

 しかし、途中から風向きが頻繁に変わりだしました。オオワシが出たのも、西よりの風が吹き始めたころでした。


恋路ヶ浜の上空を渡るオオワシ(2002年11月4日)

 

 翼の前側と尾の他に、体の後ろの方も純白でほとんど成鳥に近い年齢の個体でした。一回渡った後、風が強すぎたのか、海の方を回って、伊良湖ビューホテルの近くから再び宮山の上空に移動し、宮山から恋路ヶ浜へという同じコースを2度通りました。この2回目は、1回目よりもかなり低く飛びました。ハヤブサ成鳥がやってきてオオワシに攻撃を仕掛けてきたのはちょうど私たちの頭の真上でした。オオワシとハヤブサの大きさの差はくっきり。オオワシが翼を広げている時は、写真以上に差が顕著で、こんなにも違うのかと改めてびっくりしました。


オオワシにちょっかいを出すハヤブサ Falco peregrinus 成鳥(2002.11.4) 

 

 2度目は渡りきるものと思っていましたが、しかし、やはり風が強すぎたのでしょうか、ついに渡りきれず再び頭上を戻って、宮山の向こうに消えてしまいました。つまりオオワシを4回見たことになります。

 私が伊良湖でオオワシを見たのは初めてです。これで伊良湖で見たタカ類は、ミサゴ、ハチクマ、トビ、オオワシ、オオタカ、アカハラダカ、ツミ、ハイタカ、ノスリ、サシバ、ハイイロチュウヒ、チュウヒ、ハヤブサ、チゴハヤブサ、コチョウゲンボウ、チョウゲンボウの16種類になりました。17種類目が何になるか楽しみです。

 この日に撮った写真を何枚か以下に載せます。キヤノンEOS 5、EF400mmF5.6、手持ち。2Eサイズにプリントした写真をスキャナーで取り込みました。


ミサゴ
飛んでいる時は一段と美しい

 

 
ミサゴ
風が強い時はこんな姿勢でずっと飛ぶことがある

 

 
ツミ幼鳥
私の好きなタカです

 

 
ツミ幼鳥
バックに多少雲があった方が写真になる時がある

 

 
ノスリ
10月末からは数多く渡るようになります

 

 
荒海を渡るヒヨドリ
頭上低いところを降りそそぐように通過しました
別の写真を拡大コピーし 数えたら約1,530羽でした

( Uploaded on 10 November 2002)

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ハヤブサと都市


 2000年にいただいたメールから、最初と最後の一部、ビルの名前や地名等を省略してお伝えします。

● 静岡県の方から

 (初め一部省略)
 私の家の近くのマンションに毎年秋から翌年の春までハヤブサがつがいで訪れます。私が気が付いてから数年たちます。マンションの出窓の上に夜はいます。家から直線距離にして250mくらいでしょうか。また家から50mのところに高い電波塔があり、このてっぺんからあたりを見張っています。この2か所は家の窓からよく見える位置にあり、毎日見て楽しんでいます。
 二日まえ(注 2000年4月12日のこと)の夜8時半頃、なにげなく見ますと一羽が鳥をむしっていました。捕まえたばかりのようでした。こんな夜にも捕食行動をするのかと驚きました。もう一羽もあたりを見回すような姿勢で、それから飛び立ちました。昨晩見たのは夜の十時頃で、この時は一羽は休んでいる姿勢でしたが、もう片方はマンションのてっぺんにいて活動中という感じでした。フクロウ以外の猛禽でも夜こんなに活動するんでしょうか。
 マンションのある所は〇〇〇(省略)で、都会ほどではありませんが明るいです。(以下省略)  

 

● 東京都の方から

 (初め一部省略)
 4月20日の朝9時、東京都新宿区JR飯田橋の駅近くの〇〇〇(ビル名、省略)という20階建てのビルの16階のエレベータホールの窓ガラスの外で、鳥が鳩らしきものを足で抑え、肉をついばんでいるのを見ました。
 〇〇〇(ビル名、省略)は堀の上に立てられている建物で、その残りのお堀がJRの総武線に沿って残っていて、ゴイサギ、コサギ、鵜、ユリカモメ、カモ類、セキレイなどを見ることができます。
 その鳥は、2年前の秋だったと思うのですが、台風の後、同じところにとまっていた鳥でした。その何とも言えない大きな黄色い目ととがった黄色いくちばし、夕方近くの光で見た青い羽根と胸の横の模様の魅力的な姿に思わず見入ってしまいました。特徴を頭に入れ、簡単な図鑑でその日、家で調べたところ、どう考えてもハヤブサに思えました。もう一度見たいと思っていましたのが、先日見られたのです。そこにいた人たちもハヤブサではないかと言っていました。
 前にも同じところに鳩の羽根が散乱し、血糊がついているのを見ました。
 古い本(1986年発行・ハヤブサの四季・あかね書房・科学のアルバム)ではハヤブサは激減し全国で130羽ほどしかいないと書いてありました。絶滅種のなかにはいっているというようなことも聞きましたので何か信じられないような気もしますが。都心の車が行き来し、中央線や総武線の電車が走り、絶えず人の流れがあるところに住んでいるでしょうか。〇〇〇(ビル名、省略)のところに住みついているのではと見ている人は言っていましたが。時間の都合で5分ほどしか見られませんでした。
(一部省略)
 鳥が何人かが見ているにもかかわらず逃げなかったのは、分厚いガラスで太陽の光を反射して中が見えなかったのではないかと思います。(以下省略)
   

 お二人の方、メールありがとうございました。

 なお、ハヤブサの夕方薄暗くなってからの狩りについては、最近では、「日本鳥学会誌」44:67-69,1995や45:47-48,1996に紹介されています。また、都市部のハヤブサの繁殖については、NHK「生きもの地球紀行」98-7-27で金沢市内の状況が報告されています(暗闇での狩りについても)。アメリカの都市部でのハヤブサの繁殖については、何十年も前から各地の状況が様々に報告されています。

(Uploaded on 3 May 2000)

 上記文章について、ある人から「くちばしが黄色いハヤブサっているの?」と聞かれました。確かにハヤブサのくちばしは黒いですね。ネット上の文章だけでははっきりしませんが、メールをいただいた方に写真も送っていただきました。その結果、ハヤブサに間違いありませんでした。

(Uploaded on 5 February 2002)

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