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「オオタカ 2」 フォルダ の 目次
更新月日 タ  イ  ト  ル
25.05.04  オオタカが そこに「いない」ことの証明
25.04.15  高空を飛ぶオオタカの成鳥・幼鳥の判別 -風切の透過度から-
25.03.05  オオタカがため池の水鳥を襲う時
24.12.09  オオタカ 竹林と私の車をダブルで遮蔽物に利用
24.11.21  ムクドリの親子と オオタカ
24.09.04  オオタカ 「あぶれ個体」か「繁殖個体」かの判別法
24.08.17  オオタカ 第4卵(=第4ヒナ)は予備の命
24.08.01  雌雄の役割分担 と 性的二型
24.07.14  オオタカ 雌幼鳥と雄幼鳥の繁殖例
24.06.27  オオタカのスカイダンスは 間(ま)が魅力
24.06.08  オオタカの産卵間隔は 平均で約66時間
24.05.17  オオタカ雄成鳥の 換羽開始時期
24.04.30  オオタカが旋回上昇し 高空まで上がった後に……
23.11.06  オオタカの営巣を阻害するもの
23.06.22  オオタカとノスリの もう一つの心配な関係
23.05.13  『オオタカ -あるペア、5年間の繁殖記録-』
23.04.27  オオタカの声と紛らわしい鳥の鳴き声
22.12.25  ハンティング・トリガーは やはりある
22.06.15  拙宅でオオタカがハンティング
22.05.29  オオタカ成鳥 の 主な鳴き声
22.02.15  オオタカのハンティング・トリガー(ある日の実験)
22.01.25  オオタカは巣立った幼鳥をほんとうに教育する? 訓練する?


オオタカが そこに「いない」ことの証明


 ある地域にオオタカが「いる」ということは簡単に証明できます。一羽でも個体を見るか一声でも声を聞けば「いる」ことが分かります。そこで繁殖しているかどうかも、それなりの観点で見ることができれば判断できます。繁殖期に「いる」ということだけから必ずその近くで繁殖しているという結論には至りませんが、何とか営巣地を絞っていったり、繁殖個体か非繁殖個体かを判断することは可能です。しかし、ある地域にオオタカが「いない」ということを言うのはけっこう難しいです。

 ネガティブ調査と言われていますが、ある特定の地域にオオタカがいないことを調べるのはけっこう骨が折れる仕事です。繁殖期の最初のころ、2~3月には雌が営巣地の中で「キャッキャッキャッキャッキャッ … 」と激しく猛り鳴きをします。時折「フィアー フィアー」と高鳴きもします。ところが、どういうわけか理由がはっきりとは分からないですが、ほとんど鳴かない雌もいます。住宅の近くだから鳴かないとか、山のオオタカは鳴くというわけでもなく、育ち方によるのか、個体差なのか、その他の何らかの要因なのかとしか言えないような状況です。


車両が通るアスファルト道路に囲まれたヒノキ(矢印)にオオタカの巣があったが
下から見上げてもまったく見えなかった  7月 若杉撮影

 

 鳴き声がないと姿を探すことになりますが、雄はテリトリーを守っているとはいうものの、けっこう獲物探し(狩り)に出かけていて巣の周辺を離れることが多いです。上空をあまり飛ばず樹々の間を縫うように飛ぶことも多く、よほど良い地点に立たない限り見つけにくいです。一方、雌は4月に入るとあまり動かないことが多くなり、特に抱卵期はほとんど動くことがないですから、姿を見ることも少なくなります。

 近くに巣があることが分かっていて、その近くで2時間観察しながら姿がまったく見られなかったことがあります。2時間見ていても、鳴き声も姿もないとなると、その近くにいるにもかかわらず「いる」ことの証拠がなかなか出せません。でも近くで営巣しているわけですから、こんな時「営巣していない」とするのは誤りです。2時間どころか、5~6時間見ていても、一度も姿を見ることができない営巣地さえあります。ヒヨドリなどの小鳥類やカラスの声や警戒の動き、飛び方などから存在を推定することは可能ですが、多くの場合、オオタカの気配は感じられても姿か声を確認しない限り明確に「いた」とまでは言えないことが多いです。

 一人で観察していると、

〇 オオタカは本当にいないから出現しないのか or いるけど見つからないだけなのか?
〇 遠くから広く見るのがよいか or 近くで見るために山の中に入っていったほうがよいか?
〇 観察回数・時間が増えればそのうち姿が見えるようになるか or いや、なかなかそうはいかないか?
〇 一日に何か所かの地点を見るのがよいか or 一日一か所だけにしぼってじっくりと時間をかけて完璧に一か所ずつ潰していくのがよいか?

 どちらなのか、どれがよいのかよく分からないですね。おまけに春は日が高くなってくる頃から春がすみが激しくなってきて、肉眼では見えなくて双眼鏡でかろうじて見える程度の遠いタカはゆらゆらして、オオタカかどうかの識別さえも難しくなってきます。

 一方、ある人は一日に何十キロも車で走って10数か所の各地を回り、「ここにはオオタカはいない」と判断して、次々と結論を出していく人がいますが、それはほとんど「いい加減な判断」かもしれません。周りの生物のようすにこの上なく敏感であって、営巣環境・樹相を見極めることの得意な人は短時間で、ある程度のところまではいきますが、「営巣していない or 営巣している」というしっかりとした最後の正確な判断まではやはりきついように思います。

 オオタカは「忍者のようなタカ」と言いますが、だからこそ観察が面白く興味深いのかもしれません。

(Uploaded on 4 May 2025)

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高空を飛ぶオオタカの成鳥・幼鳥の判別 -風切の透過度から-


 継続してタカ類を観察していると、時には(日によっては)かなり悪条件で観察しなければならない時があります。たとえば、超高空を飛んでいて個体識別のみならず種の識別さえもできない時、完全逆光で太陽をバックに旋回し続ける時、タカが一瞬(ほんの1秒)しか見えないところに観察者が立たなければいけない時などです。条件が悪くても、それにあった識別法や判別法が必要になります。今回はその一例で、太陽をバックにかなりの高空を飛んだ時の雌雄成幼の判別法です。

 オオタカの繁殖地にはつがい以外のオオタカや他のタカ・ハヤブサ類が様々な理由でしばしば現れます。これを通常、侵入個体と呼んでいます。これらは繁殖オオタカと複雑な関係があり、繁殖ペアは必ず何らかの対応をとることになります。ここでは繁殖地にペア以外のオオタカが侵入してきて、その侵入個体が成鳥か幼鳥か分かりにくい時のことを書きます。

 侵入オオタカが現れた時、観察者がまず判断しなければならないのは侵入個体が雄か雌かということです。次に成鳥なのか幼鳥なのかが大事になります。もちろん侵入個体を発見後即座に個体の雌雄成幼が分かればそれが一番良いです。

 侵入オオタカの雌雄成幼を判断する時、通常の観察時(観察条件が悪くない時)の観点は次のようです。

〇 個体の大きさ

 排除に当たる個体と大きさを比較します。雌が排除することもありますが、雄が排除することのほうが多いです。どちらの可能性もあるので、自分が観察中の営巣個体の雌雄判断は常々すぐできるようにしておくとよいでしょう。排除に当たった営巣個体と侵入個体の大きさを比較します。絡んだ2羽の大きさがかなり異なる場合、小さい方が雄で大きい方が雌だろうと推測できます。たぶん、90~95%くらいの可能性で、雌雄判断できるでしょう。排除に出ていった個体が雌雄どちらか分からなくて、2羽が同じくらいの大きさであれば、両方が雄なのか、または両方が雌なのかのどちらかだろうということは分かりますが、雌雄の判断まではできないことが多いです。

〇 シルエット

 雌は雄よりも相対的に頭部が小さいなど、雌雄でシルエットに違いがあります。

〇 風切の帯が明瞭かどうか

 初列風切、次列風切ともに、成鳥はすべての帯がぼんやりと薄いですが、幼鳥はハイタカの帯のようにくっきりとしています。

〇 体下面の斑

 幼鳥は縦斑で、若鳥・成鳥は横斑です。

〇 体下面の色の濃さ、反射、見え具合

 体下面は幼鳥は褐色味が強く、成鳥は白っぽいです。太陽光線をまともに受けると雄成鳥は真っ白く見えます。撮影時は強く反射して白飛びすることもあるほど白っぽいです。

 

 < 悪条件下での判別方法(風切の透過度から)>

 タカの飛んでいる高度が低ければ上に書いた観点を見ていけばそれほど判断に迷うことはないですが、悪条件の時はかなり苦労します。成鳥か幼鳥かの識別は、ピントがあまりしっかりと来ていないぼやけた画像しか撮れなくても、撮れれば、透過光を利用して判別が可能な場合があります。

 観察例を書きながら細かく説明します。3月中旬、あるオオタカの繁殖地の巣の近くの送電鉄塔にペアの雄がとまって監視活動をしていました。この時期は侵入個体が頻繁に訪れます。お昼前の太陽光線がかなり強く差していた時、雄が飛び立って、カモメ飛び(翼を上下にゆっくりと深く羽ばたく飛び方)をしながら旋回上昇をしていきました。遠くに侵入個体が来ているなと思いながら探しましたがなかなか見つかりませんでした。しばらくすると、双眼鏡の視野に2羽のオオタカが入ってきました。ここの雄と、もう一羽はやや大きめのオオタカです。雄は自分よりもうんと高い位置に侵入個体を見つけたので、必死で旋回上昇をしました。

 侵入個体は遠くに現れることが多いのですが、今回のように高空からテリトリーに入ってくることもよくあります。私が双眼鏡で2羽を入れた時には2羽はもうかなり高くて肉眼では見にくくて、しかも、双眼鏡の視野に太陽が入ってしまうほどの完全逆光状態で太陽バックに見ているような状況でした。少し太陽から離れた時に撮影をしましたが、私が今使っているキヤノンR7は遠くを飛ぶ個体や春霞でタカが消えてしまいそうなコントラストの低い時はピントが来にくいカメラで、この時もオートではピントが来なくて、手動でかろうじて何枚か撮ることができました。撮った画像を見てみると、1羽は太陽光線が風切を透過していて、透けて見えました。もう一羽は光がほとんど透けていませんでした。透過している方が幼鳥で、透けていないほうが成鳥です。下の画像です。


左がここで繁殖している雄成鳥で、右が侵入雌幼鳥。光の透過度が異なる  愛知県 3月 若杉撮影

 かなり高空での撮影で、無理に拡大していますが、風切の光の透過ぐあいを見れば成鳥か幼鳥かの判断がつきます(上の画像とは別の画像で、今回の侵入個体の体下面の縦斑を確認していますから、侵入個体は幼鳥で間違いありません)。

 3月ですので雄はもちろん下尾筒を広げていますが、この日の幼鳥も下尾筒をしっかり広げていますから、営巣活動に加わりたいと思って営巣地にやってきた可能性があります。雄のほうも、あまり激しい威嚇をしませんでした。2羽で仲良く旋回を繰り返しているようにも見えたので、何が何でも追い出そう、排除しようという雄の意思は感じられませんでした。これが雄同士、あるいは雌同士であると、そんなわけにはいかないです。雄が鉄塔から飛び立って10分ほど後、幼鳥は高空のまま巣とは反対の方向へ飛去しました。雄は巣のある方向へ降下しながら帰ってきました。延々と、10分ほど2羽で旋回飛翔をしていたことになります。

 なお、成鳥が風切や尾羽を換羽する時は一枚一枚ゆっくりと長い期間で順番に伸長してくるので羽にそれなりの厚みがあります。一方、幼鳥はヒナの時に巣の上で風切や尾羽が生えてきますがすべての羽がほぼ同時に一気に伸びてきますから、その分一枚一枚の羽は成鳥の羽よりも薄くなり光が透過しやすくなっています。

(Uploaded on 15 April 2025)

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オオタカがため池の水鳥を襲う時


 冬、各地の農業用ため池などの水場でカモ類やサギ類、オオバンなどを狙うオオタカを見ることがあります。こういう時のオオタカは雌個体(雌成鳥)であることが多いです。獲物がオオタカにとっては大きめで、体が雌よりも小さい雄が捕らえるにはやや大きすぎて体重も重い獲物だから雄が少ないのかもしれません。雄は池のすぐ近くに営巣地がある時を除いて、ため池ではあまり見かけないので、池にはそれほど固執していないように感じます。池周辺に小鳥の数が多いところがあるとか小形の水鳥が多い時などは雄もよく現れるかもしれません。

 昔は愛知県内でオオバンを見かけることはめったになかったのですが、近年はその数がどんどん増えて、各地のため池でごく普通に見られます。おとなしくてあまり警戒心のないような状態で、水面だけでなく水際に近い芝生や低い草地・裸地などに上がってゆったりしていますので、そういうところをオオタカに狙われます。捕獲例はたくさんあります。

 サギ類は、以前は多かったコサギが愛知県でもかなり数を減らしてめったに見られなくなったので、捕獲例は少なくなりました。私も最近はオオタカがコサギを捕えるところを見かけなくなりましたが、最近、コサギを捕えた画像を友人が撮ったことがありますので、コサギは少ないながらも今もオオタカの獲物の一つになっているでしょう。ダイサギやアオサギは体が大きいので日常的にはあまり獲物となっていないようです。

 狙われるカモ類は中形から小形のカモが多いです。以前、ヨシがたくさん茂っている川でカルガモとマガモ、ハシビロガモ、コガモの4種がほぼ同じ場所(互いに近く)で浮いていた時、これらを狙ったオオタカはハシビロガモを捕えました。体が大きくて力が強く体重の重いカモ類を避けて、やや小さいハシビロガモを捕ったのかもしれません。一番小さなコガモを捕らなかったのは小さくて敏捷性があり瞬時に飛び立つことが得意なことからオオタカには捕らえにくいからでしょう。川だけではなくため池でもハシビロガモはよくオオタカに狙われています。


ハシビロガモの群れ(+マガモ・ミコアイサ)を狙うオオタカ雌成鳥 愛知県 1月 若杉撮影

 

 狙われたカモ類、特に水面採餌ガモは多くが両方の翼を背中でX字型に組んで、首を伸ばし、尾羽を上にあげて、いつでも飛ぶことができるような臨戦態勢になります(上の黄色の線のハシビロガモとマガモ)。かといってオオタカが近づいてきても必ず飛び立って逃げるわけではなく、直近に来たオオタカを交わす瞬間に水に潜ることもあります(上の赤い矢印の水しぶき)。ホシハジロなどの潜水ガモやミコアイサ(アイサ類)は潜水が得意で水面採餌ガモよりも長く水中にいられるので、たいていは潜ってオオタカの攻撃を交わします。どのカモでも不用意に早くに飛び立ってしまうと、飛行の敏捷なオオタカ相手では空中で追いつかれてしまいかえって危険です。

 カモ類にとっていちばん嫌なのは、オオタカが池のほとりの木あるいは少し離れた山の上の大きな木の枝にとまり続けることです。気を抜いたらいつオオタカが襲ってくるか分からないので、ゆっくりと休憩したり食料を取ったりすることがしにくくなります。もっと嫌なのは、カモからはオオタカが見えなくてオオタカからは木の葉の間からカモの姿が見えるような、しかも飛立てば瞬時に水面に行けるそんな木の枝にオオタカがとまった時です。ハシビロガモの群れがついつい気を許してぐるぐると集団で円を描くように回転して食料をとっている時に直近の木からオオタカが突っ込んできます。普段「クェッ クェッ」と鳴くハシビロガモもオオタカの姿を認めると「グジッ グジッ」と濁った声で激しく鳴きながら警戒し始めます。オオタカはいつも狩りに成功するとは限らないので、それだけがカモ類にとっては救いです。

 冬の間、ため池にしばしば現れるオオタカ雌成鳥も1月ごろからは繁殖地に入って「キャッキャッキャッキャッキャッ …… 」と激しい猛り鳴き(たけりなき)を頻繁にするようになるので、ため池周辺にいることが少なくなりますが、かといっていつも繁殖地にずっといるわけではないです。ため池などの気に入った狩り場と営巣地周辺を行ったり来たりしているようです。愛知県のオオタカは4月初旬に産卵しますが、産卵前の雌成鳥は雄から食料(獲物)をもらうことが多くなり、3月になるとため池ではオオタカの姿をめっきり見かけなくなります。その頃、すでにカモ類の数はぐっと少なくなっていて池の水面に冬のにぎやかさはなくなり、カワセミの飛翔やカイツブリの声は響くものの池全体は寂しくなっています。

 一方、愛知県のオオタカ雄成鳥は冬場の非繁殖期も営巣地に残り、営巣地やその近辺にいることが多いです。撮影した画像から個体識別ができて、前年に繁殖した繁殖雄個体と同じであることがはっきりすることもありました。観察するたびに毎回個体識別ができるような画像が撮れるとは限りませんので個体識別ができないことも多く正確なことは言えませんが、同じ個体と推定できる個体が冬場、営巣地周辺でドバトやムクドリ、イカルなどの群れに突っ込んでハンティングしているところをしばしば見かけます。

(Uploaded on 5 March 2025)

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オオタカ 竹林と私の車をダブルで遮蔽物に利用


 7月の中旬、小高い丘の上にある建物のアンテナにオオタカらしき鳥がとまっているのに気がつきました。肉眼ではタカかカラスかも分からない距離でしたが、双眼鏡で見るとオオタカ雄成鳥でした。近づこうと思えば建物の脇まで行くことができ、かなりアップで見えるのですが、行っても真下から見上げるだけになってしまいます。しかも、飛べばすぐに見失ってしまう地形なので、こういう時は離れた地点から全体の動きを見た方が良いでしょう。

 この営巣地にはこれまでにもう何十回も観察に来ているので、オオタカがどこにとまるとどこへハンティングで突っ込むかという地点を複数知っています。その日やることは獲物となる鳥がどこにどれぐらいの数いるかを調べることくらいです。それが分かれば、ある程度その先のことが予測できます。7月の中旬というと稲がやや伸びて田んぼの水面は見えないくらいで、畦もあまり見通しがよくありません。休耕田か畑の小鳥などかあるいは電線に止まるドバトなどが主な獲物になりやすいです。今までの経験からどこにどんな鳥がいるかはいつもおよそ見当をつけていますが、この日も確認をしました。

 こうして、この日選んだのはアンテナからちょうど360m離れた休耕田と畑の間の舗装道路の脇でした。多くの人は「えっ、360mも離れていて観察できるの?」と思われるかもしれませんが、圧をかけずに観察するにはちょうどよい距離です。この時期のオオタカ雄成鳥はこれまでの4か月以上にわたる繁殖活動で相当疲れがたまっているので、ドバトを捕獲するよりも捕りやすいムクドリなどの小鳥を狙うのではないか …… とも考えての地点選択でした。車を停めてあたりを見ると、私の車の左後方の休耕田の畔近くにムクドリやカワラヒワが何羽かいました(この時期、群れはあまり大きくなりません)。

 車を停めてから30分程したらオオタカは飛び立って、近くの地上に降りるかのようにすっと降下して、すぐに竹林で見えなくなってしまいました。「なんだ、竹林の向こうに降りてしまったのか。これでは何も見えない」と思いましたが、竹林のほうを数秒か十秒程見ていたら竹林の上を思いっきり羽ばたいてこちらに向かって来るオオタカが見えてきました。傾斜がある土地で、竹林のあるところは観察地点より上でしたので竹林の上空ぎりぎりを低く飛ぶと、私からはまったく見えないように飛んで近づいてくることになります。車後方にいたムクドリたちにとってもオオタカがまったく見えないままオオタカは竹林の上を飛んで接近しました。

 竹林の上にオオタカの姿を認めてからは、かなり速いスピードで一直線に私の車に向かって飛んできて、私が恐怖感を覚えるほどのド迫力でした。ちょうどその時、対向車(軽トラック)が来たのでドアを開けて車から出ることができず、私は車内から見ているだけでした。車外に出ればグングン接近して狩りをしようとしているオオタカの真剣な顔を正面から撮ることができたでしょうが、でも見ているだけのほうが写真を撮っている時よりもじっくりと見ることができました。何よりも狩りをする時の意志というか気迫、エネルギーを感じることができてよかったです(写真を撮っているとそういうものが感じにくくなります)。

 軽トラックがすれ違っていった直後、左後方の下の田のようすは車内からは見えないのですぐ車から降りましたが、オオタカは最初の一撃で狩りに失敗したようで、畦道の上でホバリング飛行をしていました。小鳥は散りじりに逃げていったので、オオタカはすぐにあきらめて下の画像のような後ろ姿になり電柱の腕金(アーム)の上にとまりました。グーグルマップで調べると車の横およそ12mくらいのところをオオタカは通過しました。


狩りに失敗し、電柱にとまろうとするオオタカ雄成鳥  愛知県 7月 若杉撮影


電柱の腕金(アーム)上で一休みするオオタカ雄成鳥  愛知県 7月 若杉撮影

 

 オオタカが飛び立ってすぐは竹林が陰になって私からも小鳥からもオオタカが近づいてくるところは見えない状態でした。竹林から車に向かって一直線に飛んでくる時は、私からはオオタカが丸見えでしたが、ムクドリやカワラヒワからは私の車が遮蔽物になってオオタカの姿が見えない(あるいは見にくい)状態になっていました。みごとな飛行で、2つも遮蔽物を利用した頭脳的な狩りでした。オオタカが小鳥のすぐ近くに来るまで小鳥はオオタカの襲来に気が付かなかったのに、なぜオオタカは狩りに失敗したのか。もう7月ですから、今年巣立った鳥たちもかなりの飛翔力を身につけていたからかもしれませんが、それ以外の理由があったかもしれず、理由はよく分かりません。


この日のオオタカのハンティングの動き  愛知県 7月

 

 図の説明です。Aで アンテナから飛んで、地面に降りるように降下して、ここで私からは見えなくなりました。Bで 竹林の上をスーッと飛んだはずですが、飛んでいるところは私には竹林がじゃまでまったく見えませんでした。Cで 竹林の端に突然姿を見せて一気にこちらへ向かってきました。最初からかなりの猛スピードで、私の車のすぐ脇をびゅーんと通過していきました。D のあたりにいたムクドリとカワラヒワは私の車よりさらに低いところにいたので、竹林と私の車の二つがともにじゃまになってしまいオオタカに気が付かなく、オオタカとしては竹林と私の車を二つの遮蔽物として賢く利用できたという状況でした。

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 私は一度見つけたオオタカは見失わないように居場所を把握し続けながら観察するようにしていますが、そんな場合でもオオタカに悪影響を及ぼさないようにする必要があります。そのためには、

〇 できる限り遠くから全体を見る
〇 極力オオタカと視線を合わせない
〇 近くでの狩りの最中はこちらが動かない(車から出ない)
〇 獲物を捕えた直後は近くへ見に行かない(行くのはある程度時間がたってから)
〇 近距離からは撮影しない

などの配慮が必要です(ただ、ある程度の経験が必要ですから慣れていない方は無理しないでください)。

 一方で、こういう私の心配をよそに、オオタカはしたたかにも観察者の車を遮蔽物として利用して、今日ご紹介したような狩りをすることがあります。360mも離れたところにいたオオタカが私の車のたった10m後ろにいる小鳥を狙うわけですから、何らかの意図があったとしか思えません。以前の記事(2019.11.02)【 オオタカが私の車を遮蔽物として利用 】でも、今回とよく似た狩りを紹介しています。ご覧ください。

(Uploaded on 9 December 2024)

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ムクドリの親子と オオタカ


 5月のある日、一羽のムクドリが電線にとまっていました。巣立った直後らしい、見るからに幼いと思えるような淡色の色合いの幼鳥でした。すぐ近くの電柱には親と思われるムクドリがとまっていましたが、ほどなくして(たぶん食べ物を探しに)飛んでいきました。しばらくすると近くの神社の森の上を飛んで接近してきたオオタカ雄成鳥がムクドリの子を捕えようとしました。ムクドリ幼鳥はもちろん逃げましたが、逃げるスピードが遅く、切羽詰まったような雰囲気もなく飛び立ったので、オオタカはいとも簡単に難なく捕えて、足に持ったまま近くの林の中へ、すうっと入っていきました。幼鳥なので危険を察知する力や飛ぶ能力がまだ充分ではないため、オオタカにとっては本当に簡単な狩りでした。しばらくしたらムクドリの親が口に虫らしきものを咥えて帰ってきて、電線にとまりました。子どもを探しているような様子で周りをきょろきょろと見ていましたが、子どもが見つからないのでジャージャーと鳴きはじめ、その声はだんだん激しく大きくなっていきました。オオタカに捕られたという事情を知っている私には親の声が悲痛な叫び声に聞こえてきました。普段はなるべく感情を入れないように観察していますが、やはり子どもに対する親の感情・愛情というものは、人と鳥という種が異なっても、共通するものがあります。


捕えたムクドリを運ぶオオタカ雄成鳥(今回の記事と同一個体ですが撮影日は違う日です) 愛知県 6月 若杉撮影

 

 オオタカは主に鳥類を捕えて食べていますが、逆にオオタカが他の生物に食べられることもあります。例えば巣の上にいるオオタカのヒナが夜、フクロウに捕られたり、木登りの得意なハクビシンなどの哺乳類に食べられたりします(あるいは今でも人間の密猟者に盗られたりもします)。一方、そのフクロウのヒナやハクビシンの子どもが何の苦労もなくすべて無事に育つわけでもありません。

 人が生物のさまざまな様子を見て、多くの人はかわいそうだとか、けしからん、悪い奴だなどという感情をすぐ入れてしまいます。そして自分でその感情をさらに増幅させていき、悲しみや怒りをどんどん大きくしていきます。オオタカに愛着を持っている人はオオタカのヒナが捕られることに怒りを覚えます。小鳥が好きな人はそれを捕えるオオタカを嫌います。哺乳類の好きな人はハクビシンがオオタカのヒナを食べることについて「やっと獲物にありつけてよかったな」と思ってしまいます。

 オオタカに食べられるムクドリがたくさんの虫を捕らえて食べたり、オオタカのヒナがフクロウなどに捕られたりすると言っても、人間が目にするのはこれらのごく一部です。実際にはもっと多くの生命が絡みあって、結果的にはすべてが複雑になり、食べる食べられるは良いとか悪いとかを越えたものになっています。

 こういう中で「誰が善で、誰が悪か」「どういう食べ方が一番紳士的か」などという善悪の判断は意味をなさなくなります。 「オオタカがムクドリの幼鳥を食べるのはかまわないが、フクロウがオオタカのヒナを捕っていくことは悪いこと」とは一概には言えないです。こういうことを言い始めると、人間が魚を食べる、牛肉・豚肉を食べる、鶏肉を食べることがみんな悪になってしまい、人は生きていくことができません。

 最初に書いたようなオオタカがムクドリの子どもを捕えるところをNHKも含めて多くのテレビでは、ひじょうに感傷的に放送することがあります。たいていの場合、それはその番組の主人公である生物に同情しています。リスが主人公の番組ではリスの子どもがカラスやタカに食べられることは「悪いこと」とされています。センセーショナルな音楽を入れたり、視聴者に同調を求めたりすることもあります。でも本来ここは感情を入れてはいけないところです。

 そんなわけで、テレビの動物ものはあまり見る気がしません。ただ、自宅周辺だけでは見ることができない遠くに住む生命や見たことのない生命、貴重な瞬間を撮影した映像をテレビは放送していますので、若干我慢しながら、一部を切り捨てながら見ているという状況です。

(Uploaded on 21 November 2024)

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オオタカ 「あぶれ個体」か「繁殖個体」かの判別法


 繁殖期真っ盛りの5月ごろ、つまり巣の上にヒナたちがいるころにオオタカ雄成鳥を見かけたとします。鉄塔や木の枝から飛び立ってさかんに狩りをしていると、ふつうは「この近くで繁殖しているだろう」と考えます。そして、その推論はほぼ妥当で、実際そこから半径例えば1km以内とか2km以内で繁殖していることが多いです。誰かが狩りをしているオオタカ雄成鳥を見かけたと言うと「近くに巣があるよ」と言ってもほぼ間違いはないと思います。しかし、稀にそういうオオタカ雄成鳥でも、繁殖していない場合があります。

 今年見た個体は雄成鳥で、胸や腹の模様からすると、一回だけ換羽した若い成鳥ではなくて、少なくとも2回は換羽した個体です。満1歳の夏に1回目の完全換羽をし、満2歳の夏に2回目の完全換羽をしますから、この個体は少なくとも満3歳かあるいはそれ以上の年齢になります。したがって、繁殖能力があるMA個体と考えてよいでしょう。

 携帯鉄塔から飛んでさかんに狩りをするものの、狩りは失敗続きでした。6月、午前中の6時間見続けていたら、狩りで谷に突っ込んだり、ドバトやムクドリを追いかけたりしたときの飛翔はスピードがあって、小回りもよく効いていました。一度、林内に突っ込んでドバトを捕えたものの、カラスに追われ出てきた後、再び反対側の林に入っていったところを見ただけで、捕らえた獲物をどこかへ運んでいくところは見られませんでした。ヒナへの獲物(食料)運びの時は独特の運び方、飛び方があります。この個体はいつの間にか、そのうを膨らませてまた鉄塔に帰ってきていたということもなかったです。

 もちろん他の日も観察しましたが、同じ結果でした。ひょっとして私が見ていないところで狩りを成功させて、見えないところをスーッと飛んで巣に運んでいた可能性はゼロではないですが、通常は1日で10回くらいはムクドリ大の獲物をヒナに運ぶはずの時期にもかかわらず6時間以上連日何も運ばないということは考えられません。繁殖期なら聞こえてくるはずの雌成鳥の猛り鳴き「キャッ……」(これは6月は鳴く回数が少ないですが)や高鳴き「フィアー、……」(よく餌乞声とも言われ、この時期でもしばしば鳴きます)がどちらもまったくなく、近くの林にも巣はありませんでしたので、繁殖している可能性はかなり小さいです。

 この個体があぶれ個体か繁殖個体かどちらだろうかと思った時、どう考えたらよいでしょうか。

 オオタカ雄成鳥は繁殖期の始まる頃、または繁殖期のごく初期までに、初列風切P1とP2を、あるいは個体によってはもう一枚多くP3までを新しい羽に換羽して、そこでいったん換羽を中断します。尾羽やその他の羽はまだ換羽を始めませんので、旧羽のままです。したがって、繁殖雄は7月の初めになっても、P1かP2か、進んでいてもP3までの換羽でとまっていることがほとんどです。

 こういうオオタカを観察する時は全体の動きを見ることが大事で、鉄塔から300mとか600mくらい離れた所に車を停めて観察することが多いのですが、そうするとなかなかアップの画像が撮れません。換羽のようすを確定できるような画像を得るには鉄塔の真下まで行って飛び立ちの瞬間を撮る必要があります。下記の画像はM.Mさんが撮ってくれました。


7月14日の雄成鳥。かなり換羽の進行が早く「あぶれ個体」とみられる 愛知県 M.Mさん撮影

 

 この画像を見ると、通常の繁殖個体と比べるとかなり換羽の進行が早くなっています。この個体は、P1~P3が新羽、P4が伸長中で、P5が欠落しており、繁殖個体の「P1かP2か、早くてもP3までの換羽」という状況と比べるとかなり違っていることが分かります。今まで見てきた繁殖中のオオタカ雄成鳥で、この時期にここまで換羽が進んでいる個体は見かけたことがありません。私が見かけたことがないから、だからこれはあぶれ個体ですとまでは確定的、断定的に言えませんが、繁殖個体では考えられないことであることは確かです。そうすると、これはあぶれ個体ではないかということになってしまいます。

 繁殖能力のある年齢にもかかわらず「非繁殖個体」「あぶれ個体」などがいる理由はいくつか考えられます。

 〇 雌と出会えなかった。雌に気に入られなかった。雌を獲得できなかった。
 〇 テリトリーを占有できなかった。
 〇 繁殖を始めたけれども、産卵前に雌がいなくなった。
 〇 (繁殖に失敗しても雌が健常であれば雄はペアの雌に獲物を運ぶので)、雌が死んでしまったのか。
 〇 3歳以上なのに生殖能力を得ることができなかったのか、

など、他にも可能性はいろいろ考えられます。

 「あぶれ個体」であっても、どこかの巣で繁殖している雌とつがい外交尾をして、自分の遺伝子をちゃっかり残していることは十分に考えられます。というか、むしろその方が自然だと思います。これを確認するには、少なくとも多くの巣で成鳥を捕獲し、それらの巣でヒナ(巣立つ幼鳥)からもDNAを採取し、ある程度の広い範囲で親子関係を全部調べなければならないので、大掛かりな調査になりそうです。

 

 繁殖個体か非繁殖個体かについての、

【 判断の第1段階 】

  ヒナがいる時期(愛知県だと6月ごろ)、一日中、巣へ獲物を運んでいないMA個体がいたら、それはあぶれ個体と判断する。

【 判断の第2段階 】

  上に書いたように、初列風切の換羽の進み具合を正確に調べて判断する。

【 判断の第3段階 】

  上記の1,2段階では判断できないので、「保留」あるいは「非繁殖個体だろう」としておく。

 今回の記事は100%正しいかどうか、はっきりしたことは言えず、このような判定法はどうでしょうかというものです。環境調査や学術調査においては、オオタカに限らず他の多くの種でも、この微妙な判定が重要になることがあります(ただ、クマタカやイヌワシなどの大型種では波状換羽のためにオオタカのような換羽の進行が読みにくいと思います)。どなたか、ぜひこの判定法をさらに進めて、確定的なものにしていただきたいです。あるいは、こういう判定法は全く当てにできるものではないと証明されても、それはそれで私はうれしいです。 

(Uploaded on 4 September 2024)

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オオタカ 第4卵(=第4ヒナ)は予備の命


 前回の記事(記事No.504)で、オオタカは通常4卵を産み、その産卵間隔は平均で約66時間だと書きましたが、産卵間隔データを細かく見ていくといろいろ不思議なこと、興味深いことがあります。その一つが、第2卵を産下してから第3卵を産下するまでの時間が、第1卵-第2卵の産下間隔、第3卵-第4卵の産下間隔よりも必ず短いというものです。

       計4卵のそれぞれの平均産卵間隔(オオタカ)

     第1卵産下-第2卵産下の間隔(A)  2.79日(=66.96時間)
     第2卵産下-第3卵産下の間隔(B)  2.59日(=62.16時間)
     第3卵産下-第4卵産下の間隔(C)  2.78日(=66.72時間) 

 ほぼ A=C であるのに、Bの短さだけが際立ちます。

 数値を見るだけで明らかに(B)の短さが分かりますが、データをグラフにしてみると一目瞭然で分かります。全データを初めてグラフに描いた時は、あまりにきれいなV字形の繰り返しにびっくりしてしまいました。下は例としてある年からの3年間分のデータをグラフにしたものです。縦軸が間隔時間(日数)、横軸が時間です。グラフ中のAは第1-2卵の産下間隔(第1卵を産下した後、第2卵を産下するまでの時間)、Bは第2-3卵の産下間隔、Cは第3-4卵の産下間隔です。規則正しくV字の形をしていて、Bがいつでも短いことが分かります。この3年間の他の年においても、他の巣(別の繁殖ペア)においても、すべて同じようにBは短いです。


B(第2卵産下~第3卵産下までの日数)はいつも短い!

 グラフの見方は、最初の年のAは第1卵を産下した後、第2卵を産下するまでの時間が2.76日=66.2時間ということです。Bは第2卵を産下した後、第3卵を産下するまでの時間が2.60日=62.4時間で、Aよりも4時間ほど短いです。Cは第3卵を産下した後、第4卵を産下するまでの時間が2.78日=66.7時間ということで、Bよりは長く、ほぼAと同じくらいです。

 第2卵産下、第3卵産下と続くにつれて慣れてきて、だんだん産卵間隔が短くなっていくのではないかと想像していましたが、第3卵まではそうですが、最後はそうならず、第4卵産下が再び遅くなっています。なぜでしょう。あくまでも推測・想像ですが、ひょっとしてオオタカの本来のクラッチサイズは3なのに、予備として、無理に4卵目を産むから産下間隔が再び長くなるのではないかと考えることもできます。

 観察していると、4卵目のヒナ、つまり通常は最後に孵化するヒナは多くの場合(ほぼ、いつでも)、成育が良くないです。第4ヒナの中には無事に成育して、兄や姉に引けを取らないほど大きくなって、運よく巣立ちできるものがいる一方で、さまざまな理由で死んでいく(あるいは兄弟に殺される)ヒナも多いという現実があります。すなわち4卵目は、たとえば食料が豊富などというような条件が良い年だけ巣立つことができるスペアーの卵(予備の卵)、あるいは兄や姉が孵化しなかった時とかヒナが途中で亡くなってしまう時のためのスペアーというイメージしか持てない、あるいはどう考えてもそうとしか思えないと確信することがあります。ただ、食料の多い少ないが第一原因かどうかははっきりしませんでした。

 第4ヒナはイヌワシの兄弟殺し cainism とよく似た状況で(兄や姉に嘴で突つかれて)死んでいくことがあります。あまり強く突いていないように見えても、まだ産毛ばかりの小さなひよこのようなヒナにとってはかなり大きな打撃で影響は大きいです。また、兄や姉が食料を第4ヒナよりも先に親からもらって食べて、第4ヒナの食べる分がなくなってしまい、十分に成育できず死んでしまう場合もあります。食料が少なく生育が遅くなればさまざまな細菌やウイルスに対する抵抗力が獲得できないかもしれません。第4ヒナが死んでいく理由は実にさまざまです。

 鳥の産卵間隔がどのような生理的条件で決まってくるかよく分かりません。また、合計4卵を産んだ場合、第何卵目を産んだ後で本格的抱卵を開始するかによってもその後の孵化時期が異なってきて、孵化が大幅に遅れることもあります。しかも、第1卵を産んだ後、本気で抱卵しているのか、あるいは卵をカラスなどから守る目的で卵の上にただ座っているだけで体の熱を卵に伝えていないのか、何も考えずただ座っているだけなのか、区別がはっきりとつきません。雌の腹の羽毛に乱れがまだ見られないうちのことなので、この辺りの観察は微妙で難しいです。第2卵あるいは第3卵を産んだ後で初めて本格的に抱卵するように見えますが、どちらにしても、第4卵を抱く時間は他の卵を抱く時間に比べるとかなり短くなり、その分孵化が遅れることは避けられません。さらに、ヒナと卵が混在している時は、ヒナは動きますし、卵は雌の体温が伝わるようにじっと温めなくてはいけなくて、ヒナが3羽いる中で1卵をしっかりと温めること自体に無理があります。

 全4卵を産んだ後で全部まとめて抱卵を開始できれば、全部のヒナが同じころ孵化して同じように成育できる可能性が高いわけですが、そうなっていないということはやはり第3卵までが本来の卵で、第4卵だけが特別な卵(予備の卵、予備の命)ということになってしまいます。予備の命という表現はあまりしたくないですが、第4ヒナが死んでしまうことが多いです。

 食料が十分に搬入されないからかどうかははっきりしませんが、そう感じた年もあります。その年は第1~3ヒナはほぼ同じくらいの大きさで、第4ヒナだけが小さく、雌親が小鳥を小さくちぎってヒナたちに与える時、第4ヒナは他の3羽の大きなヒナの後ろの方に追いやられ、時に大きなヒナの下に埋没して、前面に(雌親のすぐ近くに)出てくることができず、第1~3ヒナが少しずつもらっているうちに1羽の小鳥(食料)はなくなってしまいます。第4ヒナは一口も食べられないうちに次の食料搬入を待つことになってしまいます。そうこうしているうちに、ますます体の大きさの差が目立ってきます。

 ヒナが大きくなって親と同じくらいの大きさになると食べる量はぐんと減りますが、ヒナが小さいころからだんだん大きくなっていくころは「こんなにもたくさん食べるのか!」と思うほど大量に食べて、そのうを膨らませて、寝て、また大量に食べることを繰り返します。こういう時期に食料が十分でないとトラブルの元になるかもしれません。

 一方で、巣の上にまだ食べられていないムクドリが放置されていても、つまり十分に食料があるのに、一番小さなヒナが攻撃されることがありましたので、食料の不足だけが原因ではないかもしれません。全身が白いかわいらしいヒナと言えどもオオタカですから、何らかの原因で「生きた鳥を食べる」というオオタカの野生の本能にスイッチが入ってしまった!…… というような印象を持ちます。

 タイトルで「オオタカ 第4卵(=第4ヒナ)は予備の命」と書いた根拠を改めて箇条書きします。

〇 第2-3,3-4卵の産下間隔に異常が見られる。
〇 第2卵あるいは第3卵を産んだ後で初めて本格的に抱卵するようになる。第4卵の産下まで抱卵開始を待たない。
〇 動き回る小さなヒナ3羽を抱きながら残っている1卵を温めることはそもそも無理。
〇 第4ヒナはいつも体が小さい(雄だとさらに小さいか?)。
〇 第4ヒナは兄姉によって嘴で突つき殺されることがよくある。
〇 第4ヒナは食料を親から十分に受け取れないことが多い
  (孵化の早い大きな体のヒナが親からもらっているうちに食料がなくなってしまうことの繰り返しで、いつも食料がもらえない)。
〇 未明に、一番小さいヒナが精神異常を起こしたように速いスピードで巣の上を駆け巡り、巣から落ちて死んでしまったこともある。
〇 第4ヒナが無事に巣立つことはあるが、巣立ちまでいかないことも多い。
〇 第4卵かどうか分からないが、全4卵のうち、孵化しない卵がしばしばある。
〇 産下が異常に遅くなってしまった場合、遅れた卵は孵化できないことがほとんど。

 なお、この文章では、第4卵が最も遅く孵化して第4ヒナになるとしています。第2卵または第3卵を産下した後で本格的に抱卵し始めますので、第4卵=第4ヒナ はほぼ間違いないと思われます。一方、第1卵が第2卵よりも遅くに孵化することは十分にありえます。第1卵と第2卵の産下には66時間の差がありますが、第2卵が産まれるまでは本格的な抱卵がまだ始まっていないので、第1卵と第2卵は同時に産まれたことと同じになります。多くの場合66時間の差は帳消しになって、第1ヒナと第2ヒナはほぼ同じころに孵化しますので、第1卵と第2卵で孵化する順が逆転する可能性は十分にあり得ます(ただ、卵の個体識別ができないので確認ができません)。第3ヒナは少しだけ遅れて孵化しますが、特に成育には問題がない程度の遅れです。第4ヒナはかなり遅れて孵化するので、第1,2,3ヒナと比べると体の大きさは明確に小さいです。こうなると第4ヒナの成育に大きな問題が生じます。

 卵には模様がなく個性もなく、転卵するごとに位置が変わるので、産まれた順番が分かりません。卵の表面にマジックインクで産まれた順に1,2,3,4と書くなり、なんらかの色を付けるなどすると興味深いことが分かるかもしれませんが、現実問題としてオオタカの卵にはできません。

(Uploaded on 17 August 2024)

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雌雄の役割分担 と 性的二型


 オオタカをはじめ鷹隼類は繁殖に関して雌雄の役割分担がはっきりとしています。 繁殖期終盤の7月末、今年の繁殖期を振り返り、オオタカの雄親と雌親の仕事を回想しながら書いています。毎年のことながら、7月に見るオオタカは雌雄どちらもかなり疲れていると感じます。

 まず雌親です。

 ヒナが大きくなった頃や巣立った後、雌親は巣から離れる時間が徐々に長くなり、近くの携帯鉄塔やお気に入りの枝によくとまるようになります。それまでは巣の上や巣の近くで巣を守っているのであまり多くは姿を見ることがないのですが、このころはよく見かけるようになります。そんな時期の雌の体下面の色は、冬に見かけるようなきれいな白色ではなく濁ったような色です。例えば下の飛翔画像のような感じです。


汚れが目立つオオタカ雌成鳥の体下面  愛知県 7月 若杉撮影

 

 くすんだような汚れた色になっていて、羽の重なりも不自然になっていることがお分かりでしょうか。汚れる主な理由は抱卵と抱雛で巣の上に40日以上座りっぱなしでいることと思われます。産座にスギ皮や青葉を敷いたりしていますが、巣材の主体となる枝材を含め、自然界にある樹木に由来するものばかりですから、雨やオオタカの体との接触で傷んで汚れてきて、それがオオタカの体下面の羽毛の汚れにもつながるのでしょう。

 抱卵中・育雛中も換羽はそれなりに進行していますが、まだそれほどは進んでいなくて、多くの雌では初列風切のP1~5が新羽、P6が欠落、P7~10が旧羽のまま、尾羽はR1が新羽に換わり、R6が欠落あるいはそろそろ抜け落ちるというくらいの状況です。次列大雨覆や中雨覆などには大きな変化がありますが、次列風切の換羽はまだで、これから始まるという個体が多いです。上面にはやや乱れたところが見られるものの、それほどの大きな汚れはありません。体下面の羽毛はごく一部(胸など)が換羽してきれいな新羽らしきものが見えますが、ほとんどはまだ旧羽のままですから、累積した汚れが目立ってしまいます。

 「雌は座っているだけなので楽じゃないの?」と思う人がいるかもしれませんが、40日以上毎日ほぼ24時間座っていたり、雨の日は傘になり、陽射しが強い日は日傘になり、敵が来れば盾になるのは大変なことです。オオタカは時には雄が抱卵しますが、雌が自分の食事をする時などが主で、やはり雄が代わってくれる時間はかなり短いです。木の枝にとまって寝れば楽でしょうが、産座に座り続けることはかなりの疲労になるでしょう。その証拠に抱卵から立ち上がったばかりの雌はゆっくりとした動きで体を慣らすようにしながら飛び立っていきます。夜はゆったりできるような気がしますが、夜間といえどもフクロウが襲ってくることがよくありますから、気を抜くわけにはいきません。哺乳動物が襲ってくることもあります。

 7月の雌のとまり個体を見ると、ゆったりと羽繕いをしたり休憩したりしていることが多く、のんびりリラックスしています。この3か月以上の疲れを癒しているように見えます。

 疲れたからという理由からかどうか分かりませんが、雌親は、この後も巣立った幼鳥への食料供給はずっと雄に任せたままで、早い時期に営巣地を去ってしまいます。

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 次は雄親です。

 雄は3月ごろ、雌の産卵の前から雌のすべての食料を運んでくるようになります。抱卵中の40日近くの間も運んできます。ヒナが孵化すれば、当然、すべてのヒナと体の大きい雌の食料を小さな雄一羽がすべて運んできます。その量はシーズンを通すとかなり膨大な量になります。大量なので休んでいる暇はなく、唯一雄が休めるのは獲物をしとめた直後の鳥を毟っている時くらいです。自分も一部を食べながら羽根を毟って、ムクドリくらいの小鳥なら20分くらいで毟り終わって、ハトくらいの大きさの鳥の場合は1時間~1時間20分くらいかけて毟り終わり、そして巣へ運んでいきます。巣の近くで雌に獲物を渡したら数分以内には次の狩りに出かけますから、まさに休みなしです。時期により仕事に濃淡がありますが、こんな大仕事を3月から7月すぎまで5か月間以上もずっと延々と続けているので、それはかなり疲れが出ることでしょう。下は7月13日のオオタカ雄成鳥の鉄塔とまりです。


幼鳥に獲物を運んできた後、いつまでも足や嘴をきれいにしないオオタカ雄成鳥  愛知県 7月 若杉撮影

 

 林内で巣立った幼鳥に獲物を渡して1分後、8:13の画像ですが、両足の爪には小鳥の羽毛が付いたまま、嘴には小鳥の羽毛と小さな肉片が付いたままです。この鉄塔にとまった後も嘴や足を掃除しようとすることなく、じっとしていました。そして、8:30に獲物を見つけた(決めた)ようで、頭を動かして狙いを定めるような行動をし、前傾姿勢になった後飛び立っていきました。他の時期にはこんなふうに汚れを放っておくことはほとんどなく、嘴や足が汚れた場合にはすぐにきれいに掃除をします。羽根や肉片が付いたままでも、そんなことにかまっていられないというようで、相当疲れた様子が伝わってきます。

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 仕事の一部を紹介しましたが、雄と雌のどちらも大変きつい仕事をしています。雄のように毎日外へ出て狩りをし続けるのは重労働でしょうし、雌のように卵やヒナを守り続けることも同じくらい大変な仕事でしょう。年間の三大イベントは繁殖・換羽・渡りですが、この中でも繁殖が飛びぬけて大きな仕事です。そんな中、雌雄が役割分担(分業)し、協力し合って繁殖を成功させることは効率がよく、理にかなっています。しかも、その雌雄は雄が小さくて雌が大きいという性的サイズ二型(二形)でもあり、これが繁殖活動の役割分担に有利に働いています。小さくて小回りが利き狩りが得意な雄と、大きくて産卵にも巣の防御にも好都合な雌は役割分担のために二型になっているとしか思えないような違いがあります。

 雌雄の役割分担 (A) が先か、雌雄の体格差 (B) が先かという話がよく出ますが、たぶん種の存続や繁栄に有利なようにAとBが絡み合いながら進化してきたのでしょう(証拠はなく、推測)。「進化要因」「選択圧」「偶然か必然か」「適応か中立か」「有利か不利か」とか、いろいろな興味深い議論や説があって、これはもうとっくに解決済みと思う人もいますが、まだまだホットなテーマだと思います。

 繁殖・換羽・渡りという3つの大仕事のうちの一つ目の繁殖活動が済んでも、直後に全身の換羽をさせるという大仕事があります。繁殖期の前や繁殖中に一部の換羽を済ませますが、実質的には繁殖後にすべての羽毛を総入れ替えすると言ってもいいくらいで、それには大量のエネルギーが必要です。また、愛知県のオオタカはそれほど大きな移動をしませんが、渡るオオタカやオオタカ以外の渡るタカは換羽後すぐに「渡り」というこれまた大仕事が待ち構えています。そうすると、結局休めるのは冬くらいですが、冬は冬で狩りが難しく、きつい寒さや強風に堪えなければならない時期があります。そんなことを考えているとオオタカにとっては一年じゅうが大変なことばかりで、いったいいつ休養できるのだろうかと思ってしまいます。人間のような、よけいな思考や妄想、悩みがなさそうなので、精神面では意外と疲れ知らずかもしれませんが、肉体は疲れます(いつも二元論の罠から逃れようとしていますが、またはまっちゃいました)。

 雌雄の役割分担と性的サイズ二型をいつも頭の中において一年中オオタカを観察していますが、しばしば雄と雌がまるで別種のような錯覚に陥ります。オオタカに限らず他の多くの俊敏な鷹隼類もそうですし、冬場、小鳥を連続で捕獲するハイタカでもそう感じます。一年中、野外に出てずっとタカを観察しているだけですが、毎日何かしら新しい発見や気付きがあって、面白いものです。

(Uploaded on 1 August 2024)

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オオタカ 雌幼鳥と雄幼鳥の繁殖例


 以前この通信の1996年10月30日付けの記事「オオタカのオス幼鳥の繁殖例を教えて下さい!」で、オオタカの雄幼鳥の繁殖例はないですが、雌幼鳥の繁殖事例は時々ありますと書きました。そして、今のところこんな例が雑誌・機関誌などに載っていますと例を挙げました。以下6行はその時の再掲です。

 〇 『日本野鳥の会大阪支部報』の1983年以前の号に雌幼鳥が営巣する写真が載っていた。
 〇 『アニマ』1988年2月号で紹介された東北地方のオオタカ。太田威さんによる観察・撮影。
 〇 常山秀夫著『バードウォッチング』P115。1985年に営巣した。
 〇 宮崎学著『鷲鷹ひとり旅』P24,27。1969年、宮崎さんが生まれて初めて見たオオタカの巣。
 〇 1993年、愛知県にて営巣した(若杉確認)。
 〇 1993年、岐阜県にて営巣した(若杉確認)。

(以上6行、再掲です)

 その後、上記の1993年以降、私は雌幼鳥の営巣を見たことがありませんでした。31年間、それなりの数のオオタカの巣を見てきましたが、雄も雌も成鳥の巣ばかりでした。たまたま幼鳥の繁殖を私が見ていなかっただけか、あるいは愛知県ではほとんどが成鳥の繁殖であったということかもしれませんが、他の人から幼鳥の新しい繁殖事例を聞くことはなく、雑誌やブログでも幼鳥の繁殖はあまり多くは聞きませんでした(繁殖例がなかったわけではありません)。

 そんな中、2024年春、私の友人が見つけたオオタカの新しい巣の雌は幼鳥でした。7月現在、風切や尾羽その他に成鳥の羽が増えてきているので、厳密に言えば今は「若鳥」ということになりますが、繁殖を開始した3月ごろはほぼ完全な幼鳥でした。


幼鳥の羽衣で繁殖したオオタカ雌。風切等かなり成羽が多くなっている  愛知県 6月 若杉撮影

 

 31年ぶりにこういう営巣を見ることになりました。なぜ31年間も雌幼鳥の繁殖を見ることがなかったのか、不思議でした。

 オオタカ雌は生後約一年の幼鳥の時(第2暦年、1歳)に繁殖能力を有します。ですから、もっと多くの雌幼鳥が営巣活動していてもおかしくはないと考えます。

(次の段落は推測を交えて記述しています)

 今から40年以上前、オオタカの個体数は非常に少なかったです。個体数が少ないので新しく生まれた幼鳥も繁殖に加わるチャンスが高かったのかもしれません。しかし、今はオオタカの個体数が増えていて成鳥だけで充分な数がまかなえて、幼鳥がそこに入り込む余地がなくなっているのかもしれません。これはあくまでも推測です。これを確かめることは結構難しいですが、成鳥は幼鳥よりも社会経験を多く積んでいて、狩りの技術は上達し、危険回避をする能力も身に付き、生きて行くということに関しては何から何まで幼鳥よりも優れていると思われます。ヨーロッパのチョウゲンボウの研究者は雌成鳥がお相手を決める時、経験の浅い雄幼鳥を避けようとすることがあると述べています。雌雄が逆ですが、オオタカ雄成鳥が社会経験の浅い雌幼鳥を進んで選択するということは非常に考えにくいことです。

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 話は変わり、次は雄幼鳥の繁殖についてです。雄は雌よりも約一年遅く繁殖能力を有するようになり、幼羽から成羽に換わった年の翌年(第3暦年、2歳)、個体によってはさらに一年遅く、成羽になった年の翌々年(第4暦年、3歳)から繁殖すると言われています。

 オオタカ雄幼鳥が繁殖したという話は今まで国内でも外国でも私は生涯聞いたことがありませんでした。しかし、2021年春、ラトビア(バルト三国の真ん中の国)でのオオタカのライブカメラ(ラトビア自然財団提供)で、雄も雌も両方とも幼鳥という繁殖例を見ました。雌はともかく雄が幼鳥ということに私はかなり驚きました。下の画像は雄幼鳥が小鳥を運んできた直後、雌幼鳥が受け取った時のものです。


雌雄ともに幼鳥という珍しいペア。ラトビアのオオタカ繁殖LIVEカメラから

 

 2024年7月現在、このライブカメラの2021年5月28日の4分1秒間の動画をYouTubeで見ることができます。以下のアドレスです(いつまで視聴可能か分かりません)。Shiftキーを押しながらクリックしてください。

   【 ラトビアの雌雄とも幼鳥の繁殖例 YouTube 】

 当時、私はヒナがまだ小さい繁殖の途中からLIVEカメラの映像を見始めました。産卵前から見たわけではなかったので詳細は不明で、ひょっとしたら以下のようなことがあったかもしれないと考えていました。

1 営巣当初の雄は成鳥であったけれど、何らかの原因でいなくなってしまったので、代わりに雄幼鳥がそこに入ってきた可能性は?
2 普通に考えると1歳の雄には繁殖能力がないと言われているので、初めからこの雄がペアだったのだが、雌は別の成鳥雄の精子を受け取っていたという可能性は?(タカ類も他の鳥類同様、つがい外交尾が頻繁にある)
3 いや、現在の雄幼鳥が極めて早熟だったので、初めからこのペアで繁殖が進んだという可能性はあるかも。

 これらは考えすぎかもしれませんが、自分が観察していないことや確認できないことには疑問を持つことや推測扱いにすることが大切と思います。

 私にはこの巣についての詳細がよく分からなかったのですが、2021年のラトビアのこの巣・ペアに関する情報を調べてくださった方により、このペアに足輪が付けられた日付や場所、そして、この巣に関しての前年からのフォーラムがあったことが分かりました。前年からのタカの動きを知ることができ、産卵の前からこの幼鳥のペアが巣を利用していたことも分かりました。上記の1は否定され、2もなさそうで、3の考えが妥当のようです。


ラトビアのオオタカ繁殖LIVEカメラに係るフォーラムから

 

 「満1歳のオオタカ雄幼鳥には繁殖能力がない」という通説は正しくないように思います。99%以上は正しいと思われますが、100%ではなかったということでしょう。教科書に書いてあること、世間一般に言われていること、世間の常識などには間違いや不十分さがいっぱいありますが、これもその一つかもしれません。それよりも私はこの通説をずっと真に受けていて、長い間強いバイアスがかかったままであったことが大きな反省材料です。

 ここで改めて、28年ぶりに新たな情報提供のお願いです。日本国内で、オオタカ雄幼鳥の繁殖例はありませんか?

(Uploaded on 14 July 2024)

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オオタカのスカイダンスは 間(ま)が魅力


 フクロウの鳴き声が好きです。「ゴウホゥ、ゴロッホホウホウ」と鳴く中の「ゴウホゥ」と「ゴロッホ ホウホウ」の間に2~3秒の間(ま)があります。「ゴウホゥ、(2~3秒の間)、ゴロッホホウホウ」。私はこの間に何とも言えない魅力を感じます。演劇においても、人と人との会話においても、文章の途中の空白と同じように間は大切で、この間の取り方というものが価値を生みます。

 グスタフ・マーラーの交響曲は「大地の歌」というほぼ交響曲といっていいものを含め11曲ありますが、音の緩急変化が実に見事です。指揮者によっても微妙な違いがありますので、どの曲も3~5枚のCDを持っています。交響曲第1番でワルター指揮とマゼール指揮、アバド指揮、小澤征爾指揮、Bertini指揮などを聞き比べていると、指揮者によって間の取り方や重力にどう逆らっていくか、重力をどう受け入れていくかが微妙に違うことが分かります。交響曲第5番第4楽章アダージェットや交響曲第10番第1楽章アダージョなどはいろんな指揮者を聞き比べるにはその違いが分かりやすい楽章でしょう。もちろん、間といってもここでフクロウの間のような2~3秒の空白時間や四分休符、八分休符などがあるわけではないです。

 私はピアノが下手ですが、最近、ドビュッシーの「月の光」の練習をしています。原譜の通りやっていますが、変ニ長調で♭が5つも付いているので、最初はびびりました。でも、♭が5つということは黒鍵を全部使うということなので、私にとっては♭が3つとか、#が2つとかいうものよりも単純で、かえってさっぱりとして分かりやすいです。苦労の連続ですが、下の楽譜の中の赤い〇で囲んだ音が、まさに重力に逆らうようにふわっと浮遊する音に思えてならないです。左手右手それぞれの最初の音は1オクターブ違うファとラの同じ音だからか、最初からふわっと浮いてきます。2小節目からは右手のタイの音の最後の一拍(八分音符の長さ)と重なるように左手の赤い〇印の音が入るので、そこでふわっとした、得も言われぬ感覚が味わえます。楽譜の中には最初の7小節分しか〇を付けてないですが、以降も同じように続きます。


ドビュッシー作曲「月の光」。赤い〇印の音が問題の音です

 

 これらの「間」や「無重力」に近い魅力がオオタカのスカイダンスの途中にも見られます。スカイダンスはオオタカのディスプレイ飛行の一つで、狭い範囲内で旋回上昇をした後、逆アーチ型の飛跡の波状飛行をし、だんだん高度を下げていくものです。この降下を一回だけしたり、途中で再度の旋回上昇をした後でまた降下したり、あるいは逆アーチ型の降下を何回も繰り返したりします。この辺りの組み合わせはバラエティーに富んでいます。下の画(右)は降下を何回も繰り返すところですが、ハンティング時や求愛ディスプレイ時、(気分)高揚ディスプレイ時、侵入個体の排除時などのスカイダンス風の飛翔を含めて、こういう魅力的な飛び方はけっこうよく見られます。


左はジェットコースターの動き。右はオオタカのスカイダンスの動き

 

 ジェットコースターがアーチ型の山を越える前、高度がだんだん上がっていくと初めは速かったスピードがてっぺん付近でかなりゆっくりになって、てっぺんではほとんど止まるかのようにゆっくりになります。そして山を越えた後、重力の影響で加速してどんどんスピードが増していきます。そのてっぺん辺りのなんとなくふわっとしたような一瞬、重力から解放されるような、気が抜けるような瞬間がありますが、それと同じような瞬間がスカイダンスの途中にも見られます。これを間とは感じない方もおられると思いますが、スピードがふっと落ちて、その瞬間に無重力を感じますから、私は勝手にこれも「間」の一つと捉えています。

 今回はオオタカの飛翔に関してだけ書きましたが、他のタカ・ハヤブサ類についても似たようなことがあります。特に飛翔能力が高い種ほどそう感じること多いです。

(余談ですが)

 坐禅や瞑想をしている修行者は時々体が浮遊するような経験(浮遊体験)をしますが、あれはあくまでも妄想であって何の意味もないことなので(修行が進んでいるわけではないので)、囚われないようにしなければいけないと言われています。

(Uploaded on 27 June 2024)

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オオタカの産卵間隔は 平均で約66時間


 愛知県のオオタカは通常4月上旬に4卵を産卵します。時には3月末に初卵を産下したり、全部で5卵を産下したりすることがありますが、これらは稀です。鳥類のクラッチサイズというのはかなり確定された数値と思われ、オオタカの場合は4と考えてよいでしょう。営巣調査などでヒナの巣立ちが2羽だったとか3羽だったとかの報告がありますが、ふ化しなかった卵があったり、ヒナが小さいうちに死んだり捕られたり巣から落ちたりすることがありますから、この場合でも、産んだ卵の数は2卵とか3卵ではなく4卵だったかもしれません。もちろん2卵を産んだ後で体調などに変化があって以後の産下をストップすることはあるでしょうし、環境が変わってしまうとか何らかの外的要因があってそれ以降の産下をやめざるを得ないことはあるでしょう。

 産卵する時の姿勢は、

① 産下する少し前から産座の上に立ちます。
② 産下の直前に、尾を少し上にあげます。
③ 頭を少し上に反るように上げます。
④ 翼はたたんだ状態からほんの少し広げることがあります。

 そして、産下するとすぐに頭を下げて嘴を卵に持っていき、卵を確認し、卵を少し移動させるような動きが見られます。

 卵には斑点がなく、色は鮮やかな濃い水色(スカイブルー)です。しかし、見る見るうちに色が抜けてきて、1日経つとほとんど白に近くなりますが、ほんのりと水色味は残ります。『巣と卵図鑑』などではオオタカの卵は純白に描かれていますが、これは産卵後何日か経った頃の色です。産んだ直後の濃い水色の卵を見た人はきっとびっくりでしょう。

 


オオタカの卵(白色の卵は第1卵、水色の卵は第2卵で産下直後のもの) 4月

 

 夜に産卵した時は、水色がはっきり分かりませんが、他の卵は表面が乾いている中で、産まれた直後の卵は濡れているので、その卵だけがきらっと光って見え、どれが新しい卵か分かります。

 オオタカが第1卵を産下した後、第2卵産下までの産卵間隔は 平均2.81日(=67.44時間)です。ぴたりと3日(=72時間)になっていないので、産下時刻は産下のたびに 72-67=5時間ほど早くなっていきます。もし第1卵を朝方産んだ場合、第2卵はたいてい未明に産下することになります。そういうことから、

〇 ニワトリとは違って、いつでも朝(午前中)卵を産むわけではありません
〇 毎回同じ時刻のころに産むわけでもありません
〇 夜は卵を産まないというわけでもありません

 時刻や明るさに関係なく(昼夜に関係なく)、第2卵はおよそ67時間後に産下するということです。

 ただし、異常値がどこかにあります。

 産卵間隔のデータをグラフにしていると、必ずどこかで異常値というものが見られます。産卵間隔がそこだけ82時間だったというような数字です。産卵と産卵の間隔を分単位で計算した結果は、

   平均産卵間隔 67.44時間(N=28)でした。

 この中に3つの異常値がありました。その3つを抜いて計算すると、

   平均産卵間隔 66.00時間(N=25) でした。

 この記事のタイトルに書いた数字はこの異常値を除いた数字です。これを異常値と考えずに、自然界には(特に生物の世界では)そういうものが必ずあるものだと考えたほうが良いのかもしれません。しかし、グラフにしてみると、ごく標準の時と比べて明らかに飛び抜けている数字がありますから、それを異常値として抜いて考えると、見事にきれいなグラフになり、やはり抜いた場合も考えてみたくなります。この辺りは自然に対する考え方の違いで、きれいな規則を求めるのか、ぐちゃぐちゃで当たり前と思うかの違いでしょう。私は、いろいろな変化、異常は当然あるけれども、しかし、なんらかの一定の規則、傾向はあるだろうという考え方で自然を見ています。

 実際、産卵間隔が異常に長い時の卵は孵化しないことが多いです。産んだ卵の順番は卵に模様や特徴があるわけではないので見るだけでは分からなくて、4卵あるうちのどれが第1卵か、どれが第2卵か…… は卵に印でもつけないと判断できないのですが、親が抱卵している中で印をつけるわけにはいきません。完全に正確なことは分かりませんが、第3,4卵が異常に遅く産下された場合、全4卵のうちのどれか2卵はふ化しなかったことがあります。上に書いた3例の異常値のうちの2例がこれです。そう考えるとやはり異常値は抜いたほうがよいかもしれません。

 いずれにしても、異常値が入っていても抜いても、切りのよい72時間(3日間)よりは数時間短くなっています。

(Uploaded on 8 June 2024)

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オオタカ雄成鳥の 換羽開始時期


 書籍等には「オオタカの雌は抱卵期間中に換羽を始めるのに対して、雄成鳥はヒナが巣立った後の雌よりも遅い時期に換羽する」というように書かれています。およそ正しいと思いますが、これはかなり大雑把な言い方であって実際はかなり異なっています。

 実は多くの雄成鳥は、雌が産卵する前(愛知県では4月初旬)までに初列風切P1を、あるいはP2まで換羽しているものが多く、卵が孵化するまでには初列風切P2、あるいはP3くらいまで換羽を進めている個体が多いです。P3まで換羽した雄はそれ以降、4羽ほどのヒナと雌親に毎日何回も獲物を届けなければいけないので、換羽に多大なエネルギーを注入することができないため換羽を中断します。

 ヒナが大きくなるにつれて、それまで以上にたくさんの食料を運んでこなければいけなくなるので、雄はますます忙しくなります。タカはハンティングなどで動き回ることが激しければ激しいほど大量の食料が必要となりますから、雄自身の自分が食べる食料も必然的に多くなり、とても換羽どころではなくなります。あまり激しく動かない時期(繁殖期以外の時期)は自分が食べるための獲物だけでよかったですがその時と比べると、急速に成長し大きくなっていくヒナ4羽と雌親と、激しく動き回る自分の食料を合わせると、正確な量は計算していませんが、少なくとも繁殖期前より数倍の獲物が必要になることでしょう。

 下の画像は、ヒナが孵化する少し前のころに撮った雄成鳥で、初列風切P1,P2,P3が換羽中です。左が撮った画像そのままのものですが、このように激しい逆光で撮ると重なった部分が黒く見えますので、通常は写らない短い羽(伸長中の羽)も撮ることができます。右は説明用に3枚の羽を色線で囲みました。

 青い枠で囲ったP1は新しい羽でほぼ伸長し終わる頃です。

 赤い枠で囲ったP2は新しい羽が半分以上伸びてきています。

 黄色い枠で囲ったP3は新しい羽がおよそ半分以上伸びてきたところですが、P2よりは短いです。

 P1、P2、P3 という順で抜け落ち、その後伸長してきますので、P1が一番長くなっています。


卵が孵化する前(5月8日)のオオタカ雄成鳥の換羽状況  愛知県 若杉撮影

 

 3枚の羽が少しずつずれながら重なっていますから、重なりの多い部分ほど色が濃く(黒く)写っています。これら3枚の新羽以外の羽は次列風切も含めてすべて約一年前に換羽した古い羽(旧羽)です。旧羽がほとんど傷んでいないので、ハンティングで羽を痛めなかった優秀な個体だろうと推測しています。

 たいていの雌は抱卵中に風切だけでなく尾羽の換羽も始めます。中央尾羽R1が2枚抜け落ちて新しい羽2枚が徐々に伸長してきます。一方、雄が尾羽を換羽し始めるのは、ヒナが巣立った後になりますから、雌よりは遅いです。全体として見れば、雄よりも雌が早く換羽するということは正しいですが、ヒナが巣立ちするまで雄が換羽を始めないということではないです。 

 ここまで書いたことは愛知県での状況なので、北の方の寒い地域では繁殖が愛知県と比べると遅いため換羽の始まりの時期や換羽の進み方が異なっているかもしれません。また外国の観察例と愛知県の観察例でも若干異なるところがあるのは気候の差が影響しているか、何か他の影響があるのかもしれません。

(Uploaded on 17 May 2024)

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オオタカが旋回上昇し 高空まで上がった後に……


 オオタカをはじめ、多くの鷹隼類はしばしば旋回上昇します。上昇気流があまり強くない(上昇気流がまだできていない)と思われる朝早いうちは見ることが少なく、日によって違いますが例えば朝9時過ぎからとか、上昇気流がある時間帯に多く見られます。

 木の枝や鉄塔から飛び立ったタカが小さな輪を描きながら、時には大きな輪を描いて徐々に高度を上げていきます。大きな輪を描く時は隣りの上昇気流に移っていく時も含まれるだろうと思いますが、人間の私には上昇気流が見えません。


旋回上昇をし始めたころのオオタカ雄成鳥  愛知県 5月 若杉撮影

 

 上昇気流が強い時はかなり早く高度を上げることができます。あっという間に200mや300mまではすぐに上がります。そして、双眼鏡を目から離すと、もう肉眼では見えないほどまで上がっていることがあります。以前、私の視力が両眼ともに2.0だった頃でも肉眼では見えなくなるまで上昇していきました。今は若干視力が落ちてきていますので、一度双眼鏡から目を離した後は再び双眼鏡の視野の中に入れることが困難なほど高くまで上がることもしばしばです。さらに上昇していくと、14倍の防振双眼鏡で見続けていても青空や雲にタカが溶けてしまい見えなくなります。

 タカがどの程度の高さまで上がったのか分からない時があります。水平距離で200mのオオタカは肉眼でも十分に見えます。1km離れた鉄塔にとまっているオオタカもいるかいないかは肉眼で十分に確認できますし、真っ黒なカラスではなく何らかのタカであること(オオタカかノスリだろうか)くらいまではたいてい分かります。1.5kmまでなら何らかのとまり個体がいることは肉眼でも分かります。ただ、タカは体下面と翼下面が白っぽい種が多く、高空に上がってしまうと、背景が青空でも薄い雲でも濃い雲でも、背景に溶けてしまうように見えなくなることがあります。したがって水平の時ほどは遠くまで確認ができないと思いますが、それでもたぶん高度数百mくらいまでなら何とか肉眼でも確認できると思っています。双眼鏡ならもっと高いところまで確認できると思いますが、双眼鏡の視野の中に入れたままでは高度が判断しにくくなります。

 さて、こうして高空まで上がっていった鷹隼類はその後、どうするのでしょうか。多くの観察者の方はそんなにまで上がってしまったタカは「もう見えない、写真なんか撮れない、どこへ行ったか分からない」と思って、終わりにしてしまう方が多いようです。しかし、双眼鏡から目を離さずそのタカを見続けていると、けっこうその後に重要なシーンが見られることがあります。というか、頻繁によいシーンが見られます。どの種のタカ類でもハヤブサ類でもみんなそれなりの目を見張るような出来事が起こっていますが、ここでは私がオオタカで経験したことをいくつか挙げてみます。

 (1) 高空からの急降下ハンティング

 「こんなに高く上がってしまうと、きっと遠くまで滑空してどこかに飛去してしまうだろう」と思わせるような高さまで上がった後でもそこから急降下して(時には3段階くらいに分けて急降下して)、地上近くの鳥を襲うことがあります。これはしばしば見てきました。有利に狩りを行うためにかなりの高空まで上がっていったと考えられます。獲物よりも上に位置することは狩りには大変重要なことで、いくら高く上がっても高すぎることはなさそうです。

 (2) 高空からのスカイダンス風降下

 スカイダンスは逆アーチ型の飛跡を何個も連続させて降下しますが、「スカイダンス風」はここではスカイダンスのような飛跡でという意味で使っています。別の言い方をすると階段状の急降下と言えます。早いものでは1月くらいから見られます。しばしば「求愛ディスプレイ」と思われますが、つがい関係が成立した後、あるいはもともとつがいだった個体同士でも見られますから、求愛というよりは繁殖に対する興奮が高まった時に見られるものだろうと私は考えています。主に雌が行うようですが、私は雌がスカイダンスをしている脇で雄がスカイダンスをやっているところを見たことがありますので、雌雄両方とも行うと考えたほうがよいでしょう。

 (3) 侵入個体の排除行動

 侵入個体が営巣地の近くまで来た時に行うものです。排除だけが目的ならば、見えなくなるほどのはるか高空まで上がっていく必要はないように思ってしまいますが、やはり、相手よりも少しでも高いところへ上がって、相手より有利なポジションに立ちたいという欲求が強いからなのでしょう。空中戦の場合、急降下する勢いというのはかなりの武器になりますから、少しでも相手より上に上がったものが優位に立つことができます。「こんなに上がった」と思うほど高く上がったオオタカが急降下して下方でハヤブサに突っかかったことがありました。ハヤブサは逃げていきました。

 (4) 目的不明で、遠くへ移動する時

 高空まで上がった後で、ほぼ水平方向へ滑空を交えながら羽ばたいて遠くまで行ってしまうことがあります。例えば3kmとか、4kmとかという遠方まで、あるいはそれ以上の遠くまで行きます。もちろん双眼鏡では見えなくなりますから観察は一旦ストップして、飛去した方向で当てがある地点(かつて狩りをおこなっていたところや、いつも獲物が多くいるところなど)を探すことになります。そうして、2.5km先のほうで狩りの獲物探しをしている同一個体を見つけたり、3.9kmも離れた地点でハンティング中の個体(個体識別で同一個体と確認)を見つけたことがあります。やはり、遠くまで行く目的は狩りでした。

 飛去した先で何をしているのか、あるいはどこまで飛んでいったのか、探しても分からなくて、どうしようもない時がありますが、一つヒントはあります。それは、遠くまで行ってしまった後、例えば1時間くらいしてから、ハトくらいの獲物を持って営巣地へ帰ってくることがしばしばあるということです。オオタカはハトを捕らえると、そこで獲物の羽をむしって自分でいくらかを食べて、残りを営巣地へ持って来て、雌やヒナの食料にします。その時、ハトくらいの大きさの獲物を捕らえてから巣へ帰ってくるまでにはおおよそ1時間から1時間半くらいは時間がかかります。獲物が小さければ時間は短くなります。ということは、旋回上昇して見えないくらいまで遠くまで行って、その直後にそこではやはり狩りをしていたのではないかとしか思えないことが多いです。特に繁殖期の場合は、ほとんど狩り目当てで遠くまで行っているのではないかと思われます。高く上がれば遠くのハトの群れが見えますし、ハトに気付かれないようにハトの群れの上方の高いところに位置することもできます。エネルギーを消費せずに遠くまで行くことができますので、やはり高く上がったほうが得です。


私が姿を見失った後、獲物を持って巣の方向へ帰っていったオオタカ雄成鳥  愛知県 5月 若杉撮影

 

 私たちには何の目的か分からないように遠くへ移動していってしまう時、それが100%狩り目的だとは断言できないですが、狩りの可能性が高いとは言えそうです。いずれにしても遠くへ行こうとするときには、やはり旋回上昇とそれに続く滑空を使います。

 (5) 渡りで、遠くへ移動する時

 渡りが盛んな頃は、もちろん渡るときに旋回上昇します。タカ渡りポイントでの観察中でも、旋回上昇してからスーッと滑空していくところが頻繁に見られます。愛知県では幼鳥の渡りを見ることが多いですが、もちろん成鳥も旋回上昇をした後に滑空して渡っていきます。

 (6) つがい外交尾など、その他の時

 他にも、雌雄ともに産卵時期の少し前に、つがい外交尾をしに遠くまで行くなど別の目的があって旋回上昇すると思われますが、同一個体と断定できなかったり、現場を突き止めることができなかったり(現場は突き止めたけれどもその個体がどこの営巣個体か判断できなかった)という理由で、はっきりとここに書くことができません。上記(1)~(5)以外にもいろいろあると思われます。

(Uploaded on 30 April 2024)

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オオタカの営巣を阻害するもの


 世間一般の人たちにとって、オオタカなどの鷹隼類は「強き者」というイメージがあるようです。特にイヌワシやクマタカなどに至っては、その極致にあるかのようなイメージがあるようです。ある面でこのイメージは正しいところがあると思いますが、実際は、彼らの神経はかなりデリケートで、ヒトを好まず、何かちょっとしたことがあればすぐに営巣をあきらめたり、他所へ行ってしまうということがあります。

 このあたりのことはBIRDER 2017年12月号に「オオタカ希少種解除 なぜ祝えないのか?」という文章に3ページにわたって書きましたので、ここでは繰り返しませんが、今回はオオタカの営巣を阻害する要因をいくつか挙げてみます。網羅することは難しく、私の知らないことも多いので、ここに書けなかったこともたくさんあると思います。


ヒナ4羽が巣立ったオオタカの巣 愛知県 6月 若杉撮影

 

(1)ハクビシンなどの樹上性哺乳類

 シカやイノシシのように木に登らない哺乳類はたくさんいますが、木登りの得意な哺乳類も数多くいます。なかでもハクビシンやテンなどは特に木登りが得意な種です。肉食系でなくて雑食の種でも、巣の中の卵は好物ということが多いようです。オオタカにとってはこれらの哺乳類はかなりの脅威です。昼間の侵入者なら追い払うなどの対応がとれますが、夜、木に登って来られると、タカは目が見えないわけではない(鳥目ではない)ものの、昼間とは勝手が違って分が悪く、やられてしまいます。

 巣を略奪したり壊したりしなくても、巣の上に登ってくるだけで卵の上に座られる(乗られる)と卵が割れてしまいます。オオタカの産卵直後に巣の上に座ったハクビシンのせいで卵が割れたことがあります。卵が割れると、巣の上がべとべとになってしまい、臭くて衛生的にも悪くなり、そのシーズンはその巣を使うことができなくなります。産卵直後でまだ次が産めるような時はすぐ近くに作ってある予備の巣が利用できるので、そこで産卵することがありますが、産卵後、ある程度日数が経った後だと、なかなか簡単には次が産めません。時期遅れになります。

 アライグマなどの特定外来種の問題もあります。一見かわいらしいから飼育してみたとか、「あらいぐまラスカル」から勝手にかわいいイメージを育ててしまった人間にも大きな責任があります。あくまでキャラはキャラとして、現実の生き物とは区別しないといけないです。かわいいクマさんのキャラはイメージとしてそれはそれでいいのですが、現実の熊(ヒグマ、ツキノワグマ)と山道で遭遇してしまうとどうでしょうか。

 飼っていたアライグマを逃がしてしまった飼育施設や、アライグマを大量に繁殖させて何十頭も山に放った人たち、次から次と売れるからということで海外から大量に輸入販売され、飼育個体を手に負えなくなって(飼育できなくなって)山に逃がした人たち、飼育よりも山に逃がした方が彼らにとっては幸せだと信じて(あるいは勝手に思い込んで、またはそう教えられて、またはそういう勝手な言い訳で)山に逃がした人たち。それらの個体から始まって、野外で増えていったようです。

 オオタカの営巣失敗とアライグマとの関係を示すデータはいくつかあって、池田透氏による「アライグマ対策の課題」(『哺乳類科学』第46巻第1号。日本哺乳類学会 2006年6月)でフクロウ類やオオタカの巣をアライグマが略奪する例が挙げられていたり、他所でもアライグマが木に登ってオオタカの巣を荒らしたため営巣を放棄したという例が報告されています。夜の行動が多く、オオタカの巣を荒らしている瞬間を見る機会、観察できる機会が少ないので報告は少ないですが、全国的に見ればオオタカへの影響は大きいように思われます。

(2)フクロウ

 フクロウも夜、木に登ってくる哺乳類と一緒で、夜間に活動するので、かなり厄介です。産卵後しばらくしてからの抱卵中であっても、フクロウがオオタカの巣の上に夜な夜な来るようになると、お手上げです。オオタカの巣が作られるような林では、フクロウがオオタカの巣のすぐ近くで営巣しているという状況が多く見られます。しかも、フクロウはオオタカよりは若干早い時期に産卵しますので、結果として春先の3月にフクロウがオオタカの巣を乗っ取ってしまうということがしばしば見られます。昼間強いオオタカでも夜の戦いには弱いところがありますので、いくら強いオオタカでも本気で乗っ取りをたくらむフクロウはなかなか撃退できないようです。

 早い時期の巣の乗っ取りや抱卵妨害の他に、オオタカのヒナを直接捕食することもあります。夜の急襲だといくらオオタカの雌が巣の上にいてヒナを守っていても、昼間とは勝手が違って、夜のハンターであるフクロウには勝てません。

(3)カラス類

 カラス類は基本的に卵や小さい時期のヒナを食べるという脅威があります。一羽だけなら何とかできますが、何羽かで来られると撃退できなくなります。

(4)ノスリ

 ノスリは大きさがオオタカとほぼ同じですが、オオタカとよく似た営巣環境を好み、趾が短い分だけ握力が強く、しかも性格的に強引なところがあるので本気でオオタカの巣の横取りをたくらんだ時にはかなり脅威になります。フクロウと同じで、産卵時期もオオタカよりは若干早いので先に巣を占拠して産卵してしまうとオオタカは他所へ行かざるを得ない状況になることがあります(ノスリについてはこの通信などに今までも多く書いてきました)。

(5)アオダイショウ

 抱卵中にアオダイショウが登ってきて卵を食べてしまうことがあります。雌親が巣の上でアオダイショウと格闘して卵が割れてしまうこともあります。ヘビは木の幹を直接登ったり、枝伝いに移動してきてオオタカの巣の上にどすんと落ちたりします。オオタカにとっては危険な相手です。

(6)人、カメラマン、密猟者

 種の保存法による国内希少野生動植物種(以下、希少種)を解除された2017年9月の後、明らかにオオタカを見る人の目が変わってしまいました。多くの人が、希少種解除後も今までと同じように扱うつもりだとは言っているものの、実際の扱いはかなりいい加減になっています。特に「営巣代替地があるから良い」とか「代わりの巣をこしらえたのでそこで繁殖してくれれば良い」という言い訳で、ひどいことが行われているところがあります。今はここに詳細を書くことができませんが、かなりあくどいことも行われています。

 カメラマンの影響もあります。悪気はないように思いますが、タカが人を警戒しているその警戒の程度・度合が感受できなくて、「ここのタカは警戒心がないからいいね……」と言いながら巣の近くで長時間撮影している間にいつの間にか営巣放棄をしてしまったりします。そこまで行っても「何が原因なのか分からないけど、今年はうまく繁殖できなかったなぁ」と自分のことを忘れている場合があります。

 多くのカメラマンが集団で撮影している都市公園で無事に巣立っていくオオタカの巣も中にはありますが、『営巣林への立入制限は都市近郊に生息するオオタカの繁殖成功を促進する』という研究論文(日本鳥学会誌 71(2)板谷、夏川、守屋2022)では、立入制限が有るか無いかで繁殖成功率はおよそ3倍(63.6% vs 21.4% n=36)もの違いが出ていることが述べられています。この研究の考察では「都市近郊に生息するオオタカでさえも人為活動に対して寛容であるとは限らないことを示唆しており、営巣林での人為活動を制限することが重要と考えられる」と、締めくくっています。

 最近は「密猟者が少なくなった」、「密猟者はいなくなった」と言う人がいますが、どういう根拠でそう言っているのか不明です。今もオオタカの密猟は行われています。どの程度多くなったか少なくなったかは数字を挙げることがそもそも不可能なことですが、密猟は現に今も確認されています。私から見ると明らかな決定的証拠と思われる大きな証拠があっても、警察の立場からすると、「ヒナをリュックやバッグに入れて持ち運んでいるところを捕えないといけない」とか、「巣に登っているところを現行犯逮捕しないといけない」などと言われてしまい、かなりハードルが高いです。しかも犯行は深夜から未明に行われることが多いので、摘発はなかなか難しいことです。

 他には、これも文章に書くことがけっこう難しいことなので詳しく書きませんが、人間が自然に持っているバイアス、思い込み、誤解、自分勝手な考え、自分中心主義、人間中心主義、自然に対する理解の欠如・無知などに起因することもあります。

(7)薬

 DDTなどの農薬の影響は今ではもうなくなりましたが、人間が作ったさまざまな薬や化学物質が、オオタカの食べる獲物の中にも濃縮されています。どんな影響が出ているのか私にはよく分かりませんが、ホルモンに悪影響が出てくることが指摘されています。ホルモンはごく微量でも大きな影響を与える物質ですので、ちょっとした変化も大きな結果をもたらしてしまいます。

(8)気候変動

 世界中で引き起こされている異常気象は CO2 や CH4 だけがその原因ではないかもしれませんが、でも今の科学者たちの見解では、これらの気体が原因のかなり多くを占めていることはどうも間違いなさそうです。気候変動がオオタカの営巣とどういう関係があるかということは書き始めると長くなりますが、平均気温がどんどん上がってきて、今まで降ったことのないような大雨が頻繁に降るようになり、土石流被害も多くなり、国や地域によっては山火事が頻発するようになり、自然環境、営巣環境、生息環境が大きく変わってしまいます。多くの生物の生息分布はすでに変わり始めていて、今後は生態までも変わってしまう可能性は大きいです。オオタカの営巣とも無縁ではないです。

(9)食料、獲物の減少

 野鳥愛好家の間でいつも話題になるのは「鳥が減った」「冬鳥の数が少なくなった」です。稲作の方法が変わって、ドバトやムクドリなどはある程度たくさんいますが、オオタカの獲物となるそれ以外の鳥類は数が大きく減っています。

(10)その他

 どの程度の影響があるかよく分かりませんが、他にも風力発電、宅地開発などさまざまなことがあります。分からないことも多いようです。

 

(一方、特に問題にならないこと)

 私たち観察者から見ると営巣林に入ってくる侵入オオタカ雄は営巣阻害要因になるように思いますが、そうではなさそうです。

 オオタカ雄は産卵前や抱卵中に侵入雄を激しく嫌い、強い排除行動をとります。自分のつがい相手の雌が他のオオタカ雄から精子をもらうことを恐れていますので、侵入個体を激しく追い払います。でも、つがいの雌は実は侵入雄と交尾することを希望しているので、雄が獲物を捕りにどこかへ行っている間に巣の近くで、あるいは雄が近くにいても自分が巣から離れたところまで行って交尾することも多くあり、雄には何ともしようがありません。雄にとってはストレスがたまることですが、つがい外交尾は進化のプロセスの中に見事に組み込まれた優れたシステムであるようで、基本的に営巣の脅威にはなっていないと思います。

(Uploaded on 6 November 2023)

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オオタカとノスリの もう一つの心配な関係


 2020年4月18日付の記事No.412 「オオタカとノスリの(心配な)種間関係」 で、オオタカ幼鳥が捕えたハトをノスリが横取りするところを細かく記述しました。また、オオタカの巣がノスリに乗っ取られるのではないかという心配な話も書きました。今回はハトの群れをめぐりオオタカとノスリがどう関わっているかということを中心に書きます。

 1月初旬、市街化調整区域の中にあるやや広い農耕地でドバトの群れを見ていました。最初のうちは50羽ほどでしたが徐々に10数羽くらいずつ集まってきて、最後は200羽くらいの数になりました。50羽ほどのころ、地面に下りていたノスリが電線にとまりました。ハトとの距離はおよそ100メートルでした。もちろんハトはノスリにはびっくりしませんし、警戒もしません。ノスリには自分たちを捕らえる飛翔能力がないことをよく知っています。ハトの数が増え始めたころ、ノスリはさらにハトに近づいて、ハトのとまっている電線の近くの電柱のてっぺんにとまりました。ノスリの視線の先は地上でしたから、地面にいるであろう虫かネズミを探していたのでしょう(推測)。

 ハトはいつものように、ちょっとした音や何かの動きに敏感に反応して一斉に飛び立って、舞って、またほぼ同じところに戻ってきました。何回か飛び回っても、戻ってくるのは決まってノスリの近くでした。これを1時間30分ほど見ていましたが、オオタカが突っ込んでくることはありませんでした。オオタカは他所で狩りをしていたかもしれませんし、もう食べたばかりで空腹でないのかもしれませんから、人がずっと観察していても、その間に狩りが始まるわけではないです。長い時間見ていて、何かノスリとハトとの間に共通するものが見えてきました。


電柱にとまるノスリ成鳥 愛知県 1月 若杉撮影

 

 オオタカがハトを捕らえると、ノスリはオオタカからハトを横取りしようと猛然とオオタカに向かってきます。オオタカはノスリの気迫に負けて、たいていは獲物を横取りされてしまいます(辛うじて、うまく攻撃をかわす個体もいます)。

 ノスリは「もしこのハトの群れにオオタカが来てハトを捕らえれば、すぐにでも奪い取ってやろう」。
 ハトは「ノスリが近くにいるから、オオタカが攻めてくる可能性は低いだろう」
 オオタカは「ノスリがハトの群れの近くにいるから、ハトを襲っても煩わしいだけだ」

と、考えたのだろうと推測しました。私の考え過ぎ、妄想、勝手な推測かもしれませんので証拠が欲しいですが、ありません。しかし、私がこんな推測をするは過去のいきさつがあるからです。

 愛知県のノスリはほぼ冬鳥です。県内の東のほう(三河地方)を中心に20年ほど前から繁殖例が多くなってきて、市街地の神社などでも繁殖していますが、冬季と比べれば春から夏の個体数は大幅に少ないです。つまりほとんどが冬鳥です。県の西部(尾張地方)でも繁殖例はありますがまだ例数が少なく、繁殖期にノスリを見ることは稀で、秋から冬と春の初めにしか見ません。そんなノスリの季節変動や経年による増加に関係してオオタカの行動は次のように変化してきました。

(1) 昔のオオタカ
 オオタカがハトを捕らえるとそのまま地面に下りて、その場でむしって食べ始めることが多かったです。カラスが集まってくることは今も同じですが、奪い取られるようなことはそれほどありませんでした。カラス対策で朝早くに狩りをしていたのかもしれません(これは今も同じで、オオタカはかなり朝早く暗いうちにも狩りをします)。今ほどオオタカも多くはなかったのですが、ノスリはオオタカの狩りには何の影響もなかったようです。

(2) ちょっと前までは
 ノスリの数が多くなってきたので、オオタカはハトを捕らえると、すぐに竹林や林の中へ持って入っていき、中でゆっくりとノスリやカラスにじゃまされずに食べていました。

(3) 最近は
 オオタカがハトを捕らえると、どこかで見ていたノスリがオオタカの後を追って、オオタカが入っていった林の中まで入っていきます。林の中の様子は見えませんが、ハトを持って入ったオオタカがすぐに手ぶらで林から出てくるところを何度も見かけました。ノスリは林から出てこないので、林の中ではノスリがハトを食べていることが推定されます。

(4) この日の推測
 ノスリはハトの近くで待っていればオオタカがハトを捕らえるであろうと推測できます。もし近くで捕れば、追いかけなくてもすぐに横取りできます。ハトはノスリがいればオオタカが近寄ってこない(かもしれない)ので、ノスリが自分たちの用心棒のように思えてきます。

 (1)~(3)は観察による事実ですが、(4) は「ちょっと信じられない」、「若杉さんの考え過ぎではないかと思う」という方が多いかもしれません。どうでしょうか。これを証明するには、最低限、ハトのすぐ近くにノスリがいる時は、オオタカの狩りがない、または少ないことと、ハトを捕えてもすぐその場で横取りされてしまう(されてしまった)ことを実証しないといけないでしょう。

 ノスリとオオタカが増えてきたことで、両者の生態は変わってきました。もしも(4)の状況が多くの地点で見られるようになっても、自然界は激しく変化し続けますので、オオタカはオオタカなりに新しい手を打ってくることでしょう。さて、(4)は単なる私の妄想なのか、事実なのか、今後の観察が楽しみです。

(Uploaded on 22 June 2023)

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『オオタカ -あるペア、5年間の繁殖記録-』


 『オオタカ -あるペア、5年間の繁殖記録-』が出版されました。著者は村田眞宏さんで、私のオオタカ観察仲間です。

 アマゾンのサイトでは、「オオタカ、あるペアの繁殖行動を5年間にわたって追った写真記録集。侵入者からテリトリーを守り、ハンティングに出かけ、そして交尾から産卵、抱卵と育雛、ヒナの巣立ちから独り立ちへ。都市近郊に生きるオオタカが、その命をつなぐために懸命に生きる姿を克明にとらえた数々の写真と行動記録によって紹介」と記述されています。

 この5年間、私もこのペアの雌雄判断、個体識別にかかわり、羽の欠損(抜けや折れ、傷みなど)のようすや過眼線、眉斑の特徴を常に記録しながら観察しましたので、生態記録の正確さは保証します。例えば巣から2.5km離れた地点でドバトの狩りに成功した個体は初列風切の先端の欠損からここのペアの雄と確定して記述してあることはその一例です。写真も鮮明で芸術的美しさがありますから、私のお薦めの一冊です。


村田眞宏さん著『オオタカ -あるペア、5年間の繁殖記録-』の表紙

 

 紙版の情報は、
  出版社 ‏ : ‎ NextPublishing Authors Press
  発売日 ‏ : ‎ 2023年5月10日
  言語 ‏ : ‎ 日本語
  オンデマンド (ペーパーバック) ‏ : ‎ 82ページ
  ISBN-10 ‏ : ‎ 4802083122
  ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4802083126
  寸法 ‏ : ‎ 21.59 x 0.51 x 27.94 cm(およそA4サイズ)

 オンデマンド (ペーパーバック)版は ¥1,870 です。
 Kindle版 (電子書籍)もあって ¥1,540 です。

 アマゾンの注文サイトは、「amazon 村田眞宏」で検索すればすぐ出てきます。または、次のアドレスを Shift キーを押しながらクリックしてください。→ 【 注文ページ 】

(Uploaded on 13 May 2023)

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オオタカの声と紛らわしい鳥の鳴き声


 オオタカを観察中に紛らわしい声というと、愛知県ではカケスとコジュケイが挙げられます。カケスの声は一般には「ジャッ」ですが、頻繁にさまざまな鳥や他の生物の鳴き声をまねします。4月8日にも、オオタカが営巣する林の中からカケスの声でオオタカの猛り鳴き(キャッキャッキャッ……)と高鳴き(フィアー、フィアー)が聞こえてきました。慣れれば間違えることは少ないですが、慣れない人は見事にだまされてしまうかもしれません。私も昔、だまされたことがあります。


鳴きまねをよくするカケス 1月 長野県 若杉撮影

 

 オオタカ雌の猛り鳴きは「キャッキャッキャッ……」で、雄はよく似た声でやや弱く音程も若干高い「キャッキャッキャッ」あるいは「キッキッキッ」などと聞こえる声ですが、この日のカケスの鳴きまねの声はオオタカよりもテンポがやや速く、音量は雌よりもやや小さかったです。オオタカの声もカケスの声も両種とも個体によって若干違いがありますが、テンポや音量の違いだけからでもオオタカの声とカケスの声の区別はかなりはっきりとできるはずです。若干慣れが必要かもしれませんがすぐに分かります。

 オオタカの高鳴きは「フィアー」ですが、カケスの声もよく似ていて、この日に聞いた声は「フィアー」よりも「フィアーゥー」というように「ゥー」が必ず付いていました。一瞬だまされそうでしたが、聞いているとすぐに違いが分かります。また、時折カケスの本来の「ジェッ」とか「ジェー」という声が聞こえてきたり、飛ぶ姿が見られますので、一声かわずかな時間しか聞いていなかったことで最初はだまされていたとしても、時間とともになんだか変だな、おかしいなと思うようになってきて、だんだんとカケスの仕業だと分かってきます。

 ただ、上に書いた声はあらゆるカケスの声を聞いて調べたものではないので、カケスの個体によって、あるいは地域によっても多少違いがあることと思います。特にうしろに「ゥー」が付いていない場合もあるでしょう。

 一番危ないのは遠くの方でカケスが鳴いている時と、一声や二声しか鳴かなかった時です。こういう時はオオタカの声なのかカケスの声なのか、どちらか正確な判断ができないのですが、無理やりオオタカの声にしてしまうことがないようにしたほうがよいでしょう。確実な判断ができない時は何も記録しないことがよいです。

 この日はコジュケイも紛らわしい声で鳴いていて、オオタカの高鳴き「フィアー」によく似た声で、「ピアー」とか「ピァー」、あるいは「ピャー」とか「ピョー」と聞こえる声で聞こえてきました。慣れない人はこの声にもだまされてしまうことと思いますが、音質が異なりますし、コジュケイのこの声はたたきつけるような放り投げるような鳴き声であって、オオタカはそんな感じには聞こえません。数多く聞く経験がないとだまされてしまうかもしれません。また、声の主がコジュケイだったら、時々「チョットコイ」も聞こえてくることがあります。

 人によってはアオゲラの「ピョー」も紛らわしいことがあるかもしれませんが、多くの場合アオゲラは「ピョーピョーピョー」と三声が続きます。他にドラミングの音や「キョッ、キョッ」なども聞こえてきますから、そのうち慣れてくるでしょう。

(Uploaded on 27 April 2023)

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ハンティング・トリガーは やはりある


 今年2月15日に「オオタカのハンティング・トリガー(ある日の実験)」という記事を書きました。

 オオタカのハンティング・トリガー(ある日の実験)です。

 その観察後、時期的にハトの群れがだんだんと小さくなっていったことやオオタカの繁殖期入り、幼鳥の不在などでなかなか同じようなことを確かめられずにいましたが、今日、まるでビデオテープでその日の再現フィルムを見るかのような経験をしました(ただし今回は幼鳥)。

 今日(12月25日)の朝、昨日13㎝積もった雪がまだたくさん残る中、庭へ出たら上空にノスリが舞っていました。遠くの方ではドバトの大きな群れが飛んでいました。昨日までの強風が弱くなり、快晴の青空でもあったので、何も持たずに散歩へ行きました。ハトはおよそ150羽ほどいましたので、上で紹介した記事「オオタカのハンティング・トリガー(ある日の実験)」がまた見られるかもしれないと思いながら歩いて行きました。初冬になってもこの辺りのドバトの群れはそれほど大きくならなくて、最近でも多くてせいぜい数十羽でしたが、だんだんと集まってきて数が増えました。

 


ドバトの群れが分断された後、一羽のハトに照準を合わせて追うオオタカ幼鳥(今回とは別の日の画像) 愛知県 12月 若杉撮影

 

 前回の観察時とほぼ同じ地点に立って、ハトの群れをハトのすぐ近くで見ていました。すると現着してからわずか5分後の11時47分にオオタカ幼鳥が南のほうから出てきて、高度およそ4~5メートルほどを一直線に飛んで、私の目の前で一発でハトを捕えました。いとも簡単に短時間で瞬時に捕らえました。オオタカがここへ来る前にどこにとまっていたのか双眼鏡がなかったので見えませんでしたが、ハトが音を立てて一斉に飛び立ったと同時にハシブトガラス3羽が急に飛んできて3羽とも激しく鳴き始めたので、後ろ(南のほう)を振り向いたらオオタカが近づいてきたという状況でした。捕獲後オオタカは地上には降りずに高度1メートルほどを羽ばたいて飛び、獲物を持ったまま北の方へ行ってしまいました。獲物を持って地面に下りるとカラスが集まってきて食事のじゃまをされたり奪われたりすることが分かっているから避けたのでしょう。気ままな散歩でしたので、双眼鏡とカメラは持っていかなかったですが、双眼鏡がなくてもオオタカまでの距離がかなり近かったので幼鳥であることはすぐに分かりました。雌のような気がしましたが、雄か雌かは正確には分からなかったです。

 実にみごとな短時間のハンティングでした。この春に生まれた幼鳥ですが、巣立ってからもう半年近く経ちましたので、親から独り立ちした後、ずっと獲物を捕らえ続け、寒い冬を迎えた今日まで無事に生き延びてきたのでしょう。この先の冬も、これだけの狩りの能力があれば大丈夫でしょうと太鼓判を押しました。

 冬の寒い時期なので夏よりは多くの食料を要しますが、それでもドバトならばおおよそ一日で一羽捕れれば十分な量の食料と思われますから、今日の一日で狩りの成功はこれ一回でしょう(ただし、捕った獲物をノスリに横取りされるとかしない限りのことですが)。一日に一回しかない狩りの成功を、私が見に行ってほんの5分後に見事に成功させるということは偶然にしてはあまりにも時間が短すぎますし、しかも、こういう短時間の経験を今まで何度も各地でしてきましたので、とても偶然とは思えません。

 もちろん私が現地へ行くまでに狩りに失敗していた可能性はあります。その証拠に私が歩いてハトに近づく途中や、着いてからも数羽から10羽ほどのハトの小群が次々と集まってきましたが、この集まり方は何かに群れが分断された後の再集合の集まり方でした。先にオオタカが襲って失敗したところを今日は見ていませんので何とも言えないですが、今までの経験からすると私の現着前にも襲っていた可能性は十分にあるような再集合の仕方でした(ただし襲ったのがオオタカなのかハヤブサなのかは分かりません)。

 問題はオオタカがハトを何度襲っても捕れない時は捕れないのですが、何らかのちょっとした条件の違いでみごとに成功することがあるということです。今日の狩りの成功も前回の記事と同じで、私がハトの群れからわずか 60mという近いところにいたことが原因になった可能性が高いと思います。細かな考察は前回の記事の後半に書きました。

(Uploaded on 25 December 2022)

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拙宅でオオタカがハンティング


 私は名古屋市近郊の住宅地に住んでいます。住宅地とはいっても、少ないながらもところどころに空き地がありますので、この時期、草刈りがされた直後にオオタカ雄成鳥がちょくちょく現れて狩りをしています。野外でたくさんオオタカを見ていても、自宅の庭で見るオオタカのハンティングはどういうわけか別格ですので、今年もオオタカが来ないかと期待していました。

 拙宅のすぐ南隣りに9m幅の道路を隔てて180坪ぐらいの空き地があります。この空き地に、梅の木やイチジクの木がまばらに10数本植えてあります。6月12日の午前中にその所有者が草刈をしましたので、去年のように、またムクドリとハトの群れとオオタカが来ないかなと楽しみにしていました。大きな群れが来るようになるのは早くて翌日か翌々日以降ですので、草を刈ったばかりのその日はムクドリもハトもほとんど来ませんでした。

 しかし、その日の午後3時7分のことです。カーテンをそっと開けて外を見ると目の前の電線にキジバト1羽とムクドリ1羽がとまっていました。いつもの景色です。すると見始めて少し経ったらキジバトが突然体を細くして、みるみる痩せていくような体型になってしまいました。「なんじゃいな? キジバトとムクドリが同じ大きさ? ほんとうにキジバト?」と思ったその瞬間、キジバトは私の目の前を飛んで北の方へ、ムクドリは反対の南西方向へ思いっきり飛んでいきました。すると、1~2秒後(いや、もっと直後だったか)、東隣りの家の二階の高さのところからオオタカ雄成鳥が東から西へとスッと現れました。オオタカは強く羽ばたいて猛速度でそのムクドリを追いかけ、すぐ近くのマンションの東壁あたりでかなり距離を縮め、足を出したかどうかと思う瞬間、あっという間に距離が開いてしまい、その直後、マンションの陰などで両者ともに見えなくなってしまいました。この距離の開きからすると捕れなかったかもしれません。

(なぜムクドリは逃げることができたのか)

 北西の強い風が吹いていましたので、ビル風のような変則的な風が瞬間的に吹いたのでしょうか。あんなに瞬時にムクドリだけが神風に助けられるように、ほとんど垂直に上の方に浮かび上がって逃げることができて、そしてオオタカは同じ高度に取り残されて、両者の距離と高度が一瞬で広がったことは、通常はあまり考えられないことです。ただ、オオタカが獲物を捕ろうと両足を前に出す時は両翼や尾羽を開くなり狭めるなどしたり、体や翼の角度を変えるなど制御して体勢が変わりますので、もしその一回の捕獲の試みで捕れない時は、すぐにまた足を出して次の捕獲というわけにはいきません。次の捕獲までの短時間でも距離が開いてしまいます。2回、3回と捕獲を試みることもありますが、周りのようすしだいで、できる時とできない時があります。開放的な空間だといつも良いわけでもなく、逆にごちゃごちゃと樹々や家の屋根が密集している時のほうがよい時もあって、一概にどちらが良いかは言えないです。今回は一回目の捕獲に失敗してスピードがいったん落ちてしまったオオタカが「おっとっと」と思ったその時、マンションの壁に接近していて、たまたま上昇風がムクドリに味方したので、オオタカは瞬時にあきらめたということでしょう。

(なぜキジバトは体を急にすぼめたのか)

 キジバトとムクドリはオオタカがこんな近くに来るまでぜんぜん飛び立たなかったことと、オオタカが屋根よりも低い高度で現れたことから、オオタカがおそらく二階建ての民家を遮蔽物にして接近したのだろうと推測しています。でも、直前にキジバトが体を急激に細くしたのはなぜでしょうか。いくつか推測してみました。

1 建物と建物の隙間に、接近してくるオオタカがちらっちらっと見えていたのか、
2 ムクドリなどの小鳥類の激しい警戒声が聞こえたので、何かあると思い、すぐに身構えたのか、
3 急にオオタカが現れたので頭の中が一瞬パニックになって、どう逃げたらいいか思考停止したのか、
4 逃げるために飛び立つ時はいつも前傾姿勢になって体をすぼめますが、いつも以上に激しい緊張感があって、ふだん見るよりも大きくすぼめたのか。

1 は接近するオオタカの姿がちょっとでも見えたらキジバトはすぐに逃げるような気がします。2 は私には小鳥の声は聞こえませんでした。3 はありそうで、狙われた鳥がパニックになることはよくあることです。4 もありそうです。結果、3 と 4 でしょうか。キジバトになったつもりでいろいろと考えを巡らせています。 

  (Uploaded on 15 June 2022)

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オオタカ成鳥 の 主な鳴き声


 


キャッキャッキャッ …と鳴くオオタカ雌成鳥。愛知県 2月 M.Mさん撮影

 

 オオタカの鳴き声の研究は難しいことが多いです。その理由として、

 〇 森林棲の種のため、声が聞こえてもその声を発している時の姿、行動が見えないことが多いので、声の意味を確定(推測)しづらい。
 〇 侵入個体が営巣地周辺に来ている時、嘴の開きなどが見えない限り、どちらの個体が出している声なのか判断できないことがある。
 〇 交尾中は2羽の2種類の声が重なって聞こえてくるので、どの声を雌雄どちらが発しているのか分かりにくい。声の主をくちばしの開きで確認せざるを得ないことが多く、鮮明な映像が必要になる。
 〇 営巣林内に雌しかいないと思い込んで観察していたら、実は雄もひっそりと林内にいた(あるいは静かに帰ってきていた)ということがある。声が雌雄どちらの発したものなのか分からなくなる。
 〇 その結果、推測で判断してしまったり、誤った判断をしてしまうことがある。


交尾中のオオタカ。2羽が同時に鳴くので雌雄どちらの声か分かりにくい。愛知県 3月 M.Mさん撮影

 

 日本のオオタカ成鳥の鳴き声を表にまとめてみました。鳴き声を聞いたことがない方にとってはカタカナ表記は分かりにくいと思いますが、現場で「今の声の意味は何か? どういう時に鳴くのか? どういう感情を持った時に鳴く声なのか?」と考えたことのある人にはかなりのヒントになることと思います。

 なお、表中の「交尾声」以外の声の名称は江戸時代の鷹匠が遣っていたものです。平安時代からか鎌倉時代からかなど、いつごろから遣われていたかはよく分かりません。交尾は人工繁殖させていなかった江戸時代の鷹狩りではありえない話ですので、交尾時に発する声の名称そのものがなかったようです。

 タカ類と他の鳥類(例えばシギ類や小鳥類)とは、その観察法や識別、羽衣の変化など、さまざまな点で違いがあります。例えば小鳥類やシギ類には夏羽と冬羽という羽衣の違いがありますが、タカ類にはそういう変化はありません。ですから例えば「第1回冬羽」などのような概念はタカ類には全く不要です(「第1回冬」などの季節を表す言葉は必要です)。鳴き声についても同じようなことがあり、小鳥類の「さえずり」というものに相当するような声はタカ類にはありません(「さえずり」をうんと広く解釈すればあるかもしれませんが)。オオルリやクロツグミがさえずるようすを聞いていて、次に「オオタカのさえずり」というと何か変な感じがしてしまいます。ですから、声の名称については古くからの名前をそのままで提案するわけです。

 下の表に愛知県での例が一部入れてありますが、北海道か本州か四国か九州かなどで、地域によって若干異なります。例えば北の方の地域ではオオタカは夏鳥に近いところがあります。冬場は暖かい地方へ渡っていき、春、帰ってくるという個体も多いです。そういう地方では愛知県のオオタカ雄成鳥のように、ほぼ一年中営巣林をテリトリーとして守るような行動は不可能になります。当然雌雄の関係も若干異なってきます。また、海外で録音された声を聞いていると、若干異なるような印象を受けます。

 

オオタカ成鳥 の 主な鳴き声 (マーリン通信版 2022.5.29)
   
オオタカの声 声の名称 雌雄の違い 声の意味など
キャッキャッキャッキャッ … …
猛り鳴き

(たけりなき)
 雌は繁殖期初期(愛知県では1月ごろ)から、木の枝などにとまって、あるいは巣上で、時には飛びながら声量豊かに頻繁に発する。「キャッ」を一声と数えると、一回に数声から20声以上続けて発することもあり、声数の多さや発する頻度は警戒度や興奮度などの強さに関係がありそう。

 ケッケッケッケッ とか ガッガッガッガッ のように聞こえる時もある。

 雄は雌よりも弱い声で キィッキィッキィッキィッ とか キッキッキッキッ と音程が高く聞こえるが、雌ほど頻繁には発しない。

 雌が巣の近くで存在誇示する時に、テリトリーコールとして発することが多い。愛知県では1~3月に頻繁に発し、4月の抱卵開始後はやや少なくなるが、つがい以外のオオタカやハシブトガラスなどの侵入個体があるとよく発する。

 興奮した時の声(興奮声)、警戒している時の声(警戒声)、威嚇する時の声(威嚇声)、ディスプレイ飛行時など気分が高揚している時の声、繁殖失敗時など強い感情を表現する時の声などとしても発する。

 雄が巣に獲物を搬入する時にも雌または雄がこの声で鳴くことがある(または鳴き交わすペアがいる)が、若干伸ばすように、雌はキャーキャーキャー、雄はキィーキィーキィーと聞こえることが多い。食料の受け渡し時にまったく声を発しない個体、ペアもいる。

フィアー、フィアー、フィアー …
高鳴き

(たかなき)
 雌雄ともに繁殖期(つがいが形成されている時)に発する。雄は発することがあまり多くないが、頻繁に発する個体もいる(個体によって差がある)。雌の方がはるかに発する頻度が高い。「フィアー」を一声と数えると、一回に2声から3声くらい発することが多い。間をおいて頻繁に発することもよくあるが、これも伝えたい思いの強さの表れだろうか。

 やや遠いと音程の上がり下がりが聞き取りにくく「ピャー」「ピョー」「ミャー」「ミュー」「ヒュー」などとも聞こえる。

 雌は猛り鳴きと同程度に頻繁に発する。一般には「雄に対する雌の餌乞い声(えごいせい)」と言われているが、雄からもらった食料をたくさん食べて嗉のうが大きく膨らんでいる時にも発するので餌乞いのためだけの声ではなさそう。

 何のために鳴いているのかよく分からないことがあり、小鳥の「地鳴き」に似た、雄と雌のさまざまなコミュニケーションのための声かもしれない。この声で雌雄が鳴き交わすこともあるが、あまり頻繁には鳴き交わさないペアもいる(ペアや個体によって差がある)。

 雌だけが単独で間を置きながらずっと鳴き続けることがよくある。

クェークェークェークェー …
交尾声

(こうびせい)
 雄の声は クェークェークェーと伸びて、雌よりも音程がやや高い。音程の関係か音量(声量)の関係か、雄の声の方が目立って聞こえる。

 雌の声は(雄のようにクェークェー と伸ばさず)クェックェックェッ または クェッ、クェッ、クェッ と聞こえる。時に クェークェークェー と聞こえる時もある。音程は雄よりもやや低い。

 雌雄ともに交尾時に発するが、雄の声のほうが目立つ。
 雌は交尾の直前に猛り鳴きをすることがあるが、発しない時もある。
 交尾中は雌雄2羽の声が常に重なり合うので、どの声を雌雄どちらが発しているのか分かりにくい。
キリ、キリ、キリ …
怖じ鳴き

(おじなき)
 雌雄ともに発するが、雌雄の違いは不明。  驚いた時、恐怖心を感じた時に発する。
(人が近づき過ぎたためにこの声を発することがないようにしないといけない)
プスン、プスン …
逸物鳴き

(いちもつなき)
 雌雄ともに発するが、雌雄の違いは不明。  甘える時に小さな音量で発する。
(飼育個体でないと聞こえないかもしれない)

 鳴き声のカタカナ表記の中の「、」は短い間があることを表します。逆に「、」がない場合はやや早口で読むと実際の声に近いです。

 鳥の鳴き声をカタカナで表記することはそもそも無理があり、人によってかなり違ったように聞こえるものです。50年ほど前に自宅の庭から「琉球放送、琉球放送」と聞こえてきましたが、見るとキジバトでした。それ以来私の耳にはキジバトの声はどうしても琉球放送と聞こえてしまいます。上に書いた高鳴きの「フィアー」は知人には絶対にそういうふうには聞こえず、他人にどう言われても「ミュー」や「ヒュー」などとしか聞こえないそうです。人が多くなればなるほどいろんな聞きなしが出てきます。ただ、オオタカの声をいろいろ聞いている人には上の表のカタカナ表記を見て、「これは、あの声だな。ふんふん … 」と、分かると思います(「ホーホケキョ」が他の人にも伝わるように)。

 録音した音声をページに貼り付けたり、波形やソノグラムを載せたほうがよいと思うのですが、猛り鳴きだけでも7種類、変化型も入れればもっとありますし、他の鳴き声も区切って発している時や伸ばしている時もあって、それも雌雄で異なるので、すべて合わせるとかなりの数になってしまい、今回は省きました。ごく一部の声はネット上で検索すれば聞くことができます。

 ここに挙げた声以外の鳴き声を記録している書籍がありますが、特殊な場合の声であったり、小さな声なので野外では聞こえないくらいのこともあるようで、上の表には私が聞いたことがある鳴き声のみを載せています。複雑な心を持った生物ですので、たくさんの鳴き声があっても不思議ではありません。むしろ「もっといろんな声を出すことはないの? 他の声は発しないの?」と思われる人の方がほんとうかもしれません。マーリン通信の表紙の扉画像の上に、「何を解明するにも、そこそこの努力だけでできることは、どうもなさそうです」と書いていますが、オオタカの鳴き声の主と意味を正確に調べることはほんとうに難しいです。いつもいつも難しいことが続き、タマネギの皮のようにいくら剥いてもまだ奥に皮があります。ついに最後まで剥き終えたという頃に(実はそんなことはなく、あってもそれは錯覚なんでしょうが)、自分の命が尽きています。

 今回はヒナや幼鳥の声を載せませんでしたが、その理由は巣内ビナや林内を飛び回る幼鳥の雌雄が判断しづらいことが多かったからです。私の基本的な考え方に「タカ・ハヤブサ類の雌と雄は、ほぼ別の種として考える」というものがあります。特に雌雄差が顕著なハイタカ属についてはその雌と雄は別種のタカほどの違いがあると考えていますので、どんな生態を記述するにも雌雄それぞれ別々に書きたくなるからです。幼鳥の猛り鳴きと高鳴きは、大雑把に言うと雌雄ともに成鳥とほぼ同じで、音程や速さが若干異なるという違いがあるように思いますが、明確な検証はできませんでした。

(Uploaded on 29 May 2022)

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オオタカのハンティング・トリガー(ある日の実験)


 この通信の2020年1月の記事で、タカ類のハンティング回数の数え方について書きました。今回は改めて書くことはしませんが、この数え方で数えると、私は(狩りの失敗も含めて)この40数年間で、ノスリとチョウゲンボウを除いた主に鳥類を捕食している鷹隼類のハンティングを優に1,000回以上見てきました。「大げさな数字ではないか?」と思われるかもしれませんが、観察した狩りのようすを正確に記録した2020年1~6月の半年間にオオタカのハンティングだけでも102回見ましたので、(ノスリとチョウゲンボウを除いた)主に鳥類を捕食している鷹隼類全部でトータル1,000回以上の観察というのは数字としては少なすぎるかもしれません。

 例えば、オオタカの巣にヒナがいる時期に雄親は盛んに狩りに出かけます。食欲旺盛なヒナたちの食べる分と雌親の食べる分、自分の食べる分が必要なので、雄は一日中ハンティングをしていると言ってもいいほどの頻度で狩りをします。獲物を巣の近くの雌に運んだら、まったく休まずにすぐに次の狩りにとりかかり、休むのは獲物を捕らえた直後の毟っている時しかないほどです。この時期は狩りに成功し続ける時間帯もありますが、失敗することもちょくちょくあるので、合わせると一日で20回以上のハンティングを見ることもあります。一日20回のハンティングを10日間見ればそれだけで200回になりますので、1,000回がそれほどの数字ではないことが分かると思います。

 今日は冬のオオタカのハンティングについて書きます。食べることは一年中必要なことなので、冬も毎日狩りをして暮らしています。雄にとっては、冬は自分が食べる分だけで事足りますが、観察者サイドから見てみると、私の観察フィールドに、他所で繁殖している個体がやって来たり、成鳥の他に幼鳥や若鳥も加わるので、冬でもそれなりの回数の狩りの瞬間を見ることができます。

 タカ・ハヤブサ類が狩りを始めるには、スタートのタイミングが重要になります。空を高速で飛んでいる鳥をやみくもに追いかけてもそう簡単には捕れないので、多くはスピードがまだ出ていない地上や水面からの飛び立ちのころを狙います。狩場の地形を見極めたり、捕獲対象の警戒心を見計らったり、群れの中のどの個体が捕りやすいかなどと物色したりします。この通信の「鷹隼類の観察法」フォルダにハンティングの初期のことをたくさん書いてきましたが、そこに獲物探索中の「待ち」という時間の重要性を書きました。「待ち」というのは、とまりで探索中の場合も飛翔しながら探索する場合もともに、獲物を確定した時から狩りを始めるまでの、いわばタイミングを見計らっている時間を指します。私のアイデアですので、たぶんどの本にも書かれていません。その「待ち」の間に、オオタカは狩りを始めるタイミングをどう決定しているのでしょうか。

 私は干拓地や農耕地へ出かけると、まずドバトの群れやムクドリの群れ、あるいはスズメやカワラヒワの大群(少なくとも10羽以上)を探し、見つかると「よし、今日はこの群れに付き合うことにしよう」と決めます。この観察スタイルはもう40数年にわたって絶えず続けてきました。朝暗いうちに家を出てきた私の内心は「この群れの近くで、休憩しながらのんびりと観察しよう」と決めて観察を始めるのですが、ぜんぜん休憩できず、どういうわけか観察を始めて1~2分後、少なくとも5分以内に目の前でハンティングが始まってしまうことが多いのです。一方で狩りがすぐに始まらない時は1~2時間待っても何も起こりません。これらの観察例は、この通信にオオタカ以外の鷹隼類についてもいくつか書いてきましたので、既にお読み頂いたことと思います。例えば、ハイタカフォルダの下から5つ目にある、2006年1月15日付けの記事「ハイタカ 頭脳的なかしこい狩り」も観察開始から5分以内でした。   

 この「5分以内か2時間以上かのどちらか。その中間が少ない」ということがずっと気になって、不思議に思っていました。1~2時間待っても何も起こらないのは、その個体が私が地点に到着する前に狩りを成功させていたからだろう、あるいは群れに突っ込んで狩りをしようとした直後だったかもしれません。現に、そういう日はハトの群れが小さく分断されていたり、いつもよりも落ち着きがなく飛んでいることがよくあるからです。または、その日はやや離れたところへ狩りに行っていたのかもしれない……などと想像しています。反対に、「5分以内」については、ある日、はっと気がつきました。それは「人間が(私が)群れの近くに陣取ったのを合図に狩りが始まった」のではないか……と。何かこれを確かめるすべはないのかとずっと考えていました。

 物理学には「不確定性原理」というものがあります(マーリン通信では2012年2月の記事No.186「タカ・ハヤブサ類の観察法と不確定性原理」を参照ください)。この原理は、電子などのひじょうに小さい粒子を観察するとき、当然光やX線などの適切な波長の電磁波を当てなければいけないのですが、光の波(あるいは光の粒)を当てると、その光によって粒子の運動そのものが影響を受けてしまい、光を当てる前の(または現在の)ほんとうの電子のようすを正確に観察することができないということを言っているものです。人(観察者の私)がいるかいないかでハトの動きやオオタカの狩りに影響があるかもしれないという仮説(というと大げさですが)を立てて、以下に述べる実験のような観察をしてみました。

(実験・観察)

 2022年1月28日、この日はほぼ快晴で、北西の風が4m/sほどでした。田んぼにいるドバトの群れに近づいて陣取って、ハトの群れにどんな変化が生じるか観察しました。午後1時20分から歩き始めて、1時30分にドバトの群れを見つけました。ハトが下りた時に正確に数えると1群で90羽ほどでした。歩いて近寄るとハトは飛び立って、何枚か離れた近くの別の田に下ります。また歩いて、近づき、飛んだらまた近づくということを3~4回繰り返したら、ハトは慣れてきたのか、私が近づいても飛ばなくなりました。カメラマンの方は慣れていると思いますが、こういう時に重要なのは急な動き、激しい動きをしないことです。ハトが遠い時は急ぎ足で近づき、近くなったら禅僧が歩く瞑想(歩行禅)をする時のように両手をお腹の前で組んで、体の重心を左右や前後にぶれないようにしながら重心が等速直線運動をするように歩くと「寄せ」の効果が出ます。慣れていない人にとっては、一番大事なのは腕の上げ下げをしないこととできれば視線を合わせないことです。さて、こうしてハトに近づき始めて18分後の1時48分、すべてのハトが田んぼに下りて静かになったので「よしここで私もじっとして、石のように動かないようにしよう」と決めて、まったく動きを止めました。

 すると、私が体の動きを止めて2分後(たった2分後!)の1時50分、すべてのハトがバサッと大きな音を立てて瞬時に飛び立ったので、ハトが飛んでいった方向の反対側を見ると平屋の民家の屋根の高さのわずか上をオオタカ雄成鳥が強く羽ばたきながら飛んでハトに接近してきました。オオタカはハトの群れのすぐ上で少し高度を取り、戦闘機のスプリットS飛行とまったく同じ飛跡で(下の写真のように)背面飛行になってそのまま急降下し、すぐにふわっと浮き上がるように上昇して、インメルマンターン(に近い飛び方)で上っていって、もう一度背面飛行になって2度目の急降下をし、この降下の途中でハトを捕らえました。


スプリットS飛行で背面飛行になり急降下でハトに迫るオオタカ雄成鳥(記事とは別の日の画像です) 愛知県 1月 若杉撮影

 


ハトの群れに飛び込むオオタカ雄成鳥(記事とは別の日の画像です) 愛知県 1月 若杉撮影

 

 この日はカメラを持たず、見るだけで撮影しなかったので、頭の中にオオタカが空中でどのように飛んで、どのように2度も背面飛行に転じて、どのように急降下してスピードを上げたか下げたかなどと、すぐにビデオ再生のように思い出せます。逆に言うと、ふだん撮影している時は対象をあまりしっかりと見ていないということですね。


ハトを捕えたオオタカ成鳥(記事とは別の日の画像です) 愛知県 1月 若杉撮影

 

 ハトを掴んでオオタカが田んぼに降りた直後、オオタカをめがけてハシブトガラス2羽が鳴きながら一直線に飛んできたのでオオタカはハトを足に持って近くのミカン畑の中に入って行きました。オオタカが入っていった地点から30mほどの畑で男性が農作業をしていましたが、男性はオオタカに気づかず、オオタカは人を少しも気にしていないようでした。

 これ以降も観察し、オオタカやカラス類の動きを見ましたが、本筋から離れますので省略します。

(考察)

 この田んぼの周りにはマンションや民家がありますが、肉眼で見える範囲内にはそれらの屋上などにオオタカはとまっていませんでした。もしそんな近くにとまっていたらハトから丸見えで、それだけで避けられてしまっているのでしょう。こういう時のオオタカは多くの場合数100メートルは離れたところにとまっています。この日の狩りが行われた場所から見ると、数100m先に「私がオオタカだったらあそこにとまってハトを狙うだろう」と思われるマンションが3つありました。そのうちの一つから飛び立ったとすると、この日のオオタカのトレースとぴったり一致し、距離と時間の関係にも矛盾がありません。ただ、オオタカがとまっていたところまで断定することは無理です。今までの私の観察記録ではオオタカのとまり位置から捕獲対象となった獲物までの距離の最長記録は約1.6kmほどでした。数100m先あるいは1kmを超すと、ベテランのバードウォッチャーでもよほど慣れないとオオタカを見つけることができないほど遠く、そんな遠くを探す人はほとんどいません。オオタカはそういう遠いところから一直線に飛んでハンティングをしてきますし、遮蔽物を利用して見つからないように急接近しますので、警戒心の強いハトといえども1km以上先で飛び立ったオオタカに気が付くまでにはかなりの時間を要します。こうして考えると、野外で暮らす鳥たちにとってオオタカはやはり脅威です。

 ドバトの群れを見ていて気が付くことですが、ハトはちょっとした小さな音や何かの動きに対して非常に敏感で、しばしば一斉に飛び立って、何もなかったかのようにまた田んぼに下りてきます(一方、捕獲される心配のないノスリやチョウゲンボウ、ミサゴが近くを飛んでもしっかりと種を識別して対応しています)。たった1羽のハトが何かの音や動きを感じて飛び立とうとする時に他の全部のハトが一斉に飛び立ちます。それほどまでにオオタカやハヤブサの接近には非常に敏感になっています。そういう敏感さがないと野外では生きていけないのでしょう。しかしそういう敏感な時に、人間がハトに近づくとハトは人間の動きにも注意をし、警戒をしなければいけなくなります。そうするとハトが人間に注力する分だけオオタカに対する警戒心が薄らいでしまうことになります。この「オオタカに対する警戒心の薄さ」をオオタカは見て、察知して、これが狩りを始めるトリガー(引き金)になっているようです。上に紹介したハイタカフォルダ内の「ハイタカ 頭脳的なかしこい狩り」の記事でもまったく同じでした。観察開始後5分以内に鷹隼類の狩りが始まることが多い理由が少し分かってきました。

(Uploaded on 15 February 2022)

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オオタカは巣立った幼鳥をほんとうに教育する? 訓練する?


 外国の書籍でも日本の本でも、オオタカの親は巣立った後の自分の子ども(幼鳥)に生きるための教育をしたり、狩りが上達するように訓練したりするという記述が時々見られます。オオタカは本当に education とか training というものを意識して行っているのでしょうか。私の観察不足からくる私の誤認識かもしれませんが、愛知県でオオタカの教育とか訓練という場面を見たことがないのです。

 教育とか訓練という報告をした人はひょっとすると以下に述べるような勘違いをしているのではないか?という気がしていますので、これについて書きます。

 巣立った幼鳥はしばらくの間、営巣林やその周辺にいます。大雑把な言い方をすると、愛知県では8月上旬まではちょくちょく巣の近くで幼鳥を見かけます。多くの場合は雄親が獲物を捕らえてきて、幼鳥に渡しています。雌親が獲物を捕らえてきて幼鳥に渡していることを見かけることもあります。ただ、雌親を見かけることは少なくて、ほとんどこの仕事は雄親が行っています。発信機を取り付けていないので正確なことは分かりませんが、ひょっとして雌親はどこかへ行ってしまって営巣林周辺にはいないのではないかと思うような日々が続きます。

 こんな時(仮に愛知県で7月のことと想定します)、巣立った幼鳥は、遠くが見渡せるような鉄塔の上部や大きな木の高い枝にとまっていることが多くあります。幼鳥のために捕らえた獲物を持ってきた雄親は鉄塔の上部や木の枝において、それを幼鳥が受け取るか、あるいは空中で獲物の受け渡しをすることになります。


親鳥の帰りを待つオオタカ幼鳥 愛知県 7月下旬 若杉撮影

 

 A 獲物を鉄塔の上部や木の枝に置く場合

 ヒナがまだ巣立っていない頃、雄親は捕えた獲物を時間をかけて毟って、羽がほぼない状態にして雌親に渡し、雌親はそれを小さく引きちぎってヒナに食べさせますが、ヒナが巣立った後ではもう獲物を毟る必要はなく、捕えたらほぼそのままの状態で持って来て幼鳥に渡します。ところが雌よりも体の小さい雄親にとって、雌幼鳥は体が自分よりも一回り以上大きくて、自分の子どもとはいってもそんな大きな子どもに渡すことはかなり危険なことです。人が人に手渡すようなやりかたをすれば、雄親は子どもの爪でひっかかれて致命的な裂傷を負ってしまう可能性が大きいです。幼鳥はただでさえがむしゃらに獲物をめがけて突進してきますし、自分の体のコントロールがまだ完璧ではないので、雄親にとっては危険ともいえるほどの行為になります。体の大きさがほぼ同じくらいの雄幼鳥の場合でも、突進してくることには変わりがないので、直接の手渡し(というか足から足へ渡すこと)は同じような危険があります。そのため雄親は幼鳥のいない鉄塔や木の枝の上に獲物を持って来て、幼鳥が取りに来るまでは足で押さえていて、幼鳥が飛んできてすぐ近くまで来たら、すっとその場を離れるようにすることが多いです。

 B 空中で獲物を渡す場合

 基本的には雄親は上記Aの方法で渡したいだろうと思いますが、幼鳥が鉄塔の上で、今か今かと雄親の帰りを首を長くして待っている時はそれができないです。獲物を運んでくる雄親を見つけた空腹の幼鳥は、すぐにでも食料が欲しいからということと、きょうだいがいる時は少しでも先に受け取ろうとして、鉄塔から飛び立って雄親に突進していきます。


鳴きながら、獲物をもらいに鉄塔から飛び立ったオオタカ幼鳥 愛知県 7月下旬 若杉撮影

 

 雌幼鳥でも雄幼鳥でも、こんな時に空中で接触すればAと同じで、裂傷などの大きなけがをしてしまい、致命傷を負ってしまう可能性さえあります。というのも、幼鳥が獲物をつかみ取ろうとする瞬間には足を出しますが、趾4本を広げて、もちろん爪を立ててもらいに行きます。幼鳥がいくらみごとに獲物をつかみ取ったとしても、親鳥は幼鳥の爪との接触を免れることはできず、かなり危険を伴います。そのため、空中で幼鳥がかなり近づいたタイミングで、親はすっと少し上空に上がって、そこで獲物を落とします。落ち始めた獲物を幼鳥がキャッチします。ところがこれがなかなかうまくいかないことも多く、うまくいくときも幼鳥の飛翔能力がまだ十分ではないのでかなりアクロバティックな飛翔に見えてしまいます。こういう獲物の渡し方はあくまでも幼鳥の飛翔力が未熟なことから来る事故防止のためのものであって、訓練でも何でもありません。空中での獲物渡しは幼鳥の飛翔能力が十分ではない時は事故防止になります。飛翔能力が十分についてくると、初めて空中での獲物渡しは効率的でかつ安全なものになり、確実に獲物を受け渡すことができる方法になります。

 幼鳥が満腹の時は自ら獲物をもらいに飛び出さないようです。もらいに飛び出すのは空腹の時のみのようです。その中間のそれほど空腹でもない時には、自ら進んで親から「訓練」してもらおうとはしていないようです。

 この空中での受け渡しを見ていて、これが教育であり、訓練であるだろうと錯覚してしまう、あるいは教育・訓練という言葉を遣って意味付けをしたくなってしまう人が多いのではないでしょうか。

 教育というものはかなり高度なもので、受ける側に「意欲」がないとできないものです。人間の場合、親がいくら強く「勉強しなさい」と言っても、子どもはよけいに勉強したくなくなるものです。賢い親はいかにうまく子どもに「意欲付け」をするか慎重に考えながら子育てします。一番よいのは親がしっかりと楽しく勉強しているところ(つまり親の背中)を見せることです。意欲付けをしっかりすれば、「そんなに頑張って勉強すると体に悪いよ」と言えるほど一生懸命に、しかも楽しそうに勉強することもあります。

 人間とオオタカでは若干似たところもありますが、もちろん違うところが多いです。基本的には本能と体のつくりからくるものによるのでしょう。例えば空を飛ぶことについて。飛ぶことは教えなくても、巣の上にいるヒナは親が林内や上空を自由自在に飛んでいるところを目で追いかけながら、見て育ちます。羽が伸びてきたヒナは巣の上で自然と羽をバタバタとしたくなってきます。すると体が持ち上げられることが分かり、風が吹いている時には翼を開いているだけで自然と体がふわっと浮かび上がってくることを経験します。枝移りしている間に、体の動かし方、筋肉と翼の使い方を徐々にマスターしてきます。親が飛び方を教えなくても、体がそういうふうにできていて自然とできるようになり、しかもふだんから親の姿を見て学んでいますので、自然と真似をします。巣立ってからでも同じことで、狩りの仕方を教えられなくても、親のやっていることを見たり、親が持ってくる獲物を見て、獲物となる鳥がどんなものかということを学んでいきます。狩りの時の体の動かし方も自然と動かせるような体のつくりになっています。

 オオタカが生まれ持っている(DNAなどで本能的に獲得している)飛翔やハンティングに対する能力や衝動、意識、そして親の行動を見て学習するということを通じてその能力を身につけているようです。言い換えれば、少なくとも親が飛び方や狩りの方法、捕え方を積極的に教える・訓練するということはなさそうです。逆に言えば、(これは根拠にはなりませんが)もし親鳥がしっかりと教育したり訓練したりすれば、幼鳥が最初の冬を越せずに、冬の終わりまでに半分ほどの個体が死んでしまうようなことはなくなるようにも思います。このようなことから、結論として、教育・訓練という言葉はあまりふさわしくないように思われます。みなさんはどう考えられますか。

(Uploaded on 25 January 2022)

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