-在所の仕事
-敷地
-平面が決まるまで
-最終的な平面
-立面
-人達
-工事中(建物が!)
-引っ越したぞっ
-バンドがやってきた
-冬の午後2時30分
-「侘」と「錆」

在所の仕事

在所で身内の住宅を建てている。市役所に確認申請を取りに行って、良く考えてみたら、 確認の仕事は3年ぶりである。何をして食いつないで来たのか、良く解らない。 在所で身内の住宅というと、様々なことが身辺に起こって、面白くて仕方がないのだが、 書き上げた設計図を振り返ると、住む人・建つ場所・建てる人・使う材料のそれぞれが 「20世紀の住宅」というテ−マでも良いかな、と思う。敷地は旧集落の縁にあるので、 この辺りの在来の住宅のシルエットに、現在の我々の暮らしが詰め込めるものか、 というところからスケッチを始めた。ヘビーティンバーで大黒柱・丑梁の H型のフレ−ムを作ってやり、周りを枠組壁工法の面で囲う、というもの。

囲炉裏の代わりにオ−プンキッチンを大黒柱にくっつけて、 「寝床」となるふた部屋を土間から尺三寸上げて設ける。 座敷レベルが生活の主要空間になったのは、在所の辺りでは農地開放後のことであり、 現在でも特定産地となっているエシャレットを出荷する家庭に行くと、 お茶の入ったお盆が置かれるのは土間のむしろの上である。 これはこれで面白かったのだが、この手の連想ゲ−ムで行くと「納屋」が欲しいということになった。 この辺りでは「長家」と呼ぶ、かっては農機具倉庫兼牛小屋が母家の東南に付いて、 現在ではガレ−ジに使われることが多い。建て主は車が趣味である。 出来ればガレ−ジで眠りたい。等という話をすうるうちに、まあ今時の住宅の通り相場の、 いかにも20世紀の住宅、といったものに落ち着いた。 しかし頑張って一階はモルタルの土間ということにした。この場合、洋風というのか、 和風というのか良く解らない。大体「和式」というのが便器くらいにしか残っていない、 ということの方がモンダイだ。便器はKohlerの一番安いやつである。

現場には毎日じいさまがカントクに来たのだが、 屋根・壁ともにスレートの波板だと聞いてびっくらしたらしいので、 あれは20世紀が産んだとても良い建材なのだよ、と説明せねばならなかった。 Robert Cole氏が殆ど一人で大工工事をした。11年の日本滞在をこの仕事で切り上げてシアトルに帰る、 という彼が日本国を代表するキ−ワ−ド、と聞かれれば「仕方がない」というのを迷わず挙げるのも、20世紀の日本をよく表している。