2012.11.5
Osam’s Place
御殿か獄舎か
殿様か下男か
寄付

セッケ屋も長くやっていると良いことがあります。今回がそれ。フローリングと家具に、無垢の木をこれだけ贅沢に使った家は、もう作れないでしょう。クライアントは家具作家の奥さん。地域の名門の出。相続で150坪の土地を貰ったけど、家を建てないと税金に取られてしまう、ということで和風の家です。



和風の住宅には秋のお彼岸から、春のお彼岸までは部屋の中に陽が差します。「残暑厳しき」という言葉にはヨシズが似合います。



フローリング:シオジ他、厚21mm。式台:チーク、910mmx1820mmx60mm。など全て無垢です。先日も築26年というお宅にお伺いして、「○○ちゃん(故猫)が爪を研いだ跡も、それなりに思い出で。これがベニアのフローリングだと汚くなって張替えてしまうんでしょうね。」という話をしたばかり。



家具作家は県の名工(洋家具)であった御父君から、木刀でぶん殴られて仕事を覚えたという職人。そのおかげで剣道7段。随分辛かったでしょう、ご子息に仕事を継がせようにも、既に「特注家具」の時代ではない、というわけでこれからは孫の注文しか受けないことにするそうです。

セッケ屋として、私も若い頃は随分馬鹿なことをやりましたが、60歳を過ぎると「基本形」みたいなものが出てきます。「家の外から家の向こう側が見えなくてはいけない。」というのも、伝統的な日本家屋の特徴です。東京の裏長屋の暮らしに慣れてしまい、皆が忘れているだけです。

立ってドタドタ歩く高さに畳を敷くというのも、明治の御一新の折「四民平等、誰が何枚畳を敷いてもお咎め無し。」ということで伝統文化が破壊された一例です。戦後はこれに「土間を座敷と同じ高さにするのが、男女同権だ。」という農村住宅改善運動が加わって、畳はめちゃくちゃになってしまいました。

なにせ剣道7段なので、寝室は和室です。

御夫人は「鼾のおつきあいは充分しました。」ということでとなりの納戸にベッドを入れる予定。農家住宅では「納戸=主寝室」という住まい方があるのは、この辺りでしょうか。

マンションなど最近の住宅に見られる「個室」というのは、あれは監獄の独房式なので「亭主」の居場所がありません。ミース・ファン・デル・ローエの「ガラスの家」を見ると、寝室のまわりにサービス空間があり、無理無く自然とつながっています。日本の伝統的な「殿」と同じ仕組みです。

寝室のまわりにサービス空間を配置すると、家事もぐっと楽になります。人がいれば裏からサービス出来ます。

全面外断熱で冬期二階の天井近くに溜まった熱は床下に吹き込みます。

広縁と同じ様に洗濯室も昔は軒下の明るい場所だったのでしょう。室内に入って暗くなりがちの洗濯室の明かりは上から。

構造は枠組壁構法、断熱層は外壁140mm、屋根200mmです。バイオマス系断熱材のエコファイバー(0.032kcal/m・h・℃)は性能に較べれば安上がりです。しかし家具は高いぞ。

実施図面(pdf)

御殿か獄舎か
殿様か下男か