視点

2000.11.20デイリーエキスプレス

リチャード
ロジャース

中心市街地の再開発に付いて

政府は都市問題に真剣に取り組むこととなった。先週の都市白書は変化をもたらすための重要な第一歩である。ここ数十年の間放置されて来た英国の都市は、文字通り手当てと注目を必要としている。

この30年間、英国の殆どの都市から郊外へ、田園へとより良い教育と住居、少ない交通と犯罪を求めて多くの人々が逃げ出している。

この間、都市は荒廃するにまかされて来た。中心市街地の学校は悪くなるばかりである。交通と公害は増加した。人々は犯罪を恐れて家から出ようとしない。立派な住宅の並ぶ通りは全てが借家と化している。紙屑とゴミが絶望と諦めを象徴している。

いかなる都市もこのようであるわけでも、あって良いわけでも無い。多くの人々は都市生活の恩恵を楽しんでいる。並木道と親しい近隣、街角の素敵な店と手入れの行き届いた公園、それに図書館。こうしたものがコミュニティの感覚を作り出す。「コロネ−ション街」は単なる作り話では無い。それは個人の生活と人々の生活を支える住宅地の大きな可能性を反映したものだ。そのうえ今日では我々は中心市街地への信頼を失ってしまったように見える。我々はあまりに簡単に、住宅地のあり方をゆがめる市場圧力に降参してしまった。今こそコミュニティーを再発見する時だ。

二年前に政府のア−バン・タスク.フォ−スの委員長に指名された時、私には現在の都市の置かれた状況が解らなかった。私はそこで見い出したものにショックを受け、同時に勇気づけられた。ショックを受けたのは世界でも最も裕福な国の一つで、人々が如何に貧困に苦しめられているかという点であり、勇気づけられたのは人々がリ−ダ−シップと誇りと行動を持って都市の有り様を逆転する能力によってだった。

これが私の政府による都市白書を喜ぶ理由である。そこには正しい道筋への明確な第一歩が記されている。白書は我が国の全ての都市コミュニティーにそのより良い生きる道を共に作り出そうという希望を投げかけている。

しかしこれまで続けられて来たアーバン・ルネッサンスの方向を変えるには持続的な政治的努力が必要となる。人々は都市に住むのが嫌なため、或いは都市に住む負担に耐えられないためにそこを離れる。都市生活へのこうした扱いを変えるには都市をさらに魅力的なものにしなければならない。我々はより良い学校、より良い住宅、そしてより良い都市的空間を準備しなくてはならない。

政府に対する私のキ−メッセ−ジの一つは「密度の扱いを変えなさい。」というものだ。密度にはマイナスイメ−ジが与えられている。現実には英国の最も美しい田園集落は都市部よりも高い人口密度を持っている。

バースのロイヤル・クレセントのようなジョージアン・テラスハウスは現代の開発に比べて4倍の密度を持っている。

問題は都市部の密度が1960年代の高層アパ−ト、渋滞、犯罪と結びついていることだ。しかしよくデザインされたコンパクトな環境は都市生活の魅力を作り出す鍵になる。都市の密度の高さを機能させる道を薦めることで我々は英国の貴重な田園地帯を破壊し、中心市街地からあらゆる可能性、方向性を奪い取るスプロ−ルをストップすることができる。

郊外は土地と公金を浪費する。都心から離れる程、水道・ゴミ収集のようなサービスは経費がつり合わなくなる。政府は新規住宅建設の60%を既存宅地への高密度誘導型開発とする目標を固守しなければならない。このために我々は先ず市街化が指定された農地の見直しと農地よりも既存宅地の開発を優先しなければならない。

はっきりとした誘導要素は経済的なインセンティブである。都市部の重点地域における既存宅地の開発、既存建物のリサイクル等への税制の優遇はバランスを維持する助けになろう。これがチャンセラ−氏の発表によって私が勇気づけられた理由である。そして同時に私は彼が既存建物の用途変更への付加価値税によって新築住宅への付加価値税軽減を計る路線を捨てないのに失望させられた。現在のところ用途変更への付加価値税は新築のそれの3倍になっている。

同様に都市計画へのよりフレキシブルなアプロ−チも必要である。高齢化、出生率の低下、単身世帯の増加による住宅規模の変化も考慮しなければならない。住宅需要量を調整するための調査が必要となろう。

英国のいくつかの都市では再生の兆しが見え始めている。マンチェスタ−、リ−ズ、バ−ミンガムの人口は都市再生のパイオニア達の努力によって再び上昇に転じ始めた。ア−バン・タスク.フォ−ス野報告書「都市再生に向かって」では、良いデザインの建物、並木道、公園、アクセシブルな公共交通、より学校といった都市生活の高水準の規格を実現するための実際的な手法が提唱されている。これらは夢物語では無く、21世紀に政府が努力すべき目標である。

このヴィジョンの実現には長い時間と資金、それにリ−ダ−シップが必要とされる。私はこのために次の段階として、白書の理想を法として祭り上げるのではなく、ア−バン・ルネサンスが政府の全ての省庁にとって最重要課題であることを確立するため、政府にア−バン・ルネサンス法の制定を呼び掛けている。

立法の為の努力につり合うのは我々の挑戦である。道のりは長く始まったばかりだ。我々は重要な最初の一歩を踏み出すことが出来た。しかし我々には市民蛾必要とし、熱望する真のア−バンルネサンスを実現するには長い道のりを歩まなくてはならない。

●ロジャース卿はア−バン・タスク.フォ−スの委員長

●都市白書概要版の素訳


住宅減税に反撃

2000.11.22イブニングスタンダード


減税でまた一儲け:
ノースケンジントン、セントローレンス・テラスにて

ブラウン蔵相が住宅取得税の提案を発表した時、ロ−ド・オーウェンの自宅の価格を釣り上げようとしている、と思った人、蔵相のかっての同僚であるモ−・モウラム氏の姿を思い浮かべた人はいないであろう。蔵相は当初、印紙税減税を再開発地域の新築住宅に限るつもりだった。しかし内国歳入庁を初めとする説得によって、全国の取り残された地域にも広げ、地域の住宅委員会を通じて適用が受けられることにした。

しかし彼の案を見すかしてみるとロンドンでは金持ちの邸宅が時として貧乏人のする公営住宅と眼と鼻の先に有る。ロンドン市内でも最も取り残された地域の中にも隠された宝が埋もれており、歴史的価値、建築遺産、手の今田高級住宅といったものには100万ポンドを越すものもある。蔵相の提案は結果として来年4月から年間100万ポンドに登るという減税の恩恵の有る部分が「持たざるもの」を助けるのでは無く、「困っていない」人々のポケットに入るのだ。

最終案は3月予算で決定されるが、現在のところ全国の10%に当たる取り残された地域にある全ての住宅・商業用施設を対象にするという。このまま変更が無ければこの減税でもっとも恩恵を受けるのはノッチング・ヒル、イスリントンといった最近になって高級住宅化が進んでいる地域での豪邸、あるいはヤングエグゼクティブの心の故郷である、テムズ沿いのワ−ピングやキャナリ−ワ−フで、荒廃した労働者住宅の海に浮かぶ億ションの島、ヤッピーのペントハウスの持ち主、ということになる。

保守党は蔵相案が住宅価格を釣り上げ、ロンドンで住宅を持つことがますます困難になるだけだと反論している。同等の都市再生のスポ−クスマン、ティム・ロ−トン氏によれば、「計算してみれば、この減税でもっとも恩恵を受けるのは4%の印紙税を払っている500,000ポンド以上の住宅に住む人だ。不動産市場には大きな歪みが生じ、ブレア一味は豪邸に住んで儲けを手にする。我々は減税も一つの手段だと考えるが、もっと目標がきちんとしていなくては困る。」

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中略
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現状でも6万ポンド以下の住宅の取得は無税で、6万ポンドー25万ポンドでも1%にすぎない。25万ポンド−50万ポンドでは3%だが、50万ポンド以上では4%となっている。現在の印紙税収入は年間20億ポンド。

政府は減税の目的は取り残された地域を開発業者にとっても住民にとってもより魅力的なものにし、グリ−ンベルトと田園地帯での未開発敷地への住宅開発の圧力を軽減するため、としている。

保守党の変更案は一定の価格以下の住宅のみを対象にする、というもの。また地域指定では無く、一件毎に減税の対象とするかどうかを決めることも求めている。現行案ではロンドンの住宅総数の1/5が減税対象となり、ウェストミンスタ−、ケンジントン、ケニントン、チェルシー、ハマースミスとフルハムの一部を含む19自治体の150の地域が対象となっている。