7.都市環境の維持管理

アーバンルネサンスは、私たちが現在すでにある資産をどう活用するか、と言うことと併せて考えることも出来ます。私たちが今後30年間に使うことになる建物の90%は、今あるものです。私たちがこれらの建物を維持して行くかによって次の世代に引き渡す都市環境の質が決まります。

都市環境の維持管理が不十分・不完全であったために、多くの人々都市から逃げ出すことになりました。都市の凋落を押とどめ、地域の人々の必要に素早く柔軟に対応するサービスを確立するには、強力な都市環境の保全策が必要です。こうした対策のためには適切な手だてを講ずる必要があります。現在のところ、都市部の自治体に対する、中央からの補助の方式は、環境維持管理サービスに重きを置いたものとは言えません。

地方公共団体に、その所有管理するものだけでなく、その地方の都市環境全体に対する戦略的な責任が与えられれば、より密着した環境維持管理が実現出来るでしょう。地方公共団体はその所有の如何にかかわらず、土地・建物・公共空間が適切に維持管理されているかどうかを保証する法的権限が与えられます。

これと同時に、住民の日常的な必要に、職員がその場で対応できる「ワンストップ窓口」を作れば、行政サービス自体へのアクセスも改善されます。公共セクターと民間セクターが共同でほかには無い維持管理サービスを担当する「タウン・インプルーブメント・ゾーン」を作れば、新たな事業展開が可能になります。

都市のある部分、特に自治体所有地では、環境問題、社会問題には継続的、重点的な公的維持管理が必要なところもあります。このような地区では住民の参加を得て練り上げられた維持管理の仕組が特に有効です。これを行う組織としては住民代表の加わる委員会から、住民とパートナーが所有する管理公社まで、様々なものが考えられます。

住民組織が自ら都市環境を維持管理することは、市民としての誇りを取り戻すことでもあります。地域社会へ住民が関わって行くには、暴力・落書き・脅し・騒音といった反社会的行為に対抗する為の強制力のある支えが必要です。犯罪的破壊行為に対する罰金は破壊の修繕、地域環境の維持に使うことで地域に環流することが出来ます。

主な提案
  • 地方公共団体に都市環境全体の維持管理を保証する役割を与え、地権者に対し、適切な水準に所有地の維持を求める権限を付与する。
  • 今後7年間にわたり、都市環境の維持・改善に充てられる中央から地方への交付額を物価上昇を上回る率で増額する。
  • 地方自治体が地元企業と共同で市外地中心部、その他の商業地域に維持管理・利権調整のための第3セクターを設立出来る「タウン・インプルーブメント・ゾーン」の制度を設立する。
  • 開発許可条件の不履行、騒音汚染、ごみの不法投棄その他の反社会的行為を行う個人、組織に対抗する強制力、制裁を強化する。



8.都市再生の起動

近隣住宅地の中には物理的な環境への取組だけでなく、地域住民の社会的・経済的なニーズの解決を含む包括的な手だての組み合わせによってでなければ都市再生が計れないところもあります。都市中心部の工場地帯跡地、放棄地・空き地・低利用地あるいは建物が大きな割合を占める地域、さらには既成市街地の中の公営住宅地でも社会的荒廃に苦しむ地域もこれに含まれます。

地方自治体には地域・地方のパートナーとともに都市再生の長期戦略を確立するための自由が拡大されるべきであり、そのための権限・資源が整えられなくてはなりません。中央政府は地方自治体が「新都市再生責任法」に定められた役割を遂行できるよう、戦略的な役割りを果たさなければならず、そのためにはこれまでの予算執行権を部局横断的に結び付け、都市再生予算がこれまでより長いタイムスケールで活用できることを計り、国レベル、地方レベル共同の政策目標を設定できる地域の戦略については、共同責任を負わなくてはなりません。

都市問題解決のための源資には常に限りがあると考えられるので、地域ごとのパートナーシップが資金をより有効に活用できるような新しい仕組が必要です。 これには次のようなことが考えられます。

  • 開発計画同意の迅速化
  • 強制収容命令発動の早期化
  • 開発者・出資者・地上権者.入居者への税制優遇
  • 維持管理費用への地方財源投入の固定化
パートナーシップの活用により改善実績を上げた近隣住宅地には重点都市地域への指定をするべきです。私達は自助努力により、土地の価値を長期にわたって最大限に維持できる様、計画目標が改訂されることを理想と考えます。

公的資金を利用する全ての開発プロポーザルは都市再生によって新たに産み出される価値上昇分から維持管理費用を捻出するための戦略を含むべきです。政府は単年度予算に基づく現行の「増税回収方式」を改め、再開発売却益の一部を、維持管理のために控除する制度を整備することで、これを助けることが出来ます。地域の開発プログラムを立ち上げる責任を、地元のパートナーシップによって運営される「手の届く」組織にゆだねることで、都市再生の速度を上げることが出来ます。都市再生公社(また同様な住宅地再生公社)は計画が竣工するまでの全体を統括するだけでなく、必要な場合には資金を募って開発主体となることも出来るものです。

主な提案
  • 地方自治体とパ−トナー、地域住民に都市再生の為の住宅地再生の為の権限とインセンティブを付与する重点都市地域の制度を作る。
  • 中央政府と地方自治体の間の都市再生の為の「新たなコミットメント」を強化する。
  • 都市再生公社、住宅再生公社に地域再生計画の計画立案者、あるいは共同立案者としての権限を与える。



9.技量と技術革新への投資

政策の変更はそれを実地に運用できる技量をもった人々によって実行されてこそ、期待される都市再生の効果を産み出します。都市再生の様々な局面で、私達は耐えられないまでの技量の低下を許してしまいました。都市デザインのクオリティー、開発用地の集積、プロジェクトマネージメント、さらには長期的な維持管理の基準に至るまでが重大な困難に直面しています。

私達は中央・地方でともに都市デザイン・計画・とちりようの専門技量をもつ多くの人材を緊急に必要としています。私達はまた将来の都市開発を進める若き専門家達が絶えることなく私達に参加してくれることを願っています。関連する専門分野についての、組織を超えたトレーニングを行う隣接領域との協力も十分とは言えません。短期的には中央・地方ともに都市関連の政策立案者が都市開発組織、パートナーから現場で学ぶことの出来るような新しい特別プログラムを提唱します。また今後5ー7年間で学術研究組織間に見られる技量のギャップを埋めることを政府に強く求めます。

私達はまた学際協力に基づくトレーニング、先進事例と革新技術の普及のためのセンターのネットワークを提案します。都市開発のための「地域リソースセンター」は、都市建設、開発、パートナーシップと都市の維持管理等、幅広い問題に住民参加で都市全体へのアプローチをとります。トレーニングへの参加は専門家だけでなく、地域で都市問題に取り組む議会代表にとっても有益なものです。

私達は海外の先進事例から学ぶことも出来ます。専門家、政策立案者が休職し、欧州各国で実務経験を積むプログラムを提案します。

主要提案
  • 今後5-7年間に研究機関・教育組織・企業が都市開発に関する技量向上のための行動計画を推進する。
  • 都市開発のための「地域リソースセンター」のネットワークを展開し、技術革新と先進事例の紹介、都市開発に関わるトレーニングのコーディネート、都市再生プロセスへの住民参加の働きかけを行う。
  • 国際的な休職交流の5年計画-Urban2000- を実施、少なくとも2000人の専門家、職員、学生が国際的な先進事例に学ぶ。