なぜロンドンは動かなくなるまで詰め込まれるか

2000.11.22イブニングスタンダード

悲惨な交通事情を生む10の原因



キュ−・ブリッジはこのところ一車線となっており、何千人の人にかってない遅れを強いている。 「爆発事故もあり、道路を使うのは大変な苦しみだ。」と王立自動車クラブ
  • 道路工事の爆発事故
  • 数限り無い歩行者優先政策の導入
  • 自治体によるバス優先施策
  • サンデ−ショッピングの無情な増加
  • 消え行く駐車場を求める自家用車のぐるぐる廻り
  • 首都圏33自治体の連携戦略の欠除
  • 交通沈静化政策の不備
  • 首都周辺での橋梁工事のラッシュ
  • 自治体による歩行者・地域道路・バス優先の「関所政策」
  • 10年前、10社程度だった道路工事の許可業者が90社以上に上り、道路工事を繰り返しては何百万人を苦しめている。

ロンドン人の通勤距離は誰よりも短い。車を持つ人は少なく、使うことも少ない。そして公共交通を使う割合は遥かに高い。というのが最近の統計である。ロンドン人の生活は正にジョン・プレスコット副首相が聞いたら喜びそうなものである。

それにもかかわらず、ハットフィ−ルドの惨事と、それに続く鉄道路線会社による混乱によって交通増加25%増加する前から、首都の交通は混雑し、動かなくなっていた。それはこの一週間の事ではないのだ。

週末にロンドンの何処かで渋滞に巻き込まれて排気ガスを吸いながらウィ−クデーの渋滞だって同じようにひどいものだと怒っている人は決して間違っているわけでは無い。

首都の主要幹線のあちこちでは、今や週末も月ー金と同じような状態になっている。

ハットフィ−ルド以前から、曜日に関わらず朝の渋滞は都心の平均速度が70年代末の時速12マイル以上から1996年の11マイル前後、そして今は10マイルに落ちていたのが事実だ。専門家はもはや「ラッシュアワ−」という言葉を使わなくなってしまった。そんなものはもはや存在しないのだ。交通は多少野山や谷があるものの、一日を通じて混雑し、渋滞を起こしており、運転者には時間を工夫する余地は無いというのがTfL統計の示すところだ。

以前に呼ばれた「オフ・ピ−ク時間帯」でさえ、都心の速度はかっての12.6マイルから10マイルに落ちており、この間に夕方のピ−ク時が11.9マイルから10.2マイルへ変化している。

自動車通勤者にとってこれほど交通事情が悪くなることはかって無かった。先週水曜日には南ロンドンのユ−ストンからケニントンまで、学生のパレ−ドがあったので、首都の交通は前例の無い渋滞に見舞われた。エンバンクメントから議事堂広場に掛けては殆ど立ち往生の状態だった。

首都西部へ向かい多くの人は先週、オックスフォ−ド・ストリ−トでクリスマスの飾り付けが点灯された時に同じような経験をしている。キュー・ブリッジが工事の為一車線通行だったこともあり、帰宅に倍以上の時間が掛かった人も多い。

今や渋滞はごく当たり前の事で、都心や郊外でのちょっとした移動にもいつもの2倍以上の時間が掛かることは当たり前になった。問題はそれがほぼ毎日という点である。

専門家はこうした状況は自家用車、タクシーだけで無く、バスを利用する人にとっても今後ますます強まると予測している。統計から見れば自動車台数はほぼ横ばいであるにも関わらず、多くの車が狭い道に押し込まれることになるという。

自動車協会によれば多くの自治体が、1997年の道路交通軽減法に定められた、交通の増加をいかに最適化すかを示す、という義務を果たそうと努力している。自治体の戦略は来年に観光される地域交通計画に取りれられるものだが、多くの自治体では既に、交通問題の沈静化の為に熱心な努力をしており、バス優先、信号のシステム化などが進められてにもかかわらず、状況は好転していない。

ロンドンではウィ−クデイだけを取り上げた統計は取られていないものの、同じような悲観的な要素が全てあてはまる。

道路用地は消えつつあり、多くの道路工事がドライバーをせまい車線の中に押し込め、苦しめている。
「道路工事は確かに交通状態をここまで悪くした主犯だ。」と王立自動車クラブのエドマンド・キング氏は、実施した中心市街地の自動車交通に関わる詳細な調査を元に指摘する。

「ロンドンの穴掘りは子の4-5年で倍増しており、大部分は道路保守の為のものではない。コンピュ−タ時代ということで、ケ−ブルを入れるためにハイテク企業が車を制限しているのだ。工事現場での爆発事故もあり、道路を使うために税金を払っている人々が苦しめられている。

彼によれば自治体もケ−ブル布設に戸惑っており、肝心な道路保守のスケジュ−ルを見直さなければならなくなっているとのこと。事故を防ぐために週末に工事をする必要があり、これが土日にロンドンへ出ようという人達とぶつかっているそうだ。

統合交通委員会の委員長であるダヴィッド・ベック教授はこれまで進められて来たバス・歩行者の推進者だが、彼でさえ自動車の為の予算は必要だと表明している。これまで既に道路面積の内、バス優先施策と歩行者に優しい横断歩道の為に使われる部分が増えて来ており、これからも増えるだろうとのこと。

教授は渋滞税を導入しない限り、道路はこれからも混雑し続けるだろうが、「それでもロンドンは同じクラスの世界の都市の中では、道路が流れている唯一の都市だ。」と指摘する。理由の一つは既に飽和状態に達しているので、現状よりもはるかに悪化するということは無いのだそうだ。皮肉なことに教授の現在の悩みは、もし渋滞税が実施され、成功すればそれがある時点からは空いた道路に車を呼び戻すことになるという点である。

ロンドン経済大学大ロンドン研究チ−ムのトニ−・トラヴァ−ス氏は、交通ブ−ムは経済の繁栄に付いて廻るものだと言う。「パラドクシカルな指標です。交通の増加を管理するのにもっとも効果のあるのは不況なんです。人々がフレキシブルになり、近回りで用を済ませなくてはなりませんから。」

トラヴァ−ス氏によればかってはロンドンの交通を支えた道路のあるものが現在では使われていないことが問題の一つではないかという。

「マンハッタンでは縦横の道路が全て道路として人と物の移動に役立っています。ここでは大きな道の多くが閉鎖されています。ストランド階の北はコヴェント・ガ−デンで通り抜けられなくなっていますが、同じような場所は至る所にあります。ロンドンは今でも交通に満ちている、と言うのは幻想で、かなりの部分は駐車に使われているのです。」

彼によればロンドンでは特に公共交通の利用率が高く、ウェスト・エンドの地下鉄・バスの利用率は80%であり、シティーではこれが91%に達するという。「もし、全ての道路が道路として使われれば、ロンドンは全く違った街になるでしょう。」「フィツロイとかモリバンドとかいった広場は既に使われていません。交通が無いから死にかけているのです。自家用車を排除する、というのは常に良いことばかりでは無いのです。」「自家用車は生活を形作り、反社会的な習慣を押さえます。」

インペリアル・カレッジのステファン・グレイスタ−教授はロンドンの交通病の原因として道路工事を非難しつつ、トラヴァ−ス氏の自治体間の戦略が無い、という意見には賛成している。

「私から見ればロンドンの交通状態に関して、個人の経験のみで結論を出すの危険であると思う。ある日の状態が次の日には全く変わってしまうこともあるのだから。」彼によれば郊外の自治体は地元の交通を優先することで、望まないながらもロンドンへの通勤者を悪い状況に追い込んでいると指摘する。「イスリントンの住民である私は自治体担当者が地域の歩行者や車を優先し、これがロンドンへの長距離通勤車両の通過をさまたげる様、調整していることを知っている。」

教授は実例としてカレドニアン・ロ−ドの信号が通過交通を妨げるよう変更されたことを指摘した。教授によればこの「関所」政策は信号機のタイミングがほんの数分変わるだけで、交通の流れが全く変わってしまうと言うものであり、実証するのが難しいにも係わらず、ロンドン周辺の全ての地域で行なわれているという。

今回の自動車協会のレポ−トでは他の問題も指摘されている。それによればロンドンの交通戦略には多くのミッシング・リンクが有り、これが過大な交通量を不適当な道路に集中させていると言う。

ロンドンにおける平均通勤距離は英国の殆どと同じく7.5マイルであるが、所要時間は34分であり、国内の他の場所よりも1/3長くなっており、列車事故の後、これがさらにひどくに延長されている。

「増加する交通は皮肉なことに自転車道路、バス路線と自家用車との間でのトレ−ドオフになっている。」と自動車協会のポール・ワターズさん。「自家用車側が負けることが多く、これは関所政策、不適切な右折禁止や一方通行となって返ってくることが多い。何マイルにも渡って何百と言う禁止事項が重なって、全体として道路を道路を使い物にならなくし、自家用車の交通権を奪っている。これは「いじめ」だ。それぞれの自治体がなぜこうした政策を取り入れているかを立証するのは難しい。「関所政策」の様に、証拠を掴むのが困難な何かが動いている。しかし自治体は交通増加の圧力下に置かれており、道路を塞ぐのが一番簡単なのだ。

「問題はロンドンには費用対効果の分析がないことだ。新しい施策を取り入れて、それをモニタ−する場合も有る。しかし常にその負担は日曜日にまで綱渡りをしなければならない自家用車の利用者に廻ってくる。

無数の裏道を心得ていて、渋滞を避けることが出来るはずのタクシーも同じ様に困っている。「道路事情はもう限界です。これ以上悪くなり樣がない。」というのは登録運転手協会の事務長ボブ・オディさん。「役所が道路のつながりをどうにかしようと考える度に、道路工事が有る度に状況は悪くなります。以前は週末の仕事は楽なものだったのが、今では誰も嫌がります。ひどすぎます。」