大島教授の[暖蘭亭日記][99年4月21日〜 4月24日] [N E X T]

1999年4月21日水曜日 曇。暖。
 朝、掃除。ホットカーペットをはずす。

◎LIA LUACHRA; 1998
 名前からするとシュリーヴ・ルークラ出身か。若者ばかり四人組。紅一点のフィドル、コンサティーナ、ギター/ヴォーカル、マンドリン。珍しくマンドリンがフロントに立つ。フィドルはむしろ引っ込んでいる。モダンな感覚で、コンサティーナは「ロックン・ロール・コンサティーナ」と呼びたいぐらい。ギターも冴えている。ジョン・ドイルに近い。

◎Paul Kelly A MANDOLIN ALBUM; 1998
 面白いディスク。クレツマー、スウェディッシュ、ヴェネズエラのものまでとりあげる。マンドリンは軽やかだが、スロー・エアでも間延びしないのはたいしたもの。

 The Living Traditionから今回の注文分7枚のうち4枚着。アマゾンUKから、先日注文した musicHound: folk: the Essential Album Guide。英国の本かと思ったら、アメリカで作っているので、アメリカがメイン。ディスクの購入ガイド。他では出ていないものも結構ありそうだし、ロックの一部までカヴァーしているで、使えるかもしれない。
 History Ireland、着。Tさんからシァン・ジェームズのセカンド。貸してくれと頼んでいたもの。中濱さんから著書『アイルランドの手ざわり:クラフトのつくり手を訪ねて』(NHK出版、1999)。アイルランドの職人たちのインタヴュー集。
 マディ・プライアの原稿を書く。FLESH & BLOOD を聴直したら、すばらしい出来なので、これにする。最初の印象は良くなかったのだが、ながら聴きで、ちゃんと聞いていなかったらしい。
 夕方から夕食前までシァン・ジェームズのディスクを聴き、原稿を書きあげる。
 急に読みたくなって昨日から読出した大岡昇平『レイテ戦記』は卷措くあたわずの様相を呈する。  
1999年4月22日木曜日 晴れ、暖。
 H、朝起きたとき、左目が真っ赤に充血し、目蓋も腫れていた。痛みもあるらしい。前に医者にもらっていた目薬をさすと、出かける頃には多少良くなる。
 Kさんから修士論文。先日取材を受けたもの。わが国におけるアイルランド伝統音楽の受入れられ方の研究。なかなかの力作のようだ。音友の仕事が一段落したらじっくり読もう。ワーナーから振込通知とサンプル盤。ムーヴィング・ハーツのライナーは松山さん、五十嵐さんとの調整はまずまずうまくいったと自賛しておこう。おや、五十嵐さんは Don Lange をご存じないらしい。

◎Kieran Kenndy FOXYMORON; 1997
 普通のロック。Black Velvet Band との違いはリード・ヴォーカルを自分でとっていることぐらいか。何故、女房をたてないのだろうか。シンガーとしてそれほど悪くはないが、自分で歌わねばならないという部分はあまり感じられず。ギターはときどき渋いフレーズを聞かせる。といって特に新しいことをやっているわけではない。

 昼食はご飯を炊き、今朝の残り物ですませる。鶏の唐揚げ、大根の味噌汁、プチトマト、グリーン・アスパラ、卵焼き、海苔。昨夜の豚肉小松菜の残りも少々。肉はHが最後にさらったのでほとんど残っていない。マヨネーズの買置きがなく、アスパラには胡麻を煎ってぶっかける。
 夕方Kと入代わりに出かける。ロマンスカーにて新宿。桂花でターロー麺。原宿から歩いて『クロコダイル』。アンディ・ホワイトのソロ・ライヴ。すでに始まっていた。店内はほぼ満杯。一番後ろで立ったまま聞く。途中休憩が入り、カウンターで飲み物を買う。後半、山口さんがギターとバック・ヴォーカルでサポート。見事なギターであった。アンディは十二弦で、ファズやワウワウを入れたりする。それにしても聞かせる。声にしてもふわふわしてるし、抜きんでたギターのテクがあるわけでもないが、歌うべきものを持っている強さだろうか。説得力という点ではクライヴやブーのソロを上回るかもしれない。それにしても山口さんのギターが加わっての3曲は白眉。アンコール2回。終ってからフィルム・カメラで客席の写真を撮っていた。終演十時半。立ち詰めだったので空いた椅子に座って休憩。客層の年齢はやはり高い。たいていは三十以上だろう。女性も半分はいて、いずれも落着いた、知的な感じの人だ。まあ、とびはねる感じではない。
 少し休んでから裏へ行って星野さんからアンディのファースト、セカンドを買う。その辺でKさんとか山口さんなどと雑談。11時半になったので一人帰る。最終小田原行きに間に合い、帰宅0時半過ぎ。タクシーの運転が不安定な人だった。アクセルのふかし方もハンドルの切り方も一定しない。

◎Ursula Burnes ACCORDING TO;
 ハープのジャケットから予想していたものは完全に裏切られた。すべて自作の歌。ハープも弾いていて、なかなか達者ではあるが、メインはあくまでも歌だ。メアリ・コクランとシネィド・オコナーとリーシャ・ケリィを足して3で割ったような感じか。伝統音楽からは離れているが、ロックとかポップスでは無論ない。伝統から出たものでもあるが、どこかすっ飛んでいる。自分の歌に酔っている部分もある。

◎Mike and Mary Rafferty THE OLF FIRESIDE MUSIC;
 これはまたコアのディスク。父親のフルートと娘の蛇腹を中心にしたもの。ギター伴奏。それだけのものだが、他に何か要るのか。親父のリルティングがいい。リルティングの録音はあまりないから、これは新鮮。ジャケットはもう少し工夫が欲しい。いくらプライベート盤でも。  
1999年4月23日金曜日 曇りのち雨
 朝、家事の後、LPの入替えに手をつける。ブリテン関係とアメリカの棚を交換し、配列をミュージシャンのアルファベット、それも表記通りのものに変更。まずは一番上の二つ。
 ガブリエル・ヤクーのディスクを探していたら、オコラから出ていたエリク・マルシャンとベニート・アシャリのディスクが現れる。まったく忘れていた。聴いてもいない。

◎Seoada THE HIGH B;
 これはちょっと面白い。リズム・セクションがピアノも含め、完全にジャズ。その上に伝統どっぷりの蛇腹、フルート、フィドルが乗る。問題は歌で、2曲ともありきたりの定番曲。しかもこれをまったくの二流ポップスのノリでやるのだ。"The coast of Malabar" など、声をふるわせて歌いあげる。"As I roved out" は『魂の大地』だったかのブライアン・ケネディそのまま。
 思うに、歌は伝統のコアにより近く、若い世代にはなかなか身につけにくいものなのかもしれない。ダンス・チューンやダンスのような肉体的な要素の比較的多いものは、訓練を重ねればかなりの程度まで自分の物にできるのだろう。だが、歌はそれ以前の蓄積、個人の中にあって時間的空間的に蓄積されたものが必要なのかもしれない。最近の若いバンドにインストルメンタルはりっぱな演奏をしながら、歌は自作のコンテンポラリーが多いのもそのせいなのかもしれない。それ自体悪いものではないが、寂しい気もする。
 このバンドはあえて伝統曲に挑戦したことで、歌の伝統の血の薄さをはからずも露呈している。そう言えば、ここ一、二年シンガーとしての新人(初めてCDを出したという意味)はまずたいていが中年以上の人で、若い世代ですばらしい伝統歌を聞かせるというのは、久しく出ていない。オイガのカーラ・ディロン、マランナ・マクロスキィ以来か。

◎Steeleye Span FOLKSTOW GRANGE; Park
 悪くはない。マディ・プライアが抜けたがゲィ・ウッズが全面的に替るのではなく、ベースのティム・ハリースやボブ・ジョンスンが結構歌っている。特にハリースはなかなか渋いヴォーカル。
 気になったのは、ひょっとしてこれで終りにする気なのではないか、ということ。タイトル曲はバンド名のもととなった伝説を歌ったものだし、最後の曲が「別れの杯」。バンド自体の解散はまあ仕方ないとしても、せっかく復帰したゲィ・ウッズには続けて欲しい。

 昼食はご飯を炊き、豆腐入りハンバーグを焼きはじめたところでハムが残っていたことを思出す。仕方がないので両方食べる。レタスのサラダ。ザーサイ。ザーサイの塩抜きはずいぶん時間がかかるものだ。はじめおっかなびっくり1分ずつとか細切れにやっていたが、結局10分は優につけておくことになる。生協の宅配でスイートポテトが来たので、おやつは幸せ。

◎Laoise Kelly JUST HARP;
 本当にハープのみ。しかし、豊かな音楽。ライナーにあるドーナルの言葉通り、見事な三連符やベースの使い方。
 音友・Kさん宛、VIP関係の原稿を送る。2ページものはやはり送っていなかったようで、あらためて送りなおす。
 アイリーン・アイヴァースの項、原稿を書く。
 K、Hを眼科につれてゆく。6時過ぎ帰宅。流行性角結膜炎(はやり目)の診断。火曜日まで学校は出席停止。
 夕方ワーナー・S氏より電話。振込み先の確認。
 THE VOICE OF THE POEPLE の原稿を書くために聞いていないものから選んで聞く。

◎RIG-A-JIG-JIG: The Voice of the Poeple 09; 1998
 モリス・チューンが中心だが、ソロ演奏が多い。バンド形式だと思いこんでいたのはハッチングスの方法に慣らされてしまった結果かもしれない。実際の伴奏ではソロが多いのだろう。

 夜、今年に入ってからの初聴きディスクのリストを作る。百枚を越え、一日2枚平均か。

◎RANTING & REELING: The Voice of the Pople 19; 1998
 こちらは北イングランド。やはりこちらの方が好みだ。だんだん趣味がケルト色になっているのだろうか。  
1999年4月24日土曜日 雨、寒し。
 午前中、音友原稿の仕上げ。昼過ぎ、VIP原稿残りをまとめて送る。
 CDUniverse から THE BEST OF JESSE WINCHESTER などCD5枚。今回は比較的速かった。メアリ・ストーントンのライナーのための資料。
 MSIから新譜案内。F&SF。科学。
 夜、今日着いたディスクからジェシ・ウィンチェスターの "Defying gravity" をMDに落とす。オリジナルとエミルー・ハリス版。それにメアリ・ストーントン版をならべて入れる。何ということもない歌だが、こうやって三つ続けて聞くとなるほどいい歌に聞えてくる。

◎Linda Thompson DREAMS FLY AWAY; 1996
 朝、朝食を食べるときに何の気なしにかけてみる。やはり、良い。唸ってしまうほど良い。リチャードのギターも冴えている。こんなに未発表が多いとは思わなかった。二人だけのライヴの "The Great Valerio" は絶品。そして最後のトラックは、これは何だ。リンドレーにグリスマンにハープ・ペダーセン。背筋に揮えが走る。一体この録音は何なのだ。

◎Erik Marchand et Thierry Robin AN HENCHOU TREUZ; 1990
 先日レコード棚の奥から発掘したもの。ティエリィ・ロビンはウード奏者。パーカッションもタブラだからおよそブルターニュらしくないが、マルシャンのヴォーカルとの組合せはすばらしい。一曲、もう一人のシンガーとのブルターニュ流の掛合い。二人だけのア・カペラでこれはハイライトだ。この人は3枚聞いて、どれも文句なしの傑作。ただ者ではない。  
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