「曖蘭亭日記」前口上。 日記を読むのが好きである。永井荷風の『断腸亭日乗』にしろ、山田風太郎の『戦中派敗戦日記』にしろ、目黒考二の「笹塚日記」にしろ、読出すと我を忘れて読みふける。忘れられないのは植草甚一の『日記』である。晶文社の『スクラップ・ブック』の一冊だが、敗戦の年1945年とたしか70年代のある年の日記がならべて入っている。その二つの年の日記の中身がまるで同じ。違うのは後の方でジャズを聞くことが入っている程度。本を読み、映画を見、散歩をし、ものを食べ、友人とおしゃべりする。その繰返し。人間の暮らし、かくあるべし。 そういう「理想」の暮しを目指してつけているのがこの日記である。植草さんの映画にあたるものがぼくの場合音楽である。いつかは植草さんの境地に至れるかが楽しみである。そして至ることだけが目的ではなく、そこへの過程もまた楽しい。その楽しさは共有できればなお楽しい。ということで公開してみる。一緒に楽しんでいただければ幸いである。 |