大島教授の[暖蘭亭日記][1999年10月21日木曜日〜 10月31日] [CONTENTS]

1999年10月21日木曜日 晴れ。前数日よりは暖かい。

 朝刊をとると、昨日来ていた宅急便が扉の郵便受けに入っていた。ビクター・O氏からのもの。サンプル盤とテープ。字が細かい。こっちが年取ったか。 朝食を抜き、Kを送り、9時過ぎ、O医院に行く。問診、聴診、血圧、血液採取。それからレントゲンと心電図。尿酸値と左足甲の痛みのことも言って、尿酸値のデータもとってもらうようにする。心臓は問題なし。横腹が痛かったというと、触ってみて肝臓が少しふくれているという。とりあえず、竹踏み励行を続けるしかない。10時過ぎ帰宅。昨日Pからもらった回答をオーマガトキに送る。

○Steve Knightly TRACK OF WORDS; Hands on Music, 1999
 期待していたアルバムなのだが、つまらない。これを聴くと、ショウ・オヴ・ハンズのサウンド面を作っているのがフィル・ビアであることがよくわかる。ナイトリィはむしろビアの作る音楽に乗っかっているのだ。ナイトリィの歌とヴォーカルの良さを引出すのがビアという構図。マット・クリフォードはショウ・オヴ・ハンズのアルバムにはほぼ全部入っているし、ポリィ・ボルトンのアルバムにも参加している。そちらでの演奏には特に違和感は感じなかったから、職人ではあっても全体的なサウンドの構築の才能には欠ける。

○Various Artists THE FIDDLE COLLECTION, Volume One; Hands on Music, 1999
 こちらはそのフィル・ビアが何年もかけて準備してきたイングランドのフィドル・チューン集。いずれ劣らぬ名手のすばらしいアンソロジー。ピーター・ナイトのみ既存盤からの再録で後はすべて新録。フィドル好きにはたまらない。

 昼食は冷凍の餃子を焼き、ご飯、トマト、昨夜の残りの菠薐草の胡麻和え、茄子の浅漬け。昼食後、眠くなり、2時過ぎから40分ほど昼寝。最近、どうも眠い。これも肝臓のふくれているせいか。
 プランクトンのKさんからマレードとダーモットの結婚式の写真。カラー印刷。立派なものだ。午後、オーマガトキ・Kさんから電話。カパーケリーの歌詞対訳の件と、"Circle of stone" のタイトルの訳し方の件。
 食事は遅くなって8時前。親子丼、葱と若布の味噌汁、昨日の残りの肉じゃが、胡瓜の塩揉み。食べおわる頃、『グラモフォン・ジャパン』のKさんから電話。とりあえず頼みたい原稿二本、字が細かいので郵便で送るとの連絡。
1999年10月22日金曜日 曇。寒し。

 睡眠をたっぷりとるとやはり調子がいい。当たり前といえば当たり前。朝食は牛乳を昨日ココアで使ってしまったことが判明し、何もできないので急遽残っていた肉まん・あんまんを食べる。昨夜の親子丼の残りの鶏肉のソテーにポテト・サラダ。

○Various Artists RIDGERIDERS; HTD, 1999
 フィル・ビア、クリス・ホワイル、アシュレィ・ハッチングスにアルビオン・バンドがサポートしたテレビ番組のサントラ。サウンドはもうアルビオンそのもの。と言うよりも、フィル・ビアがいた頃のアルビオン。ビアはフィドル、ヴォーカル、ギターと大活躍で、曲も一部書き、事実上の中心人物というところ。やはりこの人、過小評価されている。これから本当の活躍が始まるかも知れない。番組は南イングランドの田園を走る「尾根道」を中心にした一種の「街道をゆく」のようなものらしい。年代物のオートバイの話題も加えてあるようだ。写真を見るかぎり、およそわが国ではヒットしそうもない地味なものだが、イングランドではかなりのヒット番組の由。曲はどれも高い水準。ただし、サントラということもあって一曲が比較的短く、あれ、もう終ってしまうのか、ということも多い。

 午前中、ブラウンのゲラ。ページの替り目で一行まるまる抜けているところを発見。やはりきちんと読まねばならぬようだ。
 その後、デ・ダナン・ベスト盤の歌詞対訳。聞取りが例によっていい加減。一曲ひどいのでもとをよくよく見てみたらディランのものだった。手元の歌集にあったのでそちらと比べて聞いて確認の上、印刷されている方を元にしてやる。昼食後も続けて、ほぼ終らせる。
 夕刻、グラモフォン・ジャパンから速達。

○Cesaria Evora CAFE ATLANTICO; BMG, 1999
 アルバムとしてのアレンジはあまり期待していなかったが、一曲([07])、鋭い音の撥弦楽器のセンスのいい伴奏があったのには喜ぶ。もう少しアレンジに工夫が欲しいが、これがもともとの形なのだろう。聴くべきはセザリア・エヴォラ自身の歌で、これはもうドロレスである。力みがなく、それでいて力に溢れた声。自分の歌ってきた範疇からはずれることは全くなく、その中では女王であり、女神だ。アルバムとしてすばらしいとかそう言うレベルではなく、しかしこの声にはいつの間にか惹きつけられてしまう。

 夜は翻訳。夜10時過ぎ、『グラモフォン・ジャパン』Kさんから電話。11時前、ファックスで原稿が入る。
1999年10月23日土曜日 晴れ。暖。

 朝はのんびり寝て、起きると10時。昨夜は2時頃、汗びっしょりになったのと小便が溜まって起きる。Mはまだだめで、腹が痛いとか気持ち悪いとか言っている。しばらく一緒にごろごろ。

 朝食は苺ジャム・トースト。Mの足の裏をもんでやったり、昼食のハヤシライスなど作っているとすぐお昼。KはMを連れて小児科へ行く。たくさん薬をもらって帰ってくる。Mは薬が効いたのか、夕飯までには元気回復。夕飯もぱくぱく食べる。豆腐ハンバーグに豆腐とあぶらげの味噌汁、小松菜煮浸し、薩摩芋と林檎と干し葡萄のサラダ。
 午後、『グラモフォン・ジャパン』の翻訳一本。
 メールをチェックすると ARENA 1.6 が正式公開になっていたのでダウンロード。Nanosaur 1.1.7 のアップデートが出ていたのでこれもダウンロード。
1999年10月24日日曜日 晴れ。暖。

 朝、7時前に一度目が覚めたが、9時過ぎまで寝ている。朝食はまた苺ジャム・トースト。
 昨夜、寝しなにふと首をかしげて側面を伸ばしてみたら、数日来気になっていた舌のいがいががすうっと消えた。やはり骨というか筋肉だった。今日は咳がなかなか止まらない。ヘヴィではないが、こほこほといつまでも出ている。

 昼から皆で出かけて、まず図書館。Kの本をリサイクル棚に置き、三階でCDを見たりする。CDの盗難が多いのだろう、よくCD屋にあるような盗難防止のケースと出入口のゲートを設置していた。そのお知らせが五ヶ国語ぐらいで書いてあるのが生々しい。
 吉本家で昼食。風邪を治そうと、久しぶりで葱・味玉。Hはチャーシュー・味玉。MとKはラーメン。Mはもてあまし、麺を助ける。子ども二人連れてラオックスに行くが、CDウォークマン用のポーチがない。MD用のものしかない。iMac の新型を見に行く。SE でHは Bugdom をやりはじめたら、止まらない。ルールもわからないのにやっている。

○Bill Laswell IMAGINARY CUBA; BMG, 1999
 来たばかりのサンプル盤。ちょっと楽しみにしていたが、がっかり。前作のイスラームではうまくいった方式がキューバが相手では噛合わないようだ。グルーヴを殺す方に行ってしまっている。

○リブ!ラフ! 風ヲキッテ進メ!; Off Note, 1999
 なるほど、これは見事。ダーティ・ダズンやリバースのニューオーリンズ系とも、ロマ系のものとも違う、独自の行き方を打出しているところがいい。個々の技量もさることながら、音楽する楽しさをまず味わおうという姿勢に共感。中川敬のヴォーカルも活き活きしているし、シチュエーションが変わっているからから、いつもと違う響き、それこそバタやんにも通じる響きが聞える。

○Catie Curtis A CRASH COURSE IN RISES; Ryko, 1999
 先日送られてきたRykoからの女性シンガー・ソング・ライターのアルバム2枚のうちの一枚。近ごろのアメリカの女性シンガー・ソング・ライターの水準の高さをしめすものでもある。バック・バンドがすばらしく、特にドラムとギターがいい。このドラムはある意味でラノワ系だが、ドスンバタンでも、細かく刻むのでもない、ちょっと変わった、あまり今までロックとかシンガー・ソング・ライターでは聞いたことのない音。聞込む気にさせるディスク。

 といった板を聞きながら、夕方から溜まっていたディスクの整理。これでようやく最近買ったものの入力がすむ。細かい字を見るためか疲れる。
 夕食は鰺の刺し身、豚汁、隠元の胡麻和え、小松菜煮浸しの残り、海苔。
 白石さんかメールで、松平さんの追悼の会の時期は年内では早すぎるのではないか、という提案。
1999年10月25日月曜日 晴れ。快晴。暖。

 咳、なかなかとれず。
 電話の日。創元・Yさん、音友・Sさん、Uさん。The Living TraditionからCD一枚。電話で長話していると、咳が出てくる。だいぶ前に頼んだものらしい。Kに頼んだ本2冊届く。

 仕事は『グラモフォン・ジャパン』の翻訳一本。その後、船津さんに約束していたマーティン・ヘィズ&デニス・ケイヒルのライヴ・アルバムについての原稿を書く。もうめろめろ。とにかく書きあげて、ファックスで送る。あとで、いい原稿だから載せるとのメールが入っていた。咳のせいで、体調はなはだよろしくない。熱までは出ないが、そのせいで余計中途半端になるようだ。
1999年10月26日火曜日 晴れ。昨日に続き、よく晴れる。

 昨夜、2時半頃、咳込んで目が覚める。Kも起きてしまい、ついでにヴェポラブを背中に塗ってもらう。これが効いたようで、あとは朝まで眠れる。
 朝、Kを送り、その足でO医院に回り、診察の予約。一度家にもどってから9時過ぎ、再度医院へ行く。尿酸値は数値的にはまだ問題はない。中性脂肪が多いが、昨年よりは減っている。適度の運動をしろ、油もの、卵類は控え目に。
 ということで、午後2時過ぎに郵便局であれこれ投函し、そのままぐるりと散歩。恩曾川沿いにずっと上の方まで歩いてゆく。着いたばかりの『グラモフォン・ジャパン』のサンプル盤のうち、ピアソラのものを持っていって聞きながら歩く。気持ち良し。Amazon からCD四枚。

○Fieldwork THE VOYAGE; Wild Goose, 1998
 ミック・ライアンの作による「フォーク・ミュージカル」。アイルランドに代表される移民をイングランドの視点から歌ったもの。モチーフとしてはこのタイプの音楽の嚆矢であろうピーター・ベラミの THE TRANSPORTS の流れだが、あれがイングランド人自身の移民体験だったの対し、これはどうもアイルランドの移民体験をイングランド伝統音楽のイディオムを使って歌っている。曲はどれもすばらしく、演奏も三人のリード・シンガーがいずれ劣らぬ名手により、聞応え満点。じっくり歌詞を聴いてみたい。

○Glen Moore NUDE BASSE ASCENDING...; Intuitions, 1999
 オレゴンのベーシストのリーダー作。共演者の中ではカーラ・ブレィしか知らないが、他の面々も強者ぞろい。特にこのウードはいい。一つのモチーフを反復して使い、アルバム全体である物語ないし筋の通ったイメージを映しだそうとしているようだ。コーランの詠唱のようなものも使っている。この曲はいい。はっきりどこ、とルーツを特定できないが、いわば汎ルーツに則った音楽。星川師匠の推薦で聴いてみたが、確かに秀作。

○Dante Quartet LES VENDREDIS; ASV, 1999
 ロンドンをベースにしているらしいダンテ弦楽四重奏団による、リムスキー・コルサコフとその弟子たちによる弦楽四重奏のための作品集。これを聴くと、当時のロシアのクラシック音楽に興隆期と爛熟期が一緒に来ていたように感じる。ストラヴィンスキィ前夜、十九世紀の慣性の働いているぎりぎりで、なおかつ新たな表現を生みだそうとしている。ある意味でそれは無駄な努力であり、ブルジョワのサロン音楽として成熟の極みに達したこれらの音楽は、やがて革命に呑込まれるのだが、まさにそれゆえに、ここからどこへも行きようがないものが持つ爛れた美しさがある。それも、ある程度名が通った人の作品ではなく、いわば二流の人たちの作品に如実に現われる。一流は時代を越えるが、二流は時代や風土を直接に反映するからだ。例えばソコロフの「スケルツォ」。

○Cecile Daroux & Pablo Marquez HISTOIRE DU TANGO by Piazzolla; Harmonia Mundi, 1999
 フルートとギターのためのピアソラの作品集。ピアソラはこんなものも書いていたのだ。タンゴでは伝統的な楽器だそうだが、ピアソラというとどうしてもバンドネオンの音が耳についているので、その点でまず新鮮。このフルート奏者は現代作品の演奏で名をあげているそうだが、なかなかに鋭角的な音を出したり、おもしろい。Gramophone の評者の言う通り、ヴァラエティに富んで、飽きさせない。もっとも、楽曲より演奏に耳が行く、というのはむしろ当然で、クラシック・プロパーの人たちは楽曲を聴くのだろうか、と不思議に思う。
 夕方、『グラモフォン・ジャパン』の訳稿二本を見直し、Kさん宛、メールで送る。
1999年10月27日水曜日 雨。

 朝起きたときはまだ降っていなかったが、皆が出かけた頃から降りはじめ、あとは終日、雨。時おり、激しい。午後、雷も鳴る。今朝も6時頃か、目が覚めてしまう。その後はあまり眠れず。仕方なく、午前中仮眠。昼にむりやり起きて昼食を食べたら、多少良くなる。
 朝は、今日が子供たちの遠足予定だったため、弁当になり、鰺の開き、キャベツの味噌汁、菠薐草の胡麻和え、キャベツ若布(昨夜の残り)、南瓜の煮付け、ご飯、ゆかり。昼は朝の残りの味噌汁、キャベツ若布、南瓜、菠薐草に、鶏肉の雉焼き、ご飯、鰹節。
 昼食後、ブラウンのゲラ、一章分。その後、THE MARTIANS を一章読む。

○Kelly Willis WHAT I DESERVE; Ryko, 1999
 ビデオアーツからのサンプル盤。エミルーに似た感じのシンガーで、同時にもらった Catie Curtis にくらべると、シンガーとしてはこちらの方が上かも。歌作りではカーティスで、バックのバンドはなんといっても太鼓が違う。こちらはより曲調も演奏もカントリー色が強い。曲は自作は半分以下、それも共作で、一曲 Gary Louris との共作があるのは面白い。あとは知らない人ばかり。ニック・ドレイクをとりあげているのは、ブームがこういうところにもおよんできたのか。全体として水準は越えているが、しかしいまこの水準のものはごろごろいる。

 メディアドライブから e.Typist Ver.5.0 のアップグレードの案内。即、ファックスで申込む。
1999年10月28日木曜日 晴れ。

 雨は昨日一日だけで、今日は快晴。低気圧が南からの空気を吸いこんだので、暑い。昨夜は9時に寝たが、シャバ・アーサナをしたせいか、朝までぐっすり。ようやく風邪がほぼ抜けた。  午前中はまずブラウンのゲラ。そのあと久しぶりに掃除。喉のいがらっぽいのが抜けないため。

○Buddy Miller CRUEL MOON; Highnote, 1999
 最初のワン・フレーズで脱帽。これで三枚、いずれも甲乙つけがたいが、今回は鋭いセンスに一層磨きがかかっている気がする。骨太の繊細さ、とでも名づけたい鋭敏な感覚がこの人の真骨頂だろう。東部の知性と南部の気骨の幸福な結婚だ。ザ・バンドにも匹敵しよう。タイトル曲でのエミルーのヴォーカルは、単なるハーモニィの域を完全に越えた、失神もの。

 このところ、井上究一郎の遺著となった『訳詩集 シテールへの旅』を読んでいる。それでふと、プルーストを想い、バルザックを想い、小説はやはりフランスと、そしてロシアのものだと思う。これはラテンとギリシアに淵源を発する。とすれば、ゲルマンは何だろう。「サーガ」ではないか。『ローマ帝国衰亡史』『ジョンソン伝』『第二次世界大戦史』「シャーロック・ホームズもの」。いずれもそうだ。「サーガ」は小説ではなく、物語に近い。散文ではあるが、韻文の性格も残す。演劇的要素もある。あるいはパフォーマンス。だから「サーガ」は読まれる前に見聞されるもの。体験されるもの。そして、後になって読まれる場合も、「語る」側にパフォーマンスが必然的に入ってくる。芸術よりは俗物的、高尚さよりは受け狙い。イングランドの場合、ここにケルトの影響はあるのだろうか。

 詩はまた別のもので、より普遍的である。どの文化、どの言語にあっても、もっとも普遍的にして土着的メディアである。普遍と土着は同じものの両面となる。土着が深まるほどに、普遍も広がる。
 カードの請求書。たっぷり。レコード、特に MusicFolk から買いすぎた。 午後、RICHEST の訳稿見直し、始める。
 メールをチェックすると、LightWayText の新版が出ていたので、ニフティへ行ってダウンロード。なんと縦書きができるようになった。カラー・スケジューラはお遊びだが、なかなかいいのではないか。これでワードサーヴィスがつけば、文句ない。
 午後、ふと思いつき、PowerBookの Apple CD-ROM/DVD Driver を iMac にコピーしてみる。すると、どうだ、CD-ROMが認識されるではないか。それで『沖縄なんでも事典』をインストール。どうやら修理に出さなくてもいいようだ。やはり、アップデートがおかしかったのだろう。
1999年10月29日金曜日 晴れ。暖。

 今朝も比較的さわやかな目覚め。夢は気がかりなもの。
 午前中はまずブラウンのゲラ。

○Lobi Traore DUGA; Cobalt, 1999
 前作よりはグルーヴがさらに粘り気を帯び、全体のトーンがやや昏めになっている。フランス人らしいハーモニカ奏者はいい感じだ。タイトルは禿鷹で、この人の部族の間では勇者の象徴の由。ギターはあまり表面には出ず、リード楽器としてはコラが活躍する。前作がグルーヴに乗って浮上していく感じとすれば、こちらは地底へと降りてゆく。傑作。

 WXG新版ダウンロード、インストール。鉛筆メニューが新しくなっている。
 午前残り、『バビロン』訳稿見直し。
 メディアワークスから『スポーン』色校。

○Roy Bailey NEVER LEAVE A STORY UNSUNG; Fuse, 1991
 旧譜だが聞いた覚えがない。よって、初聞きとする。それにしてもこんなにすばらしいアルバムを出していたとは。もちろんシンガーとしてとびきりだが、ここではジョン・タムスのプロデュースが見事。この人、プロデューサーとしての才能を見直す。選曲も文句のないもので、コステロの "Any ship's killing" とか、マッコールの "Moving on song" とか、これ以上の歌唱がそうそうあるとは思えない。
1999年10月30日土曜日 晴れのち曇り。

 朝食は、お好み揚げ、豆腐とあぶらげの味噌汁、菠薐草の胡麻和え、ご飯。
 朝食後、ブラウンのゲラ。

○Njava VETSE; Hemisphere, 1999
 マダガスカル出身の若いバンドのワールド・デビュー盤。これ以前に録音があるのかはわからない。これまた極上の音楽で、特にコラを思わせる速いパッセージと鋭い響きが快いギターと、ヌスラト・ファテ・アリ・ハーンにも比肩できる、ありあまるパワーを自在にコントロールできるすばらしい声のリード・シンガーが聞物。アリ・ファルカ・トゥーレにしてもロビ・トラオレーにしても、アフリカとはいえ、すばらしい歌と歌い手に不足はしていないようだ。ア・カペラ・コーラスもみごと。プロデュースがなんと久保田麻琴なのにびっくり。ただし録音はブリュッセル。

 午前中、Hの学年の親子レクリエーション。畑の雑草取り、竹薮切りと焼き芋。竹薮切りで大汗をかく。
 昼食は釜揚げ饂飩に朝の残りの菠薐草。Mは親子レクで昼が遅くなりそうだったのでお弁当を持たせたのだが、帰ってきてまた饂飩を食べる。
 昼食後、『グラモフォン・ジャパン』用の原稿、残り一本をKさん宛メールで送る。
 午後、『バビロン』訳稿チェック。
 夕食はプレーン・オムレツ、白菜・人参のスープ、パスタと胡瓜のサラダ、梨。入浴と同時にUさんから電話があり、出てからかけなおす。昨日の朝日のCD紹介欄で、高橋健太郎氏が「故ニック・ジョーンズ」と書いていたのだが、何か知っているかとのこと。一応ネットをあれこれさぐるが、それらしい情報はない。フィル・ビアのサイトでも今年の8月時点で、健康で元気だとあるだけ。メーリング・リストにもそれらしき情報はなし。fRoots のここ2ヶ月のものにも何もニュースはない。おそらくは勘違いであろう。ついでにあれこれ話して一時間。話しながら

○John Wesley Harding TRAD ARR JONES; Zero Hour, 1999
 を聴く。意図は壮とするも、やはりアメリカ人のシンギングで、それ以上でも以下でもない。アメリカ人にニック・ジョーンズの存在を印象づける力はあるのかもしれない。
1999年10月31日日曜日 晴れ。

 9時起床。朝食は苺ジャム・トーストにハム一枚。
 昼食前に『バヒロン』訳稿見直し。
 昼食は豚肉・白菜蒸し、蜆汁、ご飯。
 昼食後は思い立ってレコード棚の移動と整理。作業をしながらずっとCDをかけていた。

○渋さ知らズ 渋龍: Chitei, 1999
 もう少しおとなしいものというか、明確な形のあるものを予想していたので、意表を突かれた。こういう音楽をやっている人たちがわが国にもいるということで、大いに意を強くする。実に頼もしい。ジャズはある意味で言葉を跳びこすことができ、それを最大限に利用している。ことに最後の曲の、スキャットというか、何というか、歌詞があってない「歌」は見事。「やられた」と感じてしまう。

○Anabela ORIGENS; Movieplay, 1998
 この仕立てがこの人自身のものなのかどうかは別として、なかなかうまく作っている。ポップだが音楽に実がある。歌が上すべりにならず、バックに埋もれないだけの歌唱力もある。ドゥルス・ポンテスと比べてしまうと酷だし、比べても仕方のないものだろうが、ひょっとするとポンテスが行けないところに一気に飛んでしまうような、そんな予感はある。

○Jolly Jack & Friends ROLLING DOWN TO OLD MAUI; Fellside, 1999
 ジョリィ・ジャックの1983年の同名のアルバムを中心に、フェルサイドの複数のアルバムから海に関する歌を集めた復刻盤。スティーヴ・ターナーやリチャード・グレインジャーの名前があって、はじめは喜んだが、よく見ると旧譜からの再録だった。まあ、とにかくCDに入ったのはめでたいことかもしれない。この二人の歌唱はやはり出色。メインのジョリィ・ジャックはさすがで、タイトル曲はメロディがまったく違い、またいつもと違ってあまりアグレッシヴでなく、ソフトな歌い口。こういうソフトなタッチがこの人たちの身上。あと、女性ながらリンダ・アダムスの歌が、なかなかに聞かせる。フェルサイドも財産が多いから、こういう復刻をこれからもどんどんやって欲しいものだ。

○Anouar Brahem KHOMSA; ECM, 1995
 これは最新作に比べて遥かにましだ。ちゃんとウードを弾いている。が、それ以上にこのジャズ蛇腹は聞物。なかなかの秀作かも知れない。

○Bob Fox & Benny Graham HOW ARE YOU OFF FOR COALS?; Fellside, 1996
 おなじみ "Oakey's strike evictions" から始まる、炭鉱にまつわる歌集。一曲を除いてオリジナルだが、いずれも名曲・佳曲ぞろい。ボブ・フォックスのシンギングも手堅い。惜しむらくはデザイン・センス・ゼロのジャケット。普通このジャケットだけで、シンガーの名前も知らなければ買わないだろう。

 夕食は焼きそばとバナナ。
 夜、ラティーナ用にエイジアン・ファンタジィ・オーケストラのディスク・レヴューを書いて送る。
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