大島教授の[暖蘭亭日記][2000年 8月 07日 (月)〜2000年 8月 13日 (日)] [CONTENTS]

2000年 8月 07日 (月) 曇。風あり、やや涼し。

 朝食、ハム・トースト、昨夜の残りの胡瓜塩揉みと南瓜煮付、コーヒー、グレープ・ジュース。
 朝ゴミを出しに行く時、熊蝉を聞く。珍しきことなり。
 昼食、素麺、茹で卵、桃。

 トランジスタ・レコードから佐渡山豊のCD『サバニ』。リスペクトから平安隆&ボブ・ブロッツマンの新譜サンプル・カセット。Songline から Network のサンプルCDを送ってくる。Amazon.co.uk から Rough Guide to World Music, Volume 2 のCD。サイトでは書籍を注文したはずなのに、またもやCDを送ってくる。あらためて書籍を検索すると、定価20ポンドのまま。Rough Guide 自体のサイトでは第二巻はまだ出ていない。Amazon.co.uk に問合せのメールを出す。

 プランクトンにもろもろのチケットの申込書をファックス。
 午前中、掃除してスペクトラルのCDプレーヤー荷作り。ペリカンに架電して引取りに来てもらって送りだし。

 リンク・クラブのニュースで iCab 2.1 がリリースされたとのことでダウンロードして試してみる。だいぶ Java が動くようになり、セキュリティもOKで、ほぼ使えるようになった。
 「ケルティック・ミュージック・オンライン」の藤田さんから、アンディ・アーヴァイン来日に関して問合せのメール。事情を説明して応援してくれるよう依頼の返事を出す。

 HUNTING MR HEARTBREAK 四章に描かれる南部寒村の文化的貧困の風景,「外部」への敵意、内部を「守ろう」とする姿勢は第二次大戦までのアイルランドの精神風土とそっくりだ。自分たちの文化遺産への無知、現実感へのずれも重なる。地元の禁酒解除に反対して諸教会が使った言辞はアイルランドのカトリック教会当局が「ゲール文化の価値観」を守るために用いた言辞ともののみごとに重なる。

 小説の「役割」、小説が書かれ、読まれるその「存在理由」は「現実」をより深く、明確に認識することを助けるところにある、とする著者の考えは同意できる。自分は、われわれは、いったいいかなる世界に住んでいるのか。
 一方で小説の「真価」を読取ることもそこでは必要となる。小説の書かれた時代・世界と、自らの生きる時代・世界と共通する部分・要素、「現実」を読取ることだ。
 そしてもう一歩踏込めば、「小説」は「文学」と入替えられる。

2000年 8月 08日 (火) 晴れ。暑し。

 朝食、ハム・トースト、バナナ、コーヒー、グレープフルーツ・ジュース。
 昼食、銀むつ粕漬、大根味噌汁、胡瓜味噌添え、目玉焼き、ご飯。
 
 フィル・ビアからバンドのオフィシャル・ブートレグ。Amazon.comよりCD2枚。

○The Phil Beer Band ONCE IN A BLUE MOON; (own label), 2000
The Phil Beer Band  フィル・ビア・バンドの初のアルバムで、オフィシャル・ブートの第二弾。中にはビアが全部自分で楽器を担当しているトラックもあり、またほとんどアコーティック・ギターだけがバックのトラックやギター伴奏のフィドル演奏、ジュリィ・マシューズと二人で作ったデモもあり、今ひとつバンドとしてのアルバムという焦点はボケる。とはいえ、フィル・ビアのアルバムだ。一つひとつの曲は悪かろうはずはない。どちらかと言えばシンガーとしてのビアに耳が惹かれる。一番のトラックはアコーティック・ギター一本をバックにしたもの。こういうアルバムを一枚作って欲しいものだ。

○Various Artists INDONESIAN GUITARS: Music of Indonesia 20; Smithonian Folkways, 1999
INDONESIAN GUITARS  fRootsのサンプラーで一番印象的だったトラックの元のアルバム。Smithonian Folkways はなんとインドネシアの国立の文化研究所のようなところと共同でインドネシアのルーツ音楽をシリーズで出していて、その最後20枚目。これには意表を突かれた。ガムランやダンドゥットとは全然違う世界。よりコアに近いのかもしれない。こんな音楽があったとは。fRootsのサンプラーにとられていたのは冒頭の一曲で、その他各地のギターを使った音楽が収録されている。バラッドも多いらしく、途中でフェイドアウトするのが数曲。それぞれに面白く、中にはカリブ的なものまであるが、やはり冒頭の曲とそれと同じ地方の[06]が印象に残る。ある意味でひじょうにヨーロッパ的な響きがある。ギターの音色がそうだし、ヴォーカルは何と言ってもブルースだ。スラウェシ南部のマンダル族の音楽だそうで、このシリーズにはこの地方だけで一枚別にディスクがある。聞いてみよう。
 シリーズの掉尾を飾る最後のトラックは全く新しいバンドのもの。あえて伝統からは一歩ずれたこの曲をここに持ってきた監修者の見識は大いに評価する。しかもこの曲がまたすばらしい。インドネシアの伝統ここには欠片もないそうだが、しかし余の耳には十分インドネシア的に聞える。つまりこの一枚聞いてきて、この曲になっても浮いたところは全くない。自然の流れとして聞ける。浮いているといえば、上記のカリブ的(あるいはハワイ的?)な曲の方が浮いている。
 付属のブックレットは30頁を越える。

 午前中、一人で駅前に出て、銀行で金を降ろす。もろもろのライヴのチケットを買おうとしたがなんと「チケットぴあ」が入っているビブレが休み。仕方がないので有隣堂を覗く。『グイン・サーガ』の新刊を買うついでに文庫棚を眺め、結局岩波文庫の新刊3冊も買ってしまう。『アイルランド短編選』。ウィリアム・フォークナー/加島祥造・訳『熊他三篇』。『ハンガリー民話集』。

 夕方、ヒデ坊から電話。アンディ&ドーナルの来日の件、東京と名古屋が決まったとのこと。早速、二つのメーリング・リストと「パブ」に流す。

--引用開始--

 今度はアンディ・アーヴァインがやってきます。
 ソウル・フラワー・ユニオンのヒデ坊(伊丹英子)の仕掛けになる企画です。プランクトン等とは関係がありません。名ので、問合せは各会場へ、またネット上ではこの会議室か小生宛のメールでお願いします。
 なおチケット発売は9月2日前後になる模様。
 またこの情報は転載自由です。

「つづら折りの宴〜アイリッシュ編」
Donal & Andy Photo.
※全公演共通
 18:00 open/19:00 start
 前売4,000円/当日4,500円
 出演:アンディ・アーヴァイン&ドーナル・ラニィ
    ソウル・フラワー・モノノケ・サミット


9月23日(土)心斎橋クワトロ Tel: 06-6281-8181
 出演:ガジュマルの会(沖縄舞踏)(仮)or サムルノリ、長田マダン

9月24日(日)京都・タクタク Tel: 075-351-1321

9月26日(火)名古屋・TOKUZO Tel: 052-733-3709

9月27日(水)東京・青山CAY Tel: 03-3498-5790
 出演:山口 洋(仮) 

 出演者等、追加情報が入り次第、またご連絡します。


--引用終了--
2000年 8月 09日 (水) 晴れだが雲多し。夜9時半過ぎ、雷雨降りだす。かなり激しい。

 目覚ましで7時起床。
 朝食、ハム・トースト、バナナ、トマト、コーヒー、グレープフルーツ・ジュース。

 8時過ぎ、車で出発、川崎へ。物置の設置工事。9時ちょうどに着くと、ちょうど業者のトラックが着いたところ。2台で来て、降ろすのと土台を決めるのまでは二人でやったが、その後は若い方だけ残って一人で組立てる。もう部品がきちんとできているので、組立自体は比較的簡単。電動ドライバーでどんどんネジをはめこんでゆくからなおさら早い。終ったのは11時半。訊くと、この後今日だけで三ヶ所行くのだそうだ。

 土台はブロックを置いただけのものだが、重量を支えるのはその一点ではなく、全体で支えるのでこれで十分の由。転倒防止工事もしない。

 そのまま残って昼食。笊饂飩、林檎、隠元、じゃがいものサラダ。
 宮前平のビック・サムに行き、現金の預かり証を見せて領収書を書いてもらう。
 その後、246経由で帰る。途中、長津田の辺から猛烈な雷雨。大和トンネル手前で急に止む。というより、雷雨帯から抜けたらしい。

 本厚木駅前で車を駐車場に駐め、ビブレのぴあでトミー・フレミング、ヒートウェイヴ、ソウル・フラワー・ユニオンのチケットを購入。ラオックスでウィンドウズのノートを冷やかす。あれこれ見るが、やはりVAIO の C1はキーボードが小さすぎる。SRはまずまず。デザインの良さでは惹かれる。キーボードからすると、Let's Note か ThinkPad、メビウスの各々いわゆる A5サイズ・ノートがまずまずだが、どれも帯に短し、襷に長し。ThinkPad はグライド・ポイントだから、端から問題外。Let's Note はメーカーが気に入らない。Vine Linux のメーリング・リストではこれを薦める人がいるのだが。

○平安隆&ボブ・ブロッツマン キーブルダッチャー・ミュージック;リスペクト, 2000 (advance cassette)
 先日聞こうとして、中山さんから電話がかかってきたので、よく聞けなかったもの。車の中で3回連続で聞く。やったぜ、ベイビィ。ここでのカチャーシーの「エレクトリック化」は今までで一番「ノって」いる。平安さんのヴォーカルも一段と艶と奥行を増している。これはほんとうに今年のベスト1だ。

 4時前帰宅。岩波から『科学』定期購読料の残金。『ザ・ディグ』から貸していたCDのジャケ。札幌のOさんから『Vinyl』。

 音友・Sさんから電話。9月末のライヴ・スケジュールの確認と称する。
 のざきから電話があったというので架電。余の『アイリッシュ・ミュージックの森』に書いたマーティン・ヘィズ&デニス・ケイヒルの THE LONESOME TOUCH へのコメントの英訳の件。
 夕食、銀むつ粕漬、豚の冷やししゃぶしゃぶ、大根の味噌汁、和布キャベツ、ご飯。

 9時半頃、プランクトン・I君から電話。ニーヴ・パースンズが大阪にも出ることになったとの情報。ニーヴの情報はすぐ二つのメーリング・リストと「パブ」に上げる。

2000年 8月 10日 (木) 晴れ。

 8時過ぎ起床。朝食、ハム・トースト、トマト、コーヒー、グレープフルーツ・ジュース。

 朝食もそこそこに歯科。右上に金属が入る。さすがに楽になる。が、冷たいものを飲んだり食べたりすると沁みるのは何だ。
 歯科の帰り、つくつく法師を聞く。今年初めてか。

 創元より『フィンバーズ・ホテル』。栩木さんの解説が楽しみ。
 昼前、Kたちを駅まで送る。昼食、ハゲ天で穴子丼。
 ドーナルに手紙を書く。ヒデ坊にYさんからのチラシ配りの要領をファックス。
 午後、レニー・ブルース。ノルマ達成。

 夕食、Kたちは遅くなるので食べてくるとのことで、一人ハム・エッグを作り、キャベツの味噌汁、漬物、ご飯、ゆかり、海苔。
 食後、嘉手苅林昌のビデオを見る。途中、八時ごろ、三人ご帰還。

○嘉手苅林昌 唄と語り:もしもしちょいと林昌さんわたしゃアナタにホーレン草; BLine, 1999
嘉手苅林昌  あらためて、この人の生を体験すべきであったと思知らされる。
 それにしても不思議な歌だ。口をほとんど動かさず、喉の奥の方から、ほとんど声帯から直接響いてくる声。右手人差し指の伸ばした爪で、主に上から下へと打付けるように弦を弾く三線。思いのほか細く小さな顔。「ラッパ節」での嘉手苅林次のヴァイオリンの弓を持つ手の不器用さ。歌ではやはり「戦友」しばらくうたっていなかったのか、はじめおずおずという感じで前奏無しとわざわざ断わりながらうたいだしたのが、うたうにつれてどんどんしっかりしてくる。そしてラストの古典曲。こういう古典曲はもっと聞きたい。
 とまれ、こうしてよくぞ残してくれました。

 9時頃、リスペクト・Tさんから電話。先日送った平安隆&ボブ・ブロッツマン新譜の感想メールのお礼。

2000年 8月 11日 (金) 晴れ。

 朝食、ブルーベリィ・ジャム・トースト、苺ジャム・トースト、プチトマト、コーヒー、グレープフルーツ・ジュース。

 よく磨いたせいか、金属を詰めた歯も調子がいい。

 今年は暑いことは暑いが、蝉はいつもより少ない感じ。少ない年なのかもしれない。いつだったか、いつまでも鳴いていて、おまけに夜もかまわず鳴いていたのにはまいった。特に油蝉のじりりりりりりという鳴き声は聞いているだけで暑くなってくる。みんみんやつくつく法師はまだましで、カナカナにいたっては涼しく感じるが、油だけはたまらん。今朝は家の前の欅の辺りで熊蝉が鳴いた。気温が高くなって北進してきているのかもしれない。

 ソフマップの中古でPowerBook現行モデルを捜すと27万というのがある。しかも20日までは送料・代引き料金ナシだそうだ。メモリ256MB載せておそらく30万。一方26日発売と発表になった Cube は15インチ液晶ディスプレィと128MBメモリで32万ぐらい。とするとそちらの方がやはりいいか。迷うところだ。しかし、金はあるのか。

 昼食後、編集者のSさんから電話。勤めていた出版社を辞めたとのこと。先日関った絵本の現物見本が届いているかの確認。延々と長話。出版界の実情、最近読んだ本の話、これからの出版。

 午後、ヒデ坊より電話。レイからのファックスの件など。英国の Ace からユニオンのコンピレーションを出したいというオファーがあり、その英文の契約書が送られてきていて、中川さんからヒデ坊が渡されて、ざっと訳してくれ、ちゅうことだったらしい。んなもの、専門家でなければ無理だよと言っておく。しかし考えてみれば向こうからのオファーなのだから、契約書は日本語のものも向こうが用意すべきだ。

『ガリマールの家』  注文しておいた『井上究一郎文集』全二巻(筑摩書房)と藤原書店の季刊誌『環』の二号、届く。『井上究一郎文集』は持つ歓びを生む本。「書物」と呼ばれるにふさわしい。実はこの人の書くものは、プルーストの翻訳よりも自ら筆を執ったものの方に価値を認めていると言ったら、本人はなんと答えただろうか。何はともあれ、他の全ての文業が忘去られるとしても、『ガリマールの家』と『幾夜寝覚』の二冊は、日本語による文学の精華の一つとして、残るはずである。それにしても第二巻の巻頭に掲げられた写真の微笑む著者は、実にいい顔をしている。こういう顔を見せる人間になりたいものだ。 『幾夜寝覚』

 夕方、ダディ・オー・Hさんから電話。アンディ・アーヴァインの新譜の件。
 夕食、回肉鍋、ご飯。

 その後、仕事部屋のCDプレーヤーとMD録再機の位置を入換え、ケーブルも交換。ショットガンをCDプレーヤーにつなぐ。やはり音は違うようだ。試聴に使ったのはトラフィックの『ジョン・バーリコーン・マスト・ダイ』のリマスター再発盤。オリジナルの部分だけ一度聞いてから、コードを替えてタイトル曲を聞く。

 オリジナル・ライナーがフェアポートの『リージ&リーフ』と比較していたが、確かにこのタイトル・トラックなど、一種の「奇蹟」に違いない。あらためて聞いてみて、この曲だけ表現様式が違う。スティーヴ・ウィンウッドのヴォーカルも、他の曲のように歌いあげたり、叫んだりするところはなく、囁くようだし、クリス・ウッドのフルートはホィッスルかリコーダーの響きを出す。ピアノも、トライアングルも、全てが押出してくるのではなく、聞くものをひきこもうとするかのように一歩下がっている。どこかうたの持つ力、「魔力」にとり憑かれているようだ。

 このCD再発は Island のリマスター・シリーズの第一弾とのことだが、フェアポートなど続いて欲しい。
 それにしてもライナーの日本語訳はひどい。一見日本語として通りが良いようになっているが、中身は誤訳、勘違い、ごまかし、勝手な改編のオンパレード。

2000年 8月 12日 (土) 晴れ。雲多し。風あり。

 8時半起床。
 朝食、ブルーベリィ・ジャムを塗ったクロワッサン、トマト、炒り卵、コーヒー、グレープフルーツ・ジュース。
 昼食、早良西京漬け、隠元胡麻和え、蜆汁、ご飯、ゆかり。

 2時頃、驟雨。
 ラティーナ・Kさんから預けていたCDと写真。Amazon.comからCD1枚。リエナ・ヴィッレマルクの入っているCDなので注文したのだが、スウェーデン・ジャズのライヴ・サンプラーのようだ。

○Traffic JOHN BARLEYCORN MUST DIE (remastered with bonus tracks); Island/ユニバーサル, 1970
Traffic  リマスターという割にはあまり音が良くないが、何はともあれ、2曲のライヴ・トラックは収穫。特に "Glad"。スタジオ版もいいが、やはりライヴでこそ真価を発揮する曲だ。このライヴ音源は独立した形でぜひCDしてもらいたい。フェアポートもそうだが、技術的にはけっして傑出しているわけではなく、むしろ二流といっていいが、とにかく音楽が生きている。できる範囲で精一杯、しかも楽しんでやっている。この「ジャズ・ロック」を松平さんはどう聞いたのだろう。けっして嫌いではなかったはずで、ペンタングルよりは評価していたのではないか。その他の2曲、Guy Stevens とスティーヴ・ウィンウッドが作った二つのトラックは可もなく不可もなく。加わることでオリジナル・アルバムの価値が上がったとも思えない。

 ショットガンの威力は凄い。セント・ニコラス・オーケストラのあの超低音の入っているトラックがきちんと再生されるのだ。

 三時過ぎに家を出る。銀座ヤマハ・ホールにてトミー・フレミングのライヴ。日比谷に出て、「芳蘭」の醤油ラーメンで夕食。

 会場に入ると、招聘元のトリニティーのYさんから「ケルティック・ミュージック・オンライン」の藤田さんに紹介される。想っていたより年上で、あとでいただいたオリジナルCDのサンプルの履歴を見ると同年代だ。このCDはシンセで一人で作ったプログレの由。フランスのレーベルから発売になるのだそうだ。

 うろうろしているとタッドが先日の Donna と Ben、それにもう一人日本人の女の子を連れてくる。カンバセーションのYさんとのこと。タッドにお礼のCDを渡す。山口洋さんも来る。ダディ・オー・Hさんからアンディ・アーヴァインの新譜を受取る。
 お客は普段の客層とは違って、クラシックの音楽界にいるようなおばさん連が多い。結構受けていて、終ってからのサイン会にもずいぶん並んでいた。

 客電が落ち、ステージが明るくなってまずバンドの三人登場。テッドがチューニングに少々手間取る。演奏が始まってから本人登場。この辺もそうだが、全体に選曲といい、スタイルといい、ステージ・アクション(というより、動きのなさ)といい、メアリ・ブラックそっくり。ブライアン・ケネディとショーン・ケーンの中間というところか。

 「ステージ衣裳」は黒のズボンに黒のTシャツ、黒のジャケット。ジャケットは熱いといって途中で脱ぐ。そう言えば、照明を入れずホールの照明だけだったらしく、クラシックのように始めから終わりまでステージは明るいまま。と言って、特にそれがマイナスというわけではない。

 トミー・フレミングのうたはこれもメアリのようにストレートで、ブライアン・ケネディのような持って回ったところはなく、正直、誠実、明朗快活。といってパワーで押しまくることもなく、微妙な歌いまわしもしっかり聞かせる。一方でやや一本調子なところはいなめない。ドナなどは物足らなかったようで、あとで頻りにあれこれ欠点をあげていたが、少々嫉妬も入っているようだった。お定まりの「ダニー・ボーイ」もやったが、頭に別ヴァージョンのメロディをつけ、本体のメロディも押さえ気味で、好感が持てた。あるいは高い声が出ないのかもしれないが、それはこの場合かえってプラスと感じた。

 バックはさすがに磐石。とりわけ、コーラスは絶品といっていい。男声だけのコーラスだが、妙にマッチョなところがないのはさわやか。テッドのドブロをもっと聞きたかったぐらいが不満か。山口さんはうま過ぎて破綻がないのがつまらないといっていた。途中休憩が十五分入り、計2時間半。後半、一度バンドが曲をまちがえ、これでずいぶん肩の力が抜けたようだ。むしろ後半に向かって調子が上がっていった。あまり期待をしないで行って、何の気兼ねもなく気楽に聞けて、楽しいライヴ。白石さんも来ていた。

 終ってからサイン会の後、のざきが一応紹介してくれる。タッドとその連れの四人、プランクトンのI君と近くのライオン・ブラッセリーで一杯。ベンが行きつけの高田馬場の「フィドラー」というパブのマスターは何とバリィ・ドランスフィールドの友人だそうだ。今度、ぜひ一度一緒に行こうということになる。

 10時半頃外に出ると雨。本厚木に着くと深夜バス最終便の五分ほど前で停留所にまだ人がいたので、最終がまだ出ていないと思い並ぶが、待てど暮らせど来ない。0時の鐘が鳴ったので諦めてタクシーで帰る。考えてみれば休日ダイヤであったか。帰宅0時半前。

2000年 8月 13日 (日) 雨。涼し。朝から細かい雨が終日、降ったりやんだり。

 8時過ぎ起床。偏頭痛。喉に何か絡んだような感じがあるのは考えてみると、夕べ何時間も遅くまで仕事部屋で本を読んでいたためらしい。

 朝食、ブルーベリィ・ジャム・トースト、トマト、コーヒー、グレープフルーツ・ジュース。

 音友・Sさんから電話。「つづら折りの宴〜アイリッシュ編」の紙資料のため、アンディ・アーヴァインのプロフィールの依頼。午後、書いてメールで送付。

 ヒデ坊に架電。アンディの新譜のジャケット取込み・送付の件。すでに間に合わずとのこと。
 昼食、エボダイの開き、鱈子、海苔、豆腐と葱の味噌汁、トマト、ご飯。

 書評欄に京都の松籟社からハインリヒ・マンの短篇集が出ていて、完結との記事。こういう目立たない海外の作家の短篇集は買っても読まない可能性は高いが、食指が動いてしまう。今買わないと、手には入らんだろうしなあ。この版元は以前シュティフターの作品集を出していたところだ。
 地方欄に昨日の横浜・寿町コンサートの記事。モノノケの演奏写真もある。ヒデ坊に送ることにする。

○QUETZAL; Barrio Gold Records, 1998
QUETZAL  ライヴよりはかなりロック寄りの内容。もっともこれからまたいろいろ変わっているのかもしれない。しかしやはり音楽としては[05]のようなメキシコのルーツに立ったものの方がずっと面白く、説得力もある。ラストの曲は確かライヴでは冒頭、兄妹のシンガーがア・カペラでうたいながら出てきた曲だと思うが、圧倒的にライヴの方が良かった。まあ、こういうバンドは皆CDはいわばカタログだから、アルバムとしての出来をライヴと比べてもしかたがないが。とはいえ、あのライヴを見るかぎり、今後のアルバムは期待できる。

○Andy Irvine WAY OUT YONDER; (own label), 2000
Andy Irvine  スティーヴ・クーニィのプロデュースとエンジニアで彼のスタジオで録音された、本当に久方振りのスタジオ盤。アーヴァインのヴォーカルがまず気合いが入っていて、圧倒されんばかりだ。オリジナルが多いが、バラッドがほとんど。アレンジは例によって複雑・精妙なものだから、漫然と聞くと平板に聞えないこともない。しかし、歌詞を味わいながらじっくり聞込んでゆくと、ダーモットのアコーディオンの絶妙の伴奏や、コーマック・ブレナックのロゥホィッスルが、じわじわと効いてくる。ここ最近、パトリック・ストリート以外ではぱっとしなかったアーヴァイン健在を強烈にアピールする力作。嬉しい。まず印象に残るのは Alfred Noyes の詞にロリーナ・マッケニットが曲をつけた9分に及ぶ "The highwayman"。この詞は有名なものの由だが、初めて聞く。ロリーナのメロディはさすがで、詞の孕む緊張感を見事に音にしている。そしてそれをうたうアーヴァインのうたのしなやかさ。

 おやつは玉蜀黍の塩茹でとスイート・ポテト。
 夕食、チーズまたは紫蘇の葉入りの豚カツ、玉葱のフライ、キャベツの千切り、ご飯、昆布の佃煮。

 夕食後、音友・Sさんから電話。ドーナルの紹介文も頼むとのことで、書いてメールで送付。

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