大島教授の[暖蘭亭日記][99年7月1日〜 7月8日] [CONTENTS]

1999年7月1日木曜日 晴れ。都心では午後雷雨。

○Taj Mahal & Toumani Diabate KULANJAN; Ryko, 1999
 ビデオアーツからのサンプル盤。またまたぞっとするほど良い。基本的にはアフリカにタジ・マハルが遊びに来ましたという風情。トゥマニのコラがぞくぞくする。
 Ryko はアリ・ファルカ・トゥーレ、Kelly Joe Phelps とこれで三連発。

○Sliabh Notes GLEANNTAN; Ossian, 1999
 もちろん悪かろうはずはない。今回はアコーディオンが前面に出ている。このベテラン・バンドにしても歌がコンテンポラリィなのはいよいよ今の流れか。

 家事を終えてから10時に家を出て、まっすぐ銀座。はしごで昼食。だんだん麺とシュウマイ2個。
 松竹試写室で『アナザー・デイ・イン・パラダイス』の試写。真保みゆきさんが見えていた。確かに音楽映画。筋立てや映像はそれほど大したものではない。主役の二人、大人の方の演技でもっている。始めにヤクを買いに来た二人の青年が面白かった。いささか無駄と思えるシーンが多い。ロージーが死んだ後、何も映っていないままスイッチの入ったテレビが映り、さらに虚空を見つめる少年の顔に一筋の涙が流れるシーンなど。
 世界が狭いのは若者小説の世界だけかと思っていたら、この映画の世界も狭い。ドラマが進行している世界の「現実感」が希薄なのだ。リアルなことはまことにリアルなのだが、そのリアルさに底がない。世界とは人間関係だけではなく、その人間たちが住んでいる環境があるはずだ。その環境が見えない。見せない。画面に映るのは主人公4人のごく周辺だけだ。多少とも「世界」が見えるのはラストシーンなのだが、ここに広がる畑もまたどこにも繋がっていない。
 ドラマそのものは映画会社の売りの文句とは裏腹に、大人の話だ。すなわち道具にするつもりで引っ張り込んだ若者に惚れこんでしまい、その自分にいらだち、若者が独自の言葉を発するのに対して権威で封じ込めようとするオトナのあせり。最後に殺そうとするのもそれ以上自分を失うことを恐れたためだ。
 音楽は確かにすばらしい。黒人のジャンプ・バーのシーンなどはなかなかだ。最後のディランは目立たない曲をうまく使う好例。
 一番良かったシーン。ヤクを買うふりをして金とヤクを奪おうとしたギャングと銃撃戦となって負傷したメルが、車の中でやたら笑うシーン。
 終わって出てくると土砂降り。東銀座の駅に駆け込む。松屋を覗くがコーヒー・マグは気に入ったのがない。秋葉原に出て、ラオックスのMac館で Orbit USB を買う。新宿で Afternoon Tea を覗き、まあまあのマグを一つ買う。帰宅6時過ぎ。
 WXGのb3を上げたというメールを見てエー・アイ・ソフトのサイトに行くと、b4が出ていたのでそちらをダウンロード。Orbit 用の MouseWorks 5.2 を Kensington のサイトからダウンロード。なぜか柴犬でもiCabでもダウンロードできず、結局ネコミを使う。 夜、『ラティーナ』用に『ウェイクアップ・ネッド』のレヴューを書く。
1999年7月2日金曜 晴れのち曇り。

○Peter Goodhand-Tait REHEARSAL; 1970/1999
 ザ・バンド流のアメリカン・ミュージック志向の英国のシンガー・ソングライターのソロ・ファーストの復刻。なかなか腰の座ったヴォーカル、ブラスや女性コーラスも入った粘り気のあるアレンジ、悪くはない。バックバンドは後のキャメルだそうだ。「ブラックホーク」で受けただろうタイプの音楽。もっとも当時ブラックホークで名前を聞いた覚えはない。だから、これを送られるまで全然知らなかった。惜しむらくは歌詞がないこと。

 午前中、WXGの辞書のメンテをしようとしたら、辞書ビューアで開けず、修復しようとすると損傷が大きすぎで修復できないと出る。おまけにテキストにも書きだせず。結局古いテキストから新たにユーザ辞書を作りなおす。その際、学習結果の登録先の辞書をユーザ辞書と別にしてみる。昼過ぎにサイトを覗くと環境設定の新しいのが出ていたので、ダウンロード。
 SETI@home のクライアント・ソフトも新しい版をダウンロードしてインストール。だいぶ速くなった。
 昼食は豆腐ハンバーグ。大根があったのでおろしをたくさんおろす。キャベツたっぷりの味噌汁。キャベツを切りすぎて、入りきらない。朝の残りのグリーン・アスパラ。
 午後、野崎さんから電話。ロンドン行きの飛行機のチケットが取れないとのことで、帰りを一日伸ばすのはどうか。かまわないと答える。後で再度電話があり、結局ヴァージンはだめで、まだ空きのあるBAにしようということになる。帰りは結局火曜日。三泊五日というのが割引き航空券の最短期間条件なのだそうだ。ヴァージンだけはこの条件を緩和している由。BAではやや高くなるが致し方ない。野崎さんの指示で池袋のHISに架電。BAは一日二便あり、後の方が安いというので時間も楽な1時10分の便にする。航空券、成田空港使用料、ヒースロー使用料合計で163,000円弱。今日明日中に現金を持ってこいというが、今日明日は動けないから月曜でどうだというとそれでいいということになる。ずいぶんもったいぶった対応だ。格安チケットだからまあこんなものだろう。午前中に行くことにする。後で請求書と店の地図がファックスで来る。
 午後、アイリーン・アイヴァースのインタヴュー録音を聞返しながら記事を書き、夕方、映画評と『ラティーナ』に一緒に送る。
 その後は断続的に『緑』。
 SETI@home は残りをあっという間にかたづけてしまい、まだ三割以上残っていたのが夜十時前に終わってしまった。送ろうとしたがサーバにつながらない。メーリング・リストで向うのサーバが落ちているという情報だったので、まだ復旧していないらしい。
 夕食はパン。ハムと昼間のキャベツの残りをバター炒めにしたもの。
 ほぼひと月ぶりにニフティにアクセス。SF関係巡回。ところが Comnifty のフォントの設定がおかしくなっていたので途中で止め、ダウンロード・ファイルを南瓜で見て確認し、もう一度巡回したところ、後半部分が消えてしまっていた。南瓜で開いたままのファイルにつづけて記録する設定になってしまっていたらしい。
 11時過ぎ、雨降り出す。
 小浜さんから『赤』の星雲賞受賞帯びつきの見本。
1999年7月3日土曜 終日断続的に雨。蒸し暑し
 午前中、PTA運営委員会。
 昼食は釜揚げうどんにゆで卵、プチトマト。
 Dell に Vine Linux をインストールする試みをもう一度やってみる。やはり同じところで止まる。子守りで今日は仕事はせず。
1999年7月4日日曜 晴れ、暑し。ただし、空気は乾いていてしのぎやすし。
 起上がると10時半過ぎ。子供たちはとっくの昔に外へ出ている。
 『ラティーナ』用の『ウェイクアップ・ネッド』のレヴュー、手違いで多すぎるということで90行に書き直す。メールで送った直後にHさんから偶然電話。
 プランクトン用の沖縄・アイルランド音楽+リアム・オ・メーンリの記事、リアムの部分を書きたす。いずれも夜、メールで送る。仕事はそれだけ。
 船津さんから臨時新譜情報のメール。シャーリィ・コリンズ&デイヴィ・グレアムがついにCD化。その他4枚ほど注文。クラダにも注文。Fred Hanna'sにも注文。なので、アマゾンは今回は控える。健康保険の支払いや歯医者にも行かねばならない。 夜、デルにLinuxを入れる試みをいろいろやってみるが、結局うまくいかない。そのうちFATが壊れてしまったらしく、HDから立上がらなくなる。前に買ったウィンドウズの再インストールの本を見ながら、窓用の起動ディスクとCD-ROMで立ち上げ、何とかHDのフォーマットはできた。FDISK で新たにパーティションを切れたから、最悪の事態は免れる。
 昨日の夜、寝しなに酒を飲みながら読みはじめたエリザベス・ハンドの短篇集 LAST SUMMER AT MARS HILL の最初の作品で表題作。視点の移動がちょっと気になったのだが、力作だ。人が死んでゆくことの本人にとっての意味とその周囲の人間にとっての意味のずれ。作者があとがきで言うように、お伽咄といえばそのとおりなのだが、「癒し」がわれわれにとって持つ意味を掘下げた作品ではある。何よりも文章の気持ちよさ。読み応えのあるものを読んでいるという気にさせてくれる。その満足感は、作品の内容から受けるものとはまた別のものではないか。白秋や寅彦のエッセイを読むときに味わう満足感に近いかもしれない。
1999年7月5日月曜 曇。都心では昼過ぎ、雨。夜に入り、雨。
 池袋のH.I.S.まで行き、金曜日に電話で予約したロンドンまでの往復航空運賃その他を払込む。担当者は休みで、実習生の名札をつけた女性が応対。バウチャーをもらう。これを成田のカウンターで見せ、チケットをもらう方式。近くのドトールに入ってコーヒーを飲みながら、確認。ついでに Victor Pelevin OMON RA を読上げる。

○Victor Pelevin/Andrew Bromfield, tr. OMON RA; 1992/1996, Faber
 解決のない終り方。新鮮。ソ連時代の宇宙飛行がすべて、徹底的に欺瞞であるとしてそこに巻込まれた一人の若者の顛末を描くこの話は、ほとんどシューリリアリズムの域に達している。語り手/主人公の見る夢よりも現実の方が「現実離れ」している。月面に降りているはずのモジュール内の主人公と指令センターが連絡を取る手段が普通の電話機であるところは、あまりにさり気なく書かれているのと、それまでの経緯から、読んでいる途中までまったく疑問を抱かなかった。多分これはロシア人が読めば、腹を抱えて笑ってしまうものなのだろう。
 クラダからCD9枚。Folk RootsからCD2枚。Amazon.com.uk から書籍2冊。クラダからのCDは留守中に来ていたらしいが、今回は税金かからず。
 帰宅後、メールをチェックし、電話をかけ、Book Worldの溜まっていたものに目を通す。エリザベス・ハンドが William Browning Spencer の新作長篇をとりあげている。この人のとりあげるのはことごとく面白い。これはスペンサーの新作というだけで買わねばならないが、やはり面白そうだ。Jonathan Yardly が2周連続で音楽物をとりあげている。3月14日号でレイ・チャールズ、21日号でジャニス・ジョプリン、それぞれの伝記。出来はジャニスのものの方が良いようだ。ヤードリィはやはりロックはあまり好きでないらしい。ジャニスの生涯はドラッグの濫用に対する警告以外のものに解釈できないなどと言っている。ジャニスやジミヘンを始めとするロック・スターたちの夭逝がアメリカ社会につきつけているものには気がついていない。それに対してレイ・チャールズの生み出したものを「アメリカン・ミュージック」と一刀両断しているのは見識だろう。ポップスにゴスペルを持ちこんだこと、カントリーに踏込んだことを「革命的」とする評価も説得力がある。やはり、レイ・チャールズはちゃんと聞かねばならない。
※Michael Lydon RAY CHARLES: Man and Music; Riverhead, 436pp., 27.95USD
※Alice Echols SCARS OF SWEET PARADISE: The Life and Times of Janis Joplin; Metropolitan, 408pp., 26USD
 21日号のペーパーバック欄も音楽ものの特集。エリントンやサッチモ関係の本に混じって、チェット・ベイカーの自伝がとりあげられていて、これが面白そうだ。「一般大衆のうち、本当に音楽を聴くことができるのはおそらく2パーセント以下だ」という言葉には共感するとともに、身のすくむ想い。
※Chet Baker AS THOUGH I HAD WINGS: The Lost Memoir; St. Martin's Grffin, 9.95USD
 12日号の Poet's Choice 欄はイタリアの詩人 Eugenio Montale の「うなぎ」。最近出た、こちらも詩人の Jonathan Galassi による英訳。この対訳本には詳細な訳者による注が付いているそうで、これだけでも一生ものだという筆者の言葉に、ぜひとも読まねばと思ってしまう。「イタリアの」詩人というところに、ちょっと虚を衝かれる想い。
1999年7月6日火曜 曇。涼し。
 午前、『緑』。
 昼、メールをチェック。プランクトン・Kさんからのメールを見て少し調べて架電。シャロン・シャノンの新しいバンドのメンバーの件。I君に替っていろいろ話す。ウェブ・サイトに載せるのだそうだ。
 夕方からウェブ・サイト作りをはじめる。CyberStudio の使い方から。
 午後、バラカンさんから電話。ラジオのリスナーのリクエストで、Bandoggs 版の"Rose of Allandale"を、LPを誰かから借りてでもかけてくれとのことで、持っていそうなところへかけたのだそうだ。マーティン・シンプスンの来日記念に最新作から同じ曲をかけたところ、そういうリクエストが来た由。もう一件、ノーマ・ウォータースンの新作があまりに良いので、カーシィ一家の特集をNHKでやりたいから材料をそろえてくれないかとのこと。特にラル・ウォータースン。BRIGHT PHEOBUS のことを教える。
 東京創元社・Kさんから電話。星雲賞の盾、無事会社に着いた由。来週連絡して受取りに行くことにする。
1999年7月7日水曜 晴れ。乾いた日。
 夕食後、松山晋也さんから電話。音友本のための Andrew Cronshaw のアルバムのジャケットが見つからないので代わりに送ってくれとの依頼。あとで探すが言われていたようなものは出てこないので、一番顔が大きく出ているものを送ることにする。しばし雑談。
 終日断続的に『緑』。あまり進まず。
 3時過ぎ学童から電話があり、Mが腹が痛がっているというので迎えに行く。帰ってきて寝かせる。一緒に寝てしまう。1時間ほど。Mは5時過ぎまで寝ていて、起きると痛いと泣く。Kが帰っていたので、小児科に連れてゆくが、6時過ぎに帰ってきたときにはまるで元気。
 夜、ROUGH GUIDE TO WORLD MUSIC の表紙をスキャナで取りこみ、音友・Kさん宛メールで送る。

○Rig the Jig ONE NIGHT IN HARLOW'S; ANEW, 1998
 珍しく歌の比重も大きいバンド。しかもアメリカのものが多く、ジョン・プラインのものなどやっている。インストはパイプと蛇腹が主体で、フィドルがいない。気のおけないセッション仲間と本格的なバンドの中間的存在。

 昼食はご飯を炊き、薩摩揚げと朝の残りのトマト。
 夕飯は茹で鶏に茗荷、紫蘇の葉、金胡麻のタレ(煎って半分つぶし、醤油と酢で和える)をかけたもの。茄子の味噌汁、煮南瓜。南瓜は主に子供たち。Mは好物だったが大事を取ってご飯とみそ汁、梅干し、煮南瓜だけにする。
1999年7月8日木曜日 晴れ。

○Midnight Court HALF MOON; Magnetic, 1996? 発表年表記なし。
 ドイツ人フィドラーを擁する3人組。アイルランド人ギタリスト/シンガーが中心。この人は伝統音楽よりはシンガー・ソングライターの資質。もっとも一曲ギターのフラット・ピッキングでダンス・チューンをやっている。歌の比重が大きく、あるいはこういう形はアイルランド本国では成立ちにくいのかもしれない。フィドラーはドイツ人では初めて録音に出てきた。なかなか闊達で、切れ味の良いフィドル。ドイツ人だからどうだというのではないが、もっとこういう人が現れてほしい。ラストのスタン・ロジャースの曲はすばらしい演奏。

 朝食は冷凍のパンを解凍して、フレンチ・トースト。俺はもらい物の葡萄パンの残りもかたづける。野菜は茹でアスパラ。
[CONTENTS] [ ← P R E V] [N E X T → ]  [DIARY TOP]