大島教授の[暖蘭亭日記][99年7月24日〜 7月31日] [CONTENTS]

1999年7月24日土曜 晴れ、風強し。
 5時過ぎに3軒目を出るとすでに夜は明けきっている。路上に出されたゴミをめぐって鴉が集まっている。人間が近づいてもせいぜいが頭上の梢や電線に避けるだけで、まさに傍若無人。女性陣はタクシーに同乗して去り、後はそれぞれの線に別れる。6時少し過ぎに本厚木に着き、バスで帰宅7時。KとHは起きて、テレビを見ていた。Mはまだ寝ていたが、こちらがトイレに入っている間に起きてきて、パジャマ姿で一緒に『日本昔話』を見ている。とりあえず、パジャマに着替えて床に入るが、寝つけず。結局2時間弱ぐらいだろうか。やかましい竿竹屋の呼び声で目が覚めてしまう。ごていねいに8号棟裏の駐車場まで入ってきてがなりたてる。暴力だ。
 昼食は例によって釜揚げうどん、ゆで卵、トマト。汁は冷やす。
 Amazon.com.uk より荷物。本四冊。ずいぶんすばやい。一週間かかっていないかもしれない。メールのチェック。WXG新版をダウンロード。
 夕食は浅蜊ご飯、茄子の味噌汁、冷や奴、隠元の胡麻和え。
1999年7月25日日曜 晴れ、風あり。
 団地の草刈り。9時から10時半前まで。
 朝食、ハム・トースト。トマト。コーヒー。昼食、素麺、桃。夕食、茄子豚、かき卵スープ、トマト、ご飯。
 草刈りから帰ってきてシャワーを浴び、ごろ寝。
 午後から『緑』少し。一章あげる。
 その直前、夜10時ごろ、辞書の最適化をしたところ、突然PowerBookが立ち上がらなくなる。やむを得ず、iMacで残り一行をやる。夜、寝しなにロビンスンの THE MARTIANS の最初の一篇 "Michel in Antarctica" を読む。
1999年7月26日月曜 晴れ、風あり。
 6時にめざましが鳴る前に目が覚めてしまい、うだうだしていたが結局7時に起きてしまう。
 朝食、ハム・トースト、トマト、コーヒー。昼食、鮪の刺し身、キャベツの味噌汁、南瓜の煮付け、ご飯、桃。夕食、鰻丼、和布と椎茸の吸い物、和布キャベツ。
 子供たちは大体外に出ている。朝からPowerBookの不具合の手当て。初期設定ファイルを捨てたりいろいろやったが、結局元にもどってしまうので、症状が始まったときのことを考えて、辞書を入替えると直る。やはり辞書の検査・最適化ユーティリティがおかしいのではないか。
 『胡散無産』7号見本到着。おれの写真はがははと笑っているところで、やはりこっぱずかしい。後であがったさんから電話。ていねいなことで恐れ入る。
 『緑』少々。夕方、うたた寝。T-Time Ver.2.0 到着。iMac にインストール。普通に使う分には特に大きく変わったところはなさそうだ。もっともテキストの閲覧だけではなく、編集もある程度可能になっているのは使えるかも。
1999年7月27日火曜 曇ときどき晴れ。
 朝から雲がおかしな動きをしていたが、十時過ぎ、いきなりざあっと降ってくる。Kは悲鳴を上げて飛出し、洗濯物を入れるが、ほとんど間に合わず。30分ほどで止む。その後は太陽はあまり出ないが、蒸し暑い。
 十時過ぎに皆で家を出て駅前。ミロードの映画館に上がる。まず空いているのでそのまま見ることにする。『スター・ウォーズ・エピソード1』。Hは独りでよろこんで見ていたようだが、Mは隣でほとんどおれの膝に顔を埋めていた。それでもチョコチョコは見ていたらしい。映画そのものはあんなものだろう。二十年で進歩したのはCGの技術のみ。映画としての出来は『バグズ・ライフ』の方が数段上だ。アミダラ女王の替え玉との入れ換えがちょいと面白い。アナキンは俳優が十歳で設定は九歳だそうだが、もっとずっと幼く見える。それにしてもルーカスはドラマを撮るのが下手だ。俳優はよくやっているようだが、演出が臭い。クライマックス(であるはず)の宮殿への襲撃と軌道上のロボット操縦船への攻撃の辺り、わが深作欣二に撮らせれば、あの数倍も緊張感のある絵になっただろうに。話も画面もパターンを脱していない。そもそも話の設定が浅すぎる。
 The Living TraditionからCD4枚。bounce 最新号。Latina からヘドニンガルナのレヴュー依頼。
1999年7月28日水曜 晴れときどき曇り。 夜、部分月蝕。下半分ぐらい欠ける。
 9時過ぎたという声で起こされる。朝食を食べ、皆で出発。駅前で別れ、神保町へ。宮田さんにおめにかかり、昼食を御馳走になる。『本の雑誌』の連載を単行本にまとめる話。書き足しを百枚ぐらいに増やしてくれと言われて困っている。と言いながらも、やはり書きたそうだ。書き残しておかねばという気持ちもあるはず。絶対面白いにちがいない。江藤淳の自殺について、宮田さんは甘えん坊だったんだなあと言われていた。生涯ぴりぴりして生き、そのぴりぴりを支えていたのが奥さんで、ぴりぴりしていたのは芯が強かったのではなく、弱い自分を隠すためであったというのには納得。角川春樹氏と同じ構図。その点では石原慎太郎も同じ。強いという点では青島幸男の方が強いだろう。都知事の任期が終わった時点で比較しなければならないが。
 行掛けに本の雑誌最新号を買って、読みながら行く。連載の最終回で、斉藤正直という初めて知る人のこと。宮田さんの恩人でもあるらしい。その中でちらりと宮田さんが自分の若い頃のことを書かれていて、御母堂と姉上が病弱で、その治療費に大学の奨学金をあてて、除籍処分を受けた、といった話が出てくる。無論初めて知ること。やはり、これは一種の自伝なのだ。回想録、ということになるのだろう。戦後文化史の忘れられているエピソード。だが、おそらく人間の本質がもっとも適切な剥出しさで語られているもの。ホーガンの訳書を渡す。SFの翻訳講座はどうだと訊かれるので、ジャンルで切るのはもはや難しいのではないかと申しあげておく。
 東京堂、書泉2軒、三省堂とまわる。どこもSFの単行本の棚が大幅に減っていて、目指すものはなし。本の雑誌の三角窓口にあった早見裕司『世界線の上で一服』(プランニングハウス)。「剣も魔法も勇者も出てこないけどコクのあるファンタジー」とのこと。小宮山、田村など、三軒古本屋も覗く。田村で『白秋全集』第一期だけ、かなり状態の良いものが17,000円は安い。問題は第2期をどうするか。第2期は市立図書館にそろってはいる。東京堂でフィニアンについての本『大英帝国の中の「反乱」』高神伸一(同文館)、書泉でアレクサンドル・グリーンの新刊『消えた太陽』。国書刊行会の本は買いたくないが、なんと言ってもグリーンだ。それに沼野充義氏が訳者の一人とあっては買わないわけにはいかない。ちょっと覗こうとユニオンに行くと、結局中古も含め、十数枚買ってしまう。どうせ買わねばならぬものだから、今買っても後で買っても同じといい聞かせる。値段は直接買ってもあまり変わらない。それにしてもトピックは速い。デイヴィ・グレアムもマーティン・カーシィも入っていた。
 帰途 A S Byatt の THE DJINN IN THE NIGHTINGALE'S EYE の最初の2編を読む。なかなか面白い。もちろん単なる「民話」ではないが、シルヴィア・タンゼント・ウォーナーのものとは少し違う「破れ」のようなものがあって、そこがいい。2編目の "Gode's story" は何ということもない一種の宿命譚で、バラッドの一つにでもありそうな話だが、まさに物語るというよりは歌うに近い。後の三つも期待できそうだ。 起きてみるとMSIとBMGからサンプル。MSIはSさんが言っていたダン・ペン&スプーナー・オールダムのライヴ。BMGは待望のカルロス・ニュネスの新譜が入っていて、これを持って出かけ、往復で聴く。大いに期待していたが、その期待をもよい意味で裏切ってくれた。傑作。
 帰宅5時半。帰るとHが食器を洗っている。一度やってみたかったんだそうだ。米の磨ぎ方とセッティングも教える。
1999年7月29日木曜 晴れときどき曇り、風あり。
 朝食、ハム・トースト。昼食、イサキの一夜干、キャベツの味噌汁、トマト、ご飯、ゆかり。
 午後昼寝をしていたら、ピーター・バラカンさんから電話。BRIGHT PHOEBUS の件。しばし雑談。リチャード・トンプソンは東芝が国内盤を出さないそうである。憤慨していた。Lyle Lovett のライヴがすばらしいとのこと。
 Kは子供たちを連れて新宿へ買物。夕方電話があり、5時ごろミロードで待合せてうどん屋で夕食。葱トロ丼定食。
 午前中は『緑』。午後は『アイルランド』のゲラ。夜は『スポーン』の下読み。久しぶりに仕事をする。
 Amazon で NED KELLY のサントラ他CDと本を探す。白石朗さんが『本の雑誌』で書いていた大活字本がロビンスンにもないかと探すが見当たらず。A S Byatt の幻想譚集はアメリカ版の方がずっと安いことを発見。国内のネット本屋を探してヤフーをうろつくがわからず。ふとアダルトのサイトにいきあたり、それなりに面白くてあちこち覗く。さすがに花盛りなり。
 寝しなに酒を飲みながらキム・スタンリィ・ロビンソン "Exploring fossil canyon" を読む。久しぶりの再読で筋はすっかり忘れていた。レッズ対惑星緑化推進派の対立の構図はここですでに原型が考察されている。主人公の一人の姓が Clayborne であるのはもちろん偶然ではなく、かれはアンの子孫の一人ではあろう。本編とは直接の関係はないが、メインのキャラが4世であるところをみると、時代的には『青』の後ぐらいだろうか。
1999年7月30日金曜 晴れ、風強し。
 朝食、チーズ・バタール、胡桃パン、トマト。昼食、かますの開き、あぶらげと葱の味噌汁、キャベツ和布、ゆかり、ご飯。
 昼食後、少し昼寝。朝刊に例の東芝対個人ウェブ・サイトの件についてメール新聞編集者の観測。インターネットの匿名性について否定的な意見だが、それが例の「クレーマー」氏が中傷メールで傷ついたことの理由であるとするならば、そもそも「クレーマー」氏本人が匿名であの告発を行ったことがまずかったという視点もあるべし。東芝から弁明のしようのない行為を受けたことは明白で、であるならば匿名にする必要は全くない。自らは匿名性の陰に隠れ、隠れようのない相手を告発する行為は、それもまた「モラル」に反するといわねばなるまい。もちろん、大企業に対しては一個人はあまりにも弱く、匿名性を武器にしなければやむを得ぬ場合もあるだろうが、今回のケースでは東芝には相手が誰だかはっきりわかっているわけでもある。
 辻邦生死去。心筋梗塞。73歳。頓死に近かったらしい。紀行文を読んでみるとしよう。小説はもういい。『春の戴冠』はちょっと気になるが。井上靖を敬愛していたとのこと。なるほどとも思う。構想は大きいが、作品そのものは小さい。やはり石川淳以降、あれほどのスケールの作家は出ていないのだろう。
 ラティーナ・Mさんからレヴュー用のカセット。午前中『緑』、午後ブラウン『アイルランド社会・文化史』のゲラ。

○大熊 亘 豚の報い; Respect, 1999
 昨日ヴァージンでサービス券で買ってきた『豚の報い』のサントラを聞く。バンドはシカラムータで、やはり面白い。演奏といい、曲といい、聞いていて実に楽しい。聞込んでゆくときっとまた楽しいだろう。こういう音楽はきちんと評価しなければいけない。
 夜はニフティの巡回と書込み。思わずザッパのことで書いてしまう。
1999年7月31日土曜 晴れ、風あり。
 8時過ぎに起床。朝食後、支度をして9時半に出かける。まっすぐ池袋へ。西武側のビックカメラとだけ覚えていたのだが、実は三軒あり、パソコン館の前であった。結局十五分遅れぐらいで着くと、すでに皆来ていた。予定より一人増える。J-BOY 山谷さんを囲んでのニフティ・ミニオフ。結局ダブリナーズへ行く。開店11時半で、開くまで十分ほど待つ。ダブリナーズの前の公園には、髪を銀髪混じりに染め、タンクトップのミニにぽっくりという揃いのスタイルの女の子たちがたくさんたむろしていた。ダブリナーズでギネスやビールを飲みながら、結局あれこれ三時までおしゃべり。ああいう話だとあっという間に時間が経つ。三時に店を出てから、やはり吉祥寺へ行く気力はなく、HMVを覗く。大工哲広の新作、タラフ・ドゥ・ハイドゥークス、それにミック・ジャガー主演の NED KELLY のサントラもあった。計四枚。旭屋を覗く。辻邦生の紀行が中公文庫の新刊で出ていたのを思出して買う。ついでに宮崎市定のやはり文庫新刊も買う。辻邦生の『春の戴冠』がハードカバー新装版で出ているのを発見。迷ったが今日はやめておく。それにどうも旧版の古本を買っておいたような気もする。新宿へ出てアカシアで腹ごしらえ。やはりすきっ腹に昼からギネスを流しこんだのは効いていて、眠いのでちょうど出るところだった準急に乗ってしまう。そのまま寝て本厚木まで。結局1時間20分ぐらいだろうか。まだ腹が空いていたので吉本家でラーメン。ところがこれが誤算で、食べおわる頃から苦しくなる。げっぷが出ないのと、下が下がっていかない感じ。仕方がないのでタクシーで帰る。タクシーの中で体を伸ばしたら少しげっぷが出てやや楽になる。やはり基本的に腹に負担がかかっていたらしい。床に入っても、完全には治らず。あとはぼんやりと過ごす。
 The Living TraditionからCD5枚。富山のTさんから『Vynil』。Book World。
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