大島教授の[暖蘭亭日記][2000年 12月 04日 (月)〜2000年 12月 10日 (日)] [CONTENTS]

2000年 12月 04日 (月) 曇り時々晴れ。

 朝食、ブルーベリィ・ジャム・トースト、ハムをはさんだロールパン、蜜柑、コーヒー、オレンジ・ジュース。

○Ranarim TILL LJUSAN DAG; Drone, 2000, Sweden
Ranarim  ニッケルハルパ、ギター/マンドラに女性ヴォーカル二人というシンプルな編成ながら、なかなかに厚みのある、多彩な音楽を聴かせる。まずこのギターがいい。小ドーナル・ラニィというところがあって、力のあるギターとマンドラでグルーヴを産んでいる。90年代のルーツ音楽のひとつの潮流はギターがブズーキの影響だろうか、リズムをキープする本来の働きに回帰したことだ。70年代のはではでしいリード・ギターへのこだわりを持たないギタリストが増えてきている気がする。リズム・ギターでグルーヴを生むことが十分ギタリストとしての表現欲を満たすことが広まってきたらしい。ここでもリードは完全にニッケルハルパに任せ、グルーヴに徹する。フロントの女性二人の歌唱は、かつての名グループ、フォーク・オク・ラッカレのリード・シンガー、カリン・クイエルマンを想わせる、凛とした切れのよいうた。ヴァルティナ的なところもあるが、フィンランド的な呪術が勝ったところはあまりなく、もっとすっきりとした肌ざわりだ。そう、ルーツ界のアバと言えるかもしれない。英仏語の簡単なノートつき。
http://www.ranarim.nu/
○大島保克&オルケスタ・ボレ 今どぅ別り; アカバナー, 1997, 沖縄/石垣
大島保克&オルケスタ・ボレ  はじめクレジットを見ずにやけに洒落たアンサンブルだと思ってあらためてメンバーを見たら、何のことはない、これで悪いものができるはずはない。大島保克さんは3年前だが、この頃に比べると歌うたいとして格段の進歩をとげていて、今の彼を聞いてしまうと、ちょっと弱い部分がある。バンドをリードするというよりは、バンドの一員として、アンサンブルの一部を担当している感じだ。とはいえ、このバンド・サウンドは、沖縄をベースにしながらすっ飛んでいて、それでいながらどこか螺子が何本か抜けていて、大地の懐に抱かれてゆく思い。沖縄なら海だろうというが、島はそのまま潜ってゆけば地球の中心に至るのだ。それにしてもダウランドがこんなになるとは。しかし、案外本人が聞いたら、喜ぶのではないだろうか。

 昼食、おでん、ご飯、ゆかり、林檎。

 昼食をはさんで SEAL MAIDEN のライナー執筆。昼食後、書上げて送付。

 みすずから『出版ダイジェスト』。ウルグアイの作家ガレアーノの『火の記憶』という書物は面白そうだ。全三巻の一冊め。ラテンアメリカの歴史を描くものらしいが、小説でもなく、エッセイでも、叙事詩でも、証言か、年代記でもない。図書館に頼んでみよう。
 しかしこういう書物がまだまだあるのだ。翻訳者として、こういう書物を手がけたい。

 4時前、TLGに架電。デイヴィ・スピラーンの予約をする。折返し、入金方法のファックス。
 午後からはレニー・ブルース。ラスト・スパート。

 夕食、おでん、ご飯、ゆかり、蜜柑。

2000年 12月 05日 (火) 晴れ。

 朝食、健康パンにハム、ブルーベリィ・ジャム・トースト、コーヒー、バナナ、オレンジ・ジュース。

○Sowena A MONTH OF SUNDAYS; (no label, no number), 1999, Cornwall
Sowena  コーンワルの男女二人ずつ四人組のバンド。ギター/ヴォーカル、フィドル、蛇腹、それにクラリネット。フィドルとクラが女性。この地域からは三つめのバンドだが、アルバムの出来としては一番良い。佳作と言っていい。技量的に飛び抜けたものはないが、コーンワルの伝統を掘起こして新たなレパートリィを開拓しようという熱気と真面目に楽しんでいる態度が気持ちよい。"Hal-an-tow" や "Dancing day"、"Sprig of thyme" はコーニッシュ・トラディショナルだったらしい。あるいはイングランドのトラディショナルのコーニッシュ版か、その辺は定かではない。こうしたイングランド的な曲と、ブルターニュやウェールズへの繋がりを思出させる曲が混在している。アンサンブルでは蛇腹が全体を引張るが、やはりクラリネットの存在が大きい。世紀末、フォーク界におけるリード楽器の進出は一つの現象になろうとしている。コーニッシュで書いたコンテンポラリー・ソングもとりあげていて、なかなかの曲。スタンザによって英語と交互。当然レパートリィにはブルターニュの曲も入る。ここにもステップ・ダンシングの伝統が在るらしい。自分たちのペース,を守って活動を続けてほしい。

 昼食、薩摩揚げ、トマト、大根の葉の味噌汁、ご飯、林檎。

 昼食後、郵便局にてTLGにデイヴィ・スピラーンのチケット代金振込。
 朝からレニー・ブルース。2時過ぎ脱稿。とんでもなく時間がかかってしまった。もっとも身から出た錆ではあるのだが。

○Farmers Market (Artist Edition); Winter & Winter, 2000, Norway/Bulgaria/India
Farmers Market  『CDジャーナル』での紹介用に原稿を書いたが、あとで国内盤が出ていることが判明し、没になったのでここにその原稿を揚げておく。それにしてもバルカンからロマ関係のディスクは最近想わぬものが、聞いたこともないレーベルから出ることが多い。悦ばしいことではある。
 ファーストでD・ブルーベックの「テイク5」を11拍子でやってわれわれの度胆を抜いたノルウェイ産バルカン音楽バンドのサード。ブルガリアとインドからのゲストを迎えて、一段と深みと凄味を増している。そしてこのバンドの真骨頂たる遊び心はジャズはもちろんテクノまで自家薬籠中のものにして、ますます複雑にかつわかりやすく(ここが凄い)、変幻自在。時に戦慄、時に爆笑。通して聞くといい汗かけます。タブラまでもバルカンの楽器になりきっている。それにしても五弦バンジョーで変拍子やるなよな。

 その後はLinuxで遊ぶ。Holon Linuxのオペレーション・マニュアルにしたがって、操作をやってみる。日本語も入れてみる。が、Wnn は思ったより操作性が悪い。操作性というよりもGUIがちゃんとできていない。こう言うとUnix使いは「けっ」とかいうかもしれないが、MacのGUIに慣れてしまっていると、変換候補が一覧で出ないことなど原始的に感じる。それにしても2ボタン・マウスがないと実に使いづらい。iBookはどうやらファンクション・キーが働いていない。GNOME のアイコンは窓なみに醜い。KDEの方がマシだろうか。フォントもなぜか変えられない。あちこち不具合がある。

 WXGのLinux版とskk、その関連のファイルをダウンロード。

 Unixはブラックボックスがないので、どこまで行っても全部自分でやらねばならず、それが手応えがないように感じてくる。Macの場合、ここから先はブラックボックスで手が出ないという一線と言うか面があって、その手前を理解すれば何とかなってしまう。Unixはその境界がない。ツールの一つひとつにマニュアルがついていて、それはそれで懇切丁寧、なかなかに頭の良い人が書いている文章でユーザー・フレンドリー(必ずしも簡単に書いているというだけではない)だ。しかし、何か一つするにしても、いちいち膨大なテキストに目を通さねばならない。これは結構辛い。とりあえず、WXGでもskkでもいいから、親指シフトで日本語入力ができるようにしたい。それと『リーダーズ+プラス』が使えれば、当面よしとしよう。

 問題はバックアップで、まだUSB-SCSI変換ケーブルは正式にはサポートされていないので、バックアップ・ツールがない。
 等々のことを考えると、やはり次のハードの更新は窓機にして、本格的にLinux用のマシンにする方が何かと便利だろう。

 一つにはLinuxなりUnixなり、基礎的な、今の平均的なLinuxユーザーならば常識に属する部分を、きちんと抑えた概説書が欲しい。例えば、ダウンロードする先はどこにすればいいのか、とか、GUIでうまくいかない場合の設定ファイルの書換え方とか。
 焦らずに半年ぐらいかけてやるつもりで行くとしよう。

 しかし、こうしてみるとMacOS Xは実に美しい。GNOMEやKDEも少しはあれを見習ってほしいものだ。とはいえ、テーマを揃えれば、もう少し見栄えの良いものになるようではある。

2000年 12月 06日 (水) 晴れ。

 朝食、ハム・トースト、プチトマト、オレンジ・ジュース、コーヒー、バナナ。
 朝、Kを送る。

○Billy Ross SHORE STREET; Greentrax, 2000, Scotland
Billy Ross  ベテラン久しぶりのソロ。こうしてみるとオシアンはやはりハイランドとロゥランドを繋ぐ位置にいたのだ。よく知られた名曲ぞろいで、これはアルバムの元々のコンセプトでもあるらしい。とりわけうれしいのは "Will ye gang, love"で、アーチー・フィッシャーの他にももう一人ぐらいとりあげていたと思うが、これは味のある歌唱。面白いのは "Matty Groves" で、まったく聞いたことがないメロディ。登場人物の名前も微妙に違う。バックではロビン・ウィリアムスという人のオーボエが面白い音を出している。21世紀前半は管楽器、それもリードが「流行り」になるかもしれない。

 午前中、レニー・ブルース最終12章の訳稿をチェックして送る。

○Brian Rooney THE GODFATHER; Racker Records, 1999, Ireland
Brian Rooney  リートリム出身でロンドン在住のフィドラーのソロ。地元ではかなり知られた人らしい。ITRAD-L でも話題になっていたし、アルタンのマネージャーのトムも絶賛していたが、確かに今年のベスト・クラス。先日飯田が来た時、一曲だけかけたのだが、最初の一音を聞いたとたん、これはいいですねぇと言いだした。伴奏のピアノもすばらしいが、フランキィ・ゲイヴィンのフルートがとてもいい。あえてフィドルを弾いていないのは、この人の奥ゆかしさか。テンポはゆっくり目で、リールやジグよりもホーンパイプに味わいがある。リールもアルタンあたりだったらジグぐらいのテンポ。
○Various Artists NOEL; Via Records, 1995, USAmerica
NOEL  いわゆる「クリスチャン・ミュージック」のミュージシャンたちによるクリスマス曲集。カントリー調が基盤だが、意外と様々なスタイルがあり、中にはイラーン・パイプ[04]やホィッスル[07][08]を使っているものもある。この辺はもうアイルランドの文脈からは離れて、普通に使われる楽器になってきた。[02]など、大胆にパーカッションを入れたヴァージョンで、なかなか新鮮。[09]はウォータースンズなどもとりあげているトラディショナルだが、これまたセンスのいいパーカッションと昏いヘヴィメタ風ギターをバックにちょっとダルな女性ヴォーカルがうたうもので、なかなかかっこいい。
 それにしても音楽的にはどこに出しても十分通用する人たちだが、あえてマーケットを限らないと埋もれてしまうのだろうか。名前を聞いたことがあるのはジュリィ&バディ・ミラーだけ。そもそもこの二人が入っているので買ったのだが。この二人のトラックはやはり別格に聞える。ここではバディがリード、ジュリィがコーラス。

 昼食、笹かまぼこ、プチトマト、キャベツ味噌汁、ご飯、林檎。
 夕食、味の刺身、菠薐草胡麻和え、キャベツの味噌汁、ご飯、梨。

 午後はiMacでCD-Rを焼いてみようと、ずいぶん前に買っておいたUSB接続のCD-Rライターをつなぎ、Toast 4.1.2 でやろうとしたが、CD-Rライターを認識しない。あれこれやってもらちが明かない。以前から立上げるとまず赤い×印のついた機能拡張が出るのが気になっていたので、思いきってシステムだけ入替える。ほとんどまっさらの状態で Toast 4.1.2 をインストールしたが、やはり駄目。

 CD-Rライターが繋がっていないと Toast の機能拡張に赤い罰がつくが、それが繋がって、電源も入っているのに付く。つくまでやけに時間もかかる。おまけに Kensington とバッティングしているらしく、CD-Rライターを繋げたまま立上げるとカーソルが動かなくなる。そうなると Kensington 関係のファイルもはずしても結局だめで、コンフリクト・キャッチャーで MacOS 9.0.4 フルに Toast 関連のファイルがあるものだけにしてみたが、症状は変らない。CD-RライターのメーカーであるQPSのサイトに行ってみても、新しいドライバとかは出ていない。

 だいたい Toast は妙な機能拡張をほうりこむらしく、こいつは真先に読込まれるくせに、何を見ても出てこない。Greg's Browser で不可視ファイルを見るにしてみても現れない。もちろんファインダでは影も形もない。

 ここまでで夕食の時間になったので、当面諦める。結局午後一杯つぶれてしまう。
 Kは組合の動員で、8時帰宅。
 夜、メール・チェック。

 unit4 とかに返事を書き、11時前、いざ送ろうとすると「smtp.nifty.ne.jp につながりません」と出る。ブラウザでネット・ボランチの設定画面を出し、手動で繋げてからやったら送れたのだが、同じことを何度か繰返しても、できる時とできない時とあるようだ。

 夕食の前あたりから右の耳がおかしい。詰っているのではないのだが、聞こえが悪くなっている感じで、大きな音など響く。

2000年 12月 07日 (木) 晴れ。

 朝食、ブルーベリィ・ジャム・トースト、ハム・トースト、コーヒー、キャベツバター炒め。

 午前、歯科。左下かぶせが入る。3,120円なり。
 昼食釜揚げ饂飩と林檎。

 昼食後出かけ、まず駅前で航空券代その他もろもろを送金。国際免許用の写真を撮る。図書館休館日。印鑑を忘れたので有隣堂で認め印を買うが、結局必要なかった。みすずの本は有隣堂では影も形もない。

 まっすぐ二俣川の運転免許試験場に行き、国際免許取得。手数料2,650円也。帰りは歩いて駅までもどる。ここの駅前も駅ビルができ、その前に長崎屋とベスト電器が入ったショッピング・ビルが建って二階のデッキでつながっている。

 大和へ出たらちょうどロマンスカーがあったので飛乗る。特急券を買っている人間がいるかぎり、電車は待っている。当たり前といえば当たり前。新宿・アカシアでロール・キャベツとKRBケチャップ抜きで夕食。秋葉原へ出てヤマギワの本店。B&Oの新しいイヤフォンを買おうとしたら、売れすぎて品物はなく、予約受付中。年内ぎりぎりか年明けになるそうな。いいものは売れるわけだ。諦めてそのままTLGへ向かう。

 デイヴィ・スピラーン&ケヴィン・グラッキンのライヴ。中へ入るとのざきがすでに来ていた。白石さんは真ん前のかぶりつき。MSI・Sさん、荒田、高橋の諸氏が来る。

 ライヴは二部構成で間に20分ほど休憩。始まる前にプロジェクターで出る予告の字幕に「イタリアン・パイプ」と出てくるのに爆笑。全部の箇所がこうなっていたから、おそらく誰かが気を回して「訂正」したのだろう。客層はいつものプランクトンなどのライヴとは微妙に違っていて、若い女性客は少ない。カップルが目につくのは場所柄か。このビル全体も、以前に比べると歩きまわっている客の数も増えている。

 デイヴィはていねいにパイプの説明をし、これから聞かせるのは今まで来日して聞いていたようなものとは違う、古い形のものだと断わっている。観客がどこまでミュージシャンやその音楽のことに関心があったのかよくわからないが、反応はなかなかに良い。その反応に二人も喜んでいて、特に後半はのりのり。

 デイヴィはちゃんとレギュレイターも駆使し、時にはチャンターは右手だけで左手の指を使ってレギュレイターを操作する。ちなみに彼はぎっちょだ。スロー・エアもパイプとロゥホィッスルで一曲ずつ披露。のざきではないが、彼のタメは独特で涙腺が緩む。ケヴィンもさすがのフィドル。のってきた時の装飾音のつけ方など、思わず唸る。

 レパートリィは意識してか有名曲のオンパレードで、その点ではあまり新味はなかった。デイヴィはダブリン生まれ・育ちだから、特定の地域と密着したレパートリィではないのだろう。もっとも一般にパイプはフィドルなどよりもローカル・スタイルは強くないようだ。パイプそのものが例えばドニゴールではほとんどないし、あまり地域色が強くないのかもしれない。

 明らかに意識していたのは曲の種類をいろいろやったことで、リール、シングル・ジグ、スリップ・ジグ、スライド、ホーンパイプ、スロー・エア、それにもう一つの「ジャンル」としてキャロラン・チューンをやる。「シーベグ、シーモア」と「ファニー・パワー」。
 この二人でのCDが年明け早々にも出るらしい。楽しみだ。

 終演後、ソニーの担当さんの案内で皆でぞろぞろと楽屋に行く。デイヴィとケヴィンのコンビはボケとツッコミで、おかしい。デイヴィはドーナルに輪をかけてサーヴィス精神が旺盛。ケヴィンはロナン・ブラウンとアルバムを作ったことがあるというので聞いてみると、どうやらドイツ盤で、カーステン・リンドのFolk Freak でオムニバスを作ったらしい。デイヴィはまたひとくさりパイプについて講義。このパイプは PIPEDREAMS のジャケットに映っているのと同じ。のざきさんのことは覚えていた。

 TLGの社長らしき人が食事につれてゆくというので、店を出たところで別れ、白石、のざきと帰る。

 小田急では座れずに立っていたら、右手、扉の脇にすわっていた若い学生風の男が発車する前に座ったままゲロしている。相当に酔っているらしく、背を起こしてすわった姿勢のまま、音もなく口からゲロがあふれ出す。こういう形のゲロは初めて見た。比較的乾いた形のゲロなので、塊になって服の前面にこぼれて溜まっている。結局本厚木までそのまますわっていた。タクシーは待つこともなく、帰宅0時半過ぎ。

2000年 12月 08日 (金) 晴れ。

 朝食、ブルーベリィ・ジャム・トースト、コーヒー、胡瓜味噌添え、オレンジ・ジュース。

 K、健康診断のため朝食抜き。

○Sinikka LILLE ROSA; Grappa, 2000, Norway
Sinikka  ノルウェイのシンガー/カンテレ奏者のソロ。カンテレはフィンランドの楽器だが、ここでは通常のコンテクストを離れ、ハープでもあり、コラでもあり、ギターにもなる。本来の伝統の外にいるメリットだ。とりあげている素材はノルウェイ南東部産の古いバラッドで、この地域は古いバラッドの宝庫として近年注目を集めている由。様々なテクニックとスタイルを駆使するシンギングにはじめやや違和感を感じたが、聞いていくと自然に感じられるようになる。むしろ2曲ほどある無伴奏など聞くと、有数のうたい手だ。一つひとつの曲は長いが、ほとんど飽きさせない。昔バラッドというのはスコットランドとデンマークにしか残っていないという説をポール・アンダースンだかが書いていたことがあったが、無論そんなことはありえない。
○MacAlias HIGHWIRED; Greentrax, 2000, Scotland
MacAlias  ジル・ボゥマンとカリン・ポルワートのデュオという強力な組合せだが、プロデュースがラブ・ノークス。いきなりアメリカンなサウンドで迫る。二人のオリジナルが核だが、一方で[08]のようなア・カペラもあってこれはすばらしい。二人のギターとコーラスだけのシンプルな構成の曲、フル・バンドでのフォーク・ロックと、カントリー調、スコットランドの伝統色たっぷりのもの、二人の可能性の様々な展開を試みている。一聴傑作と叫ぶ類ではないが、時間をかけて聞返すうちに味が出てくる感じがする。

 昼食、帆立てを解凍して刺身にし、大根の葉の味噌汁、ご飯、林檎。

 午後、Amazon.comに行き、Galeano MEMORY OF FIRE, Vol.1: Genesis 他CDなど注文。ガレアーノはウルグアイの作家で、みすずから『火の記憶』として近刊予定のもの。なぜか矢も盾もたまらなくなり、注文してしまう。間に合えばアイルランドに持ってゆく。

 新聞に自民党税調がまとめた結論で、増税案が軒並み引込められ、抜本的な改革は先送りされたとの報道。税制にしても保険とか年金とか医療制度とか抜本的な改革は必要性が言われながら実際には先送りされてきているのだが、これは政治家の勇気のなさを責めるよりも、むしろかれらがそうした改革をためらうようにわれわれ有権者が仕向けていると考えるべきだろう。

 抜本的改革とはすなわち大きな変化であり、自分たちに直接利害がおよぶ部分での大きな変化をわれわれは望んでいない。それでいて改革や「解放」を先送りすると政治を責めている。改革や「解放」が行われないことによる閉塞感は強いが、われわれはむしろ袋小路とわかっていながら引返そうとしないのだ。袋小路から出るには引返すか、塀をよじ登るしかない。ただし、この塀はどのくらいの高さがあるか、また「向こう側」が確実にあるか、はわからない。

 夕食、豚肉小松菜、ご飯、梨、ひよ子(菓子)、蜜柑。Kは宴会。H、おかずをむさぼり食う。Mもおかわり。飯は多めに炊いたつもりが、なぜか少ない。

 明日も入れないので、一人入浴。追炊きをしたのだが、湧いたと思ったら、冷めてしまったのか、入った時にはぬるま湯。もう一度沸かすのにやや時間がかかり、危うく風邪をひく。両足首は久ぶりに長い時間湯の中につけていたので痒くなる。やはり湿度不足だろう。

 午後から夜までかかって文化放送BSのための選曲。大晦日用の今年の回顧的選曲10曲。11時半までかかって選曲とダビングを終える。

2000年 12月 09日 (土) 晴れ。暖。

 朝食、クロワッサン2個。ブルーベリィ・ジャムと苺ジャムをつける。炒り卵。コーヒー、オレンジ・ジュース。

○Triology PLAYS ENNIO MORRICONE; BMGジャパン, 1998, Europe
Triology  昨日文化放送BSの選曲のために2ndを聴直していてあらためて評価を高め、聞いていなかった1stを聞く。これだけいろいろなスタイルと傾向を持っているトリオだから、1stをテーマを絞ったものにした戦略眼はみごとだ。素材の選び方も面白く、もちろんきっかけは単純にモリコーネの音楽が好きだったのだろうが、こちらもまた様々な要素が溶込んでいて、ふだん見えない要素がこのトリオの大胆かつ奔放な解釈で見えてくる部分が楽しい。
○KEN LAUBER; ユニバーサル, 1971/2000, USAmerica
KEN LAUBER  こういう音を聞くと松平さんを思出す。Bob Martin のアルバムに「こういう音作りがなぜ今されなくなったのか」と嘆いていた声が聞える。理由はおそらく単純で、売れなかったからなのだ。今朝の新聞の「万能川柳」欄に出ていた句で
 「良く売れるものが良いものとは限らない」
 というのがあった。むしろ、良く売れるものが良いものでもあることは稀だろう。良く売れるものはまず良くないものと疑ってかかった方が良い。この理由もおそらく単純で、良くないものは万人にとって共通だが、良いものは個々に違うからだ。共通してよく見えるものでも、それがどのように良いかは人によってちがう。ある人にとっての天国は別の人にとって地獄なのだ。
 この人のようなサウンドを現在継承しているのは、例えばバディ・ミラーのような人びとだろう。が、当然のことながら、こういう音にはならない。やはりこれは70年代、それも初期の頃の音だ。それにしてもオリジナルのクレジットがどこにもないのはリイシューとして失格。
 これを聞いているうちに旧『ブラックホーク』で鳴っていた音を継承するようなメーリング・リストができないかと思いつく。
○Jesse 'Ed' Davis ULULU; Atco/East West, 1972, USAmerica
Jesse 'Ed' Davis  なぜか未聴の棚に入っていたので、初聞きとする。ケン・ローバーが終ったら子どもたちが音楽が欲しい、似たものが聞きたいとのことで、これをかける。今さらどうこう言うものではないが、どちらかというと1stの方が好きだ。

 昼食、豚肉小松菜(昨夜の残り)、厚揚げ、ご飯、海苔、蜜柑。

 昼食後、文化放送BS用選曲のMDを聴直して確認。コメント書き。
 午後、『CDジャーナル』用の原稿を書く。出かけるための準備の一環。

2000年 12月 10日 (日) 晴れ後曇り。雨ぱらつく。午後3時頃より、風強し。

 9時過ぎ起床。ただし、Hの咳で朝早くから目は覚めている。昨夜1時半過ぎまで起きてメールを書いていたので、偏頭痛あり。

 朝食、アーモンド・ロール・ケーキ、健康パン、コーヒー、オレンジ・ジュース。

 午前中、子どもたちにつきあって『トイ・ストーリー2』のビデオを見る。相変わらず見事なもの。脚本、作画、演出三拍子揃った傑作なり。シーンを絞ってテーマを掘下げれば名作にもなっただろうが、それはこの映画の意図ではあるまい。

 新聞書評欄に一冊。谷田博幸『極北の迷宮』名古屋出版会、3,800円。評者、池澤夏樹。これは例のフランクリン卿による北西航路探検隊を鍵にして当時の英国社会の全体像を描きだした本だそうだ。著者は西洋近代美術史の研究家。その人がこの本を書いたきっかけというのが、おそらくは評者が最後に指摘している件だろう。南極探検に向かい、危うく遭難しそうになりながら全員帰還したエンデュアランス号の隊員が撮った写真が、フランクリン隊の最後を想像で描いた極地の絵にそっくりだという。もちろんエンデュアランス号の方がずっと後だ。

 著者インタヴューで千住真理子氏。クラシックのヴァイオリニストで『聞いて、ヴァイオリンの詩』時事通信社、1600円。天才少女と言われてきたのが嫌になり、二十歳の時一度演奏をやめる。
 「天才少女と呼ばれてきたことへの反発がありました。私は普通の人間で、努力して弾けるようになったのです。また、天才はこう弾かなければいけないという演奏パターンがありました。びっくりさせるようなテクニックを見せたり、やり過ぎるくらいに歌ったり。私は音楽は人の心を打つものだと思っていましたから、音楽家がこんなものならやめたい、と」
 これがクラシック界の現実であるならば、そしてそうではないと判断する理由もないが、音楽家として当然の反応だ。あるいはこういう反応が出てきて、また実際に演奏をやめることができるこの人は例外の存在なのか。例えばこれが男性の演奏家であったらどうだろうか。

 同じく書評欄の表紙紹介のところがいい。田島雅巳『炭鉱美人』築地書館、2,500円の表紙。フォト・ジャーナリストによる筑豊の女性炭鉱労働者たちへの聞き書きとポートレート集。この表紙に映っている女性の笑顔の何と輝いていることよ。重ねた年齢が一本一本の皺に現れていて、それが何とも美しい。

 昼食、釜揚げ饂飩、味噌巻繊汁。

○Keith Donald THE CALM AFTER THE STROM; Watershed, 1999, Ireland
Keith Donald  メアリ・ブラックのバックなどで活動するサックス奏者のソロ。あまり期待してはいなかったのだが、予想通り、あまりおもしろいものではない。きれいなメロディの曲をゆったりとやっていて、下手に冒険をしたり、テクをひけらかそうとしないところはいいのだが、ちょっと手応えがなさ過ぎるところも無きにしも非ず。モイア・ブレナックがプロデュースで、楽器でもつきあっているので、センスの良さが幸いして「おケルト」になることは免れている。サックスやクラリネットによるエアの演奏は、パイプと共通するところもあるが、なまじ表現力があるために、コントロールが難しいのと、志の持ちようが問われることになる。この人はコントロールはまず及第点だが、志操の高さが不足。

 夕食、キャベツの千切り、味噌巻繊汁、シラス卸、ご飯、チョコレート・ケーキ、コーヒー。

 Kが内臓についた脂肪を落とすには食事の始めに千切りキャベツを一個の四分の一ほど、十分ぐらいで良く噛んで食べるのがいい、と本で読み、実践する。

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