■6月19日(土)晴れ
■砂とスモッグの街、ソウル…
昨夜あたふたして疲れていたのか、9時すぎに起床。
今日はちょっと特別な日だ。前から見たいと思っていた、歌手イ・スンファンのライブコンサートに行くことにしているからだ。彼はライブの帝王と言われるほど(人間自体も「王子様病」と言われているが…^^;;)、コンサートの演出や映像に凝ることで有名で、今回も「オリンピック体操競技場」という国内最大規模のホールで行われるライブだ。

11時に部屋を出て、江南に行くバスを拾うべく通り沿いに歩く。ソウルはご存知の通り中心を流れる漢江(ハンガン)を境に、北は古くからの市街地、南はここ20年くらいで開発された新しい市街地に分かれる。私の住む麻浦区を含む旧市街は細い路地や古い民家も多く、特に鍾路なんかは何となく古いビルが多くてごたごたした雰囲気もあるのだが、一方江南に入ると高層ビルや高層アパートが林立、まさに林のように立ち並んで一瞬、東京以上の未来都市感覚に襲われる(とはいっても、こじゃれたビルの地下に「沐浴湯(銭湯)●●湯」なんていう看板が立っていてずっこける、ていうのが大抵のパターンなのだが)。
考試院の前の道路は地下鉄工事の真っ最中で、車道のほとんどを掘り返して朝から晩までがんがんとトラックやクレーンが行き来している。歩いていても砂ぼこりはひどいし、足場は悪いし、道は混むしで、正直、体調はいいものの時々鼻や喉が痛い。ソウルに住み始めて、工事現場に限らず、普通の舗装道路も何となく砂でじゃりじゃりしていて、変な話だが何だか砂の多い町だなあ、と改めて気がついた。これももしかしたらユーラシア的?に中国からの黄砂の影響が大きいのか、あるいは単にいつでもどこでもがんがん作ったり壊したり掘り返したりしているからだけなのだろうか。

■外国人のための街
いきなり地下鉄の話になってしまったが、今日はその地下鉄工事現場まっただ中のバス停でバスを待っていた。ソウルの路線バスは、バスの前に路線番号と経由先がびっしりと書いてあるので、バスがやって来たら遠目でそれらを素早く解読して自分が乗れる路線なのか判断し、そうと分かったらバスまでダッシュして乗る意志を示さなければいけない。なにしろどこの道路も混んでいるのだから、お行儀良くバス停正面なんかにつけていられない。乗せられるときに乗せ、降ろせるところで降ろす。
江南方面行きのバスはなかなか来ない。結局20近く待って、目的地の狎鴎亭(アプクジョン、本当は鴎の区が區)から一つ前の新沙(シンサ)駅行きのバスに乗り込む。
このバスは、漢江沿いに韓国軍の参謀本部、戦争記念館、米軍キャンプ、梨泰院を通って江南への橋を渡る路線だ。ごたごたした商店街を抜けると急に視界が開けて、モニュメント状の建物や大きな(本当に大きい!)兵士の銅像やらが見えてくる。道路の左側が戦争博物館と退役軍人のための施設など、右が参謀本部だ。博物館の敷地には団体見学の小学生達が歩いたり写真を撮ったりしている一方、参謀本部は入り口から延々と深い森が続いている。米軍キャンプは日本で見かけるそれと同じだ。韓国では一般でも兵役制度があるし、街でも迷彩服を着た定期訓練帰りの人たちを見かけるが、こういうところに来ると、改めてこの国が「職業軍人のいる国」だど実感させられる。軍隊の存在の是非論はまた別としても…。

■「風呂屋で観る展覧会」って…?
新沙駅から地下鉄3号線に乗って狎鴎亭駅で降り、またバスに乗って「ギャラリア百貨店」前でおりる。高級輸入品を扱うので有名なこのデパートは、江南のお金持ちの奥様方…「ミッシー族」と言われているが…ご用達の店だ。日本の「シロガネーゼ」みたいな存在と思えば大体当たっているだろう。デパートの周辺にも20〜30代向けの高級ブティックやDJクラブなど最先端の遊び場が揃っている。ちょっとギャラリア新館のDCブランドフロアでも覗いて行こうと思ったが、時間がないので、東側のギャラリー街に向かって歩く。このあたりは、仁寺洞と並んでギャラリーが多く、新しいアートスポットと言われている。今週一杯街の名前を取って「チョンダム美術祭」というギャラリー街のイベントがあるというので、今日はここまで来たのだった。
いくつか通り沿いの画廊に入ってみる。困った、面白く感じない!各ギャラリーが意気込んで作品を出してはいるのだが、みんな80年代までの「元老作家」たちの回顧展で「売り線」の作品ばかり。夕方のコンサートまで、この辺で時間を潰そうと思っていたのだが…。
しょうがなくギャラリアの方に戻りかけたとき、1枚のポスターが目に付いた。「モギョクハムニダ(お風呂やってます)」というコピーと、たくさんのお風呂道具の写真で構成されたポスターは、弘益大学彫塑科のゼミ生による展覧会で、風呂屋の建物を丸々使ってインスタレーション展示をするという企画とのこと。
「面白そう!よし。これに行ってしまおう!」
とは言うものの、会場は仁寺洞に近い安国駅のそば。また3号線で江北まで7、8駅は戻らないといけない。でもまだ時間があるし、それに展示は今日までとのこと、ここでだらだら時間を潰すよりは行ってみたほうがずっといい。
慌てて狎鴎亭駅に戻って3号線に乗りこむ。安国駅に降りてから、会場が分からずに長い時間歩き回った。仁寺洞のギャラリー街側ではなくて、反対側の住宅街の路地の裏にその「チェドン湯」があったからだ。一歩中に入ってみると、相当がたが来ている風呂屋のようす。どうも、この展覧会の直後から改築に入るというタイミングで、それで学生たちもここを借りることが出来たらしい。
1階が女湯、2階が男湯として使われていたらしい。脱衣場のシャンプーを売る棚に垢すりタオルで作られたぬいぐるみがばか丁寧に陳列されてあったり、ジェットバスの吹き出し口を利用した噴水が作られていたり、サウナ室に熊(本当にはく製みたいに精巧な…)が棲んでいたり、理髪台に牛の理髪師(これもはく製もどき)がはさみを持って立っていたり…、と、どの作品もなかなかインパクトがあって面白い。日本も韓国も同じ銭湯文化を持っている国だが、「お風呂=人間の生理の象徴」というコンセプトのもとに、そのあたりをチクチクと刺激してくる展示になっていると感じた。
さっきの江南のギャラリーよりも、こうした若い作家たちのやりたい放題な展示を観たほうがずっと面白いや。こうしてポスターを頼りに面白い展覧会を見つけられるのも、現地に住んでこその醍醐味なのだろうと思う。

展覧会「モギョクハムニダ」のポスターと会場の風呂屋
■「コリアン・クリエイティブ」の神髄!?イ・スンファン コンサート
時計を見たらもう5時だ。そろそろ地下鉄に乗らないとコンサートに間に合わない。安国駅から3号線、隣の鍾路3街駅で5号線に乗り換えてオリンピック公園駅を目指す。5号線は金浦空港から鍾路のような市街地の中心を通ってまた江南に入り、市の東端まで繋がるとても便利な路線だ。車内でFMラジオが受信できるのも私には非常に有難い(笑)。混んだ車内でラジオを聴きながら時間を潰し、30分以上電車に揺られてやっとオリンピック公園駅に降り立った。
大きな広場に出ると、たくさんの人が競技場の前で列を作っているのが見える。前庭ではツアーのTシャツを売ったり、携帯電話のキャンペーンをやっていたりと、まるでお祭りのような沙汰だ。そんな中でも、警官が会場の周囲や出入口で警備をしているのが韓国ならではかもしれない。
競技場に入ると、まずその広さに驚いた。ステージのため一部は座れないとしても、座れる範囲だけでも8000人は入れるだろう。よく見ればアリーナの椅子は普通のスタッキングチェアだし、本来の客席とアリーナを繋ぐ坂のように設置された仮設スタンドの座席も2階の席も、決して立派とは言えない。でも、目の前の銀色に光る大きなステージと、次々と入場するファンの気合の入った目を見れいれば、そんなこと気にもならない。
コンサートは4組のオープニングアクトで始まった。韓国では、ある程度以上の規模のライブではオープニングアクトが設けられることが多い。「前座」なんて言ってしまえば身も蓋もないが、なかなかテレビで紹介される機会のない新人たちに接することの出来る大事な機会だ。こういうステージがきっかけでファンがつくというケースも多々あるようだし。
…真打ちのイ・スンファンのステージは、もう文章に出来ないくらいの素晴らしさだった。歌唱力と曲、またバックバンドの演奏はもちろんだが、とにかくライブとしての演出が予想以上に徹底したエンターテインメントだったのだ。
ステージでは、ダンスあり、曲芸あり、本人やギタリストの宙乗り、花火や炎まで駆使、合間に流れる映像も、このツアーのために新たに作られ、一本一本がショートフィルムとしても十分楽しめるものになっていた。
日本でもそうかもしれないが、コンサートというのは決して音の問題だけでなく、舞台装置、演出、映像、特殊効果、衣装デザイン、配付物やプレミアのデザインなど、あらゆるクリエイティブ分野が動員される総合芸術とも言えるだろう。そういう意味では、このイ・スンファンのライブは、まさに「コリアン・クリエイティブ」の最先端は今ここまで来た!と言っても決して言い過ぎではない、と感じている。


イ・スンファンのコンサート会場に出現したスンファンぬいぐるみ。本人に似ているかは何とも言えない(苦笑)

開演直前のオリンピック体操競技場風景
ファンたちの盛り上がりも、今までの韓国でのライブ会場では体験したことがないものだっだ。韓国では以前はライブ観覧時の規制が厳しかったようで、基本的には座って観覧、せいぜいアンコールからやっと立ち上がるのが普通だ。しかし今日は大違い、オープニングの3曲まではおとなしく座っていたものの、最初のMCでスンファンが「今日はみなさん正気を忘れる日です!」と煽ってからはいきなり全員総立ちで、最後まで全曲一緒に大合唱、私も当然それに倣った(笑)。
しかし、イ・スンファンのライブは、時間が恐ろしく長いことでも有名なのだ。オープニングアクトの開演が6時30分、スンファンのステージが7時開演…。ライブの冒頭でスンファンが「今日は、みなさん終電を気にしてはいけません!」とも叫んでいたが、アンコール前の曲が終わって何気なく時計を見ると、なんと10時を回っているではないか!この時点で、本当に時間切れで帰ってしまう人もそろそろ現れだした。そこから10分、最初のアンコール、下がってまた10分、2回目のアンコール、メンバーが下がって今度こそ会場も明るくなりかけたと思ったら、大型モニタに楽屋からステージに出ていくスンファンが映り、それを見たお客さんがまた会場に戻りだす!そんなこんなで、最後はみな席を立って舞台に駆け出し、警備の警官(少なくとも100人は動員されていただろう)に制止される一幕もあったくらいだ。
今度こそ本当にライブが終わって、公園駅に付いたら11時、終電でなんとか帰り着けると思っていたら、途中で終点になってしまった!一つ向こうのコンドク駅まで行ってくれれば、例の地下鉄工事道路を通って歩いて帰れたのに…。考試院の門限は1時、それまでに帰らないとシャッターを閉められてしまう。結局、同じく途中で電車を降ろされて途方に暮れるライブ帰りの人たちに混じって、タクシーを拾うべく遅くまで右往左往してしまったのだった…。


<今日のおすすめ韓国関係Webサイト>
ソウル地下鉄公社
日本で言うところの営団地下鉄みたいな、「ソウル地下鉄公社」。路線図や運行間隔、遺失物情報検索などもあり、私も外出時の交通の確認に良く使っている。

Dream Factory
イ・スンファンが主催するスタジオ&アーチスト集団「Dream Factory」のサイト。トップのアクセスカウンターの数値に取りあえず驚かされる。現在はイベント紹介とニュース集、写真集とファンサイト紹介くらいしか内容がないので、早く充実させて欲しいところ。

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