「第50回 指導と評価大学講座」大特集!
島原先生の参加記録です。ML 教育情報 Magazine/ある小学校教師の独り言より
■ 平成20年7月28日(月)〜30日(水) ■ 日本教育会館(東京:神田)
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◇講義1 新教育課程と教育の課題 辰野千壽(応用教育研究所所長・元上越教育大学長)
■ これからの教育
1 確かな学力の形成
(1)基礎的・基本的な知識・技能の習得
(2)思考力・判断力・表現力等(活用する力)の育成
・ 動機づけ→獲得→保持→学習効果の転移を考える
「意欲づけ」と「転移(教科を超えて・生活の中で)」
(3)学習意欲の向上と学習習慣の確立→家庭で
2 豊かな心の育成
・ 道徳教育…まず担任が自分の学級内で→学校内へ→家庭や地域へ
3 健やかな体の育成
・ 食育の充実がポイント
■ 教育の今日的課題
1 学力向上のための方策…教師の指導力と子どもの学習力のマッチング
(1)基礎学力の重視
・ 経験主義,体験主義の見直し‥‥かつての「はい回る学習」,系統主義とのバランスが必要
・ 総合的な学習の時間の充実‥‥計画的な指導,教科学習との関連づけ(合科)を。
(2)個に応じた指導の重視 → 教師の指導力(授業力)の重視
・ 習熟度別指導,補充的な指導,発展的な指導の適切な活用
・ 教師の役割の見直し(指導と支援のバランス)→教師の指導力が問われる。
(3)学習意欲と学び方の重視 → 子どもの学習力の重視
・ 「自ら学び,自ら考え・・・」のおなじみの文言をどうとらえるか。
(4)学力調査・統一テストの重視 → 教育的責任の重視
・ 自分の学校は学力がついているのか?‥‥結果責任を果たす。
(5)教師の地位向上
・ 専門職としてふさわしい待遇を。
・ 社会人登用の問題 → できることとできないこと
2 今日の教育の問題点…行動理論を軽視し,認知理論に走りすぎ
(1)個性の誤解
・ 個性には望ましい個性と望ましくない個性がある。
・ 個性は「社会の中で形成される」ことを忘れて,子どもの現在の個性をすべてよいとし, わがままや利己主義を認め,独善的なことや非社会的なことさえ個性のあらわれとして容認 する傾向
(2)適応理論の誤解
・ 欲求の充足は善であり,欲求の阻止は悪であると考え,欲求不満を生じさせない過保護な しつけや甘い教育
・ 困難への耐性が不足
・ 楽しい授業のはき違え → 子どもに迎合した授業になっていないか
(3)自発性・自主性の誤解
・ 子どもの自主性・自発性・自由をはき違え,過度に重視する → 教師の指導性の低下
・ 教師の指導を軽視し,学習者中心主義の指導へと傾斜する。
(4)「子どもに学校を合わせる教育」から「学校を子どもに合わせる教育」への行き過ぎ
(5)教育改革の動向
・ 英米仏などでは学力低下が問題となり,個性尊重から画一化の教育へ回帰。
・ ゼロトレランス方式の確立(米国)→97年クリントン大統領:秩序の乱れから「寛容性 を認めない」教育へ。日本で言う「教育的配慮」無用論。校則破りは即,罰則
3 子どもの学習力
(1)自ら学ぶ力の育成
・ 自己制御学習
学習過程を自分で統制,制御する。学習目標の達成を目指し,目標設定,方略設計,自己 監視,自己評価,自己調整などのメタ認知的活動を行う。
・ 自己制御学習のステップ(チマーマンら 1996)
ステップ1:自己評価と自己監視→学習者が自己のレディネスを理解し,何ができるか判 断する。
ステップ2:目標設定と方略設定→具体的学習目標を設定し,それを達成するための方略 を立てる。
ステップ3:方略実行と監視→計画した方略を実行し,それを自己監視する。
ステップ4:実行結果の監視→結果が学習結果にどのように影響したか調べる(自己評価)
・ 効果的な学び方
PQ4R法(トーマスとロビンソン1972)/下見をする→設問する→読む→熟考する→復 唱する→復習する
4 「学び方」の学習‥‥どのように身につけさせるか
(1)学び方の学習の意義
確かな学力の向上を目指す。現在及び将来にわたっての学習習慣
(2)学び方の指導 低学年のうちから身につけさせる。
・ 条件付け‥‥学習の習慣化,同じ時間に同じ場所で毎日学習する。
・ 模倣(モデリング)‥‥よい手本を示す。
・ 知的理解‥‥学び方の意義・役割について理解させる。
・ 意図的努力‥‥行動的契約法/不適切な行動をした場合の約束を決めておく。
5 学力調査のあり方
(1)意義と役割
・ 目的‥‥教育の改革,改善を図る。
・ 役割‥‥個人や学校全体の成績を向上させる/矯正指導が必要な児童を明らかにさせる/ 資金(学校予算)の配分決定のため
・ 影響‥‥(効果)援助を必要とする児童を助ける/指導法の改善に資する/学力向上
(問題)結果の最低水準に焦点を合わせる/テスト教科のみ重視/測定しやすい 観点重視/テストが目標になる/得点をあげる方策をとる/競争意識を招く
(2)学力調査の問題点
・ 結果をどう生かすか‥‥教育課程全体に生かす。
・ 妥当性,信頼性の検証‥‥標準化されたテストを。
注:講義内容をわかりやすくするため,一部ですが前々回の辰野先生の記録を交えてあります。
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◇講義2 学習指導要領改訂のポイント 安彦忠彦(早稲田大学教授・中教審委員)
1 学習指導要領改訂の背景
(1)日本の歴史的位置の変化:キャッチアップした国の教育=「思考力」重視
・ 日本が先進国と同様に他国のまねをするよりも,自ら創り出す経験が必要な時代に入って た。
(2)日本社会の教育力の衰退:社会全体を取り込んだ教育の回復・再生
・ 家庭や地域の教育力がなくなってきたことを危惧し,社会全体の教育力の回復
・ 再生が必要な時代→これは政治家の仕事
(3)日本の学校教育の国際比較上の変化:OECD/PISAの学力観と学力低下傾向
・ 2003,2006の OECD/PISAの学力調査で学力の低下傾向が見られた。主要国と同様,その 学力を採用せざるを得ない状況を鑑み,低下傾向に正面から歯止めをかける必要に迫られた。
2 学習指導要領改訂の方向性
第4期中教審答申から,改訂の方向を読み取る。〈この答申からは「個性」という言葉が消えた〉
(1)改正教育基本法への依拠と「生きる力」の理念の継承
○ 新教育基本法及び新学校教育法の趣旨にしたがい,しかも現行学習指導要領を継承
・ 義務教育,道徳教育の重視=「個性教育」よりも「共通教育」を重視
→しかしながら「教育振興基本計画第3章(2)」には,「個性を尊重し,個々の能力を伸 ばし・・・」という記載がある。
・ 「生きる力」の理念の継承…「方法・方策」を改善。学校の特色ある教育課程編成
・ 従来の学校種別から義務教育9年間の目標とした。〈第21条〉
(2)知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランス重視
○ 基礎的・基本的な知識・技能の習得,その活用,そして両者に基づく主体的な探究
・ 全国学力・学習状況調査に見る知識・理解と思考力・活用力との高い相関
・ 活用型学習(習得の発展として)を媒介とする最終的な目標(探究学習=総合的な学習の時 間)
・ 確かな学力を確立するために必要な授業時数の確保
→「思考力等」を育成するための時間=学んだ知識・技能を活用する。
・ 学習意欲の向上や学習習慣の確立
→生活習慣・学習習慣(家庭学習)による意欲の下支え
(3)豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実
○ 徳育・体育の充実強化
・ 道徳の時間は「要かなめ」,体育の時間は「増」
・ 社会人活用の強化と「道徳臭く」しない留意が必要
→道徳の教材づくり,各教科との役割関係〈「指導計画の作成と内容の取り扱い」の「1.作 成にあたっての留意点」を熟読のこと〉
3 新学習指導要領のポイント
*第4期中教審答申に示された教育内容の「主な改善事項」が学習指導要領にどう具現化されか。
学力観の規定…30条の2項(3つを規定し,そのために(1)〜(7))
(1)言語活動の充実
○ 国・数・外の時間増,各教科等での言語活動(記録,説明,論述,討論など)の重視,コ ミニケーションや感性・情緒の基盤としての言語活動重視
・ 子どもの生活,学習全体の「基盤」として重視=「人間としての基礎」の一つ
(2)理数教育の充実
○ 国際的な通用性,内容の系統性,小中の円滑な接続を踏まえた内容の充実,実生活に結び いた学習(科学リテラシー)
・ OECD/PISAの求めるものは実生活に結びついた学習
・ らせん反復学習と論理的表現力
(3)伝統や文化に関する教育の充実
○ 国や郷土の伝統や文化の継承と発展,古典・歴史・唱歌や和楽器・日本美術・武道などの 充実
・ 国際社会で活躍する日本人の育成
・ 偏狭で未熟な民族主義・国粋主義にならず,他国の伝統文化も尊重する「自己相対化」 できる日本人の育成が重要
(4)道徳教育の充実
○ 道徳の時間は「要」,発達段階に応じた内容や体験活動,友人の生き方・自然や伝統と文化, そしてスポーツなどの感動的な教材
・ 社会人との協働を促進
・ 各教科等における道徳教育のあり方,実社会の規範意識の向上を図る必要がある。
(5)体験活動の充実
○ 社会性・人間性・知性を育む。
・ 集団宿泊活動や自然体験活動(小学校)職場体験学習(中学校)の重点的推進と活動期 間拡張
・ 子どもの体験活動はまず土曜日を活用,ついで学校内で重点的に強化
(6)小学校段階における外国語活動
○ 語学教育ではなく積極的なコミュニケーション活動と言語・文化を通しての国際理解のた め。
・ 週1時間では語学教育は無理,国際理解の初歩となるコミュニケーション活動中心
・ 中学校での英語教育への準備としては「英語嫌い」にしないことが大切
(7)社会の変化への対応の視点から,教科等を横断して改善すべき事項
○ 教科の改編はない代わりに教科内容の改編を行うべき部分
1)情報教育…特に携帯について新規に導入,情報論理教育の重視
2)環境教育…従来以上に「持続発展教育ESD」の観点を重視
3)ものづくり…図工,技術,総合などでいっそう強化する方向
4)キャリア教育…小学校から職業人になることの理解と楽しみを
5)食育…肥満,やせすぎ,小児糖尿病など,生活習慣への留意
6)安全教育…学校・地域・家庭が分担連携するシステムを
7)心身の成長発達についての正しい理解…エイズ予防への関心を高める。
4 おわりに
* 「思考力」の育成のため「考えさせる」時間が必要である。時間数増を生かす。
→「個人で考え」,「集団で考え合い,論じ合う」という機会の活用とそのための授業時数増の活 用
* 「持続発展教育ESD」の強化が留意すべき唯一の新しい視点
→今回の改訂で唯一新しいこと
→国連を中心と知る環境教育(ユネスコ・スクール)をリードする方向で実践を。
* 「社会全体による」学校教育の再生・復活を。社会へ向かって呼びかける。
→元来は政治家の役目だが,教師が呼び水を与えてその機会を設ける。教育の全体整
備を訴える。
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◇講義3 教育評価の基礎・基本の徹底 石田恒好(文教大学学園長)
1 教育とは
教育にはすべて目標がある。教育はその目標を実現する営みである。
P→D→S P→D→C→A→O
2 教育の目標とは
学習指導要領で示されている。学力は学習によって獲得された能力といわれているが,教育に よってその内容・目標実現している状態とも言える。
3 教育評価・教育測定そして評定
(1)教育測定とは
観察やテストによって事象(状態)を明らかにし,数量的に表す操作…テストの点数と考えると わかりやすい
(2)評定とは
観察やテストによって事象(状態)を明らかにし,あらかじめ設定した基準に従って点数や記号 等を付与する操作
・ 点数や図式,記述などで評定結果を示す。
(3)教育評価とは
教育による目標の実現状況を明らかにし(測定),それに基づいて教育(教師の指導,児童の学 習,管理職の学習環境の整備や管理運営等)が目標の実現のために機能しているかを値踏み(評価, 反省,チェック)をし,不十分であれば機能するように改め,教育をし直し,目標の実現を目指す ためのものである。
* 評価と評定の違いをはっきりと認識することが大切。
〈例〉道徳の評価はしない(誤)/道徳は評価はするが評定はしない(正)
(4)教育評価の目的
・ 反省と改善
教師:自己の指導について/児童:自己の学習について/管理職:学習環境,学級編制など について/行政:教育予算やカリキュラムなどについて
・ 目標の実現
教師:指導のし直し/児童:学習のし直し … 目標が実現してこそ終了
(5)教育評価の手順
・ 評価目標(測定目標)の設定…共有する
指導目標から抽出して設定する。
目標を具体化する(目標分析)→その中からもっとも信頼できる測定目標を抽出する。
・ 評価資料の収集(教育測定)
測定技術の確立→評価の信頼性
・ 資料の解釈
評定(評価)規準…評定(評価)のよりどころ
規準…目標というよりどころ
基準…評定のためのよりどころ 目標基準/集団基準/個人基準
2 指導と評価の一体化
短期的評価と基礎・基本の徹底
目標→計画1(P1)→実施1(D1)→評定1(S1見とり,チェック,改善)→計画2(P2)→実施2(D2) →評定2(S2実現の確認,成績)
(1)指導目標の具現化―完全習得学習から―
・ 単元を単位として毎時ごとに
・ 観点別に
(2)指導1・計画1(P1)→実施1(D1)
・ 多くの児童がわかる,できる計画
・ 指導法の工夫…一斉指導や少人数指導(等質・異質)
(3)評定1(チェックと改善)
・ 目標の実現状況を見とり,次の指導についての資料を得る。
・ 測定目標(規準)の設定…指導目標から抽出して設定
・ 測定技術の選択,作成,実施…測定目標に適した技術がある。
・ 資料の作成と解釈…採点等で処理,集計した結果を,評定基準により評定を行う。見とり は3段階以上がよい。
・ チェック,改善して次の指導へ。
(4)指導2・計画2(P2)― 実施2(D2)
・ 目標の実現状況に応じて,改善した指導・学習のし直しを行い,目標の実現を果たす。
・ 少人数指導…習熟度別指導を実施
・ 複数の指導者…TTを実施
(5)評定2
・ 目標の実現状況を確認し,成績(評定)の資料とする。
・ 測定目標(規準)の設定…評定1に準じて設定
・ 測定技術の選択,作成,実施…評定1に準じて行う。
・ 資料の作成と解釈,成績の付与…評定1の評定基準で評定を行う。成績に基礎資料として は,評定2は2段階で行うのがよい。
(6)教育・心理検査の活用
・ 長期的評価と学力の向上・評定の保証
・ 知能検査,学力検査,適性検査など
・ NRTとCRT…学力水準の確認,学力向上対策の検討,評定の妥当性の検討
(7)情報の整備
・ 公開,開示に備え,説明責任を果たせるだけの情報を整備,保管する。
・ 指導に関するもの…指導計画や実施報告(週案)
・ 評価,評定に関するもの…指導要録補助簿,通知表,指導要録など
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◇「価値と自己の生き方を育てる道徳教育」 諸富祥彦先生(明治大学教授,臨床心理士)
1 「自己の生き方を育てる」とは?
(1)新学習指導要領での道徳教育
・ 「道徳的価値」に基づく「自己の生き方」
道徳的価値→普遍性に基づいた価値
自己の生き方→個を大切にする道徳教育
*個を大切にするばかりではなく,普遍的価値を基盤とした「個」の形成
個性(わがまま)だけを優先するものではない。常識を身につけた人間づくり
(2)「自己の生き方」
・ 道徳,総合,特別活動,キャリア教育,生徒指導,教育相談をつなぐ1つの輪」になりうる 理論
2 なぜ「自己の生き方」なのか
・ 現在の学校では,それぞれの時代に育った子が保護者になっている。
…山口百恵型,松田聖子型,宇多田ひかる型の母親
・ 時代の変化…それに対応する「生きる力」が求められる。
・ 近未来に対する理想や希望がない…ほんとうにしたいこと,なすべきことは何か?
・ 生きる理由が見いだせない
…つらくても○○があるからがんばれる,○○のためにがんばっているんだ。
・ 感動の道徳を学期1回は実践してほしい…教師の感動体験をぶつける。
・ 道徳の時間だけでなく,総合・特別活動などすべての教育活動を通して。 →「道徳教育」
・ 幼稚園保育園での自由保育が一因?
3 今,道徳教育に求められるもの
(1)資料の充実
・ 時代にあったものを。アナクロから抜け出す。
・ フィクションでは通用しない…高学年では作り話が通じにくい。
・ ノンフィクションの資料…TV「道徳ドキュメント」は有効。大人でも感動できる資料を。
・ 重要であるが,取り組まれていない→「畏敬の念」
(2) 指導方法の多様化
・ 「道徳的価値の自覚」に重点を置いた指導法…昔から変わらない。指導方法の工夫を。
・ 「個の確立」「自己の生き方」に重点を置いた指導法…エンカウンター・モラルジレンマ
モラルジレンマ…低い認識の子と高い認識の子を混ぜたグループで話し合いさせる。
・ ワークシートの利用…書く量を減らし,考える時間を大切に。「書かせることで安心」はだめ
・ モラルスキルトレーニング…授業でやったことを長続きさせる。「心情」はあるが行動できな いという例 →実践スキルをロールプレイする。できた場合とできなかった場合の両方を。
4 「自己の生き方」の危険
・ 個人主義に偏重しないよう。
・ 「書く時間」に偏らないよう。
・ 「自己の生き方」と「道徳的価値」の自覚…ダイナミックな相互作用
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◇「学校経営と保護者とのかかわり方」 野口克海先生(大阪教育大学監事)
1 公立義務教育学校の3つの使命
地域で教育(子どもの地べたで)/公平性を保つ(人権教育)/多様性に応える(すべての児童・家庭)
2 学校経営―3つのマネジメント
(1)カリキュラムマネジメント
・ 教育目標(スローガン)
教師の合い言葉,子どもの合い言葉→「やったるで!」から「やったったで!」
・ 静と動の授業…授業のテンポや緩急,間など
「静」:わかる授業→真剣に聞く,静かに考える
「動」:楽しい授業→積極的に発言,発表
・ 学級集団づくりは学級開きの日に決まる
(2)組織マネジメント
・ 学校には執行部が必要
・ 評価は元気が出るために行う
・ 人間が好きだから…保護者対策
「先手必勝」→問題が表面化する前に保護者に対応〈説明〉→理解してもらえる。
問題が表面化してからでは〈いいわけ〉→理解してもらえない。
*学校評議員制度‥‥地域の有力者ばかりではよくない。学校の重点目標に応じて委員を選ぶ。
(例)不登校をなくしたい→そういう人を選ぶ。任期は1〜2年
・ 教職員全体の経営参画意識
すべての教職員が自分のこととして考える。
(3)リスクマネジメント…「危機」とは「子どもの危機」
・ 子どものリスク…子どもを中心に考える〈学校の体裁ではなく,子どもを守るため〉
・ 5つの「子どものリスク」
1) 子どもと子どもの間で起こる危機‥‥いじめ,恐喝
2) 子どもと教師の間で起こる危機‥‥体罰,セクハラ
3) 導の中で起こる危機‥‥体育時の事故,施設管理不備 90%以上は防げる。
4) 親と子どもの間で起こる危機‥‥虐待,家出 →チェック体制,予防体制
5) 地域と子どもの間で起こる危機‥‥誘拐,交通事故,不審者
(4)危機が発生したときの3つのポイント
・ 初期対応に全力をつくす→その日のうちにすべてを。適切な対応ができるよう,日頃から有 事を想定した訓練を。「うちの学校でも起きる」
・ 責任体制を明確に→逃げない
・ 隠さない,公開する。
・ 危機意識がないのが危機
まさか,うちの学校が・・・
3 余談
野口氏は堺市でO-157事件が発生したとき府教委義務教育課長。堺市教育長辞任の後を受けて事後処理の任を受け,後任教育長に就任する。定年後,園田学園女子大教授・付属中高長となる。この学園はJR西日本福知山線事故現場から2キロのところにあり,学生に利用者も多くいる。この時も陣頭指揮をとって,危機管理にあたった。
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◇「これからの授業をどうつくるか ―習得・活用・探究―」 小林宏己(早稲田大学教授)
■ 新学習指導要領の主旨 ―学習指導に関して―
1 習得・活用・探究の関係
(1)習得型の教育と探究型の教育
・ 対立的あるいは二者択一的にとらえないこと。バランスが大切
(2)「知識・技能の習得」と「考える力の育成」との関係を明確に
1)基礎的・基本的な知識・技能を確実に「習得」させる。
2)こうした理解・定着を基礎として,知識・技能を実際に「活用」する力の育成を。
3)この活用する力を基礎として,実際に課題を「探究」する活動を行うことで自ら学び考え る力を高める。
4)これらは決して一つの方向に進むのではなく,相互に関連しあって力を伸ばしていくもの。
*習得と探究は本来相互補完的な関係であり,活用というプロセスの中に内在しあう。
2 総則の改訂
(1)知識・理解を活用して課題を解決するための思考力,判断力,表現力等の育成
(2)言語活動の充実
(3)学習習慣の確立
(4)伝統や文化の継承・発展,公共の精神の尊重を道徳教育の目標に追加
(5)食育の推進,安全に関する指導の追加
その他,章立ての中に「第4章外国語活動」「第5章総合的な学習の時間」を新設
*学校経営に反映…言葉だけで終わらぬよう,やればよいで終わらないよう
*各教科の改訂内容もきちんと理解しておく。
■ 授業,学習指導の現実が陥りやすい問題点
1 「流行」語を型にはめ,授業をパターン化する。
(1)「指導はいけない,支援こそが大事」
・ 支援と放任が峻別されていない。指導すべきは指導,支援すべきは支援
(2)「体験・活動を重視しなければならない」→「ねらい」との関係から考えるべき
・ 作業主義…とにかく何かやればいいのだろう→何かさせておけばとりあえず安心
・ 効率主義…時間がかかってめんどうだ→やりたくない,さっさと済ませよう
・ 結果主義…きちんときれいに仕上げなさい→個に応じているか
(3)「やはり基礎・基本の徹底が必要なのだ」
・ スキル,ドリル学習がルーチンワーク(やらせ仕事)に。ストップウオッチ片手の教師
(4)「これからは教えて考えさせる教育だ」
・「教える」と「考えさせる」を分断させる誤解。両者は一体のもの
2 子どもの思い,考えが後回しにされる
・教師の都合が優先されていないか…「教科書をしまいなさい」そこから先の授業をどうつく るか?
・子ども一人ひとりの経験,意欲,つまづきなどをとらえようとしているか?個を見取る
■ 教師が子どもとともにつくる授業
学びが成立するとき,そこでは必ず何かが「活用」されている
1 子どもが問いの前に平等になれる授業→スタートラインがみんな同じ
例:「バスには鏡がいくつありますか?」→教師は答を知っている。
生活経験に根ざす予想…誰もが答えをもてる
2 教師も子どもとともに,問いの前に平等になれる授業→教師も答を知らない。
例:「大仏の開眼式に農民は参加できたのかな?」
杞憂知識に照らして,子どもはもちろん教師も考えこむ。ともに追究する。
*工夫のしどころを教師は押さえておく。指導のねらいから「こういうふうにさせたい」
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◇「教えて考えさせる授業」のあり方 ―定着・進化・活用をどう促すか―
市川伸一(東京大学大学院教授:中教審臨時委員)
1 「新しい時代の義務教育を創造する」〈2005中教審答申〉…学力低下論を超えて
・ 学校力,教師力の強化により,人間力を育成
国による基盤整備(インプット):学習指導要領→分権改革(プロセス):人事,学級編制→国 による結果検証(アウトカム):全国的学力調査
2 「習得」と「探究」の学習
(1)学習の2サイクルモデル
・ 習得サイクル→目標とする知識・技能の獲得
・ 探究サイクル→自らの関心に沿った探究活動
(2)中教審答申
・ 習得型の教育→基礎的な知識・技能の育成
・ 探究型の教育→自ら学び自ら考える力の育成
3 基礎学力はどう保証するのか
少ない授業時間の中で,どの子にも基礎学力をつけるには
(1)教えて考えさせる授業
(2)家庭学習を含めた学習スキルの育成
学習法講座…予習と復習の習慣と方法
(3)授業外の学習支援システムの充実
学習相談室の設置 自治体による補充・発展学習機関の設置
4 「教えて考えさせる授業」の提案
(1)「教えて考えさせる授業」
・「詰め込み」「教え込み」→旧タイプのわからない授業
・「教えずに考えさせる授業」→新タイプのわからない授業
〈授業の流れ〉 問題提示→自力(共同)解決→確認(まとめ)→ドリルまたは発展
・「教えて考えさせる授業」→予備知識の教授により,理解・問題解決・定着を促す。
〈授業の流れ〉教師からの説明→理解確認課題→理解深化課題→自己評価活動
(2)中教審答申
「・・・・・・教えて考えさせる指導を徹底し,基礎的・基本的な知識・技能の習得をはかる ことが重要なことは言うまでもない」→教材・教具の工夫,理解度の把握
5 「教えずに考えさせる授業」の問題点
(1)問題解決学習を目指しているのに,問題解決学習にならない。
・ 先取り学習をしている子,すぐに答えがわかった子にとって,非常に退屈
・ 学力の低い子は自力解決できず,討論にもついて行けない。
(2)基本的事項すら理解できない子どもを大量に生み出す。
・ 教師がていねいに説明する時間がなくなる。
6「教えて考えさせる授業」への誤解
(1)問題解決学習を否定するのか
(2)「教える」が習得で,「考えさせる」が探究なのか
(3)教えて考えさせれば,この授業になるのか
*重要なポイント
・ 「教えて考えさせる授業」は習得サイクルの授業の基本→教えた後には理解確認課題をてい ねいに →説明活動,教え合い,小テストなど→教えた後の理解度チェック
・ 問題解決や討論は基礎知識を共有してから
・ 授業後に内省,質問を促す工夫
・ やがて最初の「教える」の部分を予習活動に移行させる。
7「教えて考えさせる授業」がうまくいかないとき
(1)「教える」ところで十分教えない
・「教える」ことへのためらい/「教える」工夫や技術の不足
・ ていねいにわかりやすく教える工夫とは→対話的な説明,教材や教具の工夫,参加的態度
(2)「考えさせる」課題に魅力がない
・ 迷いや多様なアイデアを誘発しない単調な課題
・ 既有知識からの距離が近すぎる,または遠すぎる課題
(3)理解度のモニターが不十分
・ 診断的質問,説明的活動,教え合い活動で反応をモニター
8 「教えて考えさせる授業」を評価する視点
(1)基礎的知識・技能の「定着」
(2)理解の深化/応用・発展のレベル
(3)学ぶ意欲/興味・関心の高まり
☆★☆★ コメント ☆★☆★
いつもながら的確なまとめには感心させられます。島原先生、ありがとうございました。