(1)JMM [Japan Mail Media] No.574 Monday Edition 2010年3月8日発行
■Q:1101
民主党政権の目玉とも言うべき「子ども手当」ですが、具体的に、日本経済にどのような貢献をすると考えればいいのでしょうか。
■ 北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
日本経済というよりも日本社会への貢献を考えるべきではないかと思います。政府税制調査会専門家委員会の委員長である神野直彦関西学院大教授は、ご著書である『財政学』(有斐閣)のなかで次のように書いておられます。「財政とは経済システム、政治システム、社会システムという三つのサブシステムを結びつけ、社会全体を統合する結節点である」。そして、「財政改革とは単なる財政収支を再建することではない。その背後に潜んでいる社会統合の危機を、解消することでなければならない」と。こういう主張を持つ神野教授を税制調査会の委員長に据える民主党の目玉政策である「子ども手当」の持つ意味は、「社会統合の危機の解消」なのでしょう。
この社会統合の危機を順番に考えていきましょう。まず、日本の財政赤字が巨額に膨らんでいるのは、歳出が多いというよりも歳入が減少しているからです。税収は、最も多かった1990年度の60.1兆円と比べると、2008年度は44.3兆円と、15.8兆円も減少しております。この間、所得税は11.0兆円、法人税は8.4兆円減少しているのに対し、消費税は6.7兆円増えています。こうした歳入の減少は、景気低迷の結果と言われますが、2008年度の名目GDPは、494兆円とまがりなりにも1990年度の451兆円を上回っております。それにも関らず所得税や法人税が減っているのは税率を引き下げた結果です。ちなみに、前述の専門家委員会で委員長代理を務める大沢真理東京大学教授は、社会保障費の財源がないなら、所得税の累進税率と法人税率をともに91年の水準に戻せばいいと言っておられました。
最近、所得税の最高税率の引き上げや、内部留保への課税が話題になりましたが、そのたびに出てくる批判は「取りやすいところから取るのはいかがなものか」というものです。しかし、この20年間の税収入内訳をみると、この批判は当たらないでしょう。むしろ、逃げやすいところからは取れないので、逃げることができないところから取るというのが、1980年代以降の税制の世界的な潮流だったのではないでしょうか。言うまでもなく、その背景にあるのは、グローバリゼーションです。グローバリゼーションの結果、資本移動が活発になります。高所得者や企業は、より有利な税を求めて国境を意図も簡単に超えることができるようになりました。その結果、強者から弱者へという所得分配が困難になり、どうしても国境を超えることができない普通の人間の間での助け合いが中心になってきました。消費税を社会保障に充てるというのは、まさにそういうことでしょう。
一方、このグローバリゼーションの結果、日本の株主構成が変わります。1990年代前半にはゼロに近かった外国人投資家の保有比率が30%近くまで上昇しました。彼らの要求するリターンは、日本株の実績に比して高く、企業は無い袖をふる対応を余儀なくされました。結果、賃金の切り下げ、金利の引き下げ、法人税の引き下げ、を要求することになったわけです。こうしたなか、特に割りを食うことになったのは、若年層です。現在の35歳の所得の中央値は、10年前に比べて200万円ほど、減少しているといわれます(『35歳を救え』(NHK+三菱総合研究所、阪急コミュニケーションズ)。すでに正規社員になっていた世代の既得権が守られるなか、彼らは就職氷河期を経験することになりました。「子育て支援」というのは、その意味で、子育てを終えた世代から、若年層への所得移転と言えるでしょう。したがって、前述のように、政府税調専門委では、所得税の最高税率の引き上げや控除のあり方などを中心に検討が進む見通しです。なお、こうした動きは、日本だけではなく、欧米でも始まっています。グローバリゼーションを背景に崩れた経済システム、政治システム、社会システムのバランスを再構築する動きが始まっているといえるでしょう。
そうなると、国際競争力云々という議論も成立しなくなります。もとより、日本企業がシェアを落としたのは法人税の高さが理由なのでしょうか。湯之上隆さんの『日本「半導体」敗戦』(光文社)は、非常に示唆に富む本でした。彼は、日本の半導体メーカーの競争力が低下した理由を同書のなかで現場レベルから論理的に考察しております。彼の結論は「顧客を無視し、過剰技術で過剰品質、過剰性能の結果、コスト高の製品を作り続けたからだ」というものでした。この本のなかに、「法人税」の話は一度も出てきません。むろん、これは半導体メーカーという一つのセクターだけの話かもしれませんが、何と言っても日本の象徴のような産業ですから、それなりに一般化してもよいのではないでしょうか。
ところで、「子ども手当」というと、すぐにお金を貰った親がパチンコに行く云々という話が出ます。むろん、そういう親もいるでしょう。しかし、それが決して全てではない。昔、消費税を導入する時も、似たような話がありました。子供が百円玉を持ってお菓子を買いに行ったら3円足りないと言われて泣いたという。そういうことも起こりうるでしょうが、それもすべてではない。私自身は、「子ども手当」は、「子育て」という仕事に対する賃金だと考えております。そして、その賃金を支払うのは、やがて社会人になる彼らによって恩恵を受ける我々納税者全員であると考えればよいのではないかと思います。その点を、民主党が、どう考えているかは知りませんが、子ども手当が貢献するのは、日本経済のみならず日本社会であると考えたいと思っております。
JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一 (以下略)
(2)教育情報 Magazine/ある小学校教師の独り言 Vol.268
[1]教育セミナー〈主催:総合初等教育研究所〉に参加しました
去る2月20日(土),総合初等教育研究所主催,文科省後援のセミナーに参加した。回を分けてその様子を紹介する。
第1回目は,セミナー分科会〈社会〉の様子
◆教育セミナー分科会〈社会〉
3つの実践報告があった。
その中でも秀逸だったのが,3年:農家の仕事
私の関心を引いたのは,「金融教育」の視点を取り入れていること。このことにより,産業を経済の視点から見つめることができる。産業が成り立つことと利益を生み出すことは表裏一体の関係。
消費者教育の観点からも,欠かせない。久しぶりに優れた実践に出会った。
概要は次のとおり。
○授業構想
1.「食育」の視点を取り入れる→地場野菜の地元での消費(地産地消)の教材化
2.「金融教育」の視点から商品価格をとりあげる。→地元野菜の低価格化を教材化
3.「地域への参加・参画」の視点から→自分たちが作った野菜や地場野菜のPRをする活動 を地域の行事を活用してとりあげる。
○生かしたい活用力
・社会…既習事項の発揮
・理科…継続観察の方法の発揮
・総合…野菜栽培で得た見方の活用
○言語活動の充実
・農家で聞き取ったことを農期暦に書き直す。
・学習の成果をポスターに再構成する。
○実践の概要
─言語活動の充実─
・聞き取りで得た情報を再構成してまとめる。→絵地図・一覧表・チャート図など
・地場野菜をPRするポスターづくり→学習を通して得た情報を表現
─金融教育の視点─
・自分たちが育てた大根の価格は?
・産業,経済,消費と深く関わるものの価格への理解と認識
なお,これらの実践は,文溪堂から出版されている「言語力・活用力を伸ばす ─新しい授業づくりを目指して─ 」に詳しく紹介されている。
Vol.269── 2010. 3/ 6 (SUN)◆
[1]教育セミナー〈主催:総合初等教育研究所〉参加記録 その2
続報です。
◆文科省教科調査官の澤井陽介先生のお話から。
社会科の「新観点」である「思考・判断・表現」
調べたことを文でまとめる。調べたことを再構成してポスターづくり。これが「表現」と言えるか?
ポスターづくりは雑多な情報をまとめていく作業。これは「整理」
キーワードは「思考の言語化」
「体験」を言語化するだけでなく,「体験」→「思考・判断」→「言語化」間に「思考・判断」が 入らねばならない。
逆の流れから見ると,子どもたちが「表現」したものから,その子の「思考・判断」を推し量ることができる。これは評価資料としても貴重である。
◆「活用力」について。
近頃たびたび登場する「学校教育法の30条の2項」
「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない」
安彦先生は,「活用力の規定」と読み解くのは誤りで,「学力の3要素」を示してあると言われた。
なるほど,と思う。
学力の3要素は
1「知識・技能」 2「思考力・判断力・表現力」 3「主体的に学習に取り組む態度」
このことはきちんと確認しておきたい。
そして,安彦先生は,「活用力」という言葉は中教審では使っていない,マスコミが使い始めた言葉,とも言われた。
さらに,「活用型の学習」は「習得」と「探究」を媒介。
PISAの学力観と似ている。
学習の過程に「習得」したら「活用」する場を仕組む。これが「探究」につながる。
総合的な学習の時間は「探究」の場,と言われた。
教育課程を編成する上での基本的なこととしておさえておきたい。
(3)知らなきゃ損する!面白法律講座 2010年 3月 1日 第522号
■ 法律クイズ 第196回 【問題】
「17歳同士のカップルでも結婚できる?」
日本では、男性は18歳、女性は16歳にならないと、結婚できません。それでは、満17歳同士のカップルの婚姻届が、あやまって役所に受理されて
しまったとき、結婚は有効に成立しないのでしょうか?
1. 結婚は有効に成立しない
2. 結婚は有効に成立する
□解答□
結婚は、本人同士の合意があれば成立するものです。しかし、民法の定めによると、男性は満18歳、女性は満16歳にならないと、結婚できません(婚姻適齢、731条)。
そのため、満17歳同士のカップルが婚姻届を提出しても、男性が婚姻適齢に達していない以上、役所は受け付けてくれません。
しかし、婚姻届が間違って受理されたときは、結婚は有効に成立します。本人やその親族、検察官は、裁判所に結婚の取消しを請求することができますが(744条)、本人が結婚適齢に達すると、もはや取消しを請求できません(745条、本人であれば、結婚適齢に達してから以後3ヶ月間は、取消しを請求できます。)。
結論 2. 結婚は有効に成立する