(1)JMM [Japan Mail Media] No.582 Monday Edition
Q 米軍基地の存在は、地域経済にどのような利益、不利益があるのでしょうか。
A 真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
普天間基地の移転問題で、日本中が揺れているようです。民主党の鳩山首相の発言が、時に大きく振れているように見えることもあり、政権に対する支持率も下落しています。問題がここまで拗れると、みんなが納得する解を見つけることはかなり難しくなっていると思います。政府のリーダーシップが大きく低下することが心配です。
私は子どもの頃、米軍の海軍基地のある横須賀で育ちました。編集長が指摘されておられる、「金を落としているのが誰か、支配者が誰か、ということに敏感になる傾向」は、感覚的によく分かる気がします。子どもの頃に、毎年一回(米国の海軍記念日だったと思います)、基地が開放され、航空母艦や潜水艦に載せてもらったことをよく覚えています。当時は、航空母艦の大きさや、潜水艦の狭い艦内が、自分の日常からかけ離れていて、そのものめずらしさを楽しんだ記憶があります。
米軍基地が地方経済に与える影響は、色々な要素があるように思います。先ず、プラス面から考えると、基地内で働く日本人の従業員には、雇用機会という大きなメリットがあるでしょう。また、基地に駐留する米国関連のビジネスも大きな要素だと思います。昔、横須賀には、米国人向けの歓楽街や、みやげ物店などが沢山ありました。それらの商売が成り立つということは、米軍基地が、そうした需要を提供していると考えられます。同じように、沖縄の町を歩いていると、米語の看板による多くのステーキハウスを見かけたように思います。それも、米軍基地があることの副産物と考えられます。
一方、マイナス面も勿論、かなりあるはずです。米軍基地は、通常、広大な面積を占めています。その地域を自由に使うことができれば、もっと他に大規模な産業誘致、それに伴う雇用の増大等、より有効に使うことが可能になるかもしれません。また、航空機の離着陸の管制は、米軍の軍用機が優先されると聞いたことがあります。それが正しければ、米軍基地がないとすれば、それだけ民間航空機の発着の自由度が増えるはずです。基地があることは、民間航空機の運用の効率化の妨げとなっている可能性もあります。
こうして考えてみると、米軍基地の存在は、地方経済にプラス面、マイナス面の両方の効果をもたらしていると考えられますが、問題は、経済面だけで考えることができないことでしょう。住宅地の真上を飛ぶ米軍機の騒音や、基地が存在するために、近隣の住民が我慢をしなければならないことは、他にも沢山あると思います。これまで米軍基地が集中する沖縄の人たちが我慢してきたことを考えると、その移設問題が、何とか、人々が望むような方向で解決できることを祈りたい気持ちです。
米軍基地の問題を考えるとき、多くの人が、自分の身近に基地があって欲しくないと思うはずです。一方、自分で自国を守る能力が十分でないわが国は、どうしても、日米安全保障体制に依存するほか、有効な選択肢はないように思います。とすれば、条約にしたがって、わが国が米国の軍事力に、基地を提供することは避けることの出来ない要件になります。今まで、基地が身近にあるというデメリットを沖縄に負ってもらい、日本全体として、そのメリットを享受してきたのだと思います。
しかし、民主党政権の普天間基地の移設問題に対するスタンスが、昨年夏のマニフェスト時点の県外移設から変節していることもあり、人々の合意を取り付けることが難しい状況に追い込まれています。これから、どのような格好で収束できるのか、予想が立ちにくくなっているように思います。色々な意味で、とても心配です。 信州大学経済学部教授:真壁昭夫
(2) Japan On the Globe(646) ■ 国際派日本人養成講座 ■ 〜 母の愛を待つ胎児・新生児
■1.「学校でも大学でも教えていないのは、親になる方法だ」
幼児に暴行を加える児童虐待事件が、相次いで報道されている。生後5カ月の女児を、育児の疲れからイライラし、顔や胸を殴ったり、壁にぶつけたりして、左右の腕と足を骨折させた22歳の母親。
生後1カ月の男児を、泣きやまないのでカッとなって壁に打ち付け重傷を負わせた同じく22歳の父親。
児童相談所が対応した児童虐待の件数は平成20(2008)年度で4万2千件を超え、この4年間で28パーセント増大している。「身体的虐待」「保護の怠慢・拒否(ネグレクト)」「心理的虐待」がその中心である。[1]
英国オックスフォード大学ケロッグカレッジのジェフリー・トーマス学長は、「学校でも大学でも教えていないのは、親になる方法だ。現在の社会はこの親になる教育にもっと関心を向け、親としての自分を向上させることが大切である」という趣旨の指摘をしている。[2,p1]
痛ましい児童虐待の有様を見ると、「親になる教育」の重要性はますます高まっているように思える。
■2.「それまで全く存在しなかったいのちが、新しく私のおなかの中にできた」
動物とは違って、人間は子供を産めば本能的に「親」になれるというものではない。食事を与えるなど、子供の身体的成長の面倒を見ているだけでも、「親」とは言えない。子供の心を成長させ、立派な人間として育て上げることが「親」の役割であり、そのために何をすべきか、を問うのが「親学」である。
親としての役割は、新しい生命が母親のおなかの中に生まれた時から始まる。
受胎後、3週間で胎児は心臓や神経系統ができ、4週間で目や足、5週間で腕が作られ、6週間で歯や耳が作られ始める。耳は8週間で完成するので、それ以降は胎児は母親の胎内で音を聞いている。
9週目の胎児は頭からお尻までが約5センチ、重さが10グラムほど。それが26週目になると、身長約30センチ、体重7百から8百グラムとなる。両手に乗るほどの大きさだが、もうすっかり人間の姿をしている。
平成13(2002)年に発足した親学会の副会長で、小児科医・高橋えみ子さんは、妊婦に胎児の人形を抱かせたり、胎児の姿をビデオや写真で見せている。視覚や聴覚、触覚に訴える内容なので、頭で考えているよりもずっと胎児に対する実感が湧くそうだ。
ある母親が、「胎児の姿に思わず涙が出て、産もうという気持ちを強くしました」と話してくれたこともあったという。
同じく親学会副会長・益田晴代さんは、こうしたいのちの誕生の仕組みと過程を知ることによって、いのちを尊び敬うことができる、と指摘する。[2,p194]
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私は四人の娘を育てましたが、初めて妊娠していることを知ったとき、それまで意識したことのない、不思議な思いにかられました。
「それまで全く存在しなかったいのちが、新しく私のおなかの中にできた」という不思議な思いは、私の経験の中で最も新鮮で輝かしいこととして心を揺さぶりました。
あの思いこそ、遠い過去から伝わる、人類のいのちの尊さと歴史の重さだったのだと実感しました。大自然から女性の体だけに与えられた「受胎」という、新たないのちを体に宿したものだけが感じることのできる、宇宙と一つになったというひと時であったと思います。
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■3.親の愛がへその緒を通じて、赤ちゃんの心に伝わっていく
親と子供の心の交流は、胎児の頃から始まる。
人間の心、すなわち情感や情緒の発達に関係しているのは、脳の前頭葉と呼ばれる部位である事が、脳科学によって明らかにされているが、この前頭葉がもっとも発達する時期が、胎児期なのである。だから、心の発達も胎児の頃から始まっている。
0歳児教育を提唱したソニーの設立者・井深大(いぶか・まさる)氏は、妊娠初期から胎児教育を始めることで、母と子のきずなが深まり、親の愛がへその緒を通じて、赤ちゃんの心に伝わっていくと説いた。この点について、益田さんは自身の体験をこう語っている。
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四女がおなかの中にいたとき、私はよく、「あなたが生まれてくるのをみんな待っているのよ」「がんばろうね」「ママは一所懸命に美味しいものを食べるから大きくなるのよ」などと、言葉をかけました。
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長女、二女、三女の妊娠中にも、それなりの胎教はしていたが、それは良い音楽を聴いて、心を穏やかにするというものだった。四女の時は、意識して、おなかの中の子供に呼びかけた。その結果、四女は愛されている喜びを感じて育ち、すべてを肯定的に受けとめられる女の子に成長した。益田さんはこの経験から、次のような指摘をしている。[2,p192]
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胎児のころから両親が愛を込めて、おなかの中のわが子にコミュニケーションを働きかけることが、胎児の前頭葉の発達をうながします。それが、豊かな心をつくる基の種を植え込むことになって、誕生後、心の中に花がさくことになります。
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■4.「おなかの赤ちゃんに会いに行く」
同じく親学会副会長の小児科医・高橋えみ子さんは、自身で「胎教」の指導をしている。それはやはり井深氏が提唱したように、母親と胎児との心のつながりを作る事を目的としている。
胎児に話しかけると動いて反応を示すので、妊婦は「嬉しかった」「暖かい気持ちになった」「安心できた」という経験ができて、心の安定につながるという。こういう胎教を通じて、生まれる前から赤ちゃんへの愛情が深まっていく。
さらに高橋さんは、母親と父親に対するクラスで、「おなかの赤ちゃんに会いに行く」というイメージ・トレーニングを行っている。
妊婦は楽な姿勢で床に座り、おなかに手を当て、夫は隣か後ろに寄り添い、妻と手を重ねる。部屋を暗くして、目を閉じ、ゆっくり深呼吸する。子宮の中の音を録音したCDをかけ、高橋さんは心をこめて語りかける。[2,p39]
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さあ、これから子宮への旅に出て、あなたの赤ちゃんに会いに行きましょう。そこは静かな海の中、暗くて暖かくて安全な所、聖なる場所です。
もうすっかり人間の姿をした赤ちゃんが眠っています。お母さんの血液の流れや心臓の音が聞こえています。赤ちゃんはじっと耳を傾けていますよ。
「私がママよ」「僕がパパだよ」「パパもママもあなたをとっても愛しています。大事に大事に育てますから無事に生まれてきてくださいね」。
どうぞ、あなたの心の声で話しかけてあげてください・・・ 今、パパとママと赤ちゃんの心は一つです。とても幸せな時間です。
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瞑想の最中に涙を流す人がいる。柔らかな表情を浮かべ、微笑みあうカップルがいる。その幸せな心持ちは、お腹の中の赤ちゃんにも通じているだろう。
■5.誕生直後の赤ちゃんは五感の能力で母親と結びつく
こうして生まれてきた赤ちゃんは、誕生直後から、見る、聞く、味わう、嗅(か)ぐ、触れるという五感の能力を持っていることが、さまざまな実験で明らかにされている。
生まれた直後でも目を開いて見ることができるし、母親の声を聞き分け、母乳の味や匂いも識別できる。この事実から、同じく親学会副会長の高橋史朗・明星大学教授は、次のような指摘をしている。[2,p307]
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これらの能力が生得的に備わっているということは、新生児が誕生直後から母親と結びつくことの重要性を示唆しています。百パーセント母親に頼りきらねばならない新生児にとって、最も基本となる感覚を通しての生物学的な母親との結びつきは最も安心感を得るものです。
すなわち、肌と肌を接触させること、目と目で見つめ合うこと、声で語りかけること、母乳を味わうことといった感覚的な接触や交流が、その後の成長の各段階を支える基盤になるのです。
その安心感と信頼感は、一生を通して人間に対する信頼感のベースになります。新生児の五感の能力に応えるように母親が語りかければ、母子の結合は誕生直後から確固としたものになります。
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■6.「愛情がフツフツとわいてきて」
五感を通じた母子の結びつきを実現する一つの方法が「カンガルーケア」である。これは、誕生直後の赤ちゃんを母親が抱き、直接肌を触れ合うという方法である。
1979(昭和54)年に、南米コロンビアで二人の小児科医によって考案された。当初は保育器が不足していて、未熟児の体温低下を防ぐために始めたられたのだが、母と子の心の安定、きずな作りに効果があることが分かった。
高橋副会長の医院でも、初めてカンガルーケアをした時、産声を上げた赤ちゃんが母親に抱かれると、すぐに泣きやんで穏やかになる事にスタッフ一同驚いたという。体験した母親の一人は、次のような感想を述べている。[1,p44]
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今回、生まれてすぐに抱っこして過ごした時間がとても幸せでした。安心できてうれしいひと時で、愛情がフツフツとわいてきて、愛しい気持ちでいっぱいになりました。これからの子育てで何があっても、このときのことを思い出して乗り越えていけると思います。
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米国では、新生児医療の発達に伴って、未熟児を長い間、保育器に入れることで死亡率を激減させたが、その反面、保育器で赤ちゃんが外との接触を断たれることから、親子の結びつきがうまくいかず、幼児虐待が多発して、社会問題となった。
メス猿は、出産直後に子猿から一度隔離されると、後で子猿を戻しても育てなくなるという。愛情を求めて子猿が近寄っても、メス猿は自分の子供への愛情を持っていないので、邪険にして追い払ってしまう。
カンガルーケアなどにより、母子のしっかりとした絆ができれば、冒頭に紹介した母親による幼児虐待なども相当程度、防げるのではないか。
■7.周りとの接触を断たれると「サイレント・べービー」になる
また、いくつかの研究によって、新生児が生後長時間、周りとの接触が断たれていると、感覚能力が育たないことが分かってきた。さらに、笑わない、泣かない、表情が乏しい、親と視線を合わせないなどの特徴を持った「サイレント・べービー」になりやすい事が分かった。
ユニセフの2001(平成13)年『世界子供白書』には、次のような一節がある。[2,p303]
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子どもが3歳になるまでに脳の発達がほぼ完了する。・・・
母親が手のひらで隠していた顔を突然のぞかせたとき、強い期待をもって見つめていた赤ちゃんが喜びの声をあげるのを見たことがあるだろうか。この簡単に見える動作が繰り返されるとき、発達中の子どもの脳のなかの数千の細胞が数秒のうちにそれに反応して、大いに劇的に何かが起こる。・・・
だが子どもが生後最初の数年間に受ける愛情に満ちたケアや養育、あるいは、そうした大事な経験がないことが幼い心に消すことができない刻印を残すことになる。
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乳幼児期に、母子がしっかりと愛情の絆で結ばれない事が、双方にとって、不幸な結果をもたらすのである。
■8.人から愛された子供が、人を愛することができる子供に育つ(以下略)
■参考■
1. 厚生労働省 平成20年度社会福祉行政業務報告 8 児童福祉関係
2. 親学会編・高橋史朗監修『親学のすすめ─胎児・乳幼児期の心の教育』★★、モラロジー研究所、H16
(3) 情報教育の教育現場での実践をサポート■[新・火曜の会メールマガジン] 第17号
[2] 明日に使えないICTムダ知識(第17回)〜 Googleトリビア 〜 奥村英樹
問題 次の中で、「事実」であるものを選んでください。
1)Google の名前の由来は、10 の 100 乗を意味する
「googol (ゴーゴル)」である
2)「google」は英語の辞書に動詞として記載されている
3)Googleマップのルート・乗換案内で、日本からアメリカへの経路を検索すると、太平洋を【ジェットスキー】で横断する経路が表示される
4)Googleが飲み物以外に用意した最初のオフィス用スナックは魚の形グミキャンデーである
それでは解答編です。
1)事実
2)事実
Oxford Dictionary of English には「verb」として、
「search for the name (someone) on the Internet to find out information about them.」と記載されています。
また、American Dialect Society の Word of the Year for 2002 では、最も便利な単語として選出されています。
3)間違い
正解は【カヤック】です。
例えば「成田国際空港」から「サンフランシスコ国際空港」の経路を検索すると、千葉県の霞ヶ浦からカヤックで下り、そのままハワイ経由でシアトルのガス・ワークス公園に上陸する経路が示されます。
もちろん冗談ですが、センスがいいですね。
ちなみに【ジェットスキー】はアジアに行く時に使うようです。
4)事実
世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることを使命としている Google ですが、多くの人がアクセスしていない秘密もまだまだあるようです。
(4) 社会人の雑学 |●7046部発行 星田直彦 2010/05/04 |
Q No.815 今の日本で、いちばん足りないのは、どの科のお医者さん?
医師の忙しさは需要と供給のバランスで決定されますが、各科の仕事の尺度が違うことから単に人数だけでいちばん足りない科はどことは言えません。現実は、勤務医はどの科も忙しいと思います。敢えて相対的に忙しい科を挙げるとすれば、産婦人科、小児科、救急科、内科全般などかとは思います。
ただこれだけでは現状はよくわからないと思いますので、もう少し詳しくお話し致します。
医師は以下の3つに大別されます。
(1) 基礎医学に従事する医師
(2) 病院等に勤める医師(勤務医)
(3) 診療所等を運営する医師(開業医)
ちなみに「解剖医(法医学医)」は(1)に属します。医師不足が昨今叫ばれていますが、今問題になっているのはこのうち(2)の勤務医が不足していることです。(1)もかなり少ないですが、身近に感じられにくいため問題化されることは極めて稀です。
勤務医(特に地方)が不足するようになってしまったのには、医療が細分化して以前より専門性が強くなったこともありますが、それ以外にも大きな理由があります。
一つ目は社会保障費の抑制です。
日本は典型的な少子高齢化社会であり、高齢者が増えれば病院に来る人が増え、社会保障費がかさむ事は誰でも理解できるのではないのかと思うのですが、それに逆行して特にこの10年間は社会保障費の抑制が強力に押し進められました。その結果、医療スタッフが火の車で働いているにもかかわらず、約8割の自治体病院が赤字という不思議な事態となりました。またその影響は地域医療
の中核を担っていた中小病院により強く影響を及ぼしています。これは明らかに各病院の責任ではなく、制度的な欠陥に他なりません。病院が赤字では新しいスタッフを見つけることは難しく、現場は疲弊しスタッフは燃え尽き辞めていき、残ったスタッフの負担は更に重くなるという悪循環に陥っています。
今年10年ぶりに診療報酬が増額されましたが、単に下げ止まったとの印象で、実質は4年前の水準以下のままです。
二つ目は女性医師の増加です。
以前は1割程度であった医学部の女子占有率も、最近では3〜4割ほどに達しています。しかしそれらが医師として皆定着するわけではありません。当然ですが、勤務医は基本的に24時間365日いつでも呼び出しがかかる状態で当直もあります。また当直明け勤務は当たり前ですので、結婚し子どもができれば仕事と家庭の両立は極めて困難であり、医師免許を持っていながら家庭に入ら
ざるを得ない女医さんは多いです。
三つ目は医療を取り巻く環境の変化にあります。
具体的にはいわゆる「コンビニ受診」や医療訴訟リスクの増加などです。少ない人数で何回も当直しているわけですが、軽症でも気軽に深夜、患者さんは来院され疲労は蓄積されます。緊急処置を要する重症患者さんは当然受診されるべきですが、具体的には薬がなくなったと深夜に受診される患者さんもおられますし、救急車をタクシー代わりに使う患者さんすらおられます。(地域と病院の規模によりますが、救急受診患者の約8割は軽症とのデータがあります)
また、医療行為にはリスクが必ず伴いますが、その大原則を認識されずに感情に任せて訴訟を起こされるケースが後を絶ちません。良かれと思って行ったことが悪い結果を生むことは当然あり得ます。産婦人科医や小児科医が他科と比べて少ない本当の理由は、昼夜無く忙しいということよりも、医療訴訟の実に7割は産婦人科と小児科で占められることを、医療関係者は皆常識として知っているためだと思います。
この他にも臨床研修医制度など様々な問題があり、複合的な理由で結果的に勤務医が不足しているのが現状です。
少ないのであれば医師数を増やせばいい、と言うのは、あまりに問題を単純化しすぎておりナンセンスだと私は考えます。今後の日本の医療についてどのような理想を持ち、それを実現するため社会としてどのような責任や負担をしていくのか、国民的な議論が必要な時にきているのではないでしょうか。