(1)JMM [Japan Mail Media] No.607 Monday Edition
■ 村上龍、金融経済の専門家たちに聞く
Q:1134 日本の労働者の給与が上がるためには、どのような条件が必要なのでしょうか。
■ 菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
国税庁が9月に発表した「2009年の民間給与実態統計調査」によると、給与所得者の平均年収は、前年比24万円減の406万円となりました。1997年をピークに12年間連続で、減少トレンドが続いています。2009年の給与減少幅は過去最大で、給与水準は1989年水準まで落ち込みました。リーマンショック後の企業業績の悪化で、給与・ボーナスが減少したためです。日本では、一般人の所得が上がらないという事実を、改めて思い知らされました。自民党の長年の失政に加え、1998年に日銀法が改正されてから、デフレ傾向が明確になったため、日銀にも責任があるといえましょう。「国民の生活が第一」を標榜する民主党の子供手当てなどの施策で、所得がトレンドとして上がるとは考えにくいところです。
賃金が先か、物価が先かは、にわとりと卵のような議論がありますが、消費者物価が上がれば、生活防衛のために賃金が上がると思います。日本は過去10年以上にわたってデフレが続いています。米国では9月の消費者物価変化率(食品とエネルギーを除く)が前年同月比0.8%と49年ぶりの低水準になったことに危機感を強めて、10月15日にバーナンキFRB議長が2%程度のインフレを目指す主旨の講演を行いました。一方、日本の消費者物価変化率(食品とエネルギーを除く)はー1.5%ですが、日銀にFRBほどの危機感は感じられません。日銀の「中長期的な物価安定の理解」は消費者物価変化率で2%以下のプラス領域というのは、あくまで理解であり、目標でありません。2〜3%のインフレ目標が達成されれば、労働組合の賃上げ要求が強まり、労組との関係が深い民主党も賃上げをバックアップして、賃金が上昇するでしょう。
インフレターゲットが実施されないなら、労働者が生産性を上げて、企業に高給を払ってもらうしかないでしょう。経済のグローバル化によって、人件費にも要素価格均等化の法則が働きやすくなっています。最近、コンビニや居酒屋では中国人労働者が増えていますが、日本では安いものの、中国よりは高い時給で働く意欲のある中国人労働者が多ければ、サービス業での賃金はなかなか上がらないでしょう。コンビニや居酒屋に単純労働が多いからですので、高い賃金を望むなら、もっと付加価値の高い仕事をする必要があるでしょう。金融では、アジア株の運用や投資銀行業務をできるプロに対する需要が増えています。不動産では、中国人に日本の不動産を販売できる人へのニーズが増えています。中国語が話せて、中国と日本のビジネスの架け橋になれる人であれば、賃金が将来にわたって上がるでしょう。
共産党や社民党ばかりか、民主党の一部の政治家もよく主張する賃金を上げるために、大企業の現預金を吐き出させるというやり方は、現実的でないでしょう。確かに、日本企業は現預金を溜め込み過ぎており、もっと有効活用すべきと思いますが、国に企業の資金使途を強制できる法律はありません。企業はグローバルにみて、優秀な人材を引き止めるために、賃上げする経済合理性があれば、賃上げを行います。リーマンを買収した野村證券が、選択制ながら、日本人社員にもリーマン並みの給与体系を設けたのが良い事例です。逆に、日本の自動車メーカーなどでは、中国人労働者と日本人労働者の給料と昇給の格差が大きすぎたため、今春に中国で大規模なストライキが起きました。国境を越えて、能力に応じた給与体系を設ける必要性が高まっています。逆にいえば、グローバルに通用する能力がないと、賃金上昇は難しい時代になったといえましょう。 メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊
(2)日刊『中・高校教師用ニュースマガジン』(中高MM)☆第2644号☆
2010年10月23日:土曜日発行
■「新聞読み比べ〜NIEのヒントに〜」(27) 谷口泰三(東京都)
◆ ルビ振り
最初からテストで恐縮です。
(問題1)次の人名はなんと読みますか。
(イ)中大兄皇子(ロ)斉明天皇(ハ)舒明天皇(ニ)間人皇女(ホ)蘇我入鹿
(問題2)上記5人の関係を述べてください(答えは原稿の中にあります)
この5人は、9月10日付け朝刊各紙に登場した人々です。奈良県明日香村の教育委員会が9日、牽牛子塚(けんごしづか)古墳(国史跡)の発掘調査結果を発表しましたが、それによると同古墳は斉明(さいめい)天皇(594〜661)の墓であることがほぼ確定的となったのです。久々に発掘関連のビッグニュースです。ほとんどの社が1面と社会面で大きく報じました。
宮内庁は別の場所にある古墳を斉明天皇の墓と認定していますが、牽牛子塚古墳は石室が二つに仕切られており、斉明天皇と同時に彼女の娘、間人皇女(はしひとのひめみこ)が合葬されたとの日本書紀の記述と合致します。こうしたことか彼女の墓という説がありました。今回の発掘調査で同古墳は、当時の天皇家に特有の八角形墳であることが確認され、その説が確定的となったのでした。
歴史は強くない私ですが、これはNIEの教材になる記事ではないかと在京6紙(最終版)を読み比べてみました。その際のポイントは3点です。「主要な人名に振り仮名(ルビ)は付けているか」「その人物らの関係性(ドラマ)に十分触れているか」「その頃の天皇家の系図は付けているか」です。
今回の発掘調査結果は、激動の7世紀を生きた強烈な女帝、斉明天皇を中心に当時の人間ドラマを生々しくよみがえらせるものです。彼女は、夫の舒明(じょめい)天皇が亡くなった後、皇極天皇となりますが、実子の中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)=後の天智(てんじ)天皇=が蘇我入鹿(そがのいるか)を自分の面前で暗殺したとき、すがる入鹿をふりほどいて立ち去り、直後に退位しました。
しかし、1代置いて再び皇位について斉明天皇と名乗ったのです。
歴史の勉強は年代の丸暗記ではなく、こうした人間ドラマこそ生徒たちの胸に焼きつくものですが、新聞もそこに留意した記事を載せてほしいと思います。なにはともあれ登場人物の名前が読めないことには、記事の内容に親しみもわきません。
また、学習指導要領の小学校社会科は第6学年の学習内容に「大陸文化の摂取,大化の改新,大仏造営の様子,貴族の生活について調べ,天皇を中心とした政治が確立されたことや日本風の文化が起こったことが分かること」としています。
大化の改新(645)の幕開けとなる蘇我入鹿暗殺事件も含め、小学生高学年にも十分に読ませたい記事であり、登場人物の関係を一目で現す天皇家系図も欲しいところです。
読み比べてみて、振り仮名と系図の結果は下表のとおりです。関係性の記述を含め、総合的にもっともNIE的だと思われるのは産経でした。 他に特ダネがあった場合は紙面が狭くなるから十分に書きこめない、などの事情があって一概には言えませんが、「女帝の巨大権力彷彿」の大見出しで斉明天皇を書き込んだ産経社会面は読ませました。「女帝の権威誇示」の毎日社会面の作りも系図の配置も含め、良かったと思います。両社とも蘇我入鹿に触れていますが、共に人(ドラマ)に焦点を当てた紙面作りと言えるでしょう。
ところが、産経も毎日も、肝心の主役の斉明天皇のルビを省いたのは納得がいきません。斉明は「せいめい」とも読むことができ、字は簡単でも迷いの生じる読みですし、何といってもこの日の主役なのですから、ルビは不可欠です。中大兄皇子は知名度抜群とは言え、忘れてしまった人も想定してルビを振るのが教育的(NIE的)配慮と言うものではないでしょうか。この点で産経が毎日より一歩リードしました。
各紙振り仮名比較表 ○はルビあり ●はルビなし −は登場せず
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斉明天皇 舒明天皇 中大兄皇子 間人皇女 蘇我入鹿 天皇系図
朝日 ○ ○ ○ ─ ─ 無
毎日 ● ○ ● ○ ○ 有
読売 ○ ○ ○ ○ ─ 無
産経 ● ○ ○ ○ ○ 有
日経 ● ─ ● ○ ─ 無
東京 ● ● ● ○ ─ 無
(3)教育のまぐまぐ! 2010/10/21 号
●35・30人学級でようやく「国際水準」
文部科学省が来年度から8年間で、小・中学校を35人学級(小学校低学年は30人学級)にする「教職員定数改善計画」案を立てております。しかし、人数を引き下げるだけで良くなるのか?教員の質の向上が先決ではないのか?などの意見もあります。今回は視点を変えて学級規模の問題を見てみます。
経済協力開発機構(OECD)の統計では、公立学校の1学級の平均規模は、加盟国平均で小学校21.6人、中学校23.7人なのに対して、日本は小学校28.0人、中学校33.0人でした。加盟国中、小学校は3番目、中学校は2番目にクラスの人数が多い国となっています。中学校で30人を超えているのは、韓国35.5人と日本だけです。それが、35人学級などの実現によって、小学校は22.0人、中学校は24.9人になると文科省は試算しています。つまり、計画案を実施後、8年でようやく「国際水準」に届くというわけです。しかし、OECDが実施する「生徒の学習到達度調査」(PISA)で、好成績を上げており、諸外国からは条件の良くないなかでも効率的な教育を実現している国と見られています。
しかし、日本の子どもの学力には考える力などに課題があり、向上させなければならないという危機感が広がっています。政府は、6月に閣議決定した「新成長戦略」の中で、「国際的な学習到達度調査において日本が世界トップレベルの順位となることを目指す」という目標を掲げました。とりわけ、低学力層を減らして高学力層の増加や読解力や興味・関心を高めるべきだとしています。
新しい学習指導要領では、小・中学校の学習内容や授業時間も増やされます。「落ちこぼれ」の増加も心配です。一人残らず学力を着実に向上させるためには、現状のままでよいのか。そうした視点から、今回の計画案を考えることも必要ではないでしょうか。
<学級人数や学習時間の改善だけでなく、全員の学力向上に繋がる方針が必要>
─ 第3回 教材・授業開発研究所全国大会 ─
主催:教材・授業開発研究所(代表:有田和正)
1 日 時 2010年10月30日(土) 9:00〜16:55
2 場 所 茅ヶ崎市立円蔵小学校
神奈川県茅ヶ崎市円蔵1−13−1
TEL 0467−52−7433 (JR北茅ヶ崎駅 徒歩3分 )
3 日 程 受付 8:00〜 開会 9:00〜
9:00〜10:00 第1講座・・・社会科の授業創り 臼井忠雄 先生(筑波大学付属小学校)
10:05〜11:05 第2講座・・・国語科の授業創り 白石範孝 先生 (筑波大学付属小学校)
11:10〜12:25 〈教材授業開発研究所 シンポジウム〉
テーマ 『教材・授業開発研究所の「これまで」そして「未来」』
古川光弘 俵原正仁 金川秀人 島原 洋 岩瀬正幸
13:30〜14:30 第4講座・・・・授業のユニバーサルデザイン
桂 聖 先生 (筑波大学付属小学校)
14:40〜15:40 第5講座・・・・算数科の授業創り 坪田耕三 先生(筑波大学教授)
15:50〜16:50 第6講座・・・・社会科の授業創り 有田和正 先生(東北福祉大学教授)
4 申し込み 参加費 4.000円
5 岩瀬正幸先生(円蔵小学校)までメールで連絡してください。それで受付OKです。
(masayuki7337△muj.biglobe.ne.jp)△をアットマークに変えてください。