(1)JMM [Japan Mail Media] 2010年12月14日発行 No.614 Extra-Edition
■ ワインは語りかける〜内池直人 第30回
味わいを採点評価すること〜ワイン百点満点評価の楽しみと危うさ
今年の秋まで約5年間、とあるワイン専門誌で採点評価をする仕事をしていました。ワインの味わいを言葉で表現するのも簡単ではありませんが、味わいに採点評価をして公表するというのは、とても大胆なことです。僕の参加していた雑誌では、今や主流になっている100点満点方式の評価をしていました。常に数人のテイスターが評点し、そのおおよその平均値を出していたために、自分の評価が絶対値とならない安心感もありましたが、重責であったことには変わりがありません。役目を終えて、安堵感を得たのも確かです。
ワインの世界では、かなり以前からワイン法上の地域原産指定を受けるため、であるとか品評会の鑑定のため、など様々な目的で鑑評はされていますし、フランスの専門雑誌でもささやかに評価をしていますが、ヨーロッパ式の20点満点方式で行われるのが普通でした。
一般消費者のためにメディアで採点され、それが市場価格をも揺るがすような事態になったのは、説明する必要もない有名なことですが、30年ほど前にロバート・パーカーというアメリカ人弁護士が100点満点方式でワインを採点し始めたことです。わかりやすいシンプルな評価がアメリカ市場という、世界最大のワインマーケットに対して直接的に影響を与えたために、パーカー氏や、「ワイン・スペクテイター」というアメリカの専門誌の評価で95pt以上の評価が下されると、国際市場全体の価格に変動が起こるようになりました。本来生産地で決まるべき価格が、遠く離れたアメリカ・ジャーナリズムの評価によって変動するという不思議な、しかしある意味当然な現象で、日本のワイン・ジャーナリズムも生産地を向いている、というよりも情報源にアメリカを向いているのが現状です。
100点満点方式での恐しいところは、ワインの評価がまるで自動車の最高速度のように、絶対的な評価として単純にとらえられてしまうことです。味わいは、芸術品と同じように、底辺には普遍的な価値の善し悪しが存在するのは確かですが、その評価には、流行とか評価媒体の指向、評価者の嗜好、そしてもちろん評価する側の能力が大きく関わり、絶対ではありません。
しかしながら、100点満点で単純化されたガイドの評価は、消費者の購買指向も単純化させてしまいました。造る側も有名評論家好みに味わいを調整する傾向が生まれました。
21世紀になってからは、特に限られた超有名数銘柄のワインにおいては、投機の目的として扱われることになり、この単純化された点数評価が市場を加熱させ、それ以前の数倍〜十数倍にもなりました。
価格の高騰によってシャトーのオーナー達は潤ったかも知れませんが、そういった有名シャトーを旧来の富豪一族で経営する事が徐々に難しくなり、国際的な大資本企業へ買収されていくような流れになっています。また、90年代までは一般庶民でも少しだけ奮発すれば、シャトー・マルゴーやラフィットといった一流銘柄のシャトーを味わうことが出来ましたが、もはやかなり手が届かないところに行ってしまった感があります。
これら超高級ワインの品質は、潤沢な資金調達と醸造技術の進歩によって、高い水準が保たれていますが、値上がりの投機を目的とした人たちが買い占めることによって、純粋にワインの風味を楽しみたい一般人たちの機会が失われてしまうことは、とても残念なことです。
さて、一般読者(消費者)の立場から考えてみると、「ワインの100点満点評価」というのは、とても不可思議なものではないでしょうか?「88点と89点とはどのくらいの評価の違いなのか?」とか、「1万円で90点と3千円で90点の評価は全く同じ価値か?」、「Aという人の90点評価とBという人の90点評価は同じか?」・・・などなど僕自身も評価する側に携わる前にはよくわからないことでした。
僕の参加した雑誌では、「美味しいワイン」の最低基準が85ptとなっていました(創刊号で解説があります)。不味いと感じるワインがあれば、85pt以下もあり得ますが、基本的には85ptが基準となり、現実的な最高ポイントは95ptとなっています。96pt以上は、芸術的な水準となる「桃源郷ワイン」でこの領域は、ほとんど出しませんでした。他誌では、おそらく80pt〜100ptまでとしてるところとか、75pt〜95ptなどとしているのではないか、と想像されるものが見受けられます。アメリカの高名なパーカー氏の評価でも、デビュー当初は60pt台など、過激なポイントと論調がありましたが、最近は80pt以上で穏やかな評価となっているように見受けられます。
わかりやすく説明すれば、良質ワインの基準を満たしていれば、85pt〜95ptの採点の場合、10点満点と置き換えることが出来るし、80pt〜100ptの場合、20点満点とほぼ同じになるわけです。それゆえ、1ptの違いはそこそこ大きな違いともいえますし、そもそも基準値と採点範囲の違う2つのメディアの採点をそのまま並べてみても、それは評価基準が違うので、間違えて認識してしまう事になりかねません。実際のところ、誤解されていると思います。
また、基本的には1つのメディアの中で90ptと評価されれば、市場価格が3千円であれ、1万円であれ同じ価値、というのが建前ですが、1万円以上のワインを特集した時の90ptと2千円台のワインを特集したときの90ptのワインは、やはり必ずしも同じ価値、とはいえないな・・・と個人的に感じました。単純な採点だけでなく、そのメディアが評価を高くしたい傾向のある地方とか、生産者の場合、若干の下駄が履かされる可能性があるのも、受け手側が読み取る準備をする必要もあると思います。メディア(特に雑誌)の特性として、「自分たちが流行の仕掛け人になりたい」という意識があることも忘れてはなりません。
結局これはどのような記事、論説についても同じことなのだとは思いますが、やはりカリスマ的な発信側の情報を鵜呑みにするのではなく、受信する側にその情報を咀嚼する能力が無いと危険だということです。
今後のメディアのあり方としては、単純に点数評価を下すことよりも、例えば一人の生産者、一つのワインに対して2人の評論家がそれぞれの意見をぶつけ合うような、そんな発信の仕方があっても面白いだろうな、と思います。そこに結論を出す必要は無く、感じ方を示すことによって、読み手側の判断力を高めることにもなって良いのではないでしょうか。
個人的には、採点のためにブラインドで同じ条件下、ほぼ毎週2時間で約15種類のワインを真摯に向き合ってテイスティングしましたので、ラベルを通しては判断することの出来なかった素晴らしいワインとの出逢いも経験できましたし、そのような経験を5年間も継続できたことは、仕事に携わる上でとても良い研鑽になりました。
・・・ただ、人間の集中力はそんなに継続できないし、感覚も冴えているときと、調子の悪いときもあり、実は恥ずかしい間違いもよくしたものです。業界で最も権威のあるマスター・オブ・ワイン(世界で約200人)の資格を持つ高名なワイン評論家ヒュー・ジョンソン氏が日本の雑誌のインタビューで「カベルネ(ボルドー赤のぶどう品種)とピノ・ノワール(ブルゴーニュの品種)を間違えたことはありますか?」という意地悪な質問に、「今日は、まだ無い」とユーモアで答えていました。僕自身もワインに対しては常に謙虚でなければならない、と悟りのひらけない悶々とした毎日を過ごしています。
☆★☆ コメント ☆★☆
ワインの評価と人物評価は似ていますね。
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[1]特派員レポート
◆ ブラジル−中国の投資が急拡大 ◆
中国資本によるブラジル向け投資と両国間貿易が急増している。中国・ブラジル商工会議所(サンパウロ)によると、政府系ファンドを含む中国資本によるブラジルへの投資総額は、昨年の4億ドル(約3300億円)から、今年度は30億ドル(約2兆5000億円)へと増える勢いだ。
(サンパウロ・綾村 悟)
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中国にとってブラジルの魅力は、その人口比において広大な土地と豊富なエネルギー・鉱物資源だ。ブラジルは現在でも食料やエネルギー、鉄鉱石など世界有数の資源大国として知られる。しかも、世界の主食の大豆やトウモロコシの生産は、先端技術の投入や耕地拡充などで現在の数倍もの増産が可能といわれている。
また、世界最大級の深海油田や鉄鉱石の鉱山が新たに発見されるなど、戦略的資源を世界中で押さえようとしている中国にとってブラジルは欠かせない場所だ。
今年度、中国は特にブラジルの石油部門へ大きな資本参加を行っており、ブラジルの石油公社ペトロブラスに10億ドルを資本投下、スペイン系のエネルギーメジャー「レプソル」のブラジル部門買収に7億ドルの資本を注入した。
中国によるブラジルへの資本投下は今後も増大する様子だが、ブラジルにとって中国からの資本参加は「経済成長に向けた資本確保」と「雇用増加」の効果がある。貧困層を中産階級に押し上げようとしているブラジルにとって、中国からの投資は欠かせないものだ。
数年前まで、ブラジルのメディアでは、中国製の廉価な雑貨や衣料品などが国内に雪崩のように流入してきたことで、国内雇用が圧迫を受けているとの批判的な内容も見られた。
最近では中国資本による製鉄所、自動車工場の建設なども目立つようになっており、一定の雇用創出に貢献し始めた中国資本とその進出に対する警戒感を緩めつつある。
10月に開催されたサンパウロ・モーターショーでは9社の中国系自動車会社が展示を行い「中国メーカーが大躍進」(現地自動車情報誌)したとして大きな注目を集めた。
ブラジルはルラ政権下の貧困層対策や近年の経済成長を通じて中間所得層が急激に増えており、消費ブームに火が付いている。それだけに、中国にとってのブラジルは資源獲得先としてだけでなく、中国企業にとっても投資先として魅力的な市場になりつつある。
ブラジルは、2014年にサッカーW杯、16年には夏季オリンピックを控えており、インフラ整備などを含めた準備はまだまだこれからが本番。
それだけに「ブラジルに一刻も早く進出しなければ商機を失う」とブラジル進出を急ぐ中国系企業は多く、中国最大の企業間電子商取引(B2B)オンラインマーケットとして知られる「アリババ」もブラジルに進出、同社はさらなる規模拡大を図っている。
中国とブラジル間の貿易額はすでにブラジルと米国の取引額を超えているが、両国は、投資だけでなく文化や科学技術部門でも結び付きを深めている。
ブラジルにおける中国語学習熱は数年前から高まっており、宇宙開発部門に関しては中国側と資源探査衛星の運用やロケット打ち上げ技術などを含む資本・技術面での協力体制を強めている。
経済・政治両面のつながりで見れば、中道左派のブラジル労働党(PT)政権下で中国との貿易量は大きく増えた。「労働党政権が続く限りブラジル側からの中国重視の姿勢が変わることはないだろう」「積極的に日本側からブラジルとの関係を深めるために行動を起こす必要も」(日系アナリスト)などの声も聞かれる。
中国系資本の大きなセールスポイントは意思決定の早さと勢いのある中国経済を背景にした投資力だ。「中国政府と企業の動きはとにかく速い」「投資が欲しい(ブラジルの)地方政府にとって、文化的背景の違いはあれども中国資本の進出は十分に歓迎できる要素となっている」(ブラジル通商部門関係者)のが現状だ。
日系人口百万を抱えるブラジルでは、日本とブラジルをつなぐ人材は豊富にある。それだけに「日本からの投資は日系移民を受け入れた背景などもあって歓迎したいところだ」とブラジル側も期待する。
ただし、政府の強いバックアップを受ける中国・韓国などの資本と企業に立ち向かうには、日本側もこれまで以上の働き掛けが必要とされている。ブラジルでの中国系資本の動きは、極めてダイナミックである。
☆★☆ コメント ☆★☆
BRICs 恐るべしですね。