(1)知らなきゃ損する!面白法律講座 第577号
「親からの「借金」に税金はかかる?」
□Q□親のすねをかじっているA君。父親から毎月10万円を「借りた」ことにし、遊興費に使っています。しばらくは返せる見込みがなく、父親も返ってくるとは思っていません。この場合、税金はかかるのでしょうか。
□A□
親と子、祖父母と孫など特殊関係のある人の相互間における金銭の貸借は、その貸借が、借入金の返済能力や返済状況などからみて真に金銭の貸借であると認められる場合には、借入金そのものは贈与にはなりません。
しかし、その借入金が無利子などの場合には利子に相当する金額の利益を受けたものとして、その利益相当額は、贈与として取り扱われる場合があります(相続税法9条、相続税基本通達9-10)。
なお、実質的に贈与であるにもかかわらず形式上貸借としている場合や「出世払い」というような貸借の場合には、借入金そのものが贈与として取り扱われます。
また、夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者の間で生活費や教育費に充てるため取得した財産は贈与税の対象となりません(相続税法21条の3)。
A君の場合には、お金を「借りた」ことにしていますが、実質的には贈与といえるでしょう。そして、使途も遊興費ですから、贈与税の対象となります。贈与税の非課税枠は年間110万円ですので、他の人からの贈与も含めて年間110万円を超えた場合には、その超えた金額について贈与税がかかります。
仮に、A君が父親以外からは贈与を受けていなかった場合、課税価格は120万円−110万円=10万円となります。課税価格が10万円の場合の税率は10%ですので、A君は1万円を納税しなければならないことになります。
(2) JMM [Japan Mail Media] No.635 Monday Edition-4
■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』 Q:1211
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■今回の質問【Q:1211】
政府は浜岡原発の停止を要請したようです。条件などいろいろあるかとは思いますが、東京電力については国有化の論議も起こっています。我が国のエネルギー政策の基本的問題として、また経済合理性とリスク管理の問題として、原子力発電を今後どのように考えればいいのでしょうか。 村上龍
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■ 津田栄 :経済評論家
5月6日夜の7時に、菅首相が突然政府の浜岡原発の停止要請を発表し、その理由が東海地震の発生率が87%だから危険だということで、その唐突さに国民が驚いたはずです。しかし、その要請が原子力発電を含めたエネルギー政策を練り上げた結果として出てきたわけではありません。また、その停止の結果、自動車や機械、電機など製造業の中核工場を抱える中部地域への電力供給に不足懸念が起きることになり、経済や社会にどういった影響が出るかも検討した節が見られません。4月から浜岡原発の停止については検討していたという話もありますが、その影響やその後の対策を何も考えていなければ、まさに思いつき、あるいは場当たり的と言われても仕方がありません。
疑問は、なぜ浜岡原発が問題なのか、また東日本大震災のように、地震が起きれば、また津波が来ればそれほど浜岡原発は危険なのかということです。一部の市民団体は地震が起きた時には浜岡原発は危険だと訴えていましたが、これまで政府、中部電力は問題がないとして運転を継続してきましたから、このように唐突に地震が起きる確率が高いという理由だけで、政府が手をひるがえすように中止を要請するのは、これまでの姿勢は何だったのか、そして、安全だと言っておきながら地震や津波により本当は危険なのかなど、きちんと説明しないと、政府の言うことは信じられないことになります。また、10日に要請を受け入れて浜岡原発を停止した中部電力も、要請を受け入れた理由に「安全を最優先した」と言っても、十分説明したことにはならないように思います。
また、菅首相は、その他の原発の停止要請をしないと言いました。しかし、福島原発沖での地震発生率はこれまで0%であったのに起きてしまったことを考えると、浜岡原発のある東海地域がただ高いからでは説明にはならず、原発のあるどの地域でも地震が起きるのではないかという不安は消えません。浜岡原発だけがなぜという疑問に地震発生率で答えても、国民を納得させる理由として弱いといえましょう。今回の地震・津波による福島原発事故を受けて私の故郷にある原発も人事ではないと地域の人は感じていますから、浜岡原発運転中止要請は、より身近な問題として捉えています。
そして、海江田経済産業相が、その他の原発について「安全上支障がない」と言っても、その根拠を明確にしない限り、地元の理解が得られず、定期点検で停止中の原発の再稼働は期待できないといえましょう。その結果、以前にも書きましたが、事故を起こした福島原発や停止した浜岡原発を加えて、定期点検で停止中の原発、そして今後の点検で停止する原発も地元の理解で稼働しないことになれば、全国的な電力不足に陥る可能性があり、それは、製造業などの生産に大きな支障をきたし、雇用、消費に波及することになって、経済に少なからぬ悪影響が出ることにもなりえます。
そういうなかで、10日菅首相が、昨年民主党政権でまとめた、原発の新増設と稼働率の向上により2030年までに現在の全発電量の3割を占める原発の割合を5割に引き上げるとするエネルギー基本計画を白紙にするとして、原子力に軸を置いたエネルギー政策を見直すことを表明しました。一方、原発を継続する考えも強調してます。そして、「原子力」と石油・石炭などの「化石燃料」を二本柱とする従来のエネルギー政策に、今後、太陽、風力、バイオマスを基幹エネルギーとする「再生可能な自然エネルギー」や「省エネ」も新たな柱として加えることにしています。
しかし、現実には、新規の原発建設はもちろん、停止中の原発の再稼働も困難であり、今後原発の老朽化による新規入れ替えもできず、原子力発電は継続できるかどうかは不透明です。再生可能な自然エネルギーは、現在全発電量の1%に過ぎず、今後伸ばしていこうとしても、未だ開発段階で、コストも他に比べてはるかに大きく、また安定した電力供給ができるとは言えず、簡単に達成できるものではありません。一方、石油や石炭などの化石燃料による発電も、最近の原油や石炭、LNGなどの価格上昇によって、コストは上昇し続けています。
こうした事情の中で、見直そうとするエネルギー政策は、原発に対する国民の不信、不安を取り除くことが必要ですが、今の政権では説明不足がたたって、実現困難にみえます。そして、再生可能な自然エネルギーが技術革新でコスト低下とともに普及が進んで、ある一定のシェアを確保するまでに相当の時間、例えば20〜30年かかるかもしれず、安定した電力供給を目指そうとすると、コスト高になろうとも油や石炭、LNGなどの火力発電を中心に発電量を増やす方向に走らざるを得なくなります。
もし安定したエネルギーが得られなければ、日本で生産することもできず、工場立地として不適格ということになります。
もちろん、生産において、安定的な電力供給だけでなく、できるだけ安価であることが必要です。また、社会においても、余裕のある安定した生活を維持していくためには、十分な電力があるほうがいいです。そうした面で、火力発電は、エネルギー源である石油や石炭、LNGの仕入先が特定の国や地域に限定されている上に、常時輸入しなければならず、政治的なリスクに晒されています。しかも需要によっては価格が変動してコストが一定ではありません。しかし、原子力発電は、一旦稼働すれば長期にわたって安定した供給が期待できます。そして政府の言う通りならば低コストだといえます。そういった意味で、経済、社会にとって安定的な電力供給を求めて、今回のような大震災による事故がないということであれば、経済合理性から言えば、またコストから言えば原子力発電は、重要なエネルギーといえましょう。
ただし、原子力発電のコストが一番低いということも、本当のところ分からないところがあります。それは、原発を立地した地域への補助金は計算に入っていないと聞きますし、市場済み核燃料の処置についても、長期保存するのにいくらかかるか分からないところがあります。また、今回のように事故が起きてその解決に膨大な費用がかかるとなると、本当に原子力の費用が一番安いのかという疑問が湧きます。そういった意味で、各エネルギーの正確なコスト情報の開示が必要です。また、これまで安全だと言われてきた原子力発電が、こうした地震・津波に脆く、甚大な被害をもたらすということが明らかになって、その政府への不信や原子力発電への不安が解消できるような、問題の本質の説明をしなければ、国民の理解は得られません。
結局、エネルギー政策における原子力発電について、これまでの説明では、経済的にもコスト的にも、十分果たせなくなっています。確かに、従来の説明であれば、経済合理性に合っていますし、コスト的にも安いといえたでしょうが、この震災による福島原発事故、その後の浜岡原発の停止要請は、その説明が破綻してしまっていることを表しています。その理由を十分説明しない限り、国民の不信や不安を解消できず、その面で経済合理性が疑われ、コストも不明朗で、果たして原子力発電が必要なのかという疑問が残ったままになります。当然、経済的に生産を継続し、雇用が維持されて生活が安定した社会という観点から、電力をどうとらえるか、その場合に原子力発電をどう扱うかという問題もあります。そういう点で、国民は、正確で十分な情報のもとで、経済合理性とコストの両面から、原子力発電をどうしていくのか判断し、合意する必要があるでしょう。
最後に、もし原子力発電が必要ないとして国民が判断するのであれば、長期的には自然エネルギーにシフトして、私たちの生活は変わっていくでしょう。例えば、電力不足を回避するために、東京などの都市部に住む人たちは相応の負担を負ったり、電力の地産地消として人口の地域分散化が求められるかもしれません。また、政策的にも、少数の電力会社で各地域に電力供給を独占してきた体制を改め、自由化する政策も必要になってくるでしょう。そういった意味で、原子力発電のない社会として、国の在り方も含めた変革が求められるのではないでしょうか。 経済評論家:津田栄